会社の引き継ぎを行う方法とは?流れやメリット、後継者の選び方を解説

2024年6月26日

会社の引き継ぎを行う方法とは?流れやメリット、後継者の選び方を解説

このページのまとめ

  • 会社の引き継ぎには親族や社内などで後継者を探す方法やM&Aによる方法などがある
  • 会社の引き継ぎは経営が安定しているときや後継者の準備が整ったときに行うのが理想的
  • 会社の引き継ぎは長期目線で行うことや後継者への資金面の支援を行うことがポイント
  • 会社の引き継ぎを成功させるためには専門家に相談して支援を受けるのがおすすめ

「会社の引き継ぎを検討し始めたが、適切な方法やタイミングがわからない」とお悩みの経営者の方もいるのではないでしょうか。引き継ぎの方法の検討に始まり、後継者探しや育成などに時間を要するため、できるだけ長期的な計画を立てて進める必要があります。

本記事では、会社の引き継ぎの適切なタイミングや方法、成功のためのポイントをご紹介します。

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会社の引き継ぎを行う目的

会社の引き継ぎを行う目的として挙げられるのは、主に以下の4点です。

  • 会社の技術やノウハウを存続させるため
  • 従業員の雇用を継続するため
  • 経営者の利益を確保するため
  • 個人保証を解除するため

それぞれの内容を解説します。

会社の技術やノウハウを存続させるため

会社の引き継ぎを行う主な目的としてまず挙げられるのは、企業内で培われてきた技術やノウハウ、文化などを継承することです。

廃業を選択した場合、技術やノウハウは失われてしまいます。しかし、会社の引き継ぎをすれば、技術やノウハウの喪失を防ぎ、世代交代などを契機としたさらなる成長を目指すことも可能です。

参照元:中小企業庁「事業承継を知る」

従業員の雇用を継続するため

会社を引き継ぐ目的として、従業員の雇用を継続することも挙げられるでしょう。

会社を引き継ぐ方法のうち、特に事業承継であれば、基本的には従業員の雇用はこれまで同様の労働条件のもと継続されます。一方で事業譲渡の場合は、雇用契約を新たに締結する必要があるため、会社引き継ぎ前の労働条件とは異なってしまう可能性があります。

経営者の利益を確保するため

経営者の利益を確保することも、会社引き継ぎを行う目的の1つです。株主の売却益などを受け取ることで、経営者はまとまったお金を確保できます。このお金で、セカンドライフを満喫することも選択肢の1つです。

個人保証を解除するため

会社の引き継ぎの条件によっては、経営者が会社の融資の保証人となっている個人保証を解除できます。個人保証で会社の負債を保証しているような場合、その負債が引退後の生活に影響を及ぼす可能性もあるでしょう。会社の引き継ぎによって個人保証が解除できれば、懸念事項である保証債務から解放されます。

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会社の引き継ぎに適したタイミング

会社を引き継ぐタイミングには、特に決まりはありません。しかし、会社を引き継ぐためには後継者の存在が必要です。

いきなり「今日、会社を引き渡したい」と後継者に伝えても、後継者はもとより会社全体に混乱が生じることになるだけで、スムーズな引き継ぎは実現できません。

また、後継者だけでなく取引先も、急に代表者が変わることで混乱する可能性があります。社内外にトラブルを引き起こさないためにも、会社の引き継ぎは計画的に行うことが求められるでしょう。

会社の引き継ぎに適したタイミングとしては、次の3つが挙げられます。

  • 経営が安定しているタイミング
  • 後継者側の準備が整ったタイミング
  • 経営者が60歳前後になったタイミング

それぞれの内容について解説します。

経営が安定しているタイミング

会社の引き継ぎは、経営が安定しているタイミングで行うことが望ましいでしょう。

会社の引き継ぎにより経営者が変わり、これまでの業務の進め方などが変更になるため、どうしても社内が混乱しやすくなり、業績が悪化するリスクが生じます。そのため、少しでもネガティブな影響を抑えるために、経営が安定しているタイミングに行うことが理想的です。

また、第三者承継(M&A)も視野に入れた場合、自社が少しでも有利な条件で会社を譲渡することが重要となります。好条件で譲渡を行うためには、経営が悪化してしまってからではなく安定している状況のほうが適しています。

後継者側の準備が整ったタイミング

会社の引き継ぎは、後継者側の準備が整っているタイミングで行うことが重要です。後継者選びからはじまり、社内に適任と思われる人材がいない場合はM&Aの実施を検討する必要があるでしょう。

