商法と会社法の違いを解説!改正後の内容やM&Aに関する法律も紹介します
2023年3月30日
このページのまとめ
- 商法と会社法は対象とする組織(人物)が異なる
- 商法は古くから存在しており、2006年の改正によって商法から会社法が区分された
- M&Aの取引では、会社法で規定されている法律の理解が不可欠
- 法令を遵守したM&Aを行うために、専門家のサポートを受けることが有効
「商法と会社法の違いとは?」と疑問をお持ちの経営者の方々もいるのではないでしょうか。
商法と会社法の違いは、対象となるものが会社に限定されるか否かという点にあります。商法は承認すべてが対象となる法律である一方、会社法は会社のみが対象となる法律です。
このコラムでは、商法と会社法について詳しく解説。両者の違いを紹介します。また、M&Aに関わる会社法の規則についても解説しています。
目次
商法とは
商法とは、会社や個人事業主などの商売を営む商人と、商人が行う営業活動や売買などの商行為のルールについてを定めた法律です。商法と会社法の違いを知るために、まずは商法について詳しく解説します。
商い全般に関する法律
商法は、商人(会社や個人事業主などの商売を営む人)と、商行為(商人が行う営業や売買行為)などを定めた法律です。簡単に言うと、商い全般に関する法律が商法です。
商法は、明治時代に制定されました。時代に合わせて商いの形が変化していくことを受けて、制定から何度も改正されています。2005年(平成17年)に大きな改正が行われています。この改正の際、会社法が商法から独立しました。
会社法は2005年に成立して2006年に施行されました。有限会社の廃止、最低資本金規制の撤廃に加えて、取締役会を置かない会社では株式総会ですべての事項が決定できるように規制が緩和されるなど、さまざまな面で大きな変更がありました。
かつて株式会社に関する法律は、商法の第二編にまとめられており、商法第二編、有限会社法、商法特例法を合わせて通称「会社法」と呼んでいました。
2006年に商法第二編は内容を改正のうえ会社法として独立して、有限会社法、商法特例法は廃止となりました。2006年に制定された会社法を、それまでの通称と区別するために「新会社法」と呼ぶ場合もあります。
改正前の商法は「第一編 総則」「第二編 会社」「第三編 商行為」「第四編 海商」の四編から成っていましたが、改正後は会社に関する規定がなくなり、「第一編 総則」「第二編 商行為」「第三編 海商」の三編となっています。
1.総則
商法の第一編には総則が記されています。総則では「商行為」とは何か、「商人」とは何かといった定義が規定されており、商行為に関わるものは商法の運用対象になることが定められています。
さらに、商事(商行為、商売に関する事柄)についてはまず商法が優先して運用され、商法に決められていないことは商慣習に従い、商慣習にもない場合は民法が適用されるとも決められています。つまり、商行為に関するトラブルは、「商法>商慣習>民法」の順で判断されることとなります。
2.商行為について
商法の第二編では、商行為について記されています。商行為には、絶対的商行為・営業的商行為・附属的商行為があります。
絶対的商行為とは、行った者が商人であるかどうかを問わず、さらに行ったのが1回きりであっても商行為と見なされる行為を指します。有価証券の取引が具体例として挙げられます。そのほか、転売目的で安く買い、高く売ることも絶対的商行為にあたります。
営業的商行為とは、営利目的で反復継続して行う行為を指します。
附属的商行為とは、商行為以外の開業準備などを指します。新店舗開業のために資金の借り入れを行えば、附属的商行為にあたります。この他、問屋営業や物品、旅客運送などに関する規定もあります。
3.海商について
商法の第三編では、船舶の所有や保険など、海商についての法律が定められています。例えば、第684条では「船舶」を、商行為をする目的で航海の用に供する船舶と定義しています。その上で第686条では船舶の登記について、第689条では差し押さえ等の制限、第690条では船舶所有者の責任を示しています。
会社法は2006年に施行された新しい法律
明治時代に制定された商法に対して、会社法は2006年に施行された比較的新しい法律です。会社法では、会社の設立から解散の手続き、組織運営、資金調達、組織再編の手続きといった会社運営に関する法律が定められています。
ここからは、会社法について詳しく解説します。
