事業承継ファンドとは?M&Aとの違いやメリット、選び方を解説

2023年6月20日

事業承継ファンドとは?M&Aとの違いやメリット、選び方を解説

このページのまとめ

  • 事業承継ファンドは、後継者不在に悩む会社の事業承継の選択肢のひとつ
  • 事業承継ファンドは経営課題を解決し、企業価値を高めてくれる
  • 事業承継ファンドの活用により、経営の独立性を確保したサポートを受けられる
  • 事業承継ファンドの活用場面には、後継者不足の解消や後継者の教育などがある

中小企業の経営者で、「後継者がいない」という悩みを持つ方は多いのではないでしょうか。事業承継ファンドは事業承継の方法のひとつで、後継者不足の問題を解消し、企業価値を高める支援を行っています。

本コラムでは、事業承継ファンドの概要や利用するメリットを解説します。自社に合うファンドの選び方も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

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事業承継ファンドとは

近年は中小企業を中心に後継者不在に悩む会社が増えており、事業承継の選択肢のひとつとして事業承継ファンドが注目されています。事業承継ファンドは事業承継の解決と企業の成長を支援する組織であり、活用により後継者不足の解消が可能です。

ここでは、事業承継ファンドの概要を解説するとともに、注目される背景について紹介します。

事業承継ファンドは事業承継の選択肢のひとつ

事業承継とは、会社の経営権や資産など事業に関するすべてのものを後継者に引き継ぐことを指します。事業承継ファンドは、そのような事業承継の方法のひとつです。

事業承継ファンドは投資家から資金を集め、その資金で後継者のいない企業の株式を買い取り、経営権を取得します。経営支援を行いながら企業価値を高めたあと、M&Aで譲渡して売却益を得るという仕組みです。

事業承継ファンドが注目される背景

事業承継ファンドが注目されているのは、深刻な後継者不在問題があるためです。
帝国データバンクの「全国企業『後継者不在率』動向調査(2022)」によると、全国・全業種約27万社のうち、後継者が不在である会社は57.2%という高い数字になりました。

しかし、2022年のこの調査結果は、M&Aの活用が増加していることも表しています。
事業承継の相談窓口が全国的に普及したことなどの要因から、調査開始の2011年以来、後継者不在率が初めて60%を下回っています。
また、後継者候補の割合は親族内承継が最も高い状態が続いていましたが、2022年の調査では、初めて「非同族」が36.1%と首位になりました。

後継者が不在のために会社を廃業するケースも多く、廃業により会社が保有するノウハウや技術、地域の雇用・サービスが失われます。事業承継ファンドは、このような状況を救済する方法のひとつとして注目されるようになったのです。

かつてファンドによる企業買収には「乗っ取り」などネガティブなイメージを持たれる傾向がありましたが、事業承継ファンドの浸透により印象は大きく変わってきています。

事業承継ファンドは買収後、経営のプロを派遣して企業価値の向上を目指します。会社の存続が叶うとともに企業価値が高まることは買収される側の企業にとってもメリットが大きく、ポジティブなイメージに変化しています。

参照元:帝国データバンク「全国企業「後継者不在率」動向調査」(2022)

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事業承継ファンドとM&Aの違い

事業承継ファンドとM&Aは対象企業の株式を取得するという点で共通していますが、その目的が大きく異なります。M&Aは対象企業の技術力やノウハウ、人材などを自社内に取り込み、シナジー効果(相乗効果)を生み出すことが主な目的です。

これに対し、事業承継ファンドは経営ノウハウや資金など、ファンドが持つ資源により経営課題を解決し、企業価値を高めることを主な目的とします。

M&Aでは、買い手企業の文化や企業理念が大きく異なる場合、対象企業の文化や企業理念などが引き継がれない可能性が高まります。一方で対象企業の企業価値を高めることを主目的とする事業承継ファンドは、このような問題が起こるリスクが低い傾向にあります。

