M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?算定方法も紹介

2023年4月26日

M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?算定方法も紹介

このページのまとめ

  • M&Aや資本取引の際にはバリュエーションが必要になる
  • バリュエーションにはインカムアプローチやマーケットアプローチなどの方法がある
  • 企業規模などによって適したバリュエーション方法が異なる
  • 企業価値は高められる

「M&Aでよく聞くバリュエーションとは何なのだろうか」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。

本コラムでは、M&Aの際に実施するバリュエーションについて説明します。また、バリュエーションが必要な状況や企業規模にあわせたバリュエーション方法、企業価値を高める方法についても具体的に紹介します。

M&Aをスムーズに進めるためにも、ぜひお役立てください。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

M&Aのバリュエーション(企業価値評価)とは?

バリュエーションとは、企業の価値を金額で評価することで、M&Aなどで実施されます。簡単にいえば、企業を構成する事業や資産などのさまざまな要素を総合的に評価し、金額に換算する行為のことです。

バリュエーションにより導き出された金額は、買収価額を決定する際に用いられます。正確なバリュエーションのためには、企業を1つの側面から見るのではなく、会計や税務、将来性などの面から複合的かつ専門的に見ることが欠かせません。

バリュエーションの具体的な方法については後述しますが、比較的簡単に実施できるものもあります。しかし、簡単な方法では企業を部分的にしか評価できないため、正確性に劣るといわざるを得ません。より妥当性の高い買収価額を算出するためにも、M&A仲介会社などの企業価値評価の専門家の手を借りるようにしましょう。

企業価値と事業価値の意味の違い

企業価値とは、企業の資産や事業、将来性などを総合的に評価したものです。企業価値を構成する要素を事業に関連するものかどうかで分類すると、次のように表記できます。

  • 企業価値=事業価値+非事業用資産

事業価値とは、企業の事業活動によって生み出された価値のことです。一方、非事業用資産とは事業活動に用いられていないもの、たとえば事業とは無関係な不動産や有価証券などを指します。

つまり、事業価値は企業価値の一部で、すべての資産を事業に使っている企業を除き、「事業価値<企業価値」の関係が成り立ちます。

企業価値と買収価額の意味の違い

バリュエーションによって企業価値を金額として求めますが、この金額がそのままM&Aの買収価額になるのではありません。算出した企業価値をベースにして、買収価額を決定していきます。

たとえば企業が保有する特定の事業のみを売却する「事業譲渡」であれば、「企業価値>買収価額」の関係が成り立つと考えられるでしょう。

また、企業全体を売却する「株式譲渡」では、譲渡企業と譲受企業の関係や、売却を急いでいるかなどのさまざまな要素を加味して買収価額が決まります。そのため、交渉によっては「企業価値≒買収価額」になることもあれば、「企業価値<買収価額」「企業価値>買収価額」とケースバイケースです。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

バリュエーションが必要になるケース

株式を公開している上場企業のバリュエーションは比較的簡単です。株価と発行済み株式数をかけ合わせて株式時価総額を求め、その数字を企業価値とみなします。

一方、非上場企業では客観的な株価がないため、さまざまな局面でバリュエーションが必要です。また、上場企業の株価のように常に最新の状況が反映されるわけではないため、企業価値を求める必要性が生じたときには、その都度バリュエーションが必要になります。

バリュエーションが必要になる状況としては、次のものが挙げられます。

  • 株式譲渡
  • 資本取引
  • 組織再編
  • ストックオプションの実施
  • M&A

それぞれの状況において、バリュエーションが必要になる理由を説明します。

株式譲渡

株式譲渡とは、株式を譲渡することで譲受側に経営権を渡すことです。事業承継時などに用いられる手法で、中小企業のM&Aのスキームとしても一般的です。基本的にはすべての株式を譲渡しますが、部分的に譲渡することもあります。

株式譲渡をするときは、株価を算定し譲渡する株式数分の金額を求めなくてはいけません。非上場企業では市場で株価が決まらないため、バリュエーションを実施して企業価値を割り出し、妥当な株価に設定することが求められます。

