このページのまとめ
- 経営者保証とは中小企業が融資を受ける際に経営者が保証人になる制度
- 経営者保証はM&Aや事業承継の妨げになるケースがある
- M&Aでの経営者保証は買い手に引き継いでもらうことが多い
- 経営者保証はM&Aを実施しても自動的に引き継がれないため注意する
- M&Aや事業承継で経営者保証の扱いに悩んだ場合は専門家に相談すると良い
「M&Aにおける経営者保証の扱いが知りたい」「事業承継で経営者保証が負担になる」などと悩んでいる経営者も多いことでしょう。近年では、保証があることで買い手との交渉が行いにくくなったり、後継者が事業承継を嫌がってしまったりする状況が問題視されています。
本コラムでは、M&Aや事業承継における経営者保証への対策を解説します。保証の解除に成功し、自社の課題を解決した事例も紹介するため、参考にしてください。
目次
経営者保証とは
経営者保証とは、中小企業が金融機関などから融資を受ける際に、経営者自身が保証人になることです。もし、企業が倒産してしまった場合には、融資が返済できなくなるため、経営者自身が返済しなければなりません。
経営者保証のメリットは、信用力のない企業であっても、融資を受けられる点です。業績が出ていない企業や設立したばかりの企業でも資金調達ができます。
しかし、経営者保証があることで、経営が悪化しても廃業を選択できない点はデメリットです。また、事業承継では後継者に保証を引き継がなくてはならないことから、後継者が後を継ぐことを嫌がるケースも問題視されています。
経営者が経営者保証を使う理由
経営者が経営者保証を使う理由は、資金調達を行うためです。たとえば、赤字の場合には、赤字を補填するための資金が必要です。資金がなければ、経営難が加速してしまいます。
また、業績が良い企業でも、キャッシュフローの問題があります。売掛金を回収するまでに時間が掛かったり、棚卸資産の割合が多いと、事業資金が不足してしまうからです。経営者は事業資金を確保するために、経営者保証を利用し、金融機関から融資を受けています。
経営者が経営者保証を要求される理由
経営者保証を要求される理由は、信用力が不足している場合が多いからです。中小企業の場合、経営者が筆頭株主を兼ねており、経営を行っているケースもあります。その際、経営状況が明確でないと、債権者は投資の回収見込みが立てにくいため、経営者保証が求められます。
経営者保証が経営者に与える3つの影響
経営者保証に対し、中小企業庁は、「経営への規律付けや資金調達の円滑化に寄与する面がある一方、経営者による思い切った事業展開や早期の事業再生、円滑な事業承継を妨げる要因となっているという指摘もある」としています。
資金を確保できる一方で、経営に影響を与えることを知っておかなければなりません。具体的には、次のような影響が想定されます。
- 廃業を選択しにくい
- 思い切った事業展開ができない
- 事業承継の邪魔になる
それぞれの内容に関して、詳しく解説します。
1.廃業を選択しにくい
保証を抱えていることで、廃業を選択しにくくなります。廃業してしまうと、弁済方法が個人の資産から捻出するしかなくなるからです。
保証がない場合、業績が悪くなっても廃業や事業の終了を選ぶ選択肢が生まれます。その後、新しい事業で再起を図ることもできるでしょう。
経営状況が悪化するケースは、どのような企業でもありえます。採算性が悪くなっても、経営者保証が解除できるまで廃業が難しい点は、経営判断に大きな影響を与えるでしょう。
2.思い切った事業展開ができない
失敗を恐れて、思い切った事業展開ができなくなるデメリットもあります。失敗して業績が悪化すると、個人の資産まで失うことになるからです。
一度自己破産を行う選択肢もありますが、再度融資が受けられるとは限りません。金融機関は、失敗した経営者を再度支援するケースが少ないからです。経営者保証があることで失敗した場合の負担が増加し、チャレンジができなくなる影響もあります。
3.事業承継の邪魔になる
事業承継を行う際に、経営者保証が邪魔になる場合もあります。後継者が保証を嫌い、後を継ぎたくないと考えるケースがあるからです。
