このページのまとめ
- コストアプローチとは、純資産額から企業価値を算出する方法
- コストアプローチには「簿価純資産法」「時価純資産法」「年買法」などの種類がある
- コストアプローチのメリットは客観性が高く、計算しやすいことなど
- コストアプローチのデメリットは将来性や価格変動を反映できないこと
- M&A仲介会社などの専門家に相談すると、より客観的に企業価値を算出できる
「企業価値を算出する方法を知りたい」と考えている方も多いのではないでしょうか。M&Aを実施するときには、売り手なら自社、買い手なら相手会社の企業価値を正確に知る必要があります。
本記事では、企業価値算出方法の一つであるコストアプローチについてわかりやすく解説します。コストアプローチのメリットやデメリット、他の算出方法との違い、具体的な計算例も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
コストアプローチとは
コストアプローチとは、企業の純資産額を基準に、企業価値の算定を行う方法です。ネットアセットアプローチと呼ばれる場合もあります。
コストアプローチでは、企業の賃借対照表(バランスシート)を使用し、資産額から負債額を差し引くことで、算出を行います。
賃借対照表のように明確なデータを使用するため、納得感の得やすい手法です。明確な価値を出しにくい中小企業のM&Aでも使用されるケースが多くなっています。
また、資産額から負債額を差し引く方法は、清算に近い考え方です。そのため、会社を清算する場面でも使用される手法になります。
関連記事:企業価値とは?計算方法や企業価値を高める6つの方法を解説
コストアプローチ以外の企業価値算出法
コストアプローチ以外の企業価値算出方法には、
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
の2つがあります。各算出方法とコストアプローチの違いは、以下をご覧ください。
企業価値算出方法 | 特徴 | 適したケース |
コストアプローチ | ・純資産額をベースに算出 ・計算式がシンプル | ・中小企業の企業価値算出時 ・会社清算時 |
マーケットアプローチ | ・市場価値を反映して企業価値を算出する ・公開されている指標を使うため客観性が高い | ・上場企業の企業価値算出時 ・類似する企業を反映して算出したいとき |
インカムアプローチ | ・損益計算書やキャッシュフロー計算書を使って計算 ・将来性を加味できるが、客観性が低くなる | ・成長期や創業期の企業価値算出時 ・将来性を加味して算出したいとき |
それぞれの特徴について詳しく解説します。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株式市場やM&A市場の取引を参考に、企業価値を算出する方法です。マーケットアプローチには、次のような手法があります。
- 類似会社比較法
- PBR法
- PER法
- EBITDA法
- 市場株価法
マーケットアプローチのメリットは、市場の需要や動向のように、市場の環境を考慮しやすい点です。また、株価のように公開されている指標を使うため、客観性が高いメリットがあります。
ただし、市場の流れに評価が左右されやすい点に注意しましょう。また、会社の増資や特別損失などの影響を受けやすいデメリットもあります。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来得られる収益や利益をもとに、企業価値の算出を行う方法です。損益計算書やキャッシュフロー計算書を用いて計算します。
インカムアプローチには、次のような手法があります。
- DCF法
- 収益還元法
- 配当還元法
インカムアプローチのメリットは、将来性のように、不確かな要素も計算に含められる点です。ベンチャー企業やスタートアップ企業のように、M&A時点では利益があまり出ていない企業でも、評価が可能になります。
しかし、客観性に欠けてしまう点には注意しましょう。企業の事業計画書をもとに算定を行うことから、事業計画が第三者からも納得できるものでなければなりません。
さらに、企業が継続しなければ、企業価値を算出できないデメリットもあります。将来性を考慮して企業価値を算出するためです。廃業や倒産間際の企業の場合、純資産を用いるコストアプローチの方が適切でしょう。
