このページのまとめ
- SPACとは特別買収目的会社のこと
- SPACは自社の事業を持たずに未上場企業の買収を行うために設立される
- SPACには「上場までが早くなる」「多額の資金調達ができる」メリットがある
- SPACは短期間で買収を行わなければならない点がデメリット
- 現時点ではSPACは日本で認められていない
「SPACの詳しい意味が知りたい」「SPACで何ができるのか知りたい」と考えている経営者も多いことでしょう。SPACは特別買収目的会社の意味を持ち、未上場企業の上場に役立ちます。日本ではまだ実施が認められていませんが、検討が行われている状況です。
本コラムでは、SPACの仕組みやメリットを解説します。今後、日本でSPACが認められた場合に向けて、参考にしてください。
目次
SPACとは
SPAC(Special Purpose Acquisition Company)とは、自社の事業を持たずに、未上場企業の買収を行うために設立される会社のことです。特別買収目的会社とも呼ばれます。
SPACは、すべての株式市場で認められている会社ではありません。「NASDAQ」「ニューヨーク証券取引所」のように、一部の市場のみで認められています。日本では、東京証券取引所がSPACを認めるか検討している状況です。
SPACの歴史
SPACは1980年代ごろから存在している手法です。しかし、次の3つの理由から印象が悪く、不正も発生しました。
- 市場で調達した資金を運営者が私的利用する
- 自分が出資した会社を高額で買収する
- 買収のうわさを流し、自社の株価を釣り上げ売却する
SPACに関わる不正やトラブルが多かったことから、1990年代には米国証券取引委員会でSPACに関するルールが厳しくなりました。しかし、1900年代ころはIPOが盛り上がりを見せていたことから、SPACへの注目度が下がり、あまり活用されていません。
近年では、アメリカや日本を中心に、SPACが注目を集めています。日本でも「SPAC制度の在り方等に関する研究会」が開かれており、今後の動向が注目されています。
参照元:日本取引所グループ「SPAC制度の在り方等に関する研究会」
投資家を守るためのルールがある
SPACには、投資家を守るためのルールがあるため、確認しておきましょう。
- 上場後は調達資金の9割以上を信託する
- 上場後、12ヶ月から18ヶ月以内に買収実施をアナウンスする
- 上場後、24ヶ月以内に買収を成立させる
- 買収対象の市場価格はSPAC純資産の8割以上
- 買収決定には株主の承認が必要
いくつかのルールに関して、解説します。
上場後は調達資金の9割以上を信託する
上場後の調達資金は、9割以上を信託しなければなりません。経営陣が資金を乱用しないようにするためです。残りの1割に関しては、運転資金になります。
買収対象の市場価格はSPAC純資産の8割以上
買収対象の市場価格は、SPAC純資産の8割以上が必要と定められています。市場価格の条件を満たしていない場合、買収が実行できません。
買収決定には株主の承認が必要
買収先の決定には、株主の承認が必要です。株主のうち、過半数の承認が求められます。
買収を承認しない株主には、持分売却の権利があります。もし、売却を希望する株主が持分ベースで20%を超えた場合には、買収は中止です。買収が中止になれば、SPACは清算されます。
SPCとの違い
SPC(Special Purpose Company)とは、特別目的会社のことです。SPCは、資産の証券化を目的に設立されます。
M&Aの場面では、LBOを使う際に設立されるのがSPCです。LBOは、次のようなプロセスで行われます。
- M&Aの買い手がSPCを設立する
- SPCが資金調達を実施する
- SPCが売り手を買収する
- SPCと売り手が合併する
- SPCは消滅会社になり、売り手が存続会社になる
SPCはSPACとは異なり、資金調達の実施や資産の流動化も行います。買収の箱として利用されるSPACとは、設立目的や用途が違うため注意しましょう。
SPACが注目を集める2つの理由
SPACが注目を集めている理由は、次の2つが挙げられます。
- IPOを使わない企業が増えている
- 著名人の参入で信頼度が上がっている
それぞれの理由に関して、詳しく解説します。
1.IPOを使わない企業が増えている
SPACが注目を集める理由の1つが、IPOを使わない企業が増加しているためです。IPOは厳格な審査があり、準備期間も長くなることが課題でした。また、多額の費用も必要になり、実施のハードルが高い手法です。
SPACは審査項目が少なく、IPOよりも上場に必要な時間やコストが少ないメリットがあります。そのため、IPOを使わずに、SPACを用いて上場を行う企業が増加するようになりました。
2.著名人の参入で信頼度が上がっている
SPACに参入する著名人が増えたことで信頼度が上がり、利用する企業が増加しています。有名銀行の代表者や、知名度の高い投資家が参入を表明しているからです。
実績のある実業家が参入を行うことで、SPACの期待値や信頼度が上昇し、資金調達を行いやすい環境が作られてきています。また、IPOを取りやめる企業が多く、投資家の投資先がSPACに変更されていることも、著名人の参入に影響しています。
