M&Aにおける簿外債務とは?具体的な種類や回避方法、発見時の対応を解説

2023年4月12日

M&Aにおける簿外債務とは?具体的な種類や回避方法、発見時の対応を解説

このページのまとめ

  • M&Aでの簿外債務は帳簿に記載されていない債務のこと
  • 簿外債務の種類には「賞与引当金」「未払いの残業代」「債務保証」などがある
  • 簿外債務を回避するには「デューデリジェンスの実施」や「表明保証」が重要
  • 簿外債務が見つかった場合は「M&A中止」「売却価格の減額」などの対応がある
  • 簿外債務を発見するためにはM&Aの専門家に相談が必要

「M&Aで発生する簿外債務が知りたい」「簿外債務のリスクを減らして交渉を進めたい」と考えている経営者も多いことでしょう。簿外債務を放置してしまうと、M&A成立後に大きな損害が出てしまう場合があります。リスクを未然に防ぐためには、どのようなリスクがあるかを把握しておかなければなりません。

本コラムでは、簿外債務の種類や回避方法、発見した際の対応などを解説。トラブルを防ぐためにも参考にしてください。

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M&Aの簿外債務とは 

M&Aでの簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです。本来記載すべき債務が記載されておらず場合もあり、M&Aを行う際に問題になっています。

簿外債務の例には、次のようなものがあります。

  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金
  • 未払いの残業代
  • 未払いの社会保険
  • 買掛金
  • 債務保証

簿外債務自体は珍しいものではありません。特に、中小企業では、税務会計方式をとることで、発生するケースがよくあります。税務会計の場合、費用計上できるものが限定的です。たとえば、賞与引当金や退職給付金などは、未確定な債務のため帳簿に記載しない形で処理されています。

しかし、M&Aを行う際に、簿外債務が見つかることは問題になります。買い手からすると、想定していない債務があるせいで損害が起きてしまうからです。M&Aでは、売り手は簿外債務に関して伝えることが必要です。トラブルを避けるためにも、正確に報告する必要があります。

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簿外債務の種類  

簿外債務には、次のようなものが該当します。

  • 賞与引当金
  • 退職給付引当金
  • 未払いの残業代
  • 未払いの社会保険
  • 買掛金
  • 債務保証
  • リース債務
  • 訴訟のリスク

それぞれの内容を紹介するため、自社にも存在していないか確認してみましょう。

1.賞与引当金

賞与引当金とは、従業員に支払う予定の賞与を準備し、計算するために使用する勘定科目です。企業は従業員に賞与を支払う場合、支払いを準備するために引当金の計上を行います。

その際、どの従業員に、どれだけの賞与を払うかを把握していることから、期間に応じて計上を行うことが必要です。しかし、損金として認められていないことから、帳簿に記載する実務がおろそかになり、簿外債務になってしまうケースが発生してしまいます。

2.退職給付引当金

退職金制度を設けている企業は、退職給付引当金にも注意が必要です。退職給付引当金は、賞与引当金と同様に、適正な期間で計上を行わなければなりません。外部に年金資産として積み立てている場合は、差し引いた金額が退職給付引当金になります。

退職給付引当金も賞与引当金同様に、損金として認められません。また、計算が複雑になることからミスが起こりやすく、簿外債務になりやすい要素です。

3.未払いの残業代

従業員に残業代が支払えていない場合も、簿外債務になります。買い手が調査を行うことで、判明しやすい債務の1つです。

従業員が残業している場合、当然、企業は残業代の支払いが求められます。しかし、従業員がサービス残業を行っていたり、賞与を多めに支払うことでサービス残業分を補填している扱いをしたりしている企業もあります。

残業代が正確に支払われていない場合、従業員から請求があれば支払わなければなりません。未払いの残業代に関しても帳簿には記載されていないことがほとんどのため、簿外債務として発見されます。

4.未払いの社会保険

未払いの社会保険も、簿外債務として見つかりやすい1つです。特に、契約社員やパートの社会保険に関しては注意しましょう。

M&Aの場面では、表明保証条項を定め、社会保険の未払いに関する対応を記載しておくケースが一般的です。場合によっては、買収金額から未払いの社会保険額を差し引く場合もあります。

5.買掛金

買掛金とは、取引先から仕入れた代金のうち、支払いが済んでいないお金のことです。買掛金は発生した段階で帳簿への記載が必要ですが、正確に記載されていない場合もあります。

特に、長年取引をしている企業の代金は、あとでまとめて計上しようと考えている企業もあるため注意しましょう。

買掛金に加えて、電気や水道などの公共料金を未計上にしている場合もあるため、確認が重要です。

6.債務保証

債務保証があり、ほかの企業や個人の保証人になっている場合もあります。債務者が債務不履行になった場合、保証人の義務を果たさなければならないため注意しましょう。

本来、債務保証は引当金を計上しておかなければなりません。しかし、引当金の計上を行わず、決算書に債務保証があることで保障金額を記載して処理してしまう企業もあります。また、経営者が独断で保証人になっており、帳簿に記載していないケースもあるため注意してください。