企業価値の算出方法には、それぞれの特徴やメリットデメリットがあります。企業の状況を確認し、適切な算出方法を選択するようにしましょう。
コストアプローチの手法
コストアプローチの手法には、次のような種類があります。
- 簿価純資産法
- 時価純資産法
- 年買法
- 超過収益還元法
- 清算価値法
- 再調達原価法
それぞれの特徴と適したケースについては、以下をご覧ください。
コストアプローチの種類 | 特徴 | 適したケース |
簿価純資産法 | ・貸借対照表だけで計算できる ・将来性は反映できない | ・現時点での正確な企業価値を算出したいとき ・客観性のある数字のみを使って計算したいとき |
時価純資産法 | ・資産や負債を時価換算して算出する ・将来性は反映できない | ・時価を反映した企業価値を算出したいとき ・資産が増減する前の企業価値を知りたいとき |
年買法 | ・のれんを年間利益から算出し、企業価値に反映する ・任意の数値が多く、企業価値が変動しやすい | ・ノウハウやブランドなどの目に見えない資産を反映したいとき ・直近数年の実績利益を反映した企業価値を算出したいとき |
超過収益還元法 | ・のれんを期待収益を超える収益から算出し、企業価値に反映する ・任意の数値が多く、企業価値が変動しやすい | ・ノウハウやブランドなどの目に見えない資産を反映したいとき ・今後も収益が増加することが予想されるとき |
清算価値法 | ・全資産の売却額から弁済が必要な負債額を差し引いて算出する ・算出した価額が実際の企業価値よりも低くなる傾向にある | ・会社を清算するとき ・清算価値が株式価値を上回ると予想されるとき |
再調達原価法 | ・資産・負債を個別に評価して再調達コストを算出する ・売却を前提に再調達コストを計算するが、売却価額を決めるわけではない | ・自社を売却するとき ・資産・負債を個別に企業価値に反映したいとき |
それぞれの手法について、詳しく見ていきましょう。
1.簿価純資産法
簿価純資産法とは、簿価を基準に企業価値を算出する方法です。賃借対照表の資産額から負債額を差し引き、純資産を算出します。
簿価純資産法のメリットは、算出しやすく、客観性も高い点です。しかし、将来得られる可能性のある含み益は考慮されません。そのため、算出結果と実情に違いが出てしまう可能性があります。
2.時価純資産法
時価純資産法とは、資産や負債を時価に換算し、算出する方法です。簿価純資産法よりも、実情に即した算出を行えるメリットがあります。
ただし、対象となるのは、企業価値算出時点で所持している資産です。そのため、企業の将来的な収益に関しては反映できません。
M&Aの実務では、すべての資産ではなく、含み損が発生している項目だけ調整する、「修正純資産法」がよく使われています。
3.年買法
年買法とは、営業権の評価を行い、将来的な有益性を算出する方法です。年倍法と表記することもあります。営業権とは「ノウハウ」「ブランド」「立地条件」などのように、目には見えない資産のことです。のれんと呼ばれることもあります。
年買法では、企業の純資産に、年間利益の1倍から5倍を掛けたものを足し算して算出します。その際、利益額は直近複数年の実績利益の平均値を算出するのが一般的です。
利益に関しては、「営業利益」「経常利益」「EBITDA」など、企業によって採用するものが変わります。任意の数値が多いため、設定次第で企業価値が変わってしまう点には注意しましょう。
4.超過収益還元法
超過収益還元法とは、年買法(年倍法)と同じく、時価純資産にのれんを加えて企業価値を算出する方法です。ただし、年買法では年間利益からのれんを求めますが、超過収益還元法では企業が生み出す収益から正常収益を超えた分(超過収益)を計算し、超過収益が継続して生まれると思われる年数をかけてのれんを求めます。
正常収益をいくらとするか、また、どのように超過収益が発生する年数を求めるかなど不確実な要素が多く、計算者によって数値が大きく変わることがあります。しかし、将来を予想して計算するため、成長性を踏まえた数値として算出できる点はメリットです。
5.清算価値法
清算価値法とは、企業の全資産の売却額から、弁済が必要な債務額を差し引く手法です。会社の消滅を前提としており、清算価値が実際の株式価値を上回るときに使用されます。
