黒字廃業を防ぐ事業承継とは?事業承継対策の必要性や進め方を解説
2023年7月18日
このページのまとめ
- 事業承継では「人」「資産」「知的財産」を適切に引き継ぐのが重要
- 近年は親族内での承継だけでなく従業員承継やM&Aによる承継も多い
- 事業承継を行うには事業承継計画を後継者と一緒に策定するべき
- 事業承継対策は、早期の着手が大切である
- 事業承継に支障をきたさないように自社株式の対策を行うと良い
事業承継は、企業の経営を次世代の後継者に引き継ぐことを指します。特に中小企業では、会社の実力や存続がオーナー社長などの経営手腕に強く依存しており、事業承継は重要な課題となることが多いです。
この記事では、事業承継を検討している方々に向けて、事業承継の概要や必要性、具体的な方法、対策の種類等を詳しく説明します。また、事業承継を支援する税制・補助金についても触れます。
目次
事業承継とは?
まず、事業承継の意味や対象、承継先等について説明します。
事業承継の意味
事業承継とは、会社の事業そのものを引き継ぐことです。
「株式の承継」と「代表者の交代」と考えられることがありますが、親族内承継の場合、一時的に利益を減少させて株価を下げ、次世代に株式を贈与するだけで十分と考えられることがあります。M&Aの場合も、株式の評価額を高めて株式の売却益を確保する手法に限定すればよいとする考え方もあります。
しかし、後継者が安定した経営をしていくためには、そうした単純な考え方ではうまくいきません。現経営者が培ってきたさまざまな経営資源を、後継者に全て承継することが非常に重要です。具体的には、「人(経営)」「資産」「知的資産」などの経営資源の適切な承継が必要です。
事業承継で承継するもの
事業をスムーズに承継するためには、「人(経営)」「資産」「知的資産」という3つを適切な方法で後継者へ引き継ぐことが重要です。上述した株式の承継も重要な要素ですが、事業承継全体においては一部に過ぎません。
事業承継の検討課題は、人(経営)・資産・知的資産と多岐に渡るため、困難に思われるかもしれません。しかし、解決すべき課題を明確にし、事業自体の承継に焦点を当てれば、日々の事業運営のなかで取り組むことができます。ただし、事業承継には多くの時間がかかるので、余裕を持って徐々に進めることが重要です。それぞれの要素について、承継のポイントを見ていきます。
人(経営)
人(経営)の承継とは、経営権を後継者へ移すことです。株式会社の場合は代表取締役の交代、個人事業主の場合は現経営者の廃業や後継者による開業が考えられます。
適切な後継者の選択は、事業承継が成功するか失敗するかに影響する極めて重要な問題です。
特に、中小企業では、ノウハウ・取引関係が経営者に集中していることも少なくありません。事業運営・業績は経営者により大きく左右されるため、人(経営)の承継は非常に大きなポイントと言えます。
資産
資産の承継とは、事業遂行に必要な資産(不動産等の事業用資産、債権・債務、株式会社の場合は自社株)の引き継ぎを指します。
株式会社の場合、会社の資産価値は株式に内包されるため、株式の承継が基本的な要素です。
知的資産
知的資産とは「従来の貸借対照表に記載されているもの以外で、企業の競争力の源泉となる人材、技術、技能、知的財産(特許・ブランドなど)、組織力、経営理念、顧客とのネットワークなど、財務諸表に表れない経営資源である無形の資産」を指します。
知的資産が次世代に引き継がれない場合、企業の競争力が失われ、将来的に事業を継続できなくなるリスクも存在します。そのため、事業承継においては、現経営者が自社のストロングポイントや価値の源泉がどこかを理解し、後継者にそれを引き継ぐ施策を講じることが非常に重要です。
事業の承継先
事業の承継先の候補となるのは、主に「親族」「従業員」「第三者」です。近年では、従業員承継・M&Aを含む第三者承継が増えています。
改めて説明すると、事業承継は、子供や兄弟等の親族へ事業を承継する「親族内承継」と、それ以外に承継する「親族外承継」に分けられます。そして、親族外承継は社内の役員・従業員への承継と、外部の人材(第三者)への承継の2種類です。
社内の役員・従業員への承継は、社内の役員・社員が経営陣に登用される内部昇格と、MBO(Management Buy-Out:マネジメント・バイアウト-経営者などによる自社企業買収)があります。外部の人材(第三者)への承継は社外から経営者を招聘する「外部招聘」と、企業の合併・買収を指す「M&A」に分けられます。
事業承継対策とは?
