M&Aの種類とは?各スキーム(手法)の特徴や選び方を解説

2023年6月22日

M&Aの種類とは?各スキーム(手法)の特徴や選び方を解説

このページのまとめ

  • M&Aは大別すると権利の移転・資本の移動を伴うもの、資本の移動のみのものの2つ
  • M&Aの種類のうち、合併スキームは新設合併と吸収合併
  • M&Aの買収スキームは、株式移転、株式譲渡、株式交換、事業譲渡、第三者割当増資
  • M&Aの種類のうち会社分割スキームは新設分割と吸収分割
  • 適切なM&Aスキームを選ぶには専門家への相談がおすすめ

ひと口にM&Aといっても多くのスキーム(手法)があります。名称が似ているもの、手法が似ているものなど、M&Aに不慣れだと混同しやすく区別がつけづらいでしょう。

本コラムでは、広義のM&Aスキーム2種類、一般的なM&Aスキーム9種類の内容を説明し、それぞれの違いを明らかにしました。また、M&Aのプロセスも解説しています。

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M&Aの種類は大別すると2つある

M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略称であり、直訳するとMergersは合併、 Acquisitionsは買収です。しかし、実際のM&Aにはもっと幅広い意味があります。合併や会社分割などの企業再編行為、会社や事業の買収・譲渡などの総称がM&Aです。

M&Aには数多くのスキーム(手法)・種類が存在します。それぞれのスキームの概要は後述しますが、それらは大きく2つの種類に分類されるのが特徴です。その違いは、M&Aで権利が移転するかどうかという点にあります。

権利の移転・資本の移動を伴うM&A

一般的なM&Aでは、売り手側に対し買い手側が対価を支払うこと(=資本の移動)により、売り手の持つ事業や会社組織そのものの運営権・経営権が買い手に移ります(=権利の移転)。

資本の移動の際、M&Aスキームによっては、対価は現金だけに限らず、買い手の自社株式や社債などを対価にすることも可能です。

ほとんどのM&Aスキームは、この種類に分類されますが、それらはさらに以下の3種類にカテゴライズされます。

  • 合併スキーム
  • 買収スキーム
  • 分割スキーム

合併スキームとは、複数の企業を1社に統合する組織再編を行うM&Aスキームです。吸収合併、新設合併の2種類が該当します。

買収スキームとは、買い手が売り手の事業や会社を買収して取得するM&Aスキームです。事業譲渡、株式譲渡、株式移転、株式交換、第三者割当増資が該当します。特に事業譲渡・株式譲渡は代表的なM&Aの種類です。

分割スキームでは、売り手企業の一部の組織(事業部)を買い手に譲渡します。組織を丸ごと分割することから、分割スキームも組織再編行為の1つです。吸収分割、新設分割の2種類があります。

資本の移動のみ行うM&A

M&Aの種類の中には、権利の移転は発生せず、資本の移動のみが行われるものもあります(広義のM&A)。具体的には、資本提携と合弁会社の設立です。

資本提携とは、対象企業の経営権に影響を及ぼさない程度の株式を取得することです。資本力の大きな企業が対象企業に出資するケースもあれば、双方がお互いに出資し合い株式を持ち合うケースもあります。経営権に影響を及ぼさない少額の出資・少数の株式取得であることから、権利の移転は発生しません。

一般に、資本提携では、企業間の協力関係を強め共同事業を行うなどの目的があります。

なお、類似する言葉に業務提携がありますが、こちらは資本の移動は伴わず、企業間で共同して業務を行う提携契約のことです。したがって、M&Aの種類ではありません。ただし、資本提携と業務提携を同時に行う資本業務提携の場合は、資本の移動が伴うことから広義のM&Aです。

合弁会社の設立とは、複数の企業が共同で事業を行うために、資金や経営資源を出し合って新たな別会社を設立することをさします。共同出資会社とも呼ばれる合弁会社の設立は、新規事業への参入や海外市場への進出などを目的に行われることが多いです。

