M&Aにおける価格算定の方法は?適正金額を算出するアプローチ方法を紹介

2023年7月12日

M&Aにおける価格算定の方法は?適正金額を算出するアプローチ方法を紹介

このページのまとめ

  • M&Aにおける企業の売買価格は個別交渉 、またはオークションで決定する 
  • 交渉は、客観的な観点から算出した企業価値を用いる
  • 企業価値の算出方法には、3つのアプローチが存在する 
  • 中小企業の売買価格は「年買法」で求めることが一般的

企業の価格算定とはその名の通り、企業の価値を算出する行為のことです。上場企業の市場価格(株価)のような指針がない非上場企業でも、M&Aや相続などの際には、適切な計算方法を選択した上で企業価値を算出する必要があります。

この記事では、M&Aにおける企業の価格算定とは何か多角的に解説し、価格算定の流れ、中小企業の売買価格の相場、売買価格の決定方法をご紹介します。価格算定の3つのアプローチ方法も解説しますので、ぜひ参考にしてください。

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M&Aにおける企業の価格算定の流れ

M&Aにおいて必要となる企業の価格算定は、以下の流れに沿って進めるのが一般的です。 

  1. 企業価値の算出
  2. 売買金額の決定

 M&Aにおける企業売買では、算出された企業価値でそのまま取引されるわけではありません。実際の売買金額は、売り手企業と買い手企業の交渉もしくはオークションによって決定されます。 

企業価値の算出

M&Aの価格算定では、まず企業価値を算出しなければなりません。具体的には、売り手企業は自社の価値を、買い手企業は相手企業の価値をそれぞれ算出します。

企業価値は「事業価値」「株主価値」などと混同されやすいため、以下の表でそれぞれの意味を明確にしておきましょう。

概念意味
企業価値企業のトータルの経済的価値。「株式価値(時価総額)+負債価値(有利子負債)」もしくは「事業価値 + 非事業価値」の合計
事業価値企業が営む事業そのもの、そして事業用資産の経済的価値
株主価値企業価値の中で株主に帰属する経済的価値。「 企業価値 – 債権者へ 帰属する価値」で表される

事業価値 (Enterprise Value=EV)は、企業価値から非事業価値を取り除いた部分です。企業は、事業に関係した資産だけでなく、投資信託・投資株式・生命保険・余剰資金など、事業には関係ない資産も保有しているのが一般的です。M&Aなどの際に登場する「のれん」も事業価値に含まれます。のれんとは買収した企業の純資産よりも、M&Aにおける支払額が上回った部分です。

株主価値(Shareholder’s Value=SV)は、企業価値の中で株主の取り分に該当する部分です。企業の財産から負債を払い終え、株主に還元されるべき価値を指します。

これらの事業価値と株主価値を合計したものが、企業価値です。
企業価値の評価方法には「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」がありますが、これは後ほど詳しくご紹介します。
企業価値は自社のみで算出することも不可能ではありませんが、客観的な数値となるよう、税理士やM&Aの専門業者などの第三者に評価してもらうケースが少なくありません。 

売買金額の決定

企業価値の算出後は、その金額に基づいて実際の売買金額を決定していきます。

算出した企業価値はあくまでも参考価格(意思決定の土台)ですので、交渉の過程やデューデリ デンス(買い手が実施する売り手に対する企業調査)の結果などによって変化します。最終的な売買金額は最終契約締結の時点で決定するのが一般的です。 

当然ながら、買い手企業はできるだけリーズナブルに購入することを望み、売り手企業はできるだけ高く買って欲しいという思惑があります。そのため、相手企業への誠意を忘れず、戦略的に価格交渉を進めなければなりません。最終的な取引価格を詰めていく段階は、買い手側・売り手側の双方にとって非常に重要なフェーズと言えるでしょう。

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M&Aにおける企業価値の算出方法

企業価値の算出方法として、主に以下3つのアプローチ方法があります。 

方法内容
インカムアプローチ企業の将来的な現金のフローを主軸とした算出方法です。
マーケットアプローチ類似する上場企業の情報などを基にした算出方法です。
コストアプローチ企業の純資産を主軸とした算出方法です。 

それぞれのアプローチは「何を企業価値の主軸とするか」の基準が異なるため、同じ企業を評価しても全く異なる結果が出るケースも少なくありません。例えば、有望なスタートアップ企業をコストアプローチで算出すると、資産の少なさによって企業価値が低く算定されます。一方、インカムアプローチで算出すると、高収益であることや高い将来性が加味され、企業価値が高く算定される可能性があるといった具合です。 

適切な企業価値算出のためには、各企業に合ったアプローチを選択することが不可欠です。以下にて、それぞれの企業価値の算出方法について詳しく解説します。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、企業の将来的なキャッシュフローあるいは収益を主軸に企業価値を算出する方法です。
主な計算プロセスは、企業の将来のキャッシュフローあるいは将来生み出すことが期待される収益を、現在の価値に直すことです。

