このページのまとめ
- 会社売却には株式譲渡と事業譲渡の2つの方法がある
- 株式譲渡と事業譲渡では課税される税金の種類が異なり、さらに個人と法人でも異なる
- 事業譲渡の金額の主な変動要因は棚卸資産とのれん代
- 会社売却の節税対策には会社分割や役員退職金などの活用が有効
- 会社売却時の税金に対する不安はM&A仲介会社などに相談するのがおすすめ
「自社の売却が決まったが、売却に対する税金はどの程度かかるのか」と心配している経営者の方もいるのではないでしょうか。そこで本記事では、会社売却時に課税される税金の種類や計算方法について解説します。
税金の変動要因や税金対策についてもお伝えしますので、会社売却時にかかる税金を少しでも抑えたい方は、参考にしてください。
目次
会社売却の種類「株式譲渡」と「事業譲渡」
会社売却にかかる税金は売却方法によって異なるため、まずは会社売却の種類と種類ごとのメリット・デメリットについて解説します。
会社の売却には以下のように、「株式譲渡」と「事業譲渡」2つの種類があります。
概要 | |
株式譲渡 | 会社の株式を別の個人や法人に売却すること |
事業譲渡 | 会社が営む事業の全部または一部を他の会社に譲渡すること |
株式譲渡とは、会社の株式を別の個人や法人に売却することです。株式譲渡を行うことによって、売却した経営者は、売却資金を得られます。一方、株式の購入者は経営権を手にすることができます。
事業譲渡とは、会社全体を売却するのではなく、会社の一部の事業を売却することです。会社全体を売却するわけではなく、事業を売却することによって資金を得ることができます。
株式譲渡と事業譲渡にかかる税金の種類や税率等については、下記表をご参照ください。
かかる税金 | 税率 | 課税方式 | |
株式譲渡(個人) | 所得税・住民税等 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) | 分離課税 |
株式譲渡(法人) | 法人税等 | 30~40%程度 | 総合課税 |
事業譲渡 | 法人税等・消費税・印紙税・不動産取得税 | 法人税等:30~40%程度消費税:10% | 総合課税 |
関連記事:会社売却の準備はどう進める?手続きの方法や一連の流れ、注意点を解説
株式譲渡にかかる税金
株式譲渡にかかる税金は、個人が売却するのか、法人が売却するのかによって種類が異なります。
個人株主と法人株主が売却した場合にかかる税金は以下の通りです。
税金の種類 | 税率・算出方法等 | 課税方式 | |
個人株主 | 所得税・住民税等 | ・株式の譲渡所得=総収入金額(売却価額)−必要経費(取得費+委託手数料等) ・譲渡所得による税金=株式の譲渡所得×20.315% | 分離課税 |
法人株主 | 法人税等 | ・株式の譲渡益=総収入金額(売却価額)−必要経費(取得費+委託手数料等) ・税金=(株式の譲渡益+本業の損益)×税率(約30〜40%) | 総合課税 |
譲渡所得と譲渡益の計算方法や個人株主が株式譲渡するときの税金と計算方法、法人が株主譲渡するときの税金と計算方法について、詳しく説明します。
譲渡所得と譲渡益の計算方法
個人株主が株主譲渡するときと、法人が株主譲渡するときは税金と計算方法が異なります。個人株主は譲渡所得に課税され、法人は譲渡益を含んだ会社全体の利益に課税されます。
譲渡所得と譲渡益の計算式は以下の通りです。
譲渡所得=総収入金額(売却価額) −必要経費(取得費+委託手数料等)
譲渡益=総収入金額(売却価額)−必要経費(取得費+委託手数料等)
個人株主と法人株主の株式譲渡するときの税金と計算方法についてみていきましょう。
個人株主が株式譲渡するときの税金と計算方法
所得税と住民税の税率や計算方法について解説します。計算方法については、具体的な数字をあてはめながら説明します。
所得税と住民税
譲渡所得に対し、所得税と住民税が課せられます。所得税(復興特別所得税含む)15.315%、住民税5%の合わせて20.315%です。こちらは総合課税ではなく、分離課税によって課税されますので、他の所得は合算しません。
所得税と住民税の計算方法
所得税と住民税は以下の計算式で算出できます。
