このページのまとめ
- 原則的評価方式とは、非上場株式の価値を計算する際に原則として使う方法
- 評価方法は会社規模(大・中・小)によって異なる
- 少数株主が取得した株式は特例的評価方式(配当還元方式)を用いる
- 開業前・休業中の会社など、会社規模と関係なく算定するケースもある
非上場株式を取得したとき、評価方法として使う原則的評価方式とはどのようなものかよくわからないという方もいるのではないでしょうか。原則的評価方式は、相続や贈与などで取得した非上場株式の評価に用いる方法で、どの計算式を使うかは取得した人ごとに判断されます。
本記事では、原則的評価方式の概要や具体的な評価方法について解説します。評価を行う流れや例外にあたるケースなども紹介するため、ぜひ参考にしてください。
目次
原則的評価方式とは
原則的評価方式とは、株式の価値を評価する際に使う方法のひとつです。非上場株式には上場株式とは異なり取引相場がないため、株式の価値を評価する際に原則的評価方式を使うことがあります。
ここから、上場株式と非上場株式の違いや、原則的評価方式を使う具体的なケースについて確認していきましょう。
非上場株式の価値を評価する方法
原則的評価方式とは、非上場株式の価値を計算するとき、原則として用いる評価方法です。
証券取引所で取引されている上場企業の株式の株価は取引相場を基準に算定しますが、非上場企業にはこのような市場での評価額がないため、原則的評価方式を使って計算します。
原則的評価方式は、類似業種比準方式と純資産価額方式という計算方法に分けられますが、どの計算式を用いるかはいくつかの判定が必要です。
取引相場のない株式を発行している会社の事業規模や株主構成はさまざまで、株主間の会社支配力にも大きな差があるため、株式の評価は、それぞれの実態に応じて評価する必要があるためです。
非上場株式の評価では、まず株式を取得した株主が、株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主かそれ以外の株主かで区分し、さらに会社の規模によって評価すべき方法を決めるといった手順で行います。
原則的評価方式を使う具体的なケース
相続や贈与で非上場株式を取得し、原則的評価方式を使うのは、主に取得者(株主)が「同族株主」に該当するケースです。
国税庁によると、同族株主とは、株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が対象会社の議決権総数の30%以上のときの、株主およびその同族関係者を指します。
なお、株主の1人およびその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が50%超である場合には、議決権総数の50%超のときの株主およびその同族関係者が同族株主に該当します。
参照元:国税庁「同族株主の判定」
特例的評価方式(配当還元方式)を使う場合もある
非上場株式の評価は、特例的評価方式(配当還元方式)を用いる場合もあります。株式を所有することによって今後も受け取りが期待できる配当金を一定の利率で還元し、株式の価額を求める方法です。
同族株主以外の株主や、同族株主のいない会社の議決権割合が合計15%未満のグループに属する少数株主が取得した株式を評価する場合に用いられます。
原則的評価方式で評価する際の流れ
非上場株式を相続や贈与で取得した場合に原則的評価方式で評価するまでの流れは、以下のとおりです。
- 株主を判定する
- 会社の規模を確認する
- 特定会社等に該当するか判定する
- 評価方法を決定する
それぞれ、具体的に何をするのかを詳しく解説します。
1.株主を判定する
まず、非上場株式の評価方法が原則的評価方式に該当するのかを判定します。具体的には、取得した株式は同族株主のいる会社なのか、いない会社なのかを確認します。筆頭株主グループの議決権割合が30%以上の場合であれば同族株主のいる会社で、議決権割合が30%未満は同族株主のいない会社です。
ただし、50%超えの議決権を保有する同族株主グループがいる場合は、そのグループに属している株主のみが同族株主となります。
筆頭株主グループが保有する議決権割合 | 同族株主の有無 |
30%未満 | 同族株主がいない会社 |
30%以上50%以下 | 同族株主がいる会社 |
50%超 | 筆頭株主グループに属する者のみが同族株主 |
同族株主がいる会社でも、株主の区分により評価方式は変わります。
同族株主 | 取得後の議決権割合が5%以上 | 原則的評価方式 ・類似業種比準方式 ・純資産価額方式 |
取得後の議決権割合が5%未満・中心的な同族株主がいない (中心的な同族株主と役員がいる場合は、中心的な同族株主と役員) | ||
