【2024年最新情報】M&A業界の市場動向と将来展望を解説!

2024年4月2日

【2024年最新情報】M&A業界の市場動向と将来展望を解説!

このページのまとめ

  • M&A市場の取引件数は、全体で増加傾向にある
  • 国内企業間でのIn-In型M&Aは増加している
  • 日本企業が海外企業を買収するIn-Out型M&Aはコロナの影響で縮小し、2021年以降は回復傾向
  • M&A市場は、2024年以降も後継者不足や業界再編などで活況が見込まれている

M&Aを検討している方にとって、M&A市場の最新動向は気になる情報だと思います。
2000年代以降、後継者問題や事業拡大によりM&Aの市場規模は拡大しています。2020年は新型コロナウイルスの影響でM&Aの件数は減少しましたが、2021年・2022年は事業承継問題や経営資源の集中により再び増加しました。2023年以降も、前年と同程度の推移になると予測されています。
この記事では、国内M&A市場の規模や動向、将来展望について詳しく解説します。

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M&Aの市場規模 

まず、公開されているM&Aの市場規模について見ていきましょう。

M&Aの件数は、年々増加しており、M&Aの取引金額(※1)については、15兆円を超えた1999年以降、概ね5兆円から20兆円の間で変動しています。2018年には取引金額の総額が30兆円近くに達しましたが、これは武田薬品(※2)などの大型案件が集約されたためです。全体として、M&Aの件数は増加傾向にありますが、金額はそれほど増えていません。

M&Aの件数が増加した背景には、事業継承・引継ぎ支援センターなどの公的機関や、M&A仲介会社の増加(※3)も挙げられます。

※1 参考:マーサージャパン「2020年のM&A市場の振り返りと2021年の展望
※2 参考:武田薬品工業株式会社「タケダによるシャイアー社の買収
※3 参考:経済産業省「中小M&A推進計画の主な取組状況」p2

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最近のM&A市場の動向

次に、M&A市場の最新動向について解説します。

直近2023年の日本市場の動向

2023年のグローバルのM&A市場は、全体的に停滞傾向となっています。一方、日本市場は主要国で唯一好調であり、前年比増を記録しました(※4)。

国/地域M&A金額(億ドル)前年比
グローバル23,792-20.2%
アメリカ11,461-8.5%
ヨーロッパ4,547-39.5%
アジア太平洋地域4,933-26.9%
日本787+25.3%

※2023年10月時点

要因としてはいくつか考えられますが、主に下記の点が挙げられるでしょう。

  • そもそも日本のM&A市場はGDP比で欧米市場よりも低く、成長余地がある
  • アクティビストや東京証券取引所からの収益性や資本効率向上への圧力が強い
    (それゆえに東芝のような非公開化案件が増加)
  • これまでのアメリカ系ファンドの他、欧州ファンドやアジアの政府系ファンドからの注目度が高まっている
  • 日本の銀行もM&Aでの存在感を高めようと積極化している

グローバルでも日本のM&A市場が注目されており、今後もこの傾向は続くと予想されます。

※4 参考:LSEG「M&A市場四半期レビュー M&A 市場

In-In型M&Aの動向

In-In型M&Aとは、国内企業間のM&Aを指します。国内企業同士の売買であるため、他のM&Aに比べてコロナ禍の影響を受けにくいとされています。

大型のIn-In型M&A案件が減少

In-In型M&Aの件数は、2020年には2019年と比べて減少しました。しかし、2021年・2022 年には共に約3,300件となっており、増加しています。2019年まで年々増加傾向にあったIn-In型M&Aですが、大型M&Aは減少しています。一方、中小企業承継型のM&Aは、2019年と同水準で推移しています(※5)。

In-In型M&Aの取引金額が減少

In-In型M&Aの取引金額は、2019年には約6兆円、2020年には約3兆円となっています。(※2)2020年には、ニトリホールディングスによる島忠の買収(※6)といった大型案件がありましたが、案件数の減少や大型案件の不足により、全体の取引金額は2019年よりも大幅に減少しました。

TOBは非常に活況

2020年に国内企業が行ったTOB案件としては、NTTによるNTTドコモのTOB(※7)や、昭和電工の日立化成によるTOB(※8)などがありました。TOB総額は11月末までで5兆5149億円と、1991年以降で最も多い額となりました。(※9)

