株式譲渡における議事録とは?その必要性やひな形、作成時の注意点を解説

2023年7月11日

株式譲渡における議事録とは?その必要性やひな形、作成時の注意点を解説

このページのまとめ

  • 株式譲渡の決議は、株主総会または取締役会の承認が必要
  • 株式譲渡の議事録は、正しく作成して一定期間保存する義務がある
  • 議事録は株式譲渡決議が行われた証拠となる書類
  • 議事録の記載に不備があると、裁判で不利になる

株式譲渡の際に使用する議事録を作成するのに、何を記載すれば良いかわからない方も多いのではないでしょうか。議事録は株式譲渡の決議を行った旨の証拠となる書類なので、不備のないように作成して保管する義務があります。

本コラムでは議事録の作成方法について、注意点なども含めて紹介していきます。あわせてひな型も紹介してるので、議事録作成に不安のある方はぜひ参考にして下さい。

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株式譲渡における議事録とは?2種の議事録の特徴

M&Aによる株式譲渡を行う場合、社内で譲渡承認決議をとる必要があります。社内決議を採択した事実を証明するものが議事録なので、M&Aにおいて議事録はとても重要な書類といえます。

一般的に取締役会が設置していない企業であれば株主総会、取締役会設置会社であれば取締役会での決議が必要になります。ここでは2種類の議事録の特徴について、見ていきましょう。

株主総会議事録の特徴

株式の譲渡決議に限らず、株主総会が開催された場合は議事録の作成が必要になります。議事録を作成して保管しておくことで、株主総会がいつどこで開催され、どのような決議がされたかを後々まで証明することができます。

そのため議事録はさまざまなケースで証拠文書として利用されることも多いでしょう。作成方法は書面、もしくは電磁的記録どちらでも構いません。

会社法上では議事録への押印の義務はありませんが、別途定款で押印に関する取り決めがある場合は従いましょう。保管する期間についても定められており、株主総会開催日から本店に10年、支店がある場合は写しを5年間保管することが義務付けられています。

取締役会議事録の特徴

株主総会と同様に取締役会でも、決議事項を記載した議事録の作成が義務付けられています。株主総会の議事録同様にいつどこで、どのような決議をしたかなど、定められた記載事項を記すことで、後々までの証明になります。

議事録の作成方法も株主総会と同様で、書面・電磁的記録どちらでも構いません。書面で作成した場合は出席した取締役や監査役の記名・押印、電磁的記録の場合は電子署名が必要になります。

保管に関しては取締役会開催日から本店にて10年とされており、支店での保管義務はありません。

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株式譲渡の承認において議事録を使用する場面

実際の株式譲渡の現場において、作成した議事録が必要になる場面は、下記の4つです。

  • 株式譲渡契約書の締結
  • 商業登記の申請
  • 裁判への証拠書類の提出
  • 議事録の閲覧謄写

株式譲渡においてはどれも重要な場面です。それぞれの場面について、詳しく見ていきましょう。

株式譲渡契約書の締結

議事録が必要になる1つ目の場面は、株式譲渡契約書の締結時です。株式譲渡のM&Aでは、最終的な契約書として譲渡企業と譲受企業が株主譲渡契約書を締結します。

株主譲渡契約書には譲渡が完了するまでに、譲渡企業・譲受企業双方が満たさなければならない条件や、譲渡株数・支払代金などが記載されます。

また株式譲渡契約書には、株式の譲渡承認決議が必要なことも盛り込まれ、社内で決議されていることの証明として議事録を添付します。つまり株式譲渡契約は、議事録がなければ成立しません。このように株主総会・取締役会の議事録は、とても重要な書類になります。

商業登記の申請

議事録が必要になる2つ目の場面が、商業登記の申請です。株式譲渡を決議した株主総会を行った後は、法務局への変更登記の申請が必要です。具体的には変更が生じた際、つまり株式譲渡が完了した時から2週間以内に変更した内容を申請します。

法務局へ提出する株式会社変更登記申請書と株主名簿に添えて、議事録が必要です。この際登記申請した内容と、議事録の内容が違っていては正確に登記されません。そのため議事録は決議内容に基づいて、正確に作成する必要があります。

裁判への証拠書類の提出

議事録が必要になる3つ目の場面が、裁判所への証拠書類としての提出です。株式譲渡の決議は、必ずしも株主総会や取締役会で承認されるとは限りません。

承認が取れず、さらに会社や指定買取人の交渉でもまとまらなかった場合は、裁判所で価格を決定することになります。裁判所には株式買取価格決定申立書という書類を提出しますが、添付資料として議事録が求められるでしょう。