後継者がいる場合であっても、経営者としての能力が十分であるかどうかを見極めたり、必要に応じて教育を行ったりする必要があります。これらのプロセスをすべて終え、準備が整った段階で会社の引き継ぎを行うことが求められます。

経営者が60歳前後になったタイミング

引き継ぎに必要な期間を考慮すると、経営者が60歳前後になった時点で、会社の引き継ぎをスタートすることも理にかなっています。

一般的な経営者の引退時期は、「70歳前後」が多いとされます。会社の引き継ぎには、通常5〜10年の期間を確保することが必要です。70歳前後に本格的に引退することを想定した場合、そこから逆算すると、遅くとも現経営者が「60歳前後の時点」で事業承継に着手する必要があるでしょう。

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会社の引き継ぎの5つの方法

引き継ぎ方法メリットデメリット
親族内への引き継ぎ・税金の納付を猶予・免除されることがある
・従業員や取引先の理解を得やすい
・計画的な会社の引き継ぎが可能
・資産や株式の分散を回避できる
・社外で働く親族には十分な育成期間が必要
・相続人が複数いる場合は遺言書などを作成しなければならない
・能力のある後継者が不在の場合がある
・親族内で後継者争いの紛争が起こる可能性がある
従業員などの社内の人材への引き継ぎ・仕事を把握しているため引き継ぎしやすい
・経営方針や社風が引き継がれやすい
・経営能力がある人材を選びやすい
・人材の見極めが難しい
・後継者の資金面の負担が大きい
・社内や親族間で紛争が起こる可能性がある
社外の人材への引き継ぎ・手続きが簡便化する
・後継者に資金がないときでも会社の引き継ぎをおこないやすい
・社内や親族から理解を得られない可能性がある
M&Aによる引き継ぎ・後継者に適任の人材が周囲にいなくても会社の引き継ぎが可能
・企業の売却により、まとまった資金を受け取れる
・企業が発展する可能性がある
・相手企業が見つからない可能性がある
・従業員や取引先に影響を及ぼすことがある
M&Aによる一部の事業のみの引き継ぎ・特定の事業のみを引き継げる
・事業全体のM&Aよりも買い手がつきやすい傾向にある
・手続きが煩雑になりやすい
・事業用財産の譲渡益が大きい場合、相続税・贈与税の負担が大きくなる

会社を引き継ぐ方法は、誰を後継者にするかによって次の5つに分類できます。

  • 親族内での引き継ぎ
  • 従業員などの社内の人材への引き継ぎ
  • 社外の人材への引き継ぎ
  • M&Aによる引き継ぎ
  • M&Aによって行う一部の事業のみの引き継ぎ

それぞれの特徴やメリット、デメリットを説明します。

親族内で後継者を探す

子や配偶者などの親族内で後継者を探す方法があります。親族内での会社の引き継ぎには、次のメリットがあります。

  • 贈与税や相続税の納付を猶予・免除されることがある
  • 従業員や取引先の理解を得やすい
  • 計画的に会社の引き継ぎをおこなえる
  • 資産や株式の分散を回避できる

親族内で会社の引き継ぎを実施すると、事業承継税制により贈与税や相続税の納税が猶予されるだけでなく、最終的に免除される可能性もあります。ただし、猶予・免除のための制度を利用するためには、所定の手続きを行うだけでなく、都道府県知事から認定を得る必要がある点に注意しましょう。

また、従業員や取引先の理解を得やすい点も、親族内での会社の引き継ぎのメリットです。早めに後継者を公表しておけば、さらに理解を得やすくなるだけでなく、後継者が事業や経営について学ぶ時間も長くなり、引き継ぎ後に事業が不振に陥るリスクも軽減できます。

資産や株式の分散を回避できることもメリットです。現在の資産・株式をそのまま引き継ぐことができるため、今回だけでなく次回の会社の引き継ぎもスムーズに進みやすくなります。

一方、親族内での会社の引き継ぎには、次のデメリットもあります。

  • 親族が社外で働いているときは、十分な育成期間が必要
  • 経営者の相続人が複数いる場合は、適切な遺言書などを作成しておく必要がある
  • 経営能力のある後継者がいない可能性がある
  • 後継者の座を巡って、親族内で紛争が起こる可能性がある

