このページのまとめ
- M&Aにおける税理士の役割は、相続やM&Aに関する税務サポート
- 税理士は事業承継税制に詳しく、それに関するアドバイスを受けられる
- 事業承継を税理士に依頼する際は、実績が多い税理士を選ぶことが重要
- 税理士に事業承継を依頼すると、適切な専門家を紹介してもらえるなどのメリットがある
- 税理士が事業承継に携わるには、M&Aや資金調達、経営者保証などの知識が必要
経営者にとって、顧問税理士は身近な相談相手のひとりです。そのような税理士には、親族内承継やM&Aなどの事業承継について相談できる場合も多いです。たとえば、事業承継税制や自社株評価などについて適切なアドバイスを受けられるでしょう。
本記事では、事業承継における税理士の役割、事業承継を税理士に依頼するメリット・デメリットなどを説明します。また、税理士を選ぶ際のポイントや税理士報酬の目安も確認しましょう。
目次
税理士と事業承継の関わりとは
はじめに、税理士による事業承継に関する基本的な知識を解説します。
税理士・税理士事務所とは
税理士とは、税務や会計に関する課題を解決する専門家です。税理士には、以下3つの独占業務(法律によって税理士のみが行える業務)があります。
- 税務代理:確定申告など、税務署に対する申請や申告を納税者に代わって行う
- 税務書類の作成:確定申告書などの税務書類を専門家として作成する
- 税務相談:税金に関する相談を受ける
上記以外にも、財務諸表の作成をはじめとした「会計業務」や会計参与の役割、経営コンサルティングなど、税理士が担う業務は多岐にわたります。本記事で紹介する事業承継やM&Aの支援も税理士が担うことの多い業務の1つです。
なお、多くの中小企業では、税務だけでなく日々の経理も含めて税理士に依頼しています。企業との間で顧問契約を締結している場合、その税理士は「顧問税理士」と呼ばれます。
また、税理士業務を行う事業所のことは「税理士事務所」といいます。
税理士による事業承継への関わり方
税理士は、税務(および会計)の専門家として事業承継の一部を支援します。具体的に担う業務は、事業承継の種類によって異なります。詳しくは後ほど解説します。
共通するものとしては、事業承継に伴う税務相談や書類作成、税務代理が該当します。また、専門知識を活かして、税務デューデリジェンスやバリュエーション(企業価値評価)などを担うこともあります。顧問税理士として対象企業の経営を知り尽くしている場合には、後継者育成や事業承継後の経営戦略などに関するアドバイスや支援を行うケースも見受けられます。
得意とする分野によっても関わり方は異なるため、まずは業務を依頼したい税理士に相談することがおすすめです。
税理士と事業承継士の違い
事業承継に関連する資格に事業承継士があります。税理士と事業承継士の違いは、事業承継における専門分野の違いにあります。
前述のとおり、税理士は事業承継における業務の中でも税務を専門としています。一方で事業承継士は、事業承継に関連する諸問題を総合的に解決することを目指した民間資格です。
そのため、事業承継士は事業承継の業務全般を広く専門としています。
税務単体の専門性に関しては税理士に譲るものの、事業承継のトータルサポートという面では事業承継士の方が専門性は高いといえます。たとえば事業承継士は、事業承継に関するコンサルティングや税理士・公認会計士といった各種専門家のコーディネートなどの業務を担います。
事業承継センター「事業承継士 資格取得講座・無料ガイダンス」によると、事業承継士の資格取得には講座の受講が必要であり、その対象は原則として税理士や公認会計士など、事業承継協会が認定した国家資格の保有者に限定されています。
つまり税理士などの士業が自らの専門分野にプラスして事業承継に関する専門性を証明する資格であり、実務の現場では信頼性を証明することが可能です。事業承継士を取得する手順に関しては、後ほど改めて解説します。
参照元:事業承継センター「事業承継士 資格取得講座・無料ガイダンス」
税理士とその他専門家の違い
なお、事業承継における税理士とその他専門家の違いは以下のとおりです。
専門家のタイプ | 種類 | 特徴 |
専門領域特化型 | 税理士 | 税務や会計に関する業務を専門とする |
弁護士 | 法律関係の業務を専門とする | |
司法書士 | 法律(主に登記関連手続き)を専門とする | |
行政書士 | 相続や贈与、許認可に関する業務を担う | |
公認会計士 | 会計業務を専門とする | |
