M&Aで想定されるリスクとは?買い手と売り手それぞれの視点から解説
2024年5月21日
このページのまとめ
- M&Aには「財務」「人材」「法務」「経営」のリスクがある
- M&Aの買い手のリスクは「簿外債務の引継ぎ」や「経営統合の失敗」
- M&Aの売り手のリスクは「安価での買収」や「人材の流出」
- クロスボーダーM&Aや個人のM&Aにもリスクがある
- M&Aのリスクを避けるためには専門家への相談が必要
「M&Aで発生するリスクを知りたい」「リスクマネジメントを実施したい」などと考えている経営者も多いことでしょう。M&Aで発生するリスクに備えなければ、想定外の損失が発生し、最悪の場合にはM&Aの破談にもつながります。
本コラムでは、M&Aで想定されるリスクを買い手と売り手それぞれの視点で解説します。また、リスクマネジメントの方法や買収防衛策の成功事例についても解説するため、M&Aを行う際の参考にしてください。
目次
M&Aで発生する4つのリスク
M&Aでは、異なる企業や事業が1つの企業になるため、さまざまなトラブルが発生します。発生が想定されるリスクは、大きく分けて次の4つです。
- 財務リスク
- 人材リスク
- 法務リスク
- 経営リスク
それぞれのリスクに関して、詳しく解説します。
1.財務リスク
財務リスクとは、譲渡された資産や負債などに発生するリスクのことです。たとえば、次のような資産などが財務リスクに挙げられます。
- 簿外債務
- 偶発債務
- 資産の実在性
まず、簿外債務とは、賃借対照表に計上されていない債務のことです。中小企業の場合、税務会計で決算書が作られていることから、「退職給付引当金」「賞与引当金」などが簿外債務になっています。
次に、偶発債務とは、発見時点では債務にはなっていないものの、一定の条件を満たすことで債務になってしまう債務のことです。トラブルから発生する損害賠償請求や、第三者への債務保証などが該当します。
最後に、資産の実在性とは、賃借対照表に記載されているにも関わらず、存在していない資産のことです。現金に変えることが難しい資産も該当します。
買い手がM&Aで簿外債務などを引き継いだ場合、売り手に代わって買い手が債務の支払いを行わなければなりません。金額が大きい場合、企業の財務に影響が出てしまうこともあるでしょう。
また、売り手の場合でも、成約後に簿外債務などが見つかることで、損害賠償を請求される可能性があります。
2.人材リスク
人材リスクとは、従業員や役員に関連するリスクのことです。たとえば、次のような内容が人材リスクに挙げられます。
- 従業員の離職
- 生産性低下
- 人件費の増加
- 人事評価
- 労働条件
人材面で重要なポイントは、従業員の離職を防ぐことです。M&Aで環境が変わることで、不安を覚えて離職してしまう従業員もいます。また、キーパーソンや役員が離職してしまうことで、業務に問題が発生し、業績が悪くなってしまうこともあるでしょう。
そのほかにも、人事評価や労働条件に関する統合作業も重要です。統合がうまくいかず、業務に支障がでるケースもあります。
3.法務リスク
法務リスクとは、法律に関するリスクのことです。たとえば、次のような内容が法務リスクに該当します。
- 株式
- 取引先との契約
- 資産契約
- 許認可
- 組織再編時の手続き漏れ
たとえば、株式に関して法的な問題がある場合、企業価値が下がる場合もあります。売り手からすると、安い価格で売却せざるを得なくなるでしょう。
また、買い手の場合には、許認可の引継ぎが重要です。許認可の獲得を目的にM&Aを行ったにも関わらず、承継したい許認可やM&A手法が理由で引き継げない場合もあります。M&Aの目的を達成できないことで、M&Aが破談になるかもしれません。
法的なリスクがある場合、買い手が買収を断念する場合があります。ただし、改善可能な場合もあるため、事前に調査を行い、対応できるか調べておくことが必要です。
4.経営リスク
経営リスクとは、雇用関係の問題や事業経営など、経営全体に関するリスクです。たとえば、次のようなリスクが挙げられます。
- 雇用関係のリスク
- 将来性に関するリスク
- 収益性に関するリスク
- 経営統合のリスク