SPACの仕組みと合併までの流れ
SPACの仕組みや、設立から合併までの流れを知っておきましょう。次のような流れで、運用します。
- SPACを設立する
- SPACを上場させる
- 買収先を選定する
- 買収先と合併を行う
ここでは、SPACの設立から、設立目的を達成するまでの仕組みを解説します。
1.SPACを設立する
まずは、スポンサーと呼ばれる設立者が自己資本を投入し、SPACを設立します。
SPACには、次の4人のキープレイヤーがいます。
- スポンサー
- バイヤー
- ターゲット企業
- SPAC後の投資家
スポンサーとは、SPACの設立者です。ヘッジファンドの機関投資家チームや、プライベート・エクイティが担うケースがよくあります。スポンサーの役割は、投資家からの資金調達です。スポンサーが有名であるほど、資金調達の金額や買収できる企業の規模が大きくなります。
バイヤーは、M&Aアドバイザリーを指します。買収をスムーズに行うためには、専門家のサポートが欠かせません。また、ターゲット企業は、買収のターゲットになる企業です。
最後に、SPAC後の投資家とは、SPACの株主になる人々です。ただし、SPACは買収を行ったあとは消滅会社になってしまいます。そのため、SPAC後の投資家は、最終的にはターゲット企業の株主になります。
2.SPACを上場させる
SPAC設立後はIPOを実施し、株式を売ることで資金調達を実施します。資金調達で集めた資金は、買収を行う資金になります。
上場時のポイントは、SPACに信用を持たせることです。ネームバリューのあるプライベート・エクイティなどを活用し、投資家からの資金調達を増やします。一般の人物がSPACを設立しても、資金は簡単に集まりません。ネームバリューの大きさが、資金調達の額に影響するからです。
また、SPACの株式は、スポンサーがIPO後も20%を保有できるように定款で定めます。残りの80%に関しては、投資家に売却し、資金を得るために利用します。
3.買収先を選定する
上場後は、買収先の選定を行います。買収先に関しては、これからの成長が見込まれるベンチャー企業を選ぶケースが一般的です。SPACに投資を行う投資家は、短期間で多くのリターンを求めており、成長が期待できるベンチャー企業が投資にふさわしいからです。
また、買収を行う際には、次のようなルールを守る必要があります。
- 上場後は調達資金の9割以上を信託する
- 上場後、12ヶ月から18ヶ月以内に買収をアナウンスする
- 上場後、24ヶ月以内に買収を完了させる
- 買収対象の市場価格はSPAC純資産の8割以上
- 買収決定には株主の承認が必要
投資家を保護する目的で定められているため、確認しておきましょう。
4.買収先と合併を行う
買収先が見つかれば、SPACと買収先で合併を行います。この際、SPACは消滅会社、買収先が上場会社です。
また、SPACと買収先で株式交換を行いましょう。買収先の保有株はSPACに譲渡され、買収先には新規発行したSPACの株が付与されます。
買収先側からすると、SPAC株の売却を行うことでエグジットが完了します。SPAC側も1年後には株式を売却できるため、ベンチャー企業の株を売却した際の利益獲得が期待できます。
SPACの3つのメリット
SPACには、次の3つのメリットがあります。
- 多額の資金調達が可能になる
- 上場までの時間が早くなる
- 審査を簡略化できる
それぞれのメリットに関して解説します。
1.多額の資金調達が可能になる
SPACのメリットは、多額の資金調達が可能になる点です。未公開企業が運転資金を獲得するためには、投資家を見つける必要があります。しかし、将来性が保証されていない未公開企業が、投資家を探すのは大変です。
ネームバリューのあるSPACを活用すれば、多額の資金調達が可能になります。ベンチャー企業やスタートアップ企業にとって、メリットになるでしょう。
2.上場までの時間が早くなる
IPOに比べて、上場までの時間が早い点もメリットです。IPOを行う場合、2年から3年は準備期間が必要になります。SPACの場合は、上場までのスピードが速く、短期間で上場できます。また、上場に必要なコストを抑えやすい点もメリットでしょう。
上場期間が短くなれば、不測の事態も回避しやすくなります。上場延期のリスクも軽減できるでしょう。
3.審査を簡略化できる
審査を簡略化できる点も、SPACのメリットです。事前に適切な準備を行っておけば、上場への負担を軽減できます。
IPOを利用する場合、審査が厳格に行われる点がネックです。上場にコストや時間が掛かる原因であり、コストのせいで上場を断念する企業もあります。SPACであれば、実績が少ないスタートアップ企業が上場するハードルを下げることが可能です。
SPACの2つのデメリット
SPACでは、次の2つのデメリットに気を付けましょう。
- 短期間で買収を成立させなければならない
- 上場に対して準備不足になりやすい
それぞれのデメリットに関して解説します。
1.短期間で買収を成立させなければならない
