合資会社における事業承継とは?会社の特徴と事業承継の形態などを解説
2024年7月29日
このページのまとめ
- 合資会社の設立には無限責任社員と有限責任社員の2名が必ず必要である
- 無限責任社員は会社の負債に対して、限度なくすべての責任を追う
- 合資会社の事業承継の形態は親族内承継・社員承継・M&A承継に大別される
- 早期に計画や承継者を選定することや定款などの記載を見直すことが重要となる
- 事業承継税を活用することで、相続税や贈与税において一部メリットが享受できる
事業会社の大半は株式会社のため、「合資会社」はイメージしづらい方もいるでしょう。合資会社の事業承継となると、さらに難しく感じるものです。本記事では、合資会社の形態と特徴を踏まえて、具体的な事業承継の方法や注意点、事業承継を成功させるポイントなどを解説します。また、事業承継時に課される贈与税や相続税の負担を軽減できる事業承継税制の活用方法も紹介します。
目次
合資会社とは
会社の形態には、「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」などがあります。株式会社以外の合同会社、合名会社、合資会社の3つは持分会社に分類されます。
会社形態 | 株式会社 | 持分会社 | |||
合同会社 | 合名会社 | 合資会社 | |||
株主と経営層の関係 | 株主と経営層が分かれている | 株主と経営層が一体となっている | |||
意思決定 | 株主総会・取締役会 | 社員総会・代表社員 | |||
出資者の責任範囲 | 有限責任社員 | 有限責任社員のみ | 無限責任社員のみ | 有限責任社員と無限責任社員 |
合資会社とは、通常の株式会社とは異なり持分会社のひとつの形態で、有限責任社員と無限責任社員が存在することが特徴です。順を追ってそれぞれ解説していきます。
株式会社と持分会社の違い
一般的に会社には、お金を出す株主と実際のビジネスを行う経営層との2つのプレイヤーが存在します。
その中で、株主と経営層が分かれている形態を株式会社、両者が一体となっている形態を持分会社と呼びます。
つまり持分会社とは、経営層自身が株主となり出資も行いながら経営を担う会社形態のことを指しています。したがって、株式会社では意思決定が株主総会や取締役会でなされる一方、持分会社では社員総会や代表社員の決断によって行われます。
持分会社における合資会社
持分会社は、「有限責任社員」と「無限責任社員」の関係によって、細かく3つに分けられます。
持分会社の中で、有限責任社員のみで構成されるのが「合同会社」、無限責任社員のみが「合名会社」となり、「合資会社」とは有限責任社員と無限責任社員が少なくとも1名ずつ存在する会社のことを意味しています。
有限責任社員とは、会社の債権者に対して、自身の出資額を上限に責任を持つ社員のことです。会社が倒産した場合や、会社に何らかの負債がある場合でも、出資額以上の負債を負う必要はありません。
また、会社の資産価値が大きく減少したとしても、出資額以上の損害を受けないことから「有限間接責任」とも呼ばれます。
一方、無限責任社員は、債権者に連帯して負債を負う社員のことです。会社に負債がある場合は、完全に負債がなくなるまで、自己資金はもちろん、すべての私財を投げ打ってでも負債を返済しなければなりません。
直接負債を負うことから、有限責任社員の有限間接責任に対して「直接責任」と呼ばれます。
合資会社と株式会社の違い
合資会社は、経営層自身が株主となる点が株式会社との大きな違いです。
そのため合資会社は決算報告が不要であり、資本金や設立コストが低く抑えられるなどの自由度が高い点が特徴として挙げられるでしょう。
一方で合資会社の場合、上場ができず限られた範囲での資金調達となる点や、倒産時の責任の大きさなどがデメリットとなります。
また、株式会社が(株)と表記されるのに対して、合資会社は(資)と表記されます。合資会社は、規模の小さい会社が多いことも特徴です。タクシー業界、特に地方のタクシー会社は合資会社の形態が多く見られます。
合資会社の事業承継における3つの承継要素
事業承継は「株式の承継」と「経営者の交代」というイメージが強いですが、実際にはそれだけではありません。事業承継とは、事業そのものを「承継」することです。事業承継後に、後継の経営者が持続的に企業価値を高め、事業成長を図るためには、株式をはじめとしたあらゆる経営資源を承継する必要があります。
後継者に承継すべき経営資源である「人(経営)」「資産」「知的資産」について解説します。
人の承継
