M&Aのやり方とは?意味や手法、会社を買う流れをわかりやすく解説
2023年7月18日
このページのまとめ
- M&Aの目的は、中核事業の強化や自社における弱みを補完すること
- M&Aが増加している背景は、事業承継に悩む中小企業が多くなったことなど
- M&Aの主な手法は、資本業務提携・合併・買収の3つ
- M&Aの流れは11ステップに分けられる
- M&Aで支払う経費は、トランザクションフィーなど
M&Aは後継者不足などにより近年増加傾向にあります。M&Aを利用したいけれどやり方に悩んでいる方も多いのではないでしょうか。M&Aにはいくつかの手法があり、手法ごとにメリット・デメリットがあります。
このコラムではM&Aのやり方や手法ごとのメリット・デメリットを解説します。具体的な成功事例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
M&Aとは?目的と増加の背景
M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの略で、複数の会社を1つに統合する合併と企業買収のことです。
M&Aはバブル崩壊で軒並み日本株が下落したことなどがきっかけで急増しました。近年は事業承継に悩む中小企業が多いことなどの理由で増加しています。まずはM&Aの目的と増加の背景について詳しく説明します。
M&Aの目的
M&Aの買い手側の目的は、中核事業の強化、自社における弱みの補完、未進出の地域への事業拡大、新規事業の立ち上げなどです。一方で、売り手側の目的は、事業継承や事業再生などです。
近年は事業承継のためにM&Aを行う企業も増えてきています。M&Aを検討する際は目的を明確にしましょう。
M&Aが増加している背景
M&Aが増加している背景には、バブル崩壊で日本企業の株式が軒並み急落したことや後継者不足があります。1997年の独占禁止法の改正、1999年の株式交換・株式移転制度の導入、2006年の新会社法施行といったM&Aに関わる法規制の緩和を背景にM&Aの件数は増加しています。
また、事業承継に悩む中小企業が多くなったこともM&Aが増加している原因です。
M&Aのやり方とは?手法は主に3つ
M&Aの手法にはさまざまな種類がありますが、主な手法は次の3つに分類されます。
- 資本業務提携
- 合併
- 買収
M&Aを成功させるためには、どの手法を使うかは非常に重要なポイントです。それぞれの手法の特徴を理解してM&Aのやり方を理解しましょう。
1.資本業務提携
M&Aの資本業務提携とは、2つ以上の企業が資本関係を結び、互いに資本や株式を持ち合うことにより、業務上の協力関係を構築する取引のことを指します。
これは、企業が業績向上や競争力強化を図るために、他社と連携し合い、資本や経営資源を共有することで、相互に利益を得ることを目的としています。
2.合併
合併とは、2つ以上の企業が、契約により1つの企業に統合される法的な手続きのことです。合併には、吸収合併と新設合併の2種類があります。
吸収合併
吸収合併とは、ある企業(吸収会社)が他の企業(被吸収会社)を完全に買収し、両社が経営統合される取引のことを指します。
吸収合併は、合併する企業のうち一方の企業(吸収会社)が他方の企業(被吸収会社)を経営上の権利と責任を含めて完全に引き継ぐ形態であり、被吸収会社は解散して吸収会社に完全に組み込まれます。
新設合併
新設合併(または新会社設立型合併)とは、2つ以上の企業が新たに共同で新会社を設立し、それらの企業を統合する合併のことを指します。
新設合併では、合併する企業が新たに新会社を設立し、それぞれの企業が新会社に対して株式を出資して、新会社が各企業の事業を引き継ぐ形態で経営統合が行われます。
3.買収
買収には株式を取得する方法と事業を取得する方法があります。よく使われる買収方法は次の5つです。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 株式交換
- 第三者割当増資
- 会社分割
それぞれについてわかりやすく説明します。参考にしてください。
1.株式譲渡