資本取引

資本取引とは、企業会計において直接的に資本の変動につながる取引のことを指します。営業や販売による資本の変動とは区別して用いられる言葉です。

増資や自己株式の取得などは資本取引です。たとえば増資の際には新規に株式を発行することがありますが、株式の価額を決めるためには企業価値の算出が必要になります。バリュエーションを実施してから株価を決め、増資額を株価で割って発行済み株式数を増やす形で調整します。

組織再編

組織再編とは、企業組織や企業体制を抜本的に変更することです。主に経営課題を解決するために実施され、合併や会社分割、株式交換などの方法があります。たとえば株式交換を実施する場合であれば、交換の対象となる株式の価値を求めることが必要です。バリュエーションを実施して企業価値を求め、発行済み株式数で割り、1株あたりの価額を決定しなくてはいけません。

なお、組織変更とは、企業がそのままの枠組みのなかで企業体制を変更することです。たとえば合同会社が株式会社になるなどの変化は、組織変更と呼ばれます。一方、組織再編では他の企業がかかわることや、元の企業が2つに分割するなどの変化があるため、企業の枠組みから変わる点が組織変更とは異なります。

ストックオプションの実施

ストックオプションとは、あらかじめ定められた数量の株式を、既定の価格かつ期間内に購入する権利のことです。創業間もない企業が社員などに報酬の一部として提供することがあります。

ストックオプションを受け取った社員は、企業が成長して上場を果たしたときに権利を行使して株式を取得し、市場で売却して利益を得ます。ストックオプションの価格を決める際、企業価値の算出が必要です。

高く設定するほうが企業側は受け取れる金額を増やせますが、あまりにも高いとストックオプションの権利を行使する社員がいなくなってしまいます。また、社員のモチベーションの低下にもつながるため、総合的に企業価値を算出して妥当な価格に設定することが求められます。

M&A

M&Aとは、買収や合併などの方法により事業承継や組織再編を実施することです。また、事業提携などの買収・合併を伴わない方法もM&Aに含めることがあります。

M&Aを実施する際には企業価値の算出が重要です。とりわけ株価が市場で決まらない非上場企業は、バリュエーションなしにM&Aを実施することはできません。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

M&Aでバリュエーションが必要になる局面

M&Aを実施する際には、何度かバリュエーションが必要になることがあります。たとえば企業や事業を売却する側は、次の局面でバリュエーションが必要です。

  • M&Aを実施するか決定するとき
  • 秘密保持契約を締結したとき

また、企業や事業を買収する側もバリュエーションが必要です。主な局面としては次のものが挙げられます。

  • 秘密保持契約を締結したとき
  • デューデリジェンスを実施したとき

それぞれどのような局面なのか見ていきましょう。

【売却側】M&Aを実施するか決定するとき

売却するかどうかの判断にも、バリュエーションが欠かせません。自社をバリュエーションすることで、どの程度の金額を提示されたら買収に応じるか決めやすくなります。

また、売却額を提示するときにもバリュエーションが必要です。バリュエーションにより適正と思われる売却額を設定することで、買い手が見つかりやすくなり、スムーズな売却を実現できます。

なお、売却をM&A仲介会社に依頼する場合は、売却額の設定に必要なバリュエーションもM&A仲介会社が請け負うことが一般的です。M&Aの経験豊富なM&A仲介会社であれば、妥当性が高く、なおかつ売れやすい価格を算出してくれるため、安心して任せられます。

【売却側・買収側】秘密保持契約を締結したとき

売却側(譲渡企業)と買収側(譲受側)が交渉を開始するときには、秘密保持契約を締結します。M&Aでは経営状況や財務状況などの内部事情を相手企業に開示する必要があるため、機密事項が流出しないためにも、交渉開始前に秘密保持契約を結ぶことが重要です。

秘密保持契約を締結した後、売却側は買収側に自社の会計などに関わる情報を提供し、本格的な交渉を始めます。買収側は提示された情報を基にバリュエーションを実施し、買収価格を算定していきます。