2020年の記録的大型案件

NTTによるNTTドコモの完全子会社化は、日本で初めて1兆円を超えるTOBとなりました。コーポレートガバナンスの観点から問題視されていた親子上場の解消が目的の一つでしたが、その取引金額は3兆1,780億円(非上場株式を含む買収総額は約4兆2,000億円)(※7)という前代未聞の額に達しています。

実際、昭和電工による日立化成(2020年10月に昭和電工マテリアルに社名変更)のTOBは、完了時点(2020年4月)では国内最高の案件でしたが、NTTドコモのTOB(11月完了)が大幅に上回りました。

敵対的TOBの増加

TOBについては、件数の増加に加え、コロナ禍の影響で内容的にも変化の多い1年でした。その一つが、敵対的TOBの増加です。敵対的TOBが1年で5件まで増え、過去13年間で最多となりました(※10)。

5件のうち、旧村上ファンド系の投資会社が関与したのは、東芝機械(現芝浦機械)(※11)と京阪神ビルディングのTOB(※12)の2件です。また、外食大手のコロワイドが外食チェーンの大戸屋ホールディングスに対して実施したTOB(※13)は、世間の関心を集めました。澤田ホールディングスのTOB(※14)は、2020年2月から20回以上延長され、年明け以降も続くという前代未聞の展開でした。

対象企業の承認を得ずに行われる敵対的TOBのピークは2007年で、それ以降は1年に1件しか行われていません。しかし、2019年は3件あり、再びこの流れは持ち直しています。象徴的だったのは、スポーツ用品大手のデサントをターゲットにした伊藤忠商事(※15)の案件です。敵対的TOBとしては、2006年の王子製紙vs北越製紙事件以来の大手企業同士のケース(※16)であり、改めて注目されました。

前田建設工業株式会社による敵対的TOB

例えば、前田建設工業が道路舗装大手である前田道路に対して起こしたTOBです(※17)。
社名からもわかるように、両社は関係会社です。前田建設工業は弟分の前田道路を子会社化するつもりでしたが、前田道路が強く反発し、2020年初頭に敵対的TOBが勃発しました。

※5 参考:中小企業庁「第2節 M&Aを通じた経営資源の有効活用
※6 参考:日本経済新聞「島忠買収、ニトリに軍配 高いTOB価格決め手に
※7 参考:日本経済新聞「NTT、ドコモのTOB成立 上場廃止へ
※8 参考:日本経済新聞「昭和電工、日立化成へのTOBを完了
※9 参考:日本経済新聞「TOB総額最大に
※10 参考:経済産業省「公正な買収の在り方に関する政策動向」p6
※11 参考:日経ビジネス「東芝機械に敵対的TOBの村上世彰氏、狙いを独占告白
※12 参考:日本経済新聞「京阪神ビル、物言う株主のTOBに反対表明
※13 参考:日経ビジネス「コロワイドのTOB成立 大戸屋HD、企業防衛は1日にして成らず
※14 参考:日本経済新聞「沢田HD、投資ファンドのTOBに意見留保
※15 参考:日本経済新聞「伊藤忠のデサントTOB成立 なぜ蜜月から敵対?
※16 参考:Bloomberg「王子紙:北越買収を事実上断念、株取得困難-篠田社長「敗北宣言」(6)」
※17参考:日本経済新聞「前田建設、前田道路にTOB 『親子』で異例の対立

In-Out型M&A

In-Out型M&Aとは、国内企業が海外企業を買収するM&Aです。激しいグローバル競争のなかで日本企業の飛躍的な成長を実現するために重要かつ有効な手段として認識されており、近年増加傾向です。一方で、日本企業が積極的なIn-Out型M&Aを進める上では、多くの課題があります。

In-Out型M&Aが行われた場合、当然ながら買収企業が買収した海外企業と連携して、事業の実行や新たな価値の創造に取り組むことになります。そのためには、どの国・地域でも通用するグローバルなビジネス慣行が必要です。しかし、多くの日本企業には、そのような経験やノウハウがありません。海外でM&Aを行っても、海外子会社とのコミュニケーションがうまくいかず、目標を実現できないケースが見受けられます。