インカムアプローチのメリット・デメリットは以下の通りです。 

メリットデメリット
・将来性を盛り込んだ企業価値を算出できる
・M&Aにおけるシナジー効果(相乗効果)を考慮できる 
・不動産売買や事業投資の判断などにも活用できる
・主観的な判断が入る余地がある
・将来のリスクを反映させづらい
・会社の解散清算が決まっているケースなどでは将来性が評価できないため、利用できない
 ・フリーキャッシュフロー(企業が自由に使えるお金)がマイナスの場合は、利用できない
・計算が複雑

インカムアプローチでは、企業の将来性(将来の利益)が重視されることから、M&Aや投資を目的に企業価値を見極めたい企業に向いています。具体的には、高い成長性が見込まれるスタートアップやベンチャー企業、大手企業などに対して用いられるケースが少なくありません。その他、設備投資や事業投資の判断にもインカムアプローチを活用することが可能です。

一方、過去の実績やデータを重視して企業価値を見極めたい企業には、必ずしも適していません。

インカムアプローチに分類される手法には、「DCF法」「収益還元法」などがあります。 

DCF法

DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)は、1980年代から使われ始めた手法です。

企業の将来のキャッシュフロー( 企業が自由に使えるお金)を予測した上で、現在の価値に置き換えて、企業価値を算出します。事業の特殊性が加味できる点が大きな特徴です。高い成長性が期待できるベンチャー企業、あるいは大手企業・上場企業などのM&A にも用いられるケースが少なくありません。

DCF法の具体的な計算手順は以下の通りです。

  1. 各会計年度のフリーキャッシュフローを算出する
  2. 割引率を求める。WACC(加重平均資本コスト)の利用が一般的
  3. 「各会計年度のフリーキャッシュフロー÷割引率」で企業価値を算出する 

フリーキャッシュフローは、簡易的な計算(営業キャッシュフロー + 投資キャッシュフロー)でも算出可能ですが、DCF法の計算には利用できないため注意してください。 

収益還元法

収益還元法では、毎年同等の収入と仮定した場合の収益を、現在の価値に置き換える(割り戻す)ことで企業価値を算出します。DCF法より精度は落ちますが、計算が簡単な点がメリットです。

収益還元法の具体的な計算手順は以下の通りです。

  1. 平均収益を求める 
  2. 資本還元率を求める
  3. 平均収益÷資本還元率で企業価値を算出する

収益還元法は利益を年度毎に予測しないため、業績の変化が生じやすいケースには不向きです。つまり、平均収益が安定しない企業の場合、正しい企業価値の算定が期待できない可能性があります。 

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、市場取引を参考に企業価値を算出する方法です。具体的には、実際の株価、M&Aの際の評価額などから企業価値を算定します。 

マーケットアプローチのメリット・デメリットは以下の通りです。 

メリットデメリット
・株価や他社の財務指標などを利用するため、客観的な評価が期待できる 
・ 上場企業の財務データを元にするため、 情報の入手が容易 
・類似する業者や取引が存在しない場合は用いることができない
・非上場企業では使えないケースがある 
・インカムアプローチよりも企業の将来性が反映されない可能性もある 

マーケットアプローチは、客観的・相対的な企業価値を見極めたい企業に向いています。一方、類似業者・取引が存在しない企業を評価したいケースには向いていません。

マーケットアプローチには、市場株価法や類似上場会社法などの手法があります。 

市場株価法

市場株価法は、株式市場の株価を参考に、自社の企業価値を評価する方法です。一定期間の株価からその平均値を割り出します。

市場株価法の具体的な計算手順は以下の通りです。

  1. 一定期間における株価の終値×出来高株数の加重平均を求める
  2. 一定期間における取引株数(出来高)の加重平均を求める
  3. 「一定期間における株価の終値×出来高株数の加重平均」を「​​一定期間における取引株数(出来高)の加重平均」で割る

市場株価法は、市場評価のない非上場企業で用いることはできません。また、上場企業でも流動性が高くない(取引が少ない)ケースでは使えませんので、注意してください。 

類似上場会社法

類似上場会社法とは、特徴が似ている企業の売り上げや営業利益などを参考に、自社の価値を算定していく方法です。非上場企業も利用することができます。一方、自社の独自色が強いなど、参考にできる適切な類似企業がない場合は、使うことができません。

類似上場会社法の具体的な計算手順は以下の通りです。

  1. 類似した会社の株式時価の総額を求める
  2. 類似した会社の株式時価を、売上・営業利益・EBITDA倍率などの任意の指標で割って、係数を算出する
  3. 評価したい企業の任意の指標に、係数を掛け合わせて、企業価値を算出する

類似上場会社法の算出において用いられる指標の1つに 「EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)倍率」があります。EBITDA倍率には目的に応じた様々な算定方法がありますが、よく用いられるのは「営業利益+減価償却費」で算定する方法です。

コストアプローチ

コストアプローチは、現在の自社の純資産を主軸として、企業価値を算出する方法です。「ネットアセットアプローチ」とも呼ばれます。評価対象会社の財務データ(決算書)が用いられるため、客観的な評価が特に求められる場面などに向いている方法です。

