事業譲渡の仕訳・会計処理方法は?のれんや税務処理もわかりやすく解説

2024年1月25日

事業譲渡の仕訳・会計処理方法は?のれんや税務処理もわかりやすく解説

このページのまとめ

  • 事業譲渡では双方で決めた資産のみが譲渡の対象となる
  • 事業譲渡の仕訳・会計処理で売り手は「事業譲渡益」の勘定科目を使用する
  • 「のれん」が発生する場合、買い手は「のれん」の勘定科目を計上する
  • 消費税が発生する資産の譲渡では、「仮受消費税」「仮払消費税」を使って仕訳する

「事業譲渡を予定しているが、仕訳・会計処理が難しそう」と気になっている方もいるのではないでしょうか。事業譲渡の仕訳では、売り手が受け取る現預金から簿価総額を引いた金額を「事業譲渡益」の勘定科目で計上することがポイントです。

本記事では、事業譲渡の概要や具体的な仕訳・会計処理方法を解説します。そのほか、税務上の注意点も説明するため、ぜひチェックしてください。

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そもそも事業譲渡とは

そもそも事業譲渡とは、売り手の事業や関連する資産・権利義務の一部あるいはすべてを別の会社に譲渡することです。一般的に、事業譲渡はM&Aのひとつに分類されます。M&AとはMergers(合併)and Acquisitions(買収)の略で、資本の移動を伴う会社の売買のことです。

事業譲渡では、売り手は特定の事業のみを売却して会社を存続させられる点がメリットです。一方、手続きが複雑な点や原則として競業避止義務が適用される(会社法第21条)点がデメリットとして挙げられます。

買い手は、範囲を選択できるため望まぬ債務を引き継ぐことがない点がメリットです。また、売り手と同様に手続きが複雑な点がデメリットとして挙げられます。

ここから、事業譲渡の対象となる資産や負債がある場合の扱いについて確認していきましょう。

事業譲渡の対象となる資産

中小企業のM&Aでよく用いられる手法である株式譲渡では、株式を譲渡することによって経営権を承継し、会社全体をを丸ごと売り手に渡すことになります。一方で、事業譲渡は双方で決めた資産のみが譲渡の対象となります。対象は、売掛金や商品などの流動資産、土地や建物などの有形固定資産、営業権やノウハウなどの無形固定資産などさまざまです。

ただし、対象が事業の全部や重要な事業の一部(当該譲渡により譲り渡す資産の帳簿価額が、当該株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一以上)である場合、売り手は株主総会の特別決議による承認を得なければ譲渡ができません(会社法第467条第1項、第2項)。

事業譲渡の負債の扱い

資産と同様に、負債(債務)も買い手と売り手で決めた範囲で責任を分担します。債務を買い手が引き継ぐ場合は、双方で債務引受契約を締結した上で、債務者から債務譲渡の承諾を得ることが必要です。

また、売り手の商号を使用する場合は、買い手も原則として売り手の事業で生じた債務を弁済する義務を負います(会社法第22条第1項)。ただし、債務を弁済する責任を負わない旨の登記をした場合、買い手は弁済義務を負う必要がありません(会社法第22条第2項)。

事業譲渡のメリット

株式譲渡や合併では会社ごと売却するのに対し、事業譲渡は事業の一部のみを売却できることがメリットです。継続したい事業だけを残し、業績の伸びない事業だけを売却することもできます。

事業譲渡で獲得した資金を残した事業に投資したり、債務の返済にあてて経営状況を立て直したりすることも可能です。

事業譲渡では売り手と買い手が譲渡する事業の範囲を定め、契約を締結します。そのため、会社に残したい従業員や資産を譲渡の範囲から除外できるのもメリットです。

関連記事:M&Aにおける事業譲渡とは?メリット・デメリット、手続き・ポイントなどを解説

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事業譲渡時の基本的な仕訳・会計処理方法

ここから、事業譲渡する際の基本的な仕訳・会計処理方法を解説します。今回用いるのは負債なしでシンプルに資産のみを譲渡する以下の事例です。

勘定科目簿価(千円)時価(千円)
棚卸資産1,0001,000
土地28,50032,000
建物10,0008,000
商標権5001,000
合計40,00042,000

譲渡企業(売り手)と譲受企業(買い手)の場合に分けて解説します。

事業譲渡の譲渡企業(売り手)の勘定科目と仕訳例

売り手は、譲渡する資産を簿価で右側の「貸方」に記載します。また、左側の「借方」には、売却に伴い受け取る現預金額を以下のように記載しましょう。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現預金42,000棚卸資産1,000
土地28,500
建物10,000
商標権500
事業譲渡益2,000

一般的に、受け取る現預金(売却価額)は時価で計算するため、簿価で計上した譲渡資産との間に差が生じます。そこで、時価総額から簿価総額を差し引いた金額を「事業譲渡益」の勘定科目で計上しましょう。