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M&Aの種類:合併スキーム

ここでは、合併スキームに種類分けされるM&A手法の内容を説明します。合併とは、複数の企業を1社に統合する組織再編行為です。2社間に限定されたものではなく、3社以上で行われることもあります。

合併は、独立した企業間で実施されることもあれば、企業グループの再編として用いられることもあるのが特徴の1つです。

合併後、法人格がそのまま残る側を存続会社、存続会社に吸収され法人格がなくなる側を消滅会社といいます。つまり、売り手企業は消滅会社となり、買い手企業が存続会社になるということです。

他のM&A手法である買収スキームや分割スキームでは、売り手企業が消滅することはありません。この違いが、合併スキーム最大の特徴といえるでしょう。

また、合併では、その対価を現金以外に、買い手(存続会社)の自社株式や社債で行えます。資金を用意せずM&Aを実施できることは、現金しか用いることができないM&Aスキームとの大きな違いです。

合併の税務として重要なのは、法律で定める適格要件を満たすか否かという点にあります。適格合併と見なされれば消滅会社の資産を簿価で引き継げるため、事実上、課税を受けません。また、繰越欠損金を引き継げる場合もあります。

非適格合併の場合、消滅会社の資産を時価で計上しなければならないため、含み益があればその分が法人税の課税対象となります。

合併スキームに分類されるM&Aは、以下の2種類があります。

  1. 新設合併
  2. 吸収合併

新設合併と吸収合併それぞれの内容と違いを確認しましょう。

1.新設合併

新設合併とは、合併のために会社を新設し、その新設企業が存続会社となって行われる合併のことです。新設合併においては存続会社が新設企業であることから、登録免許税が発生します。また、許認可を引き継げないので、事業に必要な許認可は新たに取得しましょう。

そのほか、現金を対価にできないので注意しましょう。M&Aの対価は自社株式か社債かのどちらかになります。

2.吸収合併

吸収合併は、既存企業間で行われる合併のことです。売り手と買い手が親子関係となる買収スキームと比べて、対等なM&Aというイメージを持たれやすいです。また、新設合併よりもかかる手間や費用が少なく済むため、M&Aの現場では吸収合併が採用されることが多いです。

吸収合併には2つの注意点があります。1つは、対価に株式を用いた場合、売り手(消滅会社)の株主が買い手(存続会社)の新たな株主として加わることになるため、買い手側の株主構成が変わってしまうことです。株式の交換比率を決める際には、この点も鑑みて行う必要があります。

2つ目は、包括承継するうえでの注意点です。売り手企業の全てを丸ごと引き継げる包括承継は、個別承継と比べて手続き面が簡便に済みます。しかし、承継資産を個別に選べないため、不要な資産や負債なども引き継いでしまいます。売り手企業の経営状況や資産内容などをよく把握しておくことが必要です。

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M&Aの種類:買収スキーム

買収スキームに分類されるM&Aは以下の5つです。

  1. 株式移転
  2. 株式譲渡
  3. 株式交換
  4. 事業譲渡
  5. 第三者割当増資

これらは類似しているものもあれば、全く異なるものもあるため、それぞれ個別にどのようなM&A手法なのか説明します。

1.株式移転

株式移転は、親会社を新設し、既存の企業がその子会社となるM&Aスキームです。親会社は、子会社の全株式を取得して完全子会社化し、その対価として自社株式を渡します。複数の企業が同時に子会社となることも可能です。代表的な例としては、企業グループが持株会社体制に移行する際に用いられます。また、法改正により、現在は対価を金銭や社債にすることも可能となりました。

株式移転後、親会社(持株会社)がグループの管理を受け持つので、子会社はそれぞれの事業活動に専念できる点がメリットです。また、管理部門を親会社に集約させることで、管理コストも節約できます。さらに、合併のような組織の統合とは異なり、各子会社は独立した状態のままであることから、事業活動に支障は生じません。

株式移転の税務は、法律で定められている適格要件を満たすと優遇措置が受けられ、基本的に課税されません。ただし、対価に現金を用いた場合は、売り手(子会社の旧株主)側で譲渡益に対する課税を受けることがあります。一方、適格要件を満たさない株式移転の場合は、子会社の資産を時価評価して計上することになり、含み益は課税の対象です。

