このページのまとめ
- 事業譲渡は譲渡会社が行う事業とそれに関連する資産や権利義務などを選別して売買する
- 事業譲渡の手続きを進める過程では、会社法の規定に沿わなければならない
- 会社法とは、会社の設立や経営、組織、解散などの手続きを定めたもの
- 会社法では、競業避止義務や反対株主の株式買取請求、特別決議などが定められている
- 特別決議が不要の事業譲渡として簡易事業譲渡、略式事業譲渡がある
「事業譲渡を行う場合に会社法はどのような関係があるのだろうか?」とお悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
会社法は事業譲渡のプロセスに関わっており、定められたルールを遵守して手続きを進める必要があります。本記事では、事業譲渡と会社法について詳しく解説します。守るべきルールや必要な手順のほか、事業譲渡契約書作成の際のポイントも紹介しているので、ぜひ参考にして事業譲渡を進行してください。
目次
事業譲渡と会社法
会社法は、その名のとおり、会社に関する全ての規定が集約されている法律のことです。その中には、事業譲渡などのM&Aを行うにあたって実施するべき手続き内容なども細かく定められています。
M&Aは、スキーム(手法)によって、それぞれの手続き内容は異なるものです。したがって、会社法においても、スキームごとに規定が設けられています。
ここではまず、事業譲渡の概要と類似する言葉や類似するM&Aスキームとの違い、会社法の概要などを確認しましょう。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、譲渡会社側が行う事業の運営権と、それに関連する資産や権利義務などを売買するM&Aスキームです。譲渡対象は、譲渡会社・譲受会社の交渉で決まります。事業譲渡の主な特徴は以下のとおりです。
- 事業譲渡は個別承継
- 売りたいもの・買いたいものを選別できる
- 不要な資産や負債を引き継がずにすむ(譲受会社)
- 偶発債務などの簿外債務を引き継ぐリスクがない(譲受会社)
- 事業の選択と集中が実現できる(譲渡会社)
- 取引先との契約は引き継げないため、個別に交渉して新たな締結が必要(譲受会社)
- 従業員の雇用契約は引き継げないため、個別に同意を得て新たな締結が必要(譲受会社)
- 事業に必要な許認可は譲渡対象外であるため、新たな取得が必要(譲受会社)
- 譲渡対象に消費税課税資産が含まれている場合、消費税が発生(譲受会社)
- 債務の移転には債権者の同意が必要(譲渡会社)
- 他のM&Aスキームに比べて手続きが煩雑
M&Aスキームの中で個別承継のスキームは事業譲渡だけです。個別承継の特徴は、譲渡対象を選別できることにあり、これにより譲受会社は不要な資産・負債を引き継がずに済みます。特に簿外債務は、譲渡会社自身も認識していないことがあり、後日、発覚すれば譲受会社が経営上のダメージを負う可能性があるため、これを避けられるのは大きなメリットです。
その反面、取引先との契約、従業員との雇用契約、債務の移転などは個別交渉を行って、新たに契約締結をしたり同意を得たりする必要があります。その分、手続きも増えてしまいます。また、消費税が発生するため、譲受会社はその分の資金繰りもしておかなければなりません。
譲渡会社のメリットとしては、非主力事業や不採算事業を譲渡することで、主力事業に経営資源を集約し業績の向上を図れる体制が組めることが挙げられます(事業の選択と集中)。なお、法人格を持たない個人事業主がM&Aを実行する場合、選択できるスキームは事業譲渡だけです。
株式譲渡との違い
事業譲渡と類似するネーミングのM&Aスキームに株式譲渡があります。株式譲渡とは、譲受会社が対象会社の過半数の株式を買収して、その経営権を取得するM&Aスキームです。譲受会社が個人なら新たなオーナー経営者となり、法人であれば親子会社関係になります。
事業譲渡と株式譲渡の違いを一覧にすると以下のとおりです。
事業譲渡 | 株式譲渡 | |
承継のタイプ | 個別承継 | 包括承継 |