- 株式の譲渡所得×20.315%
所得税と住民税の計算方法について、具体的な数字を入れてみていきましょう。
以下の条件で計算をします。
- 総収入金額(売却価格):1億円
- 取得費:2,000万円
- 委託手数料等:100万円
【譲渡所得の計算】
1億円-(2,000万円+100万円)=7,900万円
【所得税と住民税の計算】
7,900万円×20.315%=1,604万8,850円
となります。
参照元:国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」
法人が株主譲渡するときの税金と計算方法
法人株主が株式譲渡する際は法人税等がかかります。法人税等は株式譲渡により得た譲渡益を本業の損益に含めて計算します。それでは法人が株主譲渡するときの税金と計算方法についてみていきましょう。
法人税等
譲渡益に対して法人税等が課税されます。法人税等の税率は、利益や事業規模によって異なりますが、法人住民税や法人事業税も含めて、おおむね30%から40%です。個人と異なり、分離課税ではなく総合課税によって課税されるため、譲渡益以外の損益も合算したうえで計算します。
法人税等の計算方法
法人が株主譲渡するときの税金と計算方法は以下の通りです。
(株式の譲渡益+本業の損益)×税率(約30〜40%)
それでは、下記条件で具体的な数字を入れて説明していきます。
- 売却価額:1億円
- 本業の利益:1億円
- 取得費:2,000万円
- 委託手数料等:100万円
- 税率:40%
【譲渡益の計算】
1億円-(2,000万円+100万円)=7,900万円
【法人税等の計算】
(7,900万円+1億円)×40%=7,160万円
となります。
本業の損益なども加味されますので注意しましょう。
株式を発行会社に売却する際にかかる税金
売却するのが個人・法人にかかわらず、株式を発行会社に売却する取引は、発行会社からみると自己株式の取得に他なりません。
支払われる対価は、実際は配当金を受け取っていないにもかかわらず、税務上は配当を受け取った(みなし配当)として扱われます。みなし配当は所得・利益となるため、課税されることを押さえておきましょう。
かかる税金 | |
個人株主が発行会社に株式譲渡 | 上場株式の場合:所得税・住民税(20.315%) |
法人が発行会社に株式譲渡 | 受取配当金という扱い。利益としては計算しない部分が発生 |
個人株主が株式譲渡するときの税金
個人株主が発行会社に株式譲渡する場合、みなし配当は配当所得に区分され、譲渡所得とはわけて総合課税として確定申告が必要になります。
譲渡したのが上場株式の場合、所得税と住民税と復興特別所得税を合計した税率は20.315%です。一方、非上場株式の場合は20.42%が源泉徴収され、配当所得は他の所得と合わせた金額に応じて、約15%~55%の所得税および復興特別所得税・住民税が課税されます。ただし、確定申告をする際に配当控除を受けられます。
法人が株式譲渡するときの税金
個人の場合と同様に、法人が持っている会社の株式を発行会社に売却した場合は、みなし配当が発生します。株式を発行会社に譲渡した法人のみなし配当は、税務上は受取配当金という扱いになり、利益としては計算しない部分が発生することがポイントです。決算までの期間は通常の株式譲渡として会計処理を行い、決算時にみなし配当に相当する金額につき税務上益金不算入規定を適用する手続きを取ります。
関連記事:会社売却の相場や税金はどれくらい?準備からクロージングまでの流れも解説
事業譲渡にかかる税金と計算方法
事業譲渡の場合、通常は法人間のやり取りになります。譲渡時は法人税等と消費税、印紙税、不動産がある場合は不動産取得税が課税されます。
税金の計算方法 | |
法人税等 | (譲渡益+本業の損益)×税率(約30〜40%) |
消費税 | 課税資産×10% |
印紙税 | 契約書に記載されている金額によって異なる |
不動産取得税 | 課税標準額×4%(原則)※譲渡される財産に不動産が含まれている場合、買い手側に課税される |
それではそれぞれの税金の具体的な計算方法をみていきましょう。
法人税等
法人税等の計算式は以下の通りです。
【法人税等の計算方法】