コストアプローチのメリット・デメリットは以下の通りです。

メリットデメリット
・自社の財務データを用いるため、より客観的な評価が期待できる・帳簿が適正に作成されていない場合には、正確な企業価値の反映が難しい
・企業の将来性を反映させることが難しい 

コストアプローチは客観的な評価算定には優れていますが、のれん等が正しく計上されているか疑わしい場合などには、向いていません。また、あくまでもこれまでの事業で得た純資産を企業価値とみなしますので、今後どのように収益を生み出すことが期待できるか算定するには不向きと言えるでしょう。

コストアプローチには、簿価純資産法や時価純資産法などの手法があります。 

簿価純資産法

簿価純資産法とは、帳簿資産の足し合わせたものを企業価値として算出します。

簿価純資産法の具体的な計算手順は以下の通りです。

  • 会社の全資産と負債を確認する
  • 会社の全資産-負債で企業価値を算出する 

現金資産のみの中小企業価値の算出に利用される場合がある一方、正確な資産価値を帳簿上の数値が反映しているとは限らず、スタンダードとは言えない手法です。

時価純資産法

時価純資産法は、簿価純資産法と同じ算定方法です。ただし、計算の際は、算定に必要な全資産と負債を時価に修正することが必要です。中小企業の中でも時価変動が大きな資産を保有するケースで用いられることが少なくありません。

時価純資産法の具体的な計算方法は以下の通りです。 

  • 会社の全資産と負債を時価に修正する 
  • 会社の全資産-負債で企業価値を算出する。

時価による評価が可能なため、M&A においては簿価純資産法よりも適正な金額を導くことが期待できるでしょう。

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M&Aにおける中小企業の売買価格の相場

M&Aにおける企業の譲渡価格には、絶対的な相場は存在しません。企業の規模・業態・業績に応じて売買価格は大きく変化しますので、価格の決定は交渉次第と言えるでしょう。売り手企業と買い手企業は交渉を重ね、互いの希望額をすり合わせていくことになります。 

ただし、中小企業庁による「経営者のための事業継承マニュアル」では、中小企業のM&Aで一般的に用いられる評価として、時価純資産にのれん代(年間利益に一定年数分を乗じたもの)を加味した評価方法を紹介しており、これが交渉時における1つの相場と考えることもできます。これは「年買法(年倍法)」と呼ばれる企業価値の算出方法であり、具体的な計算例は以下の通りです。

年買法(年倍法)の計算例

「時価純資産3,000万円、年間営業利益1,200万円(3年分)」の企業のM&Aにおける価格相場 

3,000万円+(1,200万円×3年分)= 6,600万円
M&Aにおける価格相場 =  6,600万円

参照元:中小企業庁「経営者のための事業継承マニュアル

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M&Aにおける企業の売買価格の決定方法

M&Aにおける企業の売買金額の決定方法は、以下2つに大別できます。

  • 個別交渉による価格決定
  • 入札方式による価格決定

価格交渉は買い手と売り手が個別に交渉し、契約を交わすことで売買金額が決定します。一方、オークションは複数の買収希望業者による入札で売買金額が決定されます。

最後に、M&Aにおける企業の売買価格の決定方法について詳しく見ていきましょう。 

個別交渉による価格決定

会社買収の価格交渉は、個別交渉が一般的です。

個別交渉の具体的な流れは、まず企業の価格算定を基本合意書締結前に行い、M&A取引の基準価格とします。基本合意書締結後、デューディリジェンスを実施し、結果次第で価格が増減します。最終契約書締結前に、デューディリジェンスの結果に基づいた価格交渉(最終交渉)が実施され、最終的な取引価格が決定する流れです。 

取引価格に対して当事者同士が納得すれば、半年程度とスピーディーなM&A成立が期待できる点がメリットです。一方、最終価格の調整が難航すると、交渉に1年以上の歳月がかかる可能性があります。契約しているM&Aコンサルティング会社が月額制の場合、M&Aが長期化するほど費用負担が増大する点もデメリットと言えるでしょう。 

入札方式による価格決定

オークション方式は、売却対象に複数の買収希望企業がある場合に使用される方法です。オークション方式では、通常、M&A取引額が高くなる傾向が見られることから、買収企業にとっては不利な方法と言えるでしょう。

ただし、現在ではオークション方式が採用されることはあまりありません。売り手側が複数の買い手候補と交渉しなければならず、交渉力のあるM&A専門家と長期間にわたる契約を締結する必要があるためです。さらに、会社売却が完了するまでに売り手側が多くの費用を負担する必要があるため、オークション方式があまり採用されなくなったと推測されます。

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まとめ

M&Aにおける企業の価格算定は、M&A交渉のたたき台として活用されます。あくまでも参考値ですが、相手企業から不信感を持たれないよう、客観性のある価格算定が求められるでしょう。また、算定結果が意思決定に影響を与えますので、正確性と公正性を期さなければなりません。

アプローチ方法によっては非常に複雑な計算が必要となりますので、企業の価格算定は専門家に依頼するのがベターです。算定された企業価値は交渉やデューディリジェンスの結果を反映して変化しますが、買い手・売り手の双方が納得する取引価格に落ち着くことを目指して交渉を進めましょう。 

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