M&Aの進め方|契約成立までの流れと必要な期間
2023年5月9日
このページのまとめ
- M&Aは仲介会社のサポートを受けながら進めていくのが一般的。
- ノンネームシートや企業概要書をもとにM&A先を選定する。
- トップ会談は企業文化を知るための交流の場であり、交渉の場ではない。
- M&Aは基本合意の後、買収監査を実施して、最終契約を行うのが進め方の基本。
M&Aを行う際にはM&A先の選定やトップ会談、買収監査、最終契約といった、いくつものステップがあります。M&Aを進めるには税金や財務、法律、労務など多岐にわたる専門的な知識が必要なため、買い手側と売り手側の双方が仲介会社のサポートを受けながら進めていくのが一般的です。
この記事では、M&Aの進め方の流れについて紹介し、M&Aにかかる期間についても触れていきます。
目次
M&Aの契約までの流れ・進め方
M&Aを進めるにあたって、買い手側は、基本的に「M&Aの目的確認」「初期相談」「M&A先の選定」「仲介契約」「トップ面談」「基本合意」「買収監査」「最終契約」といったフローで進めていきます。売り手側の流れもほぼ同じですが、「初期相談」の後に「仲介契約」を結ぶの点が異なります。ただし、この流れは決まったものではなく、M&A仲介会社によって進め方が異なる場合もあります。
M&Aの進め方について、買い手側を中心に実施する各段階で行う手続きや注意点など、買収の流れの実務手順を紹介していきます。
1. M&Aの目的確認
M&Aに関して具体的に進めていく前の準備段階として、M&Aの目的を明確化して、経営陣や担当者で共通認識を持つようにします。M&Aの目的や方向性が明確でなければ、M&A先を選定する条件が曖昧になりやすく、M&Aによる効果がさほど得られないことが危惧されるためです。
M&Aの目的には、主に新規事業への参入、既存事業の事業規模の拡大、シナジー効果による社内体制の強化などがあります。たとえば、既存の事業の強化を図るには、競合他社との合併によってスケールメリットを得るほか、メーカーであれば物流会社や販売会社とのM&Aによりサプライチェーンを強固にする、あるいは、IT企業との合併によってDXによる業務効率化を図るなど、多様な方法が考えられます。
M&Aの目的によってM&A先の候補企業が異なるなど、一連のフローに影響してくるため、目的や方向性を明確にしておくことが必要です。M&Aを行った後の買収先の企業を含めた組織のあり方などを含め、M&Aによる戦略を立てておきます。M&Aには専門的な知識も必要とされるため、専門家に相談して知見を得ながら進めていくことも検討しましょう。
また、M&Aを進めるにあたってはスピード感のある対応を求められることがあるため、買収資金の準備やM&A先に常駐する人材の確保などの準備も進めておくことが必要です。
2. 初期相談
M&A仲介会社を選定した後、仲介会社の担当者との初期相談を行います。初期相談では、M&A仲介会社から改めてM&Aを進める流れについて説明を受けます。そして、自社の状況や買収の目的、対象となる企業の業種や規模、地域などの希望を伝え、M&A仲介会社からのアドバイスを受けて、M&A先の企業の条件を具体化していきます。
初期相談は1回で終わるとは限らず、希望条件がまとまらないケースなどでは、複数回実施することも少なくありません。M&A仲介会社によって、初期相談で相談料が発生するケースや仲介契約の締結時に着手金が発生するケース、成功報酬のみのケースなど、料金体系は様々ですので、事前に費用について確認しておきましょう。
3. M&A先の選定
続いて、M&Aを実施する企業の選定を進めます。
候補企業の紹介を受ける
初期相談でまとまった希望条件をもとに、M&A仲介会社からM&A先の候補企業の紹介を受けます。候補企業の検討の初期段階で提示されるのは、ノンネームシートと呼ばれる会社名を特定できない範囲の簡易的な資料です。ノンネームシートには、所在地の大まかなエリア、事業内容、大まかな売上高や営業利益、従業員数、特徴や強み、譲渡を希望している理由、譲渡の希望価格や条件などが記載されています。
