【SPC(特別目的会社)のすべて】目的や役割から、主な事例まで解説
2023年11月20日
このページのまとめ
- SPCは資金調達や資産の流動化、リスク分散を目的に設立される特別目的会社
- SPCを利用したスキームには「GK-TK」「TMK」「LBO」などがある
- SPCは「少ない資金でM&Aが実行できる」「資産を守れる」などがメリット
- SPCは「運用コスト増」「負債増」「コミュニケーション煩雑」などがデメリット
- SPCを利用したM&Aは複雑なため専門家のサポートが重要
「SPCとはなんだろう」「M&Aでどのように活用するのだろう」と知りたい経営者も多いことでしょう。SPCは特別目的会社とも呼ばれ、資金調達や資産の流動化、リスク分散などを目的に設立される会社です。M&Aでは、LBO(レバレッジド・バイアウト)を行う際にも使用されます。
本コラムでは、SPCの概要や設立の目的、メリット・デメリットなどを解説します。M&Aでの活用法や事例も解説するため、参考にしてください。
目次
SPC(特別目的会社)とは
SPC(Special Purpose Company)は、日本語で「特別目的会社」と訳されます。特別目的会社とは、資金調達や企業が所持している資産の流動化を目的に設立する会社です。M&Aや不動産開発など、多額の資金調達が必要な場面で利用されます。
SPCの仕組みを簡単に説明しましょう。まず、企業はSPCを設立し、保有している資産をSPCに売却します。すると、SPCは獲得した資産の信用を担保に、資金調達が実施できるようになります。
また、SPCはSPC法にもとづいて設立される会社です。SPC法により、営利目的の事業が実施できないようになっています。そのため、資金調達や資産の管理に関しては、親会社が行うことがポイントです。
SPVやSPEとの違い
特別目的会社を英語にした場合、「SPE(Special Purpose Entity)」「(SPV)Special Purpose Vehicle」などと呼ばれる場合もあります。SPVとSPEは特別目的事業体と言われており、基本的な意味合いはSPCと変わりません。
ただし、法人格を所持している場合は、SPCと呼ばれるケースが一般的になります。
SPACとの違い
SPACとは、「Special Purpose Acquisition Company」の頭文字をとったものです。日本語では、特別買収目的会社と呼びます。
SPAC(特別目的会社)は、非公開会社の買収を目的に設立する企業です。上場したあとに資金調達を行い、その資金をもとに非公開会社を買収します。その際、買収先の企業とSPACを合併させることで、買収先企業が上場の手続きを取ることなく上場できるようになります。
SPCの目的は、資金調達や資産の流動化です。SPACは非公開会社を上場させるために設立を行うことから、両者では設立の目的が大きく異なります。
ペーパーカンパニーとの違い
ペーパーカンパニーとは、登記は行われているものの、事業が行われていない会社のことです。資金調達や資産の移動だけを目的に設立されるSPCも、ペーパーカンパニーと混同される場合があります。
しかし、SPCは資金調達などを行う目的で設立され、設立後は目的を果たします。事業を行わないペーパーカンパニーとは、実質的に異なっています。
海外におけるSPC
海外でもSPCは一般的な経営手法として活用されており、SPCよりも広範な意味を持つSPV(Special Purpose Vehicle)として知られています。
日本と海外でのSPC・SPV活用の主な違いは、投資をより活発に行うことが目的とされている点と言えるでしょう。海外では法人税率が低く、投資に関する規制が緩い国や地域も少なくありません。SPC・SPVを設立することで投資時の節税が期待でき、そのために活用されている点が日本との違いです。
一方で、SPC・SPVを実行する親会社が存在する国とは別の国で、主に租税回避を目的として設立されるオフショアSPC・SPVはグローバルで問題視されています。
この行為は「タックスヘイブン」と呼ばれる諸外国・地域が対象であり、しばしば現地の一般国民らから不満が噴出し、各国で問題視されています。2016年の「パナマ文書」事件を通して本課題を認識されている方も多いかもしれません。
SPC法とは
SPC法とは、「資産の流動化に関する法律」のことです。投資家による投資を簡単にする目的で施行されました。
SPC法は、2000年に改正が行われています。改正前は「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」であり、1998年に施行されています。