7.リース債務

リース債務とは、ファイナンスリース取引を行う際に発生する債務です。ファイナンスリース取引は、取引期間の間中、リース物件の使用収益権を付与する取引を指します。

ファイナンスリース取引を行っている場合、リースした物件などを資産に計上し、債務はリース債務として計上しなければなりません。ただし、賃貸借取引で処理している場合もあり、その際にはリース債務が簿外債務になってしまいます。

リース取引に関しては、数年単位で続いている取引もあります。多額の債務になっている場合もあるため、注意してください。

8.訴訟のリスク

訴訟リスクに関しても債務に含まれます。現在行われている訴訟や、将来発生するかもしれない訴訟に関しては注意しましょう。

売り手は訴訟リスクを抱えている場合、買い手に伝えなければなりません。訴訟の状況によっては、損害賠償請求や許認可の取り消しなどが発生するからです。もし、損害賠償請求や許認可の取り消しが起こると、M&Aが破談になる恐れもあります。

買い手は訴訟リスクを避けるために、デューデリジェンスを実施しましょう。経営者や従業員から話を聞く必要があります。訴訟リスクは決算書に記載されないことからも、より入念に調査してください。

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簿外債務が発生する3つの理由 

簿外債務が発生してしまう理由には、次のような理由があります。

  1. 売り手が企業価値を高く見せたいから
  2. 偶発債務が起きるから
  3. 税務会計上の損金にならないから

なぜ発生してしまうのかを知り、発見できるようにしましょう。

1.売り手が企業価値を高く見せたいから

簿外債務が発生してしまう理由の1つが、売り手が企業価値を高く見せたいからです。M&Aでは、売り手は1円でも高く売却しようと考えています。

企業価値を高くするためには、自己資本が多く、負債は少ない状況が必要です。ただし、自己資本を高くするために、過去の決算書類を書き換えたり、虚偽の記載を行ったりはできません。しかし、簿外債務であれば、賃借対照表に記載されていないため隠せてしまいます。

帳簿外の債務を隠し通せた場合、本来よりも企業価値を高く見せることができます。買い手は適切な企業価値を見極めるためにも、デューデリジェンスを行い簿外債務を明らかにしなければなりません。

2.偶発債務が起きるから

簿外債務が起きてしまう理由には、偶発債務があります。偶発債務とは、現在は発生していないものの、将来に条件を満たすことで発生してしまう債務のことです。

たとえば、保証人になっている場合、債務者が債務不履行になれば対応が必要です。また、訴訟リスクを抱えており、損害賠償を払う可能性がある場合も偶発債務に該当します。

合理的に金額の見積もりができる偶発債務は、引当金の計上を行い、債務が発生した場合には負債で計上しなければなりません。しかし、債務になるか分からない段階では帳簿に記載する必要がないことから、簿外債務として隠れている場合があります。

3.税務会計上の損金にならないから

税務会計上の損金にならないことから、わざと帳簿に記載していない場合もあります。たとえば、賞与引当金や退職給付引当金は、税務会計上の損金として認められていません。企業が課税対象の所得額を少なくするために、発生していない費用を計上するケースを防ぐ目的です。

企業からすると、損金にならない項目を計上するメリットがありません。そのため、賞与引当金などは計上されず、簿外債務になってしまいます。

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簿外債務の発生を回避する3つの方法 

買い手はM&Aのリスクを減らすために、簿外債務の発生を回避する方法を知っておきましょう。次の3つの方法を取ることで、債務発見につながります。

  1. デューデリジェンスを行う
  2. 表明保証を行う
  3. 事業譲渡を選ぶ

それぞれの方法を解説するため参考にしてください。

1.デューデリジェンスを行う

デューデリジェンスとは、売り手企業が抱えているリスクを調査するプロセスのことです。買い手企業が主導で行い、売り手が税務や財務などに問題を抱えていないかを確かめます。

デューデリジェンスを行う際は、弁護士や会計士のように、分野ごとの専門家に依頼しましょう。たとえば、デューデリジェンス経験のある弁護士であれば、経営者や従業員に対するヒアリングから簿外債務を見つけられる場合があります。また、公認会計士であれば、帳簿を確認し、債務を発見できる場合もあるでしょう。

デューデリジェンスでは簿外債務の有無を確認するために、専門家に依頼して調べてもらいましょう。債務の有無はM&A成立にも関わるため、必ず実施してください。

2.表明保証を行う

表明保証とは、売り手が買い手に対し、企業の財務や法務に関する事項が真実かつ正しいと表明し、内容を保証するものです。

M&Aではデューデリジェンスを実施し、売り手の財務や法務に問題がないかを確認します。調査結果をもとに交渉を進め、譲渡価格を決定し、最終契約を行う流れが一般的です。

しかし、デューデリジェンスですべての問題が発見できるとは限りません。たとえば、売り手が情報を隠しており、リスクが見つからない場合があります。また、買い手がデューデリジェンスに掛かる費用を捻出できずに、調査が不十分になる場合もあります。