株式譲渡は、買い手および対象会社の既存の株主である売り手との間で株式譲渡契約を締結し、その契約に従って譲渡代金の支払いと引き換えに株式を譲り受け、経営権を移転させる手法のことです。
買収企業が買収される企業に代金を支払い、買収される企業が株式を買収する企業に渡すことで成立します。
株式譲渡のメリット
- 迅速に M&A ができ、スムーズな営業の開始が可能
- 「のれん」獲得による事業の拡大
- 株式を過半数取得すれば支配権を確保できる
株式譲渡のデメリット
- 問題点を引き継いでしまう
- 多額の「のれん」がのちのち利益を圧迫する可能性がある
- シナジー効果を獲得できない恐れがある
- 株主が分散していると手続きが複雑化する
株式譲渡のメリットやデメリットについてしっかり理解しましょう。
2.事業譲渡
事業譲渡とは、対象会社の事業の全部または一部を売買することです。
複数の事業を行っている会社が、特定の事業だけ譲渡したい場合や対象会社に存在する潜在的な債務を切り離すことを目的に選択される手法です。
事業譲渡を不採算部門の整理と考える売り手と、企業規模の拡大を狙う買い手の間で成立します。個人商店の場合は、営業譲渡とも呼ばれます。
会社法により、事業のすべてもしくは重要な一部の譲渡に関しては、株主総会の特別決議が必要です。
当事者間の契約にもとづいて手続きが行われ、買い手企業は契約で明記された債務以外の簿外債務を引き継ぐ義務がありません。
事業の売買の対価は、 原則金銭で支払われます。
包括承継を前提とした合併・会社分割と異なり、事業譲渡は債務契約上の地位・労使関係などに関して、相手方との個別同意が必要です。なお、相手方との個別同意が必要なため、債権者保護手続きは必要ありません。
事業譲渡は、反対株主による株式買取請求が生じる可能性があり、許認可を引き継ぐことも不可能です。そのため、許認可を必要とする事業を譲り受けた法人は、新たに許認可を取得する必要があります。
さらに、譲渡会社は、原則、 譲渡事業に関して競業避止義務 (当事者間で合意しない限り、譲渡側は20年間の競業禁止)を負うことを知っておきましょう。
事業譲渡の主なメリット
- 必要な事業のみ承継できる
- 節税できる
事業譲渡の主なデメリット
- 取引先・従業員と個別に契約の承継手続きを行う必要がある
- 不動産や特許の移転手続き、許認可を取り直す必要がある
- 融合がうまくいかない可能性がある
事業譲渡のメリットやデメリットについてしっかり理解しましょう。
3.株式交換
株式交換とは、完全子会社となる会社の発行済み株式の全部を、完全親会社となる会社に取得させることをいいます。
対価として、基本的に買収会社の株式が利用されるため、手元資金がない場合でも他社を買収できること、現金や買収会社の完全親会社株式なども利用できることが特徴です。
なお、株主総会での決議を得れば、反対株主がいても完全子会社にすることが可能です。
対価を株式とした場合、現金を使わずにM&Aができますが、買い手企業が上場会社でないケースではあまり用いられません。
株式交換の主なメリット
- 対象となる会社の株式を強制的に全株取得できる
- 金銭を準備することなく、自社の株式を対価として企業買収ができる
- 監査役の調査などが不要
- 株式交換後も法人格を別の会社にしておける
株主交換の主なデメリット
- 完全親会社における持ち株比率が変動する
- 従前の株主の持ち株比率が低下することもあるため、経営支配権に留意する必要がある
- 完全子会社の簿外債務、偶発債務のリスクを間接的に負担せざるを得ない
- 完全子会社の不要な事業や資産も含めて、完全子会社化せざるを得ない
- 完全子会社となる側の経営陣や従業員の士気の維持が難しい
株主交換のメリットやデメリットについてしっかり理解しましょう。
4.第三者割当増資
第三者割当増資とは、会社が特定の対象者に対して新株を引き受ける権利を割り当てて行う新株発行のことです。
第三者割当増資の場合、買収資金が対象会社の資金として確保されます。また対象会社株主においては、第三者割当増資の場合、譲渡損益は生じません。
第三者割当増資のメリット
- 買収の手続きが簡単で早い
- 買収対象企業(売り手企業)に欠損金がある場合、買収企業から生じる利益に対して有効利用でき、節税メリットがある
