事業承継税制の特例とは?制度の概要や要件をわかりやすく解説

2023年5月18日

事業承継税制の特例とは?制度の概要や要件をわかりやすく解説

このページのまとめ

  • 事業承継税制とは、後継者が取得した資産に関して贈与税や相続税の納税を猶予する制度
  • 対象株数の範囲が広い点や、雇用確保要件が緩和されている点が特例措置の特徴
  • 特例措置を適用するには、会社・後継者・先代経営者が要件を満たさなければならない

「事業承継税制の特例措置で税金を猶予できると聞いたけれど、よくわからない」という方もいるのではないでしょうか。事業承継税制の特例措置は、後継者が取得した資産に関して一定要件のもとで贈与税や相続税の納税を猶予する制度の特例です。

このコラムでは、事業承継税制の特例措置の概要から一般措置との違い、要件まで幅広く解説します。そのほか、適用にあたって注意すべき点なども紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

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そもそも事業承継税制とは

事業承継税制の特例を理解するために、まず事業承継の定義や事業承継税制そのものの概要を解説します。

事業承継の定義

事業承継とは、会社の経営を現経営者から後継者に引き継ぐことです。事業承継により、会社を存続し、従業員の雇用を引き続き確保できます。

事業承継の具体例は以下のとおりです。

  • 親族内承継
  • 社内の事業承継(従業員承継)
  • M&A(社外への引き継ぎ)

親族内承継は、準備期間を確保しやすい点、相続で承継できる点などがメリットです。従業員承継では、経営者の資質を見極めてから承継できます。

「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」の略で会社の売買のことを指すM&Aは、親族内承継や従業員承継で対応できないときでも検討できる方法です。

事業承継税制の概要

事業承継税制とは、円滑化法に基づく認定のもと、後継者が取得した一定の資産(株式など)に関して贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。

事業承継で多額の贈与税や相続税が課されると、後継者は予想外の支出が負担となり、経営に支障をきたしかねません。そこで、2009年4月1日租税特別措置法改正とともに、事業承継税制が誕生しました。

なお、事業承継税制には、主に会社の株式を対象にした法人版事業承継税制と、個人事業主向けの個人版事業承継税制が存在します。本記事で解説するのは、主に法人版事業承継税制の内容です。

参照元:国税庁「事業承継税制特集」

関連記事:事業承継とは?成功に向けたポイント方法や進め方を解説

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事業承継税制には一般措置と特例措置がある

2018年に、事業承継のさらなる促進を目的に10年間の期間限定で「法人版事業承継税制の特例」が創設されました。従来の事業承継税制を「一般措置」、期間限定の措置を「特例措置」と呼びます。

いずれも、相続や贈与で受け取った株式などにかかる税金を猶予できる点がメリットです。条件次第で、税金を免除できる可能性もあります。

ここから、特例措置の特徴や一般措置との違いについて確認していきましょう。

一般措置と特例措置の違い

一般措置と特例措置の違いとして、適用期限や対象株数、納税猶予割合などが挙げられます。違いを以下の表にまとめました。

一般措置特例措置
適用期限なし10年以内の贈与・相続(2018年1月1日〜2027年12月31日)
対象株数すべての株式の3分の2まですべての株式
納税猶予割合贈与は100%だが、相続は80%100%

特例措置の対象株数は全株式で、納税猶予割合は100%のため、後継者が相続した株式にかかる納税額全額が猶予の対象です。

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特例事業承継税制(特例措置)のメリット

事業承継税制の特例措置(特例事業承継税制)のメリットは、以下のとおりです。

  • 一般措置よりも対象株数の範囲が広い
  • 相続の納税猶予割合も100%のため、贈与・相続時の現金負担をゼロにできる
  • 複数の株主から最大3人の後継者に承継可能であるため、柔軟な事業承継ができる(一般措置の後継者の対象は1人のみ)
  • 雇用確保要件が一般措置よりも緩和されている

雇用維持要件とは、中小企業の雇用確保を目的に定められた要件です。承継後5年間、平均8割の雇用維持が必要と定められた一般措置と比べると、特例措置は弾力化されています。

一方、特例承継計画の提出が必要な点が、特例措置のデメリットです。2018年4月1日から2024年3月31日までに提出しなければなりません。

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事業承継税制の特例を適用する要件

事業承継税制の特例措置は、非上場株式などの贈与税と相続税の納税猶予制度です。各税金の概要を説明してから、具体的な適用方法を解説します。

贈与税に適用する場合

贈与税とは、個人から贈与で財産を取得した際にかかる税金です。一般的に、贈与を受ける金額が大きければ大きいほど、税率も高くなります。

たとえば、自分が決めた後継者に資金がないため、経営者が生前に株式を対価を受け取らずに譲れば、贈与税が発生するでしょう。その際、事業承継税制の特例措置を利用すれば、資金がない後継者は受け取った全株式に対して、納税を100%猶予できます。