譲渡益=事業売却代金-(譲渡資産-譲渡負債)
法人税等=(譲渡益+本業の損益)×税率(約30〜40%)
それでは、具体的な数字を入れて説明していきます。
- 売却価額:1億円
- 譲渡資産:5,000万円
- 譲渡負債:1,000万円
- 本業の利益:1億円
- 税率40%
【譲渡益の計算】
1億円ー(5,000万円ー1,000万円)=6,000万円
【法人税等の計算】
(6,000万円+1億円)×40%=6,400万円
となります。
消費税
課税対象となる資産に対して消費税が課せられます。主な課税資産、非課税資産は以下の通りです。
課税資産 | 土地以外の有形固定資産、のれん代、ソフトウェア等の無形固定資産、棚卸資産 |
非課税資産 | 現預金、土地、売掛金などの債権、有価証券 |
消費税は、「課税資産×10%」で算出できるため、課税資産が1億円の場合、消費税は1,000万円です。
印紙税
株式を売買する際は不要ですが、事業譲渡の場合は事業譲渡時に作成する契約書に貼り付けるために印紙が必要です。印紙代は契約書に記載のある金額によって異なります。
記載なし | 200円 |
1万円未満 | - |
1万円~10万円以下 | 200円 |
10万円〜50万円以下 | 400円 |
50万円〜100万円以下 | 1,000円 |
100万円〜500万円以下 | 2,000円 |
500万円〜1000万円以下 | 1万円 |
1000万円〜5000万円以下 | 2万円 |
5000万円〜1億円以下 | 6万円 |
1億円~5億円以下 | 10万円 |
印紙代は200円から60万円までの間で契約書の記載金額によって変動しますので、事前に確認しておきましょう。
参照元:国税庁「No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
不動産取得税
資産に不動産がある場合は不動産所得税が課せられ、不動産取得税の税額は、「課税標準額×税率」で計算されます。税率は原則4%のため、下記の計算式で算出できます。
課税標準額×4%(原則)
課税標準額には固定資産税評価額が用いられ、土地の場合は時価の7割程度、建物の場合は5~6割程度になります。たとえば、課税標準額が1億円の場合の不動産取得税は400万円です。
関連記事:事業売却の相場は?会社売却の金額・価値の査定方法も紹介
事業譲渡における税金の変動要因2つ
事業譲渡では、以下に述べる2つの要因によって税金の額が変動します。
- 棚卸資産
- のれん代
事業譲渡における税金の変動要因を詳しく説明します。
1.棚卸資産
棚卸資産とは、商品や原材料などの在庫品や、製品の生産途中にある半製品、完成品などの在庫品のことを指します。棚卸資産は、会計処理において、期末における在庫残高として算出され、資産として計上されます。
在庫品は、売上に対して必要なものであり、適切な管理が必要です。また、在庫品は値下がりする可能性もあるため、定期的な棚卸や評価が重要になります。棚卸資産が大きく変動すると当然ですが、支払う税金が変わってきますので注意が必要です。
2.のれん代
のれん代とは、企業が過去に築いてきたブランド価値や顧客基盤、技術力などの非物質的な資産を評価するために、新規参入企業が同様のビジネスを展開する場合に支払う可能性がある金額のことです。
のれん代は、買収に伴う費用として、買収額から買収した会社の純資産額を差し引いた残りの金額として計上されます。のれん代は、買収によって得られる将来の経済利益の見込みに基づいて算出されるため、買収の成功や失敗によってその価値は変動します。
事業譲渡の税金に関する5つの注意点
事業譲渡の税金に関する5つの注意点を解説します。
注意点1:譲渡益から対価を受け取った個人にも課税される
事業譲渡は法人間のやり取りが一般的であり、この場合において売却益は法人に入り、法人に対して法人税等や消費税が課されます。ここで注意すべきなのは、法人が受け取った売却益の中から個人(経営者など)が対価を受け取った際には、別途課税される点です。
この場合、法人税等、消費税とは別に所得税が発生するため注意が必要です。
注意点2:赤字でも消費税が課される