- 再売却の際の手続きが容易
第三者割当増資のデメリット
- 買収資金の調達が必要
- 薄外債務があった場合、買い手企業が負担せざるを得ない
- 買収価額のうちのれん相当額については償却できないため、のれん償却の節税メリットがない
第三者割当増資のメリットやデメリットについてしっかり理解しましょう。
5.会社分割
会社分割には、事業承継する主体により、吸収分割と新設分割の2種類の方法があります。
吸収分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を他の会社に承継させるものです。
新設分割とは、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割により新たに設立する会社に承継させるものをいいます。
また、分割の対価を受け取るのが、分割会社か分割会社の株主かにより、分社型分割と分割型分割の2種類に分類されます。
分社型分割とは、分割の対価を受け取るのが分割会社の場合の会社分割です。
一方、分割型分割とは、分割の対価を受け取るのが分割会社の株主の場合の会社分割を指します。
会社分割のメリット
- 債権者や相手方の承諾を得ることなく、債務や契約上の地位を承継会社に引き継がせられる
- 分割会社の株主に対して、直接承継会社の株式を割り当てられる
- 金銭の準備が不要
- 検査役の調査などが不要
- 従業員の転籍に個別の同意が不要
会社分割のデメリット
- 承継会社が、分割会社の子会社に偶発債務を承継する危険がある
会社分割のメリットやデメリットについて理解しましょう。
M&Aの特殊な手法2種
M&Aの特殊な手法として次の2つが挙げられます。
- TOB(株式公開買い付け)
- MBO(マネジメント・バイアウト)
それぞれの手法の特徴について理解していきましょう。
1.TOB(株式公開買い付け)
TOBとは、株式公開買い付けのことです。
一気に大量の株式を宣言した株価で購入するため、株価上昇による事後的な買収金額の高騰が起こらないことがメリットになります。
デメリットとしては、TOBを発表した後、株価が大幅に上昇し、TOBが成立しない可能性があることです。
2.MBO(マネジメント・バイアウト)
MBOとは、経営陣や従業員が、銀行やファンドから資金を調達して自社企業の株式を買収する手法です。
経営権を集中させることにより、長期的な経営に集中できることがメリットでしょう。デメリットとしては、上場を廃止するため、資金調達が難しくなってしまうことが挙げられます。
【手法別】M&Aに課される税金
M&Aに課される税金について、下記に挙げるM&Aの手法別に紹介します。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
- 組織再編
それぞれの手法にかかる税金についてわかりやすく説明します。参考にしてください。
1.株式譲渡
株式譲渡の税率は所得税・住民税合わせて一律20.315%です。給与や事業収入などの所得が高い人でも納税額を抑えられるのがメリットです。
2.事業譲渡
利益は法人税(約30%)の課税対象となり、株主に税負担はありません。法人税は利益が少ないと税率も低くなるため、メリットが大きいです。
3.組織再編
組織再編行為が「税制適格要件」に該当するかどうかで課税関係は変化するため注意が必要です。税制適格の主な要件は以下のとおりです。
- 金銭等不交付要件
- 支配関係継続要件
- 主要資産等引継要件 など
このようにさまざまな要件があるため、組織再編でM&Aを行う際は、税金についてもしっかり確認するようにしましょう。
【買い手・売り手】M&Aのメリット
M&Aには買い手側・売り手側のそれぞれにメリットがあります。例えば買い手側のメリットは、市場シェアの拡大や優秀な人材の確保などです。売り手側のメリットは、スムーズな事業承継や従業員の確保などが挙げられます。
この章では買い手側と売り手側、それぞれのM&Aのメリットについて具体的に説明するため、参考にしてください。
買い手企業のメリット
M&Aを行うメリットはさまざまありますが、買い手側の主なメリットは次の4つに集約できるでしょう。