社外で働いている親族を後継者に指名する場合は、育成期間を十分に取る必要があります。早期から自社で仕事内容や経営について学ばせるだけでなく、社内外の人々との関係強化が欠かせません。

また、経営者が亡くなったときに、スムーズに会社の引き継ぎを進めるための準備も必要です。経営者の相続人が複数いる場合は、後継者以外に株式などの会社の資産が相続されないように、遺言書などで意思表明しておかなくてはいけません。遺言書作成や相続を専門とする司法書士などに相談し、トラブルなく後継者が会社を引き継ぐことができるようにしておきましょう。

親族は多くても、経営能力があり、なおかつ本人も会社を引き継ぐ意思を持っている人物がいない可能性もあります。この場合は、無理に親族内で後継者を探すのではなく、従業員や社外の人物も候補として検討しなくてはいけません。

反対に、会社を引き継ぐ意思を持っている親族が複数存在する可能性もあります。このようなケースでは、親族内で紛争が生じるかもしれません。

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社内で後継者を探す

優秀な役員や従業員に会社を引き継がせる方法もあります。社内の人材を後継者にすることには、次のメリットがあります。

  • 仕事を把握しているため引き継ぎしやすい
  • 経営方針や社風が引き継がれやすい
  • 経営能力がある人材を選びやすい

すでに長期にわたって働いている役員や従業員なら、仕事内容を把握しているだけでなく、取引先との関係も強固な可能性があり、スムーズな引き継ぎを実現できます。また、引き継ぎ後も経営方針や社風が大きく変わることがなく、経営者交代によってほかの従業員が働きにくくなることも少ないと考えられるでしょう。

経営能力がある人材を選びやすい点も、社内での引き継ぎのメリットです。時間をかけて能力があるかを見極めれば、引き継ぎ後すぐに事業不振に陥るといったケースは回避しやすくなります。場合によっては、現在よりも会社が成長するかもしれません。

社内の人材に会社を引き継がせることには、メリットも多いですが、デメリットも想定されます。よくあるデメリットとしては、次のものが挙げられます。

  • 人材の見極めが難しい
  • 後継者の資金面の負担が大きい
  • 社内や親族間で紛争が起こる可能性がある

会社の引き継ぎまでに後継者に経営について学ばせる時間が十分にあればよいのですが、普段の仕事ぶりだけで後継者として任命してしまうと、経営に向かない人材を選んでしまう可能性があります。
また、親族に会社を引き継ぐ場合と異なり、後継者自身のリーダーシップが問われるため、社内でほかの従業員から高く評価されている人材であることも必要です。

後継者に十分な資金がない場合は、会社に対する支配権を獲得できるほどの株式を取得することが難しい可能性もあります。資金面での負担が大きすぎる場合は、後継者が会社の引き継ぎを辞退するかもしれません。

社内の人材に会社を引き継がせることが、社内や親族間でトラブルを生む可能性もあります。たとえば社内に後継者と同程度、あるいはそれ以上に評価されている人材がいる場合などは、派閥が生まれて社内が二分、三分してしまうケースも想定されるでしょう。

親族内に会社を引き継ぎたいと考えている人物がいる場合も、社内の人材へのスムーズな引き継ぎが難しくなります。後継者を指名する前に、社内だけでなく親族内でも十分に話し合い、理解を得ておくことが必要です。

外部の後継者を指名する

後継者として、外部の人材を指名する方法もあります。たとえば、信託を用いて受託者として後継者を指名することで、会社の引き継ぎを実施することも可能です。

信託により後継者を指名すると、かならずしも株式譲渡を実施する必要がないため、手続きが簡便化するだけでなく、後継者に資金がないときでも会社の引き継ぎを行いやすくなります。ただし、信託による会社の引き継ぎは一般的ではないため、社内や親族から理解を得られない可能性も想定されるでしょう。

M&Aを実施する

後継者を指名せず、会社の引き継ぎを実施することもできます。たとえば株式譲渡や事業譲渡、合併などのM&Aの手法を用いて会社や事業を売却すれば、取得者側が新たに経営者を立てるため、現経営者が後継者を決める必要がありません。M&Aには次のメリットがあります。

  • 後継者にふさわしい人材が社内や親族にいなくても、会社の引き継ぎができる
  • 会社や事業の売却により、まとまった資金を受け取れる
  • 会社や事業が発展する可能性がある