譲渡対象 | 事業の運営権 | 会社の経営権 |
譲渡者 | 会社、個人事業主 | 株主 |
対価 | 現金 | 現金 |
消費税 | 発生する | 発生しない |
株式譲渡は包括承継であり、譲受会社は会社を丸ごと取得します。取引先との契約、従業員との雇用契約、債権者との関係など、そのまま引き継ぐので個別交渉の必要は生じません。その代わり、不要な資産や負債を引き継いだり、簿外債務を引き継いだりする可能性があります。
事業譲渡の譲渡主体者は会社ですが、株式譲渡の譲渡主体者は株主です。株式譲渡は譲受会社と株主との株式の売買取引であるため、事業譲渡のように消費税は発生しません。手続き面は、株式譲渡の方が簡便です。
財産譲渡との違い
財産譲渡とは、個人や法人が所有する財産(資産)を売却する取引行為を表す言葉です。財産譲渡は、資産を譲渡するという点のみ事業譲渡と共通しますが、譲渡対象の概念に事業の運営権や会社の経営権などは全く含まれていません。M&Aスキーム名のような特定の用語でもなく、一般の名詞です。
会社法第362条では、会社にとって重要な財産の処分や譲り受けを取締役の独断で行うことを禁じています。つまり、会社法第348条も合わせて解釈すると、「会社にとって重要な財産を売却や譲り受けする場合は取締役会設置会社であれば取締役会決議で、取締役会非設置会社であれば過半数の取締役の賛成をもって決定しなければならない」ということになります。
会社分割との違い
会社分割とは、譲渡会社の事業部門を丸ごと譲受会社が取得するM&Aスキームです。事業の運営権の売買という点では、事業譲渡と変わりません。しかし、事業譲渡と会社分割では以下のような違いがあります。
事業譲渡 | 会社分割 | |
承継のタイプ | 個別承継 | 包括承継 |
譲渡対象 | 事業の運営権 | 事業の運営権 |
譲渡者 | 会社、個人事業主 | 会社 |
対価 | 現金 | 現金、自社株式、社債、新株予約権付社債、その他の財産 |
対価の受取者 | 会社、個人事業主 | 会社または株主 |
消費税 | 発生する | 発生しない |
会社分割も株式譲渡と同じ包括承継です。会社分割の譲渡対象は事業の運営権であるため、包括承継するのは事業部門になります。したがって、譲渡対象である事業部門に関わる資産、権利義務、従業員、取引先、許認可などは、まとめて譲受会社に移転します。
事業譲渡のような個別交渉は発生しません。ただし、一部の事業は、会社分割でも譲受会社が許認可を引き継げないものもあります。一例としては、旅客業や一般自動車運送事業、貸金業、宅地建物取引業などです。
事業譲渡と会社分割は、対価の選択肢という点でも違いがあります。事業譲渡の対価は現金のみですが、会社分割では自社株式や社債、新株予約権付社債、その他の財産なども対価にできるため、現金を用意せずにM&Aの実施が可能です。
また、会社分割では対価を会社が受け取るか会社の株主が受け取るかを選べます。前者を分社型分割、後者を分割型分割と呼びます。
会社分割は、会社法で組織再編行為と規定されています。他には合併・株式交換・株式移転も組織再編行為です。組織再編行為の場合、定められた要件を満たすと適格組織再編行為とみなされ、税制上の優遇措置を受けられます。事業譲渡は組織再編行為ではないため、この恩恵は得られません。
会社分割には吸収分割と新設分割という2種類があることも、事業譲渡との違いといえるでしょう。吸収分割は、既存の会社間で行われる会社分割です。一方、新設分割は、新設会社が譲受会社側となって行われる会社分割をさします。
会社法とは
会社法とは、会社の設立・経営・組織・運営・意思決定・管理・解散・清算などを行うにあたって、遵守しなければならない手続き面などを細かく取り決めた法律です。商法や有限会社法、株式会社の監査等に関する商法の特例法など複数の法律にまたがっていたものを統合し、新たに2006(平成18)年に施行されました。
施行後も幾度となく見直しが図られ、その都度、改正がなされてきています。会社法の全体構成は以下のとおりです。
