このページのまとめ
- タームシートとは、契約内の重要事項や骨子、合意形成が必要な事項をまとめたもの
- タームシートの活用により、無駄や抜け漏れがない効率的な交渉が可能となる
- タームシートはExcel等の表ツールで作成し、進捗を記入する欄を設けると良い
- タームシートは基本合意書の締結前のタイミングで作成することが一般的
タームシートは、多岐にわたる契約事項を確実に合意形成まで進めるための、重要な資料です。しかし、M&Aで交渉を進めるなかでタームシートが必要なことが分かり、どのように作成すれば良いのか迷ってしまう経営者の方もいるでしょう。
本記事では、M&A交渉を効率的に進めるにあたって、さまざまなメリットをもたらすタームシートについて解説していきます。作り方や記載するべき項目を紹介するほか、契約書との違いについても解説します。
目次
M&Aにおけるタームシートの意味とは
タームシートとは、M&A取引における最終契約の締結にいたるまでの過程で、契約書に盛り込むべき重要事項をまとめたものを意味します。
M&A交渉においてタームシートの作成は義務ではないものの、売り手と買い手の双方にとってポジティブな効果をもたらすため、タームシートは多くのM&A交渉の場面において用いられています。
タームシートを作成するメリット
タームシートの作成・活用によるメリットは、交渉すべき事項が可視化され、さまざまな重要事項や条件に関して、それぞれが明確な形で合意形成にいたることが可能になるという点です。また、タームシートがあることにより、交渉情報を2社間で共有し共通言語を構築することができるため、交渉を無駄なくスピーディに進められるという点も挙げられます。
交渉を効率化することがメリットとなる理由としては、M&Aの最終契約書に盛り込むべき事項が多岐にわたるうえに重要事項も数多くある一方で、交渉時間が限られているためです。M&Aの重要フェーズである最終契約締結において、契約書には売り手と買い手だけでなく両社のステークホルダーにとっても重要な取り決めが数多く盛り込まれることになります。
交渉では両社の間に認識の齟齬が生まれないようにすることが必要です。そうすれば、交渉プロセスを効率的に進められるだけでなく、契約締結後にどちらか一方が不利益を被るといった事態も回避することができます。
タームシートは、当事者間の齟齬によるリスクを最小化しながら効率的かつ無駄や抜け漏れなく交渉を進めていくことができるとても有効な手段です。
M&Aにおけるタームシートの書き方
タームシートを作成する際、単なる覚え書きやメモのように交渉事項を羅列するだけではいけません。交渉を効率化し、質の高い合意形成に達するためには、ポイントを押さえた適切な方法で作成することが大切です。
ここからは、タームシート作成時に押さえておくべき以下の事項について解説します。
- タームシートと契約書の違い
- 書き方のポイント
それでは1つずつみていきましょう。
タームシートと契約書の違い
タームシートは、契約書に記載すべき重要ポイントのみを簡潔にまとめたものです。その一方、契約書は契約が締結されたことを証明するという役割に基づき、当事者間での約束事を文章にしてまとめたものです。
また、契約書はある程度定型化された構成に従って条文を盛り込んでいくという作成方法が一般的ですが、タームシートには契約書のようなテンプレートはありません。理由としては、タームシートが担っている役割が、あくまで契約書の要点をまとめる交渉管理ツールであるためです。タームシートの内容はM&Aを行う会社によって大きく異なるため、フォーマットや構成を契約書のようにテンプレート化することは難しいでしょう。
そうなると「タームシートは最終的に契約書としてまとめられるのだから、契約書のテンプレートを活用すればいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、契約書はすべての情報を網羅しているため、かえって分かりづらくなることがあります。本来のタームシートの目的である「契約書への記載事項の要点をまとめる」ことが果たせなくなってしまうので、契約書のテンプレートを使い回すことはおすすめしません。
タームシートの書き方のポイント
タームシート作成において大切なポイントは以下の2つです。
- フォーマットはExcel
- 交渉の進捗管理ができるようにする
契約書のフォーマットにWord形式のものが多いことから、タームシートも漠然とWord形式で作成しようと思うかもしれませんが、タームシートのフォーマットにはExcelのような表作成に強い形式の方が適しています。
縦軸に契約書に記載すべき事項、横軸にその内容を記載していく形が一般的ですが、ここでもう1つのポイントである「交渉管理状況」の列を組み込むことが大切です。
M&A交渉の大半は、売り手と買い手の主張が異なるため、合意に至った点と至ってない点を明確にし、各項目において現在交渉がどの地点にあるかを可視化することが、抜け漏れのない合意形成につながります。
タームシートの作成から合意までの流れ
タームシートを作成するためには、事前にさまざまな準備が必要となります。ここからは、M&Aのプロセスの中でもタームシート作成に関わるプロセスに焦点を当て、準備から作成、そしてクロージングまで、どのような流れで進んでいくかを解説します。
- ノンネームシート作成
- 秘密保持契約締結
- 企業概要書作成
- タームシート作成
- 基本合意書締結
- デューデリジェンス
- 最終契約書締結
- クロージング
全体の流れは上記のとおりです。それぞれの過程について詳しく解説します。
1.ノンネームシート作成
M&A交渉を行う相手を探すために、まずは会社名を伏せた形の案件の企画書のようなもの(ノンネームシート)を作成します。