周囲に後継者としてふさわしい人材がいなくても、M&Aを実施すれば取得した企業が次の経営者を決めてくれます。後継者探しで悩む必要もなくなり、売却が完了した時点で引退することも可能です。

また、会社や事業を売却することで、まとまった資金を受け取れることもメリットです。老後資金や新規事業の立ち上げ資金としても活用でき、経済的な不安も解消されます。

譲受した側の才覚によっては、会社や事業が発展する可能性もあります。元経営者として経済的な恩恵を受けなくても、会社の知名度が上がることは名誉なことでもあり、将来的に新規事業を立ち上げる場合には資金調達や事業開拓の点で有利に働くかもしれません。

また、会社の株式を一部保有した状態で売却する場合であれば、配当金が増えるなどの経済的な恩恵も期待できます。

ただし、次のデメリットも想定されるため注意が必要です。

  • 相手企業が見つからない可能性がある
  • 従業員や取引先に影響を及ぼすことがある

M&Aは相手企業がなければ成立しません。希望する条件で会社や事業を譲受する相手が見つかるとは限らないため、場合によっては会社の引き継ぎを実現できず、廃業することにもなります。

また、M&Aが成立した場合でも、相手企業が従業員や取引先を現状と同様に扱うとは限りません。給与が下がる、勤務地が変わる、取引量が減るなどの変化が生じ、従業員や取引先に不利益をもたらす可能性があります。

理想的な相手企業を探すには、M&Aを専門的に請け負う仲介会社に相談することがおすすめです。実績豊富なM&A仲介会社であれば、候補企業も多数保有しているため、希望条件に合う相手企業が見つかりやすくなります。

M&Aを行い一部の事業のみ引き継ぐ

M&Aによって事業の一部を売却し、規模を縮小したうえで既存の事業の後継者を選定する方法です。この手法のメリットは、以下のとおりです。

  • 特定の事業のみを引き継げる
  • 事業全体のM&Aよりも買い手がつきやすい傾向にある

M&Aを実施し一部の事業のみを引き継ぐメリットとして、選択と集中の観点により特定の事業のみを残し、その事業のみを引き継ぐことが可能な点が挙げられます。また、買い手側も事業全体を買収するよりもリスクを軽減できる傾向があることから、M&Aが成立しやすいといえるでしょう。

その反面、以下のようなデメリットが挙げられます。

  • 手続きが煩雑になりやすい
  • 事業用財産の譲渡益が大きい場合、相続税・贈与税の負担が大きくなる

一部の事業を売却するにあたり、企業の財産や権利を個別に移転しなければなりません。そのため、事業全体を売却するよりも、手続きが煩雑になる点がデメリットといえます。事業用財産の譲渡益が大きい場合、相続税・贈与税の負担が大きくなる点にも注意が必要です。

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会社の引き継ぎの流れ

会社の引き継ぎは、次の流れに沿って実施することが一般的です。

  1. 会社の現状を明確にする
  2. 会社引き継ぎの方法を決める
  3. 引き継ぎのスケジュールを決める
  4. 事業計画書の作成またはM&Aのマッチングを行う
  5. 後継者を育成する
  6. 関係各所に会社の引き継ぎを伝える
  7. 経営権を後継者に引き渡す
  8. 株式の引き継ぎを行う
  9. 実務の引き継ぎを行う
  10. (M&Aの場合)PMIを実施する

順に見ていきましょう。

1.会社の現状を明確にする

はじめに、会社の現状を明確にします。会社の引き継ぎ後の自社の強みの伸ばし方や弱みへの対策を考えることが目的です。

具体的には、事業の成長性や商品力・開発力の有無、利益を生み出す仕組みなどを客観的に評価します。そのために、自社株の評価や月次売上および費用、売れ筋商品、業界内の位置づけなどを分析しましょう。

スムーズな引き継ぎを目指して後継者の有無や候補者に適性があるかどうかの確認のほか、親族内の引き継ぎであれば相続財産の特定、相続税額のシミュレーション、納税方法の検討なども行う必要があります。

現状把握は経営者自身でも行えるものの、全国の引き継ぎ支援センターや金融機関、税理士やM&A仲介会社などの専門家に協力を仰ぐことで、より効率的に進められます。

2.会社引き継ぎの方法を決める

次に、どのような方法で会社の引き継ぎをするのかを決定します。経営者だけでなく役員や家族、後継者などの意見も参考に、適切な方法を選びましょう。

なお、引き継ぎの方法によって、手順・スケジュールが異なります。たとえば社内や親族で後継者を決める場合であれば、できるだけ早く後継者の育成に取り組むことがスムーズな承継につながります。しかし、M&Aによって会社の引き継ぎを実施する場合であれば、後継者の育成に時間を割く必要はなくなり、自社の経営状況の整理やM&A仲介会社への相談が優先事項になるでしょう。