2.株式譲渡

株式譲渡とは、対象企業の株式を買い手が現金で買収するM&Aスキームです。買い手が過半数の株式を取得すれば、対象企業の経営権を得たことになります。株式の売買契約のみで簡潔に取引が完結することから、中小企業のM&Aで広く採用されているM&Aスキームです。

株式譲渡は包括承継ですから、買い手は対象企業を丸ごとそのまま引き継げます。対外的にも株主が代わっただけなので、事業活動が中断するようなことはありません。売り手が中小企業のオーナー経営者の場合、会社の規模や経営状況に応じた売却益を得られます。

一方、包括承継であることから、買い手は譲渡内容の選別はできません。不要な資産や負債なども引き継ぐことになります。特に、偶発債務などの簿外債務が含まれている場合、後日になって経営上の大きなダメージを受けるかもしれません。株式譲渡を実施する際は、より念入りにデューデリジェンス(投資対象の事業内容や経営実態を詳細に調査・検討すること)を行うのが肝要です。

株式譲渡の税務は、売り手が個人か法人かで異なります。個人の場合、譲渡益に対して20.315%の税金が課されますが、その内訳は以下のとおりです。

  • 所得税15%
  • 住民税5%
  • 復興特別所得税0.315%(2037年までの時限税)

売り手が法人の場合、株式譲渡益は法人税(法人税、法人住民税、地方法人税、法人事業税、特別法人事業税)の対象です。

ただし、法人税は企業の損益通算後の益金に対して課税されるため、損益通算が赤字の場合は、課税されません。2023(令和5)年5月現在の法人税の実効税率(全ての法人税の税率を通算した税率)は、約31%です。

3.株式交換

株式交換は、既存の企業間で完全親子会社関係を構築する際に用いられるM&Aスキームです。子会社の全株式を取得した買い手(親会社)は、その対価として自社株式を発行します。現在は、追加の手続きを行えば、株式以外にも現金や社債を対価に用いられるようになりました。

親会社が新設会社ではない点を除けば、その手法は株式移転と同様です。ただし、親会社が既存企業であるため、株式交換後、株主の構成比率や株式の一株価値が変動する点には注意する必要があります。

株式交換の税務も株式移転の内容と変わりません。適格要件を満たすか満たさないかで対応が変わります。

4.事業譲渡

事業譲渡とは、売り手企業が行う事業を売買するM&Aのスキームです。対象事業とそれに関連する資産などを選別して売買契約を行います。当事者間の同意は必要ですが、売り手は売りたいものだけ、買い手は買いたいものだけを選べる個別承継のM&Aです。事業譲渡の対価は現金で支払われます。

事業譲渡では売り手の手元に法人格が残ります。そのため、売却した事業以外の事業活動をそのまま継続することが可能です。不採算事業や非主力事業を売却し、主力事業に注力する際などに用いられます。

また、赤字企業などの場合、株式譲渡では買い手がつかないこともあるでしょう。その点、事業譲渡であれば、買い手が見つかる可能性が高まります。

事業譲渡を実施した場合、売り手には競業避止義務が法律で定められているため注意が必要です。競業避止義務では、売却した事業と同一の事業を、買い手が所在する区市町村および隣接する区市町村において行うことが20年間禁止されます(買い手の同意が得られれば義務の変更も可能)。

事業譲渡の買い手の場合、最大のメリットは個別承継により、簿外債務を引き継ぐリスクを負わないことです。しかし、個別承継では、事業に関する契約や許認可を引き継げません。取引先や従業員との契約は全て個別に同意を得て締結し直す必要があります。事業に必要な許認可も新たに取得しなければなりません。それらの煩雑な手間が発生することは覚悟しておきましょう。

事業譲渡の税務は、売り手企業に対して法人税が課されます。法人税の内容は株式譲渡で説明した内容と同様です。

譲渡される資産に消費税課税資産(土地、有価証券、債権以外のほとんどの資産)が含まれている場合、買い手はその消費税も負担します。消費税の支払いは、譲渡対価支払いと同時に売り手に渡し、税務署への納付は売り手が行う仕組みです。