たとえば、従業員の労働時間を管理できていなかったとします。この場合、未払いの残業代が発生しているリスクがあるでしょう。また、雇用の管理ができておらず、社会保険の手続きができていない場合もあります。雇用関係のリスクを放置していれば、労務トラブルにつながることもあるでしょう。
労務トラブルが発生してしまうと、是正勧告を受けるだけではなく、企業のイメージダウンにもつながります。経営者は責任問題を追及される可能性があることからも、経営リスクへの対応が重要です。
M&Aの買い手が注意すべき8つのリスク
M&Aでは、買い手と売り手それぞれに注意すべきリスクがあります。ここでは、買い手が注意すべき8つのリスクを解説します。
- 高値で買ってしまう
- 雇用契約などの問題が発生する
- 売り手が特別な契約を結んでいる
- 優秀な人材が退職してしまう
- 簿外債務を引き継ぐ
- のれんの価値を見誤る
- 資金調達に失敗する
- 経営統合がうまくいかない
M&Aを進める前に、発生しうるリスクに関して知っておきましょう。
1.高値で買ってしまう
多くの買い手で発生するリスクが、相場よりも高い金額で買ってしまうリスクです。買収価格を決定し、のちに問題が発覚したことで、債務を負うケースもあります。
M&Aを行う場合、買い手は希望金額に該当する売り手を探して交渉します。その際、企業調査を行い、価格が妥当か判断するケースが一般的です。
しかし、調査の段階で簿外債務や債務保証を見落とし、価格を決めてしまうことがあります。すると、発見できなかった簿外債務などを引き継いでしまい、M&A後に損失を出すことになるでしょう。
2.雇用契約などの問題が発生する
売り手企業の体制の問題で、雇用契約や対応にトラブルが生じている場合があります。たとえば、残業代の未払いや、有給休暇の消化状況です。問題を放置していると、従業員から請求が行われ、買い手企業が責任を負わなければならなくなる可能性もあります。
中小企業の場合、従業員と雇用契約を結んでいない場合もあります。買収とは別に、請求が増えるリスクを知っておきましょう。
3.売り手が特別な契約を結んでいる
売り手が特別な契約を結んでいないか注意しましょう。特に、当事者同士で進める場合には、確認が必要です。
契約に関しては財務諸表では分からず、突然発覚する場合もあります。契約の履行は買い手が行わなければならないため、契約の内容次第では損失が出てしまうかもしれません。
4.優秀な人材が退職してしまう
売り手側の優秀な人材が退職しないように注意しましょう。契約が成立しても、従業員がいなければ事業の継続が難しくなるからです。
たとえば、雇用条件が変わってしまうことを理由に、退職を選ぶケースもあります。また、M&Aは成立しても、企業文化の違いに適応できず、退職してしまう従業員も出てくるでしょう。
M&Aの場合、同業であっても環境は大きく変わります。従業員が退職しないように、対策を進めましょう。
5.簿外債務を引き継ぐ
簿外債務を発見できずに、そのまま引き継いでしまう場合もあります。債務が多額の場合、経営にも大きく影響するため注意しましょう。
また、交渉時点では債務にはなっていない、偶発債務を抱えている場合もあります。簿外債務も偶発債務も見えない債務であり、金額も分からないことから問題です。知らずに引き継いでしまうと、買い手が支払いを行わなければならないため注意しましょう。
6.のれんの価値を見誤る
のれんとは、ブランドやノウハウのような、企業が持つ無形固定資産のことです。のれんの価値を見誤ってしまうと、投資した資金を回収できなくなる恐れがあるため注意しましょう。
のれんを見誤る場合に多いものが、シナジー効果を過大に判断してしまうことです。想定しているシナジーが実現するかどうかは、慎重に判断するようにしましょう。
関連記事:M&Aや会計に出てくる「のれん」とは?概要や計算方法を解説
7.資金調達に失敗する
資金調達に失敗してしまい、M&Aが実行できなくなるケースもあります。最終契約まで到達しても、資金がなければ前提条件を満たせず、クロージングが行えなくなるからです。
M&Aを行う場合、手元にある資金だけでは買収できないこともあります。その場合、資金調達を行い、買収資金を集めなければなりません。
資金調達方法には、「第三者割当増資」「銀行からの借り入れ」などがあります。失敗してしまうと、M&Aが実施できなくなるため注意しましょう。
8.経営統合がうまくいかない
