社員・従業員に株式譲渡するメリットとは?流れや注意点も紹介

2023年6月2日

社員・従業員に株式譲渡するメリットとは?流れや注意点も紹介

このページのまとめ

  • 社員への株式譲渡を実施する主な目的は、事業承継や社員のモチベーション向上など
  • 自社株を報酬として譲渡するケースと、持株会により譲渡するケースがある
  • 社員への株式譲渡には、信頼できる人物を選んで譲渡できるなどのメリットがある
  • 譲渡相手である社員に資金がなく、株式の購入が難しいケースも多い
  • 社員に株式譲渡する際は、資金調達の方法をあらかじめ決めることがおすすめ

「社員に株式譲渡をしたいが、どのように進めていけばよいのだろうか」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。親族などに適切な後継者がいない場合、社員・従業員に株式譲渡を実施し、後継者になってもらう方法を検討できます。

本コラムでは、社員への株式譲渡の流れについて説明します。また、メリットやデメリット、注意すべきポイントについても具体的に紹介します。
社員への株式譲渡をスムーズに進めるためにぜひお役立てください。

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社員・従業員に自社株を譲渡する3つの目的

株式譲渡とは、株主が保有する株式を第三者に売却することです。すべての株式を譲渡すれば、経営権を引き渡すことになります。

社員・従業員への自社株譲渡も同様です。自社株を譲渡することで、経営権の引き渡しが可能になります。社員・従業員への自社株譲渡は、次の目的で実施されることが一般的です。

  • 事業承継
  • 会社の成長
  • 社員のモチベーション向上

それぞれの目的について具体的に見ていきましょう。

事業承継

親族への事業承継が難しいときは、社員に自社株を譲渡して事業承継することがあります。社員は事業内容や取引先との関係も熟知しているため、スムーズに承継されやすい点がメリットです。

また、社員に自社株の一部のみを譲渡して共同経営者となってもらい、その後、すべての自社株を譲渡して全面的に経営を任せるケースもあります。共同経営者として十分に時間をかけて経営スキルを習得できるため、経営経験がない社員のスムーズな事業承継を促進することが可能です。

会社の成長

有能な社員に株式譲渡をして経営権を引き渡せば、会社の成長を期待できます。経営に携わっていなくても、営業成績やリーダーシップ、企画力などを総合的に判断し、後継者にふさわしい人材を見つけていきましょう。

また、社員にすべての株式を譲渡しない場合でも、株主となることで「配当金を増やしたい」という気持ちを喚起することが可能です。配当金を増やすためには、売上増、収益増を目指さなくてはいけません。社員一人ひとりが収益増に焦点をあてて働き、結果的には会社の成長が実現できるでしょう。

社員のモチベーション向上

社員が株主になると、配当金を増やしたいという気持ちから、仕事に対する意欲が従来よりも向上すると考えられます。社員がモチベーションを持って業務に取り組むためにも、株式譲渡が役立つでしょう。

また、社員でもあり株主でもあるという立場から、企業に対する愛着が強まることが期待できます。企業の課題を自分事として捉え、より積極的かつ自発的に働いてくれるようになるでしょう。

関連記事:株式譲渡による事業承継のメリットは?税金や手続きについても解説

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社員・従業員に株式譲渡する流れ

社員・従業員に株式譲渡をする方法としては、主に次の2つが挙げられます。

  • 自社株を報酬として譲渡する
  • 持株会により譲渡する

それぞれの流れについて説明します。

自社株を報酬として譲渡する場合の流れ

給与や賞与は現金以外としても支給できます。自社株を報酬として支給したり、自社株を購入できる権利(ストックオプション)として支給したりすることもあります。とりわけ企業の創業期には、ストックオプションを報酬の一部として支給するケースは珍しくありません。

