M&Aの競業避止義務とは?期間や効力をわかりやすく解説

2024年6月20日

M&Aの競業避止義務とは?期間や効力をわかりやすく解説

このページのまとめ

  • 事業譲渡の競業避止義務は、売り手に特定のエリアで同一事業を営むことを禁じること
  • 競業避止義務違反の期間は、譲渡日以降原則として20年間と会社法で規定されている
  • 競業避止義務を決めるにあたって、期間・範囲を慎重に検討することが大切

事業譲渡を検討する際、「競業避止義務が課されるとどれくらい同一事業ができなくなる?」と不安になっている方もいるのではないでしょうか。会社法によると、事業譲渡した売り手に課される競業避止義務の期間は原則20年です。

本記事では、競業避止義務の概要を説明します。また、競業避止義務の期間の目安や変更方法なども解説します。競業避止義務のポイントも売り手と買い手に分けて説明しているので、参考にしてください。

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競業避止義務とは

競業避止義務とは、人や会社に対して特定の分野・エリアにおいてある会社と競合することを避けるために課される義務を指します。ある会社の機密情報や技術が流出することを防ぐことや、特定のエリアにおける顧客・消費者を確保するために大切な決まりです。

競業避止義務の種類は、義務が課される対象によっていくつかに分けられます。また、関連する法律(規則)も、会社法・労働契約法・就業規則などさまざまです。

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競業避止義務の主な対象

競業避止義務の対象者は、主に以下のとおりです。

  • 従業員・退職者
  • 取締役
  • M&A(事業譲渡など)における売り手

それぞれの概要や、関連する条文などを解説します。

従業員・退職者

従業員に対して、勤めている会社との競業避止義務が課される場合があります。

労働契約法第3条第4項によると、労働者は「労働契約を遵守し、信義に従い誠実に権利を行使して義務を履行」しなければなりません。そのため、就業規則に特別の規定がある場合や、規定がなくても信義則上必要と認められる場合は、競業避止の義務を負います。

また、退職者も勤めていた会社と別途契約を結んだ場合は競業避止義務を追わなければなりません。ただし、日本国憲法第22条第1項に規定されている「職業選択の自由」を不当に制限している場合、競業避止義務が無効とされることがあります。

参照元:e-Gov法令検索「労働契約法第三条
参照元:e-Gov法令検索「日本国憲法第二十二条

取締役

会社法では、取締役に対して競業避止義務を定めています。会社法第356条によると、取締役は競業および利益相反取引の際に、株主総会で重要な事実を開示して承認を受けなければなりません。

自己または第三者のための取引が、取締役に対する規制の対象です。たとえば、自分が取締役を務める会社が事業を行うエリアで、自分のために対象事業と競合する取引を承認を得ずにした際に、競業避止義務の違反を問われる可能性があります。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第三百五十六条

M&A(事業譲渡など)における売り手

事業譲渡などのM&Aにおける売り手に対しても、会社法で競業避止義務が規定されています。

事業譲渡とは、会社が営む事業を第三者に渡すことです。会社法第21条第1項によると、事業譲渡した会社(売り手)は別段の意思表示がない限り、同一の市町村および隣接区域内で一定期間同じ事業ができません。

なお、本記事では事業譲渡における売り手を対象とする競業避止義務について、詳しく解説しています。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第二十一条

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事業譲渡の競業避止義務とは

事業譲渡の競業避止義務とは、事業譲渡の売り手に対して買い手と同一エリアで一定期間事業を担うことを禁じている規定です。

競業避止義務を定めていなければ、売り手が事業譲渡後に新たに同じようなビジネスを始める可能性があります。すでに売り手はノウハウを持っているため、買い手にとっては脅威になるでしょう。そこで、主に事業譲渡の買い手の保護を目的として、売り手に競業避止義務が課されています。

事業譲渡の競業避止義務は、株主総会の承認を得たとしても免れられない点が、取締役への競業避止義務との主な違いです。

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事業譲渡における競業避止義務の期間

ここから、法律上の定義や変更方法、目安など、事業譲渡における競業避止義務の期間について詳しく解説します。

法律上の競業避止義務期間

事業譲渡の競業避止義務期間は、法律(会社法)で明確に定められています。

事業譲渡の売り手が同一市町村・隣接区域内で事業をできない期間は、原則として譲渡日以降20年間です(会社法第21条第1項)。ただし、会社法第21条第2項の規定があるため、売り手と買い手が合意して特約を設けた場合、最大30年間まで期間が延長されることがあります。

競業避止義務期間を変更する方法

別途特約を定める場合は、競業避止義務期間の延長も短縮もできます。特約は事業譲渡の売り手と買い手の間で締結する、事業譲渡契約書において定めることが一般的です。

なお、延長には法律で上限30年の期間が設けられていますが、短縮期間には制限がありません。つまり、双方が合意すれば、〜30年までの間で好きな期間で競業避止義務期間を設定できます。