しかし、改正前の法律は、金融危機に対する特別法としての位置づけが強くありました。その後、資産流動化の制度を確立しなければならないと考えられるようになり、次のような改正が行われています。
- 対象となる資産が、不動産や指名金銭債権のみから財産権一般に拡大された
- SPC設立の手続きが簡単になった
- SPCが発行する証券の商品性を改善した
- 資産取得のための借入れが可能になった
- 規制が簡素化された
改正に伴い、「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」から「資産の流動化に関する法律」に名称が変更されています。現在では、「資産の流動化に関する法律」がSPC法として扱われています。
SPC法で設立した会社と、会社法で設立した会社には違いがあります。具体的には、次のような点で異なります。
SPC法で設立した会社 | 会社法で設立した会社 | |
資本金 | 10万円以上 | 1円以上 |
登録免許税 | 3万円 | 15万円 |
役員 | 最低、取締役1名と監査役1名 | 最低、取締役1名 |
必要な届出 | 内閣総理大臣 | 不要 |
事業開始までの流れ | 資産流動化計画を作成したあとに、業務開始届出が必要 | 会社設立後すぐ、事業開始が可能 |
SPC法を利用した会社の場合、会社法を利用して設立した会社よりも手間がかかります。そのため、会社法で設立した会社を、SPCと同じ目的で使用する場合もあります。
SPCの目的や役割
SPCを使用するか判断するために、目的や役割に関して知っておきましょう。M&Aでの活用方法も解説するので、参考にしてください。
まず、SPCを設立する目的には、次の3つがあります。
- 投資家に投資してもらいやすくする
- 不動産投資の投資単位を小口化する
- 特定事業を完遂するためにリスクを分散する
投資家に投資してもらいやすくする
投資家に投資してもらいやすくするために、SPCは不動産を証券化する目的でも使用されます。不動産の証券化が、資金調達のしやすさにつながるからです。
不動産を証券化すると、投資家は有価証券を購入できるようになります。不動産購入ではなく有価証券を購入すれば、間接的に不動産開発事業に投資できるようになります。
また、有価証券には配当金があり、投資家に利益還元が可能です。利益還元が行えるようになれば、投資家の注目が集まり、投資してもらいやすくなります。
不動産投資の投資単位を小口化する
有価証券の単価を抑えれば、投資家はさらに投資しやすくなります。通常の不動産開発では投資額が高額になり、投資できる人物が限られるからです。
投資がしやすくなれば、企業は資金調達を行いやすくなります。事業をスムーズに進めるために、SPCの設立が行われます。
特定事業を完遂するためにリスクを分散する
また、SPCのもう1つのメリットとしては、特定事業を複数企業や団体で完遂するため、リスク分散の受け皿になることと言えるでしょう。この最たる例として、PFI事業における活用が挙げられます。
PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)とは、道路の建設や水道の整備などの政府や自治体が担う公共事業を、民間事業者に委託する手法の1つです。
民間事業者は事業運営による対価を得られますし、政府や自治体としても民間事業者の高品質なサービスを活用できつつ、内製化のコストを抑えられるなど、双方にメリットが存在します。このPFIにて公募事業を落札した民間事業者がSPCを設立します。複数の入札企業がSPCの株主となり、各企業の得意領域における知見を活かしながら、協力して受注した公共事業を推進していきます。
PFIでSPCが用いられる主な目的は、落札した民間事業者自身とSPCを独立させることにより、個別の事業体の倒産や撤退といったリスクを回避することです。
PFIを発注する自治体などの公共団体側にとっても、受託した各企業の経営状況に左右されず、SPCによって当該の公共事業を推進できるため、リスク回避が可能です。
このように、特定の事業を完遂させるためのリスク分散策としてSPCが用いられるケースもしばしば存在します。
M&Aでの活用方法
M&Aの場面では、LBOで利用されるケースがあります。LBOとは、SPCが高利率で金融機関から買収資金を借り、借りた資金で売り手と合併を行い、買収資金を金融機関に返済する方法のことです。
LBOの活用により、手元に資金が少ない場合でもM&Aが実行できるようになります。ただし、買収後には借り入れした資金の返済が必要になる点は注意しましょう。
SPCの5つのメリット
SPCの活用には、次の5つのメリットがあります。
- 親会社に対して与信判断の影響が起きない