包括的支援型 | M&A仲介会社 | 事業承継を目的としたM&Aを包括的に支援 |
コンサルティング会社・FA | 買い手または売り手のどちらか一方の立場からM&Aを支援 | |
事業承継・引継ぎ支援センター | 公的機関としてM&Aを支援 | |
アドバイザー型 | 事業承継士 | 事業承継に関して幅広く支援 |
中小企業診断士 | 事業承継だけでなく、経営戦略に関するアドバイスも担う | |
認定事業再生士 | 事業再生を専門とする | |
金融機関 | 案件紹介や事業承継に関する幅広いアドバイスを担う | |
事業承継アドバイザー・事業承継プランナー | 事業承継に関するアドバイスや支援を担う |
詳しい違いは、以下の記事で解説しています。
関連記事:事業承継で関わる専門家とは?活用できる補助金についても紹介
事業承継の3つの種類
事業承継は大きく親族内承継と親族外承継に分けられ、親族外承継はさらに従業員承継とM&Aに分類できます。ここでは、親族内承継・従業員承継・M&Aの3つの事業承継について説明します。
1.親族内承継
親族内承継とは、現経営者の子どもや配偶者といった親族に会社を承継する方法を指します。現経営者の親族に事業を承継するため、従業員承継やM&Aに比べて従業員や取引先などから受け入れられやすかったり、後継者の早期決定により十分な準備期間を確保できたりするメリットがあります。
現在も親族内承継による事業承継は、有力な選択肢のひとつです。しかし、近年の中小企業・小規模企業においては、子どもがいないことや価値観の多様化を理由に、親族内承継による事業承継は減少傾向にあります。
2.従業員承継
従業員承継とは、自社に勤めている親族以外の役員や従業員に会社を承継する方法を指します。現経営者のもとで長期間働いてきた役員や従業員に承継するため、経営方針などの一貫性を保つことができます。また、従業員の能力もすでに把握できているため、経営能力に長けた人物に承継させられます。
従業員承継は、特に親族に適任者がいない場合に検討されることも多いでしょう。近年は従業員承継を選択する経営者も増えており、親族内承継と同様に主流の事業承継方法となっています。
3.M&A
M&Aとは、株式譲渡や事業譲渡などによって社外の第三者に会社を承継する方法を指します。候補者が親族や従業員などに限られないため、自社にとってより適した人物や企業に事業承継することが可能です。また、株式譲渡や事業譲渡などによって、現経営者は利益を得ることができます。
M&Aによる事業承継は、後継者問題を解消できる、現経営者が利益を獲得できるなどの理由から、近年注目を集めています。なお、M&Aは手続きが非常に煩雑になるため、M&Aをする際は仲介会社にサポートを依頼するのがおすすめです。
関連記事:
事業承継とは?成功に向けたポイント方法や進め方を解説
事業承継と事業譲渡の違いとは?それぞれのメリットや手続きも解説
事業承継の主な種類と税理士の役割
事業承継の種類によって、税理士の役割・業務は変わります。
事業承継の種類 |
税理士の役割 |
親族内承継 |
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従業員承継 |
|
M&A |
|
ここでは、事業承継の種類ごとの主な税理士の役割について説明します。
1.親族内承継での税理士の役割
親族内承継では、一般的に相続や贈与による事業承継が行われることが多いです。そのため、税理士による相続税や贈与税などの税金対策が必要になります。また、経営者保証に関するサポートも必要になるでしょう。
税務面のサポート
親族内承継の場合は、相続税や贈与税が高額になる、納税資金の調達が難しいなどの課題が多くあります。税理士は、これらの税金の納税手続きに加え、事業承継税制の手続きサポートをしてくれます。
また、事業承継税制を利用した場合、相続税や贈与税の納付を猶予・免除してもらうことが可能です。同制度の利用に必要な申請書や年次報告書などは、税理士が作成をサポートしてくれるでしょう。
参照元:国税庁「法人版事業承継税制」
承継方法に関するアドバイス
親族内承継では、相続や贈与ではなく、中には株式譲渡や事業譲渡による事業承継のほうが適しているケースもあります。また、株式の分散を防ぐために持株会社による事業承継を行ったほうがよいケースもあるでしょう。
税理士に相談することで、どの承継方法が適しているかをアドバイスしてもらえます。さらに株式譲渡や事業譲渡などで重要な「資金調達」に関するサポートも受けられるでしょう。