競業避止義務期間の目安

競業避止義務期間の目安は、5〜10年です。

しかし、競業避止義務期間は売り手と買い手の間の話し合いで決められます。売り手が5〜10年を希望していても、買い手が納得していなければ認められません。

とくに、売り手側はできるだけ短い期間を望み、買い手はできるだけ長い期間を要求します。そのため、双方の利害を考慮した上で慎重に年数を定めなければなりません。

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事業譲渡の競業避止義務で押さえておくポイント

事業譲渡の競業避止義務で、売り手は以下のポイントを押さえておきましょう。

  • 期間・範囲を慎重に検討する
  • 違反すると損害賠償請求される可能性がある
  • 競業避止義務を排除できる場合もある

一方、買い手は以下の点が大切です。

  • 独占禁止法に抵触しないか確認する
  • 売り手の動向を注視する
  • 義務違反を立証しなければならない

それぞれ詳しく解説します。

期間・範囲を慎重に検討する(売り手)

売り手は、安易に買い手から言われたことを受け入れるのではなく、競業避止義務の期間を慎重に検討することがポイントです。

買い手からの提案に従って長めに期間を設定すると、その間に特定のエリアで一部の事業がまったくできません。インターネットの普及により離れた場所で営業しているつもりでも特定エリアに影響を及ぼすことがあるため、競業避止義務の期間が長いとビジネスを進めにくくなります。

また、競業の範囲を検討することも大切です。対象事業の範囲が広ければ、今の場所で事業をまったく展開できなくなるでしょう。自社のケースでどれくらいの期間・範囲が妥当なのかわからなければ、専門家への相談を検討することが大切です。

違反すると損害賠償請求される可能性がある(売り手)

万が一、事業譲渡の競業避止義務に違反すると、売り手は買い手から損害買収請求されたり、競業行為に対して差し止め請求をされる可能性があることも理解しておきましょう。損害賠償額は、買い手が被った被害額やどのように違反したか(因果関係)などによって異なります。

売り手は、課された競業避止義務のことを十分に理解し、違反しないように慎重にビジネスを進めなければなりません。

競業避止義務を排除できる場合もある(売り手)

売り手は、事業譲渡契約に特約を定めておけば、事業譲渡の競業避止義務を排除できる場合があります。なぜなら、会社法に競業避止義務の排除を禁ずる規定が設けられていないためです。

ただし、排除するには買い手の同意を得なければなりません。排除すると買い手の利益の阻害につながるため、同意を得ることは簡単ではないでしょう。

なお、競業避止義務を排除できる場合でも、売り手は不正競争目的での事業は展開できません(会社法第21条第3項)。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第二十一条

独占禁止法に抵触しないか確認する(買い手)

買い手は売り手に競業避止義務を課す際に、独占禁止法に抵触しないか確認しましょう。独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)とは、公正かつ自由な競争を促進して事業者が自主的な判断で自由に活動するために定められた法律です。

競業避止義務を課しても、原則として買い手は独占禁止法に違反することはありません。ただし、事業譲渡に関係ない業種にまで競業避止義務を広げて特約を設定した場合などに、独占禁止法違反を問われる可能性はあります。

判断には専門的知識を要するため、契約締結にあたって専門家への相談も検討しましょう。

売り手の動向を注視する(買い手)

買い手は、事業譲渡後に売り手の動向を注視することもポイントです。

競業避止義務を課せられた売り手は、本来事業譲渡後に同一市町村や隣接地域内で対象の事業ができません。しかし、意識的・無意識問わず、中には競業避止義務に違反する企業もあるでしょう。

買い手が指摘するまで、競業避止義務に違反した売り手は気にせず事業を続ける可能性があります。

義務違反を立証しなければならない(買い手)

売り手側で競業避止義務に違反する行為があった際に、買い手が義務違反を立証しなければならない点も押さえておきましょう。

損害賠償請求にあたって、買い手が被害額や売り手の行為と被害の因果関係などを説明します。因果関係を明確にできなければ、裁判で競業避止義務違反を問うことは困難です。

また、売り手との裁判が長引けば、その分労力やコストなどがかかります。トラブルを避けるためにも、事業譲渡契約を締結する前に相手を見極めることが重要です。

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事業譲渡以外で競業避止義務が課されうるM&A

事業譲渡以外にも、会社分割や株式譲渡といったM&Aにおいて、売り手に対して競業避止義務が課される場合があります。

会社分割とは、会社が展開している事業の一部もしくはすべてを他の会社に承継する手法のM&Aです。事業譲渡と異なり、会社分割における競業避止義務は条文で明記されておりません。しかし、事業譲渡の競業避止義務が規定されている会社法第21条を会社分割にも類推適用することはあります。

株式譲渡とは、対象会社の株主が買い手に対して所有する株式を売却することにより、経営権を承継する手法のM&Aです。株式譲渡も、競業避止義務は条文で明記されていません。ただし、M&Aの最終契約書(株式譲渡契約書)に盛り込むことで、競業避止義務を売り手に課すことがあります。

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まとめ

M&Aにおける事業譲渡の競業避止義務とは、売り手に対して買い手と同一エリアで原則として20年間事業を行うことを禁じることです。会社法第21条にて、義務が明記されています。

売り手と買い手で合意して特約を設ければ、競業避止義務の期間を30年まで延長可能です。また、買い手が納得すれば、競業避止義務の排除もできます。

期間や範囲が妥当でなければ、今後事業を営みにくくなるため、売り手は期間や範囲の設定にあたって専門家へ相談することが大切です。買い手も、競業避止義務を盛り込んだ契約の締結には専門知識を要するため、専門家へ相談しましょう。

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