このページのまとめ
- 事業承継スキームは、親族内承継・従業員承継・社外への引き継ぎなど4つある
- 事業承継スキームごとのメリット・デメリットを踏まえて選択することが大切
- 事業承継スキームでは経営権のほか、人・物的資産・無形資産を承継する
- 事業承継スキームを活用する場合には、仲介会社・ファンド・信託の利用を検討する
- 事業承継の代表的な相談は、M&A仲介会社や金融機関など5つの相談先がある
事業承継スキームについてお悩みの経営者の方もいるでしょう。中小企業が利用しやすい事業承継スキームは4つあり、それぞれ必要な手続きは異なるため、方法をしっかり理解しておくことが重要です。
本記事では、中小企業が利用しやすい事業承継スキームに関して解説しています。事業承継スキームのメリット・デメリット、事業承継に関する相談先などについてもまとめて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
事業承継スキームとは
事業承継スキームとは、企業の経営権を現経営者から新しい経営者に移行させる方法を指します。
事業承継は多くの場合、現経営者の引退や死亡などをきっかけとして行われます。後継者へと事業を滑らかに移行するためには、戦略的なプロセスを踏むことが必要です。
適切な事業承継スキームを選定することは、企業の持続的な成長と安定を確保するために重要なステップとなります。
事業承継スキームには、後継者の選定、承継に必要な資金調達の方法、承継する事業の評価や税務対策、取引先とのコミュニケーション、法的手続きなど、多くの要素が含まれるのが一般的です。具体的な事業承継スキームとしては、親族内承継、従業員承継、社外への引き継ぎ(M&A)、持株会社・資産管理会社への承継があります。
各企業の事業規模、業種、経営状況、後継者の有無や資質、関係者の意向などによって、最適な事業承継スキームは大きく異なることから、事業承継は専門家の助けを借りて慎重に計画し実行することが大切です。
関連記事:事業承継とは?成功に向けたポイント方法や進め方を解説
中小企業が利用しやすい4つの事業承継スキーム
中小企業が利用しやすい4つの事業承継スキームについて解説していきます。それぞれの事業承継スキームの方法を理解することで、どの事業承継スキームを利用すべきかがわかるようになります。
1.親族内承継
親族内承継とは、経営者が自身の親族(特に子供)に会社を引き継がせる形式の事業承継のことを指します。これは伝統的な事業承継スキームで、家族経営や家族所有の企業の場合に特に一般的です。親族内承継をスムーズに進めるためには、早期からの準備と計画が必要です。後継者の教育と育成、引退のタイミングの計画、財産移転の準備など、多岐にわたる要素を考慮する必要があります。
親族内承継で事業承継を行う場合、現在の経営者は、後継者が安心して引き継いでくれるような状況を作り上げることが期待されています。事業を引き継ぐ前に、経営能力を高めて、企業の基盤を強化しましょう。
さらに、事業承継のプロセスを円滑に進めるためには、引退や育成についてスケジューリングすることが大切です。現経営者が自分の退職のタイミングを明確に設定し、そこから逆算して後継者の育成に必要な時間を確保します。十分な準備期間を計画的に設けて、後継者の教育(技術やノウハウ、営業基盤の継承を含む)に取り組んでください。
2.従業員承継
従業員承継とは、経営権を「家族外」の役員や従業員に引き継がせる形式の事業承継のことを指します。経営の才能を持つ人材を見つけて、彼らに経営を任せることができる点、また企業に長く所属している従業員であれば、ビジネスの指針や価値観を維持することが容易となります。
家族内での承継が減少している一方で、従業員承継の実施率は最近増えています。以前は、従業員承継において資金調達が大きな障壁でした。しかし、一部の株式や持ち株会社、従業員持ち株会の活用など新たな制度の普及や、家族外の後継者も事業承継税制の対象に含まれたことなどから、従業員承継が行いやすい環境が整いつつあります。
3.社外への引き継ぎ(M&A)
