吸収合併消滅会社とは?必要になる手続きや決算公告のポイントを解説

2023年12月19日

吸収合併消滅会社とは?必要になる手続きや決算公告のポイントを解説

このページのまとめ

  • 吸収合併後に残る会社を「存続会社」、消滅する会社を「消滅会社」という
  • 吸収合併消滅会社は、吸収合併で権利義務を譲渡し消滅する会社のこと
  • 吸収合併消滅会社も決算公告や税務申告が必要
  • 吸収合併消滅会社の従業員の雇用契約は存続会社において基本的に継続される
  • 吸収合併消滅会社が手続きを進める際、専門家の協力を仰ぐのがおすすめ

吸収合併が決定した吸収合併消滅会社の経営者の方の中には、「従業員の雇用は守られるのか」「必要な手続きを知りたい」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。吸収合併において、消滅会社の権利義務は、存続会社に承継されることを押さえておきましょう。

本記事では、吸収消滅会社に必要な手続きや従業員への対応、決算公告のポイントを解説します。吸収合併の手続きがスムーズに行えるように、ぜひ参考にしてください。

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吸収合併消滅会社とは 

吸収合併消滅会社とは、吸収合併を行うことで、法人格がなくなってしまう会社のことです。

吸収合併されて消滅してしまう会社を「消滅会社」、他の会社を吸収し存続する会社を「存続会社」といいます。

消滅会社とは

消滅会社とは、吸収合併で自社の権利義務すべてを譲渡し、なくなってしまう会社のことです。M&Aの場合は、売り手企業にあたります。

消滅会社は吸収されることで、経営が安定しやすくなります。M&Aの買い手は企業規模が大きかったり、業績が好調であったりするためです。消滅会社の経営が良くない状況でも、合併を行うことで経営が安定し、従業員の雇用を守ることが可能になります。従業員の雇用だけでなく、消滅会社の権利や義務は、基本的に存続会社に引き継がれます。

消滅会社となるのは、存続会社よりも規模が小さく、後継者が見つからない会社であることが多いといえるでしょう。

存続会社とは

存続会社とは、合併を行うことで、消滅会社の権利義務すべてを引き継ぐ会社のことです。M&Aでは買い手企業にあたります。

存続会社は、権利義務を引き継ぐことで、経営資源を獲得できます。人材獲得や販路の拡大、新規事業の進出などを実施できるでしょう。また、合併にて消滅会社の資産、負債もすべて引き継ぎます。決算書上で、事業規模を大きく見せられる効果があることに加え、株主を含めた投資家の期待が大きければ、株価の値上がりも期待できます。

存続会社は規模が大きく、消滅会社を吸収できるだけの財政基盤を持つことが一般的です。

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吸収合併とは

吸収合併とは、1つの会社が合併を行うほかの会社を吸収し、権利義務のすべてを引き継ぐM&Aスキームのことです。

会社法第2条27号では、「会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう」と定義されています。

吸収合併を行うと、消滅会社の株式の代わりに存続会社の株式が交付され、消滅会社の株主は存続会社の株主になります。ただし、消滅会社の株主に対して存続会社の株式ではなく、金銭などを交付することも可能です。

参照元:国税庁「会社法

新設合併との違い

新設合併とは、既存のすべての法人格が消滅し、新設会社へ権利義務を承継させる合併のことです。下記表に、吸収合併と新設合併の違いをまとめました。

吸収合併新設合併
法人格の消滅存続会社のみが残り、他のすべての法人格が消滅すべての法人格が消滅。存続会社は存在しない
権利・義務の承継存続会社が承継新会社が承継
許認可の承継存続会社が承継承継できない
上場の維持不可。改めて新規上場の申請の必要あり
株主への交付株式・社債・現金株式・社債等
登録免許税の算出資本金の増加分×0.15%資本金×0.15%
効力発生日契約で定めた日。登記は効力発生から2週間以内に行う会社成立日。登記は効力発生と同時に行う

