事業承継ローンとは?メリットや活用方法、融資を受ける条件を解説

2023年7月12日

事業承継ローンとは?メリットや活用方法、融資を受ける条件を解説

このページのまとめ

  • 事業承継ローンは中小企業の事業承継時に発生する費用のための融資商品
  • 事業承継ローンでは、事業承継を機に行う事業資金も借入可能
  • 事業承継ローンは民間金融機関以外に政府系の日本政策金融公庫も行っている
  • 事業承継ローンは、株式・資産の買取りや経営者保証の解除などのために活用できる
  • 事業承継ローンの注意点は「審査に時間がかかる」「法人借入の際の経営者保証」

後継者側の資金不足により事業承継が進められないでいる中小企業もあるのではないでしょうか。そのような場合に活用を検討したいのが事業承継ローンです。

本コラムでは事業承継ローンを有効活用できるように概要をまとめました。事業承継ローンのメリット・デメリットから活用例や手続きの流れ、事業承継ローンに申し込む場合の条件まで幅広く解説しています。事業承継ローンをご検討中の方はぜひ参考にしてください。

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事業承継ローンとは

事業承継ローンとは、事業承継を円滑に進めるために必要となる資金の融資を受けられる制度です。

事業承継とは、後継者に会社の経営や事業の運営を引継ぐことです。事業承継の実施に際しては、後継者側で資金が必要となります。また、事業承継を契機に新たな経営施策に取り組むケースがあり、その場合、会社の運転資金も必要です。
これらのような資金ニーズがあることから、通称「事業承継ローン」と呼ばれる融資商品が各金融機関で用意されています。

以下は、事業承継で後継者側に発生し得る費用です。

  • 贈与税(親族である後継者が先代経営者から自社株式や事業用資産の生前贈与を受けた場合)
  • 相続税(親族である後継者が先代経営者の死去に伴い自社株式や事業用資産を相続した場合)
  • 自社株式や事業用資産の買収費用(従業員が後継者になる場合およびM&Aで第三者が後継者になる場合)

いずれも高額になるケースが多いことから、事業承継をためらう後継者もいます。そのような状況を支援する目的で、事業承継ローンが取り扱われるようになりました。
なお、具体的な事業承継ローンの融資商品名は、各金融機関で異なります。

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事業承継ローンの種類

事業承継ローンは、民間の金融機関だけでなく政府系の金融機関でも取り扱われています。
事業承継ローンは、大きく分けて以下の2種類です。

  • 政府系金融機関の事業承継ローン
  • 民間金融機関の事業承継ローン

それぞれの事業承継ローンの内容をみてみましょう。

政府系金融機関の事業承継ローン

政府系金融機関とは、国が100%出資している金融機関のことです。
政府系金融機関はいくつかありますが、事業承継ローンを行っているのは日本政策金融公庫です。日本政策金融公庫には、「事業承継・集約・活性化支援資金」という名称の事業承継ローンがあります。

日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金には、国民生活事業と中小企業事業という分類があり、その違いは以下のとおりです。

  • 国民生活事業:主に個人事業主などの小規模事業者や創業企業および個人などが対象
  • 中小企業事業:主に中小企業が対象

国民生活事業と中小企業事業では、対象の違いから事業承継・集約・活性化支援資金の融資限度額が異なります。

  • 国民生活事業:7,200万円(うち運転資金4,800万円)
  • 中小企業事業:7億2,000万円

日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金の利率は、返済期間や融資額などで細かく分かれているのですが、おおむね以下のようになっています。

  • 国民生活事業:0.40~2.65%(担保ありの場合)、1.32~3.00%(担保なしの場合)
  • 中小企業事業:0.42~2.5%

また、返済期間は国民生活事業、中小企業事業共通で以下のとおりです。

  • 設備資金:20年以内(据置期間2年以内)
  • 運転資金:7年以内(据置期間2年以内)

なお、運転資金の返済期間について国民生活事業の場合は、従来の公庫融資からの借換が含まれていれば8年以内(据置期間2年以内)、中小企業事業の場合は、公庫融資借換特例制度の適用があるときは8年以内(据置期間原則1ヶ月以内)となっています。