社外への引き継ぎ(M&A)とは、事業承継スキームの一つで、企業を外部の個人や他の企業に譲渡する手法(株式や事業の移譲など)を指します。経営継承の候補者が家族や社内に存在しない場合でも、より広範な候補者集団を対象に検討することが可能です。また、現在の経営者は会社の売却によって利益を得ることができます。
後継者の確保が難しい中小企業などを含む多くの事例で、M&Aを活用した事業承継が増えています。M&Aについての認識が高まった理由の一つとして、M&Aを専門的にサポートする民間機関の増加や、国家レベルでの事業承継サポートセンターの設置が挙げられます。
第三者への事業承継を成功させるためには、事業の強化や適切なガバナンスと内部統制体制の確立などを通じて、事業価値を十分に向上させる必要があります。そのため、現経営者は早期に支援機関に相談を行い、事業価値の改善に取り組むことが望ましいです。最適なマッチング候補を見つけるまでの期間は、対象となる企業の特性や経済状況によって大きく変動します。また、相手方との合意がなされなければ、M&Aは成立しないので、十分な時間を確保してこのプロセスに臨むことが重要です。
参照元:中小企業庁「事業承継ガイドライン」
4.持株会社・資産管理会社への承継
持株会社・資産管理会社への承継とは、経営者が保有している自社株式を持株会社・資産管理会社を設立して、後継者に移転する方法です。
持株会社とは、子会社やグループ会社など会社の株式のみを管理する会社のことで、「ホールディングスカンパニー」とも呼ばれます。資産管理会社とは、建物や土地、設備など会社の資産を管理するために設立された会社です。
持株会社・資産管理会社を活用した承継では、株式交換、または株式移転が用いられます。株式交換とは、持株会社・資産管理会社を後継者が設立し、現在の経営者が株式を譲渡する方法です。
株式移転とは、新しく持株会社・資産管理会社を組織再編成によって完全親会社として設立し、承継する予定の株式を移転させて、かつ、持株会社の株式を後継者自身に割り当てる方法を指します。どちらも、節税効果が高いのが特徴です。
事業承継スキームで承継される3つの要素
中小企業における事業承継は、単に「株式の承継」と「経営者の交代」だけで完了すると思われがちです。しかし、「事業承継」とは、その名の通り「事業」を次の世代に「引き継ぐ」行為を指します。したがって、後継者が経営を安定して続けるためには、現在の経営者が育んできた全ての経営リソースの引き継ぎが不可欠です。
中小企業庁「事業承継ガイドライン」では、後継者に承継すべき経営リソースとして、「人(経営権)」、「資産(物的資源)」、「知的資産(無形資産)」の3要素を挙げています。
図表:事業承継の構成要素
人(経営)の承継 | ・経営権 ・後継者の選定 ・後継者の教育 など |
資産の承継 | ・株式 ・事業用資産(設備・不動産) ・資金(運転資金・借入) など |
知的資産の承継 | ・経営理念 ・経営者の信用 ・従業員の技術や技能 ・取引先との人脈 ・ノウハウ ・顧客情報 ・知的財産権(特許権など) ・許認可 など |
人の承継
人の承継(経営権の承継)とは、後継者への経営権の承継を意味します。経営権は、株式譲渡を行うことで承継されますが、これだけで前の経営者と後継者が同じように経営ができるかと言えばそうではありません。特に、中小企業においては、経営者個人に業績やビジネス関係が集中しているケースが多いことから、事業の流れや業績が経営者の能力次第で大きく変動する可能性があります。
したがって、後継者として誰を選択するかは、事業承継において非常に重要な問題です。親族内承継や従業員承継においては、家族や従業員から後継者を探さなければなりませんが、その後継者が経営を担うための能力を磨き、現経営者の目には見えにくい能力(信用力・ノウハウ・人脈など)を継承するには、一定の準備時間が必要です。そのため、効果的に後継者選びを進めるうえでは、後継者の選出をできる限り早く始めることが重要です。
現在の中小企業の事業承継の状況においては、家族内から適切な後継者を探すのが難しいケースも増えています。このような状況においては、企業の外部への事業引き継ぎ、すなわち、M&Aによる事業承継が有効な選択肢として認識されてきています。