M&Aは成立したものの、経営統合に失敗する場合もあります。M&Aの経営統合はPMIとも呼ばれ、「企業文化を合わせる」「取引先を共有する」「方針を合わせる」などを行うことです。
経営統合では、次のように失敗するリスクがあります。
- 経営者同士で経営方針にずれが生じ、シナジー計画が失敗した
- 組織文化に違いがあり、従業員のモチベーションが下がった
- M&Aを理由に、取引先が取引をやめてしまった
- 社名やブランドが変わることで、売上が下がった
- システムを統一してコスト削減をしようと目論んだが、統一できなかった
経営統合が失敗してしまうと、M&A自体の失敗につながります。交渉成立後もM&A失敗のリスクがあることを意識して、動かなければなりません。
M&Aの売り手が注意する7つのリスク
M&Aの売り手になる場合は、次の7つのリスクに注意しましょう。
- 安価で買収される
- 情報漏洩が発生する
- 買い手が見つからない
- 敵対的買収を受ける
- 人材が流出する
- 買収前に発生した損害の責任を負う
- 雇用契約の問題が発覚する
それぞれのリスクに関して解説します。
1.安価で買収される
相場を確認しておかないと、安価で買収されてしまう恐れがあります。相場を確認して取引を行いましょう。
M&Aを行う際にも、相場があります。上場企業であれば、純資産や純利益などの指標を株式市場で確認できるでしょう。しかし、未上場企業の場合は、確認できる指標があるとは限りません。
損をしないためには、相場を把握し、適切な価格で買収を進めることが大切です。
2.情報漏洩が発生する
M&Aを行う情報が漏れてしまい、トラブルになる恐れもあります。たとえば、従業員がM&Aの実施を知った場合、不安に感じて離職してしまうこともあるでしょう。
また、取引先に情報漏洩が起きることで、取引内容の変更や取引停止を通達される可能性もあります。さらに、売り手が上場企業の場合には、インサイダー規制に抵触しないように動かなければなりません。
3.買い手が見つからない
M&Aを行いたくても、そもそも買い手が見つからない場合があります。準備を進めていても、実施できない場合に注意しましょう。
4.敵対的買収を受ける
敵対的買収とは、買収される企業の同意を得ていない状態で、無理矢理実施されるM&Aのことです。
敵対的買収が成立した場合、経営陣は交代され、企業風土も変わってしまうでしょう。上場企業は自由に株式を売買できることから、敵対的買収のリスクを考慮しなければなりません。
5.人材が流出する
買い手と同様に、売り手にも人材流出のリスクがあります。「雇用形態に納得できない」「買い手の企業風土や従業員と合わない」などのケースが考えられるからです。
従業員が離職してしまうと、M&A後の事業に影響が出ます。従業員が退職しないように、買い手と売り手が協力して対応しなければなりません。
6.買収前に発生した損害の責任を負う
買収前に損害が発生した場合、売り手が損害の責任を負います。たとえば、M&A前に扱っていた商品やサービスでトラブルを起こした場合、売り手の賠償責任が追及されるでしょう。
損害の内容次第では、売却価格よりも賠償価格が大きくなってしまう場合もあります。また、トラブルが起きると買い手との衝突も想定され、買収前の問題か、買収後の問題か、自体が複雑化してしまうこともリスクです。
7.雇用契約の問題が発覚する
買い手企業同様に、売り手企業にも雇用契約の問題があります。法律で必要な雇用契約を結んでいないにも関わらず、M&Aを実施してしまうケースです。
もし、雇用契約に問題があることを知っていて取引を進めた場合、経営者個人の責任を追及される恐れがあります。取引成立後に発覚した場合、問題からは逃れられないでしょう。
クロスボーダー(海外)M&Aで注意すべき2つのリスク
クロスボーダーM&Aの場合、次の2つのリスクを想定しましょう。
- 文化や言語の違いでトラブルが起こる
- 自然災害や政治の影響を受ける
それぞれのリスクに関して、解説します。
1.文化や言語の違いでトラブルが起こる
クロスボーダーM&Aの場合、海外企業とのM&Aになります。文化や言語の違いはリスクになるでしょう。具体的には、次のようなリスクが想定されます。
- 言葉のニュアンスの違いで誤解を与えてしまう
- 交渉のスタンスが違う
- 従業員の働き方や休み方が違う