吸収合併と新設合併の主な違いは、法人格が残るのか、すべての法人格が消滅し新会社を設立するのかという点にあります。

上記のとおり、新設合併によって誕生する新設会社は、事業に必要な許認可を承継できないため、新規取得か引継ぎの手続きが必要です。また、上場が維持できないため、新規上場申請も行わなければなりません。このように手続きが煩雑になるため、吸収合併と比べてあまり採用されない傾向にあります。

吸収合併のメリット・デメリット

ここからは、吸収合併のメリットとデメリットを解説します。

吸収合併のメリット

吸収合併のメリットとしては、主に以下の3点が挙げられます。

  • 統合効果を早期に実感しやすい
  • 新設合併よりも手続きがしやすい
  • 存続会社の株式を合併の対価にできる

統合後も双方が経営を継続する株式譲渡に比べ、吸収合併では存続会社のみにまとまるため、スピード感をもって経営理念や方針の共有を行うことが可能です。そのため、早期にシナジー効果を実感しやすい点がメリットといえます。

吸収合併は、手続きがしやすいこともメリットの1つです。例えば新設合併であれば、新たに法人を設立し、そこに事業を移すことになるため、数多くの手続きが必要です。しかし、吸収合併の場合、許認可は承継会社が承継できます。また、上場の維持も可能です。

さらに、吸収合併では合併の対価を株式や社債で支払えるため、存続会社側はM&Aのために資金調達をする必要がありません。

吸収合併のデメリット

メリットの多い吸収合併ですが、以下のようなデメリットも存在します。

  • 株式譲渡に比べると手続きが煩雑
  • 取引の規模が縮小する可能性がある
  • 現場の負担が大きくなりやすい

吸収合併は、存続会社以外の会社は消滅するといった性質上、会社法によって手続きの進め方が細かく規定されています。そのため、前述のように新設合併に比べると手続きがしやすいものの、株式譲渡と比較すると求められる手続きが多く、煩雑である点がデメリットです。

また、消滅会社と存続会社が同じ会社と取引をしていた場合、吸収合併後は存続会社のみとの取引となるため、取引の規模が縮小する場合があります。

そのほか、吸収合併では効力発生日から1つの会社として運営がスタートするため、現場の負担が大きくなりやすい点にも考慮が必要です。

関連記事:吸収合併とは?メリットや手続きの方法、新設合併との違いを解説

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吸収合併で消滅会社が行う手続きの流れ

吸収合併で、消滅会社が行う手続きの流れを知っておきましょう。基本的には、次のような手続きが必要になります。

  1. 合併契約書の作成と締結を行う
  2. 合併契約書の事前開示を行う
  3. 株主総会で合併の承認を受ける
  4. 官報公告を実施する
  5. 反対株主の株式買取請求に対応する
  6. 債権者保護手続きを行う
  7. 吸収合併の効力が発生する
  8. 登記手続きを行う

それぞれのプロセスに関して解説するため、参考にしてください。

1.合併契約書の作成と締結を行う

まずは吸収合併実施に向けて、合併契約書の作成と締結を行いましょう。合併契約書は条件面を記載した契約書です。会社法第749条にもとづき、次のような内容を示します。

  • 消滅会社の商号・住所
  • 存続会社の商号・住所
  • 合併対価の支払い方法に関する取り決め
  • 株主に対する割当てに関する事項
  • 新株予約権者に対する対価と割当て
  • 効力発生日

合併契約書に記載漏れがある場合、契約書の効力が発揮されないため注意してください。

また、合併契約書を作成する前に、条件に関して十分に話し合っておきましょう。契約書を作成した段階で、条件に関しては合意できている状況が必要です。

さらに、契約を締結するためには、それぞれの会社で正式な意思決定と承認が求められます。取締役会で承認を得てから、合併契約書を締結しましょう。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第749条

2.合併契約書の事前開示を行う

合併契約書の締結後は、契約内容の事前開示を行いましょう。株主や債権者などから承認を得る、もしくは異議を申し出る機会を与えなければならないからです。

会社は株主や債権者に、合併に関する意思決定を行うための情報提供を行います。合併契約内容の事前開示書類を公開しましょう。

3.株主総会で合併の承認を受ける

吸収合併を行う際には、株主総会で承認を受ける必要があります。吸収合併は組織再編行為であり、会社の組織が大きく変わってしまうからです。合併契約書で定めた、効力発生日の前日までに、株主総会で承認を得ましょう。