- オフバランス化が実施できる
- 少ない資金でM&Aができる
- 資産が守れる
- 資産の切り離しが行える
それぞれのメリットを解説します。
1.親会社に対して与信判断の影響が起きない
SPCの設立により、親会社に対して与信判断の影響が起きなくなります。SPCを設立した場合、SPCに対して審査が行われるためです。この際、親会社とは切り離されて審査が行われる特徴があります。
SPCの設立により、大型の資金調達が必要なM&Aでも、買い手の信用力に頼らずに取引が実施できます。親会社への与信判断の影響を回避し、SPCが保有している資産にもとづいて資金調達を行えることがメリットです。
2.オフバランス化が実施できる
オフバランス化とは、財務諸表に取引や資産が記載されない状態のことです。優良資産をオフバランス化した場合、有利な条件で資金調達を行いやすくなることからも使用されています。
SPCを設置せずに資金調達を行う場合、支払い費用が増加し、総資産利益率や自己資本利益率が低下する恐れがあります。しかし、SPCを活用すれば、SPCの親会社の財務諸表は影響を受けません。オフバランス化を行うことで、総資産利益率や自己資本利益率を維持できるメリットがあります。
3.少ない資金でM&Aができる
少ない資金でM&Aが実行できる点も、SPCのメリットです。資金調達でLBOを使うことで、資金が少額でもM&Aが実施できます。
LBOを行う場合、LBOで使用するSPCの資本金は少額で問題ありません。少ない資本金から資金調達を実施できるため、手元の資金に余裕がない場合でもM&Aが実施できる仕組みになっています。
4.資産が守れる
SPCの親会社の資産が守れる点もSPC設立のメリットです。SPCは性質上倒産がなく、親会社ともつながりがありません。そのため、たとえ親会社が倒産してしまっても、SPCが保有する資産は守れます。
SPCは不動産の保有だけではなく、投資中の設備や売掛金も保有するケースがあります。親会社の経営にトラブルが起きた場合でも、SPCが保有する資産に影響がない点はメリットでしょう。
5.資産の切り離しが行える
資産の切り離しが行える点も、SPCを活用するメリットです。SPCの親会社から資産を切り離すことで、「総資産利益率」「自己資本比率」「総資産回転率」の改善につながります。
多くの資産を保有していると、保有している資産に相当する資金調達を続けなければなりません。企業に投資を行う投資家にとっては、望ましくない成果を生みだすこともあるでしょう。SPCで資産を切り離しておけば、財務の改善が可能になります。
SPCの3つのデメリット
SPCを活用する際は、次の3つのデメリットに注意しましょう。
- 運用コストが必要になる
- 買収対象の企業が負債を抱えてしまう
- 関係者間のコミュニケーションが煩雑になってしまう
それぞれのデメリットに関して解説します。
1. 運用コストが必要になる
SPCを活用する場合、会社法で設立した会社に比べて運用コストが必要です。
会社法で会社を設立する場合、資本金は1円で済みます。しかし、SPC法を活用した場合は、最低でも10万円の資本金が必要です。
会社法を活用する場合と比べると、設立時に資金が必要になることはデメリットでしょう。
2. 買収対象の企業が負債を抱えてしまう
SPCを使用してLBOを行う場合、買収対象の企業が負債を抱えてしまいます。SPCが金融機関から資金調達を行ったあとに、合併でSPCが消滅し、負債が買収対象の企業に引き継がれてしまうからです。
LBOを行う場合、次のような流れになります。
- 買い手がSPCを設立する
- SPCが資金調達を行う
- SPCが売り手を買収する
- SPCを消滅会社、売り手を存続会社に吸収合併を行う
LBOを行うと、SPCは吸収合併で消滅してしまいます。しかし、金融機関から借りた資金に関しては、返済が必要です。負債は吸収合併で存続する売り手に引き継がれるため、買収対象の企業が負債を抱える仕組みになります。
もし、負債が返済できなかった場合には、買収対象の企業が倒産してしまい、M&Aの失敗につながるため注意しましょう。
3. 関係者間のコミュニケーションが煩雑になってしまう
SPCでは、関係者が増えてしまうことで、設立時と設立後でのコミュニケーションコストが増大する点もデメリットと言えるでしょう。
SPCが設立された後も、SPCの主目的の1つである資金調達を行うために、複数の投資家とのコミュニケーションが欠かせません。新たな事業となるため、当然、顧客や取引先などを新しく開拓する必要も出てきます。
このようにSPCを設立することでコミュニケーションが煩雑になってしまう点は、SPCの課題の1つと言えます。コミュニケーションが煩雑になると、意思決定のスピードが遅くなったり、情報伝達ミスが増えるなど、単純に関係者間で合意形成を得るためのコミュニケーションコストが増えるといった問題につながります。