国ごとに文化や考え方に違いがあり、特徴を確認しておかなければなりません。現地の協力者などと相談し、リスクに対応しましょう。
2.自然災害や政治の影響を受ける
国が変わると、自然災害や政治の影響を受けることもあります。たとえば、次のようなポイントを意識しましょう。
- 地震・洪水・台風など自然災害の発生頻度
- テロ・クーデターなどのリスク
- 政治の安定さ
- 医療の水準
たとえば、現地の工場を獲得しても、災害で生産が止まってしまう場合があります。また、政治の変化により、事業計画にも影響が出てくることもあり得るでしょう。国や地域ごとの特徴を調査し、M&Aを行うことが大切です。
個人でM&Aを行う場合のリスク
個人でM&Aを行う場合にも、リスクが発生します。たとえば、法務や税務、会計などのリスクです。知識がない状態で進めてしまうと、トラブルの原因になります。
個人でM&Aを行う場合、専門家やアドバイザーに依頼しましょう。少額のM&Aであっても、アドバイスは重要です。
専門家に依頼するコストを削減した結果、依頼コスト以上の損害が起こる場合もあります。リスクを避けるためにも、専門家には必ず相談しましょう。
M&Aの買い手が行うべき4つのリスクマネジメント
買い手の場合には、次の4つのリスクマネジメントを行いましょう。
- デューデリジェンスを行う
- 表明保証条項を規定する
- PMIの準備を早めに実施する
- M&A仲介会社などの専門家に相談する
それぞれのポイントに関して、解説します。
1.デューデリジェンスを行う
デューデリジェンスとは、M&Aに際して必ず行われるプロセスであり、売り手企業が抱える法務や税務など価値やリスクを調べるプロセスのことです。一般的に会計士や弁護士、税理士や中小企業診断士等、各分野の専門家に依頼して実施されます。
たとえば、法律に関する場合は弁護士、税務に関する場合は税理士に依頼します。専門家に依頼を行うことで、リスクを回避できるでしょう。
また、経営陣の中に風評に影響を与えるような人物がいないか、不透明な資本関係や組織構成などの問題がないかの調査も必要です。法務や財務のDDで把握した結果を元に風評DDを実施し、買収または投資対象企業の過去の訴訟歴やコンプライアンス上の問題などのリスクを洗い出します。
さらに、反贈収賄デューデリジェンスも買収の前後に実施されることがあります。反贈収賄デューデリジェンスは、買収先から提供される以下のような情報を元に行います。
- 主要役員および関連部署担当者へのヒアリング
- 契約・規定関連資料のレビュー
- 会計・支払いデータ、証憑などのレビュー
- 取引先に対する風評DD
デューデリジェンスについては以下の記事で詳しく解説しています。
関連記事:「デューデリジェンス(DD)とは?意味や実施の流れをわかりやすく解説」
2.表明保証条項を規定する
表明保証条項とは、売り手側が、「提示した情報が正しく真実だと表明し、買い手に対して保証するもの」です。補償に関する条項も規定されることが一般的で、表明保証に違反した場合、売り手は買い手の損失を補償しなければなりません。
表明保証条項は、デューデリジェンスを補完したり、リスクを分散したりする機能も持ち合わせています。具体的には、以下の事項が挙げられます。
- 財務諸表に間違いがなくすべてが記載されていること
- 年金や保険、法人税など不払いや滞納がないこと
- 訴訟や紛争がないこと
- デューデリジェンスの情報に間違いがなく、すべてが記載されていること
- 反社会的勢力等との関係がないこと
- 関連当事者取引の開示および取引条件に問題がないこと
- 必要資料の提出が適正に行われたこと
デューデリジェンスを行っても、すべてのリスクを発見できるとは限りません。表明保証条項を規定しておくことも、リスクマネジメントの一環です。
関連記事:「M&Aにおける表明保証とは?条項作成のポイントや保険加入の必要性を解説」
3.PMIの準備を早めに実施する
M&Aにおけるリスクマネジメントとして、PMI(Post Merger Integration)の役割が非常に重要です。PMIとは、M&A成立後に譲渡企業と譲受企業の経営方針や業務フロー、従業員の意識などを統合するプロセスを指します。
具体的には、デューデリジェンスで把握した人材リスクへの対策が挙げられます。以下のような方法が効果的です。
- 売り手と綿密なコミュニケーションを取る