また、売却側もバリュエーションが必要になることがあるため注意しましょう。M&A仲介会社によっては、M&Aを実施するか決めるときには簡易的なバリュエーションしか実施していないことがあります。このようなケースでは、秘密保持契約を締結して譲受企業の候補が決まってから、詳細なバリュエーションを実施することが一般的です。

売却側・買収側がそれぞれ詳細にバリュエーションを実施した後、売却希望額、買収希望額を提示します。金額に乖離がない場合は、契約締結の条件などの交渉に進みます。

【買収側】デューデリジェンスを実施したとき

秘密保持契約を締結したときに売却側から提示される情報に基づき、バリュエーションを実施して買収希望額を算出します。

しかし、売却側から提示される情報だけでは、詳細なバリュエーションを実施できないことも少なくありません。独自に買収監査(デューデリジェンス)を実施し、より詳細な買収希望額を算出します。

なお、デューデリジェンスの結果によっては、最初に提示した買収希望額と大きな乖離が生じることも珍しくありません。このようなケースでは、M&A仲介会社のアドバイザーを通し、乖離が生じた理由なども説明しながら、より妥当性の高い価格でM&Aを実現できるように売却側に働きかける必要が生じます。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

企業価値の算定方法の種類

バリュエーションを実施する方法には、さまざまな種類があります。何に注目するかによって、次の3つのアプローチ法に大別できます。

  • インカムアプローチ
  • マーケットアプローチ
  • コストアプローチ

それぞれのアプローチ法の特徴を紹介し、各アプローチ法に分類されるバリュエーション方法を説明します。また、バリュエーション方法ごとにメリットとデメリットも紹介します。

インカムアプローチ

インカムアプローチとは、将来の収益性に注目して企業価値を算定する方法です。M&Aを実施するときだけでなく、投資判断にも用いられるアプローチ法のため、活用範囲は広いといえます。

合理的かつ理論的に企業価値を算定しますが、将来の収益を予想することが前提のため、恣意性が働きやすい点に注意が必要です。景気や業界の動向などの影響を受け、予想が大幅に異なる可能性もあるため、算出する価額にもある程度の幅を持たせることが求められます。

また、インカムアプローチは、理論が難解で慣れていない方には計算しにくいというデメリットもあります。M&A仲介会社に依頼し、専門家に算出してもらうことが必要です。

主なインカムアプローチの方法としては、配当還元法とDCF法が挙げられます。それぞれのメリットとデメリットについては、以下をご覧ください。

バリュエーション方法

メリット

デメリット

配当還元法

  • 計算が簡単
  • 成長が見込めなくても計算できる
  • 配当政策は反映できない
  • 配当が見込めないときには利用できない

DCF法

  • 事業計画書を基に計算するため、将来性を反映しやすい
  • 参考にするデータが多く総合的な評価ができる
  • 事業計画書に妥当性が低いときは評価の妥当性も低くなる
  • 反映するデータが多く複雑

配当還元法

配当還元法とは、配当金額から企業価値を割り出す方法です。評価対象となる企業が将来どの程度の配当金を出すことになるのか見込み額を算出し、その見込み額から株式価値を算定します。配当還元法の計算式は、以下のとおりです。

  • 株式価値=期待される配当金÷(資本コスト-配当金成長率)

ただし、配当還元法は利益が出ている企業でしか用いられません。配当金をベースとして企業価値を割り出すため、利益がなく、配当金もない場合には、他のバリュエーション方法で計算するようにしましょう。

また、配当還元法は配当政策を企業価値に反映できません。利益は出ているけれども、利益を施設投資や事業拡大に優先的に用い、配当金はほとんど出さない方針の企業であれば、配当還元法で算出した企業価値は実情よりも大幅に低くなってしまいます。

とはいえ一般的な割合で配当金を出し、事業成長が見られる企業では、配当還元法は計算が簡便で利用しやすいバリュエーション方法です。対象企業が条件に当てはまるか吟味してから、用いるようにしましょう。