経営者保証の対応
税理士は、経営者保証の解除に向けたサポートにも対応してくれます。経営者保証とは、経営者が連帯保証人となり、会社が金融機関から融資を受ける仕組みのことです。金融機関が融資に積極的になる一方、従来から後継者確保の障害となると指摘されていました。
そこで中小企業庁は「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」を実施し始めました。
同対策では、経営者保証の解除を促すために、金融機関向けの信用保証制度が設けられています。
税理士によるサポートを受けることで、同制度の条件を満たしていると証明することができます。
参照元:中小企業庁 金融課「事業承継時の経営者保証解除に向けた 総合的な対策について」
2.従業員承継での税理士の役割
従業員承継では、一般的に株式譲渡を採用することが多いです。株式譲渡によって事業承継する場合は、自社株を適切に評価する必要があります。また、後継者となる役員や従業員が株式を購入できるよう資金調達を行わなければなりません。これらに関するサポートも、税理士の仕事の1つです。
自社株の評価
非上場企業などで株式の価格が明確でない場合、株式譲渡をするためには、自社株を正しく評価する必要があります。従業員承継の場合は、一般的に特例的評価方式(配当還元方式)による株式評価が行われます。税理士に依頼している場合は、このような複雑な自社株評価にも適切に対応してくれるでしょう。
株式譲渡に関するアドバイス
一般的な株式譲渡では、後継者に株式を100%譲渡することを前提としています。しかし、手持ち資金が少ない役員や従業員が、一度に全ての株式を購入するのは困難といえます。
そこで、株式譲渡対価の分割払いや、株式譲渡の段階的実行などの対策を検討する必要が生じます。また、親族内承継と同様、持株会社を設立して事業承継を進める方が適している場合もあります。税理士に相談すれば、このような株式譲渡の方法に関するアドバイスもしてくれるでしょう。
資金調達のサポート
株式譲渡により事業承継をする場合は、役員や従業員は株式の購入資金を用意する必要があります。
自分で資金を用意する方法もありますが、一般的には金融機関から借り入れをすることが多いです。
金融機関から融資を受ける際は、経営承継円滑化法の低利融資制度を利用するのがおすすめです。
条件を満たせば、日本政策金融公庫から限度額7億2,000万円、年利上限2.5%の融資を受けられます。
税理士に相談・依頼して、このような資金調達に関するサポートを受けるようにしましょう。
参照元:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」
3.M&Aでの税理士の役割
M&Aによる事業承継では、株式譲渡や事業譲渡が用いられることが一般的です。M&Aスキームによって多少異なりますが、税理士はさまざまなシーンでサポートをしてくれます。なお、買い手企業が税務デューデリジェンスをするために、税理士に相談するケースもあります。
M&Aに関するアドバイス
M&Aの一般的なプロセスは、「準備、条件交渉、クロージング、経営統合」です。M&Aに精通している税理士であれば、段階ごとの手続きについて詳しく助言をしてくれます。
特に、税理士に相談すれば、M&Aスキームごとの税金の違いを教えてもらうことが可能です。また、事業再編税制などのような税制上の優遇措置についてもアドバイスしてもらえるでしょう。
確定申告や節税対策のサポート
株式譲渡や事業譲渡を行った場合は、譲渡所得税や法人税などの税金が課税されます。税理士に相談・依頼すれば、このような税金の申告手続きに対応してくれるでしょう。
また、経営者としてはできる限り所得税や法人税などの負担を軽減したいと考えるもの。税理士に相談すれば、役員退職金を使った節税対策などを提案してくれる可能性があります。
バリュエーション(企業価値評価)
バリュエーション(企業価値評価)とは、企業、事業、株式などの価値を評価することを指します。適切にバリュエーションを行わなければ、本来よりも低い金額で譲渡してしまう可能性があります。
そのため、税理士などの専門家に依頼し、適切に企業価値評価を行ってもらうことが重要です。売り手企業がバリュエーションを行った場合、妥当な売買価格を提示できるようになるでしょう。
税務デューデリジェンス
デューデリジェンス(DD)とは、売り手企業に対して行われる事前の企業調査のことを指します。財務、法務、税務などに分けられ、税務上のリスク調査を税務デューデリジェンスといいます。買い手企業の場合は、税理士に依頼して税務デューデリジェンスを行う必要があるでしょう。