In-Out型M&Aの取引件数・取引金額が減少

In-Out型M&Aの件数は2019年まで年々増加していましたが、新型コロナウイルスの影響を大きく受け、2020年は2019年と比較して大きく減少し、2021・2022年は2020年より若干多い程度です(※1)。また、案件数だけではなく、In-Out型M&Aの取引金額も2019年に比べて2020年は大きく減少しました(※2)。

渡航できないなどの理由で、海外との交渉が難航していたことが主な原因だと考えられます。また、新型コロナウイルスの終息が見えず、将来への不安から海外買収に動きにくいことも要因の一つでしょう。将来的には、コロナ禍の影響が薄れたあとに、国内市場だけでの事業展開が困難な業界においてより活発な動きが出てくると予想されます。

食品業界ではIn-Out型のM&Aが増加

特に近年では、食品業界でIn-Out型のM&Aが目立つようになってきました。例えば味の素株式会社は、2017年に米国のCambrooke社を株式譲渡契約により子会社化するなど、積極的に海外展開を図っています。

In-Out型M&Aでは、言語・文化・商習慣・システムなどが異なる海外企業を買収し、マネジメントを行う必要があります。そのため、グローバルに通用するマネジメント能力を持ち、海外では当たり前とされている制度や仕組みに適応することが非常に重要です。この点は、国内のM&Aとはまったく異なります。

また、M&Aにおける戦略・検討・実行から買収後の経営管理まで、一連のプロセスのモデルを持っているかどうかも問われます。モデルがあれば、M&Aをより効率的に実施できるためです。

日本企業の課題

日本企業が、In-Out型M&Aによってグローバルな競争力を獲得するために直面している課題として、以下が挙げられます。

  • 経営理念・ビジョン・強みなど、M&A の位置付けを明確に「伝える力」
  • 「伝える力」の前提となる「言語力」
  • 買収後のマネジメントを効果的に行うための「異なる企業文化に適応する力」
  • コーポレートガバナンスの遵守
  • インセンティブ構造を含む世界標準の報酬制度
  • M&A戦略策定・実行・PMIにおける留意点の明確化
  • M&A構想のための組織構造

Out-In型M&A

Out-In型M&Aとは、外国企業が国内企業を買収するM&Aです。

日本の対内投資に対内M&Aが占める割合は先進国に比べて少なく、対内直接投資残高を増加させるためには、対内M&Aを促進する必要があります。国際比較を実施したところ、日本のOut-In型M&Aの1件あたりの取引金額や案件数は、諸外国と比べて低いことがわかりました。GDPに占めるOut-In型M&Aの総取引金額の割合は、他国では日本の約5倍から20倍となっています(※18)。

Out-In型M&Aの取引件数・取引金額が増加

こうした状況のなか、2019年まで増加し続けていたOut-In型M&Aの件数も、2020年は減少しています。新型コロナウイルスの影響により、渡航が難しい海外企業が増えたためです。しかし、2021年にかけてはOut-In型M&Aの件数が増加し、2022年も2021年と同程度です。(※1)取引金額については、ソフトバンクグループによるアーム社の買収(※19)など、金額的に比較的大きな案件があったため、2020年は2019年に比べて増加しました(※2)。

日本政府の目標

2021年6月、日本政府は「対日直接投資促進戦略」において「2030年までに対日直接投資残高80兆円・対GDP比12%」という目標を掲げました(※18)。海外から高度な人材・技術や多額の資金を集め、イノベーションの創出や海外経済の活力を日本経済に取り込むことを目的とした対日直接投資の推進を目指しています。対日直接投資を、日本経済全体の成長力と地域経済の活性化に貢献するものと位置づけているためです。

持続的な成長を実現するために、技術力や研究開発力の強みを生かし、「イノベーション・エコシステム」によって海外からの資金や革新的な技術・ノウハウの導入を促進したいと日本政府は考えています。特に、高度な技能を持つ人材の誘致・育成、戦略的なビジネス・生活環境の整備を加速することで、人・技術・ノウハウ・資本の地域への新たな流入を創出し、地域資源(農業・林業・水資源・林産物・観光など)の開発を⾃律的な地方創⽣力形成の起爆剤にしようという意図があります。