自社株を報酬の一部として譲渡する場合、以下の流れで実施することが一般的です。

  1. 株価を算定する
  2. 株式譲渡を実行する

順に見ていきましょう。

1.株価を算定する

自社株を報酬として社員に譲渡することは、主に非上場企業でおこなわれます。非上場企業の株式は市場で価額が決まらないため、譲渡する前に株価の算定を実施します。

株価算定にはいくつかの方法がありますが、非上場企業では配当還元方式か原則的評価方式を用いることが一般的です。なお、配当還元方式では原則的評価方式よりも株価が低くなるため、譲渡する自社株が少ないときは配当還元方式が用いられる傾向にあります。

2.株式譲渡を実行する

報酬として見合った金額分の株式を、社員に譲渡します。社員にとっては、株式を受け取れるだけでなく、将来的に配当金も受け取れるようになるというメリットもあります。配当金を増やすべく、モチベーションを持って業務に取り組む社員が増えれば、自社株の株式譲渡を発端とした好循環が生まれるでしょう。

持株会により譲渡する場合の流れ

持株会(従業員持株会)とは、社員が毎月一定額を拠出し、その対価として自社株を受け取れる仕組みのことです。持株会への拠出は給与からの天引きになることが一般的で、持株会の発起人などが拠出額をまとめて自社株を購入します。

持株会を設立すると、社員は拠出額に応じた配当金などを得られるようになります。そのため、福利厚生の一環として持株会制度が用いられることも多いです。また、社員が持株会の一員となることで、企業の安定株主として機能するという役割も果たします。

持株会を設立した株式譲渡は、以下の流れでおこないます。

  1. 譲渡先となる社員を選定する
  2. 規約を作成する
  3. 持株会を設立する
  4. 社員向けの説明会を開催する
  5. 株式譲渡を実行する

流れに沿って見ていきましょう。

1.譲渡先となる社員を選定する

最初に持株会の参加資格を設定します。どのような資格を有する社員が株式の譲渡先となるのか決めておくと、トラブルを回避しやすくなるでしょう。

たとえばパートやアルバイトなどの非正規雇用の社員も参加できるか、子会社の社員は参加できるかなど、すべての社員において参加可否を明確にしておきます。

2.規約を作成する

次は持株会の規約を作成します。入会のルールや退会時の持分清算のルールを決めておくと、トラブルなく持株会を運営できるようになります。少なくとも以下の項目については、事前に決めておきましょう。

  • 入会規則
  • 退会時の持分清算方法
  • 会員の条件
  • 取得対象となる株式の種類
  • 拠出上限額
  • 奨励金の支給有無、付与比率
  • 規約変更ルール

3.持株会を設立する

規約作成後、持株会の発起人を選任します。また、持株会の理事や監事、理事会の理事長、副理事長も決めておきます。

また、拠出額を管理するため、持株会専用の金融機関口座の開設が必要です。口座用の代表印を作成しておきましょう。口座開設完了後に、持株会を設立します。持株会と会社の間で契約を結び、持株会の活動を開始します。

4.社員向けの説明会を開催する

持株会設立後、入会者を募るため、社員向けの説明会を開催します。入会するメリットについて説明し、社員が持株会に魅力を感じるように働きかけます。

また、社員とは別に労働組合や主要株主の代表者に対しても、持株会についての説明が必要です。持株会によって影響を受けると思われる団体・個人の疑問や不安を解消しておくことで、トラブルを回避しやすくなります。

5.株式譲渡を実行する

持株会の入会者に対して、給与や賞与からの天引きの形で株式の対価を受け取ります。受け取った対価で自社株を買い付け、社員の拠出額に応じて自社株を分配し、規約で定めた配当金や奨励金を支給します。

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社員・従業員に株式譲渡するメリット

特定の社員・従業員に株式譲渡することには、次のメリットがあります。

  • 信頼できる後継者に会社を任せられる
  • 敵対的買収を回避できる

それぞれのメリットについて見ていきましょう。

信頼できる後継者に会社を任せられる

事業承継目的で株式譲渡をする場合であれば、信頼できる後継者に任せられることがメリットになります。時間をかけて働きぶりや誠実さなどを見極め、信用に値する社員を後継者として指名できます。

また、後継者が有能であれば、企業の発展、利益増などが期待できる点もメリットです。働きぶりには問題がなくても経営の経験がない後継者であれば、実際に経営権を引き渡す前に数ヶ月~数年ほど経営者自身が行動を共にし、経営の基本を実践で学ばせることもできます。