贈与税に適用する際の流れは、以下のとおりです。

  1. 「特例承継計画」を策定して、期限までに都道府県知事に提出して確認を受ける
  2. 先代経営者から贈与を受ける
  3. 各要件(会社・後継者・先代経営者)を満たしていることについて、都道府県知事の「円滑化法の認定」を受ける
  4. 申告期限までに適用を受ける旨を記載した贈与税の申告書などを税務署に提出する
  5. 担保を提供する
  6. 適用を受けた非上場株式などを保有している間は猶予が継続する
  7. 特例経営贈与承継期間中は毎年、期間終了後は3年ごとに継続届出書を提出する

特例経営贈与承継期間とは、後継者の制度適用にかかる贈与税の申告期限の翌日以降5年を経過する日や、先代経営者の死亡の日までの日などのことです。先代経営者が亡くなるタイミングなどによって、期間は変わります。

なお、先代経営者が亡くなった場合、「免除届出書」や「免除申請書」を提出することで、猶予中の贈与税の全部または一部の納付の免除が可能です。

ここから、特例措置を満たすための要件を確認していきましょう。

参照元:国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」

特例承継計画の要件

特例承継計画とは、株式を承継するまでの期間における事業計画や後継者が株式を取得してから5年間の事業計画を記載した書類です。

特例承継計画は、会社が作成して認定経営革新支援等機関の指導や、助言を受けなければなりません。税理士・商工会・商工会議所などが、認定経営革新支援機関に該当します。

贈与後でも円滑化法の認定申請時までは提出が可能ですが、2024年3月31日までに都道府県知事へ提出して確認を受けなければなりません。

会社の要件

制度の適用を受ける会社が、以下のいずれにも該当しないことが要件です。

  • 上場会社
  • 中小企業者に該当しない会社
  • 風俗営業会社
  • 資産管理会社(一部を除く)

中小企業基本法によると、中小企業者は以下のように業種ごとで定義が異なります。

業種中小企業者の定義
製造業その他・資本金の額や出資総額が3億円以下の会社
・常時使用する従業員の数が300人以下の会社・個人
卸売業・資本金の額や出資総額が1億円以下の会社
・常時使用する従業員の数が100人以下の会社・個人
小売業・資本金の額や出資総額が5千万円以下の会社
・常時使用する従業員の数が50人以下の会社・個人
サービス業・資本金の額や出資総額が5千万円以下の会社
・常時使用する従業員の数が100人以下の会社・個人

また、資産管理会社は有価証券や自ら使用していない不動産、現金・預金等の特定の資産の保有割合が総資産総額7割以上の会社です。

後継者(受贈者)の要件

後継者(受贈者)は、以下の要件を満たさなければなりません。

  • 会社の代表権を有している
  • 18歳以上である
  • 役員に就任から3年以上経過している
  • 後継者や「後継者と特別の関係がある者」で総議決権数の過半数の議決権数を保有することになる

「後継者と特別の関係がある者」とは、後継者の親族や内縁の妻などのことです。

また、議決権数も後継者数によって決まりがあります。後継者が1人の場合、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有することが要件です。後継者が2〜3人の場合、総議決権数の1割以上の議決権数を保有し、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有するようにならなければなりません。

先代経営者(贈与者)の要件

先代経営者(贈与者)は、以下の要件を満たさなければなりません。

  • 会社の代表権を有している
  • 贈与直前に、贈与者や「贈与者と特別の関係がある者」で総議決権数の過半数の議決権数を保有し、後継者を除いた関係者の中で最も多くの議決権数を保有していた
  • 贈与時に会社の代表権を有していない

「贈与者と特別の関係がある者」は、先代経営者の親族や内縁の妻などを指します。

担保提供に関する要件

納税が猶予される贈与税額・利子税額に見合う担保を税務署に提供しなければなりません。ただし、制度の適用を受ける対象の非上場株式をすべて担保として提供した場合は、「見合う担保」として見なされます。

なお、株式以外で担保として提供できる財産は、不動産・国債・地方債・有価証券・保証人の保証などです。有価証券や保証人の保証は、税務署長が認めるものでなければなりません。

