M&Aに強い税理士の選び方は?報酬や公認会計士の役割も解説
2024年6月21日
このページのまとめ
- M&Aにおける税理士の業務は、税務デューデリジェンスやバリュエーションなど
- 税務・会計におけるリスクを把握できることが、税理士に依頼するメリットのひとつ
- 担当するデューデリジェンスの種類などが、税理士と他の専門家の役割で異なる点
- M&Aの経験や実績を確認することなどが、税理士を選ぶ際のポイント
M&Aを検討するにあたって、「税理士に相談すべき?」と気になっている方もいるのではないでしょうか。M&Aについて税理士に相談すれば、税務・会計におけるリスクを把握できることや、適切な売買価額を計算できることなどがメリットです。
本記事では、M&Aを税理士に相談するメリットや、選び方を解説します。他の専門家との違いについてもまとめているので、ぜひ参考にしてください。
目次
M&Aで税理士に依頼できる主な業務
一般的に、M&Aは以下のような流れで進められます(とくに税理士との関係が深い部分について色付けしています)。
M&Aの流れ |
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検討・準備フェーズ |
アドバイザーへの相談 |
1. ニーズの発生・M&Aの検討 |
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2. M&A業者の選定・契約 |
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3. 秘密保持契約の締結 |
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4. アドバイザーとの面談 |
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5. 企業価値評価(売り手) |
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マッチング・交渉フェーズ |
マッチング |
6. ロングリストの作成 |
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7. ショートリストの作成 |
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8. ノンネームシートの作成(売り手) |
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9. ネームクリアの検討(買い手) |
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トップ面談・条件交渉 |
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10. 秘密保持契約書の締結 |
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11. 企業概要の提示(売り手) |
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12. 企業価値評価・スキームの絞り込み(買い手) |
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13. トップ面談 |
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14. 条件の交渉 |
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15. 意向表明書の提出(買い手) |
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16. 基本合意書の締結 |
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最終契約フェーズ |
最終契約の締結 |
17. デューデリジェンスの実施(買い手) |
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18. 最終条件の交渉 |
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19. 最終契約書の締結 |
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20. クロージング |
税理士のM&Aにおける主な業務は、以下のとおりです。
- バリュエーション・企業価値算定(表の12のタイミング)
- デューデリジェンス(表の17のタイミング)
- M&A手続きにおける税務・会計面のサポート(M&A全体に関る業務)
ここから、各業務について詳しく解説します。
バリュエーション・企業価値算定
税理士によって、M&Aでバリュエーションの役割を担うことがあります。バリュエーションとは、所有する資産や利益などから対象企業の本来の価値を客観的に評価することです。企業価値算定や企業価値評価と呼ぶこともあります。
M&Aにおいて、妥当な売買額がいくらなのかを把握するためには、バリュエーションの作業が欠かせません。税理士や公認会計士などの専門家が対象企業の規模や種類などを考慮し、企業の価値を算定します。
バリュエーションの手法は、主に以下のとおりです。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
なお、バリュエーションには会計の高度な専門知識が必要とされます。M&Aに関する経験が豊富でなければ、適切に処理することは難しいです。