なお、法人格を持たない個人事業主を対象とするM&Aを実施する場合、M&Aスキームの選択肢はこの事業譲渡のみになります。

5.第三者割当増資

第三者割当増資は、売り手側企業が第三者(買い手)に対し新株を発行、または自己株式の割り当てを行うM&Aスキームです。売り手は、返済義務のない事業資金を得ることを目的とします。買い手は、取得する株式数によっては経営権を握る場合もありますが、いずれにしても売り手企業の経営に対する影響力を持つことが目的です。

売り手の行為は、株式の売却ではなく株券発行による増資であるため、課税は受けません。既述した資本提携を実施する場合、その具体的な手法としては第三者割当増資を行うことになります。

買い手としては、TOB規制の適用外扱いで手続きを行えることがメリットです。ただし、既存の株主はそのまま存在するため、買い手がどんなに多くの株式を取得しても、株式譲渡のように一度に全株式は取得できません。

第三者割当増資の税務の注意点は、増資して資本金額が1億円超となった場合、法人税の税率が高くなることです。

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M&Aの種類:会社分割スキーム

会社分割は、売り手企業(分割会社)の事業部門を丸ごと買い手(承継会社)に譲渡するM&Aスキームであり、組織再編行為の1つです。組織、人材、関連する資産・契約・許認可などを包括承継します。対価は、現金・株式・社債のいずれでも可能です。

事業譲渡と類似していますが、こちらは包括承継であるため、個別手続きの煩わしさは発生しません。その代わり、譲渡内容を選別できないため、簿外債務を引き継ぐリスクを負います。なお、一部の特殊な事業の場合、許認可を引き継げないことがあるため、事前の確認が欠かせません。

会社分割では、事業譲渡と同様に売り手の法人格や譲渡した事業以外の組織は残るため、経営をそのまま継続できます。売り手の主な目的は、不採算事業や非主力事業を譲渡して主力事業に注力することです。また、企業グループにおける事業部門の再編目的で会社分割が採用されることもあります。

会社分割には、対価の受け取り手の違いで、以下の2種類の分類があります。

  • 分割型分割:分割会社の株主が対価を受け取る
  • 分社型分割:分割会社が対価を受け取る

会社分割の売り手の税務は、対価が現金の場合、株式譲渡と同じように個人では所得税、法人では法人税の対象となります。

会社分割の買い手の税務は、組織再編行為であることから、税制上の適格要件が適用されます。合併と同様に、適格要件を満たしていれば資産を簿価で引き継げるため、事実上、課税を受けません。非適格会社分割の場合は、承継した資産を時価で計上するため、含み益があればその分が法人税の課税対象です。

会社分割には、手法の違いで以下の2種類のM&Aスキームがあります。

  1. 新設分割
  2. 吸収分割

それぞれのM&A手法の内容と違いを説明します。

1.新設分割

新設分割は、会社分割のために新設した企業が承継会社となるM&Aスキームです。最もわかりやすい例としては、複数の事業を行う企業が、そのうちの一部門を切り離して独立させる際に用いられます。この場合、狙いは2種類です。

1つは、異なる事業を別会社化することで、それぞれの事業に特化した経営ができます。もう1つは、採算の悪い事業や資産を既存企業側に残し、有望な事業を別会社化して企業再生を図るケースです。いずれの場合も、M&Aの買い手がつきやすいというメリットもあるでしょう。

新設分割は、複数の企業間で実施することも可能です。同一事業を持つ複数の既存企業が、それらを統合して事業拡大するために新設分割が行われることもあります。

新設分割と吸収分割の最大の違いは、新設分割は会社を新設する手間と登録免許税が発生することにあります。また、新設会社であるために許認可が引き継げないことと、現金を対価にできません。

2.吸収分割

吸収分割は、既存企業間で会社分割を行うM&Aスキームです。売り手(分割会社)の事業部門を買い手(承継会社)が引き継ぎます。売り手としては、不採算事業や非主力事業を譲渡して経営をスリム化し、主力事業に注力する体制づくりが可能です。また、事業承継したい事業部門を譲渡する目的でも用いられます。