また、金融機関側が、経営者保証を後継者に引き継ぐことを認めない場合があります。たとえば、後継者の資産が少ない場合、保証人の役割を果たせないと判断されてしまうからです。保証があることで、事業承継に影響を与える問題もあります。
参照元:中小企業庁「経営者保証」
経営者保証を外すために必要な3つの対策
M&Aや事業承継実施に向けて、経営者保証を外したいと考える経営者もいるでしょう。経営者保証を外すためには、次の3つの対策が必要です。
- 法人と経営者との関係の明確な区分・分離
- 財務基盤の強化
- 財務状況の正確な把握と経営の透明性確保
「経営者保証に関するガイドライン」にもとづき、それぞれに関して、解説します。
1.法人と経営者との関係の明確な区分・分離
「法人と経営者との関係の明確な区分・分離」とは、債権者が法人の業務や資産などに関して、経営者との関係を分けるように務めることです。
たとえば、次のような対策を実施しましょう。
- 法人から経営者への貸付は、必要がある場合のみにする
- 個人の飲食代などは経費にしない
- 経営者が工場や車などの資産を持っている場合、法人所有にする
- 自宅を店舗に利用しているなど分離が難しい場合は、法人から経営者に適切な賃料を払う
また、運営体制に関しては、適切な状況にあるか、外部の専門家に検証してもらいましょう。その際、公認会計士や税理士などに依頼します。調査結果に関しては、債権者に開示を行うことが望ましいとされます。
2.財務基盤の強化
債権者は、財務や経営状況の改善を行い返済能力を高めることで、信用力の強化を進めることも大切です。債権者保証を利用しなくても、事業に使う資金を調達できる力が求められます。
たとえば、次のような対策を行ってみましょう。
- 十分なキャッシュフローと内部留保を確保する
- 借入金の全額を返済できる状態にする
- 業績を良くし、借り入れを返済できる利益を得る状態を作る
経営状況を改善するためには、相談窓口や専門家などに相談しましょう。
3.財務状況の正確な把握と経営の透明性確保
債権者は、資産と負債の状況や事業計画などに関して情報開示を要求された場合、情報開示を行うことで経営の透明性を確保しなければなりません。その際、情報の信頼性を高めるために、専門家による検証を実施し、検証結果をあわせて提示しましょう。
提示する情報の例には、次のような内容が挙げられます。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 資産・負債明細
- 売上原価・販管費明細
また、情報開示後に事業計画や業績に変動があった場合には、自主的に報告するようにしましょう。
参照元:全国銀行協会「経営者保証に関するガイドライン」
M&A時に実施できる経営者保証への4つの対応
M&Aや事業承継をスムーズに進めるために、経営者保証への対応が必要になるケースがよくあります。経営者保証が障害にならないように、次のような対応を行いましょう。
- M&A実施前に保証を外す
- 買い手に引き継いでもらう
- 条件を緩和してもらう
- 買い手が返済する
それぞれの対応に関して、詳しく解説します。
1.M&A実施前に保証を外す
M&A前に保証を外しておくことで、手続きをスムーズに行いやすくなります。借入金を返済しておきましょう。基本的には会社の資金を活用し、もし、資金が足りない場合は個人の資金を会社に貸し付けて返済を行います。
また。金融機関に担保を預けている場合、担保の売却を行うことで返済する方法もあります。
2.買い手に引き継いでもらう
M&Aや事業承継の際、買い手に保証を引き継いでもらうこともできます。ただし、金融機関の承認が必要になるため注意してください。買い手と売り手の経営者が金融機関と協議し、条件提示を行うことが求められます。
金融機関が買い手の信用調査を行い、問題ないと認められれば引き継ぎが行えます。また、売り手が差し出している担保と、同じくらいの担保を買い手が差し出せる場合も、引継ぎを承認してもらえるでしょう。
3.条件を緩和してもらう
