株主割当増資とは?メリット・デメリットや流れをわかりやすく解説

2023年6月20日

株主割当増資とは?メリット・デメリットや流れをわかりやすく解説

このページのまとめ

  • 株主割当増資とは、既存の株主に対して持ち株比率に応じて新株の割り当てを行うこと
  • 株主割当増資のメリットは「株主構成が変わらない」「返済の必要がない」など
  • 株主割当増資は大きな資金調達には向かず、費用や手間がかかる点がデメリット
  • 株主割当増資を行うには募集事項の決定や株主への通知、登記などが必要

新規事業を始めるときなどに資金調達が行われますが、手段によっては議決権の割合に影響を及ぼすため、経営の独立性に関わることがあります。

そんなときに選択肢の一つとして挙がる方法が、株主割当増資です。

株主割当増資と第三者割当増資の違いについて押さえたうえで、株主割当増資のメリットやデメリット、手続きの流れなどについて解説していきます。

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株主割当増資とは

株主割当増資とは、企業が新株の発行をして資金調達を行う方法の一つです。株主割当増資では、自社を除く既存の株主に対して、株式の保有割合に応じて新株の割り当てを受ける権利を付与します。

たとえば、株主A:300株、株主B:200株、株主C:100株という株数を保有し、新株として300株を発行する場合には、株主A:150株、株主B:100株、株主C:50株という形で、割り当てを受ける権利を与えます。

ただし、株主割当増資によって、既存の株主には新株の割り当てを受ける権利が生じますが、必ずしも申し込みをして出資を行う義務はありません。新株を引き受けるかどうかは、既存の株主の個別の判断によります。

既存の株主は新株の引き受けの申し込みを行わなければ、新株の割り当てを受ける権利が失効します。それによって、新株を引き受けなかった既存の株主は、相対的に持ち株比率が下がり、議決権の割合も下がります。

また、既存の株主の経済的利益に損害を与えることがないように、新株の発行価額は時価よりも低く設定するのが一般的です。

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株主割当増資と第三者割当増資との違い

新株の発行によって資金調達を行う方法には、第三者割当増資もあります。

第三者割当増資は、既存の株主であるかにかかわらず、特定の第三者に新株の割り当てを受ける権利を付与するものです。

また、既存の株主にのみ新株の割り当てを引き受ける権利を付与する場合でも、持ち株比率に応じていないケースは第三者割当増資に該当します。

第三者割当増資も資金調達を目的としていますが、業務提携先や取引先、あるいは取引のある金融機関との関係強化の手段とされることが多いです。そのため、第三者割当増資は縁故募集とも呼ばれています。また、敵対的M&Aを防ぐことを目的として、第三者割当増資が行われることもあります。

株主割当増資では、既存の株主が持ち株比率に応じて新株を引き受けた場合には、株主構成も持ち株比率も変わりません。これに対して第三者割当増資では新たな株主が生まれる可能性があり、株主構成や持ち株比率が変動するという違いがあります。

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株主割当増資の3つのメリット

株主割当増資による資金調達には、主に次の3つのメリットがあります。

  1. 株主構成が変わらない
  2. 調達した資金を返済する必要がない
  3. 自己資本比率が向上する

以下でそれぞれ解説します。

1.株主構成が変わらない

株主割当増資は、既存の株主に対して持ち株比率に応じて新株の割り当てを受ける権利を付与するため、株主構成が変わらないことが特徴です。既存の株主の全員が新株を引き受けた場合には、持ち株比率も変化せず、議決権の割合にも影響がありません。

そのため、株主割当増資は新たな株主が現れて経営判断に関与するということがなく、これまで通りの安定した経営を続けられることがメリットです。意図せずに、特定の株主の持ち株比率が高くなるといった事態も避けられます。

また、既存の株主側からみた場合にも、割り当てを受けた新株を引き受ければ、議決権の割合や配当金が減らないことがメリットといえます。

2.調達した資金を返済する必要がない

株主割当増資や第三者割当増資といった新株の発行による増資という資金調達方法は、金融機関などからの融資と異なり、返済する必要がないこともメリットに挙げられます。

事業用の資金を調達する方法には、銀行などの金融機関から借りる融資もありますが、返済する義務があり、通常、元金に利子を上乗せて返さなければなりません。

一方、株主割当増資など新株の発行による増資の場合には、出資金は返済する性質のものではなく、株主には利益の一部を配当金として還元します。

また、新規事業に対する融資など、金融機関がリスクが高いと判断したケースでは、そもそも融資が受けられず、資金調達ができないこともあります。株主割当増資では時価よりも低い価額とすることが多く、資金調達をしやすい傾向があります。

