このページのまとめ
- アプリ市場の成長にともない「アプリ売買」も増加傾向にある
- アプリ売却の手法は、主に「株式譲渡」「事業譲渡」の2つ
- アプリの売却価格の算定方法は「インカムアプローチ」「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」が主流
- 売買手法や売却価格の算定方法によって、アプリ売却完了までのフローが異なる
「アプリ売却をしたいけど、何から始めたらよいのか分からない」という方もいるのではないでしょうか?
近年では、業界問わず多くの企業がユーザーに対してアプリを提供しており、重要な競争優位の源泉となっています。こうしたトレンドが見られるなか、各企業や個人によるアプリの売買も活発に行われており、その狙いはさまざまです。
本コラムでは、アプリを売却するにあたっての基本的な流れや手法、押さえておくべきポイントを、過去の成功・失敗事例を踏まえて解説します。
目次
アプリ売却における国内のトレンド
まず、アプリ売却における国内の動向を解説します。
アプリ市場
スマートフォンの登場以降、日本国内に限らず、グローバル全体でアプリ市場は非常に活発であり、コロナ禍の影響でそのトレンドはますます加速しています。
モバイルアプリ市場の規模拡大
総務省「令和5年版 情報通信白書」によると、世界のモバイル向けアプリ市場規模(売上高)は2022年で3,963億ドルと報告されています。そのうち日本のモバイルアプリの売上高は、284億ドルです。売上高は、毎年増加しており、この成長は今後も続くことが見込まれています。
年度 | 世界のモバイルアプリ売上高 | 日本のモバイルアプリ売上高 |
2018 | 1,579億ドル | 191億ドル |
2019 | 1,949億ドル | 215億ドル |
2020 | 2,423億ドル | 267億ドル |
2021 | 2,978億ドル | 306億ドル |
2022 | 3,963億ドル | 284億ドル |
2023 | 4,438億ドル | 292億ドル |
2024 | 4,951億ドル | 298億ドル |
2025 | 5,419億ドル | 306億ドル |
※2023年以降は予測値
これらはスマートフォンやタブレットにインストールして使用するモバイルアプリのデータですが、ブラウザで作動するWebアプリも存在することを踏まえると、「アプリ市場」の規模の大きさは容易に推測できるでしょう。
ゲームアプリの台頭
国内のアプリと言えば、ゲームアプリを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
「令和5年度 情報通信白書」によると2022年の日本国内のモバイルアプリ売上高284億ドルのうち、モバイルゲームアプリの売上高は174億ドルであり、ゲームが約61%を占めています。課金型のビジネスモデルが、モバイルゲームアプリの売上高向上に寄与しています。
また、近年では、ゲームアプリに加えて、AIを利用したチャットボットアプリや、SNSなどのソーシャルアプリ、Amazonや楽天などのオンラインショッピングのアプリなどの需要も高まっています。
参照元:総務省「令和4年度 情報通信白書」
M&A市場全体
M&Aの件数は、公開されている案件のみでも、2010年代以降から増加傾向となっています。
アプリ売買を含む個人による非公開取引なども鑑みると、規模はさらに大きいと推察されます。
関連記事:「【2024年最新情報】M&A業界の市場動向と将来展望を解説!」
アプリ売却
こうした活況なアプリ市場およびM&A市場において、アプリの売却自体も活発に行われています。しかし、大企業の取引などは明確に「アプリ売買」を明示せず、一般的な事業譲渡として公開されるケースも多くあります。
なお、より広義的に「アプリ売買」を捉えれば、アプリ開発事業の売買なども含まれますが、本コラムではモバイルアプリやWebアプリそのものの売買を対象としている取引のことを「アプリ売買」として定義します。
アプリ売却の2つの手法
アプリ売却で用いられる2つの手法を紹介します。
手法1:アプリ事業の売却(事業譲渡)
事業譲渡により、アプリ事業を売却する手法です。事業譲渡とは、特定の事業のみを売却する手法であり、会社の経営権やその他の事業は売り手側に残ります。
事業譲渡のメリット・デメリット
