ビジネスDD(ビジネスデューデリジェンス)とは?目的や項目を紹介

2023年5月16日

ビジネスDD(ビジネスデューデリジェンス)とは?目的や項目を紹介

このページのまとめ

  • ビジネスDD(ビジネスデューデリジェンス)とは対象企業の強みや課題を明らかにすること
  • ビジネスDDでは売上や生産オペレーション、ITシステムなどを調査・分析する
  • ビジネスDD以外にも、財務や法務、人事などのDDを実施して対象企業を調査する
  • ビジネスDDを実施することで、対象企業とのシナジー効果や将来性が理解しやすくなる

「M&Aの相手企業を見極めるためには、どうすればよいのだろうか」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。本コラムでは、M&Aの相手企業を絞り込む際に実施するビジネスDD(ビジネスデューデリジェンス)について説明します。

ビジネスDDにより、相手企業とのシナジー効果や将来性を理解することが可能です。また、ビジネスDDの手順やほかのDDの種類、理解を深めるために読んでおきたい本についても具体的に紹介します。

M&Aをスムーズに進めるためにも、ぜひお役立てください。

関連記事:デューデリジェンス(DD)とは?意味や実施の流れをわかりやすく解説

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ビジネスDD(ビジネスデューデリジェンス)とは?

ビジネスDD(ビジネスデューデリジェンス)とは、対象企業のビジネスに注目してデューデリジェンスを実施することです。M&Aが成功するかどうかは、適切な相手企業を選ぶことにかかっているといっても言い過ぎではありません。

ビジネスDDを実施することで対象企業のビジネスについて詳しく理解でき、シナジー効果を期待できる企業なのか、将来性がある企業なのかを判断できるようになります。

なお、デューデリジェンス(Due Diligence)とは、対象企業の実態を詳細に調査することです。主にM&Aの前に買収する側が買収対象の企業や事業にデューデリジェンスを実施し、得られた結果を買収判断に用います。

また、M&A前に実施されるデューデリジェンスは、ビジネスDDだけではありません。後述しますが、対象企業の財政状態や損益状況、資金の状況などを把握するための財務DDや、M&A取引に影響を与える法的問題点の有無を調査する法務DDなども実施します。

デューデリジェンスは、種類によって適切な人材が対応することが一般的です。たとえば財務DDであれば公認会計士が、法務DDを実施するときであれば弁護士などが担当することがあります。

M&Aを専門的にサポートするM&A仲介会社に依頼すると、デューデリジェンスの内容ごとに適切な専門家が担当してくれるため、より精度の高い調査が可能です。また、弁護士や公認会計士などの個々の専門家に依頼する手間が省け、よりスムーズにM&Aを実行できます。

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ビジネスDDの種類

ビジネスDDは、次の5つのデューデリジェンスによって構成されています。

  • コマーシャルデューデリジェンス
  • オペレーショナルデューデリジェンス
  • ITデューデリジェンス
  • ガバナンスデューデリジェンス
  • サステナビリティデューデリジェンス

それぞれのデューデリジェンスにおいて調査する内容を説明します。

コマーシャルデューデリジェンス

コマーシャルデューデリジェンスとは、売上を重視したデューデリジェンスです。市場環境やビジネスモデルを分析し、対象企業の強みや課題、自社と協業したときの期待値などを割り出していきます。また、事業計画のなかでコストがどのように計画されているか調べ、効率性の高いビジネスを実施しているのか判断します。

オペレーショナルデューデリジェンス

オペレーショナルデューデリジェンスとは、生産オペレーションに注目したデューデリジェンスです。製品の品質やコスト、納期、生産過程で用いる人材や機械、材料、手法などを細かく分析していきます。特にメーカーでは、生産力が利益を生み出す根源です。生産オペレーションを分析することで生産力を正確に理解し、M&Aの判断につなげることが求められます。

ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスとは、ITシステムについてのデューデリジェンスです。対象企業が抱えるIT上の課題やIT化の現状を分析することで、経営統合や業務提携がしやすい企業なのか調べます。

また、基幹システムが異なるときは、M&A実施後にどのような対応が求められるかについても事前に調べておくことが必要です。システムの変更は負担が大きく、業務に混乱が生じることもあるため、事前にITデューデリジェンスを実施することで、よりスムーズなM&Aを実現しやすくなります。

ガバナンスデューデリジェンス

ガバナンスデューデリジェンスとは、ガバナンスの基準が自社とあっているかを調べることです。また、ガバナンスに沿ったビジネスが実施されているか、コンプライアンス違反は生じていないかなども調査します。

なお、ガバナンス不備などによるコンプライアンス違反などのトラブルは、ビジネスDDではなく法務DDで詳細にチェックすることが一般的です。後述する法務DDとの連携を図ることが求められます。

サステナビリティデューデリジェンス

サステナビリティデューデリジェンスとは、継続可能な事業モデルか調べることです。サステナビリティとは近年注目が高まっている要素で、ビジネスモデルとしての継続性だけでなく、地球環境や貧困、インフラ不足などの地球規模の課題に対する企業としての取り組みや継続性を含みます。