デューデリジェンス(税務)
デューデリジェンスを実施することも、税理士の大切な業務として挙げられます。デューデリジェンスとは、M&Aや投資において対象企業の価値やリスクなどを調べることです。
税理士は、デューデリジェンスのうちとくに税務分野における役割(税務デューデリジェンス)を担います。税務デューデリジェンスは、対象企業で納税が適切に実施されているかを調査することです。
税理士は、依頼者が対象企業に請求した資料を調査することにより、税務デューデリジェンスを実施します。税務デューデリジェンスは、M&A後に買い手が追加徴税を負担したり、当初想定していなかった費用が発生することを避けたりするために必要な作業です。
なお、税理士によっては財務デューデリジェンスの業務を担うこともあります。
M&A手続きにおける税務・会計面のサポート
M&Aの手続きにおける、税務や会計面のサポートをすることも税理士の役割として挙げられます。
たとえば、M&Aを実施した年度は、決算書の作成が複雑になることが一般的です。税理士は適切に申告するために必要なことについて依頼者にアドバイスします。そのため、M&Aを実施するにあたって税理士に依頼することにより、誤った申告をしてペナルティを課されるリスクを軽減できるでしょう。
また、M&Aの手法によって、会計のやり方・手続きもさまざまです。税理士には、税務会計についてサポートする役割もあります。
そのほか、税理士によっては戦略を策定したり、候補先を探したりするなど、M&A業務そのものに携わることもあるでしょう。
M&Aにおける他の専門家との役割の違い
M&Aでは、税理士以外にも弁護士や公認会計士などの専門家が携わることがあります。それぞれの違いを以下にまとめました。
主な役割 | 税理士 | 公認会計士 | 弁護士 |
税務DD | ◯ | △ | ー |
財務DD | △ | ◯ | ー |
法務DD | ー | ー | ◯ |
バリュエーション | ◯ | ◯ | ー |
会計 | ◯(税務会計) | ◯(財務会計) | ー |
税務申告事務 | ◯ | △ | ー |
契約書類作成・契約手続きのサポート | ー | ー | ◯ |
担当するデューデリジェンスの分野が、税理士・公認会計士・弁護士で異なります。税務デューデリジェンスは税理士、財務デューデリジェンスは公認会計士、法務デューデリジェンスは弁護士が担うことが一般的です。
財務デューデリジェンスとは、事業計画の妥当性や必要資金などを判断するために、対象企業の収益性や簿外債務の有無などを調査することを指します。法務デューデリジェンスは、法的リスクを把握してあらかじめ対策を講じるために、契約内容やコンプライアンス、許認可などを調査することです。
また、バリュエーションは主にM&A業務の経験がある税理士や公認会計士が担当します。一方、M&Aの契約書類の作成は、弁護士ができる業務です。
なお、専門家によっては、M&Aアドバイザリー業務(戦略策定・スキームの提案・候補先探しなど)を担う場合があります。
M&Aの実務を税理士に依頼するメリット
M&Aの実務を税理士に依頼するメリットは、主に以下のとおりです。
- 税務・会計におけるリスクを把握できる
- 適切な売買価額を計算できる
- 節税対策ができる
ここから、各メリットについて詳しく解説します。
税務・会計におけるリスクを把握できる
M&Aの買い手は、税理士に依頼することにより、税務や会計におけるリスクを把握できる点がメリットです。
M&Aにおいて、税理士は対象企業の税務調査状況・過去の税務申告書などをチェックしたり、経営陣や会計・税務担当者からヒアリングしたりして税務デューデリジェンスを実施します。そのため、買い手は対象企業の税務リスクを考慮した上で、M&Aの実施可否を判断できるでしょう。
適切な売買価額を計算できる
適切な売買価額を計算できる点も、M&Aに関する実務を税理士に依頼するメリットです。
税理士によってバリュエーション業務を担う場合があります。バリュエーションを依頼すれば、M&Aを実施する上で妥当な価額がわかるため、買い手にとっては必要以上に高額、売り手にとっては極めて安い金額で売買することを防げるでしょう。
手法によっては、自分でバリュエーションを実施できることもあります。しかし、対象企業を取り巻く環境や規模などによって取るべき手法が異なるため、適切な計算をするためには専門家に依頼した方がよいでしょう。
節税対策ができる
節税対策ができる点も、M&Aに関する実務を税理士に依頼するメリットです。
M&Aにおいて、売り手は所得税・住民税・消費税といった税金を課せられることがあります。所得税は個人が株式譲渡した場合、法人税は法人が株式譲渡や事業譲渡をした場合、消費税は法人が事業譲渡した場合に課せられる税金です。
税理士に相談することで、多額の税金が発生することを防げる場合があります。また、税務署から誤った申告を指摘されることも避けられるでしょう。
M&Aに強い税理士の選び方
M&Aに強い税理士を選ぶ際のポイントは、以下のとおりです。
- 得意分野を確認する
- M&Aの経験・実績を有する税理士を選ぶ
- 担当者とのやり取りのしやすさを確認する
ここから、M&Aに強い税理士の選び方について解説します。
得意分野を確認する
税理士に依頼するにあたっては、得意分野を確認することが大切です。
税理士は、税理士試験の全科目に合格することが必要なわけではありません。国税庁の「税理士試験の概要」によると、会計学の2科目(簿記論・財務諸表論)と、税法(所得税法・法人税法・相続税法・消費税法または酒税法・国税徴収法・住民税または事業税・固定資産税)のうち3科目に合格すれば、合格者とみなされます。