参照元:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」

民間金融機関の事業承継ローン

銀行や信用金庫など民間の金融機関でも、広く事業承継ローンを取り扱っています。ここでは、4つの代表例をみてみましょう。まずは、名古屋銀行の事業承継ローンです。

  • 商品名:名銀事業承継ローン
  • 融資額:1,000万円以上
  • 利率:銀行所定利率(固定金利および変動金利)
  • 返済期間:20年以内(据置期間1年以内)
  • 事務取扱手数料:10万円(税別)

次に、伊予銀行の事業承継ローンを紹介します。

続いて、沖縄銀行の事業承継ローンです。

  • 商品名:おきぎん事業承継支援ローン
  • 融資額:100万円以上3億円以内
  • 利率:銀行所定の変動金利
  • 返済期間:運転資金は1ヶ月以上5年以内、設備資金は1年以上10年以内、不動産購入資金は最長30年、株式購入資金および納税資金は原則10年以内
  • 手数料:5,000円(税別)
  • 担保評価手数料:5万円(税別、担保を差し入れる場合)

最後に、西尾信用金庫の事業承継ローンを紹介します。西尾信用金庫は、愛知県西尾市に本店がある信用金庫です。

  • 商品名:にししん事業承継応援ローン
  • 融資額:個人は3億円まで、法人は5億円まで
  • 利率:原則年1.0%、証書貸付は変動金利
  • 返済期間:原則20年以内(融資期間10年超は不動産担保が必要)
  • 手数料:不動産担保を設定する場合は不動産担保設定手数料が発生

民間の金融機関の事業承継ローンに申し込む際には、該当金融機関と同一地域に会社が所在していることや、すでに取引実績があることなどが条件となるケースが多いようです。

また、事業承継ローンの内容も金融機関ごとに異なりますので、内容をよく確認して検討しましょう。

参照元:
名古屋銀行「名銀事業承継ローン」
伊予銀行「いよぎん事業承継支援ローン(事業承継・相続診断サービス付き)」
沖縄銀行「おきぎん事業承継支援ローン」
西尾信用金庫「にししん事業承継応援ローン」

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事業承継ローンの3つのメリット

事業承継ローンには、いくつかのメリットがあります。ここで取り上げる事業承継ローンのメリットは以下の3点です。

  • 事業承継費用が調達できる
  • 新規事業の資金が調達できる
  • 事業承継の相談ができる

それぞれの事業承継ローンのメリットを説明します。

事業承継の費用を調達できる

事業承継に要する費用を自己資金で賄えない後継者の場合、事業承継ローンで資金調達できれば、遅滞なく各種費用を支払えます。

例えば、贈与税や相続税などの税金は、納付期限を守らなければなりません。仮に手持ち資金が足りずに納付できなければ、さらに延滞税が課されることもありますが、そのような事態を防げるのです。

また、先代経営者の立場からすれば、後継者候補の納税資金が足りないばかりに事業承継ができずにいると、廃業に追い込まれてしまいます。後継者候補が事業承継ローンを利用すれば、廃業を回避することが可能です。

従業員が後継者の場合、後継者は自社株式や先代経営者名義の事業用資産を買い取らなくてはなりません。従業員と先代経営者との間柄なら、ある程度、買収費用の分割払いも可能でしょう。しかし、事業承継ローンのように20年の分割払いまで認めてもらえることはほとんどありません。長期の分割払いが可能な点で、事業承継ローンは有用といえます。

さらに、M&Aでの対価の支払いは一括払いで行われます。一括で支払うための買収資金が足りない場合、事業承継ローンで資金調達が可能になります。

新たな事業展開を行う資金ができる

事業承継ローンでは、事業資金の融資を行っているケースがあります。その場合、運転資金の調達も可能です。

親族や従業員が後継者となる事業承継では、後継者教育が行われます。後継者教育では、現経営者が経営戦略や経営方針を伝えるとともに、事業承継後の中長期の事業計画も話し合われるのが常です。