買い手としては、新規事業への進出(獲得)、既存事業の規模拡大などが目的です。企業グループにおいては、重複する事業を行う企業がある場合や、関連する事業が複数の企業にまたがっている場合などで、その集約のために吸収分割を行うこともあります。

買い手が吸収分割の対価を自社株式とする場合には、株主の構成比率や株式の一株価値が変動することに注意が必要です。

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M&Aの手法を選ぶポイント

M&Aの手法を選ぶにあたっては、それぞれのM&Aスキームの概要をしっかり把握しておきましょう。どのような手法で日数はどのぐらいかかるのかなど、大まかな内容をつかみ、比較できる状態にしてください。

M&Aの目的によっても、選ぶべきM&Aスキームが変わります。売り手の目的としては事業承継や業態転換(新規事業立ち上げ)、FIREなどの目的が考えられますが、目的がはっきりしていればM&Aスキームも決めやすくなるでしょう。

また、M&Aスキームごとの税負担の違いも把握しておきましょう。

M&Aの買い手が意識したいのは、M&A全体の予算額です。必要となる資金は、M&Aの対価だけではありません。M&A後の経営統合で発生する設備投資やその他の費用まで含めて、M&Aの予算組みをしておく必要があります。それには、M&Aスキームで得られる税務上のメリットも把握しておくとよいでしょう。

関連記事:M&Aとは?会社が事業承継するメリットや手法を紹介!案件増加の理由も解説

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M&Aの基本的な進め方

ここでは、M&Aの売り手の立場で、プロセスを説明します。M&Aは、以下のような流れで進めるのが一般的です。

  1. M&A仲介業者の選定
  2. 事前分析・相談
  3. 買い手企業の選定
  4. 秘密保持契約書の締結
  5. 交渉開始
  6. トップ面談
  7. 基本合意書の締結
  8. デューデリジェンス
  9. 最終交渉
  10. 最終契約書の締結
  11. クロージング
  12. PMI

各プロセスの概要を確認しましょう。

1.M&A仲介業者の選定

M&Aを進めるにあたっては、専門的な知識や経験が欠かせません。交渉相手探しも含め、中小企業が円滑にM&Aを進めるにあたっては、信頼できるM&Aの専門家に業務を任せるのが一般的です。専門家の候補としては、以下のものがあります。

  • M&A仲介会社
  • 士業の事務所
  • 金融機関
  • 事業承継・引継ぎ支援センター
  • M&Aマッチングプラットフォーム

M&A仲介会社

M&A仲介会社は、文字どおりM&Aの仲介業務を専業としている会社です。M&A仲介会社と契約する場合、その契約形態は以下の2種類があります。

  • 仲介契約:買い手・売り手の双方と契約し両者の間を取り持つように業務を進める
  • アドバイザリー契約:買い手・売り手のどちらかとのみ契約し、クライアントの最大限の利益実現を目的に業務を進める

仲介契約は交渉が早期にまとまりやすい傾向がありますが、その分、条件面の妥協も求められがちです。アドバイザリー契約は自社の利益が最大限になるようにM&Aを進められますが、目的達成のために交渉が長引いたり、場合によっては破談になったりする可能性があります。

士業の事務所や金融機関

近年では、弁護士、公認会計士、税理士などの士業事務所や金融機関もM&A仲介業務を行うケースが増えてきました。取引のある士業事務所や金融機関であれば自社の内情をよく知っているので、有望な相談先といえるでしょう。ただし、M&Aの専門家ではない点には注意が必要です。

事業承継・引継ぎ支援センター

後継者不在などを理由としてM&Aによる事業承継を考えているのであれば、事業承継・引継ぎ支援センターに相談する方法もあります。事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業庁からの委託業務として各都道府県に設置された公的機関です。中小企業の事業承継推進を全面的に支援しています。