この際の議事録は、株主総会や取締役会でどのような議論が行われたのか、という点を参考にされるので、不備や虚偽の記載があると作成者の立場はかなり悪くなってしまいます。

議事録の閲覧謄写

議事録が必要になる4つ目の場面が、議事録の閲覧謄写です。先ほども説明したように作成した議事録は、10年間の保存義務があります。そして株主総会の議事録は、株主からの閲覧請求があった場合には必ず応じなければなりません。

そのため株式譲渡に限らず、議事録は正確に作成して保存しておく必要があります。もし正当な理由なく閲覧を拒否した場合は、100万円以下の過料が課せられる場合もあるので注意しましょう。

ちなみに取締役会の議事録には機密事項が含まれるので、裁判所の許可が必要な場合もあります。

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株主譲渡承認手続きの流れ

株式を譲渡するには、株主総会・取締役会の承認が必要になり、議事録はその承認の証拠となる重要な書面です。ここでは実際にどのような手続きで株式譲渡の承認が得られるのか、流れを見ていきましょう。

1.譲渡承認請求書を提出する

株式の譲渡で最初に行うことが、譲渡承認請求書の提出です。譲渡したい株式に譲渡制限がある場合は、株式の売り手と買い手が共同で譲渡承認請求書を作成し会社に提出します。

譲渡承認請求書には、譲渡する株式数や種類、株式譲渡引受人の住所・指名などを記載しますが、書式に不安のある場合はインターネットで入手できるひな形を利用しても良いでしょう。

2.株主総会または取締役会において決議を行う

続いての流れとしては、株主総会または取締役会での決議です。譲渡承認の請求を受けた企業は、原則的には株主総会や取締役会を開く必要があります。そして請求書の提出を受けた2週間以内には株主に対しての通知が必要で、通知を怠った場合は承認したものとみなされるので注意しましょう。

株主総会での承認決議は、議決権の過半数を定足数とし、出席株主における過半数の議決権を獲得すれば決議とされます。取締役会の場合は、取締役の過半数が出席し、出席者における過半数の賛成があれば決議されます。

3.議決内容を通知する

次に行う流れとしては、議決内容を通知することです。株主総会・取締役会を行った結果、承認となった場合は、株式譲渡承認通知書を使って通知を行います。

通知を受けた取引当事者は、株式譲渡を実行します。協議を行った結果、否認される場合もあるでしょう。否認された場合は株式譲渡否認通知書をもって、否認されたことを通知します。

この際に注意したいのが、決議内容の通知は承認請求日から2週間以内に行う必要があることです。もし2週間以内に通知を行わないと、株式譲渡を承認したものと見なされます。そのため譲渡を認めない場合には、通知期限には注意しましょう。

4.株主名簿を書き換える

最後に行うのが、株主名簿の書換です。株式の譲渡契約が実行されたとしても、有効なのは譲渡・譲受する当事者間だけです。
対象会社や第三者に対して株式譲渡を対抗するためには、株主名簿の書き換えが必要となるでしょう。

株主名簿の書き換えは譲渡・譲受の当事者が共同で、会社に対して請求します。
こうして株主名簿は書き換えられることで、株主の譲渡が完了し第三者に対しても対抗できるようになります。

関連記事:株式譲渡とは?手続きの流れや注意点・メリット・デメリットなどを解説

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「株主総会」「取締役会」議事録の基本項目と雛形

ここからは株主総会と取締役会の議事録の、基本項目と雛形について見ていきましょう。議事録は決議を証明する重要な書面なので、ここで紹介している項目を参考にして不備なく記載するようにしましょう。

株主総会議事録の基本項目

まず株主総会の議事録の基本項目について、見ていきましょう。議事録に記載する項目は、会社法によって定められています。不備があると重要書類としての効力がなくなってしまうので、ここで紹介する内容を参考にして下さい。

株主総会を実施した場所、日時

株主総会を実施した場所・日時を記載します。どちらも詳しく正確に記載することが重要で、場所は都道府県名から、会議室の部屋名までを記載し、時間は開始時刻から終了時刻までを記載します。

例:総会の場所・日時
開催日時:令和〇年〇月〇日(〇曜日) 午前〇時〇分から午前〇時〇分
開催場所:〇〇県〇〇市〇〇町〇〇(〇〇ホール〇階、第〇会議室)

