このページのまとめ
- 「のれん」は、売り手企業を買収した金額が純資産よりも高い場合の差額を表す
- のれん償却とは、売り手企業の純資産に上乗せされたのれん代を減価償却すること
- 会計上ののれん償却期間は最長20年で、一般的に定額法によって償却する
- のれんの償却期間は、投資回収期間を目安に決めるケースが多くみられる
- のれんの価値が著しく低下した場合は、減損処理を行わなければならない
「のれんの償却が発生すると、会計処理が複雑になるのではないか?」という懸念を持っている経営者の方もいるのではないでしょうか。本記事では、のれん償却期間や償却方法、仕訳事例を詳しく解説します。
のれんの減損処理を回避する方法もお伝えするので、のれんの償却方法が気になっている方やM&Aで失敗したくない方は、ぜひ参考にしてください。
目次
「のれん」とは
まずは、のれん償却における「のれん」の概要について知識を深めていきましょう。
M&Aにおける「のれん」の意味
のれんとは、主にM&Aの買収時や合併時に多く用いられる用語で、「売り手企業の時価評価純資産よりも高い価格で買い手企業が買収した際に発生する差額」を指します。たとえば2,000万円の純資産を所有する企業を3,000万円で買収した場合、純資産額と買収価格の差額である1,000万円が「のれん」です。
M&Aの際には、買い手企業は売り手企業の持つ営業権やノウハウ、信用力といった無形資産を見込んだうえで買収するため、上記の例のように売り手企業における実際の純資産額よりも高い価格で取り引きされるケースが多くみられます。つまり、のれんはいわば『売り手企業の持つブランド力』と表現できます。
関連記事:M&Aや会計に出てくる「のれん」とは?概要や計算方法を解説
「のれん」の由来
のれんという用語は、お店の軒先などに掲げられる「暖簾(のれん)」に由来しているといわれています。
暖簾は、かつては店内の暖かさを保つことを目的として用いられていましたが、やがて布に屋号や紋を入れるなどしてお店の「看板」として使用されるようになっていきました。同様に営業権やノウハウ、信用力といった無形資産も企業における看板といえることから、いつしか「のれん」と呼ばれるようになったといわれています。
「のれん」を確認するフェーズ
のれんは、買い手企業がデューデリジェンスで売り手企業の企業価値を算定する際に、確認します。
デューデリジェンスとは、M&Aを実施するにあたって、買い手側は売り手の実態を事前に把握し、適切に取引や価格に関する判断をするための調査のことです。
M&Aの成立時に、買い手企業は自社の連結決算において、実際の買収額と売り手企業の純資産額の差をのれんとして、貸借対照表に計上します。
「負ののれん」について
M&Aの状況によっては、「負ののれん」が発生する場合もあります。
「負ののれん」とは、売り手企業の持つ時価評価純資産よりも低い価格でM&Aが行われた場合に生じる差額のことです。たとえば2,000万円の純資産を所有する企業の買収にかかった金額が1,000万円だった場合、差額の1,000万円が「負ののれん」に該当します。
負ののれんは、売り手企業における将来的な収益見込みが少ないと判断される場合や、訴訟リスクなどの偶発債務がある場合などに発生する傾向がみられます。買い手企業としては買収価格を抑えられるメリットがあるものの、リスクの内容によっては将来的に損をする恐れもあるため注意が必要です。
「のれん償却」とは
「のれん償却」とは、売り手企業の有する時価評価純資産額に上乗せされたのれん代を減価償却することです。
この減価償却とは、資産を取得する際に支払った代金を分割して費用計上する会計上の処理のことを指します。先述のように「のれん=売り手企業の持つブランド力」であり、その無形固定資産の効果は長期的に持続すると想定できることから、買収時に一括で計上するのではなく複数年にわたって少しずつ計上していきます。
のれん償却をする理由
のれん償却を行うのは、のれんの価値が永久的に続くものではないと考えられているためです。のれんの裏付けとなる当該企業のブランドや信用力などは、時間の経過とともにその影響力が変動することが一般的であり、時には価値が大きく低下するケースも珍しくありません。
そのため、日本の会計基準においては、工場や機械などの他の資産と同様に、のれんも一定期間で償却する必要があるとされています。
M&Aの際に生じたのれんを償却していない状態でのれんの価値が大きく低下した場合、多額の損失を計上しなければなりません。そういった状況を防ぐために、のれん償却を行い、非永続性を決算に反映させます。
のれん償却期間の決め方