前述の通り、消費税は売却益ではなく課税対象である資産に課されます。そのため、事業譲渡による最終的な損益がマイナス(赤字)であっても、消費税は課されてしまいます。
注意点3:印紙税や不動産取得税が課される場合もある
事業譲渡は、法人税等と消費税が基本にはなりますが、ケースによっては印紙税と不動産取得税もかかりますので、こちらについても注意してください。
注意点4:途中で事業譲渡に変更した場合、思わぬ支出の増加につながり得る
事業譲渡における法人税等の実効税率が約30〜40%である一方で、株式譲渡における個人株主の所得税等の税率は20.315%です。
また事業譲渡では、株式譲渡にはない消費税や不動産取得税が発生する場合もあります。
上記の理由から、当初は株式譲渡による会社売却を検討していたものの、後から事業譲渡に変更する場合には注意が必要です。
このケースでは、税金が当初の想定よりも増えてしまい、資金繰りに影響を及ぼすおそれがあるためです。
注意点5:税務上の不利益を被るリスク
その他、過度に低い価格で取引してしまうと、差額に関して税務上不利を被る可能性がある点にも注意です。
会社売却における7つの税金対策
会社売却にはさまざまな税金が課せられます。少しでも税負担を軽減するための対策について主な方法を7つ紹介します。
- 会社分割を活用する
- 第三者割当増資により経営権を移転する
- 役員退職金を活用する
- 配当控除を活用する
- 事業譲渡によって買い手からの需要がある資産のみ売却する
- 概算取得費の特例を活用する
- 売却益を経費と相殺する
それぞれの税金対策について詳しく説明します。
1.会社分割を活用する
会社分割とは、会社の一部または全部の事業(資産)を別の会社に引き渡すM&Aの手法の1つです。新しく設立する会社に資産を引き渡す場合は「新設分割」、既存の会社に引き渡す場合は「吸収分割」と呼ばれます。不要な資産(オーナー経営者個人の資産や買い手が欲しくない事業など)をグループ会社などに移転させることで、課税対象となる資産が減り、税負担を軽減できます。
株式譲渡の場合は、不要な資産も含めすべての資産を引き継がなければなりません。しかし、買い手に取っては不要な資産でも、売り手に取っては手元に残しておきたい資産もあるでしょう。
会社分割を使えば、買い手は不要な資産を受け取らずにすみ、売り手も必要な資産を残せるメリットがあります。さらに、課税対象となる資産が減るため、税負担の軽減にもなるのです。
会社分割を活用した場合の税金の計算方法
たとえば、個人が株式譲渡によって会社ごと売却する場合の価格が2億円、そのうち5,000万円が買い手にとって不要な資産であるとします。会社分割を実施しないケースと実施するケースでは、以下の通り税額が変わってきます。なお、計算を簡略化するために、諸費用は0円としています。
会社分割を実施しないケース ※株式譲渡で会社ごと売却するケース | 税額=2億円×20.315%=4,063万円 |
会社分割で不要な資産を切り離したうえで、株式譲渡を行うケース | 税額=(2億円−5,000万円)×20.315%=約3,047万円 |
上記の例では、約1,000万円も税額を減らすことが可能です。具体的な節税額はケースバイケースですが、状況次第では効果が大きい対策となるでしょう。
関連記事:会社分割とは?事業譲渡との違いや実施方法、ポイントを解説
2.第三者割当増資により経営権を移転する
第三者割当増資とは、特定の第三者に新株を与えるものです。株式を売却するのではなく、会社の経営権のみ第三者に移転すれば個人にも法人にも原則として税金は課せられません。
この第三者割当、増資をうまく活用すれば、経営権のみを第三者に移転できます。ただしこちらの手法に関しては専門的な知識が必要になりますので注意が必要です。必ずM&Aの専門家に相談して進めるようにしましょう。
なお、時価と著しく異なる価格で新株を発行すると、例外的に贈与税が発生するおそれがある点に注意を要します。こちらに関しても税務の専門的な知識を要しますので、実施前には税理士への相談がおすすめです。
関連記事:第三者割当増資とは?メリットや方法・流れをわかりやすく解説
3.役員退職金を活用する