出席株主、議決権の状況

出席した株主や、保有議決権の状況など記載します。この項目は決議に必要な定足数や議決権を保有しているかの裏付けになるので、正確に記載する必要があります。ここの記載に不備があると、決議の正当性を主張できなくなるので注意しましょう。

例:出席株主と議決権の状況
株主総数:〇名
発行済株式総数:〇〇株
議決権を行使できる株主数:〇〇〇名
議決権を行使できる株主の議決権の総数:〇〇〇個
出席株主数(委任状による出席含む):〇〇〇名
出席株主における議決権数:〇〇〇個

出席役員の氏名または名称

株主総会に出席した取締役・監査役の役職と指名を、正確に記載します。総会へ誰が出席していたかは、後々重要になることも多いので漏れなく記載するようにしましょう。

例:出席役員の氏名または名称
出席取締役および監査役:取締役 〇〇〇治郎、監査役〇〇〇男

議長および議事録を作成した取締役の氏名

議長および、議事録を作成した取締役の名前を記載します。議長は代表取締役が務める場合が多く、議事録作成者は議長と同じでも構いません。定款で定めている場合には、議長の署名・捺印も必要になります。

例:議長の氏名
代表取締役 〇本◯吉
議事録作成担当取締役の氏名
代表取締役 〇元◯吉(議長と兼ねる場合は「および」として記載することも可能)

議事経過および審議結果

総会の開会から閉会までの流れを記載します。まずは総会の開始を議長は宣言し、審議へと移ります。続いて株式譲渡承認請求書が提出されたことを、議長から株主へ説明・承認の有無を審議して、その結果を簡潔に記載します。

例:総会の経過と議事の概要
代表取締役〇藤◯子は、議長席より開会を宣言。定数に足る株主の出席を得たため、本総会は適法に成立した旨を述べ、議案の審議に移った。

例:株式譲渡承認請求についての審議の結果
議長は当会社株主に対し、株主譲渡承認請求書が提出されている旨を説明。株式の譲渡の承認の有無について審議する旨を述べ、慎重に審議した結果、出席者の満場一致をもってこれを承認可決した。

株主総会議事録の雛形 

ここまで説明した内容を網羅した雛形を記載します。株主総会の議事録を作成する際の参考にして下さい。


株主総会議事録

開催日時:令和5年〇月〇日(水) 午前11時00分から午前11時50分
開催場所:大阪府△△市◇◇町1234(〇〇ホール3階第二会議室)

出席株主および議決権の状況:
株主総数 30名
発行済株式総数 1,000株
議決権を行使することができる株主数 30名
議決権を行使することができる株主の議決権の総数 1,000個
出席株主数(委任状による出席含む) 21名
出席株主における議決権数 700個

議長および議事録作成者:代表取締役 〇〇

出席取締役および監査役:専務取締役 〇〇 常務取締役 〇〇 監査役 〇〇

議事の経過および結果
定刻、議長〇〇は開会を宣言し、上記のとおり定数に足る株主の出席があったため、本総会は適法に成立した旨を述べ、直ちに議案の審議に移った。

議長は、当会社株主より、株式譲渡承認請求書が提出されている旨を説明し、譲渡を承認すべきか否かについて審議を希望する旨を述べ、慎重に審議した結果、出席者の満場一致をもってこれを承認可決した。

株式譲渡承認請求株主
住所:大阪府〇〇市〇〇町567
氏名:〇本〇男
譲渡株数:〇〇株

譲渡の相手方
住所:大阪府〇〇市〇〇町890
氏名:〇田〇子

以上をもって本日の議事が終了したため、議長は閉会を宣言した。上記決議を明確にするため、議長および出席取締役がこれに記名押印する。

令和5年〇月〇日

株式会社〇〇コーポレーション 株主総会
議長・代表取締役 〇〇 印
出席取締役    〇〇 印
         〇〇 印


取締役会議事録の基本項目と雛形

続いて取締役会議事録の基本項目と、雛形を説明していきます。記載する事項は概ね同じですが、株主総会と違って取締役会の議事録は機密事項があるため開示を前提としていません。

また書面で議事録を作成する場合は、取締役の署名・押印を要することが会社法で定められています。

取締役会の実施場所、日時

株主総会の議事録と同様に、実施場所や日時を詳しく記載します。

例:取締役会の場所・日時
開催日時:令和〇年〇月〇日(〇曜日) 午前〇時〇分から午前〇時〇分
開催場所:〇〇県〇〇市〇〇町〇〇(〇〇ホール〇階、第〇会議室)