- 第1編:総則
- 第2編:株式会社
- 第3編:持分会社
- 第4編:社債
- 第5編:組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付
- 第6編:外国会社
- 第7編:雑則
- 第8編:罰則
会社法は、2023(令和5)年6月現在、全979条および付則で構成されています。会社法で重点となる理念は以下の3点です。
- 法律関係の明確化
- 取引先の保護
- ステークホルダーの利益確保
会社法において会社の権利・義務・責任の範囲を明確にし、取引先や顧客、株主などを含めてトラブルの予防、あるいは解決が円滑に行われることが狙いです。
関連記事:M&Aにおける事業譲渡とは?メリット・デメリット、手続き・ポイントなどを解説
会社法が関わる事業譲渡の手続き
ここでは、会社法で規定している事業譲渡の義務や手続きを説明します。具体的には以下の4点です。
- 競業避止義務(会社法第21条)
- 反対株主による株式買取請求(会社法第469条)
- 株主総会の特別決議(会社法第309条、第467条)
- 特別決議が不要な事業譲渡(会社法第468条)
それぞれの内容を確認しましょう。
競業避止義務(会社法第21条)
会社法第21条「譲渡会社の競業の禁止」では、事業譲渡の譲渡会社に対し規定をしています。これは通称、競業避止義務と呼ばれているものです。競業避止義務とは、事業譲渡の譲渡会社は、譲渡した事業と同一の事業を、譲受会社所在地と同一の市区町村および隣接する市区町村で、20年間行えないという規定です。
事業譲渡の譲受会社が不利を被らないための条文といえます。条文では、譲渡会社側が特約すれば期間を30年間まで延長可能としていますが、事業譲渡の交渉の際に譲受会社が承諾すれば、期間の短縮や義務の免除も可能です。その場合は、事業譲渡契約書に条項として記載する必要があります。
ただし、現在はインターネットを介してビジネスが行われる状況となっており、同一および隣接した市区町村に限定した規定の有効性について、疑問視する声も出ているのが現実です。
反対株主による株式買取請求(会社法第469条)
会社法第469条「反対株主の株式買取請求」では、事業譲渡に反対する株主の立場を守るため、株主が所有する株式を公正な価格で買取請求できることを定めています。ただし、株式買取請求できる事業譲渡には制限があり、対象となるのは株主総会の特別決議を必要とする事業譲渡です。特別決議が必要となる事業譲渡の詳細は次項で説明します。
事業譲渡をする会社側は、事業譲渡の効力発生日の20日前以前に、各株主に対し事業譲渡の実施と、事業譲渡に反対する場合に株式買取請求ができることを通知しなければなりません。
事業譲渡に反対する株主側は、株主総会に先立って事業譲渡への反対を会社に表明します。その後、事業譲渡の効力発生日20日前から前日までが株式買取請求可能期間です。
株主と会社は協議して株式の買取価格を決めます。会社は事業譲渡の効力発生後60日以内に代金を支払うことになっていますが、協議が不成立だった場合は、裁判所に価格決定の申し立てを行うことができます。なお、株主総会での議決権を持たない株主でも株式買取請求が可能です。
株主総会の特別決議(会社法第309条、第467条)
会社法第309条「株主総会の決議」と会社法第467条「事業譲渡等の承認等」では、条件に該当する事業譲渡の実施にあたって、株主総会の特別決議を必要とすることが定められています。
株主総会の特別決議とは、議決権を持つ株主の過半数が出席し、その中の議決権で3分の2以上の賛成を得る決議のことです。譲渡会社と譲受会社では条件が異なるため、それぞれ分けて説明します。なお、会社法第467条では、事業譲渡とは異なるケースの条件も挙げられていますが、今回は事業譲渡にフォーカスして解説しています。
譲渡会社における特別決議が必要なケース
会社法第467条の定めにより、以下に該当する事業譲渡を行おうとする譲渡会社は、株主総会で特別決議による承認を得なければなりません。