事業承継対策とは、人(経営)・資産・知的資産を承継する先(親族・従業員・第三者)へスムーズに承継を実施するための対策です。具体的には、後継者教育・税負担への対応・関係者への説明などが該当します。
事業承継対策の必要性
この章では、事業承継対策が必要な理由を具体的に解説します。
事業承継対策が必要な理由
会社の株式に関する取り扱いによっては、親族などの関係者間でトラブルが発生するケースがあります。
会社の全株式を後継者に相続すると、残った親族の権利を侵害するおそれがあります。一方で、会社の株式が複数の親族に分散すれば、経営が不安定になるリスクが高まります。そこで、両方の可能性を考慮した上での対応が必要です。
また、親族や従業員に株式を生前贈与・相続する場合には、贈与税・相続税の問題も無視できません。相続税は相続から10ヶ月以内に現金で一括納付するのが基本ですが、その際に相続人に相続税を納める資金がない可能性があります。
これらの問題に対応するためには、事前の事業承継対策が不可欠です。
事業承継対策が必要な会社の特徴
事業承継対策は、後継者が未定の場合、早い段階で実施する必要があります。何らかの理由でオーナーが急に経営を続けられなくなった場合、会社が廃業してしまうおそれがあるためです。
特に、オーナー社長が一人で経営している会社では、会社の体力や取引先との関係がオーナー社長に依存していることが多いため、事業承継対策を早急に実施すべきでしょう。
事業承継対策の進め方
この章では、事業承継対策の流れを3段階に分けて解説します。
ステップ1:会社の状況を理解する
後継者への円滑な事業承継のプロセスは、経営状況・経営課題・経営資源などを可視化し、会社の状況を正確に理解することから始まります。現在の事業をいつまで維持・成長できるのか、収益性を確保できる商品力・開発力があるのかを見極めなければなりません。そして、自社の強みをどう伸ばし、弱みをどう改善するかという方向性を明確にします。
経営者が自ら努力して進めることも可能ですが、適切かつスピーディーな現状把握のためには、専門家や金融機関の力を借りることも検討しましょう。
ステップ2:後継者を選定する
後継者の選定は、事業承継が成功するか失敗するかを左右する重要な工程です。経営者が後継者候補を頭に思い浮かべるだけでは十分ではありません。後継者候補の同意を得た上で、必要な研修や親族・従業員・ビジネスパートナーなどの関係者との対話を進めましょう。
当然ですが、これらは一朝一夕に実現できるものではなく、一定期間をかけて慎重に実施する必要があります。
ステップ3:事業承継計画書を作成する
事業承継のためには、会社内外の状況を整理し、会社の将来(10年後など)を見据えた計画を立てる必要があります。そして、いつ・何を・誰に・どのように承継するのか、具体的な計画を立案していきます。この計画を記したものが事業承継計画書です。
事業承継計画は、取引先・従業員・金融機関などとの関係を考慮し、主に現経営者と後継者で策定します。策定後は、関係者と共有することが重要です。関係者の協力を得やすくなり、信頼関係の維持につながります。さらに、後継者や従業員に、事業を承継するために必要なノウハウを授け、組織体制を整えていきましょう。
なお、事業承継計画書の作成自体が最終目標ではありません。現経営者と後継者の対話による目的意識の共有に基づいて事業承継計画を策定し、その計画に沿って円滑な事業承継を行うプロセスこそ、最も意義があると理解しておきましょう。
事業承継対策の種類別のメリット・デメリット
この章では、事業承継先別にメリット・デメリットを解説します。
親族内承継
親族内承継のメリットは、役員・従業員や取引先などの関係者に理解してもらいやすいことです。また、経営者に近い親族を後継者に指名することで、早い段階から後継者の育成を開始できます。
一方、親族内に複数の後継者候補がいる場合、親族間の争いに発展するおそれがある点には注意しなければなりません。相続においては、後継者以外の親族にも配慮し、承継後の紛争を未然に防ぐことがポイントです。
従業員承継
親族に候補者がいない場合、従業員が候補者になることがあります。その従業員がオーナー社長の右腕であったり、会社の内情に精通していたりすれば、スムーズに承継できるでしょう。これは従業員承継の大きなメリットです。
ただし、後継者は会社の株式を購入する必要があります。従業員が購入資金を持っていないケースが多いことは、従業員承継のデメリットです。また、従業員に株式の贈与を行う場合も、多額の贈与税がかかります。
第三者承継(M&Aなど)
近年増えている第三者承継は、後継者不足に悩む中小企業にとって救世主となりうるものです。広く外部から後継者を募集し、廃業を防げることは、第三者承継の大きなメリットと言えるでしょう。経営者にとっては、株式を売却して創業者利益を得られるメリットもあります。
一方、M&Aは買い手主導で行われることが多く、合理的な条件で買い手が見つかる保証はありません。また、親族内承継と比較すると、ビジネスパートナーや従業員など関係者の理解を得にくい点もデメリットです。
事業承継対策のポイント