DCF法

DCF(Discounted Cashflow)法とは、フリーキャッシュフローから企業価値を割り出す方法です。以下の手順で計算します。

  1. 事業計画を参考に今後数年分のフリーキャッシュフローを計算する
  2. 割引率を計算する
  3. 残存価値を計算する
  4. フリーキャッシュフローを現在価値に換算する
  5. 将来のフリーキャッシュフローの現在価値の合計額を計算する
  6. 株主価値を計算する

DCF法では、対象企業の事業計画をベースに価値を算出するため、妥当な金額を導き出しやすいというメリットがあります。割引率を設定するため、投資リスクなども企業価値に反映することが可能です。また、事業資産以外の遊休資産や余剰資産なども同時に反映するため、より総合的な視点での価値を算出しやすくなります。

メリットの多いバリュエーション方法ですが、対象企業の事業計画書の妥当性が低いときは、算出する企業価値の妥当性も低くなる点に注意が必要です。根拠のあるデータを基に作成された事業計画書であれば良いのですが、企業によっては夢物語としか思えないような計画書を作成していることもあります。また、売却価額を上げるために、意図的に自社にとって有利な情報ばかりを採択した事業計画書を作成しているケースも想定されるでしょう。

DCF法では、事業計画書だけでなく資産や負債の内訳、市場状況から算定した割引率なども用いて企業価値を算出します。総合的な判断ができるという点では優れたバリュエーション方法ですが、計算に用いる指標やデータが多く、算定までに時間がかかる点はデメリットといえます。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、類似する上場企業の市場価値を参考にして企業価値を算出するアプローチ法です。実際のM&A取引を参考にして計算するため、客観性に富み、具体的な数値を導けるというメリットがあります。また、業種やビジネスモデルなどのトレンドを反映でき、実情に則した金額が出やすいのもメリットです。

しかし、M&Aにおいてバリュエーションが必要になるのは、主に中小企業です。上場している企業とは規模が違うため、類似する事業内容やビジネスモデルであっても参考にならない可能性もあります。

また、ベンチャー企業などの新しい企業は、事業内容やビジネスモデルのオリジナリティが高く、類似企業が見つからないケースも想定されます。マーケットアプローチでは類似企業が存在することを前提として計算を進めていくため、オリジナリティが高すぎる企業には不向きなアプローチ法です。

バリュエーション方法

メリット

デメリット

類似取引比準法

  • 計算が簡単
  • 具体的な数字をベースにするため客観性が高い
  • 類似企業のM&A事例が見つかりにくい
  • M&Aの詳細については公開されていない可能性がある

マルチプル法(類似会社比準法)

  • 計算が簡単
  • 具体的な数字をベースにするため客観性が高い
  • 類似企業の選択やディスカウントに恣意性が働く
  • 将来性が反映されない

EV/EBITDA倍率法※

  • 計算が簡単
  • 計算に用いる数字が多く、多面的に評価できる
  • 類似企業の選択やディスカウントに恣意性が働く
  • 将来性が反映されない

※EV/EBITDA倍率法はマルチプル法の1つですが、用いられるケースが多いため、別途紹介しております。

類似取引比準法

類似取引比準法とは、過去の類似するM&Aの取引価格を基に、企業価値を割り出すバリュエーション方法です。以下の方法で計算します。

  1. 類似企業のM&A事例を抽出し、取引価額と特定の数字を調べる
  2. 対象企業の特定の数字を調べる
  3. 類似企業の特定の数字が対象企業の特定の数字の何倍になっているかを計算する
  4. 類似企業の取引価額を3で求めた数字で割り、対象企業とのM&Aによるおおよその取引価額を求める
  5. 4で算出した数字にディスカウントを実施し、対象企業とのM&A取引価額を求める

類似会社比準法と同じく、具体的な数字をベースとするため、評価額が客観的かつ説得力がある点がメリットです。また、意図的に抽出した数字ではなく取引価格から算定するため、M&Aの実情や業界、トレンドなどの複合的な要素を反映できます。