日本に対するOut-In型M&Aの状況

日本に対するOut-In型M&Aの総取引金額における割合を改めて見てみると、1,000億円以上のOut-In型M&Aが60%以上、200億円以上1,000億以下未満のOut-In型M&Aが20%以上となっており、全体の85%以上を200億円以上のOut-In型M&Aが占めています(※18)。有名なものとしては、ニプシー・インターナショナル・リミテッド(NIL)(ウットラム・ホールディングス孫会社)による日本ペイントホールディングスに対する取引金額12,851億円のOut-In型M&A(※20)や、鴻海(ホンハイ)精密工業グループによるシャープに対する取引金額3,888億円のOut-In型M&A(※21)などがあります。

取引金額が200億円以上のOut-In型M&Aに限定すると、取引件数は2019年・2020年・2021年にそれぞれ、10件・16件・23件と増加しています。また、取引金額も5,149億円・2兆2,850億円・2兆8,580億円と増加傾向です。

※18 参考:経済産業省貿易経済協力局投資促進課「内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業(国内外への更なる投資促進のための方策に関する調査検討事業)調査報告書
※19 参考:日経クロストレンド「【3.3兆円】ソフトバンクはなぜARMを買収するのか?
※20 参考:日経ビジネス「ウットラムに増資の日本ペイント田中氏『買収したのはこっちだ』
※21 参考:M&A Online「中国企業による日本企業のM&A(2)―フォックスコンの鴻海(ホンハイ)・グループ、シャープを買収―

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M&Aの件数が増加している背景

上記のようにM&Aが活況を呈している背景には、主に次の要因が挙げられます。

  • 後継者不在の中小企業の増加
  • 政府機関やM&Aアドバイザリー会社からの支援強化
  • M&Aのマッチングサイトの台頭
  • 国の補助の強化および規制緩和(※株式交付制度)
  • M&Aのイメージ変化

それぞれ解説します。

後継者不在の中小企業の増加

日本でM&Aが活発化している背景として、経営者の高齢化に伴う後継者不在に直面する企業が増えていることが挙げられます。近年、日本では経営者の高齢化や少子化が進み、経営者が引退したくても後継者がいない状況が多く見られます。

また、日本全体では、2025年に経営者が平均定年年齢70歳を超える中小企業・小規模事業者は約245万社ですが、約半数の127万社が後継者未定となる見込みです(※22)。後継者が決まっていない中小企業・小規模事業者は、将来の見通しが立たない状況であり、何も対策を講じなければ廃業せざるを得ません。

廃業に追い込まれれば、従業員の雇用が失われたり、サプライチェーンが断絶したりするなど、多くのステークホルダーの混乱を招くリスクがあります。さらに、廃業に伴う経営資源の喪失の蓄積は、優良な経営資源が失われることにつながり、日本経済にも多大な損失をもたらすでしょう。
最近では、経営者に子供がいても「親の会社を継ぎたくない」「子供に苦労させたくない」という理由で事業を継がせないケースもあります。
このような背景から、事業を社外の第三者が引き継ぐM&Aが増加しています。

※22 参考:総務省行政評価局「地域住民の生活に身近な事業の存続・承継等に関する実態調査 結果報告書」

政府機関やM&Aアドバイザリー会社からの支援強化

M&Aが伸びている背景として、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関の存在や、中小企業向けM&Aの仲介を行う民間のM&A専門家が増加していることも挙げられます。
事業承継・引継ぎ支援センターは、後継者不在の中小企業のM&Aを適切に支援するための機関で、以下のサービスを提供します。

  • 事業承継(親族内・第三者)に関するアドバイス
  • 事業承継診断による事業承継課題の洗い出し
  • 事業承継を円滑に進めるための事業承継計画の策定
  • 事業承継のための譲渡会社・譲受会社の選定を支援
  • 経営者保証解除に向けた専門家支援

2011年には、事業承継・引継ぎ支援センターは1件も成約しませんでしたが、相談・成約件数は急速に増加しており、2021年の事業承継相談件数は13,005件、契約件数は1,514件となりました(※23)。

また、M&A案件の増加に伴い、全面的にサポートする民間のアドバイザリー会社も増えています。さまざまな案件を取り扱い、完全成功報酬制を採用するなど、誰でも相談しやすい環境が整っていることが、M&A件数の増加につながっています。