サステナビリティに取り組んでいる企業であれば、将来的にも事業継続が見込まれると考えられます。買収後のシナジー効果やリスクを分析するうえでも、サステナビリティデューデリジェンスは欠かせません。

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DDの種類

デューデリジェンスには、ビジネスデューデリジェンス以外にもいくつかの種類があります。主なデューデリジェンスの種類としては、次のものが挙げられます。

  • ビジネスデューデリジェンス
  • 財務デューデリジェンス
  • 法務デューデリジェンス
  • 人事デューデリジェンス
  • 税務デューデリジェンス

それぞれのデューデリジェンスで精査する内容を説明します。

ビジネスデューデリジェンス

ビジネスデューデリジェンスとは、対象企業のビジネスについてのデューデリジェンスです。事業分野やガバナンスなどが自社とあっているか、生産性やサステナビリティへの取り組みは望ましいかなどについて確認します。

なお、ビジネスデューデリジェンスを単独で依頼する場合は、経営コンサルティングファームなどを依頼先として検討できます。ほかのデューデリジェンスもまとめて依頼する場合は、M&A仲介会社が適任です。

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスとは、対象企業の財政状態、損益状況、資金の状況について多面的に精査することです。正常収益力、有利子負債などの基礎情報の把握や、財務上のリスクをできるだけ定量的に洗い出すための手続きです。また、不正な経理処理の有無や、グループ企業の一員であるときはグループ内の取引内容などをチェックすることも、財務デューデリジェンスに含まれます。

実際に、生産性が高く売上高も高い企業であっても、債務が多いときや不正な経理処理があるときは、M&Aのリスクは高いと判断することが一般的です。丁寧に財務デューデリジェンスを実施し、将来のリスクに備えます。

なお、財務デューデリジェンスを単独で依頼する場合は、会計事務所が一般的です。M&A仲介会社なら、ほかのデューデリジェンスとまとめて依頼できるため、手間を省いてM&Aを遂行できます。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスとは、対象企業の法的問題点の有無を確認することです。取引や契約が法律を遵守して実施されているかだけでなく、係争中の事案があるかなども調べます。

法務デューデリジェンスだけを依頼するときは、法律事務所が適任です。ただし、法律事務所によって得意とする分野が異なるため、法務デューデリジェンスの実績が豊富か確認してから依頼することが必要です。

人事デューデリジェンス

人事デューデリジェンスとは、対象企業の人事と労務を調査することです。M&Aは相手企業の人材を獲得することでもあるため、財務情報(人員構成、給与、諸手当、賞与、退職金、福利厚生など)や非財務情報(人材の質、採用、配置、評価、教育など)を精査します。

M&A後に内部を統合する予定であれば、給与や評価システムが変化することで従業員のモチベーションが下がり、人材が流出する可能性も想定されます。優秀な人材が高いモチベーションで働ける環境にするためにも、対象企業の人事と労務のデューデリジェンスは欠かせません。

なお、人事デューデリジェンスだけを依頼する場合であれば、人事コンサルティングファームなどを検討できます。ただし、人事コンサルティングファームでは人事問題の改善などをメインで請け負っているため、デューデリジェンスには対応していない可能性もあります。

税務デューデリジェンス

税務デューデリジェンスとは、対象企業の税務上のリスクを調べて評価することです。法人税や消費税などの税金を正しく申告・納付しているかなどを調べます。

税務デューデリジェンスだけを依頼する場合であれば、会計事務所に依頼することが一般的です。財務デューデリジェンスとあわせて実施してもらうとより効率的なデューデリジェンスが実施できます。また、M&Aのデューデリジェンスを専門的に請け負う、M&A仲介会社に依頼することも検討しましょう。

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ビジネスDDの分析に用いるフレームワーク

ビジネスDDは範囲が広いため、分析漏れを回避するためにもフレームワークを用いて系統的に実施することが必要です。ビジネスDDに用いる主なフレームワークを紹介します。

PEST分析

PEST分析とは、マクロ環境分析の手法です。ビジネスを左右する要因を、次の4つに分けて分析します。

  • Politics(政治的要因)
  • Economics(経済的要因)
  • Social(社会的要因)
  • Technology(技術的要因)

たとえば政治的要因とは、ビジネスの規制にかかわる法律や条例、政府の動きなどを含みます。経済的要因では景気や物価の変動、社会的要因では人口動態や消費者のライフスタイルの変化、技術的要因では技術開発や普及について分析します。

いずれも対象企業を取り巻く外的環境であり、特定の企業の動向とは関係ありません。そのため、PEST分析を実施しておくことで、対象企業に求める要素(事業内容や技術力など)を具体的に絞り込みやすくなります。

VRIO分析

VRIO分析とは、特定の企業の強みや競合との有意性を調べるフレームワークです。次の4つに注目し、企業分析を進めていきます。

  • Value(経済価値)
  • Rarity(希少性)
  • Inimitability(模倣困難性)
  • Organization(組織)

