M&Aにおける「種類株式」とは?メリット・デメリット、活用事例を解説

2023年6月20日

M&Aにおける「種類株式」とは?メリット・デメリット、活用事例を解説

このページのまとめ

  • 種類株式には9種類ある
  • 普通株式はすべての株主において配当や議決権などの処遇が平等である
  • 種類株式は配当があるが、種類により処遇が異なる
  • 処遇の特徴を活かしM&Aにおける様々な場面で目的に応じて株式を選択する

会社法において、1株における株主の権利は平等とされています。一方、株式会社では定款にて内容の異なる株式を発行することが可能です。このような株式を「種類株式」と呼び、種類株式を所有している株主は、普通株式を持つ株主とは異なる処遇を受けられます。こうした特徴から、種類株式は事業承継をはじめとしたM&Aの様々な場面で活用されています。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

種類株式とは

普通株式において、株主に与えられる議決権や配当などの権利は平等です。一方、種類株式を保有している株主は、普通株式の株主とは異なる処遇を受けられます。

会社法において「株式会社は、株主を、その有する株式の内容及び数に応じて、平等に取り扱わなければならない。」(会社法109条1項)と定められており、1株における株主の権利は平等とされています。これが「普通株式」です。配当や議決権は平等に株主へ付与されます。

一方で「種類株式」は、各株式の権利が同一である普通株式とは異なり、配当や残余財産の分配、議決権、譲渡などに関する事項について、特典や制限がある株式です。

種類株式は9種類あり、それぞれ規定内容が異なります。M&Aにおいては、議決権を保持したまま経営に関わりたい方もいれば、議決権は不要でも配当金は受け取りたい方もいます。こうした様々なニーズに対して、特徴の異なる種類株式を活用できるでしょう。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

9種類の種類株式の特徴

会社法で認められている「種類株式」は以下の9種類です。

  1. 剰余金の配当規定付株式
  2. 残余財産の分配規定付株式
  3. 譲渡制限株式
  4. 拒否権付株式
  5. 議決権制限株式
  6. 取得請求権付株式
  7. 取得条項付株式
  8. 全部取得条項付株式
  9. 役員選任解任権付株式

それぞれの種類株式の特徴を詳しく解説します。

1.剰余金の配当規定付株式

企業が剰余金を配当する際に、その配当について地位の優劣が規定されている種類株式です。普通株式よりも優先される「優先株式」や、配当が後回しになる「劣後株式」があります。
剰余金から配当が分配されますが、通常の配当金よりも多くしたり、逆に少なくしたりできる点が特徴です。また、一切の配当を分配しないように定めることもできます。

M&Aにおける事業承継では、議決権を与えることに抵抗がある経営者も少なくありません。その際は、後述する議決権制限株式と、剰余金の配当規定付株式の優先株式を組み合わせて発行することで解決できます。

2.残余財産の分配規定付株式

会社の解散時などに発生する残余財産の分配について規定された種類株式です。剰余金と同様に優先株式や劣後株式などが存在し、残余財産の分配順が区別されています。分配をまったく行わないことも可能です。

一般的な配当優先株式は、残余財産ではなく、あくまで剰余金に関する優先を意味するため注意しましょう。また、剰余金配当と残余財産分配の両方の権利をまったく与えない種類株式の発行は認められていません。

3.譲渡制限株式

すべての株式、または一部の株式について、譲渡する際に会社の承認を得る義務を定めた種類株式です。具体的には、株主総会または取締役会で決議を取る必要があります。ほとんどの中小企業では、経営権の分散防止を目的としているため、譲渡制限株式を導入しています。

なお、譲渡制限株式を導入している会社を「株式譲渡制限会社」、譲渡制限を設定していない会社を「公開会社」、発行されている株式がすべて譲渡制限株式である会社を「非公開会社」と呼びます。非公開会社の株式は、流動性が極めて低く、換金性が悪い点がデメリットです。M&Aにおいては、あらかじめ決められた対価で買い取る契約をしておくことで、株式価値を担保できます。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

4.拒否権付株式

会社に関する決議事項について、株主総会決議に加えて種類株主から構成される種類株主総会の決議を必要とする種類株式です。普通株主の賛成数とは無関係に決議事項を否決できることから「拒否権付株式」と呼ばれています。

「黄金株」と呼ばれることもあり、敵対的買収に対する防衛策としての活用事例が多く存在します。例えば、敵対的買収により相当数の議決権を取得された場合でも、拒否権付株式を友好的な株主に保有させておけば、買収の成立を阻止することが可能です。