事業譲渡の譲受企業(買い手)の勘定科目と仕訳例

買い手は、譲り受けた資産をすべて時価で計上します。売り手の場合と反対に、受け取る資産を右側の「貸方」、渡す現預金(買収額)を左側の「借方」に記載しましょう。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
棚卸資産1,000現預金42,000
土地32,000
建物8,000
商標権1,000

なお、資産も買収額も時価で算出しているため、両者に差は生じません。

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のれんが発生する場合の仕訳

「のれん」が発生する場合、仕訳の記載方法が少し異なる点に注意しましょう。「のれん」の概要を説明してから、譲渡企業(売り手)と譲受企業(買い手)の仕訳例を紹介します。

のれんとは?

「のれん」とは、事業資産の買収価額(売却額)のうち、売り手の時価純資産額を上回った額のことです。買い手は対象事業のブランドやノウハウなどを考慮して、時価純資産額以上での購入を決断することがあります。

勘定科目簿価(千円)時価(千円)
棚卸資産1,0001,000
土地28,50032,000
建物10,0008,000
商標権5001,000
合計40,00042,000

上記の事例で、買収価額が時価の合計額42,000(千円)を上回る場合に、「のれん」が発生します。今回は買収価額が45,000(千円)で「のれん」が発生したケースで仕訳例を考えてみましょう。

譲渡企業の仕訳例

譲渡企業(売り手)は、記載する勘定科目に変更ありません。右側の「貸方」に譲渡する資産や「事業譲渡益」、左側の「借方」に受け取る現預金を記載しましょう。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現預金45,000棚卸資産1,000
土地28,500
建物10,000
商標権500
事業譲渡益5,000

なお、売却額が増えたことに伴い、「のれん」が発生していないケースと比べて、現預金と事業譲渡益も3,000(千円)増加しています。

譲受企業の仕訳例

譲受企業(買い手)も記載する項目や金額はほとんど同じですが、渡す現預金(買収価額)と受け取る資産の差額分を新たに記載する点が異なります。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
棚卸資産1,000現預金45,000
土地32,000
建物8,000
商標権1,000
のれん3,000

上記のように、買収額と受け取る資産の差額分(3,000千円)を「のれん」の勘定科目で計上しましょう。

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負ののれんが発生する場合の仕訳

「のれん」ではなく、「負ののれん」が発生する場合もあります。「負ののれん」の概要や、発生した場合の仕訳例を確認していきましょう。

負ののれんとは?

「負ののれん」とは、「のれん」と反対に、事業資産の買収価額(売却額)のうち、売り手の時価純資産額を下回った分の額です。売り手は帳簿にあらわれていない負債(簿外債務)やリスクを考慮して、時価純資産額よりも安い金額での売却を決断することがあります。

勘定科目簿価(千円)時価(千円)
棚卸資産1,0001,000
土地28,50032,000
建物10,0008,000
商標権5001,000
合計40,00042,000

上記で、買収価額が時価の合計額42,000(千円)を下回ると「負ののれん」が発生します。今回は買収価額が40,000(千円)で「のれん」が発生したケースで仕訳例を考えてみましょう。

譲渡企業の仕訳例

譲渡企業(売り手)は、「負ののれん」が発生する場合も記載する勘定科目に変更ありません。以下のように右側の「貸方」に譲渡する資産、左側の「借方」に受け取る現預金を記載しましょう。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現預金40,000棚卸資産1,000
土地28,500
建物10,000
商標権500

なお、今回は買収価額(売却額)が資産の簿価と同じため、事業譲渡益が発生していません。

譲受企業の仕訳例

譲受企業(買い手)は、受け取る資産と渡す現預金(買収価額)の差額分を記載しなければなりません。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
棚卸資産1,000現預金40,000
土地32,000負ののれん2,000
建物8,000
商標権1,000

上記では、受け取る資産と買収価額の差額分(2,000千円)を「負ののれん」の勘定科目で右側の貸方に計上しています。

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消費税が発生する場合の仕訳

株式譲渡と異なり、事業譲渡では消費税が発生します。事業譲渡では事業に必要な資産や人材、ブランドなど会社の財産を売買する際、その中に税法上の「課税資産」が含まれている場合は「課税資産×消費税率」の消費税が発生します。

ここでは、消費前が発生する場合や、譲渡企業・譲受企業それぞれの仕訳を紹介します。

消費税が発生する場合とは?