中長期の事業計画では、事業規模や業績の拡大、経営の多角化などが盛り込まれることでしょう。具体的には、設備投資や新規事業への進出などです。設備投資や新規事業の立ち上げなどは、多額の資金がかかります。

事業承継ローンの中には、日本政策金融公庫の事業承継・集約・活性化支援資金などのように、単に後継者の費用支払い用の資金だけでなく、事業承継を契機に行われる新たな事業への取り組みに対する融資も行われています。

事業承継の相談ができる場合もある

事業承継ローンを取り扱う金融機関のほとんどは、事業承継自体のサポートやアドバイス業務を行っています。実際、先ほどご紹介した伊予銀行の事業承継ローンは、「事業承継・相続診断サービス付き」と銘打っています。

多くの経営者と後継者は、初めて事業承継に向き合うことになるので、手探りで進める場合も多いでしょう。事業承継ローンの申し込みと並行して、事業承継を進める手順や具体的な手続きの内容などを金融機関に相談できることはメリットの1つです。

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事業承継ローンの2つのデメリット

事業承継ローンには、意識しておく必要がある以下のデメリットもあります。

  • 融資を受けるための審査に通過しなければならない
  • 利息が発生してしまう

具体的なデメリット内容を確認しましょう。

融資を受けるために審査に通ることが必要

事業承継ローンの融資は、無条件ではありません。返済能力を問われるため、審査があります。審査に通らなければ融資は受けられません。また、審査に通っても希望額の融資は受けられないこともあります。

一般的に以下のようなことに該当すると審査では不利になるでしょう。

  • 他にも多額の負債がある
  • 過去に融資の返済で延滞したことがある
  • 経営上、赤字または利益が出ていない
  • 事業承継計画に不備がある
  • 事業計画に根拠がない

事業承継ローンの審査に通らなかったり、希望額の融資が受けられなかったりする可能性もあるので、事業承継ローンだけを当てにするのはやめましょう。万が一、事業承継ローンが受けられなかった場合の対策も考えておくことが大切です。

利息が発生する

事業承継ローンはあくまでも融資です。補助金ではないため、たとえ政府系金融機関である日本政策金融公庫の事業承継ローンであったとしても、返済時には利息が加算されます。信用保証協会などの信用保証制度を使えば、その保証料がさらに上乗せされるのも避けられません。

事業承継ローンを使った場合、最終的な合計出費額は本来必要であった金額よりも高額になります。返済計画を立てる際には、利息分も考慮したうえで立ててください。

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事業承継ローンの活用例

ここでは、事業承継ローンで得た資金の具体的な活用例を記します。活用例は以下の3つです。

  • 自社株式や事業用資産の買取り資金
  • 経営者保証の解除
  • 納税資金

それぞれの内容を確認しましょう。

自社株式や事業用資産の買取り資金

従業員承継(社内承継)をする場合の後継者は、法人であれば現経営者が所有する自社株式を買取る必要があります。個人事業であれば、現経営者が所有する事業用資産(土地や店舗、設備、機械、備品、材料など)を買取らなくてはなりません。いずれも高額な費用がかかることが見込まれます。

一般の従業員では、株式や事業用資産の買取り資金を自前で用意するのは難しいことが多いでしょう。事業承継ローンの活用により、買取り資金の準備ができます。また、M&Aで第三者が事業承継しようとする場合も同様です。近年は、個人の起業家がM&Aの買い手となることもあり、そのような場合に事業承継ローンが活用されています。

経営者保証の解除

中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者が連帯して個人保証(経営者保証)をすることがほとんどでした。

そのため、会社に負債が残っている場合、後継者は事業承継により経営者保証も引継がなければなりません。経営者保証は精神的負荷も高く、これを嫌う後継者候補も多いでしょう。そこで、経営者保証の解除をするために事業承継ローンを活用する手があります。

その具体的な方法は、事業承継ローンを使った借り換えです。まず、事業承継ローンは保証人なしの条件で申し込みます。そして、事業承継ローンで得た資金で、会社に残っていた負債を返済します。事業承継ローンを保証人なしとしたことで、以前の負債に紐づいていた経営者保証は解消されるのです。