しかし、類似取引比準法では、公開されているM&Aの事例のみを参考にすることになります。非上場企業のM&A事例は非公開であることが多いため、対象企業と企業規模が近い事例を参考にできない場合もあるでしょう。

また、上場企業のM&A事例も、すべての情報が公開されているわけではありません。譲渡企業・譲受企業の間で起こるシナジーなども把握することが難しく、類似取引を選ぶことはなかなか困難です。

マルチプル法(類似会社比準法)

マルチプル法とは、類似する上場企業の株価から企業価値を割り出すバリュエーション方法です。類似会社比準法や類似企業比較法などと呼ばれることもあります。以下の方法で計算します。

  1. 類似企業の特定の数字と企業価値を調べる
  2. 対象企業の特定の数字を調べる
  3. 類似企業の特定の数字が対象企業の特定の数字の何倍になっているかを計算する
  4. 類似企業の企業価値を3で求めた数字で割り、対象企業のおおよその企業価値を求める
  5. 4で算出した数字にディスカウントを実施し、対象企業の企業価値を求める

マルチプル法では、類似企業の純資産などの特定の数字と企業価値さえ分かれば、簡単に対象企業の企業価値を計算できます。また、具体的な数字を用いるため客観性が高く、一般的に公開されている情報を用いることから信頼性が高い点も特徴です。

類似企業は規模の大きな上場企業のため、最後にディスカウントを実施して適正な企業価値を算出します。しかし、ディスカウントの際に恣意性が働き、意図的に割高あるいは割安な企業価値になる可能性も想定されます。

また、数字だけに注目するため、対象企業の設備投資や事業計画などの個別の要素は反映されません。そのため、将来性を評価するDCF法と比べると、企業価値が小さく算出される傾向にあります。

EV/EBITDA倍率法

EV/EBITDA倍率法は、マルチプル法の1つです。マルチプル法では、EBIT倍率やPER、PBRなどのさまざまな倍率を用いますが、そのなかでもM&AにおいてはEV/EBITDA倍率を用いることが多いです。

たとえばPERでは特別損益が反映されるため、特殊な状況に数値が左右される傾向にあります。また、PBRでは純資産のみをベースにするため、収益性が反映されません。その点、EV/EBITDA倍率法は計算に用いるデータが多様で、比較的客観性が高い方法とされています。次の手順で計算します。

  1. 対象企業の株式時価総額に有利子負債を加え、預金を差し引く
  2. 経常利益に減価償却費を加える
  3. 1で算出した数字を2で算出した数字で割ってEV/EBITDA倍率を求める

コストアプローチ

コストアプローチとは、対象企業の現時点での財産に注目して企業価値を計算するアプローチ方法です。資産から負債を差し引くだけで求められるため、シンプルな計算手法として用いられています。

また、実際のバランスシート(貸借対照表)を含めて算出するため、企業価値に現状が反映されやすい点もメリットです。しかし、将来性についてのデータを含めずに計算するため、収益性が反映されにくく、市場の状況やトレンドも反映できないというデメリットがあります。

コストアプローチの主な方法としては、簿価純資産価額法と時価純資産価額法、再調達原価法が挙げられます。それぞれのメリットとデメリットについては、以下をご覧ください。

バリュエーション方法

メリット

デメリット

簿価純資産価額法

  • 計算が簡単
  • 客観性が高い
  • 将来性が考慮されない
  • 資産の現在価値が反映されない

時価純資産価額法

  • 計算が簡単
  • 客観性が高い
  • 将来性が考慮されない
  • 時価の計算に正確性が求められる

再調達原価法

  • 不動産の価値を求められる
  • 企業全体の価値を求める時には使用しない

簿価純資産価額法

簿価純資産価額法とは、バランスシートの純資産をそのままの形で簿価純資産として使用し、企業価値を割り出す方法です。バランスシートに記載されている数値だけで計算でき、単純に現在の企業価値を求められます。