事業承継を税理士に依頼するメリット・デメリット
ここでは、事業承継を税理士に依頼するメリットとデメリットについて説明します。
メリット |
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デメリット |
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以下でそれぞれ解説します。
メリット
まずは、事業承継を税理士に依頼するメリットを紹介します。
税務に関するサポートが受けられる
事業承継にはいくつか種類がありますが、いずれも税金・税務が関係することが多いです。課される税金は、正しく申告・納付しなければ、加算税や延滞税が課される可能性があります。税金の専門家である税理士に相談すれば、安心して税金の申告・納付を行えるようになるでしょう。
また、税理士に相談・依頼すれば事業承継税制や経営者保証に関するサポートなども受けられます。
税理士に相談・依頼することで、円滑に事業承継を進める可能性が高まるでしょう。
適切な専門家を紹介してもらえる
事業承継をする場合、税理士だけでなく公認会計士や弁護士などのサポートも必要になります。税理士はほかの士業とのネットワークを持っていることが多く、紹介してくれることもあります。信頼している税理士に紹介してもらうことで、安心して専門家に事業承継の相談・依頼ができるでしょう。
資産や経営の承継に関する支援を期待できる
事業承継で承継する要素は、「資産」「経営(人)」「知的資産(目に見えない強み)」という3種類に大別されます。税理士には、上記のうち資産と経営の承継に関して支援を期待できます。
資産承継のうち、特に重要なのが自社株(議決権)の承継です。なぜならば、経営権の確保に至るだけの自社株さえ後継者に移せれば、その他の権利義務なども自動的に承継されるためです。自社株の承継においては、株価評価や節税対策、相続・贈与に関する実務(納税や株式の集約等)などが必要となり、税理士が持つ専門知識やノウハウが最大限発揮されます。
また、顧問税理士であれば自社の実態を把握しているため、経営面の承継に関しても的確なアドバイスを得られます。顧問税理士でなくても業務の一環で経営コンサルティングを提供していたり、自身で税理士事務所を経営していたりする税理士であれば、経営面の承継に関する手厚い支援を期待できるでしょう。
資金調達のサポートやアドバイスも受けることが可能
日本税理士会連合会「事業承継支援」によると、税理士会では金融機関との連携により、さまざまなシーンで中小企業の資金調達を支援しています。たとえば、地域金融機関や地方公共団体などと連携し、金融商品の支援を行なっています。
ほかにも、会計参与設置会社を対象とした融資商品の提供に携わっています。
以上の背景から、税理士に協力してもらうことで、事業承継の過程で必要となる資金調達に関してサポートやアドバイスを期待できるでしょう。
参照元:日本税理士会連合会「事業承継支援」
自社について熟知している相手として気軽に相談しやすい
仲介会社などの場合、自社の財務状況や経営に関して未知の状態から業務を担ってもらいます。その場合、自社を把握してもらうために相応の時間や労力を要する可能性があります。また、自社の重要な情報も提供する必要があるため、相談しづらいという方も少なくないでしょう。
一方で顧問税理士であれば、すでに信頼関係を形成しているうえに、自社についても熟知しているため事業承継に関しても気軽に相談しやすいです。
実際、中小企業庁「2020年版小規模企業白書」でも、日常の相談相手として税理士・公認会計士と回答した経営者の割合が最も高かったことからも、最初に事業承継を相談する相手としては最適といえます。
参照元:中小企業庁「2020年版小規模企業白書」
デメリット
次に、事業承継を税理士に依頼するデメリットを紹介します。
M&Aの経験・知識があるとは限らない
近年はM&Aによる事業承継が増えているため、M&Aに対応できる税理士が増えてきています。しかし、税理士の本業は税務であるため、必ずしもM&Aの経験や知識があるとは限りません。
経験や知識が少ない税理士に相談した場合、十分なアドバイスを受けられない可能性があります。また、マッチング相手が限られてしまい、納得のいく事業承継ができないリスクもあるでしょう。
税理士報酬が高額になる可能性がある