取締役、監査役、議長を置いた場合は議長の氏名

出席した取締役・監査役の役職・氏名を正確に記載します。また議長を置いた場合は、議長の役職と氏名を記載します。

例:出席者および議長
出席者 取締役5名(取締役総数6名)
〇〇、〇〇、〇〇・・・
監査役2名(監査役総数2名)
△△、△△
議長:代表取締役□□□

議事経過および決議事項

株主総会の議事録と同様に、取締役会の議事録でも議事経過と決議事項を記載します。ここでは出席した取締役から質疑応答があれば、その内容を記載します。また株式の譲渡決議では、提出された株式譲渡承認請求書を紹介して、審議を行った結果を記載するようにしましょう。

例:取締役会の経過と議事の概要
議長〇〇は、議長席より開会を宣言。定数に足る取締役の出席を得たため、本総会は適法に成立した旨を述べ、議案の審議に移った。

例:株式譲渡承認請求についての審議の結果
議長は当会社株主に対し、株主譲渡承認請求書が提出されている旨を説明。株式の譲渡の承認の有無について審議する旨を述べ、慎重に審議した結果、出席者の満場一致をもってこれを承認可決した。

取締役会議事録のひな形

ここまで紹介した内容を網羅した雛形を記載します。


取締役会議事録

開催日時 令和5年〇月〇日(月)午後15時から午後16時まで
開催場所 当会社の本社5階第4会議室
出席者 取締役3名(取締役総数3名)
    〇〇、△△・・・
    監査役3名(監査役総数3名)
    〇〇、△△・・・ 

以上のとおり定数の出席があったため、本取締役会は適法に成立。議長を務める代表が、定刻に開会を宣言し、議案の審議を始めた。

議案 株式譲渡承認の件

議長は、株主より提出された株式譲渡承認請求について説明し、承認すべきか否かについて議場に諮ったところ、全会一致で下記のとおり可決承認した。

〇〇が所有する株式500株を、△△氏に譲渡する。

以上をもって本取締役会の議案を終了したため、議長が閉会を宣し散会した。

上記の決議を明確にするためここに議事録を作成し、議長および出席取締役と監査役がこれに記名捺印する。

令和5年〇月〇日
株式会社△△商事取締役会
議長 代表取締役〇〇 印
取締役〇〇 印


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株式譲渡における議事録作成の注意点

株主総会や取締役の議事録は、会社としての意思決定の証拠となる文書です。
そのため作成する際には慎重に行う必要があります。ここでは議事録を作成する際の注意点について、紹介していきます。

開催日および記載内容に誤りがないよう確認する

1つ目の注意点は、開催日及び記載内容に誤りがないように正確に記載することです。特に日付は重要で、日付が違っていると虚偽記載が疑われ議事録の証拠能力を疑われてしまうでしょう。時間や開催場所を含めて、議事録には事実を正確に記載することが大切です。

もし議事録の内容に誤りがあった場合、訴訟になった際には議事録に記載された誤った内容が事実として採用される可能性があります。そのため議事録では正確性がとにかく重要な事を意識して、作成するようにしましょう。

署名や印鑑の必要性を確認する

2つ目の注意点は、議事録への署名・捺印です。会社法自体では株主総会議事録への署名・捺印は定めていません。そのため署名・捺印がなくても議事録は有効ですが、多くの会社では定款で署名・捺印を定めています。

このような場合では署名・捺印が無ければ議事録は無効となってしまうので、注意しましょう。

作成時期、保管期間に注意する

3つ目の注意点は、議事録の作成時期と保管期間です。例えば株式の譲渡のような登記が変更になる決議では、2週間以内に登記申請する必要があります。そのため議事録は株主総会・取締役会ともに、速やかに作成するようにしましょう。

また先ほども説明したように、議事録には保管期間も定められています。株主総会の場合は本店に10年、支店には写しを5年保管する必要があります。取締役会の場合は本店に10年保管すれば問題ありません。

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まとめ

後継者不足でM&Aにて事業承継を行い、株式譲渡を検討している経営者の方は多いでしょう。

株式譲渡をする際には、株主総会や取締役会での決議が必要になり、さらに議事録で記録を残す必要があります。議事録は裁判でも採用される会社の意思決定の証拠となる書類なので、不備なく速やかに作成することが重要です。議事録を作成する際には、ぜひ本コラムを参考にして下さい。

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