事業承継における「人の承継」とは「経営権」の承継を指します。特に、中堅・中小企業においては、経営者個人に経営や事業ノウハウ、取引先を中心とした顧客情報が一元化されているケースが多いため、事業の業績や経営の安定性が経営者の資質に大きく依存します。
「親族承継」や「社員承継」においては、 経営者の育成と顧客との関係構築に相応の時間を有するため、後継者候補の選定はできるだけ早く行うべきでしょう。
近年では、外部環境の変化が激しいなかで、企業価値を持続的に向上させる手腕が求められており、親族内で後継者を見つけることが難しくなってきています。そのため、親族外の外部経営者への事業承継も選択肢に入れて、検討する会社が増えています。
資産の承継
資産の承継とは、事業を行うために必要な資産を後継者に承継することです。現経営者個人が所有する株式や事業用資産(工場や建物をはじめとした設備・不動産)、資金(運転資金・借入金)などが含まれます。
経営権を移転する際、株式については移管タイミング・対策次第で相続税や贈与税などの税負担が大きく変わることがあるため、税負担に配慮した承継方法を検討することが重要です。
ただし、事業承継における税負担への対策には、専門的かつ高度な知識が必要となるため、税理士や信頼できるM&A専門エージェントに相談することをおすすめします。税対策についての詳細は、後段の「事業承継税」の章で解説しています。
知的資産の承継
知的資産の承継とは、無形の資産、つまり会社の競争力の源泉となる強みやノウハウを継承することです。人材、技術、製品、知的財産(特許・ブランド)をはじめ、顧客基盤や経営理念、社員の行動規範なども知的資産に該当します。
これらを承継するためには、まず現経営者が自社の強み・企業価値の源泉がどこにあるのかを理解し、言語化と文書化を通じて、後継者に引き継ぐことが大切です。
合資会社の事業承継の形態とそれぞれのメリット・デメリット
ここでは、合資会社の事業承継の形態とそのメリット、デメリットについて解説します。
合資会社における事業承継では次の3つの形態が挙げられます。
- 親族内承継
- 社員承継
- M&A承継
それぞれの承継方法によるメリットを解説します。
1. 親族内承継
親族を後継者とする事業承継は、中小企業において一般的な方法です。経営者の子供を後継者にするケースが多く、子供は将来あとを継ぐことを想定して経営者のもとで働きます。
合資会社での親族内承継のメリット
メリットは以下のとおりです。
- 周囲からの賛同の得やすさ
- 適切な親族、後継者を早期に見極め、教育できる
親族内承継の最大のメリットは、周囲からの賛同を得やすいことです。経営者の子供が後継者の既定路線になっていれば、周囲もそのように見ることになります。オーナー企業の事業承継であればなおさらです。
また、承継対象となる親族、後継者を早期に見極め、早い時期から育成を開始できる点も特徴です。
合資会社であるが故に株主らの意見を反映する必要がないため、スムーズにこれらのメリットを享受できます。
合資会社での親族内承継のデメリット
デメリットは以下のとおりです。
- 合資会社の形態による責任の重さ(特に無限責任社員となる場合、負債の上限がない)
- 親族側が拒否した場合、親族内での承継が困難となる
合資会社によって承継対象となる親族は、有限責任社員か無限責任社員のいずれかとなりますが、その負担や責任が株式会社よりも大きくなってしまう点がデメリットとして挙げられます。特に無限責任社員の場合は、負債の上限がなく、親族にこれらを負わせることは懸念点となり得ます。
また、こういった責任の重さなどを理由に後継者候補の家族から反対される場合があることもデメリットのひとつです。
2. 社員承継
承継対象として親族ではなく、従業員を選定することもしばしば起こり得ます。
合資会社での社員承継のメリット
メリットは以下のとおりです。
- 親族よりも内部または外部人材含めて適切な人材を選定しやすい
- 経営理念や方針における引き継ぎが比較的容易
社員承継は、全社員の中から特に経営者としての資質を備えた人材を選べることがメリットです。
親族承継の場合は、後継者候補が経営者の子供や子供の配偶者、兄弟姉妹などに限定されるため、後継者の育成に相応の時間を要します。一方で、社員承継の場合、後継者は既に自社に勤め、経営方針や会社の組織風土を理解しています。加えて、業務上必要なスキルやノウハウも身につけているため、早期に経営を安定させることができるでしょう。
また、後継者が社員の場合は、経営者が日常的に接している人材であり、ビジネスモデルなどにも精通しているため、経営理念や方針などの引き継ぎが比較的容易というメリットもあります。
合資会社での社員承継のデメリット
デメリットは以下のとおりです。