3.引き継ぎのスケジュールを決める

会社引き継ぎの方法を決めた後、計画的な事業承継がおこなえるようにスケジュールを決定します。事業承継のスケジュールは、経営者本人が把握するだけでなく、後継者・役員・従業員・取引先などの関係者も把握しておくほうがスムーズです。

ただし、どの方法を選んだ場合でも、スケジュールどおりに進むとは限りません。また、引き継ぎの途中で経営者に不慮の出来事が起こり、経営に携われなくなる可能性もあります。さまざまなケースを想定し、余裕を持ったスケジュールを組んでおくようにしましょう。

4.事業承継計画書の作成またはM&Aのマッチングを行う

親族内・社内承継では、事業承継計画書の策定を行います。事業承継計画書は、会社を引き継ぐ時期や方法を具体的に定めるものであり、経営者と後継者が共同で作成することが望ましいでしょう。

一方、M&Aによる会社の引き継ぎではM&Aの買い手とのマッチングを行います。M&Aの実施に際しては、法律や税務、会計などに関する専門的な知識を必要とすることに加え手続きが煩雑であることから、実務を金融機関やM&Aの仲介会社などの事業承継の専門家に依頼することが一般的です。そのため、まずはM&A仲介会社などとの契約を締結し、買い手候補探しを依頼します。

買い手候補が見つかり条件面での折り合いがついたら、最終的な契約締結に向けてM&Aが進められます。

5.後継者を育成する

経営者が後継者を指名する場合は、後継者の育成も必要です。社員であれば一緒に行動することで、経営ノウハウを教えるだけでなく、取引先との関係構築もサポートできます。

M&Aにより会社の引き継ぎを実施する場合でも、経営が軌道に乗るまでは現経営者は退任せず、事業の引き継ぎや後継者育成に携わるケースもあります。

6.関係各所に会社の引き継ぎを伝える

関係各所に会社の引き継ぎを伝えることも大切なプロセスです。今後の取引において、会社の引き継ぎを行うことを関係者に理解しておいてもらうことが、非常に重要であるためです。タイミングを見て、従業員や株主、取引先などへの説明を行っておきましょう。

7.経営権を後継者に引き渡す

適切なタイミングで経営者が退任し、経営権を後継者に引き渡します。過半数の株式を後継者に所有させること、あるいは支配株主などからの支持を得て株主総会で取締役として選任され、なおかつ取締役会で代表取締役として選任されることにより引き継ぎを実施するケースもあります。

8.株式の引き継ぎを行う

法人の場合、会社の引き継ぎにあたって経営者が保有する株式の引き継ぎを行います。譲渡の方法は、相続・贈与・株式売買のいずれかであり、従業員への引き継ぎでは経営者が従業員に株式を売却することが多いです。後継者が資金を用意できないような場合は、贈与や遺贈といった方法を選択することもあります。

株式を無断で譲渡や売買できない「譲渡制限株式」の場合は、株主総会や取締役会での承認を得る必要があります。また、経営権のみを譲渡するような場合は、株式の引き継ぎは行いません。

9.実務の引き継ぎを行う

株式の引き継ぎなども終わったら、最終的に後継者に実務の引き継ぎを行います。会社の引き継ぎをきっかけとして、事業が発展することも少なくありません。そのため、後継者が従来の経営方法にとらわれすぎず、新たな視点で実務に携われるようにサポートすることが求められます。

10.(M&Aの場合)PMIを実施する

M&Aによる第三者承継では、PMIを実施します。PMI(Post Merger Integration)とは、M&Aが終わった後に、売り手と買い手の経営を統合するプロセスのことです。

M&A実施後のコスト削減やシナジー効果の獲得を目的として、人員配置や役員構成、労働条件などの見直しを行うことが多いです。そのほか、共同でのITシステムの利用や原材料の購買、配送会社の集約なども行われます。