経営者の退職慰労金を活用する方法も、会社売却時に有効な節税方法の1つです。売却代金の一部を役員の退職金の形で受け取ることで、税額が低くなります。一定金額の範囲内であれば、退職金にかかる退職所得税率は所得税や法人税率よりも低いためです。
株式譲渡のケースであれば、具体的には株式譲渡対価の一部を役員退職金として、売り手企業から先に支出した後、買い手企業に株式の譲渡を行う方法がとられます。役員退職金を差し引いた売り手企業の残りの金額を株式の売買対価として、買い手企業から売り手企業の経営者に渡されます。
比較的低い税率の退職金を差し引いた金額に所得税等が課税されるため、譲渡対価の全額に20.315%の所得税が課されるケースに比べて、節税効果が見込めます。ただし、不相応に高額な退職金は経費として認められないことに注意が必要です。
退職所得に対する所得税の計算方法
具体的に、退職所得にかかる所得税額は、下記の計算式で算出されます。
- 退職所得に対する所得税 =(退職金支給額 - 退職所得控除額) × 1/2 × 税率 - 控除額
また、退職所得控除額は、勤続年数によって以下の通り変動します。
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 (※80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年) |
たとえば、勤続年数が40年、退職金が3,000万円の場合における所得税額は以下の通り算出されます。
- 退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (40年 – 20年) = 2,200万円
- 所得税額 = (3,000万円 - 2,200万円) × 1/2 × 20% - 42万7,500円 =37万2,500円
なお、退職所得税率については、下記表をご参照ください。
ちなみに、課税退職所得金額(A)は、(退職金支給額 - 退職所得控除額) × 1/2で計算された金額となりますので、ご注意ください。
課税退職所得金額(A) | 所得税率 | 控除額 | 税額 |
195万円以下 | 5% | – | (A)×5% |
195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 | (A)×10%-97,500円 |
330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 | (A)×20%-427,500円 |
695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 | (A)×23%-636,000円 |
900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | (A)×33%-1,536,000円 |
1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | (A)×40%-2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | (A)×45%-4,796,000円 |
役員退職金をうまく活用して節税しましょう。
参照元:国税庁「退職金と税」
4.配当控除を活用する
配当控除が適用される配当を受け取ることで税負担を軽減できます。ただし、自分以外にも株主がいる場合は、その人にも配当を支払う必要があるので注意してください。ちなみに配当控除とは、株主が株式会社から受け取る配当金額に対して一定の所得税額を控除できる「税額控除」になります。
5.事業譲渡によって買い手からの需要がある資産のみ売却する
事業譲渡の活用により、1つ目の対策と同様の節税効果が期待できます。
具体的には、買い手からの需要がある資産のみを売却することで、会社ごと売却する場合よりも譲渡益が少なくなり、結果的に納税額は下がります。
6.概算取得費の特例を活用する
株式譲渡では、概算取得費の特例活用も効果的です。
概算取得費の特例とは、以下のケースにおいて売却金額の5%を取得費とすることが認められる制度です。
- 売却する株式等の取得費がわからない
- 実際の取得費が売却価格の5%を下回っている