税理士に事業承継を依頼した場合は、税理士報酬が高額になる可能性があります。依頼内容によって異なりますが、100万〜1,000万円程度になるケースが多いようです。
なお、タスク単位で依頼できる税理士も多いため、必要なタスクだけを依頼すると良いでしょう。
事業承継や相続・贈与に関する業務に不慣れな税理士もいる
得意とする業務の範囲はそれぞれの税理士で異なります。基本的には税務申告などが主要業務であるため、相続や事業承継の業務経験、ノウハウを持っていない税理士も少なくありません。
不慣れな税理士に相談すると、的確なサポートを受けられないリスクが高いです。あらかじめ事業承継や相続・贈与を得意としているかを確認したうえで、業務を依頼する必要があります。
事業承継を税理士に相談する際の4つのポイント
ここでは、事業承継を税理士に相談・依頼をするうえで、失敗しないためのポイントを説明します。
1.親族内承継やM&Aの実績を確認する
税理士の業務は税務代理、税務書類作成、税務相談、会計業務、経営相談など多岐にわたります。すべての税理士がM&Aの支援に対応しているとは限りません。そのため、親族内承継やM&Aなどの対応実績が豊富な税理士に相談・依頼することが重要です。実績が多い税理士であれば、事業承継税制や経営者保証といったサポートも受けられるでしょう。
2.依頼したい分野が得意かを確認する
事業承継には親族内承継・従業員承継・M&Aといった種類があります。また、承継方法には相続や贈与、譲渡などがあり、それぞれで必要になる知識は異なります。そのため、依頼したい事業承継と、税理士の得意分野が一致しているかを確認することが重要です。
3.事業承継関連の資格の有無を調べる
事業承継系の資格には事業承継士や事業承継アドバイザー、相続手続カウンセラーなどがあります。事業承継に注力している税理士の場合、このような関連資格を取得している人も少なくありません。事業承継関連の資格の有無によって、事業承継が得意かどうかを判断することができるでしょう。
4.提携している専門家の状況を確認する
税理士は税務の専門家ですが、事業承継には法律、登記、財務などの専門知識も必要になります。これらは弁護士、司法書士、公認会計士の独占業務であり、税理士が対応することはできません。ほかの士業と提携している税理士に依頼するほうが、より幅広いサポートを受けられるでしょう。
なお、税理士を探したい場合は日本税理士会連合会の「税理士情報検索」を使うのがおすすめです。
参照元:日本税理士連合会「税理士情報検索」
関連記事:中小企業が事業承継の課題を解決するためには?現状や進まない理由を解説
事業承継を税理士に依頼した際の報酬相場
ここでは、事業承継に関する報酬について説明します。各サービスごとの報酬相場は以下のとおりです。
相続税に関する対応
相続税に関する対応の報酬相場は、以下のとおりです。
項目 | 費用 |
株価の評価 | 10万~30万円程度 |
相続税の試算 | 10万~30万円程度 |
個別の事業承継の対応
個別の事業承継の対応の報酬相場は、以下のとおりです。
項目 | 費用 |
組織再編計画のサポート | 30万~200万円程度 |
経営計画策定のサポート | 30万程度~ |
事業承継税制の手続き
事業承継税制の手続きの報酬相場は、以下のとおりです。
項目 | 費用 |
特例承継計画の作成・申請 | 30万~70万円程度 |
贈与税の納税猶予申告書の作成・提出 | 10万~30万円程度 |
都道府県庁への年次報告書の提出 税務署への継続届出書の提出 | 1回あたり15万〜20万円程度 |
なお、2002年の税理士法改正に伴い税理士報酬規定が廃止されたため、現在はそれぞれの税理士事務所が自由に報酬金額を決められます。正式な依頼をする前に、複数の税理士に対して見積もりを取って比較・検討しましょう。
税理士以外に事業承継を相談できる専門家
事業承継に関する相談は、税理士以外も受け付けています。ここでは、事業承継について相談できる税理士以外の専門家について紹介します。
1.M&A仲介会社
M&A仲介会社とは、M&Aの仲介を専門にしている業者のことを指します。特に、M&Aによる事業承継を検討している場合におすすめの相談先といえるでしょう。
M&A仲介会社の特徴は、売り手企業と買い手企業の間に入り、中立的な立場からM&Aの成立に向けてサポートしてくれることです。対応範囲は仲介会社によって異なりますが、なかには相手先の選定や紹介(マッチング)から成約(クロージング)まで、一貫して対応してくれる業者もあります。