※23 参考:中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター

M&Aのマッチングサイトの台頭

かつてM&Aは大企業が行うのが一般的でした。しかし、M&Aが広く受け入れられるようになり、個人や中小企業もM&Aを行うケースが増加しています。そのため、仲介業者の増加だけではなく、希望条件に基づいた案件を簡単に探せるM&Aマッチングサイトも登場しました。

M&Aマッチングサイトは、譲渡側と譲受側がインターネット上のシステムに登録され、主にマッチングを中心としたM&Aを低コストで支援するツールです。特に、譲渡側が無料で登録できるM&Aプラットフォームが多く存在します。マッチングのために多額の手数料を支払う手段がない中小企業でも、こうしたM&Aマッチングサイトを利用でき、中小企業のM&Aの機会が大幅に増加しました。

また、従来はM&A専門会社の力を借りなければできなかった相手方探しを、譲渡人・譲受人などの利害関係者が自分で実施できるケースもあり、交渉のスピードアップを図れます。近い将来、廃業を考えている中小企業にとっては大きなチャンスと言えるでしょう。つまり、廃業ではなく事業承継という現実的な選択肢があることを認識した上で、M&Aの専門家や相手方とより迅速に交渉できるようになったのです。廃業を検討している中小企業であっても、M&Aマッチングサイトの利用を積極的に検討することが推奨されています。

このように、M&Aマッチングサイトの認知度が向上したことも、M&A件数の増加に貢献しています。

国の補助の強化および規制緩和

国の補助が強化されたことや規制緩和によって、M&Aを実行しやすくなった点も近年のM&A増加の要因として見逃せません。

特に顕著な例は、2021年3月1日より施行された「会社法の一部を改正する法律」での、株式交付制度が挙げられるでしょう。

株式交付制度は、買い手企業が売り手企業を子会社化する場合、対価として金銭だけでなく自社の株式の交付を認める制度です。類似する株式交換では、対象企業を100%子会社化する場合のみ株式による取得が認められていました。しかし本制度では、100%ではなくとも、子会社化する場合であれば株式による取得が適用できるようになりました。

これによってよりM&Aが実行しやすくなった点が大きな特徴です。

M&Aのイメージ変化

また、最後にM&Aのイメージが年々変わりつつあることも大きな要因の一つとして挙げられます。

従来、M&Aは企業の今後を占う重大な戦略の意思決定として扱われ、慎重に決断がなされていました。しかし、競争環境が激しく、変化が速い昨今の市場動向においては、M&Aはどの企業にとっても当たり前に検討すべき戦略オプションとなりつつあります。

したがって、M&Aを行うための心理的ハードルは下がっていると言えます。実際に冒頭で紹介したM&Aの推移が示す通り、年々M&Aの件数と金額は増加してきました。

このイメージの変化は、他の4つの要因よりもM&Aが増加している大きな理由として考えられるでしょう。

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M&A市場の展望

M&A市場は2024年以降も、上記で述べたような要因から、中長期的には堅調に推移する可能性が高いでしょう。

しかしながら、グローバルのM&A市場では、一時的な下降トレンドとなっています。

同様に、日本市場でも下降トレンドに向かう可能性も否定できません。グローバル市場も回復傾向にあるため一時的な傾向になると予想されますが、短期的な市場の見通しは不透明であると言えます。

なお、現在グローバルで下降トレンドに転じている理由としては下記が挙げられます(※24/25)。

  • 景気後退の懸念
  • 金利/資金調達コストの上昇
  • 地政学的緊張の高まり

マクロ的な動向としては、コロナ禍をはじめとしてグローバルに景気が後退しており、各国で物価も高まっています。それに伴って、金利および資本コストは上昇傾向にあるため、M&Aのように一時的に大きな金額が必要となる投資にはマイナスな影響として働きます。

また、国や地域をまたぐM&Aも多い中で、地政学的な緊張が高まっている状況下では、M&Aの検討を見送る企業も少なくありません。

これらの要因は、日本のM&A市場でも短期的に当てはまるおそれがあります。M&Aは中長期的には増加傾向と予想されるものの、足元の動きには留意しましょう。

※24 参考:BCG「2023年最初の8カ月間の世界M&A市場は前年に続き減速、案件数は前年比14%減、取引総額ベースでは41%減~BCG調査
※25 参考:PwC「世界のM&A 業界別動向:2023年見通し