事業承継の計画段階では、家族内や従業員からの後継者選出だけでなく、場合によってはM&Aによる外部からの後継者を検討する視野も持つべきであると考えられます。実際に引き継ぐ際は、株主総会を行って代表取締役の選任決議をしたうえで、役員変更登記等の手続きなどをする必要もあるので注意してください。
資産の承継
資産の承継(物的資産の承継)とは、事業の運営に欠かせない資産(機械、不動産、債権、債務などの業務用資産を含み、特に株式会社ではこれらが自社株式の形で存在する)の移転を指します。資産の承継といっても、単にモノを譲渡するというだけではありません。
資産を承継するうえでは、資産に関する権利・義務関係についても明確にしておく必要があります。現経営者の個人的な債務や保証の関係の清算・継承も必要となるなど、資産の承継に関する考慮すべき要素は多岐にわたり、専門的な知識が必要となります。
一般に、法人が保有する不動産、設備、運転資金などは、株式の継承を通じて後継者に自然と移行します。しかし、個人事業主(オーナー兼経営者)が事業資産を保有し、それを企業に貸し出している場合は、事業用資産も一緒に移転しなければなりません。物的資産を継承する際には、契約書の作成や税金の報告など、一連の手続きが必要です。そのため、資産の承継準備を始める際には、早期に税理士などの専門機関に相談するのがおすすめです。
加えて、資産の承継には、税金の問題も関わります。たとえば、株式や事業用資産を贈与や相続という形で承継する際には、資産の規模によっては大量の贈与税や相続税が課せられることがあるので注意が必要です。後継者が十分な資金力を持っていない場合、税金の負担を避けるために資産の分割承継をしてしまえば、事業承継後の運営の安定性が危ぶまれる可能性があります。そのため、税負担を考慮に入れた承継方法の検討が必要です。
知的資産の承継
知的資産の承継(無形資産の承継)とは、企業の経営理念、信用、ブランドイメージ、独自のノウハウ、長期にわたって蓄積された技術、育成した人材、取引先などのネットワーク等を継承することを指します。
企業の大きさにかかわらず、製品やサービスを選択し購入してくれる顧客がいる限り、それぞれの企業には知的資産が存在し、ビジネス運営に活用されています。特に中小企業では、経営者と従業員間の信頼関係が、事業のスムーズな運営に重要な役割を果たしていることが多いです。したがって、後継者は経営者と従業員の信頼関係の価値を深く認識し、その関係を構築するための取り組みが必要です。
事業を承継すると同時に、「人(経営権)」、「資産(物的資源)」、「知的資産(無形資産)」を適切に引き継ぐことで事業の連続性が保たれ、後継者が問題なく事業を維持できるはずです。しかし、一方でこれらの継承が不十分である場合、事業の継承をきっかけに企業が衰退する可能性があるので注意してください。
参照元:中小企業庁「事業承継ガイドライン」
事業承継スキームのメリット・デメリット
事業承継スキームは、それぞれの具体的な方法によって異なるメリット・デメリットがあります。それぞれの方法のメリット・デメリットを理解したうえで、どの方法が自社の状況に合った事業承継の方法であるかを考えることが大切です。
各スキームのメリット・デメリット一覧は、以下の表を参考にしてください。
スキーム | メリット | デメリット |
親族内承継 | ・社員や取引先から感情的に受け入れられやすい ・他の継承形態と比較して充分な育成時間を設けられる | ・適切な後継者が見つからない可能性がある ・他の家族からの反対や家族間の問題に対する配慮も必要 |
従業員承継 | ・業務の引き継ぎがスムーズに行える ・現場の人間が抵抗感を覚えることが比較的少ない | ・後継者が継承を辞退する可能性がある ・後継者となる役員や社員が自社の株式を購入する際に資金調達の問題が発生する可能性がある |
社外への引き継ぎ(M&A) | ・現経営者が株式(事業)の売却利益を得られる・従業員の雇用を維持できる ・適切な後継者を広く募れる | ・適切な後継者が見つからない可能性がある・交渉が破綻する可能性がある ・望んだ価格で売却できない可能性がある |