注意点は、会社清算を行う場合、コストが別途掛かる点です。また、不動産を時価で売却できない可能性や、機械や設備を換価しにくいことから、算出した額よりも実際の価値が低くなる場合もあります。
6.再調達原価法
再調達原価法とは、会社に帰属している個別の資産や負債に関して、評価した時点の再調達コストを基準にする方法です。すなわち、同じ資産を再度入手するために掛かるコストが基準になります。
再調達原価法は、M&Aで自社を売却する場合に、判断基準として使われる手法です。しかし、実際に売却価額を決める指標としては、用いられません。
コストアプローチの3つのメリット
企業価値算出にコストアプローチを使用するメリットは、次の3つです。
- 企業価値を算出しやすい
- 客観的に価値が算出できる
- 中小企業でも使いやすい
それぞれのメリットに関して解説します。
1.企業価値を算出しやすい
コストアプローチは、企業価値を算出しやすい手法です。賃借対照表の数値が利用でき、複雑な計算も必要ありません。
すばやく企業価値を算出し、売却を進めたいときに活用できます。
2.客観的に価値が算出できる
賃借対照表の数値を使うことで、客観的に価値を算出できる点もメリットです。主観的な要素を排除して評価できます。公平性があり、他社との比較を行いやすい点もメリットでしょう。
3.中小企業でも使いやすい
コストアプローチは、中小企業でも使いやすい手法です。賃借対照表は決算書の柱であり、中小企業の経営者にも馴染みがあります。複雑な指標を使わずに、計算できる点もメリットでしょう。
コストアプローチの2つのデメリット
コストアプローチを使用する場合、次の2つのデメリットに注意しましょう。
- 将来性や価格変動が反映できない
- 含み益が参考にならない
それぞれのデメリットに関して、解説します。
1.将来性や価格変動が反映できない
コストアプローチでは、将来性や価格変動が反映できないデメリットがあります。賃借対照表の数値にもとづいて評価を行うためです。たとえば、帳簿上に記載されていない、収益力や価格変動は反映できません。
M&Aでは、将来性を加味して取引を行う場合があります。将来性が反映されないことで、取引にマイナスの影響が出る場合もあるため注意しましょう。
2.含み益が参考にならない
企業価値を算出するにあたり、含み益は参考にならない点もデメリットです。含み益のある資産が換金しにくかったり、事業用資産だったりする場合は、算出通りの含み益にならないからです。
時間が経つにつれて、含み益は少なくなっていきます。想定していた価格から離れてしまう場合もあるため、あくまで目安で考えておきましょう。
コストアプローチの計算方法
コストアプローチを使い、実際に企業価値を算出してみましょう。計算に用いる企業情報は、以下のとおりです。
帳簿 | 価格 | 詳細 |
資産の合計 | 320万円 | 現金:200万円 土地:100万円 有価証券:20万円 |
負債の合計 | 200万円 | 買掛金150万円 退職給付引当金:30万円 賞与引当金:20万円 |
平均年間利益 | 30万円 | |
年間収益 | 30万円 | |
正常収益 | 20万円 |
簿価純資産法の場合
企業価値=資産合計額-負債合計額 |
簿価純資産法では、貸借対照表に記載された情報をそのまま用います。資産合計額と負債合計額を求め、差し引いて企業価値を算出します。
資産合計額 | 現金200万円+土地100万円+有価証券20万円=320万円 |
負債合計額 | 買掛金150万円+退職給付引当金30万円+賞与引当金20万円=200万円 |
資産が320万円、負債が200万円のため、「320万円-200万円=120万円」で120万円が企業価値です。すべての数字は貸借対照表に記載されているため、簡単に求められる点が簿価純資産法の特徴です。
時価純資産法の場合
企業価値=時価換算した資産合計額-時価換算した負債合計額 |
時価純資産法では、計算する前に資産と負債をすべて時価評価しておかなくてはいけません。時価評価後の資産合計額と負債合計額を求め、差し引いて企業価値を算出します。
たとえば、時価評価した結果、土地が150万円に、退職給付引当金が50万円になったとしましょう。
時価資産額 | 現金200万円+土地150万円+有価証券20万円=370万円 |
時価負債額 | 買掛金150万円+退職給付引当金50万円+賞与引当金20万円=220万円 |
