このページのまとめ
- 優先交渉権とは、譲渡企業と優先的に交渉できる権利
- 優先交渉権は、複数の譲受企業に付与できる
- 優先交渉権の妥当な設定期間は、2〜3ヶ月
- 優先交渉権は、意向表明書や基本合意書に盛り込むのが一般的
- 優先交渉権を設定する場合、法的拘束力を持たせることが重要
「M&Aにおける交渉の場で、優先交渉権があれば交渉を有利に進められるだろうか」と考える経営者の方もいることでしょう。優先交渉権を付与された譲受企業は、有利に交渉を進められます。また譲渡企業も、優先交渉権を用いて条件の良い譲受企業を選ぶことが可能です。
本記事では、優先交渉権の概要や独占交渉権との相違点、設定する理由などを解説します。優先交渉権を設定する際の注意点も説明するため参考にしてください。
目次
優先交渉権とは
ここでは優先交渉権について、特徴や設定する場合の妥当な期間、拘束力について解説します。
優先交渉権の特徴
優先交渉権とは、M&Aの交渉の場において、優先的に交渉ができる権利のことを指します。優先交渉権は、譲渡企業側が話を進めたいと思う有力な譲受企業に与える権利です。
M&Aの現場では、魅力的な譲渡企業であれば、複数の企業が手を挙げ買い手候補となるケースは珍しくありません。そのような中、優先交渉権を持つ譲受企業は、ほかの企業よりも優先的に交渉を進められます。
譲渡企業は、優先交渉権を持つ譲受企業の条件がほかの企業と同等以上だった場合には、優先交渉権を持つ譲受企業と交渉を行わなければなりません。ただし譲渡企業は、複数の企業に優先交渉権を与えることが可能です。優先交渉権を持つ複数の譲受企業は、同等の立場で交渉を進めることになります。
優先交渉権の妥当な期間
優先交渉権は、交渉が終わるまで継続する権利ではなく、定められた特定の期間だけ有効です。期間の定めがないと、譲渡企業側は制約に縛られ不利益が生じるためです。
優先交渉権の期間は、双方が話し合って決めます。お互いが納得の上であれば、長い期間設けても構いません。しかし、一般的に2〜3ヵ月に設定するケースが多いようです。短いケースであれば1ヶ月ほど、長くても半年くらいが妥当でしょう。
長ければ長いほど良いというものではなく、適切な期間を定めることが大切です。どのくらいの期間を設ければいいのか迷う場合は、専門機関と相談しながら話を進めましょう。
優先交渉権が持つ拘束力
上述したように、譲受企業は優先交渉権を持っているからといって、独占的に交渉できるわけではありません。譲渡企業は、より良い条件を提示する企業が現れた場合、その企業と交渉をすることも可能です。
優先交渉権は交渉に有利となる権利ですが、1社のみが有する権利ではないという点が特徴です。
独占交渉権とは
優先交渉権と似た権利に、独占交渉権があります。ここでは、独占交渉権について詳しく解説します。
独占交渉権の特徴
独占交渉権は1社のみに与えられる権利です。独占交渉権を得た譲受企業のみが、譲渡企業と交渉できます。そのため譲渡企業は、独占交渉権を与えた譲受企業よりも、より良い条件を提示する譲受企業が現れたとしても交渉することはできません。
譲渡企業が独占交渉権を守らずほかの企業と交渉をした場合、損害賠償や違約金の支払いが課される可能性があります。具体的な補償内容は、基本合意書内に定められます。
独占交渉権を得た譲受企業は、ほかのライバル企業を排除して有利に交渉を進めることが可能です。一方、譲渡企業は、独占交渉権を与えた譲受企業に交渉の意思を示し、スムーズに交渉を運べます。
独占交渉権の妥当な期間
独占交渉権の期間に決まりはありませんが、一般的なM&Aにおける独占交渉権の期間は、おおよそ3〜6ヶ月ほどです。独占交渉権の期間内は、譲渡企業はほかの企業と交渉ができないため、慎重に期間を定めなければなりません。
独占交渉権が持つ拘束力
独占交渉権には法的な拘束力があります。この権利を破った場合は、損害賠償や違約金の対象となります。そのため譲渡企業は、独占交渉権を付与するかどうかを慎重に検討しなければなりません。