持株会社・資産管理会社への承継 | ・現経営者が現金を得られる ・株式・経営権の分散の防止に役立つ ・節税効果が高い | ・事務・経理関係における会社経営のコストが膨らむ ・会社間での連携がうまくとれないケースも |
1.親族内承継のメリット・デメリット
親族内承継のメリット・デメリットは、それぞれ以下のとおりです。
親族内承継のメリット
親族内承継のメリットの一つは、社員や取引先から感情的に受け入れられやすいことです。事業承継では、周囲の理解と承認を得ることも非常に重要です。事業承継に対する不安感が広まると、顧客や従業員が離れる可能性が高まります。
また、他の継承形態と比較して充分な育成時間を設けられることもメリットです。後継者に具体的な業務を教えたり、従業員と良好な関係を築いたりすることを支援するほか、銀行や供給者との接触時に後継者を同席させるなどして、スムーズな継承を目指すことができます。
親族内承継では、贈与や相続を通じて物的資産を継承するのが一般的です。贈与や相続に関連する各種制度を活用することで、税制上で他の継承方法よりも優位に立つ可能性もあります。これもまた、親族内事業承継のメリットです。
経営権・物的資産・無形資産という3つの要素の継承のタイミングは、親族内承継であれば相対的に柔軟に設定できます。具体的には、初めに後継者を役員や従業員として組織に加え、数年かけて経営資源や物的資産(経営理念、技術、ノウハウなどの具体的な移譲)を継承し、その後に経営権の移譲を行うといったアプローチが可能です。
親族内承継のデメリット
親族内承継のデメリットとしては、適切な後継者が見つからない可能性があることが挙げられます。
マネジメント能力に欠けているのにもかかわらず、ほかに適切な候補者がいないからといって事業承継を強引に進行させると、社員やビジネスパートナーからの不満や反感を引き起こす可能性があります。さらに、適任者が存在する場合でも、その人物が継承を断る可能性もあります。そのため、事業承継の手段を検討する前に、後継者の意向の確認を丁寧に行うことが必要です。
また、他の家族からの反対や家族間の問題に対する配慮も必要となります。たとえば、甥や姪が後継者になり、物的資産も引き継ぐ場合、自身の息子が相続できる財産が減少することになります。株式が分散している場合は、反対派の意見が意思決定に影響を及ぼす可能性もあるので注意が必要です。
2.従業員承継のメリット・デメリット
従業員承継を行う際に発生しうるメリットとデメリットは以下のとおりです。
従業員承継のメリット
従業員承継のメリットは、後継者の働きぶりを現在の経営者が実際に確認できたり、業務の引き継ぎがスムーズに行えることです。実際に働いている同僚が後継者となるので、他の社員からの了承も得やすく、現場の人間が抵抗感を覚えることが比較的少ないこともメリットといえます。
従業員承継のデメリット
一方、従業員承継では、他の役員や社員との人間関係の変化を懸念し、後継者が継承を辞退する可能性があるというデメリットがあります。さらに、複数の後継者候補が存在する場合、選出されなかった役員や社員が退職するリスクも存在するので注意してください。
また、後継者となる役員や社員が自社の株式を購入する際に資金調達の問題が発生する可能性があります。会社の株式の取得価格は数千万円から数十億円にも達することがあり、その役員や社員の貯金だけでは賄えないケースもあるので注意が必要です。
参照元:中小企業庁「事業承継ガイドライン」
3.社外への引き継ぎ(M&A)のメリット・デメリット
M&Aによって社外への引き継ぎを実施した場合のメリットとデメリットは以下のとおりです。
社外への引き継ぎ(M&A)のメリット
社外への引き継ぎ(M&A)のメリットは、株式(事業)を売却することにより、現経営者が株式(事業)の売却利益を得られることです。これにより、退職後の生活に余裕を持つことが期待できます。
廃業することと比べると、事業を次の世代に継承し、従業員の雇用を維持できることも、社外への引き継ぎのメリットです。