また、計算せずにそのまま数値を使うことで、恣意性が働かず、客観的な企業価値を求めやすい点もメリットです。簿価純資産は、以下の計算式で求めます。

  • 簿価純資産額=簿価資産額-簿価負債額

ただし、簿価純資産価額法では現時点で明らかな数字のみを使用して算出するため、将来性やトレンド、市場状況などは反映されません。また、保有している資産や負債については時価に換算せず、バランスシートに記載されているまま使用するため、含み損益が反映されていない点にも注意が必要です。

時価純資産価額法

時価純資産価額法とは、資産と負債を時価に換算してから企業価値を割り出すバリュエーション方法です。バランスシートに記載されている数値から算出できるため、データを得やすく、客観性が高い評価額を求められます。時価純資産は以下の計算式で求めます。

  • 時価純資産額=時価資産額-時価負債額

また、簿価純資産価額法では資産と負債が帳簿のままの数値のため、実際の価値を反映していません。しかし、時価純資産価額法では資産と負債を時価に換算するため、より企業の現状に近い評価が可能です。

ただし、時価純資産価額法も将来性については考慮されないため、収益性を加味した評価額を算出できません。そのため、企業の経営状態が右肩上がりの場合には、実際の市場価値よりも低い評価になる恐れがあります。

また、帳簿金額が誤っているときや、資産・負債の時価が正しく算出されていないときは、計算される企業価値にも誤りが生じます。企業価値評価を専門的に行うM&A仲介会社に問い合わせ、より正確な企業価値を算出するようにしましょう。

再調達原価法

再調達原価法とは、特定の資産を再調達するときにどの程度の金額が必要かという視点で、対象資産の価値を算出するバリュエーション方法です。一般的に不動産の価値を割り出すときに用いられるため、企業全体の価値ではなく、企業が保有している不動産の価値を個別にバリュエーションするときに活用します。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

企業によるバリュエーション方法の違い

バリュエーション方法は、企業規模などによって適するものが異なります。上場企業と非上場企業、ベンチャー企業に分けて適切な方法を紹介します。

なお、実際にバリュエーションを実施するときは、複数の方法を用いて多面的に企業の姿を捉えることが必要です。時間がかかることになりますが、より正確かつ妥当性の高い企業価値を算出することはM&Aの成功に欠かせません。M&A仲介会社などの企業価値評価の専門家に依頼することで、効率的に企業価値の算定を進めていきましょう。

上場企業のバリュエーション方法

上場企業がバリュエーションを実施するときは、客観的な企業評価の1つでもある「株価」を使う方法が適しています。たとえばマーケットアプローチであれば、株価をベースとしたバリュエーションを実施できます。

また、上場企業であれば事業規模やビジネスモデルに類似性のある類似企業が見つかりやすいため、極端なディスカウントを実施せずとも実情に沿った企業価値が求められるでしょう。恣意性も働きにくく、妥当性が高いバリュエーション方法といえます。

ただし、マーケットアプローチだけで企業価値を算出するのは客観性に欠ける可能性があります。複数の方法を組み合わせ、より妥当性の高い企業価値を算出してください。

非上場企業のバリュエーション方法

非上場企業は企業規模が類似した上場企業を見つけにくいため、株価を用いずにバリュエーションを実施できるインカムアプローチの1つ、「DCF法」が適しています。DCF法ではフリーキャッシュフローと将来的な価値を組み合わせて、企業価値を算出するため、現状と将来に則した数字を割り出しやすくなります。

また、割引率を設定するため、想定されるリスクも反映した数値になるのもメリットです。用いる数字やデータが多く、計算は複雑にはなりますが、スムーズなM&AのためにもDCF法は適しているといえます。

ベンチャー企業のバリュエーション方法

ベンチャー企業も、株価を用いずに企業価値を算出する「DCF法」を利用することが一般的です。事業計画書も企業価値の算出に用いるため、将来的に著しい成長が見込まれているときは、将来性も加味した企業評価を求められます。

また、マーケットアプローチではありますが、「類似会社比準法」や「類似取引比準法」も用いることがあります。ベンチャー企業では合併や事業譲渡などのM&Aを活発に実施することもあるため、市場を意識したバリュエーション方法で企業価値を算出することも多いようです。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