- 全部の事業を譲渡する場合
- 重要な事業を譲渡する場合
会社法第467条では、上記の「重要な事業」の目安として、譲渡資産の簿価が譲渡会社の総資産額の20%超であることが定められています。また、当該会社が定款で定めれば、20%よりも低い数値に設定することも可能です。
譲受会社における特別決議が必要なケース
会社法第467条が事業譲渡での譲受会社に定めている特別決議の条件は、以下のとおりです。
- 譲渡会社の全事業を譲受する場合
- 事後設立によって譲受する場合(対価額の規定あり)
事後設立とは、譲受会社の設立前に事業譲渡の約束をしておき、会社の設立後の2年以内に行われる事業譲渡のことです。その際の対価額が譲受会社の総資産額の20%超である場合が、特別決議の対象になります。この比率も、定款での定めにより低い数値に設定することが可能です。
特別決議が不要な事業譲渡(会社法第468条)
会社法第468条「事業譲渡等の承認を要しない場合」では、株主総会の特別決議を省略できる事業譲渡の条件も定めています。具体的には、以下の名称で呼ばれる2種類の事業譲渡です。
- 簡易事業譲渡
- 略式事業譲渡
特別決議を省略できる場合は、取締役会の決議で事業譲渡を進められます。それぞれの事業譲渡の具体的な内容をみてみましょう。
簡易事業譲渡
簡易事業譲渡とは、譲受会社が譲渡会社に支払う対価が、譲受会社の総資産額の20%(5分の1)を超えない事業譲渡です。譲渡会社の全事業または重要な事業を譲受した場合であっても、対価の比率がこの条件に当てはまれば株主総会の特別決議を省略できます。また、対価の比率は、定款で20%よりも低く設定することが可能です。
略式事業譲渡
略式事業譲渡とは、譲受会社が譲渡会社の特別支配会社である場合に行われる事業譲渡です。特別支配会社とは、単独あるいは企業グループの合計で譲渡会社の株式90%以上を保有している状態をいいます。定款で定めれば、株式保有比率について90%を上回る数値に変更することも可能です。
会社法に則った事業譲渡の手順
ここでは、会社法の規定に則って実施する必要がある主な事業譲渡の手続きを紹介します。
- 取締役会での決議
- 事業譲渡契約の締結
- 株主への通知
- 株主総会の開催・特別決議
取締役会から株主総会開催までの手順にしぼって説明します。
1.取締役会での決議
事業譲渡の手続きを進めるにあたっては、まず、取締役会設置会社であれば取締役会を開き、事業譲渡の実施を決議します。取締役会非設置会社であれば、過半数の取締役が事業譲渡に賛成することが必要です。事業譲渡実施の決議をする際は、同時に臨時株主総会招集の決定も行います。
取締役会決議または取締役の賛成決定の際には、取締役会議事録または賛成決定を示す書面の保存が必要です。これらのことは、会社法第348条「業務の執行」、第298条「株主総会の招集の決定」、第362条「取締役会の権限等」、第369条「取締役会の決議」、第371条「議事録等」などで定められています。
2.事業譲渡契約の締結
取締役会決議を経て、事業譲渡契約の締結が可能となります。つまり、取締役会決議の段階では、大方の事業譲渡交渉は合意が形成され、デューデリジェンス(譲受会社による譲渡会社への精微な監査)が終わっているようなタイミングとなるでしょう。
事業譲渡の交渉の内容やデューデリジェンスの実施などについて、会社法では特に何も規定していません。事業譲渡契約書も、その内容に関して会社法での定めはありません。しかし、基本的に記載すべき条項のひな形は整っています。事業譲渡契約書の重要な条項については、次章で説明します。
3.株主への通知
株主への通知は以下の2つがあります。
- 臨時株主総会の招集通知
- 反対株主の株式買取請求通知
株主総会の招集は会社法第296条「株主総会の招集」で定められています。また、会社法第298条「株主総会の招集の決定」と第299条「株主総会の招集の通知」によって定められている通知の期限は以下のとおりです。
- 上場会社:株主総会開催日の2週間前までに書面で送付