相続税に提供する場合

相続税とは、親や配偶者(被相続人)から、受け継いだ(相続した)財産にかかる税金です。贈与税と同様に、相続する金額が大きければ大きいほど、税率も基本的に高くなります。

たとえば、現経営者が死亡し、遺言書に従って後継者が株式を相続すれば、相続税が発生するでしょう。相続時点で後継者に資金がなくても、事業承継税制の特例措置を利用すれば相続税の支払いを猶予できます。

相続税に適用する際の流れは、以下のとおりです。

  1. 「特例承継計画」を策定して、期限までに都道府県知事に提出して確認を受ける
  2. 相続する
  3. 各要件(会社・後継者・先代経営者)を満たしていることについて、都道府県知事の「円滑化法の認定」を受ける
  4. 申告期限までに適用を受ける旨を記載した相続税の申告書などを税務署に提出する
  5. 担保を提供する
  6. 適用を受けた非上場株式などを保有している間は猶予が継続する
  7. 特例経営贈与承継期間中は毎年、期間終了後は3年ごとに継続届出書を提出する

なお、後継者が亡くなった場合、「免除届出書」や「免除申請書」を提出することで、猶予中の相続税の全部または一部の納付を免除可能です。

適用要件は、贈与税と共通する部分も一部あります。ここから相続税に適用する際の要件を確認していきましょう。

参照元:国税庁「No.4155 相続税の税率」

特例承継計画に関する要件

会社が特例承継計画を作成し、認定経営革新支援等機関の指導や助言を受けなければなりません。また、2024年3月31日までに都道府県知事へ提出し、確認を受けることが要件です。

会社の要件

制度の適用を受ける会社が、以下のいずれにも該当しないことが要件です。

  • 上場会社
  • 中小企業者に該当しない会社
  • 風俗営業会社
  • 資産管理会社(一部を除く)

基本的に、贈与税の場合と同じ内容です。

後継者(相続人)の要件

後継者(相続人)は、以下の要件を満たさなければなりません。

  • 相続開始の日の翌日から5か月を経過する時点で会社の代表権を有している
  • 相続開始時点で、後継者や「後継者と特別の関係がある者」で総議決権数の過半数の議決権数を保有することになる
  • 相続開始の直前に会社役員である

また、贈与税に適用するケースと同様に、後継者が1人の場合は後継者と特別の関係がある者の中で、最も多くの議決権数を保有することにならなければなりません。後継者が2〜3人の場合、総議決権数の1割以上の議決権数を保有し、後継者と特別の関係がある者の中で最も多くの議決権数を保有するようになることが要件です。

先代経営者(被相続人)の要件

先代経営者(被相続人)の要件は、以下のとおりです。

  • 会社の代表権を有していた
  • 相続開始直前に、被相続人および被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の過半数の議決権数を保有し、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していた

なお、相続開始直前に、すでに法人版事業承継税制の適用を受けている人がいる場合は、上記の要件が不要です。

担保提供に関する要件

贈与税と同様に、納税が猶予される相続税額・利子税額に見合う担保を税務署に提供しなければなりません。

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事業承継税制の特例適用にあたって理解しておくこと

事業承継税制の特例措置を適用するにあたって、以下の点を理解しておかなければなりません。

  • 手続きに時間がかかる
  • 取消事由が存在する

それぞれ解説します。

手続きに時間がかかる

事業承継税制の適用にあたって、手続きに手間や時間がかかることを理解しておかなければなりません。提出する書類が多い上に、適用後も「継続届出書」のように定期的に提出が必要な書類が存在します。

また、特例承継計画の提出や特例措置の適用に期限が設けられているため、面倒だからといって後回しにすることもできません。

取消事由が存在する

事業承継税制には、取消事由が存在する点にも注意が必要です。取消事由に該当すると、猶予されていた税額や利子を納めなければならなくなります。

取消事由には、対象会社の代表を退任する、上場会社に該当する、資本金を減少するなどさまざまなものが該当します。取消事由に該当すると、突然多額の資金が必要になりかねないため慎重に対応するようにしましょう。

自分だけで考えず、まずは専門家に相談することが大切です。

参照元:中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定 1.申請マニュアル 第4章 認定の取消について」

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まとめ

事業承継税制の特例措置とは、円滑化法に基づく認定のもとに、後継者が取得した一定の資産に関して贈与税や相続税の納税を猶予する制度の特例です。適用期限がある点や、全株数が対象となる点が一般措置と異なります。

贈与税に適用する場合も相続税に適用する場合も、会社・後継者・先代経営者に要件が定められています。認定を受けていても、取消事由に該当すると猶予が取り消されるため、事前に専門家に相談した方がよいでしょう。

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