敵対的買収を回避できる

買収対象会社の取締役会などで同意を得ずに、買収者が株式の取得により買収を仕掛けることを「敵対的買収」といいます。敵対的買収により発行済み株式を集め、株主総会で拒否権を行使できるようにしたり、対象企業への発言力を高めたりすることがあります。

敵対的買収が進むと、予定していた後継者に会社を引き渡せないばかりか、希望しない方針で経営が実施されることにもなりかねません。早めに株式を買い占め、信頼できる後継者に引き渡すことで、敵対的買収を回避できます。また、持株会などを通して多くの社員を安定株主にすることでも、敵対的買収の回避につなげられます。

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社員・従業員に株式譲渡するデメリット

社員・従業員に株式譲渡することには、デメリットもあります。主なデメリットとしては、次の2点が挙げられます。

  • M&Aによるシナジー効果は生まれない
  • 配当金が経営を圧迫する可能性がある

それぞれのデメリットについて見ていきましょう。

M&Aによるシナジー効果は生まれない

株式譲渡もM&Aのひとつですが、従業員への株式譲渡は他社とつながるわけではなく、あくまでも社内での変化のため、シナジー効果は期待できません。

一方、他社へ株式譲渡する場合であれば、他社の独自技術やブランド力、販路、営業ノウハウなどを活かし、飛躍的な売上増や経営拡大を見込めます。シナジー効果を期待するのであれば、同業種や関連業種の別企業への株式譲渡などをおこなうほうがよいでしょう。

配当金が経営を圧迫する可能性がある

配当金や奨励金を高く設定すると、持株会へ参加する社員が増えるだけでなく、社員のモチベーションアップや企業への愛着増も期待できます。しかし、あまりにも高く設定すると、会社の経営そのものを圧迫することにもなりかねません。

また、社員のモチベーションが向上したところで、売上増などの目に見える成果がすぐに出るとは限りません。成果は出ていないのに配当金などの支出が増えると、経営が揺らぐことにもなります。

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社員・従業員に株式譲渡するときの3つの注意点

特定の社員を後継者にするなどの目的で株式譲渡を実施するときは、次のポイントを事前に決めておきましょう。

  • 資金調達の方法を決めておく
  • 社員が連帯保証を引き継げるか確認する
  • 譲渡する株式の割合を決めておく

それぞれの注意点について説明します。

1.資金調達の方法を決めておく

事業承継目的で社員に株式譲渡をするときは、発行済み株式のすべてあるいは大半を譲渡することが前提となります。引き渡す株式が多ければ多いほど後継者の地位は安定しますが、買取価格も高額になるため、後継者が買い取れない可能性も増えます。

スムーズに株式譲渡を実現するためにも、事前に資金調達の方法を決めておくことが必要です。株価を減額する、報酬の一部とするなど、後継者の負担にならない方法を検討しておきましょう。

2.社員が連帯保証を引き継げるか確認する

企業に債務があるときは、後継者が連帯保証を引き継ぐ可能性があります。しかし、連帯保証を引き継ぐには金融機関の審査に通る必要があり、後継者の収入や信用情報によっては引き継げないかもしれません。

後継者が連帯保証を引き継げないときは、前オーナーが連帯保証のみ引き受けることになります。完全に引退できない状態が長引くだけでなく、リスクのみ抱えることにもなります。

また、企業に債務があるときは、後継者の成り手がいなくなるリスクもあるでしょう。有能な人材であっても、経営により必ずしも利益を生み出せるとは限りません。個人で債務を引き受けることで、生活が圧迫されたり、精神的な負担を抱えたりする可能性があります。

3.譲渡する株式の割合を決めておく

株式譲渡後に前オーナーが経営にかかわるかどうかによって、譲渡する株式の割合も調整する必要があります。前オーナーが経営にかかわるなら、過半数あるいは議決権の3分の2を超えないように後継者に株式を譲渡します。