なお、拒否権付株式の流出は、通常の経営判断に悪影響を及ぼすおそれがあるため、譲渡制限規定を同時に付与してリスクを防ぐケースが多くあります。また、敵対的買収に限らず、友好的なM&Aにおいても拒否権付株式は大きな影響を及ぼします。

経営者が事業を生前譲渡する場合にも拒否権付株式は活用されます。経営者が、承継後も一定期間は経営に参画したいケースです。拒否権限を有する拒否権付株式を持つことで、一定の影響力を保持したまま事業承継できるメリットがあります。

5.議決権制限株式

決議事項の一部または全部について議決権を行使できない旨を定めた種類株式です。このうち、議決権を一切行使できないものは「無議決権株式」と呼ばれます。

議決権制限株式を、利益のみに興味がある(経営権に興味がない)株主に対して付与すると、株主総会における議決権が制限されるため、経営陣の決定権を強化できます。

なお、この種類株式は、剰余金の配当規定付株式と組み合わせて使用するケースがほとんどです。議決権制限株式の発行だけでは株主にメリットがないため、配当優先株式を同時に付与することで、株主のニーズを満たせるでしょう。

6.取得請求権付株式

株主が会社に対して、保有する株式の対価に金銭や他の株式などの財産を請求できる権利が規定された種類株式です。会社が請求を受けた場合、分配可能額の範囲で株式を取得する必要があり、株主の請求は拒否できません。

株主は投資リスクを軽減できて保持しやすくなり、会社にとっては資金調達が容易になるメリットがあります。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

7.取得条項付株式

会社に一定事由が生じた際、会社側がその株式を強制的に株主から取得できる種類株式です。株式公開や新株発行をはじめとした一定の事由が生じた場合に、会社が株主の同意を得ることなく強制的に株式を取得できます。
最終的には会社が株式を回収するものの、取得条項付株式では会社側が主体となって株式取得を行います。

会社側が強制的に株式を取得すると、株式の保有者は原則株主としての地位や権利を完全に失います。会社はあらかじめ決められていた現金・普通株式などの財産を、買い上げ対象者に交付します。

8.全部取得条項付株式

取得条項付株式の中でも、会社が対象となるすべての株式を取得できるものは「全部取得条項付株式」と呼ばれています。株主総会の決議により、株式全部を取得可能です。権限を行使した場合、会社は株主に対して、あらかじめ決められていた現金・普通株式などの財産を交付します。

M&Aの事業承継において、特に中小企業の場合は株式が分散しているケースが多く見られます。すべての株主が売却に応じてくれるとは限らず、事業承継の手続きを妨げる一因となります。

全部取得条項付株式であれば、株主から合意を得られない場合でも、全株式を強制的に取得できるため、事業承継をスムーズに進められるでしょう。

9.役員選任解任権付株式

種類株主総会において、取締役または監査役を、選任もしくは解任する議決権が付与された種類株式です。

つまり、役員選任解任権付株式を保有する株主は、普通決議などを経ることなく役員を選任・解任できます。非公開会社かつ非委員会設置会社のみ発行が認められています。役員選任解任権付株式は、主にベンチャーキャピタルから出資を募る際に活用されます。

ここまで紹介したように、9種類の種類株式はそれぞれ特徴が異なります。会社側と株主にとってのメリット・デメリットが一致しないこともあるため、M&Aにおいては複数の種類株式を組み合わせて双方のニーズを満たすケースがよく見られます。

次章では、これらの種類株式の活用事例を紹介します。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

種類株式の活用例

ここからは、種類株式を活用した活用例を、事業承継、資金調達、合弁会社の設立の3パターンで解説します。

事業承継対策

普通株式に加え、定款変更の手続きを経て種類株式を発行する背景には、これまで解説した9種類の種類株式を活用するメリットが大きく関係しています。

事業承継とは、現経営者から後継者に対して会社の経営権や資産などを引き継ぐことです。事業承継の手段としては、M&Aが多くの場面で用いられます。中小企業にとって、事業承継問題を解消するうえで、種類株式の活用は非常に有効です。もし、株式が分散している状況で事業承継を行えば、後継者に議決権を集中させられないおそれがあるためです。

もともと株式会社では、保有する議決権数により経営への影響力が決まるため、後継者の持ち株数が少ないと事業承継後の経営に支障が生じるリスクがあり、経営が安定しません。