- 市場シェアを拡大できる
- 優秀な人材を確保できる
- 事業の多角化を進められる
- 事業の成長までの時間を短縮できる
M&Aを行う4つのメリットについて1つずつ説明していきます。
1.市場シェアを拡大できる
M&Aを行うことによって事業規模を拡大させ、結果として市場シェアを拡大することができます。
近年でいうと、2016年に行われたファミリーマートとサークルKサンクスのM&Aが良い例です。ファミリーマートは、サークルKサンクスを吸収合併するまでは店舗数コンビニ業界第3位の企業でした。しかし、サークルKサンクスと経営統合した2016年9月に店舗数コンビニ業界第2位に躍進しています。
このように市場シェアを拡大できることは、M&Aの大きなメリットでしょう。
参考:株式会社ファミリーマート「株式会社ファミリーマートとユニーグループ・ホールディングス株式会社との吸収合併契約締結及び株式会社ファミリーマートと株式会社サークルKサンクスとの吸収分割契約締結並びに商号の変更に関するお知らせ」
2.優秀な人材を確保できる
M&Aを行うことによって優秀な人材を確保することも可能です。売り手企業の中に優秀な人材がいれば、M&Aによって自社の従業員にすることができます。
企業にとって人材の育成や確保は重要な経営課題の一つです。しかし、人材の育成といっても簡単にできることではありません。長い年月をかける必要があり、その間企業は大きなコストを支払うことになります。
しかし、M&Aで優秀な人材を確保できれば、育成のためにコストをかける必要がありません。即戦力の人材を確保できることもM&Aの大きなメリットです。
3.事業の多角化を進められる
M&Aを行うことによって事業の多角化を図ることもできます。
今は非常に時代の変化が激しい時です。1つの事業に固執してしまうことにリスクがあることも事実です。
収益源を多角化しておけば、1つの事業が悪くなっても他の事業で補うことができます。M&Aの実施により事業を多角化できることは、M&Aを行う大きなメリットといえるでしょう。
4.事業の成長までの時間を短縮できる
事業の成長までの時間を短縮できることもメリットです。事業を成長させるには膨大な時間がかかります。しかしM&Aを行い、すでに技術力やノウハウがある企業を傘下に収めることができれば成長までにかかる時間を短縮させることが可能です。
特に今は時代の変化が激しいため、事業を成長させた頃にはすでに時代遅れの事業になっているケースも少なくありません。事業の成長にかかる時間を買うことができるのは、M&Aの大きなメリットです。
売り手企業のメリット
M&Aの売り手側のメリットは多くありますが、主なメリットは4つに集約できます。
- スムーズな事業承継ができる
- 従業員の雇用を守れる
- 経営者に多額の資金が入る
- 不振事業から撤退することができる
M&Aの売り手側のメリットについて順番に説明します。
1.スムーズな事業承継ができる
中小企業の後継者不足は深刻です。帝国データバンクの統計資料よると、国内企業のうち57.2%の会社が後継者不在の状態です。
経営者の高齢化や人材不足のため、中小企業は今深刻な後継者不足に悩んでいます。日本の企業の99.7%は中小企業です。中小企業が今後どんどん廃業に追い込まれてしまうと、税収が減り、結果的に国の体力の低下につながります。
この問題を解決するために、M&Aを利用する企業が増えているのです。M&Aを行うことによって企業を売却し、事業を継続させることができます。廃業を免れ事業を継続させられるのは、大きなメリットです。
2.従業員の雇用を守れる
M&Aを行うことによって従業員の雇用を守ることができます。廃業に追い込まれてしまうと、当然ですが従業員は新たな就業先を見つけなければなりません。事業を継続させることで、引き続き従業員は買い手の会社で働くことが可能です。
3.経営者に多額の資金が入る
中小企業では経営者が自己株式の大多数を持っているケースが多いでしょう。上場していない場合、自己株式を持っていても売却することはかなり難しいです。
しかし、M&Aを行うことによって自己株式を売ることができ、その対価として多額の現金を手にすることができます。