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会社を引き継ぐメリット

会社の引き継ぎを行うことで経営者が得られるメリットは、主に以下の3点です。

  •  会社を存続できる
  •  売却・譲渡益を得られる
  •  従業員の雇用を守れる

各メリットを解説します。

会社を存続できる

会社の引き継ぎを行うことで、会社を存続できます。廃業を選択することは、その技術やサービスの喪失と同義です。しかし、会社を存続することで技術やサービスを残し、その会社が社会にもたらす価値を維持することが可能です。

売却・譲渡益を得られる

会社の引き継ぎによって、経営者が売却・譲渡益を得られる点もメリットです。株式譲渡で事業承継した場合は、経営者は株式の売却益を得られます。

一方で廃業する場合は、精算の過程で会社の資産が売却され、その収益は株主への分配や債務の返済に使用されます。通常、廃業による売却では、市場価格よりも低い価格で資産を売却することが多く、経営者が売却・譲渡益を得ることは困難だといえるでしょう。

従業員の雇用を守れる

会社の引き継ぎを行うことで、従業員の雇用を守れることも大きなメリットです。廃業を選択した場合は従業員は働く場を失ってしまいますが、会社の引き継ぎをすれば経営者が変わっても会社は存続するため、雇用が守られます。

ただし、経営者が変わることで経営方針も変わり、雇用条件が変更になる場合もあります。会社の引き継ぎで雇用が守られたとしても、給与が下がるなど労働条件が低下してしまうと、離職を招いてしまうことに注意が必要です。

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会社を引き継ぐデメリット

会社を引き継ぐことによる、経営者のデメリットは主に以下の2点です。

  • 後継者探しや育成に手間がかかる
  • 引き継ぎに時間がかかる

それぞれの内容を見ていきましょう。

後継者探しや育成に手間がかかる

会社の引き継ぎに必要な後継者探しや育成は、手間がかかります。親族内や社内で探す場合であってもM&Aを行う場合であっても、後継者にふさわしい人物を探し出し、本人および周囲に承認してもらうことは、かなりの労力がかかります。

また、会社の引き継ぎに際して手間がかかるのは、後継者探しだけではありません。後継者を育てるための教育も一朝一夕では終わらず、相応の手間がかかります。

引き継ぎに時間がかかる

会社の引き継ぎには、かなりの時間を要します。もちろん、後継者をどこから探すか、スムーズに見つかるかといったことはケースバイケースであり、一言で会社の引き継ぎといっても個々のケースでかかる時間が異なるでしょう。ただし、全般的に廃業よりも時間がかかる傾向にあります。

なお、M&Aによる事業承継では、株式譲渡と事業譲渡でも要する時間は異なり、通常は事業譲渡のほうが時間を要することが多いといえます。

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会社の引き継ぎを成功させるポイント

会社の引き継ぎを成功させるポイントは、主に以下の5点です。

  • 10年間などの長期目線で計画する
  • 「事業承継ガイドライン」「事業承継マニュアル」を読む
  • 経営権の分散対策を行う
  • 後継者に対する資金面の支援を行う
  • 専門家のアドバイスを受ける

各ポイントを解説します。

10年間などの長期目線で計画する

会社の引き継ぎは、10年間などある程度の長期目線で計画する必要があります。短期間のうちに後継者人材の選定や育成を終わらせるよりも、ある程度時間をかけて行うほうが、会社の引き継ぎが成功する可能性が高いです。

M&Aで会社を引き継ぐ場合も、買い手探しや条件交渉を長期的な計画のもとで進めていくことが望ましいでしょう。

「事業承継ガイドライン」「事業承継マニュアル」を読む

会社の引き継ぎをトラブルなく進めるために、中小企業庁が作成した「事業承継ガイドライン」や「事業承継マニュアル」の内容を確認しておくことをおすすめします。

「事業承継ガイドライン」は、中小企業経営者の円滑な事業承継を促すことを目的に事業承継のポイントをまとめたもので、「事業承継マニュアル」は事業承継ガイドラインをわかりやすくまとめたものです。

どちらにも事業承継計画の立て方や、会社の引き継ぎを成功させるためのポイントが記載されており、会社の引き継ぎの準備をどのように進めればよいかわからないときに役立ちます。

経営権の分散対策を行う

会社の引き継ぎを行った後、経営が不安定になることを避けるために、経営権が分散しないように対策しておくことも大切です。少数株主が残った状態での会社の引き継ぎでは、少数の株主からさまざまな要求をされたり、株主代表訴訟が行われたりするリスクがあるためです。