SPACを活用する場合、短期間で買収を成立させなければなりません。投資家を保護するために、「上場後、12ヶ月から18ヶ月以内に買収をアナウンスする」「上場後、24ヶ月以内に買収を完了させる」の2つのルールが定められているからです。
また、期間があることから、未公開企業が買収価格を釣り上げる場合に注意しなければなりません。期限が近づくにつれ、不利な条件で交渉を進めなければならなくなります。
2.上場に対して準備不足になりやすい
買収される側が、上場に対して準備不足のケースに注意しましょう。本来であれば、エグジットに向けて事業計画や資本政策を準備してプロセスを進めます。
しかし、SPACを活用してしまうことで、上場の準備ができていないまま上場するケースがあります。その場合、期待されていた評価と上場後の評価にズレが生じ、株価が下落してしまうリスクもあるため注意しましょう。
投資家から見たSPACの2つのメリット
投資家から見た、SPACのメリットも確認しておきましょう。投資家からは次の2点がメリットに感じます。
- 投資家を守るルールがある
- 未公開株式に少額で投資できる
それぞれのメリットに関して解説します。
1.投資家を守るルールがある
投資家からすると、SPACに投資家保護のルールがある点はメリットです。投資家は、出資した資金が回収できないことを危惧しています。ルールがあることで、出資しやすくなっている状況です。
たとえば、信託保全や買取期限があることから、投資した資金の回収はほぼ実施できます。もし、SPACが未公開企業の買収に失敗しても、投資資金は返還されます。
投資家からすれば、資金を回収できる目途がある点は、大きなメリットでしょう。
2.未公開株式に少額で投資できる
未公開株式に少額で投資を行える点も、投資家からするとメリットです。IPOの場合、個人が未公開株式に投資できることはほぼないからです。
SPACで上場すれば、未公開株式は市場に公開されるため、個人でも購入が可能になります。未公開株式は公開株式よりも株価が低いことから、少額で投資できることがポイントです。
また、未公開株式は途中売却ができず、手放せないデメリットがあります。しかし、SPACで上場している場合は、上場株式として売却できる点もメリットになるでしょう。
投資家から見たSPACの3つのデメリット
投資家から見たSPACのデメリットは、次の3つです。
- 株価が上がるとは限らない
- SPACの企業価値が不確かである
- 出資者の報酬格差が激しい
それぞれのデメリットに関して解説します。
1.株価が上がるとは限らない
株価が上がるとは限らない点は、投資家からするとデメリットになります。SPACは成長が期待できる企業を買収するものの、必ず成長するとは限らないからです。
SPACが買収する企業の選択を誤れば、上場しても株価は上昇しません。株価が上がらないと、投資家は損をしてしまうでしょう。
また、人為的なミスにより、投資家が損をするケースもあります。投資をしても利益を得られるとは限らない点が、投資家にとってのデメリットです。
2.SPACの企業価値が不確かである
SPACの企業価値が不確かな点も、デメリットになります。SPACにはほかの会社とは違い、投資の参考になるデータがないからです。
通常、投資を行う際は利益が出る企業を分析し、実行します。しかし、SPACには分析できるデータがなく、ネームバリューで判断せざる得ません。
SPACは、ネームバリューの高い人物が設立するSPACに資金が集まりやすくなります。企業価値が不確かであり、半残が難しいことも投資家にとってはデメリットです。」
3.出資者の報酬格差が激しい
SPACでは、出資者の報酬格差が激しくなります。基本的には、SPACを設立したSPACスポンサーが最も利益を獲得するからです。
現在のSPACの仕組みでは、株式を早期に売却した株主が損をしない仕組みになっています。長期で株式を保有している株主の恩恵が少なく、出資者で報酬格差があることが問題です。
関連記事:資金調達とは?6種類の方法のメリット・デメリット、融資以外の方法を解説
日本ではSPACが認められていない
SPACは、日本ではまだ認められていないため注意してください。2008年に東京証券取引所が検討を行いましたが、見送られています。
ただし、日本企業が海外でSPACを設立するのは可能です。また、アメリカのSPACと合併を行うことで、アメリカ証券市場への上場は可能になります。
日本では、SPACに関して再度の検討が行われています。政府もSPACに関して言及していることから、今後の新しい動きにも注目してみましょう。
まとめ
アメリカを中心に、SPACが注目を集めています。SPACを活用すれば、上場までのハードルが高く諦めていた企業も、上場が可能になるからです。
しかし、現時点では、日本でのSPACが認められていません。M&Aを検討している場合は、ほかの手段を検討したほうが良いでしょう。自社に合ったM&Aスキームを検討するためには、M&A仲介会社への相談が大切です。
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