承認を得るためには、特別決議を実施します。特別決議とは、議決権を持つ株主のうち過半数が出席し、出席した株主の3分の2以上が賛成した場合、承認される決議方法です。株主は、事前に公開された書類や株主総会の招集通知をもとに、合併可否の判断を行います。

ただし、要件を満たす場合は、株主総会の省略が可能です。要件を満たす場合を簡易合併と呼び、特別決議がなくても合併を実施できます。

4.官報公告を実施する

官報公告とは、官報に情報を掲載し、一般に知らせることです。株式会社の場合、吸収合併を行う際は、法律で官報公告の実施が義務付けられています。

吸収合併の実施は、自社の財政状況や事業状態に大きな変更をもたらします。事業状態の変更は、会社の利害関係者にあたる、株主や債権者にも影響を与えるでしょう。株主には株主の権利があり、合併に対する意思を反映できます。しかし、債権者は株主よりも権利が制限されており、必要な情報も手に入らない点がネックです。

官報公告は、債権者の権利保護を行う観点からも実施しなければなりません。官報公告では、「合併の対価に関する情報」「計算書類の情報(賃借対照表など)」を掲載しましょう。

5.反対株主の株式買取請求に対応する

反対株主の株式買取請求に対応し、株主の権利を保護しましょう。反対株主の株式買取請求とは、合併に反対している株主が、会社に対して朋友している株式を買い取るように請求できる権利のことです。

吸収合併を行う際には、特別決議で株主の承認を得ます。しかし、特別決議は株主全員の承認を得る決議ではありません。そのため、反対する株主も現れます。反対株主の株式買取請求は、吸収合併に反対する株主の権利を守る方法です。反対株主の株式買取請求により、株主は投資している資金を回収する手段を得ます。

株式の買取価格に関しては、会社と反対する株主で相談します。もし、協議で決定できない場合には、裁判所の決定に従いましょう。

6.債権者保護手続きを行う

株主と同様に、債権者を守る手続きも必要です。債権者は会社に対して金銭などの請求権を持っており、外部の利害関係者にあたります。ただし、債権者は株主と違い、株主総会の決議には参加できません。そのため、会社法に従い債権者を守る手続きを行う必要があります。

債権者保護手続きでは、合併に関する公告または個別催告と、事前開示書類の公開を行います。次のような内容を公告しましょう。

  • 組織再編を行うこと
  • 会社の商号
  • 計算書類
  • 合併に対する異議を述べられること

債権者からの異議がない場合、吸収合併に同意したとみなされます。もし、債権者から異議申し出があった場合には、次のような方法で対応を行いましょう。

  • 弁済
  • 担保の提供
  • 財産の信託

もし、吸収合併で債権者の権利が侵害されない場合、個別の対応は不要になります。債権者に不利にならない状況では、権利保護は必要ないと定められています。

7.吸収合併の効力が発生する

効力発生日を迎えると、吸収合併の効力が発生します。効力発生日を機に、存続会社は消滅会社の権利義務すべてを引継ぎます。登記日ではなく、契約書に記載した効力発生日が基準になることを覚えておきましょう。

また、吸収合併に必要な手続きは、効力発生日までにすべて終わらせておきましょう。もし、手続きが終わっていない場合、契約書の効力が発揮されません。

効力発生後は、事後開示書類の備置を行いましょう。合併に関する手続きの経過、引き継いだ権利義務などを記載します。事前開示書類は、効力発生日から半年間、本店に保管してください。

8.登記手続きを行う

最後に、吸収合併に関する登記手続きを行いましょう。効力発生日から2週間以内に実施しなければなりません。

吸収合併の場合、「存続会社の変更登記」と「消滅会社の解散登記」の2つが必要になります。登記を行う場合には、次のような書類を準備しましょう。

  • 吸収合併契約書
  • 吸収合併契約の承認に関する株主総会議事録
  • 吸収合併契約の承認に関する取締役会議事録
  • 債権者保護手続きに関する書面
  • 登録免許税法施行規則第12条第5項の規定に関する証明書
  • 委任状

