割引現在価値とは?計算方法やメリット、活用例などをわかりやすく解説

2024年1月22日

割引現在価値とは?計算方法やメリット、活用例などをわかりやすく解説

このページのまとめ

  • 割引現在価値とは将来の価値から金利などを割り引き、現時点の価値を算出した数値
  • 割引現在価値は、買収企業とのシナジー効果を測る上で有益
  • 割引現在価値のメリットは、企業価値を数値化できること
  • 割引現在価値のデメリットは、評価の際に主観が入り込みやすいこと
  • M&Aでは割引現在価値の算出に、DCF法などのインカムアプローチが用いられる

M&Aを検討している方のなかには、「自社の企業価値はどれほどだろう」と疑問に思う方もいることでしょう。現時点の企業価値を表す指標の一つは、割引現在価値です。割引現在価値とは、将来の価値から金利などを割り引き現時点の価値を算出したものです。

本記事では、割引現在価値の概要やほかの指標との違い、計算方法、メリット・デメリットについて詳しくお伝えします。自社の企業価値を考える際の参考にしてください。

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割引現在価値(PV)の意味

割引現在価値(PV=Present Value)とは、将来の価値から金利などを割り引き、現時点の価値を算出した数値です。割引現在価値は、単に「現在価値」と呼ばれることもあります。M&Aや不動産投資などで広く用いられる考え方です。

割引現在価値は直感的に理解しづらいため「年利10%のリターンが期待できる投資で10万円を預けるケース」について考えてみましょう。

預けた10万円は、金利が上乗せされ、1年後に11万円となっているはずです。
割引現在価値は逆に「1年後に11万円となるお金の、現在(1年前)の価値はいくらか」と考えます。 つまり、金利が上乗せされる前の現在の金額「10万円」が、割引現在価値となります。

ここで重要なのは「現在の10万円と1年後の11万円の価値は等しい」ということです。
仮に、上記の投資でリターンが得られず、1年後も預けた10万円に変化がない場合、多くの方は「損はしていない」と考えがちですが、実際は「1万円の損」となります。

このように「お金の価値が時間の経過で変わる」という考え方が、割引現在価値の大きなポイントです。 

将来価値(FV)との違い

将来価値(FV=Future Value)とは、現時点の価値から、将来の価値を算出した数値です。つまり、割引現在価値とは逆の意味を持っています。

将来価値は、金利が増えていくイメージなので、直感的にも分かりやすいでしょう。例えば、年利5%で100万円を運用すると、1年後の将来価値は「105万円」となります。

継続価値(TV)との違い

継続価値(TV=Terminal Value)とは、金融資産を永久的に保有し続けることで得られる価値を意味する金融用語です。

M&Aの実務上では、将来の利益あるいはフリーキャッシュフローが安定的かつ永久的に見込まれる企業の「将来時点の継続価値」を意味します。そのため継続価値は、その企業が事業活動を永久的に継続することが前提です。

継続価値は、最新のフリーキャッシュフローを加重平均コスト(WACC)で割り引くことで求められます。加重平均コストとは、資金調達の方法を複数持つ企業が、資金調達にかけるコストを正しく評価するための指標です。 加重平均コストは、需要が安定する業界ほど小さい傾向があるなど、業種で差があります。全業種の平均は、6%前後といわれています。

正味現在価値(NPV)との違い

正味現在価値(NPV=Net Present Value)とは、投資の採算性を評価する指標です。割引現在価値は単に「割引処理で、将来価値から現時点の価値を算出」するのに対して、正味現在価値では「投資の支出を含め、将来得られる利益を算出」します。

正味現在価値の具体的な計算式は、「割引現在価値ー投資額(投資の支出額)」です。例えば「割引現在価値50万円で、投資額52万円」の場合、投資によって将来得られる価値が2万円のマイナスであることが分かり「投資すべきでない」と判断できます。

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割引現在価値の計算方法

割引現在価値の計算では「n年後の資産の価値(将来価値)から見た、現在の価値」を求めます。ここでは、割引現在価値の具体的な計算式と割引率の考え方を詳しく解説します。