【売却側】バリュエーションを高める方法

企業の売却を検討する場合、企業価値を高めることはM&Aによって得られる金額を増やすことと同義です。少しでも高額で売却するためにも、企業価値を高めましょう。

次の方法を実施することで、バリュエーションを高められます。

  • 利益率を増やす
  • 投資先を絞り込む
  • 財務状況を見直す
  • 従業員の待遇を見直す

それぞれの方法を説明します。

利益率を増やす

多くのバリュエーション方法では、計算過程において「利益」を含めています。現在の利益が多いとバリュエーションが高まり、高額での売却を実現しやすくなりますが、急に増やすことは不可能です。

しかし、「利益率」であれば比較的短期間で増やすことが可能です。たとえばコストを減らす、収益性の低い事業を縮小あるいはカットして、収益性の高い事業に注力するなどの方法でも、利益率を高められます。

また、人件費のコストが高いときは、人員削減も検討できるかもしれません。ただし業務量に比べて人員が少なくなると、従業員の負担が増え、労働環境が悪化して生産性が低下する可能性もあります。人員配置を見直し、業務量に比べて人員が多すぎる場合のみカットする、あるいは、業務工程を見直して作業効率を高めるなどの工夫も必要になります。

投資先を絞り込む

他企業に投資を実施している企業も少なくありません。価値のある投資先であれば良いのですが、なんとなく投資をして何十年も放置しているケースや、取引先との関係上仕方なく投資しているケースであれば、一度見直すほうが良いかもしれません。

投資先が多い場合は整理し、価値のある投資先に絞り込むようにしましょう。

財務状況を見直す

バリュエーションでは主に会計状況に注目してしまいがちですが、財務状況にも注目し、無駄がないか精査するようにしましょう。たとえば節税をすることも大切なポイントです。支出を減らせるため、利益率が高まり、バリュエーションにもプラスの作用があります。

従業員の待遇を見直す

従業員の待遇を見直すことも、バリュエーションを高める方法の1つです。従業員の給与や労働時間、休日制度などに問題がないか、一度精査してみてください。また、従業員に直接アンケートを実施し、働き方や企業の居心地について尋ねてみることもできます。

従業員が働きやすいと感じているなら、生産性の向上を期待できるだけでなく、離職率の低下も実現できるかもしれません。離職率が低下すると中途採用などを実施する機会が減り、採用コストを削減できます。また、働きやすいという評判が広まると、採用希望者が増え、採用活動に注力しなくても自然と優秀な人材が集まってくるようになるでしょう。

企業の未来は従業員がつくります。優秀な人材の流出を防ぎ、なおかつ優秀な人材を呼び込むためにも、従業員の待遇改善から社内改革を始めていきましょう。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

【買収側】バリュエーション時の注意点

バリュエーションにはさまざまな手法がありますが、選び方や計算方法、ディスカウントの割合などによっては思わぬ数値が出る可能性があります。バリュエーションにより想定される買収側のトラブルとしては、次の2つが考えられます。

  • 予算よりも企業価値が高くなったとき
  • 買収するか迷ったとき

それぞれの状況下で検討できる対処法を紹介します。

予算よりも企業価値が高くなったとき

M&Aにより企業買収をするときは、通常、予算を決めて臨みます。しかし、買収したい企業が見つかったとしても、バリュエーションにより算出された相手企業の価値が予算を超えているときは、すぐには買収を決断できません。

無理に買収すると、自社の経営にも影響が及ぶ可能性があります。バリュエーションだけで相手企業を判断するのではなく、会計や財務、企業内の雰囲気などを総合的に見直し、本当に価値に見合った企業なのか今一度考え直して見るようにしてください。バリュエーションの数値よりも、経営者としての直感が役立つこともあるかもしれません。

買収するか迷ったとき

バリュエーションを実施し、予算内の企業が見つかったとしても、すぐに買収を進めるのは禁物です。企業価値は必ずしも金額だけで表現できるものではありません。

バリュエーションをする前に買収先の企業の判断基準を決めておくと、迷ったときもスムーズに意思決定ができるようになります。企業価値はあくまでも参考にして、目標を実現できる買収なのか冷静に見直してみてください。