M&Aの手法を採用する場合、経営権の分散は、M&Aの成立までに時間や手間がかかってしまう要因にもなり得ます。

経営権が分散しないように自社株式の生前贈与や安定株主の導入のほか、遺言の作成、種類株式の発行、信託の活用などの対策を講じておきましょう。

後継者に対する資金面の支援を行う

会社の引き継ぎをスムーズに行うためには、後継者に対する資金面の支援も欠かせません。

後継者が従業員の場合、基本的には株式を買い取ってもらうことになりますが、個人が簡単に用意できる金額ではありません。そのため引き継ぎを見据えて後継者を役員に任命し、増額した役員報酬で株式を買い取る資金を用意してもらうなど、対策を行う必要があるでしょう。

専門家のアドバイスを受ける

会社の引き継ぎを成功させるために、コンサルタントやM&A仲介会社、税理士などの専門家のアドバイスを受けることもおすすめです。

会社の引き継ぎは複雑なプロセスを経て進めるものであり、法務や税務、会計などの多岐にわたる知識が求められます。これらの専門家は、他社の事例についての知識も豊富に持っているため、他社事例を参考にすることも可能です。

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会社引き継ぎの2つの注意点

経営者にとって、会社の引き継ぎは避けられない問題です。スムーズな引き継ぎのためにも、次の点に注意しておきましょう。

  • 後継者にかかる負担が大きくなる
  • 事業承継の方法によっては多額の税金が発生する

各ポイントを説明します。

後継者にかかる負担が大きくなる

どのような事業承継であれ、後継者の負担は大きいといえます。たとえば親族内での引き継ぎであれば贈与税や相続税の負担、社内人材への引き継ぎやM&Aであれば、株式買取の費用を工面する問題などが想定されます。

後継者の負担を正確に把握し、税金や費用を支払う方法についても具体的に決めておきましょう。

事業承継の方法によっては多額の税金が発生する

事業や企業の譲渡により利益が生じたときや、不動産の権利を変更したときなどには、多額の税金が発生します。事業承継を進める前にどの程度の税金が課せられるか試算し、工面する方法についても決めておかなくてはいけません。

なお、想定される税金の種類や具体的な税額については、専門家に相談することがおすすめです。M&A仲介会社に相談すれば、税理士などの税務の専門家のサポートも受けられるため、会社の引き継ぎだけでなく税金の問題もトータルで解決できます。

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会社を引き継ぐ後継者を選ぶ4つのポイント

後継者を誰にするかによって、事業承継の成功は決まるといっても過言ではありません。社内や親族、外部から後継者を選ぶときは、次のポイントに注目してください。

  • 勤勉さ
  • 柔軟性
  • 忍耐力
  • 計画性

いずれの資質も、経営者に必要なものです。これらの資質が求められる理由について解説します。

勤勉さ

事業が軌道に乗っていないときはもちろんのこと、軌道に乗っているときでも、経営者には勤勉さが求められます。経営者が勤勉であればそれが模範になり、従業員も勤勉に働き、会社の経営がさらに安定化します。

柔軟性

世の中のニーズは常に変化しています。現時点で軌道に乗っている事業であっても、将来的にどうなるかは予測できません。そのため、経営者にはその時期に応じて事業を変える柔軟性が求められます。

忍耐力

事業がうまくいかず、つらい時期を迎える可能性もあります。従業員の生活がかかっていることを理解し、つらさに耐える忍耐力も経営者には必要です。

計画性

アイデアを思いつくだけでは、事業を形にすることはできません。計画を立てて一つひとつこなしていく計画性も、経営者には欠かせない資質です。

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会社の引き継ぎができないときは廃業になる

会社の引き継ぎ(事業承継)が実施できないときは、廃業することになります。また、状況によっては、会社の引き継ぎを実施しないで、廃業を選ぶほうがよいケースもあります。事業承継を検討する前に、廃業の可能性についても考えておきましょう。

廃業を選ぶほうがよいケース

次の状況に当てはまるときは、廃業を選ぶほうがよい可能性があります。

  • 経営を続けることが精神的に苦痛
  • 後継者が育っていないが、年齢的・体力的に経営に関わることが難しい
  • 後継者がいない

経営を続けることに対して精神的な苦痛を感じている場合は、たとえ後継者に引き継いでも、会社の経営状況などが気になり、苦痛を感じるかもしれません。廃業を選択し、会社の経営に囚われない人生を始めることも検討してみましょう。