割引現在価値の計算式

割引現在価値の具体的な計算式は、以下の通りです。 

割引現在価値=n年後の資産価値÷(1+割引率)^n

上記の計算式を使って、実際に割引現在価値を算出してみましょう。

はじめに「割引率0.1(10%)で、1年後の資産価値が100万円となるケース」の割引現在価値を計算してみましょう。

例➀

1年後の資産価値:100万円
割引率:0.1

【計算】
(100万円)÷(1+0.1)^1
=100万円 ÷ 1.1 = 約909,091円

次に「割引率0.1(10%)で、2年後の資産価値が200万円となるケース」の割引現在価値を計算してみましょう。

例➁

2年後の資産価値:200万円
割引率:0.1

【計算】
(200万円)÷(1+0.1)^2
=200万円 ÷ 1.21 = 約1,652,893円

割引現在価値の計算では、割引率以外に年数(n年後)が重要な要素となっています。将来の資産価値や割引率が同じでも、 遠い将来から計算するほど、割引現在価値は低くなるのです。

なお、実務において割引現在価値を計算する場合、マイクロソフトの表計算ソフトExcel(エクセル)を使用するケースも多いです。

Excelでは、割引現在価値の式を関数として入力して使うことも可能ですが、現在価値の計算に使える「PV関数」もサポートされており、そちらを利用する方法もあります。
また、Excelでは将来価値や正味現在価値の計算に使える「FV関数」や「NPV 関数」も提供されているので、必要に応じて利用してください。

割引率の考え方

割引率は、投資のリターン率とほぼ同じものと言うことができ、将来的な不確実性・リスクを反映して設定されます。 

例えば「銀行に年利5%で100万円を預ける場合」と「貸したお金を1度も返済してもらっていない人に、1年後に105万円の返済してもらう約束をして100万円貸す場合」では、100万円が1年後に105万円になると予測できる点は共通しています。

しかし、後者は前者と比較して、不確実性やリスクが極めて高いため、将来価値から大きく割り引く必要があり、割引率は高く設定されるのです。つまり、割引率が高いと、投資・評価対象の企業のリスクも大きいと判断され、算出される割引現在価値も小さくなります。

なお、割引率は現在価値や将来価値に影響を与えるため、「金利」と同じように思われますが、そうではありません。実際のところ、割引率には様々な種類があります。

一般的に、企業価値の評価には上述した加重平均コスト(WACC)が用いられます。

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M&Aで割引現在価値が重要となる理由

M&Aでは買収価格の指標の1つとして、割引現在価値が利用されています。その理由は「M&A対象の企業のシナジー効果を予想する上で有効だから」です。

M&Aにおけるシナジー効果とは「企業・事業の統合が、収益拡大の相乗効果を生み出すこと」と言えます。つまり、M&Aにとって最も重要なのは相手企業の現在ではなく「将来性」と言っても過言ではありません。

「資産-債」や時価総額も、企業価値の指標とはなりますが、事業の将来性は考慮されておらず、 M&Aの企業価値指標としては不充分といえます。

例えば、現在多くの資産を保有する売り手企業でも、将来的な収益拡大が難しいのであれば、買収はためらわれることでしょう。 一方、現在あまり資産を持たない売り手企業でも、将来的に大きな利益をもたらす可能性があれば、M&Aの相手として魅力的です。

「将来どのくらいの利益をもたらすか(企業が今後どれくらいお金を稼げるか)」は、買収価格を決定する大きなポイントです。

割引現在価値は、将来の企業価値から、現在における最適な買収価格を見積もることができるため、買い手・売り手の双方にとって、重要な指標と言えるでしょう。

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割引現在価値を用いるメリット

割引現在価値を用いる主なメリットは、以下の2つです。

  • 企業価値を数値化できる
  • 事業ごとの価値を算出できる

次に、それぞれのメリットについて解説します。

企業価値を数値化できる

割引現在価値の大きなメリットは、企業価値を数値化できることです。M&Aの実務では、将来の企業価値を可能な限り正確に割り出す必要があります。割引現在価値であれば、企業の将来価値とコストなどの割引率を用いて計算するため、より正確な数値が得られます。