2.公的機関
事業承継に関する悩みは、公的機関に相談するのもおすすめです。事業承継を支援している公的機関には、事業承継・引継ぎ支援センター(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)があります。親族内承継・親族外承継を問わず、幅広いサポートを受けられます。
3.金融機関
普段から付き合いのある銀行や信用金庫などに相談するのもひとつの方法です。なかには事業承継に関する相談窓口を設けている金融機関もあり、専門的なアドバイスを受けることができます。
4.弁護士などの士業
弁護士や公認会計士、中小企業診断士などの専門家に相談するのもおすすめです。税理士とは異なる専門性があり、法律や会計、経営などの悩みを解消できる可能性があります。ただし、総合的にM&Aに対応できる可能性は低いため、M&Aを行うにあたり、各専門家の観点を伺う形で相談するのが望ましいです。
弁護士
弁護士は、法律の専門家です。法律トラブル全般に対応することができ、事業承継においては相続や契約などの相談ができます。なお、弁護士にも得意分野があるため、事業承継やM&Aに精通している弁護士に依頼しましょう。
公認会計士
公認会計士は、監査と会計の専門家です。事業承継の専門家ではないものの、M&Aにおいては企業価値評価(バリュエーション)や財務デューデリジェンスなどの重要な役割を担います。財務面での悩みは公認会計士に相談しましょう。
司法書士
司法書士は、登記の専門家です。事業承継にあたり不動産登記や商業登記などが必要な場合は、司法書士に相談することをおすすめします。また、不動産登記や商業登記などに付随する書類作成についても依頼することができます。
行政書士
行政書士は、書類作成の専門家です。通常、行政書士は官公署に対する許認可申請や権利義務に関する書類作成などを行っていることが多いです。事業承継では、遺産分割協議書の作成や各種許認可の引き継ぎなどで活躍してくれます。
社会保険労務士
社会保険労務士は、人事労務や社会保険の専門家です。一般的には企業の労働保険業務などに携わることが多いですが、M&Aにおいては人事・労務デューデリジェンスなどの重要な役割を担います。M&A後の従業員の退職の可能性などを調査します。
中小企業診断士
中小企業診断士は、中小企業の経営サポートをする専門家です。前述したほかの士業と異なり、中小企業診断士には法律で認められた独占業務はありません。しかし、中小企業の経営に精通しているため、事業承継に関する総合的なアドバイスを受けることができます。
事業承継の支援に携わる税理士向けの役立つ情報
事業承継の支援に携わりたい税理士の方もいるでしょう。ここからは、事業承継の業務に携わろうと考えている税理士向けに役立つ情報を紹介します。
事業承継に携わるのに欠かせない知識・スキル
事業承継に携わる場合は、M&Aや資金調達、事業承継税制などに関する知識が必要になります。また、営業力・提案力・交渉力や他士業との連携能力などのビジネススキルも欠かせません。
必要な知識
事業承継やM&Aに携わるためには、以下のような知識を身につける必要があります。
- 事業承継やM&Aに関する知識
- 資金調達や経営者保証に関する知識
- 事業承継税制に関する知識
- 民法や会社法などの法律に関する知識
まず、事業承継やM&Aに関する知識は必須です。親族内承継・従業員承継・M&Aの違いを正しく理解し、経営者のニーズに叶う提案ができるのが望ましいです。特に、税理士には税金面のサポートが求められることが多いでしょう。
また、資金調達や経営者保証、事業承継税制などに関する知識も必要です。事業承継やM&Aでは、株式購入や相続税申告などに関連して資金面での悩みを抱えている人が多いです。経営者や後継者の資金面の課題を解消できるように、知識を身につけておくことをおすすめします。
さらに、民法や会社法などの知識を身につけておくことも重要です。相続や贈与によって事業承継を行う場合は民法の知識が必要です。株式譲渡や事業譲渡を採用する場合は会社法の知識が必要になります。法律に関する知識も身につけておきましょう。
必要なスキル
事業承継やM&Aに携わるためには、以下のようなスキルを身につける必要があります。
- 営業力
- 提案力
- 交渉力
- ほかの士業との連携能力
- スケジュール調整能力
まずは、営業力・提案力・交渉力などが重要です。事業承継やM&Aをする際は経営者の悩みを丁寧に聞きつつ、ニーズに叶う最適な選択肢を提案する必要があります。また、事業承継に反対する親族や金融機関などと交渉するスキルも欠かせません。