納税資金

先代経営者の親族(多くは子ども)が後継者の場合、相続か生前贈与で自社株式や事業用資金を引継ぎます。このとき、後継者に課されるのが相続税、または贈与税です。自社株式や事業用資産は資産価値が高いことから、税金も高額になることが予想されます。

一般的な相続であれば、財産を売却して現金化して納税資金を得ることが可能です。しかし、自社株式や事業用資産は経営や事業の運営に必要であるため、売却できません。そこで、手元に納税資金がない場合、事業承継ローンを活用することで納税のための資金を調達できます。

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日本政策金融公庫の事業承継ローンを利用するための条件

ここでは、日本政策金融公庫の事業承継ローンである「事業承継・集約・活性化支援資金」を利用するための条件を具体的に紹介します。

  • 申し込み可能者
  • 融資金の使途

国民生活事業と中小企業事業では、ほぼ条件は一緒です。

申込可能者の条件

日本政策金融公庫の事業承継ローンの申込者の条件は以下のようになっています。

  1. 融資後10年程度以内の事業承継を予定していて、なおかつ現経営者と後継者が共同で事業承継計画書を策定している
  2. 経営権が安定的に確保されている状況下で事業承継や事業の集約を行える
  3. 経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)の規定に基づいて認定を受けた中小企業の代表者・個人事業主および経営承継円滑化法第12条第1項第3号の規定による認定を受けた事業を営んでいない個人
  4. 事業承継を機に経営者保証の免除を取引金融機関に申し入れたことで取引金融機関からの資金調達が困難になっていて、公庫が融資に際して経営者保証を免除している
  5. 事業承継を機に第二創業(事業転換・新事業立ち上げ)をして5年程度以内またはそれを予定している

融資金の使途条件

日本政策金融公庫の事業承継ローンでは、上記それぞれの申込可能者の条件ごとに申し込める資金使途が決まっています。

  • 1は、事業承継計画を実施するための設備資金と運転資金
  • 2は、事業承継・集約を行うための設備資金と運転資金
  • 3は、経営承継円滑化法第15条に規定されている事業承継を行うための設備資金と運転資金
  • 4は、取引金融機関との取引状況の変化に応じた運転資金
  • 5は、第二創業に必要となる設備資金と運転資金

中小企業事業の事業承継ローンの場合、運転資金は長期運転資金です。

また、国民生活事業の事業承継ローンに限り、併用できる融資制度があります。無担保・保証人なしを希望する場合は、以下のとおりです。

  • 担保を不要とする融資制度(税務申告を2期以上終えている場合)
  • 経営者保証免除特例制度(税務申告を2期以上終えている場合)
  • 新創業融資制度(税務申告が2期未満の場合)

さらに、創業期の場合は「創業支援貸付利率特例制度」が併用できます。そのほか、設備投資を行う場合は「設備資金貸付利率特例制度(全国版)」や「設備資金貸付利率特例制度(東日本版)」が併用可能です。

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事業承継ローンを利用する流れ

事業承継ローンを利用する際の一般的な流れは、以下のとおりです。

  1. 融資申込額の算定
  2. 事業承継計画書の策定
  3. 事業承継ローンを申し込む金融機関への相談
  4. 必要書類の作成
  5. 事業承継ローンの申請
  6. 金融機関側の審査
  7. 融資決定
  8. 貸付契約の手続き
  9. 融資金の入金
  10. 返済開始

まず大事なのは、必要資金に対して不足額はいくらなのかを算出することです。事象承継ローンの使途が納税であれば税理士などに相談し、株式の買取り資金であればM&A仲介会社などに相談しましょう。

事業承継計画書は、日本政策金融公庫の事業承継ローンに申し込む場合は必須です。民間の金融機関の場合も、審査に通る確率を上げるために役立つので、用意するに越したことはありません。

金融機関への相談の際には、事業承継計画書以外に会社案内や3期分の決算書などを持って訪ねましょう。

事業承継ローンの申請に必要な書類は、法人の登記事項証明書、納税証明書、確定申告書、預金通帳の写し、決算書、事業計画書、経営者の身分証明書などですが、具体的には金融機関ごとに指示があるので、それに従って準備します。