正確な企業価値の指標は、「対象企業は買収する価値があるのだろうか」という難しい場面で有益な判断基準となり得るでしょう。

事業ごとの価値を算出できる

割引現在価値を計算する場合、事業や案件ごとのリスクを割引率に反映させられます。そのため企業全体の価値だけでなく、事業や案件ごとの価値をそれぞれ算出することも可能です。

事業や案件ごとのリスクを事前に把握できれば、経営資源をどこに集中すべきかといった実情にあった経営戦略を立てられます。

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割引現在価値を用いるデメリット

割引現在価値を用いた評価は、M&Aなどのシーンでメリットがある一方、以下のように注意すべきポイントもあります。

  • 評価に企業側の主観が入り込む可能性がある
  • 割引率に将来起こり得るリスクを反映しづらい

評価に企業側の主観が入り込む可能性がある

割引現在価値を用いた評価は、将来の予測に関わるため、どうしても企業側の主観が入り込む可能性があります。具体的には、利益計画(将来計画)を作成する際も主観が入り込む余地があり、利益計画に対する評価もまた、主観的になる部分があります。

実際に利益計画の作り方次第で、企業価値が大きく変わるため「論理的に説明可能で、信憑性のある利益計画か」については、シビアに判断すべきと言えるでしょう。

割引率に将来起こり得るリスクを反映しづらい

割引現在価値を用いた評価では、リスクを割引率に反映させることが重要です。例えば、企業の中の案件や事業ごとのリスクを、 割引率で細やかに反映できる点は割引現在価値を用いた評価の大きな利点と言えるでしょう。

一方、企業の外のリスク(外的リスク)については、割引率に反映させることが非常に難しいです。
利益計画(将来計画)の実現を阻害するリスクを全て予測し、反映させることは事実上不可能と言えるでしょう。

近年ではリーマンショック、東日本大震災、新型コロナウイルスの感染拡大、ウクライナ戦争などが挙げられますが、このような社会情勢や、事業に対する影響を事前に予測することはできません。

現在割引価値を用いたインカムアプローチの1つであるDCF法は、予測期間を5年~10年程度に設定することが一般的で、以降は継続価値として扱いますが、これは「長期にわたる予測は困難である」ことを意味しています。

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現在価値が低く見積もられるケース

現在価値は企業の将来価値から金利などを割り引いて求めるため、割引率が大きくなればなるほど現在価値は小さくなります。割引率には金利だけでなく、株主資本コストや加重平均コスト(WACC)など、実情にあったさまざまな指標が用いられます。そのため割引率の種類によっては、実際よりも現在価値が低く見積もられるケースがある点に注意しなければなりません。

現在価値を高める方法

上述したように、用いる割引率によって現在価値の数値には変動が生じます。そのため、特定の割引率の数値のみで判断するのではなく、複数の割引率を用いて判断することが必要です。複数の割引率を用いることで、さまざまな角度から企業価値を測ることができ、総合的に現在価値を高めることに繋がるでしょう。

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将来のキャッシュフローを現在価値に反映できるDCF法

M&Aにおけるインカムアプローチとしてよく利用されているのが「DCF法」(ディスカウントキャッシュフロー法)です。将来計画の側面から企業価値を評価する目的で、1980年代後半から使われるようになりました。 そして不動産鑑定基準の改訂を機に、2002年からはDCF法が正式採用となっています。

割引現在価値の考え方を基本としていますが、DCF法では「将来のフリーキャッシュフロー」を、企業価値と考え、現在の価値に置き換えます。 

なお、フリーキャッシュフローとは「株主・債権者などに自由に分配できるキャッシュ(会社が自由に使えるお金)」を意味し「営業活動におけるお金の増減(営業キャッシュフロー) ー 設備投資などによるお金の増減(投資キャッシュフロー)」で求めることができます。