この場合、資産が370万円、負債が220万円のため、「370万円ー220万円=150万円」で150万円が企業価値になります。簿価純資産法よりも、実情に近い評価ができるようになりました。
時価評価する場合、含み損が発生する場合もあります。含み損が発生した場合、企業価値が下がってしまうケースが多くなります。
年買法の場合
企業価値=時価純資産+のれん(平均年間利益×1~5) |
年買法では、時価純資産にのれんを加えて企業価値を算出します。のれんは近年の平均年間利益を1〜5倍して計算しますが、今回の例では3倍を選択したとしましょう。
時価資産額 | 現金200万円+土地150万円+有価証券20万円=370万円 |
時価負債額 | 買掛金150万円+退職給付引当金50万円+賞与引当金20万円=220万円 |
時価純資産 | 資産合計額370万円-負債合計額220万円=150万円 |
のれん | 平均年間利益×3=30万円×3=90万円 |
算出した時価純資産150万円に、のれん90万円を加えると、「150万円+90万円=240万円」で企業価値は240万円です。
超過収益還元法の場合
企業価値=時価純資産+のれん(超過収益×超過収益を期待できる年数) |
超過収益還元法でも時価純資産にのれんを加えて企業価値を算出しますが、のれんの計算方法が年買法とは異なります。
超過収益還元法では、のれんを、超過収益(年間収益から正常収益を差し引いたもの)と超過収益を期待できる年数を掛け合わせて求めます。超過収益を3年間期待できる場合は、以下のように企業価値を求められるでしょう。
時価資産額 | 現金200万円+土地150万円+有価証券20万円=370万円 |
時価負債額 | 買掛金150万円+退職給付引当金50万円+賞与引当金20万円=220万円 |
時価純資産 | 資産合計額370万円-負債合計額220万円=150万円 |
のれん | 超過収益×3年=(年間収益-正常収益)×3年=(30万円-20万円)×3年=30万円 |
上記から、企業価値は時価純資産(150万円)とのれん(30万円)を加えて180万円と計算できます。
清算価値法の場合
企業価値=資産売却額-弁済額 |
清算価値法では、資産を売却した金額から、弁済が必要な金額を差し引いて企業価値を算出します。土地が70万円、有価証券が15万円で売却できた場合について計算してみましょう。
資産売却額 | 現金200万円+土地70万円+有価証券15万円=285万円 |
弁済額 | 買掛金150万円+退職給付引当金50万円+賞与引当金20万円=220万円 |
企業価値は、資産売却額(285万円)から弁済額(220万円)を差し引いた65万円です。資産を売却する前に計算する場合は、予想よりも安く売却するケースも多いため、不動産や機械設備などの価値を低く見積もっておくようにしましょう。
再調達原価法の場合
企業価値=資産の再調達に必要な金額-時価換算した負債合計額 |
再調達原価法は、資産を再調達するときに必要な金額から、時価換算した負債合計額を差し引いて企業価値を求めます。
なお、土地の価値は上昇していることがありますが、建物や設備は老朽化により価値が下がっていることが一般的です。土地の再調達価格が150万円、他は貸借対照表に記載した通りとして計算してみましょう。
資産再調達額 | 現金200万円+土地150万円+有価証券20万円=370万円 |
時価負債額 | 買掛金150万円+退職給付引当金50万円+賞与引当金20万円=220万円 |
企業価値は、資産の再調達に必要な金額(370万円)から負債(220万円)を差し引いて150万円と計算できます。地価上昇や建物の老朽化も考慮するため、実情に近い数字が求められます。
まとめ
コストアプローチは具体的な数字を出しやすいため、客観性が高い企業価値算出方法とされています。しかし、「超過収益が続く年数」や「売却した場合の価値」のように不確実な要素も含むことがあり、正確性が高いとはいえません。
より正確かつ客観的に企業価値を求めるためにも、専門家のサポートを受け、複数の計算方法で算出するようにしてください。M&A仲介会社に相談するなら、企業価値計算の実績に長けた専門家のサポートを受けられます。
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