売買する資産や権利(事業)を詳細に選択できる点が最大のメリットです。売り手側は、アプリ事業のみを売却し、成長性の高い事業にリソースを集中させたり、売却益を主力事業に投下したりできます。一方で買い手側は、必要な事業のみを取得することで買収コストを抑えたり、簿外・偶発債務の引き継ぎリスクを軽減したりできます。
ただし、資産や権利などを個別に1つずつ引き継ぐ必要があるため、株式譲渡よりも手続きは煩雑です。
事業譲渡が適しているケース
この手法は「主力・新規事業に集中したい」「不採算事業を抱えており、株式譲渡の相手が見つかりにくい」などのケースに適しています。
厳密には事業譲渡と異なる手法として、アプリ単体の売却もあります。こちらの手法では、売り手側が他事業や従業員などの経営資源を手元に残せます。ただし買い手側にとっては、優秀なエンジニアや開発・運営ノウハウを持っていないと、アプリの収益性が悪化するおそれがあります。
以上より、アプリ単体の売却は「エンジニアやノウハウなどを手元に残したい」「買い手側のリソースが豊富(買い手側が事業を運営できる体制を有している)」といったケースで適しているでしょう。
手法2:アプリ運営会社の売却(株式譲渡)
株式譲渡により、アプリ事業を運営する会社ごと売却する手法です。株式譲渡とは、株式の過半数を売却し、会社の支配権を買い手側に譲渡する手法です。支配権を有する株主が変わるため、実質的に会社丸ごとの売却となります。
株式譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡と異なり、資産や権利を個別に承継する手間が生じないことがメリットです。また、買い手側の傘下に入ることで、買い手企業が有するノウハウや技術力を活用し、事業の成長を加速しやすくなります。
ただし、買い手側が不要な資産や、簿外債務なども引き継ぐ点がデメリットです。多大な負債を抱えている場合などは、会社の売却先が見つかりにくかったり、売却額が低く査定されたりする可能性が高まります。また、過半数の株式を譲渡することで会社の支配権を失うため、経営の自由度が低下する点にも注意です。
株式譲渡が適しているケース
この手法は「経営の安定化や事業の成長性を加速させたい」「会社経営から退きたい」ケースに適しています。
アプリ売却までの流れと期間
M&Aは、手法の違いや買い手側・売り手側の立場に寄らず、基本的には次の流れで進めます。これはアプリ売却においても同様です。
- M&A戦略の策定
- 買い手・売り手のターゲットの選定
- 秘密保持契約(NDA)の締結
- 基本合意書(MOU)の締結
- デューデリジェンス(DD)の実施
- 買収等契約書の締結
- クロージング・移管および統合
また、M&A全般的に、期間は半年~1年ほどかかるとされていますが、案件の特性、事業譲渡や株式譲渡などの手法によって大きく異なります。
例えば、両社の意向が速やかに合意された場合は数カ月で完了するケースもありますし、2社だけではなく3社以上の会社が関与し、スキームやコミュニケーションが煩雑になれば1年以上を要する場合もあります。
アプリ売却価格の算出方法
続いてアプリ売却費用の算定方法について解説します。
アプリ売却価格の相場
アプリ売却には、株式譲渡と事業譲渡という2つの手法が存在します。それぞれの算出方法は以下のとおりであり、算出した金額が相場となります。
- 株式譲渡:純資産+(営業利益+役員報酬)×2-5年分
- 事業譲渡:譲渡資産+事業利益2-5年分
アプリ売却価格の算出例
純資産が5,000万円、営業利益が3,000万円、役員報酬が500万円の場合、株式譲渡の相場は以下となります。
・最低(2年分)
5,000万円+(3,000万円+500万円)×2 = 1億2,000万円
・最高(5年分)
5,000万円+(3,000万円+500万円)×5= 2億2,500万円
譲渡資産が2,000万円、事業利益が1,000万円の場合、事業譲渡の相場は以下となります。
・最低(2年分)
2,000万円+1,000万円×2=4,000万円
・最高(5年分)
2,000万円+1,000万円×5=7,000万円
アプリ売却に影響する要素
また、アプリ売却の価格算出に影響する主な要素は次の4つで、インカムアプローチおよびマーケットアプローチを用いる際に適用されます。
- 規模:ユーザー数・アクティブユーザー数(MAUなど)・アカウント数・ダウンロード数など
