このページのまとめ
- キーマン条項とは、売り手側の中心的人物をM&A後も在籍させる取り決めのこと
- 売り手はキーマン条項を盛り込むことで、高い価格で売却できる可能性が高まる
- 買い手はキーマン条項を盛り込むことで、M&A後の引継ぎがスムーズになりやすい
- キーマン条項に違反があると、賠償金が発生する場合がある
- 作成時には、ひな形をそのまま写さず専門家に相談することが大切
M&Aを検討している方のなかには、「キーマン条項を盛り込むべきか?」とお悩みの方もいることでしょう。キーマン条項により、売り手は高い価格で売却できる可能性が高まります。一方、買い手もスムーズに引き継ぎが行われることを期待できます。しかし、いくつかのデメリットも生じるため注意が必要です。
本記事では、キーマン条項の意味や設定期間、メリットとデメリット・注意点を詳しく解説しますので、参考にしてください。
目次
キーマン条項(ロックアップ条項)とは
キーマン条項(ロックアップ条項)とは、売り手側の中心的な人物(代表取締役や役員など)をM&A実施後も在籍させることを定めた取り決めです。ここから、キーマン条項の意味や一般的な期間について詳しく解説します。
キーマン条項の意味
キーマン(Keyman)は重要人物の意味で、キーマン条項は買収された企業(売り手)の重要人物を一定期間拘束することです。条項を盛り込んだ契約を締結すると、対象者は本人の意思と関係なく引き続き対象企業に残らなければならないため、ロックアップ(Lock up)条項と呼ばれることもあります。
事業の引き継ぎが、キーマン条項を設ける主な目的です。
キーマン条項を設定する一般的な期間
キーマン条項を設定する一般的な期間は、2〜3年です。ただし、契約内容や対象企業の規模などによって、実際に設定する年数は異なります。
規模が大きいほど期間が長く、小さければ短いことが一般的です。基本的に、売り手はキーマン条項で設定する期間が短い方がよいでしょう。
なお、キーマン条項が設定されていなくても、代表取締役や役員が買収(M&A)後にそのまま会社に残ることはあります。
売り手側にとって望ましい期間
売り手側にとって望ましいキーマン条項の期間は、1〜3年ほどです。売却する際にキーマン条項を取り決め納得していても、時間が経つにつれて、気持ちや考えに変化が生じることもあるでしょう。
新しい事業に着手したくても、拘束期間中は自由が利くわけではありません。買い手側の判断に従わないといけなくなるため、キーマン条項を決める際には、内容や期間についてきちんと検討することが大切です。
買い手側にとって望ましい期間
買い手側にとっての望ましい期間も、1〜3年ほどと売り手側と同じです。長い期間、売り手側の社長や役員を拘束すると、意欲低下などが生じる可能性が高くなります。キーマン条項は、長ければ長いほどよいというものではありません。
引継ぎの内容にもよりますが、キーマン条項を設定する場合は、できるだけ短く設定するようにしましょう。
M&Aでキーマン条項(ロックアップ)を定めるメリット
M&Aでキーマン条項を定めるメリットを、売り手と買い手の立場に分けて解説します。
売り手側のメリット
M&Aでキーマン条項を設ければ、高い価格で売却できる可能性がある点がメリットです。いくら魅力的な会社でも、承継がスムーズにいかなければすぐに利益をあげることが難しいため、重要人物が引き続き業務を担うキーマン条項を定めた案件は高くなりやすいでしょう。
ただし、M&Aの売却価格はさまざまな要素で決めるため、キーマン条項があれば必ず高値とは限りません。
買い手側のメリット
買い手は、キーマン条項を設けることでM&A実施後スムーズに移行しやすい点がメリットです。
M&Aは、さまざまな変化が伴います。キーマン条項を設けなかったために、代表取締役やそのほか役員などの流出まではじまると、現場の従業員は混乱するでしょう。
キーマン条項を設けることにより、重要人物が引き続き対象企業に数年間在籍すれば、混乱やトラブルを未然に防げます。
キーマン条項(ロックアップ)の注意点・デメリット
売り手も買い手も、キーマン条項を定める際にあらかじめ理解しておかなければならないことがあります。主な注意点・デメリットは以下のとおりです。
- 双方の注意点:盛り込む際は例文(文例)を写さず専門家に相談する
- 売り手側のデメリット:一定期間対象者の自由が制限される
- 売り手側のデメリット:個人的な出資を制限されることもある
- 売り手側のデメリット:破ると賠償金が発生することがある
- 売り手側の注意点:買い手企業について調べる
- 買い手側のデメリット:モチベーションを下げる可能性がある
それぞれ詳しく解説します。
1.盛り込む際は例文(文例)を写さず専門家に相談する