家族間や社内での事業承継と比較して、適切な後継者を広く募ることができる点もメリットとなります。たとえば、M&Aによる事業承継では、自社の事業と相互に利益を生む可能性のある事業を展開している企業経営者に自社を引き継ぐといった選択肢も用意できます。成功すれば、自身が育て上げた事業がさらに広範囲に広がる可能性もあります。
社外への引き継ぎ(M&A)のデメリット
一方、社外への引き継ぎのデメリットとしては、「適切な後継者が見つからない」「交渉が破綻する」「望んだ価格で売却できない」などのようなリスクがあることが挙げられます。
M&Aでは、価格に関する利益が対立することがあります。交渉が失敗して問題が起こらないように、専門家を適切に活用し、交渉をスムーズに進めることが重要です。
4.持株会社・資産管理会社への承継のメリット・デメリット
持株会社・資産管理会社へ承継する際のメリット・デメリットは、以下のとおりです。
持株会社・資産管理会社への承継のメリット
株式を譲渡することで現経営者が現金を得られる点はメリットです。仮に自社株の評価額が高い場合は、譲渡代金も高くなります。
また、後継者が持株会社を利用して創業者の株式を買い取れば、株式・経営権の分散の防止に役立つ点もメリットです。株式を保有するのは持株会社だけのため、経営権を握れます。
後継者が持株会社・資産管理会社に出資して設立した場合は、後継者の資金で会社・事業を引き取ります。そのため、贈与税・相続税が課せられる心配がなく、節税効果が高い点もメリットです。
持株会社・資産管理会社への承継のデメリット
持株会社・資産管理会社はグループ内にある別会社です。そのため、事務・経理関係における会社経営のコストが膨らむことはデメリットといえます。ほかにも、持株会社・資産管理会社を設立する際の設立費や維持費、会社設立のための手間も必要です。
また、持株会社・資産管理会社を設立したことで会社が増えると、会社間での連携がうまくとれないケースも考えられます。それぞれ独立し、業務内容や運営体制が異なるため、情報共有がスムーズに行われない場合があることは理解しておきましょう。
事業承継スキームを活用するときの3つのポイント
中小企業経営者が事業承継スキームを活用して事業承継をするうえでは、以下のポイントをしっかりと押さえておく必要があります。
1. 経験豊富な事業承継の仲介会社を選ぶ
どの事業承継スキームを活用する場合でも、専門的な知識やノウハウが必要となります。そのため、経験豊富な事業承継の仲介会社を選んで相談することが大切です。
事業承継をサポートしてくれる仲介会社は、「認定経営革新等支援機関」の中から選ぶと良いでしょう。「中小企業等経営強化法」に基づいて、専門性の高い中小企業支援を行うために認定された支援機関が、認定経営革新等支援機関とされます。認定経営革新等支援機関には、経営革新などの支援業務の実施にあたって、「事業承継ガイドライン」および「中小M&Aガイドライン」を踏まえ、事業承継に向けた取組促進の役割が期待されています。
認定経営革新等支援機関は「認定支援機関検索」から検索することが可能です。
また、中小企業のM&Aにおいて仲介を行う支援機関のうち、「中小M&Aガイドライン」の遵守等を登録要件とした「M&A支援機関登録制度」に登録された事業者は、登録M&A支援機関として認定されています。事業承継の際にM&Aを活用する場合には、登録M&A支援機関のなかから支援機関を選択することでも安心してM&Aに臨めます。
この制度に登録している機関については「登録機関データベース」から確認することが可能です。
2.事業承継ファンドを活用する
事業承継スキームの一つとして、事業承継ファンドが挙げられます。事業承継ファンドの利用は、M&Aの一種として位置づけられる事業承継スキームです。
事業承継ファンドは、まず最初に投資家からの資金調達を行い、これを資本金として、後継者問題に直面している中小企業の株式を購入します。これによって、事業承継ファンドに経営権が移ることになります。その後、事業承継ファンドは、経営支援による事業の改善と企業価値の上昇を図り、数年経過した後にM&Aを通じて事業を売却し、そこから生じる利益を獲得します。この利益は、当初投資をしてくれた投資家に対して分配されます。