この資金を元にして、悠々自適なセカンドライフを送ることができるでしょう。経営者のセカンドライフを安定させられることも、M&Aの売り手側の大きなメリットです。
4.不振事業から撤退することができる
M&Aを行うことによって不振事業から撤退することも可能です。技術力があっても事業がうまくいっていないケースもあるでしょう。
このようなケースでも、買い手側の企業からすると技術力が手に入るためM&Aを行う可能性は十分にあります。売り手側の企業からすると従業員の技術を活かすことができ、さらに不振事業からも撤退できるため非常に大きなメリットといえるのです。
参照元:株式会社帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)』(2022年11月16日)
【買い手・売り手】M&Aのデメリット
M&Aにはメリットだけでなくデメリットもあります。買い手側と売り手側、それぞれのM&Aのデメリットについて説明します。参考にしてください。
買い手企業のデメリット
M&Aの買い手側のデメリットはいくつかありますが、主なデメリットは3つに集約されます。
- 想定していたシナジー効果を得ることができない
- コンプライアンス違反や簿外債務が発覚する場合がある
- 人材が流出する可能性がある
M&Aの買い手側のデメリットについて説明していきます。
1.想定していたシナジー効果を得ることができない
M&Aを行う目的の一つとして、シナジー効果を得ることが挙げられます。事業規模の拡大や事業の多角化など、M&Aによって多くのシナジー効果が期待できます。
しかし、いざM&Aを実行してみると、企業文化の違いのため当初想定していたシナジー効果を得られないというのはよくあることです。
M&Aを実行する前にしっかりとデューデリジェンスを行っていないと、このような事態に陥りがちになります。デューデリジェンスとは、合併や買収の過程で、企業の財務、法務、人事などの側面を詳細に調査する作業のことです。
想定したとおりの効果を得るためにも、デューデリジェンスはM&Aの専門家に行ってもらうようにしましょう。
専門家に依頼すると費用がかかりますが、期待したシナジー効果を得られないことを考えると、はるかに経済的といえます。M&Aは今後の会社の命運を左右する重要な問題です。必要な部分にはしっかりお金をかけましょう。
2.コンプライアンス違反や簿外債務が発覚する場合がある
コンプライアンス違反や簿外債務がM&Aの実行後に発覚することもありがちです。例えば、法令違反を起こしていた事案が発見されたり、退職者の退職金などの簿外債務がM&Aの実行後に発覚してしまったりしては目を当てることができません。
このような事態を防ぐためには、やはりデューデリジェンスが非常に重要になります。
3.人材が流出する可能性がある
M&Aを実行することによって人事条件が変わるのはよくあることです。また人事条件だけでなく働く環境も大きく変わるため、従業員にとっては大きなストレスになるでしょう。
しっかりと従業員のケアをしないと、優秀な人材が退職してしまう可能性も十分にあります。企業にとって人材は宝です。優秀な人材がいなくなってしまっては、シナジー効果を期待することもできなくなってしまうでしょう。
従業員をおろそかにしてM&Aを進めてしまうと、このような事態が起こりうる可能性が高くなってしまうため注意してください。
売り手企業のデメリット
M&Aの売り手側の主なデメリットは5つあります。
- 買い手が見つからない
- 希望価格での売却ができない
- 取引先から信頼を失う可能性がある
- 従業員が辞めてしまう可能性がある
- 経営者の権限が小さくなる
それぞれのデメリットについて説明していきます。
1.買い手が見つからない
いくらM&Aを実行したくても買い手が見つからなければどうしようもありません。特にM&Aを自力で行おうとすると、買い手を見つけることはより難しくなるでしょう。
M&Aの買い手側も、買おうとしている企業が専門家のサポートを受けていないと不安を覚えることが多いためです。M&Aをする際は、ぜひM&Aの専門家にサポートしてもらうようにしましょう。
2.希望価格での売却ができない