売り手も買い手も、M&Aの契約書にキーマン条項を盛り込む際は、インターネットなどで調べた例文(文例)をそのまま写さず、専門家に相談しましょう。 安易にひな形を使用すると、自社に不利益な条項が入っているのに気付かずに契約を締結し、後々トラブルに繋がってしまうおそれもあります。
顧問弁護士がいなくても、M&A仲介会社が契約書作成の相談に乗ってくれることがあります。
2.売り手側:一定期間対象者の自由が制限される
売り手側は、キーマン条項を定めることで一定期間対象者の自由が制限される点がデメリットです。たとえば、キーマン条項を2年間で設定した場合、元々引退しようと考えていた場合でも定められた期間は勤務し続けなければなりません。
3.売り手側:個人的な出資を制限されることもある
キーマン条項に個人的な出資を制限する文言が含まれることがある点も、売り手側のデメリットです。個人的な出資を制限されると、M&Aで得た資金を元手に新規事業を立ち上げることも難しくなるでしょう。
個人的な出資を制限するのは、主に買い手側が対象企業の優位性を失うことを懸念するためです。キーマン条項を盛り込む際は、出資に関する文言の有無を確認するようにしましょう。
4.売り手側:破ると賠償金が発生することがある
キーマン条項の対象者が、設定した期間内に退職した場合、賠償金が発生することがある点も売り手側のデメリットです。あらかじめ定めた期間在籍しないことが契約に違反するとして、買い手側から損害賠償が請求されます。
役員などの重要人物は、安易な気持ちでキーマン条項を盛り込まず、設定期間在籍することが現実的かを十分に検討することが大切です。
5.売り手側:買い手企業について調べる
売り手側は、キーマン条項を設定する前に、買い手企業についてきちんと調べることが大切です。設定された期間は、買い手企業に残り従事する必要があるからです。契約を締結する前に、働く環境や買い手企業の信頼性などを確認しておきましょう。
6.買い手側:モチベーションを下げる可能性がある
買い手は、キーマン条項を設定することで売り手側の重要人物のモチベーションを下げる可能性がある点がデメリットです。売り手側経営者は、オーナーだったころと比べて経営の自由度が低く、自分の会社という意識も薄れるため、モチベーションが下がることがあります。
M&A後に対象者のモチベーションが下がると、当初期待していたような成果を得られないでしょう。モチベーションを考慮し、設定期間は長くしすぎないことがポイントです。
キーマン条項(ロックアップ)に関連する条項
最後に、キーマン条項と共にM&Aの契約書に盛り込まれることがある、競業禁止条項(競業避止義務)やアーンアウト条項について解説します。
競業禁止条項(競業避止義務)
競業禁止事項(競業避止義務)とは、M&A(買収)後に対象企業やその経営者が買い手のビジネスと競合することを制限することです。買い手のビジネスと競業して期待した利益を得られなくなることを防ぐために、競業禁止条項を設けます。
事業譲渡を除き、競業避止義務について会社法で明確な規定はないため、双方の合意のもと禁止する期間を契約書内で自由に設定可能です。
アーンアウト条項
アーンアウト条項とは、M&A実施後の業績に応じて、売却価格に上乗せ報酬が発生することを定めた条項です。
アーンアウト条項を設ければ、売り手側が想定よりも報酬を得られる可能性があります。また、売り手側のモチベーションを向上できる点が、買い手側のメリットです。
なお、アーンアウト条項を設ける場合、M&A成約時に支払う金額が低くなることがあるため、売り手は注意しましょう。
キーマン条項(ロックアップ)が機能しなかった具体例
キーマン条項の設定期間があまりにも長過ぎて、売り手企業の経営者が途中で引継ぎをやめてしまったケースがあります。このケースでは、契約に違反したとして、違約金を支払うことになりました。
また、あえてキーマン条項を設定しない経営者もいます。M&Aでは一般的に、キーマン条項を設定すると、買収価格は高くなる傾向にあります。しかしある経営者は、買収額アップよりも自身の自由のほうが大切と、キーマン条項を盛り込まず契約を締結しました。
まとめ
キーマン条項とは、引継ぎのために、売り手企業の社長や役員をある一定期間在籍させる取り決めのことです。キーマン条項が盛り込まれる場合、売り手側は高い金額で会社を売却できる可能性が高まります。また、買い手側も業務のスムーズな移行を期待できます。
ただし売り手側は、取り決めた期間は会社に残り、引継ぎ業務に従事しなければならない点に注意が必要です。途中で退職してしまうと、契約違反として違約金が発生することがあります。また買い手側も、対象者のモチベーションが下がらないように慎重に対応しなければなりません。
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