金融機関の審査期間中、実地確認や経営者へのインタビューが行われる場合があり、対処が必要です。

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事業承継ローンを活用する際の2つの注意点

事業承継ローンを利用するにあたっては、以下の2点にも注意しておきましょう。

  • 融資実行まで一定期間を要する
  • 連帯保証の問題がある

それぞれの内容を説明します。

申請してすぐに融資を受けられるわけではない

金融機関へ事業承継ローンを申込むと、金融機関側の審査フェーズに移行します。一般に審査期間は1~2ヶ月とされており、それなりに時間が必要です。また、審査に通ったとしても、契約書の確認や、担保設定をする場合はその手続きが発生するなど、さらに時間がかかります。

したがって、自分が費用を必要とするタイミングから時間を逆算し、事業承継ローンの申請およびその準備をすることが肝要です。

連帯保証の問題がある

事業承継ローンにおいて、親族である後継者の納税資金や、従業員である後継者が自社株式や事業用資産を買取るための資金を借りる場合、借り手は後継者個人です。
一方、新たな設備投資や新規事業立ち上げなどの運転資金を借りる場合には、借り手は会社になります。

中小企業の場合、これまでは会社が融資を受ける際に、経営者の個人保証(連帯保証)が求められることがほとんどでした。昨今は「経営者保証に関するガイドライン」が策定され、経営者保証をなくしていく音頭がとられているものの、まだ完全に切り替わったわけではありません。

事業承継ローンを会社が申し込む場合でも、高額の融資となると経営者保証を求められる可能性があります。その点は留意しておきましょう。

この対策としては、信用保証協会の行っている「事業承継特別保証制度」を利用することで経営者保証を避けられます。ただし、この事業承継特別保証制度を利用する場合、別途保証料が発生することも覚えておいてください。

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事業承継に関連する支援・制度

ここでは、中小企業の円滑な事業承継を支援する目的で制定・設置がなされた法律・制度・公的機関を紹介します。

  • 経営承継円滑化法
  • 事業承継特別保証制度
  • 事業承継・引継ぎ支援センター

中小企業庁の「2016年版 中小企業白書概要」によると、日本の企業総数の99.7%は中小企業・小規模事業者が占めています(2016年6月時点)。現在、多くの中小企業で後継者不在による廃業危機が懸念されている状態です。

中小企業の廃業が多発することは、日本全体の経済をも揺るがす問題です。そのため、国も中小企業が円滑に事業承継を進められるよう、以下のような支援策を打ち出しています。

経営承継円滑化法

経営承継円滑化法の正式名称は「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」です。経営承継円滑化法では、中小企業の円滑な事業承継を後押しするために、以下の4項目が定められています。

  • 事業承継税制
  • 遺留分に関する民法の特例
  • 金融支援
  • 所在不明株主に関する会社法の特例

事業承継税制とは、相続または贈与によって自社株式や事業用資産を引継いだ後継者に対し、本来は課税される相続税または贈与税の猶予・免除を認める制度です。相続税・贈与税の負担を嫌って事業承継をためらう後継者も多く、それを解消する役割を狙っています。
事業承継税制の適用を受けるためには、定められている複数の条件を満たし、複雑な手続きを経たうえで都道府県知事から認定を受けることが必要です。

遺留分に関する民法の特例とは、民法で定められている相続人の最低限の取り分(遺留分)を、事業承継が関わる場合は特例を認めるものです。後継者が自社株式や事業用資産の相続後、別の相続人から遺留分の請求をされて株式や資産の一部を手放し、経営が混乱・困窮することを防ぐ狙いがあります。

金融支援とは、事業承継時に発生する費用(M&Aを含む)に対し、融資・信用保証の特例を認めるものです。要件を満たして都道府県知事の認定が得られると、金融支援の措置を受けられます。