- 合資会社の持分を買い取るため、承継者側に多額の資金を要する場合がある
- 社員から承継者を選定するために、他の社員と軋轢が生じやすくなる
社員承継の注意点は、後継者に多くの資金が必要となることです。
後継者が安定して経営できるようにするためには、総議決権の過半数の株式を保有することが望ましいといえます。これを実現するためには、贈与または譲渡によって、承継時の株主(オーナーであることが多い)から後継者に株式を引き継ぐ必要があります。
ただし、社員である後継者は株式の買い取り資金を用意しなくてはなりません。社員が過半数の株式を買い取れるほどの自己資金を有していることは極めてまれで、資金不足が問題になることが多くあります。また、業績の良い会社ほど株式の評価額も高くなるため、一株あたりの価格が上がり、後継者にとってはさらに金銭的負担が重くのしかかります。
役員を後継者にしたとしても、必要な買い取り資金を準備できるケースは少ないのが現状です。株主であるオーナー経営者は、株式を取得する資金として給与を増額したり、金融機関やファンドから調達したりするなど、株式取得のための資金対策を講じる必要があります。
また、社員から承継者を選定することは適切な人材を選ぶことができるメリットがある一方で、その判断には慎重を期さなければなりません。なぜなら、選ばれなかった社員と承継対象者の間に軋轢が生じてしまう可能性があるためです。
親族内承継であればある程度の納得性は持たせられるものの、社員承継の場合はより丁寧なコミュニケーションが必要となるでしょう。
3. M&A承継
近年、多くの中小企業が後継者不足の問題に直面しており、M&Aで外部に会社や事業を譲渡する事例が増えています。
事業承継とM&Aは本来別物ですが、事業承継の手段としてM&Aを活用することもあります。
M&Aには株式譲渡、事業譲渡、合併、会社分割といったスキームがありますが、中小企業の事業承継は株式譲渡により行われることが大半です。
合資会社でのM&A承継のメリット
メリットは以下のとおりです。
- 親族や社員に頼らず、幅広い選択肢から適切な候補を選定できる
- 株式会社への変更など、大胆な方針転換の意思決定がしやすい
M&Aによる事業承継には、後継者を幅広く探せる、大胆な方針転換の意思決定がしやすいといったメリットがあります。親族や役員・社員の中で後継者候補が見つからない場合は、外部に後継者を求めるM&Aが有効です。経営者としての経験がある人を後継者に選ぶことで、経営をスムーズに移行できます。
加えて、合資会社から株式会社へ移行するなど、経営の根幹となる部分を大胆に変える意思決定も、M&Aによる承継であれば行いやすくなります。これは買収側の企業の方針によるところが大きいですが、M&Aを理由にすることで方向転換の説明がしやすくなるためです。
従前から合資会社以外の形態への変更を考えている場合、M&Aを用いることもひとつの有効な手段となり得るでしょう。
合資会社でのM&A承継のデメリット
デメリットは以下のとおりです。
- 通常の株式譲渡ができず、手続きが煩雑になりやすい
- 事業譲渡や会社分割の場合、社員が持分払戻しなどで受け取った際にみなし配当所得として最高55%の税金が課せられ、株式譲渡よりも重い負担となる
合資会社でのM&A承継は通常の株式譲渡のフローではないため、手続きが煩雑になる点がデメリットとして挙げられます。この場合は、弁護士や税理士、M&A仲介業者などの専門家のサポートを受けるようにしましょう。
また、事業譲渡や会社分割を選定した場合には、通常よりも重い税負担となる点も忘れてはなりません。合資会社の社員が払戻などで受け取った金額に最高55%の税金が課せられる可能性があります。
合資会社の事業承継における留意点
上記の各承継方法によるメリットとデメリットに加えて、注意すべき点があります。合資会社での事業承継では主に次の2点に留意しましょう。
- 社員が死亡した場合に持分会社の形態が異なってしまう可能性がある
- 相続税や負債への対応が必要となる
それぞれについて詳しく解説します。
1. 社員が死亡した場合に持分会社の形態が異なってしまう可能性がある
合資会社の前提として、無限責任社員と有限責任社員がそれぞれ少なくとも1名が必要であると紹介しました。
このどちらかが死亡してしまった場合には、合同会社や合名会社に変わってしまう点に留意してください。合同会社や合名会社などに会社の形態が変わることによって、定款や社名表記の変更などを要するため、追加の手続きが必要となってしまいます。
したがってこれらを避けるためには、予め複数ずつの社員を無限責任・有限責任に設定しておくことが肝要と言えるでしょう。