社員に株式譲渡をするけれども、社員を後継者にする予定がないときは、譲渡する株式の割合は十分に低くしておくことが必要です。もしくは譲渡する株式を議決権制限株式にすれば、株式の所有権だけを社員に譲渡し、議決権は制限できます。

また、事業承継目的で株式譲渡をする場合でも、企業の発展についても考慮したうえで譲渡を実施することが必要です。たとえば後継者にすべての株式を譲渡してしまうと、シナジー効果を期待できる他社とのM&Aの機会を逃すことにもなりかねません。事業承継の方法は、社員への株式譲渡だけではありません。企業の発展も念頭に置いた措置が求められます。

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社員・従業員に株式譲渡した後に想定される影響

社員・従業員に株式譲渡を実施することで、さまざまな影響が生じることが予想されます。社員・従業員、オーナー、役員に分けて、想定される影響を紹介します。

社員・従業員への影響

事業承継目的で社員に株式譲渡を実施する場合、後継者となる社員の経営方針によって、そのほかの社員の生活が大きく左右されることになります。

たとえば後継者が「人件費が経営を圧迫している」と判断したときは、大規模な人員整理が実施されるかもしれません。また、「適材適所に人材が配置されていない」と判断すれば、部署や営業所の異動を命じられる社員もいるでしょう。
また、後継者が完全に経営権を有していない場合には、後継者と前オーナーの間でトラブルが発生する可能性があります。企業の雰囲気が悪くなる、経営が悪化するなどにより、離職を検討する社員も増えるかもしれません。

社員・従業員に株式譲渡をする場合は、今後の経営方針について事前によく話し合っておきましょう。

オーナーへの影響

後継者に資金力がない場合、株価を低く調整して後継者が株式を取得しやすいようにすることがあります。しかし、株価が低くなると前オーナーの利益が少なくなり、予定していた金額を受け取れない可能性が生じるでしょう。前オーナーの引退後の生活や、次の事業計画に影響を及ぼす場合も想定されます。

また、後継者が連帯保証を引き継げないときは、前オーナーは引退後も連帯保証のみ引き受けることが一般的です。完全に引退できないばかりか、リスクのみ抱えた状態が続くことになる可能性があります。

役員への影響

事業承継目的で社員に株式譲渡をおこなう場合、役員の退職慰労金に影響が及ぶことがあります。たとえば事業承継の時期と役員の退職とが重なると、企業にとっては一時的な支出が増えることになり、資金力が著しく低下するかもしれません。

また、役員以上の退職慰労金については、株主総会での決議が必要です。経営者交代という企業にとって大きな節目の時期と重なることで、十分な退職慰労金を支出できないという決定を選択する可能性もあります。長期にわたって企業発展に尽力した役員にとっては、納得しづらい結果になるかもしれません。

経営者が交代しても、通常であれば、前オーナーと役員の個人的な関係は続きます。しかし、退職慰労金の問題がきっかけとなり、交流が途絶えたり、ネガティブな感情が残ってしまったりするケースもあるでしょう。

社員への事業承継により、社員や前オーナー、役員などに好ましくない影響を与えないためにも、株式譲渡前にしっかりと後継者と話し合っておくことが大切です。経営方針や社内外の付き合いなどについての認識を正確に共有し、円満かつ企業発展につながる形での事業承継を目指してください。

関連記事:株式譲渡とは?手続きの流れや注意点・メリット・デメリットなどを解説

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まとめ

社員・従業員に株式譲渡することで、事業承継や企業成長、社員のモチベーションアップなどのさまざまな目的を達成できることがあります。しかし、シナジー効果を期待できないことや、役員の退職慰労金や社員の雇用などにネガティブな影響が生じることもあり、慎重に実施することが求められます。
本コラムを読んで流れや注意点のポイントを押さえて、社員・従業員への株式譲渡を成功させましょう。

株式譲渡には、専門的なスキルや知識、経験などが必要です。また、後継者への引き継ぎを目的とする場合、株式譲渡以外にも豊富な選択肢があります。事業承継や会社売却を検討している場合は、ぜひM&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談してみましょう。

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