のれんの償却期間は、一律で決められているわけではありません。何年間で行うかは、各企業がそれぞれ決定します。一般的には、投資回収期間を目安に決めるケースが多くみられます。
投資回収期間とは、「買収時に支払った費用の回収が終わるまでに必要と考えられる期間」のことです。基本的に、以下の計算式で算出します。
投資回収期間=投資金額÷売り手企業から発生する年間キャッシュフローの金額
たとえば、50億円で買収した企業の年間キャッシュフローが10億円の場合は、投資した50億円を回収し終えるまでに必要と考えられるのは、5年間です。この期間を目安にすれば、現実的かつリスクの少ないのれん償却期間を設定できます。
日本会計基準とIFRSにおけるのれんの処理の違い
のれんの償却は「日本会計基準」に基づいて経営を行っている企業のみに義務付けられている手法であり、国際財務報告基準(IFRS)を採用している場合は実施しません。IFRSにおいてはのれんを貸借対照表に資産として計上し続けられるため、手元に多くのキャッシュを残せます。
その半面、IFRSにおいてはのれんの価値が持続されているかどうかを評価する「減損テスト」を毎年実施し、計上されている価値との比較によって「著しく低下した」と認められる場合は減損処理を行う必要があります。
このように採用している会計基準によってのれんの処理方法が異なるため、買収にあたっては自社が「日本会計基準」と「IFRS」のどちらの会計基準を用いているかを事前に確認しておくことが大切です。
のれん償却のメリット・デメリット
続いては、のれん償却を行うメリット・デメリットについて解説します。
のれん償却のメリット
のれん償却のメリットは、のれんの非永続性を決算書に反映し、損失時の影響を軽減できることです。
のれん償却を行わない場合、のれん代は資産として貸借対照表上に記載され続けることになり、毎期の減損テストの結果によっては減損処理を行わなければなりません。もしのれんの価値が著しく低下した場合は多額の損失を計上せざるを得ず、経営状況は大いに圧迫されます。
一方で、のれん償却によって毎年少しずつのれん代を減価償却していけば、たとえ減損処理が発生した場合でも損失を最小限に抑えられます。また、手間のかかる減損テストを毎年行う必要がないことも、のれん償却を行う大きな魅力です。
のれん償却のデメリット
のれん償却において最も注意したいデメリットといえるのが、のれん償却期間中に営業利益が圧迫されやすいことです。特に高額なのれん代が発生した際には毎期の減価償却における負担が大きく、場合によっては経営悪化が引き起こされる恐れがあります。
また、のれん償却は一定期間内であれば任意に設定できることから、いい加減な会計処理になりやすいこともデメリットのひとつです。のれんの耐用年数を確かな根拠を持って決定することは難しいため、資金繰りのしやすさなどを理由に自分勝手な判断が行われる可能性があります。
会計基準におけるのれん償却期間と償却方法
ここでは、日本会計基準に基づくのれん償却期間と償却方法について詳しく見ていきましょう。
のれん償却期間は「最長20年」
日本会計基準においては、のれん償却は「20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法その他の合理的な方法により規則的に償却する(企業結合会計基準32項)」と定められています。
つまり、のれん償却期間は最長20年であり、買い手企業は投資回収期間などを考慮しながら自由に償却期間を決定することが可能です。ただし、一度「〇年で償却する」と定めた期間をあとから変更することはできません。
出典:企業会計基準委員会「企業結合に関する会計基準」
のれんの償却方法とは
のれん償却は、一般的にはすべての償却期間にわたって同額を償却していく「定額法」で実施されます。償却にあたって用いられる勘定科目は「のれん償却費」で、毎月ののれん償却費は下記の計算式によって算出されます。
(取得金額-残存価格)÷償却期間
なお、上記の「取得金額」は買収時に計上したのれんの金額のことです。また、「残存価格」は減価償却資産が法定耐用年数を経過したあとの価値のことを指しますが、無形固定資産であるのれんにおいては0円で計算します。
のれん償却の仕訳事例
実際にのれん償却を実施する場合に備えて、具体的な仕訳方法も把握しておきましょう。ここでは、「一般的なのれん償却」と「負ののれん」の2パターンの仕訳事例をご紹介します。
一般的なのれん償却の仕訳事例
まずは、一般的なのれん償却の仕訳事例を見ていきます。
たとえば現金2,000万円・買付金800万円・買掛金500万円の資産や債務を有する企業を3,000万円で買収し、700万円ののれんが発生したケースでは、下記のように仕訳を行います。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