3.自己資本比率が向上する

総資本は自己資本と他人資本を足したもので、自己資本は純資産、他人資本は負債を指します。自己資本比率とは、総資本における自己資本の割合です。自己資本比率が高いほど、借入金に頼った経営を行っておらず、返済の負担が重くないため、財務の健全性が高いとされます。

株主割当増資によって資本金が増えると、相対的に自己資本比率が向上します。これにより、財務の健全性に関する評価が高くなり、金融機関からの融資が受けやすくなったり、広く出資を集めやすくなったりします。

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株主割当増資の2つのデメリット

株主割当増資という資金調達の方法にはこれまで挙げてきたメリットがある一方で、デメリットも存在します。

  1. 大きな資金を調達できない
  2. 多くの費用や手間がかかる

2つのデメリットについて、以下で詳しく説明します。

1.大きな資金を調達できない

株主割当増資では、新株を引き受けるのは既存の株主に限定されるため、大規模な資金調達は難しい点がデメリットです。既存の株主を対象としているため、資金源が限られるとともに、すべての株主が新株の引き受けに応じるとは限りません。

また、株主割当増資は一般的に株式の発行価額を時価よりも安く設定することからも、調達できる資金が低く抑えられます。

2.多くの費用や手間がかかる

株主割当増資を行うには、取締役会や株主総会で募集要項を決定し、新株募集事項を公示した後、引き受け申し込みを受けて株式の割り当てをして登記変更を行うなど、手間がかかることもデメリットです。

既存の株主にとっては、全員が持ち株比率に応じて新株を引き受ければ、株主間のパワーバランスは変わらないため、特にメリットが感じにくいことから、理解を得るまでに時間を要することもあります。

また、登記に関わる登録免許税や司法書士報酬などの費用も発生します。

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株主割当増資の流れ

株主割当増資による資金調達を行う際の手続きの流れを紹介していきます。

  1. 募集事項を決める
  2. 募集事項を株主に通知する
  3. 登記申請を行う

それぞれのステップについて詳しくみていきます。

1.募集事項を決める

まず、株主割当増資を行う株式会社は募集事項を決定します。募集事項で定める項目は以下のものです。

  • 募集株式の数
  • 募集株式の払込金額または算定方法
  • 金銭以外の財産を出資する場合は、現物出資の旨、資産の内容と価額
  • 金銭の払込期日または払込期間、現物出資の場合は給付期日、または給付期間
  • 新株発行によって、増加する資本金と資本準備金に関する事項
  • 申し込み期日

募集株式の数とは、株主割当増資によって新株の割り当てを行う株式の数です。募集株式の払込金額は、新株として発行される募集株式1株に対する払い込み金額を指します。

現物出資は金銭以外の財産を出資する場合が該当します。現物出資は車やOA機器などの動産、不動産、債権、有価証券、特許権や実用新案権、商標権などの知的財産、営業権などの無形固定資産、ゴルフ場などの会員権が対象です。金銭以外の財産を出資する場合には、資産の内容や価額を決める必要があります。

金銭の払込期日または払込期間は、募集株式と引き換えに金銭の払い込みを行う期日や期間です。現物出資の場合の給付期日、または給付期間は、財産を引き渡す期日や期間です。

新株発行によって、増加する資本金と資本準備金に関する事項があるのは、払い込まれた出資金のうち2分の1を超えない額は資本金として計上せず、資本準備金として計上することもできるためです。

募集事項の決定方法をみていくと、公開会社では、取締役会にて募集事項を決定します。非公開会社の場合は募集事項を決定するには、原則として株主総会を招集して特別決議による承認が必要です。ただし、定款で募集事項の決定に関して、取締役会、あるいは取締役が定めるという規定を設けているケースでは、取締役会や取締役が決定することができます。