M&Aの買い手が見つかっても希望の価格で売却できるかどうかはわかりません。希望価格と実際に提示される価格にあまりにも乖離があると、M&Aを実行してもメリットを見いだすことができないでしょう。
売却価格を上げるためには、自社の技術力を高めるなど企業価値の向上に努める必要があります。M&Aをいつ検討するかはなかなかわからないものではありますが、実際にM&Aを行うときのためにも企業価値の向上を意識して常に努力するようにしましょう。
3.取引先から信頼を失う可能性がある
M&Aで会社を売却することによって、長年の取引先などからの信頼を失う可能性があります。M&Aは極秘事項のため、実際に実行するまでなかなか取引先にも言えないことが多いです。M&Aをした後の対応によっては、取引先を失ってしまう可能性もあるため注意してください。
4.従業員が辞めてしまう可能性がある
M&Aを行うことで従業員の士気が大きく下がってしまう可能性もあります。人事や就業規則などが変わり待遇面が大きく落ちてしまうと、多くの従業員が辞めてしまう可能性が高いです。
また、給料などの待遇面だけでなく、仕事の仕方が大きく変わることによって従業員が辞めてしまう可能性もあります。
企業が存続していくためには人材が必要不可欠です。人材をしっかり守るためにも、M&Aの実行の際には細心の注意を払いましょう。
5.経営者の権限が小さくなる
会社に対する権限が小さくなってしまうことも、M&Aを行うデメリットです。特に中小企業が大企業の傘下に入る場合は注意が必要になります。
生き残りをかけて中小企業が大企業の傘下に入るケースは多いでしょう。しかし、一般的に大企業の傘下に入ると売り手側の経営者の権限は極端に小さくなる傾向にあります。経営方針はもちろんですが人事、予算配分などについても買い手企業の指示に従う必要があるのです。
経営の第一線から離れたい場合は特に問題ないかもしれませんが、M&Aをしてもその後経営に関わりたい場合はデメリットになるでしょう。経営の権限についてはM&Aを実行する前に詳細に決めておかないと、後々大変なことになります。
M&Aの流れ11ステップ
M&Aを実際に行うときの流れについて説明します。主なステップは11個あります。
- 事前準備をする
- アドバイザーを選定する
- 候補先にアプローチする
- 秘密保持契約を結ぶ
- IMを提示する
- トップ面談を行う
- 基本合意書を締結する
- デューデリジェンスを実施する
- 条件の最終交渉を行う
- 最終契約とクロージングを行う
- PMIを実施する
M&Aの流れを理解していきましょう。
1.事前準備をする
M&Aの選択は妥当なのか、対象企業をイメージできているか、議決権は確保できているのかなどをチェックしたうえでM&Aの専門会社に依頼するようにしましょう。事前準備がしっかりできていないと後々後悔することになってしまいます。
2.アドバイザーを選定する
M&Aで売り手と買い手の間に入るアドバイザーを選定します。銀行やM&A専門業者など、さまざまなアドバイザーがいるため、ご自身に合ったアドバイザーを設定するのが重要です。一般的には専門知識があるM&A専門業者に頼むのがよいでしょう。
3.候補先にアプローチする
候補企業のリストを作成し、条件に合いそうな候補先を数社に絞り込みアプローチします。M&A専門業者や銀行に依頼した場合、ノウハウを活かしてスムーズにアプローチができるはずです。
4.秘密保持契約を結ぶ
買収を希望する会社が興味を示し、さらに詳細な情報の開示を求められれば秘密保持契約を結びましょう。秘密保持契約を結んでおかないと、後々大きなトラブルに発展する可能性があります。
5.IMを提示する
IM(Information Memorandum:インフォメーション・メモランダム)と呼ばれる企業の詳細情報を買い手企業に提示します。買い手は、IMについてしっかり中身を精査しましょう。
6.トップ面談を行う
お互いの紹介、売却・買収検討に至った背景、企業経営のなかで大事にしていることなどを共有します。トップ面談を行い意思の疎通を図ることは重要です。
7.基本合意書を締結する
基本合意書には、M&Aの基本的な条件が法的拘束力を有しない形で規定されるのが一般的です。当然ですが後から撤回や修正はできないため、よく確認しましょう。基本合意書に記載される主な内容は以下のとおりです。