親族内承継を行う場合、金融機関と交渉し、保証の条件を緩和してもらうこともできます。事業承継時に経営者保証を理由に後継者を拒否するケースが多く、負担軽減のためにガイドラインが制定されたからです。
「事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則」では、
- 前経営者と後継者の両方から二重に保証は求めない
- 後継者に保証を引き継がせるのではなく、保証の必要性を検討する
など、金融機関が行うべき対応が定められています。
保証の条件が緩和されたり、保証の解除ができたりすれば、事業承継を行いやすくなるでしょう。
参照元:全国銀行協会「事業承継時に焦点を当てた「経営者保証に関するガイドライン」の特則」
4.買い手が返済する
買い手が借入金を返済し、保証を解除する方法もあります。融資の返還が行われれば、金融機関も保証解除を認めざるを得ないからです。
買い手が返済を行う方法は、保証を引き継ぐ方法よりも簡単です。手続きの面から見ても、実施しやすい方法でしょう。
M&Aにおける経営者保証の扱い
M&Aスキームによって、経営者保証の扱いが変わるため注意しましょう。ここでは、M&Aで使用される場面が多い、「株式譲渡」と「事業譲渡」の場合を解説します。
株式譲渡の場合
株式譲渡とは、売り手が買い手に株式を譲渡し、経営権を移動させるM&Aスキームです。株式譲渡では、売り手は自社の資産や負債など、すべてを買い手に引き継いでもらう特徴があります。
経営者保証に関しても、資産などと同様に、買い手に引き継いでもらうケースが一般的です。ただし、保証は自動的に引き継がれない仕組みになっているため、引継ぎに関しては当事者間で協議を行わなければなりません。
また、株式譲渡の場合は、契約書に「買い手は売り手の経営者保証に関して、解除責任を負う」などのように条項を記載しましょう。また、債権者も含めて協議を進める必要があります。
事業譲渡の場合
事業譲渡とは、事業の全部、または一部を譲渡するM&Aスキームです。株式譲渡とは異なり、経営権の移動は行われません。資産や負債のすべてを引き継ぐわけではなく、譲渡する対象を選んで移動させます。
経営者保証に関しては、事業に関連のないため引き継がないケースがほとんどです。解除を行いたい場合は、買い手から得た売却利益を使い、債務を返済します。
M&Aにおける経営者保証の5つのポイント
M&Aを行う際の、経営者保証の扱いを確認しておきましょう。次の5つを意識して、手続きや交渉を進めることが大切です。
- 自動的には買い手に引き継がれない
- 多くのM&Aは経営者保証が解除される
- 買い手に保証を変更する場合はクロージング後に行う
- 保証を変更する場合は債権者の承諾を得る
- 契約書に保証の扱いを明記する
それぞれのポイントに関して、解説します。
1.自動的には買い手に引き継がれない
経営者保証は、自動的に買い手に引き継がれるわけではありません。会社ではなく、経営者個人が受けている保証だからです。
M&Aを行う際には、保証を引き継ぐための手続きを行いましょう。手続きを行わない場合、買い手の企業に関する債務を負い続けてしまうことになります。
2.多くのM&Aは経営者保証が解除される
多くのM&Aの場合、経営者保証を解除できます。経営権がない状態なのに、経営者保証だけを負っている状態は合理的ではないからです。
基本的には、売り手の保証は解除され、買い手に引き継がれます。しかし、「株式を一部しか売却しない場合」「M&A後に買い手企業の経営に関与する場合」などは、保証解除が認められない可能性もあります。
株式をすべて売却し、経営権を失う場合には、保証が解除できると考えて問題ありません。
3.買い手に保証を変更する場合はクロージング後に行う
買い手に保証を変更する際は、クロージング後に行いましょう。代表取締役の変更登記を行い、新しい登記簿謄本が取得できるタイミングで実施します。
その後に保証人を変更し、必要な場合は抵当権も変更しておきましょう。
4.保証を変更する場合は債権者の承諾を得る
保証を買い手に変更する場合、債務者の承諾を得るようにしましょう。その際、売り手だけで交渉を進めないことが大切です。買い手と売り手の両方で、債権者と協議しましょう。