2.募集事項を株主に通知する

次に既存のすべての株主に対して、申し込み期日の2週間前までに、募集事項やそれぞれの株主が割り当てを受ける株式の数、引き受けの申し込みの期日の通知を行います。ただし、すべての株主の同意を得られる場合には、申し込み期日の2週間前までという通知の期間を短縮することが可能です。

そして、通知を受けた既存の株主が新株の引き受けを行う場合には、申し込みの手続きが必要です。申し込みを行う株主は、氏名または名称、住所、引き受ける募集株式数を記載した書面を提出します。

3.登記申請を行う

既存の株主のうち、新株引き受けの申し込みを行った株主は、募集事項で定められた払込期日まで、あるいは払込期間の末日までに出資金の全額を指定された方法で払い込みます。

新株引き受けの申し込みを行っていても、期日までに払い込みを行わなければ、新株の割り当てを受ける権利が失効してしまう点に注意が必要です。

そして、株主割当増資を行った株式会社は株式の発行を行います。また、増資の効力発生日から2週間以内に、資本金額や発行株式数の増加の変更登記の申請が必要です。

法務局で変更登記を行う際には、以下の書類が必要です。

  • 株式会社変更登記申請書
  • 株主総会の議事録(非公開会社)
  • 取締役会の議事録(公開会社や非公開会社でも取締役会で募集事項を決定している場合)
  • 株主の氏名・名称、住所、議決権数などが記載された株主リスト
  • 募集株式の引き受けの申し込みを証する書面
  • 払い込みがあったことを証する書面として通帳のコピー
  • 資本金の額の計上に関する証明書

法務局で登記申請が受理されると、登記手続きが完了となります。

株主割当増資の事例

大手企業の事例では、ソニー銀行株式会社は株主割当増資をたびたび実施し、ソニーフィナンシャルグループ株式会社が新株の割り当てを引き受けています。

2021年6月にもソニー銀行は株主割当増資を実施しましたが、ソニー銀行はソニーフィナンシャルグループ株式会社の100%出資による子会社のため、新株の割り当てを受ける権利を付与されるのはソニーフィナンシャルグループ株式会社のみです。

ソニー銀行が株主割当増資を行ったのは、個人向けの資産運用銀行として業績が好調であることを受けて、さらなる収益の向上のためです。ソニー銀行は株主割当増資を行う前の時点でも自己資本比率は健全な状態でしたが、自己資本を増やしてさらに盤石な財政基盤の確保を図りました。

参照元:
PR TIMES「ソニーフィナンシャルホールディングスによるソニー銀行の株主割当増資引受に関するお知らせ
日本経済新聞「ソニーFHDとソニー銀行、ソニーFHDによるソニー銀行の株主割当増資引受について発表

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株主割当増資を行う際の注意点

株主割当増資を行う際には、他にも手続きが必要になるケースや、増税になる可能性があるケースがある点に注意が必要です。

発行可能株式総数を確認する

発行可能株式総数とは、株式会社において発行できる株式の数の上限です。会社法によって株式会社を設立する際に、定款で発行可能株式総数を定めることが義務付けられています。そのため、株主割当増資を行う際には定款で発行可能株式総数を確認する必要があります。

もし株主割当増資によって発行可能株式の総数を超える新株の発行を行いたい場合には、定款の変更が必要です。まず株主総会を開催して、特別決議による承認を得て、定款変更をしてください。

資本金が1億円を超えると増税の可能性がある

株主割当増資を行った結果、資本金が1億円を超えると、増税となる可能性がある点にも注意が必要です。資本金1億円以下の会社は所得金額800万円までの部分に対して、法人税の税率は15%の軽減税率が適用され、所得金額800万円を超えた部分は23.2%の税率となります。

しかし、資本金1億円超の会社は法人税の軽減税率の適用がなく、所得全体に対して23.2%の税率が適用されます。

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まとめ

株主割当増資は株主構成が変わらず、安定した経営を続けやすいといったメリットのある資金調達方法です。一方で既存の株主は新株の引き受けを拒否することも可能であり、多額の資金を調達したい場合には向かないというデメリットもあります。第三者割当増資など他の資金調達の方法などと比較して、状況に合った手段を選択しましょう。

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