- スキームの概要
- 譲渡価格
- スケジュール
- 買収監査の実施
- 役員や従業員の処遇
- 保証債務について
- 秘密保持義務の設定
- 一般条項
内容に問題がないか確認したうえで、基本合意書を締結します。
8.デューデリジェンスを実施する
買い手企業が売り手企業の実態を把握するためにデューデリジェンスを行います。
デューデリジェンスに関しては、ご自身で行うのは非常に難しいため、M&A専門業者や銀行などのアドバイザーが行うのが一般的です。
9.条件の最終交渉を行う
デューデリジェンスで得られた情報をもとに、条件の最終交渉を行います。最終的な条件について確認しましょう。
10.最終契約とクロージングを行う
最終契約書を取り交わし、買い手側から譲渡代金を受け取ります。以上でM&Aは完了です。
11.PMIを実施する
M&Aが完了した後、売り手企業と買い手企業の経営統合を行います。
PMIはM&A(合併・買収)において、Post-Merger Integration(ポストマージャーイティグレーション)の略称です。
PMIは、合併・買収が完了した後に、両社の統合を計画し、実行するプロセスを指します。PMIは、異なる組織文化、システム、プロセス、人材などを統合し、シナジー効果を最大化し、合併・買収の目的を達成するために重要な役割を果たします。
M&Aにおけるマッチングとエグゼキューションのポイント
続いて、マッチングとエグゼキューションのポイントについて解説します。ポイントを押さえてM&Aを成功させましょう。
マッチングのポイント
信頼できるアドバイザーであるか、経営資源が補完関係にあるか、売り手・買い手の双方がお互いに敬意を感じ、信頼関係を構築できそうかなどがマッチングのポイントになります。マッチングのポイントについては明確にしておきましょう。
エグゼキューションのポイント
エグゼキューションとは、M&Aの事務手続きの実行や管理のことです。自社の経営環境を見直したうえで今後の戦略を事前検討しましょう。アドバイザーの専門性を追求することや経営リスクについて理解しておくことなどがポイントになります。
M&Aアドバイザーに支払う経費
M&Aを進めるにあたって必須となるM&Aアドバイザーに支払う経費について解説します。
M&Aのアドバイザーは、トランザクションフィーを請求することがあります。トランザクションフィーとは、合併や買収が完了し取引が成立した際にM&Aアドバイザーに支払われる成功報酬のことです。
トランザクションフィーは、取引の規模や複雑さに応じて決められることが多くあります。「取引価格の3%」というように、取引価格の一定割合が支払われることが一般的です。
デューデリジェンスを行う際は、外部の専門家を雇うことが一般的であり、費用がかかります。
そのほかにも、合併や買収に関連するさまざまな費用が発生することがあります。例えば、法律顧問に支払う費用、会計士や税務顧問に支払う費用、交渉やコミュニケーションに関する費用などが一般的です。
M&A7つの成功事例
最後に、日本企業のM&Aの成功事例を7つ紹介します。それぞれのM&Aの手法に注目して確認してみてください。
1.【株式交換】ケーズホールディングス
家電量販店を展開するケーズホールディングスは、2022年に株式交換によりサワハタキャリーサービスの全株式を取得し完全子会社化しました。
サワハタキャリーサービスは、一般貨物自動車運送業、業務用機器・家電製品メンテナンス、電気工事業、産業廃棄物収集運搬業などを行う企業です。
サワハタキャリーサービスの普通株式1株に対して、ケーズホールディングス普通株式1,128株を割当交付し、株式交換比率は、「1:0.0009(ケーズホールディングス:サワハタキャリーサービス)」となりました。
これにより、配送・工事の安定や効率的な体制構築、サービス向上が期待できます。
参照元:当社と株式会社サワハタキャリーサービスとの簡易株式交換契約締結に関するお知らせ
2.【株式譲渡】株式会社ケイ・テクノス
通信インフラ事業を核に土木・舗装工事、電気、空調、環境施設工事を展開する株式会社ケイ・テクノスは、2022年に株式譲渡により西九州電建工業の全株式を取得し完全子会社化しました。取得価額は非公表です。