2. 相続税や負債への対応が必要となる
合資会社の持分は時によって高額となりやすく、承継者側に相続税の納税義務が課せられるため、承継対象者には相応の資金の用意も必要です。
また、会社が債務超過だった場合に責任社員が死亡してしまった際は、承継者側に債務も引き継がれてしまうことも忘れてはなりません。
このような事態を避けるためには、定款への事前の記載などの策が必要となります。相続税や負債が承継者に引き継がれないよう、事前に承継元に残る形で示しておくことで、承継者の負担を軽減できます。
合資会社の事業承継を進めるポイント
事業承継を進める際に押さえておきたいポイントを5つ解説します。
1.早期の事業承継計画の立案
合資会社には、無限責任社員と有限責任社員が必要です。先述したとおり、無限責任社員が退職または亡くなった場合は有限責任社員のみになり、合資会社は自動的に合同会社に変更されてしまいます。そうならないためにも、早い段階から事業承継計画を立てておくことが重要です。
2.後継者の早期探索
無限責任社員は連帯責任があるため、親族であれ社員であれ、後継者がなかなか見つからないことが予想されます。できるだけ早期に後継者を検討し、後継者候補と話し合いをしておきましょう。
3.複数の出資者によるリスク回避
合資会社として企業を永続的に経営するためには、出資者は複数人いたほうが望ましいでしょう。複数の出資者を擁立するためには、複数の選択肢から検討する必要があり、早期に事業承継計画を立てておくことが重要です。
4.持分承継の会社定款への記載
合資会社の事業承継を円滑に行うためには、定款に持分承継を定めておく必要があります。社員が亡くなり持分を相続することになった場合、相続人は持分の払戻請求権を相続します。払戻請求権を出資して社員になるには、煩雑な手続きが必要な上に、税金が課されます。
そのような事態を避けるためにも、あらかじめ定款の記載を変更し、相続人が社員になる旨を定めておきましょう。「代表者の死亡によって相続が発生した場合、相続人が持分を引き継ぎ社員となる」などと記載しておくと、手続きをスムーズに進められます。
5.株式会社へ変更する選択肢
事業承継が発生する前の段階で、前もって合資会社を株式会社に変更しておくことも選択肢のひとつです。株式会社は有限責任社員のみで設立できるため、事業承継のハードルは低くなるでしょう。
合資会社を株式会社に変更するためには、合資会社を解散し、株式会社を新たに設立する必要があります。登記費用をはじめとした設立関連費用や、手続きの手間はかかるものの、合資会社の清算自体には多額の税金を課されることはありません。
事業承継税の活用
事業承継税制とは、後継者が先代の経営者から株式や資産を承継するときに、相続税や贈与税を猶予・免除できる制度です。合資会社も事業承継税制の対象となります。事業承継で発生する相続税や贈与税の負担を軽減できるため、積極的に活用しましょう。
事業承継税制には、会社の株式等を対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業者の事業用資産を対象とする「個人版事業承継税制」があります。
法人版事業承継税制には、一般措置と特例措置があります。特例措置は平成30年度の税制改正で設けられ、中小企業の事業承継が円滑に進むよう、2027年12月31日までを期限に税制措置が大幅に拡充されています。
法人版の事業承継税制(特例措置)は経営承継円滑化法による認定が必要です。認定書の交付のあと、手続きを行って納税の猶予を受けられます。猶予中は「年次報告書」や「継続届出書」などの手続きが必要です。
さらに、事業承継税制(特例措置)で猶予された贈与税や相続税は、後継者が死亡したなど一定の条件により納税が免除されます。
詳細は国税庁の「事業承継税制特集」にて確認できます。
事業承継税制は非常に専門性が高い内容であるため、顧問税理士や外部の専門家に相談することをおすすめします。
参照元:国税庁「事業承継税制特集」
まとめ
本稿では、合資会社における事業承継について解説しました。合資会社とは、株主と経営層が一体となった経営スタイルをとり、かつ有限責任社員と無限責任社員がそれぞれ存在することが特徴です。
会社形態として非常に少ない合資会社の事業承継では、特に無限責任社員の後継を見つけるのに時間がかかるケースが多く見られます。親族内での承継が多く模索されるものの、その難しさから、社員承継や外部によるM&Aなども含めた選択肢が検討されます。そのため、早い段階で事業承継計画を検討・作成することが重要です。
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