解散登記を行う場合には、委任状などの添付書類は不要です。また、解散登記の登録免許税は3万円になるため、準備しておきましょう。

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吸収合併消滅会社と存続会社で行われる手続きの違い 

吸収合併を行う場合、吸収合併消滅会社と存続会社では実施する手続きが異なります。次のような手続きが異なるため、確認しておきましょう。

  1. 事前開示情報の扱い
  2. 株主への対応
  3. 効力発生日以降に承継される権利義務に関する手続き
  4. 事後開示手続き

それぞれの手続きの違いに関して、解説します。

1.事前開示情報の扱い

事前開示情報とは、債権者や株主が、吸収合併に関する意思決定を行うために必要な情報です。消滅会社と存続会社で記載する情報が変わるため、確認しておきましょう。

合併対価の相当性に関する事項

合併対価の相当性とは、合併での買取対価をどのように決定しているかの情報です。買取対価は、消滅会社と存続会社が認識している企業価値の相違を前提に、合併後の価値も考慮して決定します。

消滅会社にとって買取対価は、自社が受け取る金額になるため重要です。また、存続会社にとっては支払う金額であるため、慎重に決めなければなりません。さらに、存続会社の場合は、金額が税務申告や確定申告、会計処理にも影響を与えます。

合併対価の相当性に関する事項では、どのような前提で買取対価を決定したか、株主や債権者が意思決定を行う参考にするために開示します。株主や債権者は情報をもとに、合併を認めるか判断しなければなりません。

消滅会社と存続会社ともに、合併対価の前提を示します。加えて、消滅会社は合併対価を決定した方法に関しても、詳細を示すようにしましょう。

決算情報

事前開示では、決算情報も開示します。決算情報に関しては、消滅会社と存続会社で記載内容に大きな違いはないため覚えておきましょう。

決算情報では、計算書類を開示します。「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」など、直近の決算期のものを開示しましょう。

2.株主への対応

吸収合併を行うためには、消滅会社と存続会社両方で株主からの承認を得る必要があります。次のような対応が必要になるため、会社ごとの手続きを確認しておきましょう。

  • 反対株主の株式買取請求権
  • 新株予約権買取請求
  • 登録株式質権者への対応
  • 登録新株予約権質権者への対応
  • 株券提供公告

それぞれの特徴に関して、解説します。

反対株主の株式買取請求権

消滅会社と存続会社ともに、反対株主の株式買取請求権への対応が必要です。まずは株主総会を開催し、吸収合併に関する特別決議を行いましょう。

吸収合併に反対する株主は、会社に対して株式の買取請求を行えます。買取請求に関しては、効力発生日の20日前から、前日までの間に実施しなければなりません。株主から請求があった場合には、対応しましょう。

新株予約権買取請求

新株予約権買取請求は、消滅会社の新株予約権者のみに発生する権利です。存続会社の新株予約権に関しては、発生しません。

吸収合併消滅会社の新株予約権者は、吸収合併によって新株予約権が当然に消滅します。このとき、「新株予約権が承継される旨と条件が定められている場合に、条件に合致する新株予約権の承継がされない場合」は、新株予約権買取請求権が発生します。

登録株式質権者への対応

登録株式質権者とは、株式に質権を設定しており、株主名簿に記載されている質権者のことです。登録株式質権者も、株主同様に吸収合併の影響を受けます。そのため、官報公告や個別催告を実施し、吸収合併を行う旨を告知しなければなりません。

登録新株予約権質権者への対応

登録新株予約権質権者とは、新株予約権に質権登録、設定している者です。登録株式質権者同様、吸収合併の影響を受けることから、官報公告や個別催告を実施し、情報を開示しなければなりません。

株券提供公告

株券提供公告とは、合併を行うために保有している株券の提供を行うと知らせるための公告です。吸収合併消滅会社が行います。

ただし、株券の不発行を定款で定めている企業は、株券がないため株券提供公告は不要です。また、非公開会社の場合は、株主名簿に株券不所持の申し出があると記載すれば、株券提供公告を代用できます。