そこで、後継者に議決権のある普通株式や拒否権付株式を承継させる一方で、経営に関係しない相続人に対しては議決権制限株式(無議決権株式)を引き継いで議決権を後継者に集める対策が有効です。このような形で種類株式を活用すれば、事業承継後の経営が安定しやすくなるでしょう。

後継者の経営を安定させるために、議決権は極力後継者に集中させ、議決権を目的としない相続人には剰余金の配当規定付株式(配当優先株式)を交付することで、それぞれのニーズを満たし、経営の成功につなげます。

資金調達

ベンチャー企業では、資金調達の手段としてVC(ベンチャーキャピタル)から出資を受けるケースが一般的です。

しかし、資金調達方法が普通株式の付与による場合、議決権の関係から経営権の行使に悪影響が生じるおそれがあるため、種類株式(議決権制限株式や配当に関する優先株式など)の利用により付与する事例が多く見られます。

資金調達でよく活用される種類株式は以下の3種類です。

議決権制限株式

投資家(出資者)の中には、会社の経営には興味がなく、出資することでいくら利益を得られるかのみを重視している人も多くいます。「株主総会に参加するのは面倒」「責任は負いたくない」と思っている人も少なくありません。

そのような投資家には、会社に対する「議決権」を付ける必要はないため、議決権を制限する=議決権がない株式「議決権制限株式」を発行できます。

通常の株式には、会社の経営権でもある議決権が付いていますが、種類株式ではその議決権を除外することが可能です。議決権を除外しても、配当を受ける権利や、残余財産の分配を受ける権利は残っています。

会社側にとっては、出資をしてもらえるだけではなく、議決権がないため会社の業務運営に支障をきたす心配がありません。しかし、投資家からすると議決権がなくただ出資するだけでは魅力に欠けます。

そのため、議決権制限株式を単体で発行することはまれで、議決権がない見返りとして他の株主より配当を優先する「配当優先株式」と組み合わせて発行することが一般的です。

配当優先株式

配当優先株式は、その名のとおり「他の株主よりも配当が優先される」株式です。例えば、「配当優先株式を持っている株主に対して、普通株式を持っている株主に先立ち1株につき年◯円の配当金を支払う」といった設計ができます。

一般的に「優先株式」は、配当優先株式と議決権制限株式を組み合わせた「配当を優先的に受ける権利はあるが議決権は制限される株式」を指します。

配当優先株式であれば、少し価格を高くしても投資家を募ることが可能です。他の株主よりも配当が優先されるうえ、議決権もあるため投資家にとっては魅力的な株式ですが、会社にとっては負担が大きくなるでしょう。

そのため、種類株式を組み合わせて議決権を制限しつつ、投資家に有利な条件を提示するケースが多く見られます。

取得請求権付株式

上場していない会社の株式は、市場に流通することがありません。株主が売りたいときに売れず、現金化が困難であるため、出資に躊躇する投資家もいます。

さらに、非公開会社の場合、株式を売る際に会社の承諾を得る必要があるなど、投資家にとってマイナスな面があります。会社にとっても、このような事情から幅広く出資を募ることができません。

そこで活用されるのが「取得請求権付株式」です。

取得請求権付株式は、株主が会社に対して買い取りを請求できる株式です。株主が自分にとって都合の良いときに会社へ「株式を買い取ってほしい」と請求でき、最低限の対価を回収できるため、出資リスクを抑えられます。

投資家にとっては、会社の買取保証が付く点がメリットです。また、会社側にとっても「取得請求権」を付けることで、資金調達のハードルが低くなるメリットがあります。

会社は定款において、株主が会社に対して買取請求ができることや、その期間、引換えに交付する対価の内容を定めます。会社が支払う対価として、現金だけではなく、会社が発行している他の種類株式、社債、新株予約権などを定めることも可能です。

合弁会社の設立

合弁会社とは、複数の会社が互いに出資して設立・運営する会社です。複数の事業者が合弁会社を設立する際、柔軟な機関設計を意図して種類株式を用いる事例が見られます。そもそも、1:1の比率でそれぞれの企業が普通株式を所持するケースを除き、少数株主は株主総会の議決に関与できません。

しかし、種類株式を活用すれば、株式保有割合とは異なる方法で剰余金の配当・残余財産の分配などを実施できます。また、無議決権株式の活用により、特定の役員に対するインセンティブの付与も可能です。

このように、出資割合による不公平性などを控除できる点で、合弁会社の設立時に種類株式を使用する施策は非常に有効です。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