取得後の議決権割合が5%未満・中心的な同族株主がいる場合、中心的な同族株主と役員以外の株主 | 特例的評価方法 (配当還元方式) | |
同族株主以外の株主 |
「中心的な同族株主」とは、同族株主の1人とその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族の保有する議決権が合計25%以上のグループのことです。
同族株主がいない会社は、15%以上のグループが同族株主等に該当します。次のような区分により、評価方式が分けられます。
議決権割合の合計が15%以上のグループに属する株主 | 取得後の議決権割合が5%以上 | 原則的評価方式 ・類似業種比準方式 ・純資産価額方式 |
取得後の議決権割合が5%未満・中心的な株主がいない | ||
取得後の議決権割合が5%未満・中心的な株主がいる場合の役員等 | ||
取得後の議決権割合が5%未満・中心的な株主がいる場合のその他の株主 | 特例的評価方式 (配当還元方式) | |
議決権割合の合計が15%未満のグループに属する株主 |
2. 会社の規模を確認する
次に、会社の規模を確認します。非上場株式の評価方法は原則評価方式の類似業種比準方式と純資産価額方式の2種類ですが、どの評価方法を採用するかは、会社規模によって異なります。
上場会社に近い規模の大会社は、上場会社の株価をもとにした類似業種比准方式により評価するのが適切であり、規模の小さい会社は事業用資産の評価に基づく純資産価額方式による評価が実態に合うと考えられているためです。
大会社 | 類似業種比準方式 |
中会社 | 類似業種比準方式と純資産価額方式を併用 |
小会社 | 純資産価額方式 |
会社の規模は、従業員数・業種・純資産価額・取引金額から判定します。まず従業員数をチェックして、70人以上いれば大会社、5人以下であれば小会社と判断できます。
従業員数が5人超70人未満であれば、該当する業種(卸売業・小売サービス業・その他)に対応する純資産価額や取引金額から会社の規模を確認してください。
大会社とは
従業員数が70人以上の会社は、大会社です。また、従業員数が35人以上70人未満で、総資産価額(帳簿価額)と取引金額のいずれかが以下にあてはまる場合も、大会社に該当します。
業種 | 総資産価額 | 取引金額(直前期末以前1年間) |
卸売業 | 20億円以上 | 30億円以上 |
小売・サービス業 | 15億円以上 | 20 億円以上 |
卸売業、小売・サービス業以外 | 15億円以上 | 15億円以上 |
たとえば、従業員数37人で小売・サービス業を営み、総資産価額が21億円の会社は大会社です。
中会社とは
従業員数が5人超70人以下で、総資産価額と取引金額のいずれかが以下にあてはまる会社(大会社除く)は、中会社です。
業種 | 総資産価額 | 取引金額(直前期末以前1年間) |
卸売業 | 7,000万円以上 | 2億円以上30億円未満 |
小売・サービス業 | 4,000万円以上 | 6,000万円以上20億円未満 |
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円以上 | 8,000万円以上15億円未満 |
たとえば、従業員数33人で卸売業を営み、取引金額が20億円の会社は中会社に該当します。
小会社とは
従業員数70人以下で、総資産価額と取引金額のどちらも下記条件を満たす会社が小会社です。
業種 | 総資産価額 | 取引金額(直前期末以前1年間) |
卸売業 | 7,000万円未満 | 2億円未満 |
小売・サービス業 | 4,000万円未満 | 6,000万円未満 |
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円未満 | 8,000万円未満 |
たとえば、従業員数13人で製造業(卸売業・小売サービス業以外)を営み、総資産金額が3,000万円かつ取引金額4,000万円の会社は、小会社に該当します。
なお、従業員数が5人以下であれば、総資産価額・取引金額に関係なく小会社です。
3. 特定会社等に該当するか判定する
次に、特定会社等に該当するかを判定しましょう。同族株主等がいる非上場企業でも、原則的評価方式が向いていない、もしくは適用できない場合があります。不動産や株式など特定の資産を多く所有していたり、開業前や休業中など、一般的な経営活動を行っていない会社が該当します。
このような企業は「特定の評価会社」と呼ばれ、原則として純資産価額方式で計算しなければなりません。
該当する会社は、主に以下のとおりです。
- 比準要素数1の会社(直前期末に配当金額・利益金額・純資産価額のいずれか2つが0で、直前々期末も2つ以上が0)
- 株式等保有特定会社