ここでの記載事項は、希望売却価格や売却理由などのM&Aの概要です。
2.秘密保持契約締結
交渉相手決定後、具体的な交渉に入る前に売り手と買い手の間で秘密保持契約を締結します。
3.企業概要書作成
売り手が買い手に対して、売却企業のアピールポイントをまとめた企業概要書(IM)を作成し提出します。買い手はこのIMをベースに、これからどのように交渉を重ねていくかを検討します。
4.タームシート作成
一般的には、基本合意書の締結に進む前の段階でタームシート作成をスタートします。
基本合意書の締結前に重要な事項についてお互いが確認し合うことで、今後のやりとりがスムーズになるでしょう。
5.基本合意書締結
IMの情報をふまえて、タームシートを活用しながら売り手と買い手の間で、代表面談の場を設けていきます。今後、実際にM&A交渉を進めていくか否かを判断し、合意に達したら基本合意書を締結します。
基本合意書締結が取引確定を意味するわけではありませんが、独占交渉権の付与や秘密保持義務の設定などの特定の合意内容については、法的拘束力を持たせることが多いです。
6.デューデリジェンス
買い手が買収する企業の調査(デューデリジェンス)を行い、その結果をもとに買収価格や交渉内容などを決定していきます。
ここでの調査結果を受け、買い手はリスクを抑える対応策や補償内容の設定を要求してくるため、それらの事項もタームシートに盛り込んでいきます。
7.最終契約書締結
あらゆる交渉事項が合意に達したら、最終契約書を締結します。
タームシートの役割は大方この段階で終了となります。
8.クロージング
契約締結後、取引先との契約承継や許認可の取得などの手続きを行い、売り手が取引対象を買い手に譲渡し、その対価の支払いが完了すれば、正式にM&A成約となります。なお、クロージングの内容は選択したスキームによって異なるので、どのような手続きが必要なのかを事前に確認してください。
最終契約書の締結からクロージングまでの期間中、必要な手続きが全て完了しているかどうかもしっかり確認する必要があるため、ここでは別途チェックリストなどを作成しておくとよいでしょう。
タームシートに必要な記載事項
実際にタームシート作成に入る際、基本的な記載事項をあらかじめ確認しておくことで、その後の交渉も抜け漏れなく進めることができます。
タームシートに記載する事項は、下記のとおりです。
記載事項 | 概要 |
対象 | 買収する株式や事業 |
M&Aスキーム | 株式譲渡・交換・移転、会社分割などの手法 |
金額 | 買収金額 |
スケジュール | 最終契約締結日やクロージング日などの大体の日程 |
デューデリジェンス | 資料・情報の提供などの協力義務 |
経営方針 | M&A後の方針 |
従業員 | M&A後の従業員の処遇 |
独占交渉権 | M&A交渉期間中の独占的な交渉権の付与 |
一般条項 | 秘密保持や準拠する法律、有効期限など |
そのほか、それまでの話し合いのなかで必要だと思われる項目があれば、適宜追加してください。
タームシート作成時の注意点
タームシート作成においては、以下の2点に注意しながら進めていくことが重要です。
- 法的開示義務
- 法的拘束力
この2点に注意が必要な理由をふまえながら、それぞれ解説していきます。
1.法定開示義務がある項目を明確にしておく
M&A交渉中、秘密保持契約締結が完了している場合でも、法定開示制度に基づき一定の情報を開示しなければならない可能性があります。、開示義務がある項目を事前に確認しましょう。
取引を行う会社が上場企業である場合、金融商品取引法や会社法に基づく情報開示制度に加え、証券取引所規則に基づく適時開示制度が適用となります。このような場合、秘密保持契約とは別に、開示制度の対象となる内容については公表できる旨を契約書内に明記しなければなりません。
2.法的拘束力を持たせた方がよい項目がある
一般的にタームシートは、交渉プロセスの中で何度も修正する機会が発生するため、その内容に法的拘束力を持たせることはありません。しかし、法的拘束力を持たせないことで後々トラブルに発展するおそれを孕んだ事項もあるため、それらに関しては法的拘束力を持たせ、その旨をしっかりと明記しておくことが大切です。
法的拘束力を持たせた方がよい事項は、以下の3つです。
- デューデリジェンスへの協力義務
- 独占交渉権
- 秘密保持義務
秘密保持義務に関しては、売り手と買い手双方にとって機密情報のやり取りが発生するケースが大半であるため、タームシート内で法的拘束力を持たせるよりも、秘密保持契約を別途締結することが一般的です。
まとめ
タームシートは、M&A実施の際に契約書に盛り込むべき重要事項をまとめたものです。タームシートを作成することで、交渉プロセスの効率化と精度向上を叶えることができます。
その一方で、タームシートの作成においては、さまざまな法的な専門知識が必要とされる場面に直面することも多く、誤った内容で進めてしまうとトラブルに発展するケースも考えられます。自分で作成することに不安がある場合は、弁護士や司法書士、M&A仲介会社などに相談することがおすすめです。
M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、上場企業から中小企業まで幅広い規模でのM&Aをサポートする仲介会社です。各領域に精通し、豊富な知見と実績を持ったコンサルタントが在籍しており、あらゆるプロセスにおいて的確なアドバイスを提供します。
料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です(譲受会社のみ中間金あり)。ご相談も無料ですので、M&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。