したがって、いかにコミュニケーションを簡易化し、スムーズな意思決定や情報伝達を可能にするかがSPC組成時のポイントとも言えるでしょう。
SPCを設立するための5つのスキーム
SPCを設立するためには、次の5つのスキームを活用できます。
- GK-TK(合同会社-匿名組合)
- TMK(特定目的会社)
- LBO(レバレッジド・バイアウト)
- REIT(不動産投資信託)
- PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)
それぞれのスキームに関して解説するため、参考にしてください。
1.GK-TK
GK-TKとは、合同会社と匿名組合を使用するスキームです。匿名組合とは、匿名組合契約とも呼ばれ、当事者の一方が相手の営業のために出資を行い、営業で発生した利益を得る契約形態のことです。
GK-TKはSPCを活用する際に多く使われており、海外投資家が日本国内で投資を行う際にも用いられます。
GK-TKを用いる場合、合同会社側がSPCです。「匿名組合員」と「金融機関」の2つから資金調達を行い、親会社の不動産や信託受益権を買い取ります。また、購入した資産から獲得した利益は、匿名組合員に分配し、金融期間への返済にもあてられます。
ちなみに、GK-TKは、「合同会社(Goudou Kaisha)」と「匿名組合(Tokumei Kumiai)」の頭文字をとって名づけられています。
2.TMK(特定目的会社)
TMKとは、特定目的会社を利用したスキームです。特定目的会社が投資家から資金調達を行い、不動産や信託受益権を買い取ります。購入した資産から得た利益から投資家に配当を行い、金融機関からの借り入れも返済します。
TMKを利用する際は、証券化を行う際に、資産流動化計画を策定して財務局に届けなければなりません。また、計画の変更がある場合には、社員総会を行う必要があります。取得した資産を勝手に変更できないため注意してください。
TMKのメリットは、取得できる資産に制限がない点です。キャッシュフローを獲得できる場合は、どのような資産であってもTMKが活用できます。
また、TMKを活用する場合、税金の特例措置を利用可能です。たとえば、法人税に関しては、二重課税を回避するための特例措置があります。特例措置により、投資家に支払う配当金は、損金算入を行うことで法人税控除が可能です。
3.LBO(レバレッジド・バイアウト)
LBOは、売り手企業の資産やキャッシュフローを担保に、資金調達を行うスキームです。買い手はSPCを設立し、SPCが資金調達を行います。その後、SPCと売り手企業を合併させれば、LBOが成立します。
LBOのメリットは、金融機関から資金調達を行いやすくなる点です。SPCが保有する資産は隔離され、関係者が倒産してしまうリスクから切り離されています。
また、資金が少ない場合でも、M&Aが実行できるメリットもあります。売り手企業の資産を担保にできるため、買い手の資金が少ない場合や、買い手よりも売り手の規模が大きい場合でも買収が可能です。
さらに、LBOで金融機関から借り入れた資金は、売り手企業が返済します。SPCは合併で消滅し、SPCが所持していた負債は売り手企業に引き継がれるためです。買い手からすると、負債を引き継ぐリスクもなく、M&Aを実行できます。
4.REIT(不動産投資信託)
REITとは、投資家から資金を調達し、調達した資金で不動産に投資を行い、不動産から獲得した利益で投資家に配当を行う金融商品です。不動産投資信託(Real Estate Investment Trust)と呼ばれます。
REITとSPCの違いは、使用目的です。SPCの場合、資金調達を目的に資産を獲得します。一方で、REITは不動産の購入が目的であり、投資家から調達した資金で不動産を購入します。
また、REITは不特定多数の投資家から資金を獲得する前提で作られた金融商品です。SPCは、プロやセミプロの投資家から資金調達を行う前提で設立されます。
5. PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)
既にご紹介した公共事業を行うPFIも、SPCを設立するための代表的なスキームの1つと言えるでしょう。
PFIでは、特定の事業を遂行するために複数の企業が協力し、リスク分散を主な目的としてSPCを設立します。
公共事業の発注主である政府機関や自治体が民間事業者に対して公募をかけ、応募事業者から選定を行います。選定された複数の民間事業者が、リソースを出し合い、SPCを運営する形式をとります。