- 土地保有特定会社
- 課税時期に開業後3年未満の会社や、直前期末の配当金額・利益金額・純資産価額がすべて0の会社
- 開業前・休業中の会社
- 清算中の会社
株式等保有特定会社や土地保有特定会社とは、それぞれ株式や土地が一定割合以上ある会社のことです。
4.評価方法を決定する
特定会社等に該当しなければ、会社規模に応じた方法で計算します。大会社で使うのは類似業種比準価額方式、小会社で使うのは純資産価額方式です。
中会社は類似業種比準価額・純資産価額を併用し、大・中・小に分かれて次のように計算します。
- 中会社の大:類似業種比準価額×90%+純資産価額×10%
- 中会社の中:類似業種比準価額×75%+純資産価額×25%
- 中会社の小:類似業種比準価額×60%+純資産価額×40%
なお、大会社・中会社・小会社の判定基準や、中会社Lの割合は、国税庁の「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」でも確認できます。
参照元:国税庁「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」
会社規模による評価方法
国税庁によると、原則的評価方式では、会社規模(大会社・中会社・小会社)によって以下のように使い分けることが原則です。
- 大会社は類似業種比準方式が原則
- 小会社は純資産価額方式が原則
- 中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式を併用
各評価方法について、詳しく解説します。
参照元:国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
大会社は類似業種比準方式が原則
大会社の場合、類似業種比準方式で評価することが原則です。類似業種比準方式とは、類似業種の株価に基づき、対象会社の一株あたり配当金額・利益金額・純資産価額を比較して計算する評価方式を指します。
2017年の税制改正で、配当金額・利益金額・純資産価額の比重が1:1:1となりました。類似業種比準方式の具体的な計算式は以下のとおりです。
類似業種の株価 × (評価会社の1株当たりの配当金額/類似業種の1株当たりの配当金額類+似業種の1株当たりの利益金額/評価会社の1株当たりの利益金額+評価会社の1株当たりの純資産価額/類似業種の1株当たりの純資産価額)× 0.7
計算に必要な類似業種の業種目や業種目別株価などは、国税庁のホームページから確認できます。
参照元:国税庁「財産評価関係 個別通達目次」
小会社は純資産価額方式が原則
小会社の場合、原則として純資産価額方式で評価します。純資産価額方式とは、会社が解散した場合の価値に着目した評価方法です。
純資産価額方式では、貸借対照表に記載された会社の総資産や負債を相続税の評価額に洗い替えします。洗い替え後の総資産価額から負債や評価差額に対する法人税額等相当額を差し引いた金額が、その会社の評価額です。
中会社は類似業種比準方式と純資産価額方式を併用
中会社の場合、大会社の評価方法(類似業種比準方式)と中会社の評価方法(純資産価額方式)をあわせて評価します。
評価する際の類似業種比準方式と純資産価額方式の比率は、中会社の規模(純資産額と取引額)によって異なる点がポイントです。
類似業種比準方式を用いる比率は、以下の図表から判断できます。図表で該当する純資産額と取引額をそれぞれチェックし、該当する大きい方の数字が類似業種比準方式の比率です。
業種 | 総資産価額(帳簿価額)及び従業員数に応ずる割合 | ||
卸売業 | 7,000 万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 2億円以上(従業員数が20人以下の会社を除く。) | 4億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) |
小売・サービス業 | 4,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 2億5,000万円以上(従業員数が20人以下の会社を除く。) | 5億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) |
卸売業、小売・サービス業以外 | 5,000万円以上(従業員数が5人以下の会社を除く。) | 2億5,000万円以上(従業員数が20人以下の会社を除く。) | 5億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く。) |
割合 | 0.60 | 0.75 | 0.90 |