- M&Aの発表手法を工夫する
- 給与体系の統一に時間をかける
- 買い手が人事権をしばらくは持たない
また、PMIを通じて組織体制を構築する仕組み作りを行うことで、優秀な人材の流出を防ぐことができます。
社内研修や社内広報、ワークショップなどの実施も効果的であり、譲渡企業の従業員の待遇への配慮が必要です。
関連記事:「PMIとは?意味やM&A後の統合プロセスをわかりやすく解説」
4.M&A仲介会社などの専門家に相談する
M&Aを成功させるためには、M&A仲介会社などの専門家に相談することが欠かせません。M&Aは専門的な知識が必要であり、経営者や担当者だけでは対処が困難です。
たとえば、買い手が起用する専門家として挙げられるのは、税務や財務に対応する公認会計士や税理士、デューデリジェンスの段階で必要となる弁護士、人材に関する相談ができる社労士(社会保険労務士)などです。また、具体的な資金調達方法の相談先には金融機関が挙げられます。
M&Aをスムーズに進めるためにも、専門家への相談は必ず行いましょう。
関連記事:「M&Aの専門家とは?それぞれの役割と選び方のポイントを確認しよう」
M&Aの売り手が行うべき6つのリスクマネジメント
売り手の場合には、次のようなリスクマネジメントが必要です。
- 信頼関係を築く
- 財務状況を明らかにする
- 法令を遵守する
- 取引先との契約を確認しておく
- ファイナンシャルアドバイザーなどの専門家に相談する
- 買収防衛策を活用する
それぞれのポイントに関して解説します。
1.信頼関係を築く
買い手の経営者や、自社の従業員との信頼関係を築くことで、M&Aのリスクを軽減できます。人材の離職に関しては、信頼関係が足りずに起きるケースが多いからです。
M&Aのプロセスでは、売り手と買い手はそれぞれ自分の希望条件を実現させるべく、場合によっては厳しいやりとりをせざるをえません。ただし、双方が過度に対立してしまうと、契約締結にいたったものの信頼関係が崩壊し、不信感や感情的な部分でトラブルやクレームに発展するケースがあります。
M&A進行中に信頼関係を築いておくことで、トラブルの回避につながります。買い手の経営者はもちろん、自社の従業員との信頼関係構築も重要です。
2.財務状況を明らかにする
財務状況は精査し、明らかにしておきましょう。売却を行う前に、専門家に相談してください。
売り手はデューデリジェンス中の早い段階で相談し、一緒に対応方法を協議すべきでしょう。たとえば以下の内容が該当します。
- 過去の粉飾
- 従業員とのトラブル
- 係争中の事件
- 簿外債務
早い段階で開示することで相手からの信頼が増し、その後のM&A手続きがスムーズに運ぶことが予測できます。
3.法令を遵守する
法令を遵守しているか、必ず確認しましょう。法律違反を起こしている場合、売却価格が下がったり、M&Aが破談になったりするからです。
M&Aで関わる法令には、次のような種類があります。
- 会社法
- 特定商取引法
- 労働基準法
- 著作権法
- 景品表示法
- 薬事法
- 製造物責任法
- 個人情報保護法
また、許認可の取得や、会計基準の遵守も必要です。必要になる法令を確認し、対応しましょう。
4.取引先との契約を確認しておく
取引先との契約に関して、入念に確認しておきましょう。自社に不利になる契約が残っていないか、確かめる必要があります。買い手が契約内容に関して不満を持つ場合、買収をためらい、破談になる可能性もあるからです。
また、契約書がない取引にも注意しましょう。中小企業の場合、契約書がないまま取引を続けているケースもあります。契約書がないとトラブル時の対応が判断できなくなるため、契約書を締結するようにしましょう。
さらに、チェンジオブコントロール条項にも注意しましょう。チェンジオブコントロール条項とは、経営者が変わる場合、契約解除が実行できる条項のことです。M&Aでは、取引先がなくなることでクロージングの条件を満たさず、交渉が継続できなくなる場合があります。取引先との契約に関しては、必ず状況を確認しておきましょう。
関連記事:「チェンジオブコントロール(COC)条項とは?目的やメリットなどを紹介」
5.ファイナンシャルアドバイザーなどの専門家に相談する