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M&A市場の活発化が見込まれる7つの要因

M&Aの市場が活発化する要因には、主に以下の7つのことが考えられます。

1.後継者や人手不足の問題の解決策

現在、経営者の高齢化や少子化に伴う後継者不足により、多くの中小企業にとって事業承継が大きな課題となっています。中小企業が事業承継を検討する場合、一般的には家族の中から後継者候補を選びます。家族がいない場合は、自社の役員や従業員の中から後継者を選ぶケースが多いようです。しかし、親族内にも社内にも後継者候補がいない中小企業では、社外の第三者に後継者候補を求めるしかなく、それが叶わない場合は、廃業に追い込まれてしまいます。近年では、M&Aが容易になったことで、外部の第三者が後継者不在の中小企業の事業を承継するケースが増加し、M&Aが中小企業の事業承継の手法であるとの認識が広まりつつあります。

後継者探しが困難な中小企業は、今後もM&Aに積極的に参加することが予想され、2023年以降もM&A市場は活況を呈する見込みです。

また、後継者に限らず人手不足は業界を問わず課題となっています。変化の激しい事業分野で事業を展開する企業にとっては、長時間の研修を必要とせず、即戦力となるスタッフを獲得できるM&Aは効果的です。

2.業績不振による経営資源の集中

新型コロナウイルスの影響により業績が悪化し、不採算事業や非中核事業の整理が必要となっている企業が見受けられます。経営資源は有限であり、企業が危機に陥った場合は資源の集中が必要です。その際は、不採算事業や非中核事業ではなく、できる限り本業へ資源を集中するべきでしょう。業績が悪化している状況では、通常、赤字事業や非中核事業は売却されるなど、追加の資源を投入しないようになります。

このような要因のもと、新型コロナウイルスの影響などによる業績の悪化が明らかになった時点で、不採算事業や非中核事業に対して他社がM&Aを実施するケースが想定されます。

3.事業成長やシェア獲得のための時間短縮

M&Aは、事業成長の時間短縮にもつながります。通常、文化の違いが大きい地域で信用を得るためには、長い時間が必要です。変化の激しい現代社会において、企業の成長のために新しいビジネスが必要な場合でも、ゼロから事業を育てていては時代遅れになってしまうおそれがあります。そうしたリスクを軽減しつつ、ビジネスを拡大するための方法としてM&Aの実施が考えられます。

例えば、海外に進出する場合、現地の文化や商習慣に精通している現地企業を買収するIn-Out型M&Aを実施することで、自社で一から現地法人を設立するよりも効率的かつ迅速に海外事業を拡大できるでしょう。

他にも、同業他社間のM&Aを実施すると、競合する企業の数を減少させ、市場シェアを拡大できます。同業他社間のM&Aは、相対的な市場シェアを向上させるだけではなく、被買収企業の売上高を確保できる有効な手段です。

4.業務や財務の効率化

業績が悪化したとき、多くの企業は営業や財務などの業務のうち、重複している部門を整理し、業務の効率化を図りたいと考えるでしょう。M&Aによって、自社だけではなく他社の営業・財務などを組み合わせることで、業務の効率化や問題解決につながります。

また、コロナ禍による需要低下で余った生産能力の活用を検討する際にも、M&Aは有効な手段です。厳しい状況が続くと予想される業界では、M&Aでの新たな販路獲得による設備活用などが考えられます。

5.業界再編

販売や購買などのオペレーションを最適化するよりも高度な形態が業界再編です。

多くの業界では、原材料を供給する会社・加工する会社・販売する会社などがそれぞれ複数存在します。通常、それぞれの会社の役割は異なりますが、この区分けがうまくいっていないケースも少なくありません。似たような機能を持つ企業が存在する場合、それらをM&Aにより組み合わせることで、業務効率が上がり、追加の設備や資源をより効率的に活用できるでしょう。

特に昨今では、新型コロナウイルスの影響を受け、業界全体が苦境に立たされている業界もあります。新型コロナウイルスだけが要因ではないケースもありますが、どちらにせよ、個々の企業の存在によって追加コストが発生している場合、M&Aによる業界再編が有効な可能性もあり、今後もM&A市場は活況が続くと予想されます。