ただし、事業承継・引継ぎ支援センター自体はM&Aの仲介業務は行いません。M&Aを進める場合は、提携するM&A仲介会社が紹介される仕組みです。

M&Aマッチングプラットフォーム

昨今は、M&Aマッチングプラットフォームも広く利用されています。M&Aマッチングプラットフォームは、インターネット上の専門サイトで、会社・事業の売り手と買い手をマッチングするサービスです。

登録は無料で行えるものが多いので、情報収集の手段として役立てる方法もあります。

2.事前分析・相談

M&A仲介業者を選定したら、業務委託契約を締結し具体的な検討を進めます。なお、M&A仲介会社の場合、正式契約を結ぶ前の事前相談は無料で実施していることがほとんどなので、複数の会社の事前相談を利用したうえで比較・検討し、契約する会社を選ぶとよいでしょう。

業務委託契約には秘密保持条項も含まれているので、M&A仲介会社に対しては会社の経営情報を開示し、売り手としてどのようなM&Aが望ましいか分析してもらいます。このとき、企業価値評価も行い、売却額の目安をつけることも行われるでしょう。

具体的なM&Aスキームの選定や方針が定まったら、次のプロセスに移行します。

3.買い手企業の選定

買い手候補は、M&A仲介会社が探してくれます。自社の希望する条件に合致する候補の情報が多数、寄せられるはずです。

この時点では相手の具体的な企業名などは伏せられている状態です。そのような状態の企業概要書をノンネームシートといいます。買い手候補の意向を打診するためには、譲渡側もノンネームシートを用意する必要があります。

ノンネームシートでは、具体的な企業名以外にも所在地は大まかな住所だけにとどめるなどして、会社名が特定されないようにします。基本的には、M&A仲介会社が作成してくれるため、特に心配する必要はないでしょう。

買い手候補を絞り込んだら、M&A仲介会社を介してノンネームシートを提示し、相手の意向を確認します。双方ともM&Aを進める意向が合致したら、次は交渉のプロセスです。

4.秘密保持契約書の締結

M&Aの買い手候補と交渉を進めるにあたっては、必ず秘密保持契約書を締結します。M&Aの検討では、買い手側から経営に関する重要な情報の開示が求められますが、それが第三者に漏れるのは防がねばなりません。

そこで、秘密保持契約書を締結し、秘密情報の範囲、取り扱い方、万が一秘密情報が漏れた場合の罰則規定、契約の有効期間などを定めます。

M&Aの交渉のなかで譲渡側も買い手の秘密情報を知ることになるので、自社の秘密漏えいだけでなく、知り得た相手の情報の取り扱いにも留意することが必要です。

5.交渉開始

秘密保持契約の締結後、情報を開示し交渉が開始されます。M&A仲介会社と契約していれば、M&A仲介会社が代わりに交渉を行ってくれます。

経営情報を開示したあとの段階で、買い手候補から意向表明書という書面が提出されます。意向表明書とは、買い手候補側が譲渡会社の企業価値評価を実施し、それに基づいた現段階でのM&Aの方針・条件などを正式に表明するものです。

意向表明書は必ずしも必要なM&Aプロセスではありません。また、買い手候補が意向を表明するだけのものであって、法的拘束力を持たない書類です。買い手候補として、具体的な条件を明示した方が交渉を進めやすいと考える場合に提示されることがあります。

6.トップ面談

M&Aの交渉の過程で必ず実施されるのがトップ面談です。売り手・買い手双方の経営トップが直接会って話し合いをします。この話し合いのテーマは、条件交渉ではありません。先述したように、M&Aの交渉は仲介会社が代行します。トップ面談では、主に以下のような事項がテーマです。

  • これまでの経営ビジョン
  • M&Aを実施することになった経緯・理由
  • M&A後の方針
  • 自社の社風や特徴
  • 人物像の見極め

トップ面談を経て、相互理解を深めましょう。

M&Aの実施にあたっては、単に数字の評価だけでなく、上記のような内容も加味したうえで総合的に結論の判断が行われます。

7.基本合意書の締結

M&Aの交渉において、大まかに条件合意が形成されたとき、基本合意書が締結されます。ただし、基本合意書は、現段階での合意内容の確認書という位置付けのものです。正式な契約書とは異なるため、基本的に法的な拘束力はありません。