3.効力発生日以降に承継される権利義務に関する手続き

吸収合併で承継される権利義務に関する、手続きも必要です。固定資産や銀行口座など、承継に向けて手続きを行いましょう。

不動産の移転登記

消滅会社が所持している不動産は、存続会社に引き継がれます。不動産の権利を移転するために、移転登記を行いましょう。

存続会社に引き継がれるタイミングは、効力発生日です。効力発生日後に移転登記を実施し、登記を存続会社に変更しておきましょう。

銀行口座の名義変更

消滅会社の持つ銀行口座も名義変更を行いましょう。効力発生日以降に、存続会社の名義に変更します。

銀行口座は、営業関連の支払いや回収、税務申告などで使用する場合もあります。忘れずに名義変更を行ってください。もし、名義変更を忘れてしまうと、振込などの場面で対応できなくなる場合があります。

4.事後開示手続き

存続会社のみ、事後開示の手続きが必要です。効力発生日から6ヶ月の間、会社法施行規則第200条で定められた、次の内容を開示しましょう。

  • 効力発生日
  • 消滅会社および存続会社で行った「吸収合併差止請求手続」「反対株主の株式買取請求手続」「新株予約権買取請求手続」「債権者保護手続」の経過
  • 存続会社が承継した重要な権利義務に関する事項
  • 消滅会社において事前開示事項として備え置いた書面または電磁的記録に記載または記録された事項
  • 合併に関する変更登記の実施日
  • そのほか合併に関する重要な事項

事後開示書類を設置する目的は、合併無効を訴える判断を行うための情報提供になります。

吸収合併では、存続会社、消滅会社ともに、多くの手続きが必要です。吸収合併の立場によっても必要な手続きが変わるため、不備がないように行いましょう。また、手続きには専門的な知識も求められます。M&A仲介会社のような専門家に相談し、スムーズに手続きが行えるようにしましょう。

参照元:e-Gov法令検索「会社法施行規則第200条

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吸収合併消滅会社の従業員への対応 

吸収合併後の従業員の処遇を懸念している、吸収合併消滅会社の経営者の方は多いでしょう。ここからは、吸収合併消滅会社の従業員への対応を解説します。

雇用契約

吸収合併後も、会社法第750条に基づき、吸収合併消滅会社の従業員の雇用契約は基本的に継続されます。吸収合併を直接の理由とする解雇やリストラは、行われないと考えてよいでしょう。

参照元:e-Gov法令検索「会社法第750条」

労働条件

吸収合併消滅会社の権利義務は、吸収合併後も包括的に承継されるため、雇用契約だけでなく給与や福利厚生などの労働条件も引き継がれることが一般的です。

ただし、例えば給与に関しては、そのままでは存続会社と消滅会社の2つの給与体系が存在することになるため、いずれは存続会社の給与体系に合わせていく傾向にあります。吸収合併後に行われる企業再編によって、配置転換などが実施されることも少なくありません。

退職金制度についても、吸収合併の直後は合併前の規程が引き継がれたとしても、いずれは存続会社の制度に統一されることがほとんどです。

吸収合併消滅会社の決算と決算公告 

吸収合併消滅会社は、合併を機に財産や資産をすべて承継します。その際、消滅会社の株主は存続会社の株主になることから、清算手続きは不要です。しかし、決算と決算公告に関しては、実施が必要になるため注意してください。

決算

吸収合併消滅会社は、効力発生日の前日を決算日にして、決算を行いましょう。効力発生日に、存続会社が権利義務すべてを承継するからです。この際、合併自体の処理は不要になります。

事業年度の中途で吸収合併による解散をした場合には、事業年度の開始日から、合併日の前日までを事業年度にしましょう。合併契約書に記載された、効力発生日を基準にします。新設合併と吸収合併では、合併日が異なるため注意してください。

決算公告

株式会社が決算を行う場合、大規模な企業は貸借対照表と損益計算書、または賃借対照表のみの公告が必要です。消滅会社が最終の決算を行った際も、会計処理と決算公告を実施しましょう。消滅する場合でも、決算公告と税務申告は必須です。