SPCを設立する流れ
SPCを設立する際は、次のような流れで実施しましょう。
- SPC設立に向けて専門家に相談する
- SPC設立に必要な書類を準備する
- 代表者の印鑑を用意する
- 定款を作成し認証を受ける
- 資金を用意する
- 各種書面を作る
- 登記申請を行う
それぞれのプロセスに関して解説するため、参考にしてください。
1.SPC設立に向けて専門家に相談する
SPC設立に向けて、専門家に相談しましょう。会計や税務に関しては、会計事務所や税理士に相談します。また、設立の手続きは、司法書士事務所に相談すると良いでしょう。
相談した際には、
- 資産流動化計画の概要
- 特定社員(特定目的会社の発起人)
- 取締役(機関を構成する人
の3点を話し合えば、詳細な手続きに移行できます。
2.SPC設立に必要な書類を準備する
SPC設立に向けて、必要な書類を準備しましょう。「発起人または取締役人の印鑑証明書」が求められます。
また、設立予定のSPC(特別目的会社)の社名も決めましょう。その際、社名が法に触れていないかも確認が必要です。
3.代表者の印鑑を用意する
SPCの名前が決まれば、代表者の印鑑を用意しましょう。用意した印鑑は、SPC設立後の、会社の実印になります。
4.定款を作成し認証を受ける
相談している事務所で定款を作成し、発起人全員の実印を押印しましょう。
作成した定款は、事務所側が公証役場に出向き、公証人の認証を受けます。
5.資金を用意する
定款の認証後は、資金を用意しましょう。金融機関に特定資本金を預け、SPC設立に使用する出資金が支払われたことを証明する、「払込金保管証明書」を発行するために必要です。
払込金保管証明書の発行申し込みから発行までは、数日から1週間ほど掛かります。
6.各種書面を作る
払込金保管証明書の発行と合わせて、必要な書類を作成しましょう。書面には、発起人と役員の印鑑を押印してください。
作成した書面を使い、法務局に登記申請を行いましょう。登記申請日が、SPCの設立日になります。
7.登記申請を行う
登記申請から完了までは、数日から2週間ほど掛かります。
登記完了後は、
- 代表者印の印鑑証明書
- 代表者印の印鑑カード
- 登記事項証明書
の3点を受け取りましょう。
SPC設立に必要な6つの準備
SPCを設立するためには、次のような準備が必要です。
- 資本金
- 業務開始届出書の提出
- 登録免許税
- 定款印紙
- 取締役と監査役
- 会計監査法人
それぞれ、どのような準備が必要か解説します。
1.資本金
SPCは物件を買い取るために、出資金が必要です。自社の資本金と合わせて、「銀行からの借り入れ」と「第三者からの出資金」を調達し、出資金にします。
2.業務開始届出書の提出
SPC法にもとづいて会社を設立する場合、業務開始届出書の提出が必要です。業務開始届出書には、次のような内容を記載しましょう。
- 商号
- 営業所の名称と所在地
- 取締役と監査役の氏名・住所
- 会計参与設置会社の場合は、その旨と会計参与の氏名・名称・住所
- 主要な特定社員の氏名・名称・住所
- 資産流動化計画に関してすべての特定社員の承認があった年月日
- 当該取締役と監査役の氏名並びに当該他の法人の名称・業務の種類または当該事業の種類
また、業務開始届出書は内閣総理大臣に提出します。
3.登録免許税
SPC設立では、登録免許税が必要です。登記申請を行う場所により、登録免許税は変わります。
本店の所在地で登記を行う場合、1件につき3万円になります。また、支店の所在地で登記を行う場合は、1件につき6,000円です。
参照元:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
4.定款印紙
SPC法にもとづいてSPCを設立する場合、定款印紙は4万円です。
ただし、会社法にもとづいてSPCを設立する場合、定款印紙は4万円、電子定款の場合は定款印紙が不要になります。また、合同会社の場合は、定款印紙そのものが不要です。
SPC法にもとづく場合は、定款印紙は必須なため注意しましょう。
5.取締役と監査役
SPC設立には、取締役1名と監査役1名の設置が必要です。「資産の流動化に関する法律第67条」に従い、社員総会から設置しましょう。
参照元:e-Gov法令検索「資産の流動化に関する法律第67条」
6.会計監査法人
SPCのうち、特定社債のみを発行しており、特定目的借入額と特定社債の発行額が200億円以上の場合、または優先出資がある場合には、会計監査法人の設置が必要です。
該当しない場合には、設置は不要です。
SPCのスキーム別主な事例
最後に、SPCの5つの設立スキームごとに事例をご紹介します。