ファンドは単に資金を提供するだけではありません。経営のノウハウやリソースも提供してくれます。これによって、企業は自社の事業を改善し、企業価値を向上させることができます。さらに、後継者が見つからない企業にとって、事業承継ファンドは有効な解決策を提供してくれます。ファンドが企業の株式を購入して、後継者を選任してくれるので、後継者問題を解決することが可能です。加えて、ファンドは、地域金融機関と連携して、広範な中小企業へのアクセスと持続的な支援を行っています。これにより、企業は安定した経営環境を維持することが可能です。
参照元:
東京都産業労働局「事業承継支援ファンド」
中小機構「ファンド出資」
3.事業承継信託を活用する
事業承継をする際には、事業承継信託を活用することも可能です。事業承継信託を利用する場合は、現在の経営者が自社の株式を信託し、事業承継信託の財産管理機能を活用することで、後継者に事業を承継します。2006年に信託法が改訂されたことによって、事業承継に関して信託を利用する機会が大幅に増えました。
信託を活用した事業承継は、親族内承継・従業員承継・社外への引き継ぎ(M&A)にも活用可能です。信託の利点は、信託契約の内容を自由に設定できる点にあります。これにより、事業承継の際に、初代の経営者や継承者の希望に合わせて財産を移すことが可能になりました。具体的には、現経営者が委託者となり、信託銀行などの受託者に対して自社の株式を信託したのち(預け入れたのち)、一定の要件を満たしたうえで、株式や金銭の支払いなどを行うことができます。
参照元:信託協会「事業承継信託」
事業承継に関する相談先
株式譲渡に関する代表的な相談先としては、以下の5つが挙げられます。
- M&A仲介会社
- 金融機関
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 商工会・商工会議所
- 弁護士などの士業専門家
それぞれの特徴は以下の表のとおりです。
相談先 | 特徴 |
M&A仲介会社 | ・M&Aを検討中の企業同士の間に入って、中立的な立場でM&Aを進めるサポートを行ってくれる ・独自のネットワークを駆使して幅広い相手からM&Aの候補先を探してもらえる |
金融機関 | ・財務に関する専門知識が豊富なため、資金調達の相談に乗ってくれる ・M&Aの需要の増加に伴い専門窓口を設けている銀行が増えている |
事業承継・引継ぎ支援センター | ・中小企業診断士や税理士、公認会計士、金融機関OBなどの専門家に、無料で相談できる ・全国に相談窓口があるため相談しやすい |
商工会・商工会議所 | ・中小企業同士のM&Aであればおすすめ ・相談から着手まで無料で相談できる ・中小企業の経営支援実績が豊富なため、適切なアドバイスがもらえる |
弁護士や税理士などの士業専門家 | ・各士業の強みを活かせる ・弁護士:秘密保持契約(NDA)などM&Aの各契約書に法的な不備がないかどうか相談できる ・税理士:税務デューデリジェンスについて相談できる ・M&Aをスムーズに進めるには、公認会計士などその他の士業とも連携の必要がある場合も |
M&Aの相談先について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:M&Aの専門家とは?それぞれの役割と選び方のポイントを確認しよう
M&A仲介会社
1つめの相談先が、M&A仲介会社です。M&A仲介会社は、企業同士の間に入って中立的な立場でM&Aを進めるサポートを行います。ただし、仲介会社ごとに得意とする分野や能力、経験などが異なるため、自社に合った仲介会社を選ぶことが必要です。
仲介会社を選ぶメリットとしては、独自のネットワークを駆使して幅広い相手からM&Aの候補先を探してもらえる点が挙げられます。また、M&Aに関する豊富な知識や実績を持つ専門家であるため、幅広いサポートを受けられる点もメリットでしょう。
デメリットとしては、成功報酬が発生することです。一般的に、売却金額の5〜10%程度の成功報酬が発生するため、規模の小さなM&Aの場合でも数百万円単位の報酬が必要になる場合があり、買い手にとって負担となる可能性があります。
また、ほかにも相談料や着手金が必要になる仲介会社もあるため、契約前に内容をよく確認しておきましょう。