さらに、業界をまたぐ異業種間での連携が増えてきていることもM&Aを加速させる一つの要因です。例えば、自動車産業が自動運転のためにAIなどのIT業界との連携が必須となっているケースが挙げられます。このように異業種への参入を行うには、既存のケイパビリティが不足しているため、M&Aは非常に有効な手段となるでしょう。

6.投資家の注目度の高まり

M&Aを主導するプレイヤーとしては、買い手・売り手企業の他に、資金面で関与する投資家の存在も無視できません。具体的には、銀行や証券会社、ベンチャーキャピタル、PEファンドなどが挙げられます。

このような投資家らは、今後ますますM&A市場に参入を深めていくと予想されます。市場環境の変化が激しく、速やかな対応と競争優位性の確保が求められる中、事業サイドのM&Aに対するニーズは高まっており、それを支援する役割として投資家も積極的に関与していくでしょう。

7.創業者や同族株主らの比率低下による株式の流動性向上

最後に、主に日本のM&A市場における要素として、創業者や同族株主らの持分比率が高い点が挙げられます。これには意思決定のスピード向上などのメリットも存在しますが、変化に弱い、新たな資本を呼び込みにくいなどの問題点も近年指摘されています。

このような創業者や同族株主らに対し、グローバルの投資家をはじめとして、株式の流動性を高めるよう求める機運が高まっています。これらの株式が市場に流れ、株式売買が活性化することもM&A市場を後押しする要因になると予想されます。

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業界別のM&A動向

本稿の最後に、国内のM&A市場における業界別の動向を紹介します。近年のM&A市場における注目のカテゴリーとしては、以下の4つが挙げられます。

  1. 大規模市場
  2. 注目市場
  3. 人手不足市場
  4. 個人事業市場

各カテゴリーを代表する業界を取り上げながら特徴を整理していきます。

カテゴリー業界例M&A増加の背景・理由
大規模市場・IT業界
・建設業界
・医療業界
業界が大きいため専門領域ごとに細分化されている。そのため、専門領域をまたいでケイパビリティを獲得するする目的でM&Aが用いられやすい。
注目市場・ゲーム業界
・SaaS業界
・ホテル業界
急成長しており、トレンドの移り変わりが激しく競争環境も厳しい。競争戦略上、新技術や人手を確保するためにM&Aが増加している。
人手不足市場・調剤薬局業界
・介護業界
・農業
後継者や労働人口の不足が顕著であり、大手チェーンによる地方の中小規模企業のM&Aが増えている。
個人事業市場・飲食店
・旅館
・美容室
個人事業が多いため、コロナ禍などの急激な需要変化に対応できる経営基盤がないケースが多い。また新規参入のハードルが低いため、これらを理由にM&Aが行われている。

1.大規模市場

大規模市場のM&A動向は以下のとおりです。

IT業界

IT業界は国内全産業の10%を占める巨大市場であり、市場成長に伴いM&Aも活発化しています。M&AがIT業界で重要な背景は、技術やエンジニア確保による競争力の強化および海外など未進出エリアへの展開が挙げられます。

関連記事:【最新情報】IT業界のM&Aとその要諦とは?

建設業界

建設業界も近年、M&Aは増加傾向にあります。建設業界は細分化すると29もの業種に分かれており、専門性に応じて領域の棲み分けがされています。この領域間をまたぎ、自社の専門性を拡大する目的でM&Aが増加していると言えるでしょう。
また、クロスボーダーでのM&Aが増えている点も建設業界のM&A市場を後押しする要因となっています。

関連記事:建設業のM&Aとは?メリット・デメリットや注意点について紹介

医療業界

医療業界のM&Aも活況を呈しており、その理由としては主に医師などの人手不足や、さらなる事業成長のための他領域のケイパビリティ(企業の強み)獲得が挙げられます。
病院や診療所、医療法人、介護施設、医療機器メーカー、製薬メーカーなどさまざまなプレイヤーが存在する中で、特にプレイヤー間でのM&Aが増加しています。