DCF法の計算方法は「各年度の割引現在価値を求め、それらを全て足し合わせる」というものです。DCF法には、以下のメリットがあります。

  1. ビジネスプランを反映した企業価値が算出しやすい
  2. 利益や売上よりも実態を反映させやすい
  3. M&A以外の場面でも活用できる

それぞれについて説明します。

ビジネスプランを反映した企業価値が算出しやすい

コストアプローチやマーケットアプローチが過去に重点を置いているのに対して、DCF法などのインカムアプローチでは将来的な尺度で企業価値が算出できます。

例えば、将来性のあるビジネスプランなども企業価値に反映させることができるため、M&Aにおいて相手企業の価値を見極める際に、有用性が高いといえるでしょう。

利益や売上よりも実態を反映させやすい

DCF法が企業価値の算出でメインとする、キャッシュフロー(事業における資金の流れ)は、事業の実態が反映されやすいと考えられます。

決算書上の利益や売上は、企業の実態を正確に反映しているとは限りません。例えば、利益が出ているにもかかわらず倒産する「黒字倒産」のようなケースもあります。一方、キャッシュフローは利益や売上よりも恣意性が入り込みづらく、事業実態に沿った将来性の算出が期待できます。

M&A以外の場面でも活用できる 

DCF法は、M&A以外の以下のようなビジネスシーンでも活用されています。

  1. 金融機関の貸倒引当金の算定
  2. 減損会計における減損の認識
  3. 資産のプライシング(資産、証券化、債権買取など)
  4. 投資への事業性評価

幅広いシーンで利用できるのが、DCF法の特徴です。

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割引現在価値の活用方法

割引現在価値は、次の3つのシーンで活用されています。

  1. 株価の算定
  2. 不動産の価値の算定
  3. 会計規準

それぞれの活用方法について説明します。

株価の算定

M&Aでは、買収対象の企業や事業の収益力に見合う株価や、事業の価値を算出しなければなりません。企業の将来の利益を割引現在価値として算定できれば、より正確な企業の価値を測ることができます。

割引現在価値から企業価値を評価する方法は、「インカムアプローチ」と呼ばれています。M&Aにおける企業価値の見積もり方法としては、最も一般的なアプローチです。

企業価値の評価方法には、企業が保有する資産・負債をもとに株式価値を算出する「コストアプローチ」、株式やM&A市場の取引価格を基準として企業価値を算出する「マーケットアプローチ」などがありますが「インカムアプローチ」は、企業が生み出す将来のキャッシュフロー(収益)から企業価値を評価します。

なお、インカムアプローチには収益還元法・配当還元法・DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法) などの算定方法があります。

不動産の価値の算定

不動産投資では、不動産の価値を算定する際に割引現在価値が用いられます。不動産投資とは、将来にわたって収益を得る投資方法のため、不動産が生み出す将来的な利益を現在価値に換算しなければならないのです。

将来得られる家賃収入や不動産の売却額などを想定し、管理や負債などのコストを割引率として設定すれば、その不動産の割引現在価値を算定できます。割引現在価値を利用すれば、より適切な投資判断が可能です。

会計基準

会計基準においても割引現在価値は有用です。主に、減損会計や金融商品会計、退職給付会計などの分野で活用されています。将来発生する債務や受益、キャッシュフローなどを現在価値に割り引き、財務諸表に記すことができます。

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まとめ

割引現在価値とは、企業の将来性から現在の企業価値を算出したものです。より正確な企業価値を算出できる反面、評価の際に企業の主観が入り込みやすいといったデメリットが生じます。

M&Aでよく使われる割引現在価値ですが、企業価値の算定には専門的な知識やノウハウが欠かせません。レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、各領域において豊富な実績を誇るM&A仲介会社です。各分野に精通したコンサルタントが丁寧にヒアリングし、相談から成約まで御社に寄り添いあらゆるサポートを行います。

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