この章においては、事業承継対策を実施する際に注意すべきポイントを解説します。
早期に対策を開始する
業績に問題がない黒字企業が、廃業を選択するケースが見受けられます。このような中小企業が破綻することなく円滑な事業承継を実現するためには、後継者の確保を含めて早い段階から事業承継の準備を始めることが重要です。
中小企業庁「2021年版 中小企業白書(第2-3-30図)」の発表によると、後継者が決定されてから事業承継の完了までの期間(後継者の育成期間を含む)は、多くの場合3年以上、長ければ5年以上かかります。この理由からも、事業承継の準備は60歳前後から始めることが推奨されます。
事業承継の準備が遅れるほど、相続人や譲受人の選定に十分な時間をかけるなど、時間があれば行えたはずの選択肢が徐々に失われていくため注意しましょう。
参照元:中小企業庁「2021年版 中小企業白書」(5)後継者の取組 第2-3-30図 事業承継の意思を伝えられてから経営者に就任するまでの期間
自社株対策を実施する
自社株についての遺産分割の結果によっては、複数の相続人に分散して相続されることがあります。株式が分散されると、株主総会の開催などにかかる株主管理コストが増加する可能性があることに注意が必要です。また、会社が株式の買い戻しを要求され、会社資金が流出して事業を円滑に承継する上での支障となるおそれもあります。
そのため、先代の経営を引き継ぐ際には、株式が分散しないよう事前に対策を講じることが重要です。すでに分散してしまっている場合でも、事後的に手を打ちましょう。
納税資金確保と資産承継対策を実施する
事業承継では、多額の贈与税や相続税が発生することが予想されます。しかし、事業承継後、後継者には納税資金がないケースも少なくありません。会社の資産を売却して、相続人の納税資金に充当する方法もありますが、事業に大きなダメージを与えてしまいます。
そこで、相続時精算課税贈与・相続税の小規模宅地等の特例・事業承継税制(下記参照)などの利用を検討しましょう。
相続時精算課税の制度は、通常、60歳以上の父母や祖父母などから18歳以上の子や孫などに対して財産を贈与した場合に、贈与税の代わりに選択できる制度です。この制度を選択する場合、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に一定の書類を添付した贈与税の申告書を提出する必要があります。
なお、この制度を選択すると、その選択に関連する贈与者から贈与を受ける財産には、選択した年以降については常にこの制度が適用され、通常の贈与税の課税方式へ変更することはできません。
また、個人が相続や遺贈によって取得した財産の中で、被相続人と同居していた親族(以下「被相続人等」と呼びます)の事業や居住に使われていた土地や権利(以下「宅地等」と呼びます)がある場合、その宅地等の一部(以下「小規模宅地等」と呼びます)については、相続税の課税価格の計算で、特定の割合で減額することができます。これが小規模宅地等の特例です。
それぞれの制度はメリット・デメリットが異なるため、具体的なケースに応じて最も適切な方法を用いることが重要です。また、方法によっては事前の準備が必要となります。
税務面では税理士に、資金面では金融機関に相談するなど、支援機関からの適切なアドバイスを受けながら余裕をもって実施しましょう。
事業承継税制の活用検討
上記の税制の内、活用が最も期待されるのは事業承継税制です。
法人版事業承継税制は、一定の条件のもと、後継者(受贈者や相続人など)が円滑化法に基づき認定された非上場会社の株式等を贈与や相続により取得した場合に、贈与税や相続税の納税を猶予するものです。また、相続人が死亡した場合などには、猶予された贈与税や相続税が免除されます。
国税庁「法人版事業承継税制」2018年の税制改正では、従来の措置に加え、10年間の措置として納税猶予の対象となる非上場株式の制限(株式総数の3分の2まで)の撤廃、納税猶予の割合の引き上げ(80%から100%)など、法人版法人相続税制の特別措置が創設されました。
相続税と贈与税の納税猶予及び免除制度を組み合わせて活用することで、株式承継に伴う税負担を軽減でき、将来の円滑な事業承継が可能となります。
事業承継補助金の活用検討
事業承継・引継ぎ補助金は中小企業庁による補助金です。事業承継における経営資源の承継や、経営革新への挑戦、廃業した上での再出発などを行おうとする中小企業を支援するための制度です。審査の壁はありますが、事業承継に伴う負担を補助金制度で一部カバーしてもらえます。
関連記事:廃業とは?倒産や閉店などとの違いやメリット・デメリットなどを解説
まとめ
事業承継を円滑に進めるには、さまざまな準備が必要です。現在の経営者の健康状態が良好であっても、いつ予期せぬことが起こるかは誰にもわかりません。トラブルがあっても困らないように、余裕を持って着手しておくことが重要です。
どうしても後継者が見つからない場合や、後継者育成がうまくいかない場合は、第三者への事業譲渡も検討してみると良いでしょう。
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