- 汎用性:モバイルアプリとWebアプリ両方での展開有無、iOSとAndroid両方の展開有無など
- 将来性:ターゲット市場の成長性、潜在ターゲットユーザーなど
- 希少性:アプリ自体の独自性やユニークさ、事業に紐付く経営資源(優れたエンジニア、ノウハウ、特許など)の競争力など
関連記事:
「M&Aの売却価格の目安は?算定法や買収額をアップさせる方法を解説」
「デューデリジェンス(DD)とは?意味や実施の流れをわかりやすく解説」
アプリ売却の成功事例4選
ここからは、アプリ売却における成功事例を紹介していきます。
FacebookのInstagram買収
SNSアプリ売却の事例です。
当事者 | Facebook(現Meta):実名登録制が特徴のSNS Instagram:写真のシェアに特化したSNS |
手法 | FacebookによるInstagramの買収 |
成功要因 | FacebookがSNS市場の潜在的な成長性を評価できこと |
今では当たり前のように日本国内でも多くのユーザーに利用されているInstagramですが、買収が発表されたのはおよそ10年前の2012年です。当時のInstagramは、アプリのリリースから2年でアクティブユーザー数3,000万人という急成長を果たしているものの、収益はほとんどあげておらず、従業員も13人という体制で、まだまだ未熟な創業期のスタートアップの1つでした。しかしながら、Facebookは10億ドルもの価格でInstagramの買収を決定し、大きなニュースとなったことは記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
SNS市場の潜在的な成長性を評価
本件のポイントは何といっても、FacebookがInstagramの将来性を見極めたことにあります。当時のSNS市場は、TwitterやFacebookを中心に隆盛を極めていましたが、Instagramは既存プレイヤーが主流とする「メッセージのシェア」ではなく「写真のシェア」に特化したアプリで独自のポジションを取ることに成功しました。SNS市場の潜在的な成長性をFacebookが正しく評価できた、典型的な成功事例の1つといえるでしょう。
参照元:Meta「Instagram買収のお知らせ」
ポケモンGO運営のNianti LabcのGoogle独立
ゲームアプリ売却の事例です。
当事者 | Niantic Lab(現Niantic):当時Googleの社内ベンチャーとして、スマートフォン向けゲームを展開 |
手法 | Googleからの独立 |
成功要因 | 大企業からの独立により組織体制をスリム化し、新規事業(ポケモンGO)の開発に集中できたこと |
今ではアプリが人々の行動を大きく変えたとして賞賛を浴びているポケモンGOがリリースされたのは、COVID-19が流行する少し前の2016年ごろです。多くの人が公園や通りに出て、スマートフォンをかざしながらその場に立ち止まり集まる風景は、若干奇異な光景として覚えている方も多いでしょう。当時はまだ技術としても成熟していないAR(拡張現実)を用いて、スマートフォン上の世界と現実世界をつなげた独特のアプリは、すぐに世界中で人気となりました。
そのポケモンGOがリリースされる1年前、運営会社のNiantic LabsはGoogleから独立しています。Niantic Labsは、Ingressと呼ばれるスマートフォン向けの位置情報ゲームを展開するGoogleの社内ベンチャーの1つでした。独立直後に、Niantic LabsはGoogle、任天堂、ポケモンから23.8億円の資金調達を行っており、今となれば明らかにポケモンGOのリリースに向けた独立、資金調達の動きだったことが伺えます。
大企業からの独立による組織体制のスリム化
本件における成功要因は、Googleという大企業から独立することで、組織体制がスリムになり、ポケモンGOのアプリ開発に事業として集中できた点が挙げられるでしょう。AR活用などの意思決定や、リリース後の急成長に対応できる体制づくりなどは、事業の集中によって成し得た結果であり、事業領域の選択と集中がいかに重要であるかが本件からわかります。
参照元:Niantic「Niantic,Inc.、ポケモングループ、Google、任天堂からシリーズAの投資として2000万ドルの資金を調達」
Pairsなど運営のエウレカとTinderなどのIACの統合