ファイナンシャルアドバイザーや税理士など、専門家に相談するようにしましょう。ファイナンシャルアドバイザーに相談すれば、企業価値の相談にのってもらえ、売却価格が安くなってしまう事態を防げるからです。また、交渉の代理を依頼し、対応を行ってもらうこともできます。
税理士がいれば、M&Aで発生する税金への対策ができます。発生する額が大きいことからも、節税を行うことが欠かせません。
M&A仲介会社への依頼はできれば1社、多くても2~3社程度にとどめておくほうがよいでしょう。複数の仲介会社に依頼すると情報管理が行き届かなくなり、ノンネーム(匿名)で自社情報を開示しているつもりが、いつのまにか社名が開示されてしまうこともあります。仲介会社とのコミュニケーションは最小限にとどめ、しっかりと情報管理するためにも、M&A仲介会社への依頼は限定的にすることが望ましいでしょう。
6.買収防衛策を活用する
敵対的買収を受けないように、買収防衛策を活用しましょう。買収防衛策の例には、次のような種類があります。
- ポイズンピル:株主に特別な権利を付与し、敵対的買収を困難にする
- 黄金株:一部の株に特別な権利を付与し、企業のコントロールを保持する
- ホワイトナイト:友好的な企業が敵対的買収者を阻止するために介入する
- パックマン・ディフェンス:自社が敵対的買収者を買収することで防衛する
- クラウン・ジュエル:最も価値のある資産を売却し、自社を買収目標から外す
ポテンシャルが高く、株価が安い企業は、企業から狙われやすくなります。経営者を変えられてしまうリスクもあるため、対応を怠らないようにしましょう。
関連記事:「買収防衛策とは?事前・事後の対策案13選や導入時の準備・注意点を解説」
M&Aのリスク軽減に活用できる買収防衛策
M&Aのリスク軽減を行うために、上で挙げた例も含めて次のような買収防衛策を活用できます。
- ポイズンピル
- 黄金株
- ホワイトナイト
- パックマン・ディフェンス
- クラウン・ジュエル
- 株式相互保有
- ゴールデンシェア
- スコーチド・アース
- 新株予約権の無償割り当て
それぞれの詳細に関して、解説します。
1.ポイズンピル
ポイズンピルとは、株主に対して新株を市場価格よりも安く入手できる新株予約権を付与しておく買収防衛策です。敵対的買収を受けた場合に、株式の大量発行を行うことで、買収企業の持株比率を下げることができます。持株比率が下がると、経営権の獲得ができないため、買収を失敗させることが可能です。
ただし、既存株主に影響が出てしまう点には注意しましょう。株式が増えることで、既存株主から反対される可能性もあります。導入には、事前の協議が必要です。
2.黄金株
黄金株とは、合併などのような、重要な議案を否決できる権利を持つ株式のことです。敵対的買収を受け、経営権が変わるほどの株式を取得されてしまっても、黄金株で経営権の譲渡を否決できます。
注意点は、黄金株が敵対的な企業に渡ってしまう場合です。権限を悪用されるリスクには注意しなければなりません。
3.ホワイトナイト
ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた場合に、友好的な企業に依頼して買収を行ってもらうことです。敵対的な企業よりも、友好的な企業の支配下に入ることを選びます。
デメリットは、友好的な企業が見つかるとは限らない点です。また、友好的な企業が見つかっても、新株予約権のように有利な条件を提示しなければなりません。さらに、友好的な企業の資金力が足りず、防衛に失敗してしまうこともあります。
4.パックマン・ディフェンス
パックマン・ディフェンスとは、買収を仕掛けてきた企業に対し、逆に買収をし返す手法です。買収を仕掛けてきた企業の、4分の1以上の株式取得が目標になります。
ただし、買収をし返すためには、自社の資金が必要です。相手の株価が高い場合にも、実行が難しいデメリットもあります。
5.クラウン・ジュエル
クラウン・ジュエルとは、自社の事業や資産を譲渡、または分社化を行うことで、自社の企業価値を下げる手法です。企業価値が下がることで、敵対的な企業の買収モチベーションを下げる目的があります。
ただし、自社の企業価値を下げるため、株主の利益に反した場合には訴訟を受ける可能性があります。また、企業価値を回復させることが難しい点もデメリットでしょう。
6.株式相互保有