会社法はたびたび改正される
商法とともに、会社法も時代に合わせて改正されています。これは、会社の形の変化や資金調達方法の多様化など、時代の変化によって会社法に関するものが変化しているからです。
会社法は今後も改正される可能性が高く、その時の会社法に沿って会社の設立や解散、運営をしなければなりません。
ここからは、現在の会社法の内容について詳しくご紹介します。
会社法の内容
会社を設立・解散したり、運営したりする際は、会社法に則って行わなければなりません。
現行の会社法では、以下の項目について定められています。
- 総則
- 株式会社について
- 持分会社について
- 社債について
- 組織変更について
- 外国の会社について
- 雑則について
- 罰則について
ここからは、それぞれの内容について詳しく解説します。
1.総則
第一編では、総則として用語の定義や商号に関する規定が記されています。会社に関する用語の定義として、具体的に以下が定められています。
- 会社:株式会社、合名会社、合資会社または合同会社
- 外国会社:外国の法令に準拠して設立された法人、またはその他の外国の団体のうち会社と同種、あるいは会社に類似するもの
- 子会社:株式会社の半数以上を保有する株式会社に支配されている会社のこと
- 親会社:親会社、あるいは法人を除き株式会社を支配している者
- 公開会社:譲渡による株式の取得に関する株式会社の承認の定款の定めを設けていない株式会社のこと
2.株式会社について
第二編では、株式会社の規定や株式、新株予約権についてなどの株式会社に関する法律が定められています。主要な内容として、以下が定められています。
- 株式会社の設立
- 株式や新株予約権
- 会社法上の機関
- 会社法上の計算
- 定款の変更方法
- 事業譲渡
- 解散や清算
株式会社を設立する場合や、株式会社に関するM&A取引を検討している場合は、第二編の「株式会社について(法第25条~第574条)」を十分に理解しておく必要があります。
3.持分会社について
会社法第三編では、持分会社に関する法律が定められています。会社法における持分会社とは、合名会社・合資会社・合同会社のことを指します。
具体的な規定内容としては、以下が挙げられます。
- 持分会社の設立
- 持分の譲渡等
- 誤認行為の責任
- 管理
- 社員の加入及び退社
- 合同会社の計算等に関する特則
持分会社は定款による会社の自治が株式会社より認められているため、株式会社を扱った第二編(全550条)に比べて、第三編は条文の量が少なくなっています。
4.社債について
第四編では、社債についての法律が定められています。
具体的な内容として、以下が挙げられます。
- 募集社債の総額
- 各募集社債の金額
- 募集社債の利率
- 募集社債の償還の方法および期限
- 利息支払の方法および期限
- 社債券の発行
- 社債管理者を定めない場合の対応
- 社債管理補助者を定める場合の対応
- 各募集社債の払込金額
- 募集社債と引き換える金銭の払込みの期日
株式とは異なり、社債は会社の支配権に影響しないため直接M&Aに関与しませんが、社債を発行している企業が、M&Aを行う際に信用リスクが懸念されることから、社債価格が下落する場合があります。社債投資を行っているケースでは注意が必要です。
5.組織変更について
第五編では、社内の組織変更や合併、分割についての法律が定められています。
主要な規定として、以下が挙げられます。
- 組織変更計画の作成
- 株式会社・持分会社の組織変更
- 株式会社が存続する吸収合併・持分会社が存続する吸収合併
- 株式会社を設立する新設合併・持分会社を設立する新設合併
- 吸収分割と新設分割
M&A取引は、組織変更や合併、分割などの手段として利用されるため、M&Aの実施にあたっては会社法第五編への深い理解が求められます。
6.外国の会社について
会社法第六編では、外国の会社についての法律が定められており、具体的には海外の会社が日本国内で商売をする場合について規定されています。
主な規定内容として、以下が挙げられます。
- 外国会社の日本における代表者の登録や退任
- 疑似外国会社
- 登記前の継続取引の禁止等
- 貸借対照表に相当するものの公告
- 財産の精算
- 他の法律との適用関係
疑似外国会社とは、営業を主に行う国以外で設立され、主に日本での営業を行っている会社のことで、日本での継続的な取引は認められていません。