経済価値とは対象企業の商品・サービスが提供している価値のことで、その商品・サービスに独自性があると、希少性があると判断します。また、希少性がある商品・サービスであっても他社から模倣される可能性があるため、特許を取得しているなどの模倣困難性があることも分析要素です。

VRIO分析では、対象企業の組織体制も分析要素となります。経済価値が高く希少性と模倣困難性を備えた商品・サービスの提供を継続的におこなうためには、組織体制が整っていることが欠かせません。

5フォース分析

5フォース分析とは、対象企業にとって競争の脅威となる要因を分析するフレームワークです。次の5つの要素を分析します。

  • Entry(新規参入)
  • Rivalry(競合)
  • Substitutes(代替品)
  • Suppliers(供給者)
  • Buyers(購入者)

対象企業が手掛けている事業の難易度が低いと、新規参入しやすく、将来的な脅威となる可能性があります。また、競合企業の資金力や知名度、商品・サービスの代替品の有無、供給者や購入者とのパワーバランスも、対象企業の将来的な脅威になる可能性があるでしょう。脅威を5つに分けて分析することで、対象企業の将来性やM&Aのリスクを分析します。

バリューチェーン分析

バリューチェーン分析とは、ビジネスを仕入や加工、販売、などの段階に分けて、各段階のコストや価値を分析するフレームワークです。次の手順で分析を進めます。

  1. 事業内容を主要活動と支援活動に分ける
  2. バリューチェーンの段階ごとのコストや価値を分析する
  3. バリューチェーンの段階間のつながりを分析する

バリューチェーン分析を実施することで、対象企業の価値の生み出し方を分析できます。

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ビジネスDDの流れ

ビジネスDDは、次の流れで実施します。

  1. デューデリジェンスの計画策定
  2. 対象企業の内部調査
  3. 対象企業を取り巻く環境の調査
  4. シナジー効果の算出

それぞれの過程を説明します。

1.デューデリジェンスの計画策定

まずはデューデリジェンスの計画を立てます。利用するフレームワークや対象企業の候補もある程度絞り込んでおきます。

2.対象企業の内部調査

まずは対象企業の内部調査です。内部調査には、VRIO分析やバリューチェーン分析を利用できます。

3.対象企業を取り巻く環境の調査

対象企業が法務や財務などにおいて優れた企業であっても、外的環境に問題があるときは将来性を期待しにくくなります。内部調査の内容も踏まえて、環境因子を調査します。外的環境の分析はPEST分析や5フォース分析などを用いることが一般的です。

4.シナジー効果の算出

内部調査と外的環境調査の結果から、M&Aを実施することでどのようなシナジー効果が得られるか分析していきます。期待するシナジー効果が得られそうだと判断できるときは、M&Aの実施に向けて進めていきます。

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ビジネスDDの目的

ビジネスDDは、次の目的で実施します。

  • シナジー効果や将来性を見極める
  • バリュエーションの妥当性を検証する
  • M&A実施後の事業計画に反映する

それぞれの目的を達成するために、ビジネスDDがどのように役立つか見ていきましょう。

シナジー効果や将来性を見極める

M&Aを実施するときは、買収相手企業によりシナジー効果を得られることが理想的です。単なる1+1=2にならずにより大きな効果を得るためにも、ビジネスDDを実施してシナジー効果や相手企業の将来性を見極めます。

バリュエーションの妥当性を検証する

企業や事業を買収するときは、買収対象の企業価値を金額として表現するバリュエーションが必要です。特に非上場企業の場合は株価などの客観的な指標がないため、丁寧かつ妥当性のあるバリュエーションが欠かせません。

バリュエーションを実施するには、相手企業の価値を評価するビジネスDDが必要です。また、金額がすでに提示されている場合も、ビジネスDDを実施することで、妥当かどうか検証できます。

M&A実施後の事業計画に反映する

ビジネスDDにより調査した結果は、M&A実施後の事業計画にも反映できます。有意義なM&Aを実施するためにも、丁寧なビジネスDDが必要といえます。

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ビジネスDDを学べるおすすめ本3選

ビジネスDDは、M&A仲介会社などの専門機関に依頼して実行することが一般的です。しかし依頼する前にビジネスDDについての知識を得ておくと、デューデリジェンスによって得られる結果をM&A前・後のビジネスに活かしやすくなり、より有意義なM&Aを実現できます。ビジネスDDの理解に役立つ本を紹介します。ぜひご一読ください。

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まとめ

ビジネスDDを実施することで、M&Aを成功裏に進められます。また、ビジネスDDだけでなく、法務や財務、人事などのさまざまな分野を精査することで、対象企業とのシナジー効果や将来性の理解を深められるでしょう。

正確なデューデリジェンスには高度なスキルと知識、経験が必要です。事業や企業の売却を検討している場合や、合併・買収を検討している場合は、ぜひM&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談してみましょう。M&A仲介会社では、弁護士や公認会計士などの専門家が各デューデリジェンスに対応するため、法律事務所やコンサルティングファームなどに個別に依頼する必要がありません。

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レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しています。さまざまな手法のデューデリジェンスにも対応しており、M&A成立まで一貫したサポートを提供することが可能です。

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