優先交渉権と独占交渉権の相違点
優先交渉権と独占交渉権の異なる点は、独占的に交渉できるかどうかです。優先交渉権の場合、より良い条件を提示するほかの譲受企業と交渉することが可能です。しかしながら独占交渉権の場合は、より魅力的な条件を提示する企業があっても交渉できません。
また優先交渉権は、1社以上の譲受企業に与えることができますが、独占交渉権を与えられるのは1社のみです。M&Aの際には、2つの権利の違いを把握し、どちらを付与すべきかをよく検討する必要があります。
優先交渉権や独占交渉権が付与されるタイミング
M&Aの交渉では、優先交渉権や独占交渉権が付与されるタイミングはいくつかあります。ここでは、これらの権利がいつ、どのタイミングで付与されるのかを解説します。
意向表明書を作成するタイミング
入札形式のM&Aの場合、意向表明書を作成するタイミングで優先交渉権が付与されます。
入札形式のM&Aでは、譲渡企業は並行して複数の譲受企業と交渉を進めます。しかし複数の企業と交渉するとなると、時間がかかりすぎて話がまとまりません。そのため意向表明書を作成するタイミングで、優先交渉権を付与する譲受企業を決めるのです。
譲受企業は、意向表明書を作成する際に買収の条件を提示します。譲渡企業は買収条件を比較し、優先交渉権を付与する企業を絞り込むのが一般的です。
基本合意書を作成するタイミング
優先交渉権は、基本合意書を作成するタイミングで盛り込む場合もあります。基本合意書とは、双方の企業が基本的な条件面で合意ができた際に作成する書類です。基本合意書には、法的な拘束力はありません。
独占交渉権も優先交渉権と同様に、付与するタイミングは決まっていませんが、基本合意書に盛り込むのが一般的です。基本合意書には法的拘束力はないものの、例外的に、独占交渉権だけには法的拘束力をもたせます。
なぜなら基本合意書を締結した後、独占交渉権を付与された譲受企業は、費用をかけてデューデリジェンスを実施するからです。独占交渉権に法的拘束力がなければ、デューデリジェンスが無駄になる可能性が生じます。基本合意書には、独占交渉権だけでなく、デューデリジェンスへの協力義務も盛り込まれるのが一般的です。
優先交渉権が必要な3つの理由
優先交渉権が必要になる理由には、次の3つの理由が挙げられます。
- 取引をスムーズに行うため
- ほかの譲受企業よりも交渉を有利にするため
- デューデリジェンス費用を無駄にしないため
それぞれの理由に関して、解説します。
1.取引をスムーズに行うため
取引をスムーズに進めるために、優先交渉権が重要です。交渉権を付与すれば、交渉が長引く事態や、ほかの企業の参入を防げるからです。
たとえば、譲渡企業がより良い条件を目指すために、交渉を長引かせるケースがあります。時間だけが掛かり、M&Aが成立しなくなるでしょう。
また、交渉を自由に行えることで、ほかの企業が急遽参戦し、交渉を始められるケースもあります。交渉を進めていた譲受企業からすると、自社の取引を邪魔された形になるでしょう。
優先交渉権があれば、交渉の長期化や譲受企業の参入を防ぐことができます。譲受企業が安心して交渉でき、取引も行いやすくなるでしょう。
2.ほかの譲受企業よりも交渉を有利にするため
ほかの譲受企業よりも交渉を有利にするためにも必要です。複数の譲受企業がいる場合、競争が発生し、資金がなければ交渉を有利にできません。想定よりもコストが掛かってしまうこともあるでしょう。
優先交渉権があれば、ほかの企業よりも有利な状態で交渉を行えます。競争が発生しにくいため、コストが掛かりすぎる事態も防げるでしょう。
3.デューデリジェンス費用を無駄にしないため
優先交渉権があることで、デューデリジェンスに掛かった費用が無駄になりません。譲渡企業企業に問題がなければ、そのまま交渉を継続できるからです。