7.控訴や登記について
第七編では、「雑則」として、訴訟や登記、公告などについて規定されています。法第824条~第959条にわたって以下の内容が定められています。
- 会社の解散命令
- 外国会社の取引継続禁止または営業所閉鎖の命令
- 会社の組織に関する訴訟
- 売渡株式等の取得の無効に関する訴訟
- 会社や外国会社の登記や登記の委託
- 公告についての法律
8.その他罰則について
第八編では、取締役や代表社債者の特別背任罪に関するものなど、会社に関連する罰則について定められています。具体的な内容としては、以下が挙げられます。
- 取締役などの特別背任罪
- 代表社債権者などの特別背任罪
- 会社財産を危うくする罪
- 虚偽文書行使などの罪
- 預合いの罪
- 株式の超過発行の罪
- 法人における罰則の適用
- 過料に処すべき行為
商法と会社法の違い
ここまで、商法と会社法についてそれぞれ詳しくご紹介してきました。では、商法と会社法には具体的にどのような違いがあるのでしょうか。
ここからは、商法と会社法の違いを解説します。
「会社法」は会社のみに適用される
まず、商法と会社法は法律適用の対象に違いがあります。
商法は、会社と個人事業主などの会社以外の業務形態も対象ですが、会社法は会社のみに適用されます。つまり、商法は商人全員を対象にした法律であるのに対して、会社法は会社のみを対象にした法律ということになります。
このような違いから、会社は商法と会社法のどちらの法律も守らなければなりませんが、個人事業主など会社法が定義する「会社」以外の業務形態の場合は、商法を厳守しなければなりません。事業形態によって把握しておくべき法律が異なります。
優先順位は「会社法」が高い
先ほどご紹介した通り、個人事業主のような会社以外の事業形態では、商法のみを厳守しなければなりませんが、会社の場合は商法も会社法も厳守する必要があります。
会社の場合は、商法と会社法では法律の内容が異なるため、どちらを優先すればよいかと疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
会社では、商法よりも会社法の方が優先度が高くなります。なぜなら、商法は一般法にあたるのに対して会社法は特別法の位置づけとなるためです。
一般法とは、幅広く適用される法律のことです。これに対して、特別法は適用される範囲が特定分野に絞られており、細かく規定された法律のことを指します。このことからも、一般法よりも特別法が優先されることとなります。
改正の頻度が違う
商法と会社法には、改正の頻度にも違いがあります。
先述の通り、商法も会社法も時代の流れに従って改正されてきましたが、商法よりも会社法の方が頻繁に改正されている経緯があります。
つまり、会社法の方が時代の流れに合った規定であり、最新の会社に合わせた法律が作られています。例えば、会社法は書類の電子化をはじめとして、IT社会に適用するための法律が既に改正されています。どちらも改正を繰り返している商法と会社法ですが、改正の頻度は会社法の方が多くなっています。
2019年に行われた「会社法」改正の内容
会社法は頻繁に法改正が行われており、直近だと2019年に改正されています。商法も会社法も最新の法律を把握して、遵守しなければなりません。
ここからは、2019年に行われた会社法の改正内容の一部をご紹介します。
株主総会について
株主総会に関する法律が改正されました。具体的な改正内容は以下のとおりです。
- 株主総会資料の電子提供制度の創設
- 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備
まず、株主総会資料の電子提供制度が創設されました。これまで株主総会資料は、紙での提供が必要でしたが、データの電子化に伴い、株主総会資料も電子提供が認められました。定款で定めれば、株主総会資料等を電子媒体で提供することが可能となります。
次に、株主提案権の濫用的行使の防止に関する規律も設けられました。これは、株主提案権の濫用といえる事態が多発していることを受け、株主が提案できる議案数の上限を10個とするなど、濫用的行使を防止する対策のための法律です。
また、10個の議案の算出方法や10を超える議案が提出された場合に、どの議案を取り上げるかといった基準なども定められています。
取締役などについて
取締役などについては、以下のような改正が行われています。
- 取締役の報酬に関する規律の見直し