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

M&A仲介会社を選ぶ際のチェックポイント

買収側にとってM&Aは大きな買い物です。また、売却側にとっても、M&Aは自社がどの程度の価格で売れるのか決まる大切なターニングポイントとなります。

慎重にM&Aを進めるためにも、M&Aの専門家であるM&A仲介会社に依頼しましょう。M&A仲介会社ではさまざまなバリュエーション方法を用いて多面的に企業価値を算定するため、より妥当性の高い価格で取引を実現できるようになります。次のポイントに注意して、M&A仲介会社を選んでください。

  • 同程度の規模の企業においてM&Aの成約実績が豊富か
  • 企業価値を丁寧に説明するか

それぞれのポイントを見ていきましょう。

同程度の規模の企業においてM&Aの成約実績が豊富か

M&A仲介会社によって、得意とする企業規模が異なります。上場企業を専門とするM&A仲介会社や、非上場企業、ベンチャー企業などを専門とするM&A仲介会社もあります。また、企業規模だけでなく業界にも得意・不得意がある点に注意しましょう。

M&A仲介会社を選ぶときは、自社と同カテゴリーかつ同程度の規模の企業において、M&Aの成約実績が豊富か確認してください。M&A仲介会社のホームページや、M&A仲介会社に直接問い合わせることで過去の実績を確認できます。

また、過去の実績を問い合わせるときに、大まかな料金体系についても確認しておきましょう。M&Aでは高額な資金が動くため、依頼費用も高額になりがちです。明快な料金体系のM&A仲介会社なら、安心して任せられます。

企業価値を丁寧に説明するか

企業価値を数字として提示するだけでなく、算定した流れなども細かく説明してくれることも、M&A仲介会社を選ぶ際の重要なポイントです。なぜその数字になったのかわからないと、企業価値の妥当性を判断できません。

企業価値として算出された価額の懸念点についても、率直に伝えてくれるM&A仲介会社がおすすめです。「将来性については反映されていない」「ディスカウントを少なめに設定している」などの算定に至った過程についての情報を教えてくれると、割高なのか、自社の状況を反映しているのかなどを判断しやすくなります。

また、M&A仲介会社の担当者にも注目してみましょう。M&A仲介会社と契約を結び、M&Aを進めていくときには、担当者と何度も打ち合わせをすることになります。納得できるまで説明してくれる根気の良さ、依頼主の理解を補ってくれる説明力の高さ、進捗状況などを適切に教えてくれるコミュニケーションスキルの高さなどがある担当者でないと、満足できるM&Aを実現できません。

M&Aは時間のかかる作業です。場合によっては何年もかかることもあります。長い時間が無駄にならないように、より良い提案をしてくれるか、親身になって寄り添ってくれるかという点にも注目して選ぶことが必要です。

関連記事:企業価値とは?計算方法や高めるための4つの方法をわかりやすく解説

M&Aに関する資料を
無料でダウンロードする

まとめ

M&Aにおいて、企業価値を評価するバリュエーションは重要な要素です。バリュエーションなしには、自社や対象企業の企業価値を把握することはできません。

しかし、バリュエーションの手法は多く、手法ごとにメリット・デメリットがあります。手法ごとの特徴を把握することで、より良いバリュエーションを実現できます。また、算出される数字には、正解がない点にも注意が必要です。企業価値を算出する過程に注目しつつも、資産や事業計画などの特定の要素にも注目し、より多面的に企業を評価するようにしましょう。

正確なバリュエーションには高度なスキルと知識、経験が必要です。事業や企業の売却を検討している場合や、合併・買収を検討している場合は、ぜひM&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談してみましょう。

M&AならレバレジーズM&Aアドバイザリーにご相談を

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社には、各領域の専門性に長けたコンサルタントが在籍しています。さまざまな手法のバリュエーションにも対応しており、株式譲渡成立まで一貫したサポートを提供することが可能です。

ぜひレバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社のご利用をご検討ください。