譲渡企業と交渉を進めている間に、ほかの企業に横取りされてしまえば、コストと時間の無駄になります。特に、デューデリジェンスに掛かるコストは高く、調査実施後に交渉が破談になってしまえば損害につながるでしょう。
調査を実施する費用だけでも、数十万から数百万円掛かることもあります。費用を無駄にしないためにも、優先交渉権をもらい、交渉を成立させることが重要です。
譲渡企業から見た優先交渉権のメリットデメリット
優先交渉権は、譲受企業にメリットが大きい権利です。しかし、譲渡企業は交渉相手を制限され、デメリットが大きいように見えます。交渉に向けて、譲渡企業からすると、どのようなメリットデメリットがあるのかを知っておきましょう。
メリットは譲受企業が安心すること
優先交渉権のメリットは、譲受企業が安心する点です。譲受企業はほかの企業に邪魔されることなく交渉を進められるからです。
しかし、譲渡企業には、譲受企業が安心する以外のメリットは特にありません。譲受企業が絞られることで、新しいチャンスを逃すことにつながるからです。
譲渡企業の場合には、交渉する期間を定めておくことが必要です。デューデリジェンスから、最終合意までに掛かる期間を想定し、交渉権の期間を合わせておくと良いでしょう。
デメリットは強気に交渉されやすいこと
譲渡企業の場合、強気に交渉されやすい点がデメリットです。優先して交渉できることに安心し、値下げを要求するケースもあります。
たとえば、デューデリジェンスの結果が良くなかったと説明し、値下げを行う譲受企業もいるでしょう。また、優先して交渉するために、あえて最初は好条件を出し、あとから状態を変えようとする場合もあります。
独占交渉権の場合でも同様のリスクがあるため、譲渡企業は慎重に、権利を付与するか考える必要があります。
優先交渉権と独占交渉権のどちらが有利?
交渉を進めるうえで迷うポイントが、「優先交渉権」と「独占交渉権」のどちらを選ぶかです。譲受企業と譲渡企業の立場次第でも変わるため、それぞれの権利のメリットデメリットを確認しておきましょう。
優先交渉権のメリット・デメリット
譲受企業からする優先交渉権のメリットは、ほかの企業よりも優先的に交渉できる点です。ただし、独占交渉権とは違い、ほかの企業にも交渉権が付与される場合があります。
譲渡企業からすると、交渉権を付与しても、交渉相手が限定されないメリットがあります。優先交渉権を複数企業に付与してしまえば、複数の譲受企業と交渉できるからです。
ほかにも買い手がいると知らせることにより、有利な条件を提示させることもできるようになります。また、譲渡企業からするとデメリットに関しては、特にありません。
独占交渉権のメリット・デメリット
譲受企業の場合、独占交渉権は自社だけが交渉できるメリットがあります。譲渡企業だけに集中して、条件交渉ができるでしょう。優先交渉権の場合では、ほかの企業を考慮して交渉を進めなければなりません。
また、独占交渉権の場合は、基本合意書に違反した場合の損害賠償を明記する場合もあります。もし、譲渡企業が独占交渉権を破ったとしても、損害賠償を請求できる点はメリットでしょう。
譲渡企業の場合、独占交渉権にあまりメリットはありません。ほかの譲受企業との交渉が実施できなくなってしまうからです。また、交渉が成立しなかった場合、新しく譲受企業を探さなければならない点もデメリットになるでしょう。時間やコストが掛かるだけではなく、自社の売り時を逃がしてしまうリスクも高まります。
譲受企業に有利なのは独占交渉権
譲受企業にとって有利な権利は、独占交渉権です。ほかの企業の介入を想定する必要がなく、譲渡企業との交渉に専念できます。
しかし、譲渡企業からすると独占交渉権の付与はリスクが高まります。選択肢を増やすためにも、独占交渉権より優先交渉権を選ぼうとするでしょう。
優先交渉権を設定する際の注意点
優先交渉権を設定した後に、譲渡企業がほかの譲受企業と交渉を進めるなどの義務違反が生じる可能性もあります。そのような義務違反に備えるために、優先交渉権を設定する際にはいくつかの対策が必要です。ここでは、優先交渉権を設定する際に注意すべき点を解説します。