GK-TK:大森北一丁目開発事業
まず初めの事例は、合同会社(GK)と匿名組合(TK)を活用するGK-TKスキームです。
本件では、東京都大田区が、JR大森駅東口の区有地を民間事業者からなるSPCに50年の一般定期借地権を設定しました。このSPCは丸紅株式会社を代表企業とする民間事業者グループにて構成され、当該土地に商業店舗や図書館などを含んだ複合施設を建設しています。
丸紅を代表とするSPCは、「合同会社大森開発」として組成され、丸紅自身や民間金融機関、匿名組合などから資金を調達し運営されています。
参照元:国土交通省 「不動産証券化手法を用いたPRE 民間活用のガイドライン」p20
GK-TKスキームを活用する狙い
大田区は、丸紅グループがアセットマネージャーなどの形で関与することを本件の主条件として設定し、借地権を第三者である民間事業者へと譲渡することで、大森駅東口における不動産の流動性を高めることが狙いの1つでした。
これらは不動産信託受託権の証券化と呼ばれ、オリジネーターである大田区側には、登録免許税や不動産取得税といった流通税を軽減し投資を行いやすくするメリットがあります。
また、SPCを組成する民間事業者側にとっては、匿名組合を活用することで二重課税を回避できるメリットも存在します。これは、匿名組合が正確には法人格を有していないことで説明が可能であり、その匿名組合の営業先となる合同会社は支払う配当金を損金算入できるためです。すなわち、実質的な課税所得をゼロにできるということが「法令解釈通達」にて定められています。
法人が匿名組合員である場合におけるその匿名組合営業について生じた利益の額又は損失の額については、現実に利益の分配を受け、又は損失の負担をしていない場合であっても、匿名組合契約によりその分配を受け又は負担をすべき部分の金額をその計算期間の末日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入し、法人が営業者である場合における当該法人の当該事業年度の所得金額の計算に当たっては、匿名組合契約により匿名組合員に分配すべき利益の額又は負担させるべき損失の額を損金の額又は益金の額に算入する。
したがって、「合同会社大森開発」は本取引における法人税の支払いを回避することができ、二重課税を避けられるということになります。
参照元:国税庁 「法令解釈通達 第1款 組合事業による損益 (匿名組合契約に係る損益)」
TMK:宮崎駅西口 拠点施設整備事業
続く事例として、TMK(特定目的会社)を活用した宮崎市における拠点施設の開発事業について解説します。
本件が開始された当時、宮崎県と宮崎市が保有するJR宮崎駅前の土地が未利用のままとなっており、そこに民間事業者のリソースやノウハウを活用することで、土地および周辺地域全体の活性化を図ることが主な目的でした。
県内の民間事業者は、SPCである「宮崎グリーンスフィア特定目的会社」を設立し本件へ参画することとなり、ホテルやオフィスなどの複合施設、多目的広場、立体駐車場などを建設しました。
参照元:内閣府・国土交通省「地方創生に資する不動産流動化・証券化事例集」p13
TMKを活用する狙い
本件の計画がリーマン・ショック期ということで、資金調達が非常に困難であったことから、TMKが活用されたと推測されるでしょう。
なぜなら、GK-TKが会社法の範囲であることに対して、TMKは資産流動化法(SPC法)の対象となるためです。資産流動化計画などの事務手続きは増えるものの、適格性や透明性が高く、投資家から資金を得やすいというメリットがありました。
結果、「宮崎グリーンスフィア特定目的会社」は宮崎県内の商工会議所をはじめ、地域の金融機関や民間都市開発推進機構などからの資金調達を実現しています。
LBO:野村プリンシパル・ファイナンスらによるすかいらーくMBO
次に、LBO(レバレッジド・バイアウト)からMBOを実現した事例を紹介します。
本件は、ガストやバーミヤンなどの外食産業を営む株式会社すかいらーく(当時)が株式を非公開化、すなわちTOB(株式公開買付け)および金銭交付での株式交換によって、既存の株主から株式を買付けることを目指した事例になります。
このTOB手続きを主導したのが、野村ホールディングス傘下だった野村プリンシパル・ファイナンス(当時)です。イギリス投資会社のCVCキャピタル・パートナーズとともに、SPC「SNCインベストメント」を設立することで本TOBを実行しています。
また、本件では、TOBの後にすかいらーく経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)が実施されました。