- 会社補償に関する規律の整備
- 役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備
- 社外取締役に関する規律の見直し
「取締役の報酬に関する規律の見直し」では、会社の取締役会での個人別の報酬について、決定方針を策定することが義務付けられました。また、上場会社が取締役の報酬として株式等を発行する際には、金銭の振り込みを要しないようにするといった規定が設けられています。
「会社補償に関する規律の整備」では、補償契約の定義と補償の対象を定めるなど、新たに会社補償の制度が設けられました。
「役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備」では、役員等のために締結される保険契約である役員等賠償責任保険契約について新たに明記されています。
「社外取締役に関する規律の見直し」では、業務執行の社外取締役に委託する際の規律の見直しと、社外取締役設置の義務付けの2点が改正されました。
M&Aについて
M&Aに関する法律では、以下の2点が改正されました。
- 社債の管理に関する規律の見直し
- 株式交付制度の創設
「社債の管理に関する規律の見直し」では、新たに社債管理補助者制度が創設されたとともに、債権者集会の決議において、元利金の減免に関する規定を明確化することも定められています。
「株式交付制度の創設」では、新たに株式交付制度が創設されました。株式交付制度とは、株式会社がほかの株式会社を子会社とするために、自社の株式をほかの株式会社の株主に交付できる制度のことです。株式交付制度が設けられたことによって、完全子会社化を予定していない場合でも自社株式を交付できるようになりました。
M&Aに関する法律について
商法と会社法には、それぞれM&Aに関する法律が定められています。M&A取引をするうえで、M&Aに関する法律を把握しておくことが重要です。
最後に、M&Aに関する法律の一部をご紹介します。
会社法第5編に関する知識は必要不可欠
M&Aの取引では、交渉やスキームの検討、デューデリジェンスなど会社法の知識が必要となる場面が多いことから、特に会社法について把握しておく必要があります。
例えば、スキーム検討の場面では、合併や会社分割などの組織再編行為について会社法で細かく規定されています。また、デューデリジェンスでは、対象会社が会社法に従って会社運営を行っているかを確認しなければなりません。
労働契約承継法や独占禁止法もある
会社法では、労働契約承継法や独占禁止法といったM&Aに関わる法律もあります。
労働契約承継法は、会社分割を行った際、それまで勤務していた会社とは別の会社に移ることになる労働者、また、承継会社に移らない労働者が、引き続き同じ雇用契約の条件が維持されるように定める法律です。
独占禁止法は、企業が公正かつ健全な競争を妨げることを規制する法律です。どちらも、複数の企業が関わるM&Aにおいて知っておきたい法律といえます。
作成する契約書
会社法では、M&Aで締結する秘密保持契約書や基本合意書、最終契約書などの契約書類に関する内容も規定されています。
秘密保持契約書は、内部情報が外部に漏れることを防止したり、M&A以外の目的で使用されることを防いだりするための契約書です。
基本合意書は、まだM&Aを検討している段階で買い手が提示した基本条件について、売り手が合意した際に締結する書面です。
最終契約書は、M&A最終段階で締結する書面のことです。基本合意書には法的拘束力はありませんが、最終契約書には法的拘束力があります。
会社の譲渡方法
M&Aで行われている株式譲渡・事業譲渡・合併などについて規定されています。
例えば、株式譲渡では株式譲渡承認の請求・株式譲渡の承認と通知について、事業譲渡では事業譲渡契約書の請求・株主への通知または公告についてなどが定められています。
合併では、債権者に対する異議申述公告や個別催告、事前開示書面据置、株主への通知又は公告などについて定められています。
まとめ
M&Aの取引をするうえで、商法や会社法を把握しておくことは必要不可欠です。さまざまな契約書を作成する際にも、会社法法に関する知識が求められます。法令違反や取引のトラブルを防ぐためにも、専門家のチェックやアドバイスのもと、法令を遵守した契約書を作成することが重要です。
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