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代表的な4つの事業承継ファンド

事業承継ファンドはいくつもの種類があり、選ぶときに迷うかもしれません。ここでは、数ある事業承継ファンドのなかで代表的な事業承継ファンドを4つ紹介します。

各ファンドの特徴を見ることで、事業承継ファンドのイメージをつかめるでしょう。ぜひ、選ぶ際の参考にしてください。

1.中小機構のファンド

中小機構(独立行政法人 中小企業基盤整備機構)とは、国の中小企業政策の中核的な実施機関です。中小企業の起業・創業期から成長期、成熟期に至るまで、成長ステージに合わせた幅広い支援を行っています。

事業承継ファンドは、それらの幅広い支援の一環です。民間機関などとともに投資ファンド(投資事業有限責任組合)を作り、中小企業への資金提供と踏み込んだ経営支援を行いながら中小企業の再生をサポートしています。ファンドの運営(個別企業への投資)は、各投資会社が行うという仕組みです。

2.日本投資ファンド

中小企業のM&Aを専門に手がける日本M&Aセンターと日本政策投資銀行が共同設立したファンドです。投資先企業の成長発展を第一に考え、投資先企業のステークホルダーとの長年の関係性に十分に配慮した投資を行います。

さらに、地方銀行各行と連携し、投資先企業の成長と地域活性化に貢献しながら高いリターンの実現を目指しています。

3.プライベートエクイティファンド

プライベートエクイティとは、市場に公開されていない非上場企業の株式を指します。プライベートエクイティファンドは、そのような対象企業の未公開株を買い取って経営に関わり、企業価値を高めてから売却して利益を得るファンドのことです。

代表的な会社として、日本プライベートエクイティ株式会社が運用するファンドがあげられます。同社はオーナー経営から組織経営に移行するサポートに豊富な実績があり、社員の自立を促して企業を成長させています。

4.SBI地域事業承継ファンド

SBIホールディングス株式会社の子会社・SBI地域事業承継投資株式会社が2019年、政府系金融機関・民間金融機関・事業法人等の参画により設立したファンドです。黒字経営にもかかわらず後継者不在等により廃業せざるを得ない中小企業に対し、資金面・人材面、および地域を越えたネットワークを活用した支援を行っています。

事業承継1号ファンドは多数の会社に対して投資を行い、設立後3年ですでに約60%を回収・分配しました。2022年7月からは事業承継2号ファンドの募集を開始し、2023年1月に募集を完了しています。

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事業承継ファンドを利用する3つのメリット

事業承継ファンドを利用することで、多くのメリットを得られます。
ファンドを利用することで得られるメリットについて、詳しくみていきましょう。

経営のアドバイスを受けられる

事業承継ファンドからの支援により、経営のプロからさまざまなアドバイスを受けられるのがメリットです。事業承継ファンドはこれまで数多くの会社の事業承継を手がけており、経営者も気づかなかった会社の強みや弱みを洗い出すことができます。

これら会社の強み・弱みは企業価値向上に活かすことができ、プロのアドバイスや支援を通して企業のさらなる成長が期待できるでしょう。

経営の独立性を確保できる

事業承継ファンドの最終的な目的は企業価値を上げて売却することにより利益を得ることであり、経営権を得ることではありません。経営課題の解決と企業価値の向上を目指しています。M&Aと比べると、対象企業に干渉することは比較的少ないといってよいでしょう。

対象企業の独立性は尊重され、企業文化や従業員の雇用、取引先との関係は継続できると考えられます。

優秀な人材の獲得が期待できる

事業承継ファンドは、経営陣として優秀な人材の確保が期待できるというメリットもあります。多くの企業は労働人口の減少による深刻な人材不足にあり、企業経営の経験・スキルを持つ優秀な経営陣を独自に見つけるのは困難な状況です。

事業承継ファンドの支援を受けることで、経営陣に優秀な人材を迎え入れられる可能性はかなり高まるでしょう。

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事業承継ファンドの選び方の4つのポイント

数ある事業承継ファンドの中から自社に合うファンドを選ぶには、いくつか押さえたいポイントがあります。
ここでは、事業承継ファンドの選び方について解説します。

自社と似た事業の承継を行っているか

同じ事業承継ファンドでも、得意とする事業の業種や規模は異なります。自社と似た事業の承継実績がない場合、スキル・経験の不足という点で十分な支援は受けられない可能性があるでしょう。
豊富な実績があれば、過去の経験を通して満足のいく支援を受けられる可能性が高まります。