- 非上場会社:株主総会開催日の1週間前までに書面で送付
非上場会社でも、書面または電磁的方法で議決権が行使できる場合は株主総会開催日の2週間前までの送付が期限です。
反対株主の株式買取請求通知は、会社法第469条「反対株主の株式買取請求」に定められています。事業譲渡の効力発生日の20日前までに、株主に対し事業譲渡の実施と、事業譲渡に反対する場合に株式買取請求ができることを通知しなければなりません。
4.株主総会の開催・特別決議
事業譲渡に関する株主総会の特別決議については、会社法第309条「株主総会の決議」と会社法第467条「事業譲渡等の承認等」で規定されています。特別決議は、以下の2つの要件を満たさないと議決できません。
- 定足数:議決権を行使できる株主が過半数、出席している
- 議決要件:出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成
事業譲渡で株主総会の特別決議が必要となるケースなど詳しい内容については、上述の「会社法が関わる事業譲渡の手続き」をご参照ください。
事業譲渡契約書作成のポイント
事業譲渡契約書について会社法では規定がありません。しかし、契約内容がきちんと履行され、また後日のトラブルを防ぐためにも、法的に問題がない事業譲渡契約書を作成・チェックする必要があります。弁護士などの専門家のサポートが受けられると安心です。
現状、事業譲渡は数多く実施されており、それらを経て事業譲渡契約書のひな形も出回っています。ただ、条件面などは各社によって内容は変わるので、そのまま使用することはせず、自社に合わせてアレンジしましょう。
ここでは、事業譲渡契約書でポイントとなる以下の条項を解説します。
- 事業譲渡の合意表明
- 事業譲渡の効力発生日
- 譲渡資産
- 譲渡対価
- 従業員について
- 表明保証
- 遵守事項
それぞれの内容について解説します。
1.事業譲渡の合意表明
事業譲渡契約書では、冒頭で「事業譲渡の合意表明」を記載するケースがほとんどです。契約書によっては単に「目的」などの条項名の場合もあります。条文例としては以下のようなものです。
- 甲と乙は、甲の行う〇〇〇〇〇事業を、乙に譲渡することで合意した。
ここでのポイントは、具体的な事業名まで特定することです。なお、上記の条文例には日にちなどが加わるケースもあります。
2.事業譲渡の効力発生日
事業譲渡の効力発生日は、株主総会の開催や反対株主の株式買取請求通知および対応などのスケジューリングの基になるものです。日程をよく勘案しながら逆算して、適切な日にちを定める必要があります。
また、状況によっては、譲渡会社・譲受会社の協議によって、事業譲渡の効力発生日を変更できることも書き加えておくといいでしょう。
3.譲渡資産
事業譲渡は会社分割のような包括承継ではないため、譲渡対象の資産・負債を契約書で特定することが必要です。理論上は、「〇〇〇〇〇事業に関する全ての資産・負債」などと表現すれば、簡単に済んで手間がかかりません。
しかし、その場合、本来は避けられるはずの偶発債務などの簿外債務が含まれてしまう可能性があります。そこで、事業譲渡契約書では、譲渡対象の資産・負債は契約書の別紙として目録化させて添付するのが一般的です。目録には、具体的な資産・負債の名称を1つずつ記載します。
細かく記載することになるので、抜けがないようにチェックすることも肝要です。また、中間的な資産の記載方法としては、「〇〇〇〇〇事業に関する全ての資産」と記載した後、「△△△△△は除く」といったように、除外する資産の方を細かく記載する方法もあります。
4.譲渡対価
事業譲渡の対価の記載も重要な条項です。ここでは、金額とともに支払い方法も記載します。支払い方法が金融機関への振り込みの場合には、譲渡会社が指定する金融機関と口座番号なども記載してください。
対価を支払う側の譲受会社の注意点としては、譲渡対象に消費税課税資産が含まれていると消費税が発生することです。以下の資産が消費税課税資産になります。土地と有価証券には消費税は課税されません。