西九州電建工業は、数多くの電気通信工事を手掛けるなど豊富な施工実績と高い施工技術力を保有しており、人材やノウハウの共有、リソースの最適化を通じた企業価値向上が期待できます。
参照元:グループ会社のケイ・テクノスによる西九州電建工業の子会社化に関するお知らせ
3.【第三者割当増資】株式会社KOMPEITO
「OFFICE DE YASAI (オフィスで野菜)」を運営する株式会社KOMPEITOは、2022年に第三者割当増資を実施し、約13億円の資金を調達しました。既存投資家2社と新規投資家6社から資金調達を行い、創業からの累計調達額は約20億円となりました。
コア事業の「OFFICE DE YASAI 」の地方への事業展開の強化や、新規事業「SALAD STAND(サラダスタンド)」拡大に向けた資金調達となっています。
参照元:KOMPEITO、シリーズCで約13億円の資金調達を完了 -OFFICE DE YASAI(オフィスで野菜)の地方拡大を加速へ-
4.【合併】株式会社クスリのアオキ
ドラッグストア及び調剤薬局の運営を行うクスリのアオキが存続会社として、ホーマス・キリンヤとフードパワーセンター・バリューが消滅会社として2022年に合併しました。
ホーマス・キリンヤは岩手県及び宮城県に食品スーパーや衣料品店を展開する企業です。また、フードパワーセンター・バリューは、主にホーマス・ キリンヤが展開する店舗において販売する飲食料品及び日用雑貨の仕入業務を行う企業であり、どちらの企業も地域のお客様に支持されてきました。
スーパーの食材の品揃えとドラッグストアの持つ日用品の品揃え、また処方箋を取り扱う調剤薬局を組み合わせることで、地域貢献による企業価値の向上が期待できます。
参照元:株式会社ホーマス・キリンヤ及び株式会社フードパワーセンター・バリューの吸収合併に関するお知らせ
5.【事業譲渡】株式会社エフ・コード
CX向上SaaSの提供やDX戦略設計・実行支援、デジタルマーケティング支援を行う株式会社エフ・コードは、2022年に事業譲渡により、3億円でコミクスのSaaS事業を譲受しました。コミクスは、デジタルマーケティング支援事業やSaaS 支援事業を行う企業です。
事業譲渡により、サービス間の相互補完やエフ・コード既存顧客への獲得サービスの提供が期待できます。
参照元:事業譲受に関するお知らせ
6.【資本業務提携】楽天グループ株式会社
楽天グループは、2018年に飲食店の情報サービスを運営するぐるなびと資本業務提携し、楽天がぐるなびの株式 4,677,600株(発行済株式総数の9.61%)を取得。
2018年には楽天IDとぐるなび会員IDとの連携を開始、2020年には、「楽天リアルタイムテイクアウト」と「ぐるなび」サイトとのサービス連携を開始するなど、両社間の連携を進めました。
2021年7月にはさらなる成長を目指すため「楽天デリバリー」事業および「楽天リアルタイムテイクアウト」事業をぐるなびに承継しました。それぞれのシナジー効果が期待されます。
参照元:株式会社ぐるなびとの資本業務提携の改定に係る覚書締結のお知らせ
7.【会社分割】ソフトバンク株式会社
2020年に、ソフトバンク株式会社は会社分割(吸収分割)を実施し、アニメ専門コンテンツ配信サービスであるアニメ放題を映像配信サービスの運営・販売等を行うU-NEXTに承継しました。
ソフトバンクグループ全体で保有する経営資源の効率化を進める中で、協業パートナーであるU-NEXTとの協議を重ね、承継する決定となりました。U-NEXTは、アニメの充実により新たな顧客層の開拓が期待できます。
まとめ
M&Aのやり方は主に3つです。合併や株式譲渡などの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあるため、自社にあった手法の見極めが重要です。手法が決まったら、M&Aの実施に向けて準備を進めましょう。M&Aを検討・実施する上で悩みや不安がある方は専門家への相談もおすすめです。
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