それでも、合意内容を明文化することで、心理的な拘束性を持たせる効果はあるといえるでしょう。なお、基本合意書に記載する以下の事項は、例外的に拘束力を持たせることになっています。

  • 独占交渉権
  • デューデリジェンスへの協力義務
  • 秘密保持

基本合意書では、買い手候補の独占交渉権が明記されます。一定期間(1~3カ月程度)の間、買い手候補が独占交渉権を有することになり、売り手はその間、他の買い手候補と交渉が行えません。仮に交渉を行った場合には、罰則規定を受けます。買い手としては、この期間内に最終交渉までたどり着くことが目標です。

デューデリジェンスの詳細は後述しますが、これは買い手が実施する売り手企業に対する精微な調査を意味します。開示されている情報の精査や、さらなる情報の開示が必要になる場合があり、売り手の協力が欠かせません。そのため、売り手が建設的にデューデリジェンスへ協力することを基本合意書において義務付けます。

秘密保持については、すでに秘密保持契約を締結しているものの、基本合意の時点で新たに開示された秘密情報などもあり得るため、念のために記載するものです。

8.デューデリジェンス

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、売り手企業に対し財務・税務・法務・労務・事業・ITなどの分野ごとに実施される精微な調査のことです。買い手が実施するものであり、デューデリジェンスで発生する費用は全て買い手が負担します。

M&Aの現場では、英語の表記を略して「DD(ディーディー)」と呼ばれることも多いです。どの分野の調査を行うかは売り手企業の経営状況や規模で変わります。デューデリジェンスの実施期間は、短ければ1週間程度、長ければ1ヶ月以上かかるでしょう。デューデリジェンスの主要な目的は以下の3点です。

  • 売り手の企業価値評価を実施し、最終的な買収価額決定のための情報を集める
  • 偶発債務などの簿外債務が隠されていないかの調査(売り手が故意に隠す以外に売り手も気付いていない簿外債務が存在する場合がある)
  • クロージング後に売り手が実施するPMIの計画策定に必要な情報の収集

9.最終交渉

デューデリジェンスの終了後、買い手候補において最終的な買収条件の決定がなされ、最終交渉が行われます。デューデリジェンスで重大な問題でも発見されない限り、基本合意書の内容と大きく条件が異なることはないでしょう。デューデリジェンスで良い情報が得られた場合には、条件のが良くなることもあり得ます。

最終交渉で合意となれば、M&Aは最終局面です。

10.最終契約書の締結

最終交渉で合意した内容に基づき、最終契約書を締結します。便宜上、最終契約書と呼称していますが、実際には、用いられるM&Aスキーム名がついた契約書名です(以下の例を参照)。

  • 株式譲渡契約書
  • 事業譲渡契約書
  • 合併契約書
  • 会社分割契約書
  • 株式交換契約書など

最終契約書には法的拘束力があります。最終契約書の締結後は条件面の変更ができません。契約内容をきちんと履行しなかった場合の罰則規定も盛り込まれています。

最終契約書の内容チェックについては、締結前に専門家へ確認を依頼して慎重に進めることがおすすめです。

11.クロージング

クロージングとは、最終契約書に記載された内容を履行することです。売り手であれば、株式や資産の引き渡し、従業員の移籍、株主名簿の書き換え、株主名簿記載事項証明書の作成・発行などが該当します。買い手であれば、対価の支払い、登記変更届け、設立登記(新設合併・新設分割・株式移転の場合)などを履行します。

また、クロージングを実施するための前提条件もあり、それらを滞りなく済ませておくことも必要です。具体的には以下のようなものがあります。

  • 株主総会の開催とM&A実施の承認(第三者割当増資は除く)
  • 公正取引委員会への届出と審査(M&A後、買い手が一定の売上高規模を超える場合)

12.PMI

クロージング後、M&Aの買い手が主体となって実施するのがPMI(Post Merger Integration=経営統合プロセス)です。

PMIでは、以下の事項などの統合を進めます。

  • 組織
  • 人員配置
  • 規定・定款
  • 人事・労務(人事考課制度や給与規定など)
  • 経営管理システム
  • 経理・財務
  • 業務システム
  • コスト・原価
  • ITシステム