- 土地以外の有形固定資産(船舶、自動車、機械、建物、設備、備品など)
- 無形固定資産(のれん、特許権、商標権、意匠権、ソフトウェア、その他の知的財産権など)
- 棚卸資産(在庫、部品、仕掛品など)
譲受会社は事業譲渡の対価支払いと同時に消費税分も譲渡会社に渡します。小売店の店頭で商品を買うのと同じです。したがって、税務署に消費税を納付するのは譲渡会社が行うことになります。
5.従業員について
事業譲渡では、雇用契約は譲受会社に承継されません。そのため、譲渡対象事業に従事している従業員を特定するため、転籍予定者として事業譲渡契約書にリストをつけることが多いです。付随して事業譲渡契約書に記載する内容としては、以下のような例があります。
- 譲渡会社は期日までに従業員から転籍の同意を得る
- 事業譲渡の効力発生日に譲渡会社側では該当従業員を解雇し、譲受会社側では雇用契約を締結する旨
その他、譲渡会社と譲受会社が転籍者に関して協議して決めるべきことは以下の点です。
- 勤続年数を譲受会社が引き継ぐかどうか
- 未消化の有給休暇を譲受会社が引き継ぐかどうか
- 退職金規程を引き継ぐかどうか
- 未払い残業代がないかどうか
また、譲渡される事業のキーマンとなるような幹部社員がいる場合、その従業員の転籍が事業譲渡の前提条件として事業譲渡契約書に記載される場合もあります。
6.表明保証
表明保証とは、事業譲渡契約書に記載されていることや、事業譲渡契約締結に至る交渉で提示された会社の情報などが真実かつ間違っておらず、また、不都合なことなどを隠していないことを表明し保証するものです。表明保証する内容の一例としては、以下のようなものがあります。
- 反社会的勢力ではない、また、関わりもない
- 司法や行政に対する違反行為をしていない
- 譲渡会社は資産や債務の状況などに虚偽はない
- 譲受会社は債務超過や未払いなど倒産のリスクはない
表明保証に違反があった場合は、損害賠償請求の対象になることを併せて記載したり、表明保証に違反しないことが事業譲渡実施前の前提条件として設定されたりすることが多いでしょう。
7.遵守事項
遵守事項は、事業譲渡契約の実現に向けて、および実現後も主に譲渡会社側に守ってもらう行動を記載するものです。事業譲渡実施前の遵守事項で必ず記載されるものとして以下のようなものがあります。
- 譲渡される事業の価値が下がってしまうような事業活動は行わない
- 譲渡される予定の資産などの売却をしない
- 転籍予定者の雇用維持
また、事業譲渡実施後の記載事項として記載されることが多いのは、競業避止義務です。会社法第21条で定められているので、あえて記載する必要はないともいえるのですが、遵守させるためにあえて記載されます。
まとめ
事業譲渡とは、会社が運営している事業の全部または一部を他社に譲渡することです。事業譲渡を実施するためには、会社法で定められたことを遵守して手続きを進める必要があります。
会社法とは、法務省が定めた会社にまつわる法律です。会社の設立や組織、運営、管理、精算などのルールが定められていて、全部で8編で構成されています。会社法は時代や状況に合わせて何度も見直され、改正を重ねています。そのため、最新の情報をチェックしておくことが必要です。
事業譲渡のプロセスにおいても、会社法は密接に関わっています。規則を守り、事業譲渡を円滑に進行させるためにも会社法を理解することが大切です。また、事業譲渡をはじめとするM&Aに詳しい仲介会社や、会社法などの法律に詳しい弁護士などの専門家を頼ることも有効でしょう。
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料金体系は、M&Aのご成約時にのみ料金が発生する完全成功報酬型のため、M&Aのご成約まで費用は発生しません(譲受会社様のみ中間金が発生します)。
随時、無料相談をお受けしておりますので、事業譲渡などのM&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。