MBOとは、企業の経営陣が自社の株式を買収し経営権を取ることであり、株主と経営陣が共通となることで意思決定の迅速化などがメリットとして挙げられます。
似たスキームとして、経営陣だけでなく従業員が買収を図るEBO(エンプロイー・バイアウト)および両者を合わせたMEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)も存在します。
参照元:Bloomberg「すかいらく:株式非公開へ、最大2720億円でMBO-M&A積極的」
LBOを活用する狙い
本件では、このMBOを実施するために設立されたSPC「SNCインベストメント」がLBOを行っています。本件の買収には3,000億円ほどの資金が必要とされ、1,600億円ほどを野村プリンシパル・ファイナンスとCVCキャピタル・パートナーズ、50億円を経営陣と従業員が出資したほか、残りをみずほ銀行からの借り入れによりまかなっており、LBOの典型的な例と言えるでしょう。
このようにLBOでは資金調達がしやすくなるというメリットがあり、経営陣からすれば50億円という少額資金での買収が可能な点も特徴となります。
REIT:大和ハウスリート投資法人
続いては、REIT(不動産投資信託)に関する事例として大和ハウスリート投資法人を取り上げます。
REITとは、既にご紹介した通り、不特定多数の投資家から資金を調達することで不動産投資を実行し、その取引益を還元する金融商品です。そのため投資信託の一種として扱われ、不動産購入を目的とする点が、資金調達を目的とするSPCとは異なっていると言えるでしょう。
本件で取り上げる大和ハウスリート投資法人は、その名前から推測できる通り、大和ハウスグループにおけるREITを専門に行うことを目的として2005年に設立されました。
大和ハウスリート投資法人の具体例として、2012年のプレスリリースをご紹介します。「資産の取得完了に関するお知らせ」として、約620億円の投資により10件の不動産物件の取得を発表しています。
このように、不動産購入を目的として設立されている点が、REITの特徴となります。
参照元:大和ハウスリート投資法人「資産の取得完了に関するお知らせ」
PFI:岡山県新総合福祉・ボランティア・NPO会館(仮称)等整備事業
最後に、PFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)におけるSPC活用の事例もご紹介します。
本件は2003年に岡山県が公募した岡山県新総合福祉・ボランティア・NPO会館(仮称)整備事業において、現在の三菱HCキャピタル株式会社を代表企業とする民間企業のコンソーシアムがSPCを設立した事例です。
本公募事業は、岡山県が保有する旧国立病院跡地に新たな活用方法を見出すことが目的であり、地域福祉の推進、ボランティア・NPOの活動強化を担う総合拠点施設として既存建物をリニューアルする内容でした。
参照元:三菱HCキャピタル「岡山県新総合福祉・ボランティア・NPO会館(仮称)等整備事業」
PFIを活用する狙い
PFIにより民間事業者のノウハウや技術を活用することで優れた施設の実現と、公募形式による競合事業者間でのコスト競争による事業費の削減が可能です。
最終的にコンペの結果、本件では三菱HCキャピタルを代表企業として、株式会社竹中工務店、太平ビルサービス株式会社のコンソーシアムが落札し、SPCを設立しました。具体的には、竹中工務店が設計や建設領域を担い、太平ビルサービスが施設の維持管理・運営を、三菱HCキャピタルが全体事業運営およびファイナンス面を担う形です。
このように、PFIにおけるSPCでは、複数の民間事業者がコンソーシアムを組み、それぞれの得意領域を担いながら相互に協力して、当該の公共事業の推進を図っていく形となります。したがって、発注する自治体側にとっても民間事業者のノウハウを最大限生かすことが可能となり、同様のスキームが多く採用されています。
関連記事:資金調達とは?6種類の方法のメリット・デメリット、融資以外の方法を解説
まとめ
M&Aを行うために、SPCを使用するケースがあります。SPCを活用することで、少額での資金調達や資金の流動性を高め、リスクを分散させることが可能になります。
また、SPCを活用する際には、活用できるスキームも理解しておきましょう。
SPCの組成においては、運用コストや負債が増加や、コミュニケーションが煩雑になるなどのデメリットが同時に存在することも忘れてはなりません。
SPCは仕組みが複雑であり、専門家のサポートが欠かせません。どのスキームを採用するかを含めて、まずは専門家に相談しましょう。
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