マッチングアプリ売却の事例です。
当事者 | Eureka(エウレカ):マッチングアプリ「Pairs」の運営 IAC:マッチングアプリ「Tinder」などの運営 |
手法 | エウレカによるIACへの会社売却 |
成功要因 | アプリ運営のノウハウを豊富に有するIACグループの傘下入りにより、事業の成長を加速させたこと |
最近では、日本でもPairsなどのマッチングアプリが出会いの場として浸透してきましたが、利用者が拡大したのはここ2~3年です。Pairsは、2015年時点で200万人以上のユーザーを持つ人気アプリでしたが、国内およびグローバルでの事業成長に課題を抱えていました。そこで、Pairsをはじめとしたマッチングアプリを運営するエウレカは、2015年にTinderなどを運営するアメリカのIACへの事業売却を決定します。
ノウハウを有するIACグループの傘下入り
IACはTinder以外にも、MatchやOkCupidなどの世界的に有名なマッチングアプリを運営しており、事業ノウハウが豊富にあります。IACへの売却によるエウレカ自身の成長加速が、本件の主な狙いでした。その後、Pairsは2019年に累計ユーザー数1,000万人を獲得、2023年現在は2,000万人のユーザー数を抱えるほどに成長を遂げています。このように、同事業への売却による事業シナジーの創出も、アプリ売却における重要なポイントです。
参照元:株式会社エウレカ「「pairs」と「Couples」を運営するエウレカ、米IACのグループへ参加」
俳句てふてふの毎日新聞への売却
俳句のSNSアプリ売却の事例です。
当事者 | 俳句てふてふ:PoliPoli代表の伊藤氏が個人的に開発した俳句のSNSアプリ 毎日新聞:事業を全国展開する新聞社 |
手法 | PoliPoliが毎日新聞社に、俳句てふてふを事業譲渡 |
成功要因 | 大企業の豊富なリソースを活用し、機能を拡充できたこと |
上記のような市場へのインパクトが大きい案件だけではなく、アプリ売却には個人開発者によるエグジットの例も多数あります。
「俳句てふてふ」は大学生の伊藤氏が個人的に開発した俳句のSNSアプリですが、そのアプリが毎日新聞の担当者の目に止まったことで、エグジットが実現しました。
豊富なリソースを有する大企業への事業売却
売却の狙いは、金銭的な対価の受け取りもさることながら、個人での小規模なアプリの開発・運営リソース不足の解消もありました。その後、本アプリは売却の1年後に、毎日新聞により大規模な機能拡充が行われています。また、開発者である伊藤氏も、売却して得た資金を元に別事業に注力できており、個人開発者による売却の成功事例と言えるでしょう。
参照元:株式会社PoliPoli「PoliPoliが俳句のSNSアプリ「俳句てふてふ」を毎日新聞社に事業譲渡」
アプリ売却の失敗事例4選
一方で、アプリ売却は、必ずしも成功するとは限りません。本章では、いくつかの特徴的な失敗事例について紹介します。
VineのTwitterへの売却
動画共有アプリ売却の事例です。
当事者 | Vine:動画共有サービス Twitter:世界展開しているSNSアプリ |
手法 | TwitterがVineを買収 |
失敗要因 | Vineへの投資が十分に行われなかったこと、主要な人材の流出 |
「6秒動画」として一時期流行したVineは、アプリ売却における失敗事例の1つです。Vineは2012年6月に、6秒間ループ再生するクリップ動画の共有サービスとして設立されるも、その4カ月後の10月にはTwitterに買収されました。このスピード感での買収は、先述のFacebookとInstagramの事例とも類似しており、アプリの開発側としては一見、成功と言えるかもしれません。しかし、結局は2016年に利用者の減少およびTwitterの社内再編により、サービス終了に至ってしまいました。
投資の不足と人材の流出
本件の失敗理由としては、Instagramのように将来性がなかったことではありません。なぜなら、現在もTwitterで短い動画をシェアする機能はあり、市場ニーズがなくなったわけではないためです。理由は大きく2つあり、1つはVineへの十分な投資がなされなかったこと、もう1つは主要人材の流出です。