金融機関
2つめの相談先が金融機関です。金融機関は財務に関する専門知識が豊富なため、M&Aでは避けて通れない資金調達の相談に乗ってくれます。近年、M&Aの需要の増加に伴い専門窓口を設けている銀行が増えているのも特徴です。専門家目線で適切なアドバイスをしてくれるため、心強い味方となってくれるでしょう。
ただし、金融機関が対応しているのは、基本的に大企業が実施するM&Aです。そのため、仮に相談できたとしても小規模の企業の場合は、会社の規模に見合ったM&A先が見つからない可能性があるため、注意しましょう。
事業承継・引継ぎ支援センター
3つめが事業承継・引継ぎ支援センターです。事業承継・引継ぎ支援センターは、国が全国47都道府県に設置している公的相談窓口で、中小企業診断士や税理士、公認会計士、金融機関OBなどの専門家が在籍し、無料で相談を受け付けています。
事業承継・引継ぎ支援センターが提供するサービスは、事業承継や会社の引継ぎに関するアドバイスのほか、情報提供、マッチング支援などです。
事業承継・引継ぎ支援センターは、全国に相談窓口があるため相談しやすいのがメリットといえます。また、公的機関であるため、第三者目線の公平なアドバイスがもらえることもメリットです。
ただし、取扱件数が少ないことや複雑なスキームには対応できない点には注意しましょう。
商工会・商工会議所
4つめが商工会・商工会議所などの公的機関です。商工会議所では、業務の一環として中小企業を対象としたM&A・事業承継支援をサポートしています。こちらも無料で相談でき、必要に応じて各分野の専門家を紹介してもらえます。
商工会・商工会議所は、中小企業の経営支援実績が豊富です。中小企業について熟知しているため、適切なアドバイスがもらえます。そのため、中小企業同士のM&Aであれば、相談するメリットが大きいといえるでしょう。
商工会議所に相談するデメリットとしては、商工会議所の会員になる費用が発生することです。相談から着手までは無料ですが、サポートを受けるためには年会費を支払って会員になる必要があります。
弁護士や税理士などの士業専門家
5つめが弁護士や税理士などの士業専門家です。法律の専門家である弁護士なら、秘密保持契約(NDA)などM&Aの各契約書に法的な不備がないかどうか相談できます。税理士であれば、税務デューデリジェンスについて相談できるでしょう。
それぞれの高い専門的知識や経験を活かして力になってくれる点はメリットです。半面、各士業がM&Aに必要な税務・財務・会計の知見をすべて持ち合わせているとは限りません。
M&Aをスムーズに進めるには、弁護士や税理士などと並行して、公認会計士などへの依頼が必要になる可能性があることは、理解しておきましょう。
まとめ
事業承継スキームごとになすべき手続きは異なり、それぞれに違ったメリット・デメリットがあります。したがって、それぞれの具体的な方法についてしっかりと理解しておくことが大切です。
事業承継は、単に株式や事業を売却することに留まりません。経営権や資産のほか、経営理念や信用、従業員、ノウハウなど数多くのものの引き継ぎを行います。そのため、事業承継スキームのなかで行われる具体的な手続きは多岐にわたり、専門的な知識やノウハウが必要であることも少なくありません。相談先としては、M&A仲介会社や金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターなどが挙げられますが、適切な機関に相談できる環境を作っておくことも重要です。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社はM&A全般をサポートする仲介会社です。M&A支援機関登録も行っており、M&Aに関するノウハウを持った事業者です。各領域に精通したコンサルタントが在籍しており、M&Aのあらゆるプロセスにおいて的確なアドバイスを提供できます。料金体系はM&Aご成約時に料金が発生する完全成功報酬型で、M&Aご成約まで無料で利用できます(譲受会社のみ中間金あり)。ご相談も無料です。事業承継においてM&Aをご検討の際には、ぜひお気軽にお問い合わせください。