ノンネームシートによる紹介を受けた段階では、通常、M&A仲介会社は数十社程度の複数の会社に買収の打診を行っています。そのため、M&A先の候補企業の紹介を受けた際には、迅速に社内で検討を行うことが大切です。
M&A先の選定にあたっては、自社のM&A戦略と兼ね合いを踏まえた買収の価値と、資金面からの買収の実現可能性の両面から検討を行います。M&A戦略の面では、事業内容や事業規模、売上などの業績をもとに、M&Aの目的を実現できるか、シナジー効果が得られるかといった点がポイントとなります。また、買収の実現可能性の面で検討材料となるのは、ノンネームシートに記載された希望価格や自社の調査から想定される譲渡価格、売却ニーズの強さ、株主構成から推測される買収への反応などです。
秘密保持契約の締結
そして、M&A先の候補企業の中から、具体的にM&Aを検討する企業を決定した段階で、秘密保持契約を締結します。秘密保持契約は買い手と売り手が直接契約を結ぶパターンのほか、M&A仲介会社との間で秘密保持契約を締結するパターンもあります。特にM&A先となる譲渡企業側は、会社の売却を検討している情報が漏洩すると、M&Aが成立しない場合でも、取引先との関係性への影響や従業員の退職などが起こるリスクがあるためです。秘密保持契約を締結すると、M&A先の候補企業のより詳細な資料として、企業概要書が開示されます。ただし、M&A仲介会社ではM&A先の候補企業に買い手側企業の社名を伝えて、承諾を得たうえで企業概要書を開示するのが一般的です。
また、買い手側も自社に関する情報漏洩を防ぐために、M&A仲介会社以外の専門家にも相談を行っている場合には、そうした相談先とも秘密保持契約を締結しておく必要があります。
企業概要書にはノンネームシートよりも、売り手側の具体的な詳細な情報が記載されており、買い手側にとってM&A先を検討するうえで重要な判断材料となります。企業概要書には、企業概要や事業内容、組織、財務状況、譲渡理由、許認可・法規制、固定資産・設備、事業計画が記載されているのが一般的です。
企業概要:社名や所在地、資本金、株主構成、役員、従業員数といった基本的な情報
事業内容:売り手のビジネスモデルや主要取引先、業界でのシェアや市場でのポジションなどの優位性
組織:組織図や持ち株比率などを含めた株主構成、役員のプロフィール
財務状況:直近3年分の貸借対照表と損益計算書
許認可・法規制:売り手が事業に関わる許認可を取得しているかどうか、法規制が存在するかどうか
固定資産・設備:不動産の固定資産名や所在地、面積、工場の設備な、車両やリース資産、非事業用資産など
事業計画:計画中のものがあれば記載され、買収後は買い手が引き継ぐ(進捗率などから実現可能性を評価する)
買い手は企業概要書をもとに、M&A先候補企業を金銭的に評価する企業価値算定を行い、買収価格の上限や下限の目安を設定し、本格的に買収交渉を進めていくかどうかの判断材料とします。株式譲渡や事業譲渡、合併、会社分割などのM&Aのスキームの絞りこみも行います。
4.仲介契約
売り手側は初期相談を終えた段階で既にM&A仲介会社と仲介契約(アドバイザリー契約)を締結しています。この段階で、買い手側もM&A仲介会社とM&Aに関する業務を委託するための仲介契約(アドバイザリー契約)を締結します。そして、仲介契約を結んだM&A仲介会社から、最終契約に至るまでのサポートを本格的に受けることになります。M&A仲介会社によっては、仲介契約を締結した段階で着手金や月額報酬の支払いが発生する点に留意しておきましょう。
また、M&A仲介会社と仲介契約を締結すると、M&A先の候補企業に対して自社の企業詳細情報が開示され、具体的に双方が検討を行う段階となります。そして、書類上での検討を済ませて、買収を前提とする場合には売り手側企業との大筋での条件調整を行うのは、トップ面談の前のこの段階です。
5.トップ面談
トップ面談は、買い手側企業と売り手側企業のトップが会って話し合う段階です。トップ面談は、条件交渉の場ではなく、お見合いのようなものです。双方が経営者として誠実な人物であるかを確認します。また、買い手側企業にとっては、会社をどのように成長させてきたかや、企業文化や組織風土を知るための場でもあります。一方、売り手企業にとっては、会社をこの先託していけるような人物なのかを見極める場でもあります。