現金 | 20,000,000 | 買掛金 | 5,000,000 |
貸付金 | 8,000,000 | 当座預金 | 30,000,000 |
のれん | 7,000,000 |
また、700万円ののれんを毎年70万円ずつ、10年間かけて償却していく場合、初年度におけるのれん償却の仕訳は以下の通りです。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
のれん償却 | 7,000,000 | のれん | 7,000,000 |
なお、のれんの償却額は損益計算書の「特別損失」に計上されます。
「負ののれん」の仕訳事例
続いてご紹介するのは、「負ののれん」の仕訳事例です。
たとえば現金2,000万円・買付金800万円・買掛金500万円の資産や債務を有する企業を2,000万円で買収し、300万円の「負ののれん」が発生したケースでは、下記のように仕訳を行います。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
現金 | 20,000,000 | 買掛金 | 5,000,000 |
貸付金 | 8,000,000 | 当座預金 | 20,000,000 |
負ののれん発生益 | 3,000,000 |
上記のように貸方科目に「負ののれん発生益」として計上し、損益計算書には「特別利益」として計上します。
のれんの「減損処理」について
のれんはM&A時に計上され、毎年少しずつ減価償却されていきますが、もし何らかの原因でのれんの価値が著しく減少した場合は会計業務として「減損処理」を行わなければなりません。具体的にどのような作業が発生するのか、ここではのれんの減損処理方法や仕訳事例をご紹介します。
のれんの減損とは
まず「のれんの減損」とは、のれんの価値を下方修正する作業のことをいいます。
そもそも日本会計基準においてのれんは減価償却されるため、基本的にはIFRSを採用している企業のように減損テストを実施して価値を修正する作業は発生しません。しかし、何らかの要因によって買収時に計上したのれんを「実際に回収することが難しい」と判断した場合は、減損損失の会計処理を行う必要があります。
のれんの減損処理はさまざまな要因によって発生しますが、主な理由としては下記の2点が挙げられます。
- 売り手企業の持つ無形資産に対する期待値が高すぎた
- 経営悪化などにより、想定していた利益を生み出せていない
なお、のれんの減損処理を行うと貸借対照表に記載されているのれんの価額が引き下げられ、「減損損失」として計上されます。その分当期の純利益が減少するため、場合によっては株価下落などの悪影響がもたらされることもあるでしょう。
また、のれんの減損分は資本から補う形で対応する必要があり、必然的に株主への配当金の減少も避けられません。
このようにのれんの減損による影響は非常に大きいことから、減損を避けるための対策が必要不可欠です。
のれんの減損処理における仕訳事例
ここでは、のれんの減損処理における仕訳事例をご紹介します。たとえばM&A時に700万円計上したのれんを500万円に減損処理する場合は、差額分の借方科目は「減損損失」、貸方科目は「のれん」として下記のように仕訳を行います。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
減損損失 | 20,000,000 | のれん | 2,000,000 |
のれんの減損処理を回避する方法
M&Aの実施後数年間のうちにのれんの減損が起きる要因として挙げられるのは、主に「売り手企業の無形資産に対する期待値が高すぎた」「当初の想定よりも利益が生み出せていない」の2点です。
のれんの減損処理を回避するには、以下のような対策が求められます。
- デューデリジェンスの強化
- 人員整理をはじめとした利益向上施策の実施
- 適正な人材の再配置
M&Aの実行前に実施するデューデリジェンスは、ビジネス・会計・税務・法務・人事・システム・リスク項目や、売り手企業が抱えるリスクを把握するための調査です。売り手側の経営者への複数回にわたるヒアリングを行い、弁護士や税理士、公認会計士に依頼して調査します。
高いブランド価値を誇る企業でも、顕在化していないリスクが潜んでいる可能性があります。M&Aを実施する前に、リスクの見落としがないようにデューデリジェンスを行うことは、のれんの減損処理を回避するのには欠かせません。