関連記事:医療法人のM&A動向を解説!病院買収のスキームやメリット、事例も紹介

2.注目市場

近年、注目されている市場のM&A動向は以下のとおりです。

ゲーム業界

近年、飛躍的に成長した業界として、ゲーム業界が挙げられるでしょう。クラウドゲームやeスポーツなどの新市場も勃興する中で、各社が生き残りを目的にM&Aを実施しています。
トレンドの移り変わりが激しく、それに対応するためにもM&Aは有効な手段となり得ます。

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SaaS業界

ソフトウェア市場が活性化する中で、SaaS業界のM&Aも年々増加しています。ゲーム業界と同様に、成長が急速な業界において、競争力を強化することがM&Aの主な目的となります。

またSaaS業界はスタートアップや個人事業主も多いことから、利益獲得を目的にイグジットを行うケースが増えていることもM&Aを増加させる要因となっています。

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ホテル業界

ホテル業界はコロナ禍による急速な需要の減少を経た後、インバウンドの回復による需要の急増という状況にあり、市場変化が非常に激しい業界と言えるでしょう。このトレンドに伴って業界再編が進み、M&Aも急速に増加しています。
加えて近年では、中国企業をはじめとする外資系資本の参入が増えていることも背景の一つに挙げられます。

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3.人手不足市場

人材が不足している市場のM&A動向は以下のとおりです。

調剤薬局業界

調剤薬局業界では、主に地域で展開する中小規模の企業を中心に人手不足が深刻化しています。これに伴って、大手チェーンがM&Aにより人手不足解消を目指すケースが増えていると言えるでしょう。
特に薬剤師という専門的な人材が必要なことから、新たに多くの人材を採用をすることは難易度が高く、M&Aが用いられるという背景もあります。

関連記事:調剤薬局のM&Aの動向や実施するメリットを解説!価格相場の出し方も紹介

介護業界

介護業界も深刻な労働者不足が課題となっています。高齢者の増加に伴い、需要が急増する中で供給側となる介護士や施設スタッフの不足が喫緊の課題です。このような業界の問題を解消するためにM&Aがしばしば活用されています。

関連記事:介護の業界・施設のM&Aを成功させる方法とは?事例や売買の方法も紹介

農業

農業も、地方を中心に各農家の高齢化および後継者不足が課題となっています。
この課題解消の手段としてM&Aが用いられますが、単なる人材確保だけでなく、IT業界など他業種とのM&Aも増加傾向にある点が特徴です。人手不足を解消するために、ドローンなどのITを活用した効率化が期待されていることが背景にあります。

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4.個人事業市場

最後に個人事業のM&A動向は以下のとおりです。

飲食店

飲食店のような個人事業主が多い市場でもM&Aは増加傾向にあります。コロナ禍による需要減少に伴い、経営難の事業主が増加したことはその理由の一つと言えるでしょう。
飲食店は新規参入が容易な点も特徴であり、新規参入を目的としたM&Aが多いことも要因です。

関連記事:飲食店のM&Aとは?買収の流れやメリット・デメリットを解説

旅館

旅館もホテル業界と同様に、コロナ禍の影響により需要が急激に変化しました。ホテル業界と異なる点は、旅館は個人事業または家族経営の事業者が多いことで、このような急激な変化への対応が困難であったことが、M&A増加の要因となります。

関連記事:旅館のM&Aのメリットは?事例や注意点も紹介

美容室

美容室は個人経営が多い一方で、参入障壁が低いことから競争は非常に激しく、経営を維持することは簡単ではありません。
美容室におけるM&Aの特徴としては、居抜きが多い点が挙げられるでしょう。居抜きとは店舗を経営している状態のまま売却することで、個人経営が多いことからこの形態がしばしば採用されます。

関連記事:美容室のM&Aとは?業界の動向や事例、実施時のポイントを解説

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まとめ

M&A市場の動向や将来展望、M&Aが活発化している背景について解説しました。新型コロナウイルスの影響により一時的にM&A案件は減少しているものの、全体としては、2011年からのM&A案件の増加傾向が今後も続くでしょう。これまでのような大型案件は減少する可能性がありますが、事業承継型M&Aなどの中小型案件が増加する見込みです。取引金額は中小型案件の増加に伴い、横ばいか微増にとどまると思われます。
今回の記事が皆様のM&A市場への理解を深めるきっかけとなれば幸いです。

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