年齢的・体力的に経営を続けることが困難にもかかわらず、後継者が育っていないときや、そもそも後継者の候補がいないときも、廃業が選択肢に挙がります。

廃業を選ばないほうがよいケース

以下のようなケースでは、廃業を踏みとどまることがおすすめです。

  • 従業員の次の職場が決まっていない
  • 取引先や顧客に影響がある
  • 借金がある
  • M&Aに漠然とした不安がある

従業員の転職先が決まらないときなどは、すぐに廃業するのは得策とはいえません。また、取引先や顧客にも迷惑をかけるときも、すぐに廃業することはおすすめできません。廃業する前に説明責任を果たすだけでなく、同様のサービスや商品を利用する方法なども提示しておきましょう。

廃業により借金が残る場合も、注意が必要です。事業を継続していれば返済の目処が立つ場合でも、廃業すると収入の手段を失い、返済が難しくなるかもしれません。

また、後継者の候補がいなくてもM&Aにより事業承継を実現できますが、M&Aについての知識が不足し、漠然とした不安がある場合は選択しづらく感じるかもしれません。しかし、M&Aについてよく知ることにより、不安が解消されてM&Aについて現実的に考えられるようになる可能性があります。相談を無料で受け付けているM&A仲介会社も多いので、質問したいことや悩みをリストアップしたうえでまずは問い合わせてみましょう。

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事業承継に役立つ公的支援

ここからは、事業承継に役立つ公的支援についてご紹介します。各支援の概要については、下表をご参照ください。

概要
事業承継・引継ぎ支援センター・国が設置する公的な相談窓口
・M&Aや親族内に事業承継などに関する相談を無料で行える
事業承継・引継ぎ補助金・会社の引き継ぎを契機として新しい取り組みを行う中小企業などを支援する制度
・中小企業庁が実施
事業承継税制・事業用資産や株式などを相続や贈与で譲り受けた場合、相続税、贈与税を猶予できる

それぞれの内容を解説します。

事業承継・引継ぎ支援センター

会社の引き継ぎの際に相談できる公的機関です。各都道府県ごとに設置されており、「第三者への引き継ぎを目的にしたM&A」「親族内での事業承継」などの相談を受け付けています。公的機関のため、無料で相談できる点がメリットです。

参照元:独立行政法人 中小企業基盤整備機構「事業承継・引継ぎ支援センター」

事業承継・引継ぎ補助金

事業継承・引継ぎ補助金」は、中小企業庁による、会社の引き継ぎを契機として新しい取り組みを行う中小企業などを支援する制度です。取り組み内容によって、「経営革新枠」「専門家活用枠」「廃業・再チャレンジ枠」の3つの事業に分かれています。上限額や補助率は、申請枠や類型によって異なり、2024年4月に募集が実施された9次公募のポイントは以下のとおりです。

  • 【経営革新枠】補助上限額:600万円または800万円以内(補助率は2/3または1/2以内)
  • 【専門家活用枠】補助上限額:600万円以内(補助率は2/3以内または1/2)
  • 【廃業・再チャレンジ枠】補助上限額:50万円以内(補助率は2/3以内または1/2)

最新の公募要領については中小企業庁の公式サイトをご確認ください。

参照元:中小企業庁「事業継承・引継ぎ補助金」

事業承継税制

事業承継税制は、後継者が事業用資産や株式などを相続や贈与で譲り受けた場合、一定要件を満たしていれば、対象株式などにかかる相続税や贈与税を猶予できる制度です。

「特例承継計画」を提出することで、相続税も贈与税も100%猶予されることがポイントです。

参照元:国税庁「事業承継税制特集」

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まとめ

会社の引き継ぎ方法には、親族内や従業員、社外の人材から後継者を探す方法と、M&Aによる引き継ぎがあります。M&Aによる方法については、さらに会社全体を第三者に引き継ぐ方法と、一部の事業のみをM&Aで切り離し、残った事業の後継者を探す方法があります。

会社の引き継ぎを成功させるためには、「長期目線で計画する」「事業承継ガイドラインなどを確認する」「経営権の分散対策を行う」「後継者に対する資金面の支援を行う」などのポイントを意識しましょう。

会社の引き継ぎは、複雑なプロセスを経て進めるものであり、法務や税務、会計などの多岐にわたる知識が求められます。そのため、計画段階から専門家に相談することが成功への近道となります。

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