そのため、過去にどのような会社の事業承継を支援しているか、実績を確認することが必要です。

自社が求める支援内容に対応しているか

事業承継ファンドにより、支援内容はさまざまです。事業承継を主軸とするファンドもあれば、成長支援を主眼におくファンドもあります。
また、長期的な視野で企業価値の向上を考えるファンドがある一方、人材や情報などの資源を一気に投下し、短期間で企業価値を高めるファンドも少なくありません。

支援内容をよく確認し、自社が求める支援内容に対応しているかをチェックしましょう。

長期的な計画性があるか

早期上場を目指し、短期間で急成長を目指す事業承継ファンドもあります。ハイリターンを求める出資者の多いファンドにありがちです。このようなファンドは、時間をかけて事業承継と経営再建を図りたい場合には向いていません。

長期的な視点と計画性をもって事業承継に取り組むファンドを選ぶことで、自社が求める事業承継を成功させることができるでしょう。

相性は良いか

事業承継ファンドに依頼すると、専属の担当者が配置されます。担当者とは日々のコミュニケーションをとるため、相性が合うかどうかは事業承継を成功させるための重要な要素です。

担当者には、自社が求める支援とファンド側の意向をすり合わせる役割があります。自社への理解と協力の姿勢があるか、自社の意見を反映させるために尽力してくれるかを見極めなければなりません。

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事業承継ファンドを活用する3つの場面

事業承継の活用により、その効果が最大限に発揮できるのは、主に以下のような場面です。

  • 後継者不足の解消
  • 後継者候補の教育やサポート
  • 事業資金の供給

それぞれの場面について、詳しく解説します。

後継者不足の解消

事業承継ファンドは、中小企業の後継者不足を解消する場面で活躍します。事業承継ファンドがまず投資対象の株式を取得して一時的に対象企業のオーナーになることで、余裕をもった後継者探しが可能です。

会社内の人材を育成する、もしくは後継者にふさわしい人材を見つけることで後継者不足を解消し、会社を存続に導きます。

後継者候補の教育やサポート

後継者候補がいる場合にも、経営の知識や経験が十分ではないケースもあります。経営のプロである事業承継ファンドの活用により、このような後継者候補の教育やサポートが可能です。

事業承継ファンドは、事業承継や経営に関するノウハウ・情報を持ち、専門性の高い人材が在籍しています。ファンドの活用で優秀な人材のそばで経営に携われば成長ができて、後継者候補が経営者として自立することが期待できるでしょう。

事業資金の供給

事業承継では株式を買い取るため、多額の資金が必要です。後継者候補に資金力が不足する場合に、事業承継ファンドが助けになります。

まず、株式を買い取って経営権を取得した事業承継ファンドが後継者候補を次の経営者に指名します。事業承継ファンドが企業価値を高めていくなかで後継者候補は株式の買い取り資金を準備し、ファンドの株式を買い取るという仕組みです。

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事業承継ファンドを利用する流れ

事業承継ファンドを利用するおおまかな流れは、以下のとおりです。

  1. オーナー経営者が専門家やM&A仲介会社などを通し、事業承継ファンドに問い合わせる
  2. 双方に問題なければ秘密保持契約を締結し、財務関係書類などを開示する
  3. 会社とファンドの間で基本合意書を締結する
  4. 双方の条件をすり合わせ、専門家によるデューデリジェンス(対象企業の価値やリスクの調査)が実施される
  5. デューデリジェンスの結果を見て最終的な譲渡契約を締結し、ファンドに株式を売却する
  6. 事業承継ファンドによる経営支援が行われる
  7. 数年後、事業承継ファンドは株式を売却して売却益を得る

具体的な手順は、事業承継ファンドによって異なりますが、おおよそこの流れで進行します。

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まとめ

事業承継ファンドは、事業承継の選択肢として注目されています。後継者不足の解消や後継者候補の教育、事業資金の供給など、後継者不在に悩む中小企業等を支援します。事業承継ファンドは数多く、事業承継の成功のためには自社に合ったファンドを見つけることが重要です。

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