また、ほかの士業や専門家と連携するコミュニケーション能力も必要です。事業承継やM&Aを成功させるためには、弁護士や公認会計士、中小企業診断士といった専門家との連携が欠かせません。ほかの士業・専門家と良好な人間関係を築けるスキルが求められるでしょう。
そのほか、スケジュール調整能力も必要です。事業承継やM&Aは長期間にわたることが多く、計画どおりに進まないというケースも少なくありません。そのため、うまくスケジュールを調整・修正できる能力が求められます。
事業承継に関する知識・スキルの身につけ方
事業承継に関する知識・スキルを身につけるなら、事業承継士の取得を目指すのがおすすめです。
また、事業承継に関する書籍も販売されているため、それらを使って独学するのもよいでしょう。
民間資格の「事業承継士」を取得する
冒頭で言及した事業承継士は、一般社団法人 事業承継協会が認定している事業承継に関する民間資格です。事業承継をするのに資格は不要ですが、事業承継士を取得する過程で知識を身につけられます。
事業承継士を取得するための手順は、以下のとおりです。
- 資格取得講座を受講する
- 認定試験を受験して合格する
- 事業承継協会に入会をする
事業承継に関する知識やスキルを体系的に身につけたい場合は、検討してみるとよいでしょう。
参照元:事業承継協会
事業承継関連の書籍で勉強する
事業承継に携わりたい税理士向けにおすすめの書籍を4つ紹介します。なお、ここでは事業承継に関する書籍に限定しています。M&Aについて学びたい場合は、M&A関連の専門書を読むことがおすすめです。
『実例でわかる 事業承継に強い税理士になるための教科書〔第2版〕』
- 出版社:税務経理協会
- 著者:松浦真義
- 出版年月日:2023年2月20日
事業承継の概要や税理士業務のポイントがわかる事業承継の入門書です。著者の実体験をベースに執筆されているため、この本を通して実務を疑似体験することができます。事業承継に関する理論だけではなく、リアルな人間模様や仕事のやりがいなどを知れるでしょう。
『事業承継インデックス(令和5・6年版)』
- 出版社:税務研究会出版局
- 著者:税理士法人山田&パートナーズ、弁護士法人Y&P法律事務所 編
- 出版年月日:2023年10月13日
事業承継に関する基本事項を幅広く取り扱っている1冊です。相続税や贈与税、法人税、民法、会社法、M&A、株式評価などについて知ることができます。内容がコンパクトにまとまっているため、M&Aの全体像を把握したり、個別のプロセスを確認したりするのに向いています。
『図解 事業承継の実務ポイントー相談対応で使える説明シート付きー』
- 出版社: 新日本法規出版(株)
- 著者:浅野寛 監修/西良平、浅野充昌、妹尾明宏 編
- 出版年月日:2021年10月26日
事業承継に関するポイントがわかりやすくまとめられている専門書です。随所に「CHECK」の項目が設けられており、経営者に説明する際のポイントを確認できます。また、フローチャートや図表などが多数記載されており、視覚的にも理解しやすい1冊といえます。
『完全ガイド 事業承継・相続対策の法律と税務 (六訂版)』
- 出版社:税務研究会出版局
- 著者:PwC税理士法人、PwC弁護士法人 編
- 出版年月日:2023年12月8日
事業承継と相続対策に関する法律面・税務面が網羅された1冊です。相続税・贈与税などの基本から資金調達まで、事業承継で必要な情報を幅広く扱っています。事業承継や相続税対策などについて詳しく知りたい場合には、一読することをおすすめします。
関連記事:事業承継とは?書籍の選び方、おすすめの本を目的別にご紹介します
まとめ
事業承継における税理士の役割は、相続税や贈与税、株式譲渡益にかかる税金などのサポートです。そのほかにも、M&Aでは税務デューデリジェンスやバリュエーションなどの専門的な業務にも対応します。事業承継を税理士に相談する際は、実績の多さや事業承継関連の資格の有無などを確認すると良いでしょう。また、事業承継は税理士だけでなく、M&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関でも受け付けています。事業承継に対応できる税理士が見つからない場合は、そちらの利用を検討することをおすすめします。
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