売却後、YouTubeやFacebookなどの競合に対して、Vineを主戦場とするインフルエンサーの流出を招いたほか、類似する動画クリップサービスをTwitter内に搭載したことで、Vineを経由する必要性がなくなってしまいました。TwitterがVineを重要なサービスと認識しておらず、投資が十分になされていなかったことが窺えます。
また、複数の幹部がVineを同時に退職していたことも明らかとなっており、原因はTwitter社内での人事にあるとされています。このような結果から、Vineとしては本当にTwitterへの売却が正しかったのか、という点で学ぶべきことが多いと言えます。
参照元:
日本経済新聞「米ツイッター、6秒ビデオ投稿アプリをiPhone向けに公開」
財形新聞「Twitter、動画共有サービス「Vine」を終了へ」
Evernoteの売却不可
メモアプリ売却の事例です。
当事者 | Evernote:メモ機能が特徴のアプリ Bending Spoons:欧州を牽引するIT企業 |
手法 | Bending SpoonsによるEvernoteの買収 |
失敗要因 | メモ機能がスマートフォンなどに標準搭載されたことによる経営不振(売却タイミングの見極め失敗) |
メモアプリとして一世を風靡したEvernoteも参考となる失敗事例です。以前はユニコーンの1社として数えられ、順調な成長を遂げていた同社ですが、PCやスマートフォンにメモ機能が標準搭載されたことに伴い、その地位を瞬く間に失っていきます。それでも同社CEOは出口戦略を考えず、100年続く企業をモットーとしており、売却を選択肢としていませんでした。
しかし、この逆風をうまく乗り切れず、2016年ごろから経営不振に陥り、その後売却先を探すも見つからない状態にまで至ってしまいました。2022年11月にイタリアのBending Spoonsに買収されましたが、現在のグローバルにおけるEvernoteのポジションは、かつてほどではないことは明らかです。
売却タイミングの見極めに失敗
本件からの学びは、売却における適切なタイミングを見極めることの重要性にあります。もし、メモ機能の標準搭載前ないしはその直後に売却を検討していれば、また別の未来があったかもしれません。
参照元:Evernote「Evernote の買収に関するよくある質問」
スマートウォッチPebbleのFitbitへの売却
ソフトウェア資産売却の事例です。
当事者 | Pebble:スマートウォッチの製造 Fitbit:ウェアラブルデバイスの製造 |
手法 | PebbleによるFitbitへの資産売却 |
失敗要因 | 市場が低迷している時期での売却 |
Apple Watchに代表されるように、スマートウォッチは現在人気の製品群ですが、その先駆けはPebbleというメーカーの製品です。Pebble は2016年時点で、多額の資金調達を実現し、スマートウォッチのシェアも一定数を有していました。しかし、スマートウォッチ市場の減少に伴い、同年にウェアラブルメーカーのFitbitへと売却されます。
市場が低迷している時期での売却
この売却により、予定していた新製品「Pebble 2」の開発停止に加えて、製品保証などのサービス不可がFitbitより決定されたことで、Pebbleは大規模な顧客の流出を招くことになりました。2023年現在でのスマートウォッチ市場の回復と成長を鑑みれば、Pebbleにとってこのタイミングでの売却は失敗だったといえるでしょう。
参照元:財経新聞「Fitbitに資産売却のスマートウォッチPebble、製品保証打ち切る」
アンダーアーマーのMyFitnessPal、Endomondo、MapMyFitnessの買収
フィットネスアプリ売却の事例です。
当事者 | アンダーアーマー:スポーツウェア事業 MyFitnessPal、 Endomondo、MapMyFitness:各種アプリ事業 |
手法 | アンダーアーマーによる各種アプリ会社の買収 |
失敗要因 | シナジー創出の失敗 |
アンダーアーマーは日本でも人気のスポーツウェアブランドです。2013年から2015年にかけて、デジタルフィットネスへの注力を目的としてMyFitnessPal、Endomondo、MapMyFitnessを買収しました。しかしながら、2020年には3つのアプリのうちMyFitnessPalを売却、Endomondoはサービス終了に至り、この買収は明らかに失敗だったといえます。
シナジー創出の失敗