法的拘束力が必要である
優先交渉権には、法的拘束力を持たせるようにしましょう。基本合意書自体に法的拘束力がなく、基本合意書に記載しただけでは、優先交渉権も法的拘束力を持ちません。
もし、譲渡企業が優先交渉権を破った場合でも、譲受企業は法的責任の追及が実施できません。トラブルがあっても対応できるように、法的拘束力を持たせるための条項を記載しましょう。
基本合意書で法的拘束力を持たせない事項と分けておく
基本合意書では、法的拘束力を持たせる事項と、持たせない事項で分けておきましょう。たとえば、売却価格に法的拘束力を持たせてしまうと、価格変更ができません。デューデリジェンスでリスクがあると分かった場合でも、価格を下げられなくなります。
また、株式譲渡や事業譲渡のような手法に関しても、交渉を進める中で変わることもあります。変化する可能性がある箇所に関しては、法的拘束力を持たせないようにしましょう。
優先交渉権のように法的拘束力を持たせる部分を明確にし、リーガルチェックも欠かさずに行いましょう。
優先交渉権や独占交渉権で争ったM&A事例
優先交渉権や独占交渉権が理由で争いが起こった事例があります。どのような問題が起きてしまったのか、知っておきましょう。ここでは、「別の企業と交渉を始められた事例」と「買収価格を下げられた事例」の2つを解説します。
別の企業と交渉を始められた事例
独占交渉権を結んだにも関わらず、別の企業との交渉を行おうとして裁判になった事例があります。譲受企業のA社と譲渡企業のB社では、M&Aの交渉が行われ、基本合意書を交わしました。基本合意書には独占交渉権が明記されており、交渉を進める前提で話が進んでいる状況です。
しかし、突然B社が基本合意を撤回し、C社とのM&Aを進めると宣言しました。独占交渉権を付与されていたA社が反発し、B社とC社の交渉を差し止めるための訴訟を起こしています。
訴訟の結果、地裁ではA社の訴えが認められ、交渉を差し止めるように判決が下りました。しかし、異議の結果、最高裁まで判決が持ち込まれ、交渉の差し止めは行わないと判断されてしまいます。
この際、独占交渉権に対する法的拘束力は認められていました。しかし、A社とB社でのM&A交渉が現実的には難しいと判断されて、差し止めは行わないとされてしまいます。
独占交渉権は認められても、交渉の差し止めが行われるとは限りません。譲渡企業が別の企業と交渉を始めても、差し止めできない場合があると覚えておきましょう。
優先交渉権付与後に買収価格を下げた事例
優先交渉権を付与した結果、譲受企業が強気に交渉し、売却価格を下げた事例もあります。譲渡企業のB社は経営再建をするために、譲受企業のA社と交渉を行い、優先交渉権を付与しました。
いざ交渉が始まると、A社は買収価格を大きく下げるように要求します。B社は条件に納得がいかず、交渉を打ち切りました。
しかし、B社は新しい譲受企業を見つけることができずに、結局A社と再度交渉を行います。買収価格が下がった、不利な条件を受け入れる形になりました。
優先交渉権を付与しても、円満に交渉が進むとは限りません。譲受企業側が強気になり、新しい条件を要求するケースもあります。
まとめ
優先交渉権とは、譲受企業が譲渡企業と優先的に交渉できる権利のことです。優先交渉権は、1社のみでなく複数の企業に付与できます。譲渡企業は複数の譲受企業と交渉することにより、有利な条件の譲受企業を選ぶことが可能です。譲受企業にとっても、ライバル企業よりも優先的に交渉を進められるという利点があります。
ただし、譲渡企業が、優先交渉権を持つ企業よりも好条件を提示するほかの譲受企業と交渉する場合もあるため注意が必要です。また、優先交渉権が付与された譲受企業が強気で交渉を進めてくるケースもあるため、付与する場合は慎重に決めなければなりません。
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