また、合意内容は明確にしておきましょう。曖昧な状態にしてしまうと、トラブルが発生し、M&Aが失敗してしまうかもしれません。
5.契約書に保証の扱いを明記する
保証の扱いに関しては、契約書に明記しましょう。口頭だけで決めてしまうと、トラブルにつながります。
たとえば、「買い手は経営者保証の付け替えに協力する」などと明記しておきましょう。扱いを明記しておけば、売り手も手続きを進めやすくなります。
経営者保証の解除ができた事例
M&Aや事業承継を行うためには、経営者保証を解除しておくとスムーズに手続きを進められます。実際に、どのような対応を行うことで、保証が解除できたのかを知っておきましょう。ここでは、3つの事例を紹介するため、参考にしてください。
法人個人の分離により解除ができた事例
A社は親族内承継の実施を決め、保証解除に動き出しました。金融機関から、「スムーズに事業承継を行うためには、法人個人の分離が必要」と指摘されていたからです。A社の場合、法人の経理と経営者の家計が分離できていない点が問題になっていました。
その後、A社では事業承継を進めるために、前経営者と後継者の両方で、保証解除を行うための対策を実施しています。具体的には、事業承継・引継ぎ支援センターの「事業承継計画策定のための専門家派遣制度」を活用しました。支援により承継計画を策定し、経営者への貸付金解消を実行しています。
その結果、金融機関から承継計画の実現性を評価され、前経営者と後継者両方の保証解除を実現しました。保証がなくなることで負担が減り、事業で新しい挑戦が行いやすい環境となっています。
財政基盤の強化により解除ができた事例
財政基盤の強化により、保証を解除できた事例もあります。B社は事業承継を行ううえで、経営者保証がネックになっていました。専門家に相談した結果、企業の収益だけでは借入金の返済ができるか怪しく、解除が難しい状態であると指摘を受けています。
その後、B社は保証解除に向けて経費を削減し、返済原資の増加を進めました。また、中小企業振興センターの専門家派遣制度を利用し、中小企業診断士の派遣をしてもらい、経営改善にも力を入れています。
取り組みにより収益力が改善したB社は、「特別保証制度」が利用できるようになりました。既存の融資を借り換え、保証料率の軽減に成功しています。月々の弁済額も減ったことから、資金繰りの改善もできています。
経営の透明性確保により解除ができた事例
経営の透明性を確保し、保証を解除できたのがC社です。C社は事業承継を行う際に、後継者が保証を引き継ぐことを懸念していました。メイン金融機関に相談したところ、保証の解除に前向きではなかったため、サブメイン金融機関に相談して保証解除に動いています。
C社の課題は、財務内容への信頼性でした。資産を金融機関に説明できる資料がなく、金融機関もC社を評価できる情報を持っていなかったからです。
解決に向けて、まずは法人資産の正確性を担保しました。具体的には、専門家に事業性評価書を作成してもらい、経理処理の正確性を担保しています。また、C社の商的流通も正確に把握できるようになりました。
さらに、経営の透明性が確保されることで、金融機関がC社の状況を確認できるようになりました。また、保証解除に向けての資料作成にも役立っています。最終的には、サブメイン金融機関の保証を解除でき、負担が軽減されました。
参照元:中小企業庁「事例でみる経営者保証の解除~課題解決のポイントとその効果」
まとめ
経営者保証とは、金融機関などから融資を受ける際に、経営者自身が保証人になる制度のことです。中小企業の多くは、資金調達を行うために利用しています。
しかし、M&Aや事業承継では、保証がネックになるケースが多い状況です。たとえば、後継者が保証を嫌がり、後を継ぎたくないと考えてしまいます。
M&Aや事業承継をスムーズに進めるためには、保証を解除したり、買い手に引き継いでもらったりと、対策をしなければなりません。専門家に相談し、どのような対応が適切かを考えましょう。
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