また、のれん減損が起きる要因として、買収後に当初の想定よりも売り手企業の業績が伸び悩むケースも挙げられます。そのため、人員整理をはじめとした利益向上施策の実施や、売り手側と買い手側における重複した人材の再配置などを検討する必要があるでしょう。
税務におけるのれん償却
最後に「税務上ののれん償却」に焦点を当て、概要や償却期間について解説します。
税務上の「のれん」とは
会計上「のれん」として計上した金額は、 税務上は「資産調整勘定」、負ののれんの場合は「負債調整勘定」という科目で取り扱います。
ただし、株式譲渡などで連結財務諸表上にてのれんが計上される場合には、税務上ののれんが生じることはありません。非適格合併や事業譲渡などで、単体財務諸表に取り込むことになる場合に発生する可能性があります。
税務上におけるのれん償却期間は「5年」
税務上ののれんに該当する「資産調整勘定」と「負債調整勘定」の償却期間は5年間と定められており、会計上ののれんのように任意によって設定することはできません。もし会計上ののれん償却期間を5年以外に定めた場合は会計上と税務上とで異なる償却期間となることから、混乱しないように注意しましょう。
また、会計上と税務上でのれん償却期間が異なる場合は一気に申告を行えないため、手間に感じる場合もあるでしょう。双方の償却期間をきちんと管理できるかどうか不安な場合、あるいは申告調整の手間を省きたい場合は、会計上ののれん償却期間も税務と同様に「5年間」と設定することをおすすめします。
ただし、のれんの金額が高額であればあるほど、短い償却期間においては資金繰り悪化のリスクが高まります。確定申告時の手間を省くために会計上ののれん償却期間も5年間とするのか、それとも資金繰り悪化のリスクを軽減するためにできるだけ長い期間で償却していくのか、自社に合った償却期間を慎重に見極めることが大切です。
決算書にのれんを見つけた際の注意点
買収しようとしている企業の決算書にのれんを見つけた際は、M&Aの実施を慎重に判断する必要があります。のれんが計上されているのは、売り手企業が過去に純資産を上回る購入金額で他社を買収したためです。今回、売り手となる企業が他社を買収してから数年が経過している場合、資産計上されているのれんの価値が利益獲得に貢献しているのはどの程度なのか、精査する必要があります。
買い手企業は、計上されているのれんの本質的な価値を見極めなければなりません。ブランドや信用力、技術力、顧客情報などの何が魅力で純資産を上回る価格で買収したのかについて、経営者へのヒアリングや損益計算書や営業活動によるキャッシュフローの確認などで、探る必要があるでしょう。
まとめ
のれんは、売り手企業のブランド価値を表す言葉で、会計上では「売り手企業を実際に買収した金額と時価評価純資産の差額」として表記されます。買い手企業がのれんを確認するタイミングは、デューデリジェンスで売り手企業の企業価値を算定するときです。
のれんの償却とは、売り手企業が保有する時価評価純資産額に上乗せされたのれん代を、減価償却することを指します。のれんの償却を行うのは、のれんの価値が未来永劫続くわけではないと考えられるためです。日本の会計基準では、工場や機械などの他の資産と同様に、のれんも一定期間で償却する必要があることを押さえておきましょう。
のれんの償却期間は、20年を上限として各企業がそれぞれ決定します。一般的には、投資回収期間を目安に決めるケースが多くみられます。
のれんの償却は「日本会計基準」を採用している企業のみに義務付けられている手法であり、国際財務報告基準(IFRS)を採用している場合は実施しません。IFRSではのれんを貸借対照表に資産として計上し続けられるため、手元に多くのキャッシュを残せる一方で、のれんの価値が持続されているかどうかを評価する「減損テスト」を毎年実施することが求められます。減損テストの結果、著しい低下が認められた際は、減損処理をしなければいけないルールになっています。
日本の会計基準を採用している企業であっても、毎年少しずつ減価償却されていく途中に、何らかの原因でのれんの価値が著しく減少した場合は会計業務として減損処理を行わなければなりません。減損処理を行うことで、貸借対照表に記載されているのれんの価額が引き下げられ、「減損損失」として計上されます。その分、当期の純利益が減少し、場合によっては株価下落などの悪影響を及ぼすリスクがあります。
のれんの減損を回避するには、「デューデリジェンスの強化」や「適切な価格での企業買収」などが有効です。適切な価格での企業買収を実現するためには、M&A仲介会社をはじめとする専門家のサポートを活用するのが得策です。
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