たとえば、会社売却の価格が1億円、取得費が100万円であるとします。このケースでは取得費が売却価格の5%を下回っているため、特例適用により取得費を500万円とすることが認められます。適用しない場合と比べて400万円も売却利益を減額できる(最終的な納税額も少なくなる)ことから、効果が大きい施策といえるでしょう。
参照元:国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」
7.売却益を経費と相殺する
法人株主による株式譲渡(子会社売却など)の場合、売却益に対して法人税等が課されます。
また、前述の通り他の損益と合算した金額で税額を計算します。
以上より、経費を例年よりも多く計上するタイミングで会社売却すると、売却益と経費が相殺され、法人税等を大幅に減らせる可能性があります。
ただし、多額の経費を計上するタイミングが、必ずしも会社売却の最適な時期であるとは限りません。
また、節税のために経費を増やすと、会社の成長につながらない支出となり得る点にも注意が必要です。
会社売却で税務申告の手続きを行うタイミング
会社売却では、税金の種類や計算方法だけでなく、税務申告の手続きを行うタイミングを正確に把握しておくことも重要です。
この章では、個人と法人にわけて税務申告のタイミングを解説します。
個人に課される税金の申告に関するタイミング
国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」によると、会社売却で得た利益にかかる税金に関しては、翌年2月16日〜3月15日の期間中に確定申告を行う必要があります。
期間内の申告を忘れた場合には、可能な限り早く申告する必要があります(期限後申告の場合には追加の税金が発生)。
確定申告では、所定の形式に沿って納税額を計算し、正確な納税額を算出します。
確定申告自体は、国税庁のホームページや税務署などで簡単に行えます。
また、所得税の納税に関しては、確定申告の期間中に行う必要があります。
一方で住民税に関しては、申告内容に基づいて、翌年6月から支払いが開始されます。
利益を得てから納税までに時間が空くため、納税資金を確保しておくことが重要です。
参照元:国税庁「No.2024 確定申告を忘れたとき」
法人に課される税金の申告に関するタイミング
国税庁「申告と納税」によると、法人の場合は事業年度終了日の「翌日」から2ヶ月以内に税務申告および納税を行う必要があります。たとえば3月末に事業年度が終了する場合、5月末までに納税を完了させる必要があります。申告・納税期限が土日祝日等の場合は、その翌日が期限となります。期限内に申告や納税を行わなかった場合の扱いは、基本的に個人と同様です。
なお、期限内の申告が困難である場合には、事業年度終了日までに所定の申請書を提出することで、申告期限を延長させることが可能です(法人税と消費税に関して、別々に提出が必要)。
参照元:
国税庁「申告と納税」
国税庁「定款の定め等による申告期限の延長の特例の申請書」
国税庁「No.6610 法人に係る消費税の確定申告書の提出期限について」
会社売却のメリットとデメリット
ここからは、会社売却を株式譲渡および事業譲渡により行う場合の、メリットとデメリットについて解説します。会社売却の方法で迷っている場合は、参考にしてください。
株式譲渡のメリット・デメリット
会社売却を株式譲渡で行うメリットとデメリットの概要については、下記表をご参照ください。
メリット | デメリット | |
売り手 | ・面倒な手続きが必要ない ・税負担が少なくなる可能性がある | ・必ずしも税金面で有利になるとは限らない |
買い手 | ・面倒な手続きが必要ない ・会社の意思決定を自分1人でできる | ・簿外債務などが含まれている可能性がある |
以下で詳しく解説します。
メリット
会社売却を株式譲渡により行う場合の主なメリットは3つです。
- 面倒な手続きが必要ない(売り手側・買い手側双方のメリット)
- 税負担が少なくなる可能性がある(売り手側のメリット)
- 会社の意思決定を自分1人でできる(買い手側のメリット)