消滅後も5年間は決算公告が必要

電子公告で決算公告を行う場合は、計算書類承認後5年間を経過するまで、自社のWebサイトで決算公告を掲載しなければなりません。

消滅会計の決算公告に関しては、存続会社のWebサイトに掲載しましょう。消滅会社は消滅してしまい、掲載が行えなくなるからです。そのため、消滅会社の決算公告は、存続会社に対して開示義務が課せられます。

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吸収合併消滅会社の従業員に対する通知義務

吸収合併消滅会社の従業員に対して、吸収合併を実施することを事前に通知したり同意を得たりすることは、義務づけられていません。先の章でお伝えしたように、吸収合併消滅会社が従業員と締結していた雇用契約は、存続会社に引き継がれるためです。

しかし、吸収合併後も吸収合併消滅会社の既存のすべての部署が維持され、まったく同じ働き方を続けられるとは限りません。吸収合併後に、組織再編が行われる可能性が高いと考えられます。そのため、自身の処遇を不安に思う、吸収合併消滅会社の従業員は多いでしょう。

従業員のモチベーション低下を防ぎ、少しでも不安を解消できるように、吸収合併の実施をあらかじめ説明することが重要です。

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吸収合併を実施する3つのポイント

吸収合併を行う際は、次の3つのポイントが大切です。

  1. 余裕のあるスケジュールを組む
  2. 従業員に十分な説明を行う
  3. 専門家に相談する

それぞれのポイントを解説するため、参考にしてください。

1.余裕のあるスケジュールを組む

吸収合併成立まで、余裕のあるスケジュールを組みましょう。M&Aを行う際は、事前に条件を入念に話し合うことが大切です。余裕のあるスケジュールがあれば、話し合いを十分に行う時間が確保できるでしょう。

また、吸収合併を行う際には、株主や債権者への対応も必要です。株主総会の通知や債権者保護手続き、反対株主の買取請求の手続きを行う場合、時間が掛かります。効力発生日からスケジュールを逆算して、余裕のある期間を設定するようにしましょう。

2.従業員に十分な説明を行う

吸収合併を行う場合、従業員に対して十分な説明を行いましょう。職場環境や経営方針が変わることで、ストレスを感じたり、モチベーションが下がったりする従業員も発生するからです。

吸収合併の場合、雇用条件も承継されることから、労働条件に変化はありません。しかし、消滅会社から存続会社に環境が変わることに納得できず、退職を考える従業員も現れます。

合併を成立させる前に、従業員と話し合う機会を設けましょう。従業員のケアを行い、合併後もメンタルに影響がないか気に掛けることが大切です。

3.専門家に相談する

吸収合併を成立させるために、専門家に相談しましょう。複雑な手続きや契約書作成など、専門家の知識が欠かせません。

吸収合併であれば、M&A仲介会社がおすすめです。自社だけで進めようとせず、信頼できる専門家に相談しましょう。

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まとめ

吸収合併消滅会社とは、吸収合併によって権利義務を存続会社に譲渡し消滅する会社のことです。吸収合併によって得られるメリットとしては、統合効果を早期に実感しやすいことや、新設合併よりも手続きが容易なことが挙げられます。存続会社の株式を合併の対価にできるため、存続会社はM&Aのために資金調達をする必要がない点もメリットです。

吸収合併が行われても、雇用契約はそのまま存続企業に引き継がれるため、従業員の雇用は守られます。吸収合併を理由として、解雇やリストラが実施されることはありません。しかし、吸収合併後に大規模な企業再編が行われ、配置転換や管理職の降格などが行われる可能性があります。

吸収合併に際して、従業員に対して事前に通知したり同意を得たりすることは義務づけられていません。それでも、吸収合併後の処遇に不安を覚える従業員は多いと考えられます。不安や混乱を少しでも防ぐために、事前に吸収合併の決定を従業員に丁寧に伝えておくことが大切です。

吸収合併消滅会社も、決算公告や税務申告などが必要です。吸収合併の手続きは煩雑であるため、M&A仲介会社をはじめとする専門家に相談しながら進めることをおすすめします。

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