種類株式の発行手続き

種類株式を新たに設定し、発行する手続きの流れを解説します。

1.取締役会の決議(招集決定)

取締役会にて定款変更及び募集株式の発行に関する意思決定を行い、それを株主総会で承認するために株主総会の招集を決定します。取締役会の決議は、原則として、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行います(会社法第369条1項)。

実務的には、事前に投資家(出資者)との間で投資契約に関する合意が済んだうえで、取締役会の決議を経て株主総会の決議と進めることが多いです。

2.株主総会の招集

上記取締役会の決議に基づき、株主総会の招集通知を株主へ送ります。

1人株主の場合は、株主総会の書面決議(会社法第319条1項)で済ませるか、招集手続きを省略(会社法第300条)して株主総会を行うことがほとんどです。

3.株主総会の決議

まず、第1号議案で種類株式について定款を変更することを決議します(特別決議)。
続いて、第2号議案で募集株式の発行をするために募集事項を特別決議によって決定します(会社法第199条1項)

  • 募集株式の種類及び数
  • 募集株式の払込金額またはその算定方法
  • 払込期日またはその期間
  • 増加する資本金及び資本準備金

なお、募集株式数の上限及び払込金額の下限だけを株主総会の決議で定め、その他募集事項を取締役会に委任することもできます(会社法第200条1項)。

4.募集事項等の通知

募集株式の引受けの申込みをしようとする者に対し、次の事項(募集事項等)を通知します(会社法第203条1項)。

  • 株式会社の商号
  • 募集事項
  • 金銭の払込みをすべきときは、払込みの取扱いの場所
  • 会社法施行規則第41条で定める事項
M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

5.引受けの申込み

募集株式の引受けの申込みをする者は、次の事項を記載した書面を株式会社に交付しなければなりません(会社法第203条2項)。

  • 申込みをする者の氏名又は名称及び住所
  • 引受けようとする募集株式の数

通常は、募集事項等の通知書と一緒に、申込みに関する書類が送られてくるため、それに記入(押印)して返送します。

6.取締役会の決議(割当決議)

取締役会を開催し、引受けの申込みをした者の中から誰に何株を割り当てるのかを決議します。

このとき、例えば100株引き受ける旨の申込みをした者に対して、必ず100株を割り当てる必要はありません。50株だけ割り当てるなど、申込みのあった株式数より少ない株式を割り当てることも可能です。(会社法第204条1項)。

ただし、当該申込者に対して150株を割り当てることはできません。

7.割当ての通知

上記取締役会の決議によって決めた、募集株式の割当てを受ける者に対して、割り当てる募集株式の数を通知します(会社法第204条4項)。

払込日または払込期間の初日の前日までに、この通知を行う必要があるため、株主総会(取締役会)の決議と同日を払込日または払込期間の初日にはできません。なお、総数引受契約方式であれば、通知する日の制限はないため、1日ですべての手続きを済ませることも可能です。

8.出資の履行

引受人は払込期日または払込期間内に、募集株式の払込金額の全額を払い込む必要があります。(会社法第208条1項)。払込期日までに引受人が出資の履行をしないときは、募集株式の株主となる権利を失ってしまいます(会社法第208条5項)。

なお、登記手続き上、発行会社の預金通帳(払込金額の入金履歴のあるもの)が必要となるため、払込期日までに発行会社の口座へ出資が着金していなくてはなりません。

9.登記申請

増資の効力が発生したら、管轄法務局へ登記申請をします。主な添付書類は次のとおりです。

  • 株主総会議事録
  • 株主リスト
  • 取締役会議事録
  • 申込みを証する書面
  • 払込証明書
  • 資本金計上証明書

登記申請は効力発生日から2週間以内に行わなければなりません(会社法第915条1項)。また、投資契約書に、効力発生日から1カ月以内に登記後の登記簿謄本を提出する等の条項がある場合は対応が必要です。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

まとめ

本稿では、普通株式とは特徴が異なる9種類の「種類株式」について解説しました。M&Aにおいては、事業承継や資金調達の場面で種類株式のメリットを活かせます。ただし、M&Aの目的に応じた種類株式の選択と、発行手続きを行うためには、高度な知識と技術が必要です。

M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しています。M&Aにおける種類株式の交付など、高いスキルが求められる分野にも対応しており、M&Aのご成約まで一貫したサポートを提供することが可能です。
安心かつ円滑なM&Aを実現するために、ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社の利用をご検討ください。