株式譲渡の場合、特別決議や債権者保護などの面倒な手続きはありません。比較的簡単に会社売却できるため、中小企業によく利用されています。
売り手側のメリットとしては税負担が少なくなる可能性があるため、より多くの売却資金を手元に残すことが期待できるしょう。
また買い手側のメリットとしては、株式総数のうち3分の2以上の株式を1人で保有すれば、会社の重要部分の意思決定を自分1人でできるメリットがあります。
デメリット
一方、株式譲渡の主なデメリットは2つです。
- 必ずしも税金面で有利になるとは限らない(売り手側のデメリット)
- 簿外債務などが含まれている可能性がある(買い手側のデメリット)
売り手側が個人か法人かによって発生する税金の種類が異なり、必ずしも税金面で有利になるとは限らないのはデメリットでしょう。
個人が自分の保有している株式を売却した場合、税金は所得税と住民税がかかります。法人が保有している株式を売却した場合は、株式の売却益と事業の黒字もしくは赤字をプラスした全体の利益に対して法人税等がかかります。
このように、個人か法人かにより発生する税金の種類や税額が異なるため、ケースによっては税負担が大きくなる可能性もあるでしょう。
また、買い手側のデメリットとしては、株式譲渡の段階ではわからなかった簿外債務などを含んでいる可能性があります。
事業譲渡のメリット・デメリット
会社売却を事業譲渡により行う場合のメリットやデメリットに関する概要は、下記表をご覧ください。
メリット | デメリット | |
売り手 | ・経営権を残し、一部の事業のみの売却ができる | ・売却利益が発生するため税金がかかる ・株式譲渡よりも手続きに手間がかかる |
買い手 | ・簿外債務等の引継ぎを回避できる | ・株式譲渡よりも手続きに手間がかかる |
以下で詳しく解説します。
メリット
会社売却を事業譲渡で行う主なメリットは2つです。
- 経営権を残しておいて、一部の事業を売却できる(売り手側のメリット)
- 簿外債務等の引継ぎを回避できる(買い手側のメリット)
事業譲渡は経営権を残しておいて、一部の事業のみの売却ができます。経営権を残しつつ事業の売却ができるのは売り手側の大きなメリットになるでしょう。
また、買い手側のメリットとしては買い手側の欲しい部分のみの買収ができるため、簿外債務などの引き継ぎを回避できることです。必要な部分のみを買収できるため、効率よく買収が可能になります。
デメリット
事業譲渡による会社売却のデメリットは主に2つあります。
- 売却利益が発生するため税金がかかる(売り手側のデメリット)
- 株式譲渡よりも手間暇がかかる(売り手側・買い手側双方のデメリット)
事業譲渡を行うと一般的に売却利益が発生するため税金がかかります。また、株式譲渡よりも手間暇がかかるのもデメリットです。たとえば、事業を全て売却する場合は特別決議が必要になり、各種権利を引き継ぐ場合は、個別に契約を書き直す必要があります。
ただし、欲しい部分だけを買収できるなどのメリットがあるため買い手側は、事業譲渡を好んで使う傾向にあります。
関連記事:10億円以上で会社売却する方法は?年商10億の企業価値も紹介
まとめ
会社売却の方法には「株式譲渡」と「事業譲渡」2種類があり、それぞれの方法によって、また売却主が個人か法人かによって、課税される税金が異なることがポイントです。
株式譲渡による会社売却では、個人株主においては株式譲渡益に対して所得税と住民税等が、法人株主においては法人税等が課税されます。事業譲渡による会社売却では、譲渡益に対して法人税や消費税、印紙税がかかるほか、譲渡された財産に不動産が含まれていた場合は、買い手企業に対して不動産取得税が課税されます。
また、事業譲渡において税金の額が変動する要因としては、「棚卸資産」や「のれん代」が挙げられるため、棚卸資産やのれん代の増減には注意が必要です。
会社売却にはさまざまな税金が課せられるため、少しでも税負担を軽くするための対策を知っておくことも大切です。具体的には、「会社分割を活用する」「第三者割当増資により経営権を移転する」「役員退職金を活用する」「配当控除を活用する」といった対策が有効といえるでしょう。
会社の売却時の税金に関して悩んでいるなら、M&A仲介会社をはじめとした専門家に相談してみることをおすすめします。