所在不明株主に関する会社法の特例とは、事業承継の際に、会社が所在不明株主の株式強制買取りをする場合、所在不明の条件となっている音信不通期間5年を1年に短縮するものです。特例を利用するためには、都道府県知事の認定と所定の手続きが必要になります。

事業承継特別保証制度

保証協会が行っている事業承継特別保証制度は、会社が金融機関から融資を受ける際に行われる、経営者個人による連帯保証(経営者保証)をなくすことが目的です。

従来、ほとんどの中小企業では、経営者保証や経営者の個人資産を担保とすることが日常的に行われてきました。事業承継の後継者は、先代経営者が経営者保証を行っていれば、それも引継がなければなりません。

後継者が経営者保証を引継ぐのを嫌がる場合、事業承継が進まないというケースもあります。その解消を目指して、事業承継特別保証制度が導入されました。
事業承継特別保証制度に申し込むには、まず以下のどちらかの条件を満たす必要があります。

  • 2020(令和2)年1月1日以降に事業承継し、承継から3年未満の法人
  • 信用保証協会所定の書式による事業承継計画書を策定し、今後3年以内の事業承継を予定している法人

さらに、以下の条件全てを満たす必要があります。

  • 資産超過状態である
  • 返済緩和中ではない
  • EBITDA有利子負債倍率が10倍以内である
  • 法人と経営者の資産が分離されている
  • 与信取引のある金融機関へ申し込みする

保証内容は以下のようになっています。

  • 保証限度額:2億8千万円(8千万円を超える金額の部分は要担保)
  • 保証期間:一括返済は1年以内、分割返済は10年以内(据置期間1年以内)
  • 保証料率:0.45%~1.90%

2023(令和5)年4月より、中小企業活性化協議会および事業承継・引継ぎ支援センターで確認を受けた場合、保証料率の低減が可能です。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁からの委託事業として都道府県ごとに1つ設置(東京都のみ2つ設置)されている公的機関です。事業承継・引継ぎ支援センターでは、中小企業や個人事業主などの小規模事業者の事業承継を総合的にサポートしています。

具体的なサポート内容は以下のとおりです。

  • 親族内承継(経営者の親族が後継者に決まっている場合)のサポート
  • 従業員承継(会社の役員や従業員が後継者に決まっている場合)のサポート
  • 後継者不在企業の後継者探しのサポート

親族や従業員が後継者に決まっている場合でも、経営を行いながら実際に事業承継を進めるのは大変です。
事業承継・引継ぎ支援センターでは、「事業承継の進め方がわからない」「後継者教育をどう行うべきか」などといった悩みを抱える中小企業や個人事業主などに対し、専門スタッフがサポートやアドバイスをしています。

後継者不在の中小企業・個人事業主の場合、そのまま経営者が引退時期を迎えれば廃業を免れません。そういった事態を避けるため、後継者不在の経営者の相談を受け付けて、後継者探しもサポートしています。

その場合の具体的なサポート内容は以下のとおりです。

  • 事業承継・引継ぎ支援センターによる後継者候補(譲受企業)の紹介
  • 事業承継・引継ぎ支援センターに登録されているM&A仲介会社の紹介
  • 後継者人材バンクによるマッチング

後継者人材バンクとは、事業承継・引継ぎ支援センターが行う独自事業です。後継者不在企業の事業を承継することによって独立を目指す起業家を審査後に登録し、条件の合う中小企業から相談を受けたときにマッチングを行います。マッチングで両者が合意となれば、事業承継が成立するまでフォローする仕組みです。

参照元:
中小企業庁「2016年版 中小企業白書概要」、「2022年版 中小企業白書小規模企業白書

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まとめ

事業承継実施時には、後継者側で多額の費用が発生します。自前でその費用を支払えない場合の有効な手段が、事業承継ローンでの資金調達です。事業承継ローンは、政府系金融機関である日本政策金融公庫の事業承継ローンと民間金融機関の事業承継ローンの2つに大別されます。

また、民間金融機関の事業承継ローンは各金融機関によって内容・条件はさまざまです。どの金融機関の事業承継ローンを選択するかは、メリット・デメリットや注意点、活用方法などを鑑みて検討しましょう。

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