業種 | 直前期末以前1年間における取引金額に応ずる割合 | ||
卸売業 | 2億円以上3億5,000万円未満 | 3億5,000万円以上7億円未満 | 7億円以上30億円未満 |
小売・サービス業 | 6,000 万円以上2億5,000万円未満 | 2億5,000万円以上5億円未満 | 5億円以上20億円未満 |
卸売業、小売・サービス業以外 | 8,000 万円以上2億円未満 | 2億円以上4億円未満 | 4億円以上15億円未満 |
割合 | 0.60 | 0.75 | 0.90 |
なお、類似業種比準方式で用いる比率を「L(の割合)」と呼ぶことがあります。中会社を評価する際に、純資産価額方式を用いる比率は、「1-L」です。
特定会社等に該当する場合の評価方法
特定会社等に該当する場合は、原則的評価方式ではなく、基本的に純資産価額方式を使います。
純資産価額方式は、仮に評価会社が解散した場合の価値に着目し、その会社の株主に分配されるはずの財産価値で評価する方法です。
具体的には、次のように計算します。
- 相続税評価額による資産・負債の差額として純資産を求める
- 1による相続税評価額の純資産と税務上の帳簿価額による純資産との差額に37%を乗じて、法人税額等に相当する金額を求める
- 相続税評価額による純資産に含み益を加え、法人税額等に相当する金額を控除する
- 3により計算した純資産額を発行済株式数で割り、1株あたりの純資産額を算出する
なお、「比準要素数1の会社」の場合、原則として純資産価額方式を使いますが、納税者の選択により、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用して計算することも可能です。
併用する場合の計算式は、次のとおりです。
比準要素数1の会社の評価額=類似業種比準方式×25%+純資産価額方式×75%
清算中の会社の株式は、清算分配見込額(清算の結果分配を受ける見込みの金額のこと)で評価します。
特例的評価方式(配当還元方式)を用いる場合の評価方法
同族株主以外の株主が取得した株式は、会社規模に関係なく、特例的評価方式(配当還元方式)を用いて評価します。配当還元方式とは、対象株式を所有して受け取る年間配当金額を10%で還元して株式の価額を評価する方法です。
配当還元方式を用いる場合、以下の計算式で1株あたりの配当還元価額を算出できます。
(年間配当金額 / 10%) × (1株あたりの資本金額/50円)
年間配当金額は直前期、直前々期の配当金額を平均した金額です。たとえば、直前期配当金額が250円、直前々期配当金額が350円、1株あたりの資本金額が600円の場合、計算式にあてはめれば1株あたりの配当還元価額を36,000円と計算できます。
自社株対策で評価額を下げる方法
取得する株式の評価額が高いほど、後継者に課される税金も高くなります。あえて評価額を下げたい場合には、自社株対策の実施が有効です。
ここから、類似業種比準価額方式と純資産価額方式のそれぞれを用いた場合に、どのようにして評価額を下げるかについて解説します。
類似業種比準価額を引き下げるには?
類似業種比準価額方式を用いる場合、1株あたり配当金額・1株あたり利益金額・1株あたり純資産価額で評価額が左右されます。そのため、利益金額が下がれば、理論上評価額の引き下げが可能です。
利益金額を引き下げるには、主に以下の方法があります。
- 決算賞与の損金算入
- 設備投資
- 不要な固定資産の処分
ただし、安易に利益圧縮を試みると本業に支障をきたすおそれがあるため、慎重な対応が必要です。
純資産価額を引き下げるには?
純資産価額方式は、総資産価額から負債を引いた金額を計算に使うため、評価額が純資産に左右されます。純資産が増えれば評価額が高くなり、減れば評価額は低くなるでしょう。
含み損が生じる資産を購入したり、設備投資したりすると純資産価額が下がります。そのほか、株式数を増やすことも純資産価額方式で評価額を下げる方法のひとつです。
なお、自社株対策は専門的知識を問われるため、専門家に相談することも検討してみてください。
まとめ
原則的評価方式とは、非上場株式の価値を評価する方法です。主に、同族株主が非上場株式を相続や贈与で取得した際に用いられます。
原則的評価方式は、原則として会社の規模によって評価方法が異なる点がポイントです。従業員数・業種・純資産額・取引額から会社の規模を判断して適切な評価方式を用います。
評価額が高ければ高いほど、株式取得時の税金が上がるため、原則的評価方式を理解しておくことは重要です。事業承継などで非上場株式を取得する予定がある方は、あらかじめ専門家に相談しておくとよいでしょう。
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