デューデリジェンスでは確認できなかった範囲を補うために、表明保証が重要です。もし、売り手が表明保証に違反した場合、買い手は売り手に損失の請求を実施できます。リスク軽減はもちろん、損失を補うためにも表明保証が重要です。

3.事業譲渡を選ぶ

事業譲渡を選択し、簿外債務の引継ぎを避けることもできます。事業譲渡であれば、引き継ぐ資産や負債を選択できるからです。

株式譲渡を選択する場合、包括承継になるため、債務も含めて引き継がなければなりません。事業譲渡の方が株式譲渡よりも手続きは大変にはなるものの、簿外債務を引き継ぐリスクは軽減できます。

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簿外債務が見つかった場合の対応 

デューデリジェンスなどの結果、簿外債務が見つかる場合があります。簿外債務がみつかった場合、買い手企業は次のような対応を実施できます。

  1. M&Aを中止する
  2. M&Aのスキームを変える
  3. 表明保証の内容を実行する
  4. 買収価格を下げる

それぞれの対応に関して、詳しく解説します。

1.M&Aを中止する

簿外債務が見つかった場合、M&Aを中止する選択肢があります。買い手は簿外債務があることで、将来大きな損害を受ける可能性があるからです。たとえば、訴訟リスクを抱えていた場合、損害賠償の支払いが発生するかもしれません。

買い手はM&Aを行うメリットと、簿外債務で発生するデメリットの比較を行いましょう。デメリットの方が大きいと判断した場合には、M&A中止の選択が無難です。

2.M&Aのスキームを変える

簿外債務の範囲が限定的な場合、M&Aのスキームを変える方法があります。株式譲渡でのM&Aを予定していた場合は、事業譲渡に変えると損害を回避できるでしょう。

株式譲渡の場合、負債や簿外債務も含めて引継ぎが必要です。一方で、事業譲渡は不要な債務や資産を除外して承継できます。簿外債務を見つけた場合には、M&Aのスキームを変更し、獲得したい事業だけ引き継ぐ選択肢も有効です。

3.表明保証の内容を実行する

表明保証がある場合、表明保証の内容を実行できます。損害賠償請求や契約解除が請求できることを覚えておきましょう。

たとえば、M&A成立後に500万円の簿外債務が見つかり、買い手が500万円の損害を受けたとします。この場合、表明保証があれば、損害の100%を売り手が賠償するなどの対応が実行可能です。

対応は表明保証の内容次第で変わるため、簿外債務が発生した場合の対応に関して確認しておきましょう。

4.買収価格を下げる

発生した簿外債務の金額に応じて、買収価格を下げる方法もあります。たとえば、買収価格が5,000万円のM&Aで、1,000万円の簿外債務が見つかったとしましょう。この場合、買収価格から1,000万円を減額し、4,000万円で買収するように対応可能です。

買収価格を下げる場合、買い手と売り手で簿外債務の存在と金額を明確にしておきましょう。お互いが合意したうえで、買収価格の調整を行ってください。

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売り手は簿外債務の開示が必要 

M&Aでは、売り手は買い手に簿外債務を伝えなければなりません。M&A成立後に簿外債務が見つかった場合、契約違反の責任を追及される可能性があるからです。

交渉時に簿外債務が見つからなくても、譲渡後に明らかになるケースもあります。売り手を手に入れた買い手が、企業の状況をより把握できるようになるからです。

表明保証を行っていた場合には、損害賠償の対象になります。売り手は自社が抱えている債務を隠さず、開示するようにしましょう。

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意図的に生みだされる簿外債務「飛ばし」に注意 

意図的に生み出される簿外債務、「飛ばし」に注意しましょう。飛ばしとは、含み損が発生している資産をほかの会社に売却する行為です。含み損が発生している資産を持っていると、財務状況が悪く見えてしまいます。そのため、将来買い戻す条件を付与して、ほかの会社に含み損がある資産を売却してしまうことが行われていました。

飛ばしを行えば、帳簿上は財務が良く見えます。しかし、将来買い戻す約束をしていることから、簿外債務扱いになります。現在では、飛ばしは証券取引法で禁止されている行為です。違法行為になるため飛ばしが行われるケースはほとんどありませんが、注意はしておきましょう。

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まとめ

買い手がトラブルなくM&Aを行うためには、簿外債務の調査が欠かせません。簿外債務を見落としてしまうと、多額の損害が発生してしまいます。売り手が意図的に隠しているケースもあるため、デューデリジェンスを行い簿外債務を明らかにしておきましょう。

デューデリジェンスを行う際には、専門家への依頼が欠かせません。簿外債務の発見には専門的な知識が必要であり、自社の担当者だけで見つけることが難しいからです。M&AをサポートしてくれるM&A仲介会社に相談し、M&Aで発生するリスクを未然に防ぐようにしましょう。

レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、各領域に特化したM&Aサービスを提供する仲介会社です。実績を積み重ねたコンサルタントが、相談から成約まで一貫してサポートを行っています。

簿外債務があるか調査したい場合でも、お気軽にご相談ください。

料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する、完全成功報酬型です。
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