株式相互保有とは、企業同士が互いの株式を保有することで、敵対的買収を防ぐ手法です。しかし、企業の経営効率が低下する可能性があるため、注意が必要です。
企業が他社の株式を保有すると、その企業の経営に対する影響力を持ちます。企業間の競争が減少し、市場の効率性が低下する可能性があります。
7.ゴールデンシェア
ゴールデンシェアとは、特定の株主(通常は政府)が持つ、企業の重要な決定を拒否できる特別な株式のことを指します。これにより企業の買収を防ぐことができます。
8.スコーチド・アース
スコーチド・アースとは、敵対的買収者に自社を買収する意欲を失わせるために、自社の資産や情報を故意に損なう戦略です。しかし、この戦略は自社の価値を大幅に低下させるため、慎重に検討する必要があります。
9.新株予約権の無償割り当て
新株予約権の無償割り当てとは、株主に新株予約権を無償で割り当て、敵対的買収者の株式取得を防ぐ手法です。ただし、株主の利益を損なう可能性があるため、注意が必要です。
買収防衛策の成功事例
最後に、実際に買収防衛策を活用した事例を3つ紹介します。
買収防衛策 | 事例 |
ポイズンピル | スティールパートナーズによるブルドックソース株式会社の買収 |
ホワイトナイト | 株式会社ライブドアによる株式会社ニッポン放送の買収 |
クラウン・ジュエル | 株式会社シティインデックスイレブンスによる日本アジアグループ株式会社の買収 |
ポイズンピルの事例
ブルドックソース株式会社が、米系投資ファンド会社スティールパートナーズのTOBの防衛に成功した事例です。
2007年、スティールパートナーズがブルドックソースの株式公開買い付け(TOB)を実施しました。
これに対してブルドックソースは新株予約権を発行し、既存の株主に無償割り当てを行いました。その結果、スティールパートナーズの持ち株比率が下がり買収は失敗に終わりました。
参照元:ブルドックソース株式会社「当社定時株主総会特別決議に基づく新株予約権無償割当てに関するお知らせ 」
ホワイトナイト
株式会社ニッポン放送が、株式会社ライブドアの敵対的買収の防衛に成功した事例です。
ライブドアは、株式会社フジテレビジョンの親会社であるニッポン放送の買収を通じて、フジテレビの経営権取得を画策していました。2005年、ライブドアがニッポン放送の株を35%以上取得し、フジテレビの筆頭株主であるニッポン放送の経営権を事実上、手に入れました。
それに対して、ソフトバンク・インベストメント株式会社(当時)は、ニッポン放送が保有するフジテレビの株式を借り受けました。結果的にライブドアによるニッポン放送の買収は失敗に終わりました。
ソフトバンク・インベストメントにホワイトナイトになってもらうことで、買収を防衛することができた事例です。
参照元:日経クロステック「ライブドアへの対抗策?ソフトバンク系企業がフジテレビの筆頭株主に」
クラウン・ジュエルの事例
日本アジアグループ株式会社が、旧村上ファンド系投資会社、株式会社シティインデックスイレブンスによる最初のTOBの防衛に成功した事例です。
2020年にシティインデックスイレブンスが日本アジアグループへ株式公開買い付け(TOB)を実施しました。それに対して日本アジアグループは、買収防衛策として特別配当(1株あたり300円)を実施し、シティインデックスイレブンスはTOB撤回に追い込まれました。
このように、TOBを阻止するために特別配当の形で企業の純資産を減少させ、自社の企業価値を下げた日本アジアグループの買収防衛策は、クラウン・ジュエルといえます。
参照元:日本アジアグループ株式会社「(変更)「株式会社シティインデックスイレブンスによる当社株式に対する公開買付け に関する意見表明(反対)のお知らせ」の一部変更について 」
まとめ
M&Aを行う際には、さまざまなリスクを考慮しなければなりません。次の4つのリスクは想定し、対策も講じましょう。
- 財務リスク
- 人材リスク
- 法務リスク
- 経営リスク
また、M&Aのリスクは買い手と売り手それぞれで変わります。自社の状況やM&Aスキームなどでも変わるため、M&Aに詳しい専門家に相談しましょう。自社だけで進めようとすると、リスクを見落としたり、思わぬトラブルに遭遇してしまうかもしれないからです。
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