M&Aを進めていく場合には、これ以降もトップ同士が何度も顔を合わせる機会があるため、トップ面談は和やかな雰囲気で進むように気を配ることが大切です。また、トップ面談がスムーズに進められるように、質問したい点がある場合には整理しておくこともポイントとなります。
トップ面談を行った結果、M&Aを実行する意思がある場合には、買い手側から売り手側に対して、M&A仲介会社を通じて意向表明書を提示します。意向表明書とは、M&Aを行う意思を示すとともに、希望価格やM&Aの形態などの条件を記載したものです。
6.基本合意
買い手側と売り手側の双方がM&Aを行う意思を示した場合、売買条件の合意形成を図った後、基本合意書にもとづいて契約を締結します。基本合意は仮契約という位置づけです。
基本合意を締結すると、通常、基本合意書にもとづいて買い手側には独占交渉権が付与されます。また、既に秘密保持契約を締結していますが、M&A仲介会社を介しているケースなど、買い手側と売り手側が直接契約を結んでいない場合があるほか、秘密情報の内容の変更を行うため、基本合意書では改めて、秘密保持契約を締結するのが一般的です。
基本合意書には、株式譲渡や事業譲渡といったスキームの概要、概算の譲渡価格、譲渡時期、買収監査の実施への協力義務、役員や従業員の処遇、独占交渉権の付与、秘密保持義務、契約の解除条件、有効期限などが記載されているのが一般的です。
実際には次の段階の買収監査を実施した結果をもって、M&Aの実行や譲渡価格などの条件が決定されます。そのため、基本合意書に記載されている内容のうち、法的拘束力があるのは独占交渉権の付与や秘密保持義務のほか、解除の条件や有効期限など合意書の効力などに関する条項に限られています。契約内容による違いもありますが、基本合意書の多くの項目には法的拘束力がないのが一般的です。
ただし、買収監査でよほどのことが判明しない限りは、基本合意書に記載された内容のまま最終契約に進んでいきます。基本合意を締結する前の段階で、懸念されることや疑問点など確認事項を解消しておきます。
7.買収監査
基本合意を締結した後、買い手は売り手に対して買収監査(デューデリジェンス)を行います。買収監査とは、売り手が提示した財務諸表や契約書などの資料の正確性のほか、資産が実際に実在するのかといった点などを調査するものです。買収の対象となる企業や事業の実態を把握し、買収による潜在的リスクを把握するのが目的です。買収監査は買い手側の費用負担で、買い手の依頼した税理士や公認会計士、監査法人、弁護士などの立ち会いのもとで実地踏査が実施されます。買収監査には売り手の協力が必要であり、通常、M&A仲介会社がサポートします。
買収監査には、次の種類があります。
- 財務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- ビジネスデューデリジェンス
- 税務デューデリジェンス
- 環境デューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
買収監査は調査範囲が広いほど費用や期間を要することから、このうち最低限実施されるのが、財務デューディリジェンスと法務デューディリジェンスです。
財務デューディリジェンスは財務や税務に関する調査で、経営実態の把握や財務上のリスクを洗いだすのが目的です。法務デューディリジェンスは法律上のリスクを把握するための調査で、契約内容をもとにした法律上の債権や債務の把握、資産状況の確認、法令順守に関する確認、紛争や訴訟に関する状況の確認などが行われます。
このほかにも比較的実施されることが多いのがビジネスデューディリジェンスで、経営実態を把握して事業の将来性や合併などによるシナジー効果、買い手のM&Aの目的への適合性などを調査するものです。
買収監査の監査報告書をもとに、買い手側は買収を行うことに問題がないか、契約条件や譲渡価格の妥当性などについても精査します。買収監査で発覚した新たな事実によっては、譲渡価格の引き下げや買収の取りやめが行われることがあります。たとえば、買収監査の結果、簿外債務が見つかった場合には、買収後に支払い義務が発生する場合に備えて、譲渡価格から減額するといった対応をとります。一方、買収監査の結果、大きな問題がなければ、最終契約に向けて諸条件の調整を行っていくという流れです。