そのため、得意分野と異なる分野について質問した場合、満足のいく回答を得られないこともあるでしょう。
参照元:国税庁「税理士試験の概要」
M&Aの経験・実績を有する税理士を選ぶ
M&Aの経験や実績を有する税理士を選ぶことも、選び方のポイントです。
M&A関連の業務を引き受けているからといって、今までの経験が豊富とは限りません。たとえ税理士としての経験自体が豊富であっても、M&Aに不慣れな税理士に相談すると手続きをスムーズに進められないことがあります。
その点、M&Aの実績が豊富な税理士に相談すれば、安心してデューデリジェンスなどのサポートを受けられるでしょう。税理士が公開しているホームページなどを確認すれば、過去にM&A案件を受け持ってきたのかわかります。
担当者とのやり取りのしやすさを確認する
担当者とのやり取りのしやすさを確認することも、税理士を選ぶ際のポイントです。
同じ税理士法人でも、担当者との相性がよいケース・悪いケースがあります。担当者との相性が悪ければ、スムーズにM&Aの手続きを進められません。
正式な依頼をする前に、質問をしたり説明を聞いたりしてコミュニケーションのしやすさを確認しておくとよいでしょう。
M&Aで税理士に支払う報酬相場・費用
M&Aについて税理士に依頼する際、主に以下の費用がかかります。
- デューデリジェンスにかかる費用
- バリュエーションにかかる費用
- M&Aアドバイザリー業務にかかる費用
ここから、各費用の相場について確認していきましょう。
デューデリジェンスにかかる費用
税理士に税務デューデリジェンスを依頼する場合、50万円前後の費用がかかることが一般的です。
また、規模の大きい法人を対象にする場合は、より高額の費用がかかることがあります。なぜなら、規模によって税理士が担う作業負担も重くなるためです。
なお、支払う報酬は、「時間あたり◯万円」「1日あたり◯万円」などで計算されます。
バリュエーションにかかる費用
バリュエーションにかかる費用も、50万円前後かかることが一般的です。ただし、規模の大きい企業に対するバリエーションの場合、100万円を超えることがあります。また、規模が小さい企業であれば、20〜30万円前後で済むこともあるでしょう。
規模によって金額が異なるのは、規模の大きい企業ほど計算が複雑になるためです。
M&Aアドバイザリー業務にかかる費用
M&Aアドバイザリー業務にかかる費用は、100万円前後が相場です。M&A対象の企業の規模が大きい場合は、1,000万円を超えることもあります。
M&Aアドバイザリー業務の報酬を計算する際に使われる方法のひとつが、レーマン方式です。レーマン方式とは、M&Aの取引額にあらかじめ定められた報酬率を乗じることによって、報酬を決める方法を指します。
税理士にM&Aの相談ができる場所
M&Aについて税理士に依頼したい場合、以下の場所に相談しましょう。
- 税理士事務所
- 税理士法人
- M&A仲介会社
ここから、それぞれの場所の概要について説明します。
税理士事務所
税理士事務所とは、一般的に個人事業主の形態で税理士が運営する事務所のことです。スムーズに進みやすい点、親身になってもらいやすい点などが、M&A業務を担う税理士事務所に仕事を依頼する主なメリットとして挙げられます。
ただし、基本的に担当者を代えられない点に注意が必要です。基本的に所属する税理士は一人のため、業務が進むにつれて相性が悪いことに気がついた場合は、別の税理士事務所や税理士法人に依頼し直さなければなりません。
税理士法人
税理士法人とは、2名以上の税理士が所属する法人のことです。支店を展開している税理士法人も存在します。
基本的に、税理士法人も税理士事務所も引き受けられる仕事内容に違いはありません。そのため、依頼する際は個別にM&Aの対応可否や得意分野を見極めることが必要です。
税理士事務所と異なり、税理士法人は担当者を代えられる可能性がある点がメリットとして挙げられます。一方で、組織の体制によって意思決定までに時間を要することがある点は、税理士法人のデメリットです。
M&A仲介会社
M&A仲介会社とは、M&Aで売り手と買い手の間に入り、交渉を仲介したり、必要な手続きをサポートしたりする会社を指します。
一般的に、M&A仲介会社に在籍している税理士はM&Aに関する知識や経験が豊富です。そのため、M&Aに関する業務をスムーズに進められます。
ただし、取り扱う業種や得意分野はそれぞれ異なるため、依頼する前に確認しておきましょう。
M&Aの相談は税理士にする?M&A仲介会社にする?
M&Aのどの業務について依頼するかによって、相談すべき先は異なるでしょう。たとえば、確定申告など税務面のアドバイスのみを受けるのであれば、専門家である税理士への相談で構いません。
一方、M&A全般のサポートが必要な場合は、M&A仲介会社へ相談するとよいでしょう。M&A仲介会社に相談すれば、今までM&Aをしたことがない会社でも、手続きをスムーズに進めやすいです。
税理士であるからといって、M&Aのことを熟知しているわけではありません。その点、M&A仲介会社はM&A業務を専門にしているため、M&Aの候補先探しや成約までのスケジュール調整などのノウハウがあります。
まとめ
M&Aにおいて、バリュエーションやデューデリジェンスなどの実務を税理士に依頼することがあります。税理士に依頼すれば税務・会計におけるリスクを把握できる点や、M&A時の節税対策ができる点などがメリットです。
税理士に相談する際は、あらかじめ得意分野やM&Aの経験・実績を確認しておきましょう。また、税理士は主に税務デューデリジェンスを担うため、候補先探しなどを含む全体のサポートを希望する際はM&A仲介会社に相談する方法も検討しましょう。
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