原因は、3つのアプリ間のシナジーを出せず、独自開発したナイキやアディダスなどの競合に遅れを取ったことが挙げられます。
ここまでは、買収したアンダーアーマーの目線ですが、売却側である各アプリとしてはどうでしょうか。金銭的な対価を得ることが目的であれば、各アプリは数百億円もの買収額となったことから、成功といえるかもしれません。しかし、各アプリの運営元会社や個人開発者にも同様に失敗というイメージがついてしまいました。アンダーアーマーではなく、別の買い手に買収されていれば別のシナリオも起き得たことから、売却側としても失敗と言えるのではないでしょうか。
参照元:
Under Armour「Under Armour to Acquire MapMyFitness, One of the World’s Largest Open Fitness Tracking Platforms」
Under Armour「Under Armour Acquires Endomondo and MyFitnessPal to Establish the World’s Largest Digital Health and Fitness Community」
関連記事:「システム開発会社のM&A動向と主な売買手法、PMIのポイントとは?」
アプリ売却における押さえておくべきポイント
アプリ売却の成功可能性を高めるポイントを解説します。
アプリの利用者やダウンロード数を増やす
利用者やダウンロードの数を増やすことで、買い手からの評価が高まりやすくなります。手段としては、ターゲットの見直しやニーズに基づいたサービスの提供、広告などによる集客の強化などが効果的です。
なお、単純に利用者数を増やすのではなく、継続的に利用してくれるアクティブユーザーの獲得に重点を置くと、より有利な条件で売却しやすくなるでしょう。
複数のOSに対応させる
複数のOSに対応させると、より多くのユーザーにリーチできるようになります。売上増加のチャンスが広がるため、買い手から将来性を評価してもらい、より高値でアプリを売却しやすくなるでしょう。
競争優位性やニーズのある強みを確立する
他社よりも優れていて、かつ買い手側のニーズがある強みを確立することで、アプリ事業・会社が高く評価されやすくなります。例えば、優秀なエンジニアやアプリの運営・集客ノウハウ、ブランド力などの経営資源が強みとなり得ます。
有利な条件での売却を実現するためにも、あらかじめ外部・内部環境を分析し、「どのような経営資源を持っていれば、競合他社に優位性を築けるのか」を考え、それをもとに強みを確立することがおすすめです。強みの確立(エンジニアの育成など)には時間を要するため、早い時期から準備を進めましょう。
その他のポイント
売り手企業は、下記のポイントも押さえましょう。
- 高値で売却できるタイミングを選択する
- 人材やノウハウをきちんと評価する
- 既存の他事業への影響を考慮
- 複数の買い手先を見つけて交渉・評価する
買い手側は安く買いたい一方で、売り手側は高く売りたいと考えることで、両者の利害は対立することが大半です。
有利な条件で売却するには、上記のポイントを押さえつつ、売り手側もきちんと主導権を持って交渉に臨む(すべて買い手主導・買い手依存にならない)ことが肝要です。また、人材やノウハウなどについてもきちんと評価し、それらが本当に手放して良いものかを見極め、手段を選択することがも大切です。
まとめ
本コラムでは、アプリ売却における全体像や成功および失敗事例、押さえておくべきポイントを紹介しました。アプリ市場全体の活況により、アプリ売買は今後も活発に行われると予測されます。そのため、アプリを運営する企業や個人開発者は、アプリの売却も1つの選択肢として手法や流れを理解し、開発方針や今後の成長戦略を考えていく必要があります。
アプリ売却の主な手法には、株式譲渡、事業譲渡の2つがあり、他事業の有無や売却の狙いなどによって適切な手法を選択することが重要です。
アプリ売却の狙いである、最適なタイミングと価格での売却を達成するためには、売却側も取引を主導し、セルサイドデューデリジェンスの実行などを主とするアクションが重要です。さらに、売却すること自体を目的とせず、他事業への影響やアプリそのものの成長方針なども加味した上で売却に臨むことで、より効果的な選択を実現できるでしょう。
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