消費税の課税対象になるのは幅広く、主に次の資産が対象です。

  • 建物・機械設備など有形固定資産
  • ノウハウ・営業権などの無形固定資産
  • 商品・原材料などの棚卸資産
  • のれん代

ただし、土地や有価証券、売掛金・貸付金などの債権は課税対象にならず、消費税は発生しません。

この消費税は、事業を譲渡した売り手側が申告・納付を行います。

譲渡企業の仕訳例

消費税の発生する資産を売却する場合、譲渡企業は消費税込みの額を対価として受け取ります。その際の仕訳をみていきましょう。

仕訳は、まず受け取った対価を消費税込みの額で「現預金」として借方に記載し、消費税額は「仮受消費税」として貸方に記載します。譲渡した資産の時価総額と簿価総額の差額を「事業譲渡益」として計上し、譲渡した資産の中に弁済義務のある負債がある場合は、それらを借方に計上します。

簿価10,000(千円)の建物を資産を譲渡したケースで、事業譲渡益が2,000(千円)の場合の譲渡側の仕訳は以下のとおりです。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
現預金11,000建物10,000
諸負債2,000事業譲渡益2,000
仮受消費税1,000

譲受企業の仕訳例

消費税が発生する際の譲受側の仕訳は、まず支払った消費税を「仮払消費税」で借方に記載します。次に、支払った対価を税込価格で貸方に記載します。

譲渡側と同じ条件の場合の仕訳は、以下のとおりです。

借方貸方
勘定科目金額(千円)勘定科目金額(千円)
建物12,000現預金11,000
仮払消費税1,000諸負債2,000
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事業譲渡の税務上の注意点4つ

事業譲渡では、仕訳だけでなく以下のような税務上の注意点も理解しておかなければなりません。

  1. 法人税が課されることがある(売り手)
  2. のれんの税務処理は異なる(売り手・買い手)
  3. 不動産取得時にかかる税金もある(買い手)
  4. 減価償却資産があれば耐用年数を算出する(買い手)

4つの注意点を確認していきましょう。

1. 法人税が課されることがある(売り手)

売り手は事業譲渡により、法人税や事業税、住民税が課されることがある点に注意が必要です。事業譲渡の売却価額が譲渡直前の帳簿価額よりも高い場合に、超過金額を譲渡益として課税されます。

また、会社が事業譲渡で得た利益を役員や株主に役員報酬や配当として還元する場合、さらに金がかかる点に気をつけましょう。

2.のれんの税務処理は異なる(売り手・買い手)

売却価格と簿価総額に差額が発生した場合、会計処理ではのれんと呼ぶことを説明しました。一方、税務上ではのれんではなく「資産調整勘定」と呼ばれ、負ののれんは「差額負債調整勘定」と呼ばれます。 呼び方は違いますが、基本的には会計処理と同じ考え方です。

法人が非適格合併等により交付した金銭等の価額が移転する資産・負債の時価純資産価額を超えるときは、超える部分の金額を「資産調整勘定」とします。時価純資産価額に満たないときは、満たない金額を「差額負債調整勘定」とする取り扱いです。

ただし、償却の処理は異なります。会計上、のれんは20年以内の効果の及ぶ期間に償却し、負ののれんは発生した事業年度の利益とします。しかし、税務処理での償却はどちらも5年です。

3. 不動産取得時にかかる税金もある(買い手)

不動産取得税や登録免許税のように、事業譲渡で不動産を取得する際にかかる税金があることも買い手は理解しておかなければなりません。

不動産取得税とは、購入・贈与・建築などで不動産を取得した際に課税される税金です。東京都の場合、土地(宅地以外)は3%、家屋(非住宅)には4%の不動産取得税が課されます(2024年3月31日まで)。

登録免許税とは、不動産などを登記する際に課税される税金です。事業譲渡に伴い土地・建物を登記する際に、それぞれ2%の税金が課されます(2023年5月時点)。

4. 減価償却資産があれば耐用年数を算出する(買い手)

買い手は、事業譲渡で減価償却資産に該当する固定資産を取得する場合、耐用年数を算出しなければなりません。耐用年数とは、資産を使用可能な期間のことです。

耐用年数は、原則として事業譲渡で取得した時点で残りの使用可能年数を見積もり、算出します。残りの使用可能年数を見積もれない場合、「(法定耐用年数 - 経過年数)+ 経過年数 ✕ 20%」で算出することも可能です。

なお、すでに法定耐用年数を超過している場合は、「法定耐用年数 ✕ 20%」で計算します。

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まとめ

事業譲渡は双方で決めた資産のみが譲渡の対象となり、会計処理では時価やのれんを踏まえた仕訳が必要です。売り手は受け取る現預金から簿価総額を引いた金額を「事業譲渡益」の勘定科目で計上します。

また、「のれん」や「負ののれん」が発生した場合、買い手は買収価額と受け取る資産の差額分を「のれん(負ののれん)」として計上しなければなりません。

記事では基本的な仕訳方法を解説しましたが、実際の事業譲渡では複雑な仕訳が必要となることもあります。
さらに、事業譲渡では税務上の注意も必要です。仕訳・会計処理や税務処理でミスをしないためにも、事業譲渡を行う際は専門家への相談も検討するとよいでしょう。

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