これらを問題なく、できるだけ早期かつ円滑に進めるには、事前のPMI計画策定がポイントとなります。クロージング後、即PMIを進めるためには、デューデリジェンスのプロセスと並行して、プロジェクトメンバーを決めて計画策定を始めることが肝要です。

PMI計画策定には、売り手企業の情報もないと統合計画が進められないため、デューデリジェンスにおいて上記の統合事項に関わる売り手企業の情報収集を行うことが必要になります。PMIの進捗がM&Aの成否を決めるため、その計画策定は重要な課題です。

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M&Aの成功事例

ここでは、レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社が仲介して成約した実際のM&A成功事例を紹介します。紹介するのは以下の2事例です。

  • HRテック会社とマーケティング支援会社とのM&A事例
  • Web制作会社と自社プロダクト開発会社とのM&A事例

どのようなM&Aスキームが用いられて成約に至ったのか、その概要を確認しましょう。なお、具体的な企業名は匿名で掲載します。

HRテック×マーケティング支援

このM&Aの売り手は人材会社向け業務支援システム開発会社(売上高2億2,500万円、営業利益5,600万円)、買い手は東証一部(当時)上場のマーケティング支援やWebメディアを運営している会社です。株式譲渡によりM&Aが成約し、売り手は買い手の子会社となりました。譲渡対価は、7億5,100万円です。

競合および関連する事業展開を行う売り手と買い手は、共に業績拡大を目的にM&Aを実施しました。M&Aにより、売り手は上場企業傘下としてさまざまシナジーを得て売上が増大しています。一方、買い手は子会社との協業により業界2位から1位の座を獲得しました。

Web制作×自社プロダクト開発

このM&Aの売り手はWeb制作、システム開発、CMS構築、UI/UX設計などを行う会社(売上高7,000万円、営業利益650万円)、買い手はマザーズ(当時)上場の自社プロダクト構築、SaaS系サービス販売、Web制作、クラウドサービス・ASPサービス開発などを行う会社です。

株式譲渡によりM&Aが成約し、売り手は買い手の子会社となりました。譲渡対価は2,500万円です。売り手としては、事業拡大と役職員のキャリアパス拡大などを目的にM&Aを実施しました。M&A後、売り手においては、社内管理体制の強化、自社プロダクトの開発、従業員のキャリアパス拡大、売り手オーナーの買い手企業執行役員CTO就任などが実現しています。

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M&Aの成功のために専門家を活用しよう

M&Aには多くのスキームがあります。目的に合致したM&Aスキームを選定するには、専門家からアドバイスを受けることがおすすめです。M&Aはスキーム選びだけでなく、各プロセスを進めるうえでも専門的な知識や経験が求められます。。

目的に合致した理想の相手とのM&Aを実現させるためには、M&A仲介会社などの専門家に業務を依頼してサポートを受けるのが得策といえるでしょう。複雑なプロセスを踏む必要があるM&Aを円滑に進められるようにサポートしてくれます。

したがって、M&Aでは、信頼できる専門家選びも重要な要素です。ぜひ活用しましょう。

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まとめ

一般的なM&Aスキームは9種類、広義のM&Aスキームは2種類です。手法が似ているM&Aスキームもあれば、対価の支払い方法やプロセスの進め方など全く異なるM&Aスキームもあります。どのM&Aスキームが自社にとって最適かを見極めるには、専門家に頼るのが近道でしょう。

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レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、M&A全般をサポートする仲介会社です。在籍する各コンサルタントは、どのような種類のM&Aスキームにも精通しています。
随時、M&Aについて無料相談をお受けしておりますので、どのようなお悩みでもお寄せください。

料金体系は、M&Aご成約時にのみ料金が発生する完全成功報酬型のため、料金を気にすることなくM&Aを進められます(譲受会社のみ中間金が発生します)。
M&Aでお困りの際は、ぜひお気軽にレバレジーズM&Aアドバイザリーにお問合せください。