M&Aによって、買い手は売り手の権利だけではなく、義務も引き継ぐことになります。買収後に訴訟や係争中の案件の損害賠償金や買掛金などの簿外債務といった支払いリスクが発覚するの防ぐために、買収監査は重要なものであり、必ず実施する必要があります。
8.最終契約
買収監査の結果をもとに、買い手側と売り手側で最終的に諸条件を行います。この段階で交渉を行うのは、譲渡価格や従業員・役員の処遇、譲渡代金の支払い方法などです。
そして、最終契約として株式または事業の譲渡契約を締結します。最終契約書の名称はM&Aの形態によって異なり、株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などがあります。
最終契約書には、譲渡価格や退職金の処理、役員・従業員の処遇、表明保証の履行などが盛り込まれます。表面保証とは売り手側が買い手側に対して、契約の締結日などにおける財務や法務の正確性を表明して保証するものです。
最終契約の締結の際には、最終契約調印式が執り行われます。最終契約調印式には、買い手側と売り手側の社長、M&A仲介会社の担当者のほか、司法書士などの専門家、取引先の金融機関が出席するケースが多いです。
最終契約調印式では、契約内容の確認および締結、株券や権利書、通帳、印鑑といった重要物の確認と引き渡し、譲渡代金の振り込みと確認、登記に必要な書類の確認といった手続きが行われます。また、買い手側と売り手側の社長が改めて挨拶をしたり、参加メンバー同士で記念撮影を行ったりするのが一般的です。
M&Aにかかる期間
一般的に、M&Aの事前検討を行う準備期間として3ヶ月以上の期間がかかります。そして、実際にM&A仲介会社に依頼してから最終契約に至るまでに、さらに半年~1年程度の期間を要するのが一般的です。スムーズに手続きが完了するケースでは3ヶ月で最終契約を締結することがあります。一方、M&A先がなかなか見つからず、難航するケースでは3年以上かかることもあるなど、ケースバイケースです。
M&Aにかかる期間を具体的にみていくと、M&A仲介会社に正式に依頼してから、基本合意を契約するまでの期間は3~5ヶ月程度が目安です。買収監査にかかる期間は中小企業では1~2週間程度ですが、企業規模が大きく、調査項目が多岐にわたる場合には2ヶ月以上かかることもあります。買収監査から諸条件の最終調整を行い、最終契約に至るまでの期間は2週間~1ヶ月程度が目安です。
短期間で完了するケース
M&Aの一連のプロセスが比較的短期間で完了するケースでよくあるのは、買い手側がもともと売り手側と取引があるなど事業内容を熟知しているケースです。このほかには買い手側が売り手の事業内容や事業規模、あるいは地域や技術、人材といった経営資源の面などから取得ニーズが高く、早期の契約成立を望んでいるケースや、買い手側の意思決定が早いケースが挙げられます。また、売り手と買い手のM&Aに関するニーズが一致しているケースも、スピーディに話が進んでいきやすいです。
長期間にわたるケース
反対にM&Aの成立まで時間がかかりやすいケースをみていくと、売り手の企業規模が大きいケースや売り手の株主構成が複雑で合意に時間がかかるケースが挙げられます。また、買い手の意思決定に時間がかかる場合は、当然のことながら手続きの完了までには時間を要するのが一般的です。このほかには、会社分割や合併といった組織再編に関わる手続きに時間がかかる、許認可や契約の承継に手間がかかるなど、実務上の問題によるケースも該当します。
まとめ
M&Aを検討した際には、買い手側は仲介会社の紹介をもとに、ノンネームシートや企業概要書で検討を重ねて候補先を絞り込み、トップ会談を経て、基本合意、買収監査、最終契約に進んでいくのが進め方の基本的な流れです。買い手側がスピード感を持って意思決定を行うと、スムーズに最終契約まで進みやすくなります。準備段階で目的を明確化していくことも、M&Aの成功の要となります。
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