このページのまとめ
- 資本業務提携とは資本参加を伴う業務提携のことをいう
- 資本業務提携は株式の一部譲渡や第三者割当増資によって行う
- 資本業務提携は強固な協力関係によるシナジー効果が期待できることがメリット
- 資本業務提携には簡単に提携関係を解消できないといったデメリットがある
- 株価は資本業務提携に対する投資家の評価によって左右される
資本業務提携は買収などと混同されることもありますが、広義のM&Aに含まれ、資本参加を伴う業務提携です。株式譲渡や第三者割当増資などの手法によって、通常、経営権に影響を及ばさない範囲内で株式を取得します。業務提携の部分は、販売や生産面で実施されます。資本業務提携の仕組みやメリットやデメリット、手続きなどの流れを紹介します。また、成功・失敗事例や株価の変動も解説します。
目次
資本業務提携とは?
資本業務提携とは、資本参加を伴う業務提携のことを指し、増資の引き受けなどによって経営権を取得しない程度の株式を取得し、通常の業務提携よりも強固な関係を築くことをいいます。
英語では、「capital and business alliance」といいます。
資本業務提携の主な目的は、ノウハウや技術、人材、資金といった経営資源を出し合うことで、単独では達成できない成果を得ることです。資本業務提携も広義ではM&Aに含まれます。
資本業務提携と混同されやすい言葉として次のものがあります。いずれも法律によって定義された言葉ではありません。
手法 | 意味 |
業務提携 | 技術やノウハウ、人材などの経営資源を出し合い、業務面でのみ協力し合うこと。 |
資本提携 | 一方、あるいは双方の会社が株式を取得して、協力関係を築くこと。 |
資本参加 | 一方の会社が資金援助を目的に株式を取得して関係性の強化を図ること。 |
資本業務提携の仕組み
資本業務提携は資本の移動を伴う業務提携です。
双方の会社が株式を持ち合うケースが一般的ですが、一方が出資して他方の株式を持つケースもあります。
たとえば大手企業とベンチャー企業の資本業務提携では、大手企業側のみがベンチャー企業の株式を保有するケースが一般的です。
資本業務提携では、出資を受ける側が株式の譲渡や第三者割当増資などを行います。
また、発行済み株式数に対する持ち株比率によって、株式の保有に伴う権利が発生することから、資本業務提携では経営権に影響を与えない3分の1未満の株式の保有とするのが一般的です。
持ち株比率が3分の1以上になると、定款の変更や事業譲渡といった重要事項の決議を行う特別決議を単独で阻止できるためです。
資本業務提携の主な2つのパターン
資本業務提携には主に次に挙げる2つのパターンがあります。
1.上場企業×上場企業の資本業務提携
上場企業同士で資本業務提携を行う場合には、第三者割当による増資を双方が行い、株式を持ち合うケースが一般的です。
このほかにも、株式の持ち合いという形をとらず、双方が出資して合弁会社を設立するという資本業務提携の方法もあります。
2.上場企業×未上場企業(未上場企業同士)の資本業務提携
上場企業と未上場企業の資本業務提携で多いのは、上場企業側のみが未上場企業の株式を株式譲渡や第三者割当増資で取得するという方法です。
中小の未上場企業は財務基盤が脆弱なうえ、技術開発や製品開発のための設備が十分ではないことが少なくありません。
上場企業の資本を受け入れることで、財務面での支援を受けられるほか、保有する設備などを活用できるため、成長スピードが早まることが期待できます。
このパターンでも、資本業務提携の段階では経営権に影響を及ぼさない範囲の株式の取得が一般的ですが、将来的に上場企業側が未上場企業の全株式を取得して、完全子会社化するケースが目立ちます。
合併や買収との違い
資本業務提携と似たものに合併や買収がありますが、どのような違いがあるのでしょうか。
合併:2つ以上の会社を統合して1つの法人格にすること。 買収:経営権、または一部の事業を取得すること。 |
合併には新設法人にすべての資産や負債、権利を引き継ぐ新設合併と、合併する会社のうち1社が存続会社となり、他の消滅会社のすべての資産や負債、権利を取り込む吸収合併という2つの種類があります。新設合併では合併するすべての会社、吸収合併では消滅会社の法人格が消滅して、経営統合が行われるのに対して、資本業務提携は経営権を取得しない範囲で行われ、法人格には影響がないという点が異なります。
また、買収は株式の移動という点では資本業務提携と共通していますが、経営権の取得を目的としているのが大きく異なる点です。
子会社化との違い
子会社化とは、他社の株式の半数以上を保有して経営権を取得し、自社の傘下の企業とすることをいいます。資本業務提携とは株式の移動を伴う点は共通していますが、経営権の取得を伴わない範囲内での株式の取得とする点が異なります。
資本業務提携の手法
「資本提携」と「業務提携」に分けて、資本業務提携の方法を解説します。
資本提携の方法
資本提携は、主に「株式譲渡(相対取引)」「公開買付け(TOB)」「第三者割当増資」という3つの方法で行われます。
株式譲渡(相対取引)
株式譲渡とは、自社の発行済み株式を譲渡する手法です。特に、買い手と売り手が直接、価格などの条件に合意し、取引する場合は「相対取引」と呼ばれます。
未上場企業の場合、株式が市場で流通していないため、基本的には相対取引の株式譲渡によって資本提携を行います。資本提携においては、経営権を取得しない範囲(1/2以下)で株式を取得し、経営資源を相互活用する手段として、株式譲渡(相対取引)が活用されます。
非上場企業の大半は、株式の譲渡に制限を設けています。e-Gov「会社法」第139条の規定により、譲渡制限がある場合には原則として株主総会または取締役会による決議が必要です。
参照元:e-Gov「会社法」第139条
公開買付け(TOB)
公開買付けとは、買付価格や買付予定数、買付期間などを公告し、市場外で不特定多数から株式を買い集める手法です。
上場企業の場合、市場内で大量の株式を買付けると、株価すなわち買収価格が上昇するリスクがあります。このリスクを軽減する観点から、資本業務提携に伴い上場企業の株式を取得する場合には、TOBのスキームを活用するケースが一般的です。また、資本業務提携に際して、株主に対して公正な取引機会を提供する手段としても活用されます。
なお、e-Gov「金融商品取引法」第27条の2では、一定の条件に合致する場合にTOBによる株式取得を義務としています。主な条件に下記があります。
- 60日間に10名以内が買付けを行い、株券等の所有割合が1/3を超える
- 株券等所有割合が5%超となるもの(60日間に買付けする人数が10人以下の場合を除く)
この条件に合致する場合には、相対取引ではなく法律に則ってTOBによる株式取得を行う必要があります。
参照元:e-Gov「金融商品取引法」第27条の2
第三者割当増資
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して新株を発行・交付する手法です。
売り手側視点では、株式の売却ではなく増資となるため、譲渡益に対して課税はされません。また、既存株主に変動は生じず、新規の株主が増えるのみとなります。
既存株主の地位を守りつつ、他社とのパートナーシップを確立・強化したい場合に有用な手法です。また、資本業務提携の目的において、新しい資金調達源を確保する意味合いが強い場合にも第三者割当増資が活用されます。
業務提携の方法
業務提携の方法は、提携する分野の違いから、大きく「販売提携」「生産提携」「技術提携」の3種類に分けられます。
販売提携
販売提携とは、商品・サービスの販売面で提携することです。具体的には、販路や販促ノウハウ、販売員などのリソースを共有し、お互いの商品を販売する施策と言えます。販売店契約やフランチャイズ契約、代理店契約も販売提携の一種です。
スピーディーに収益を伸ばせる点や、未進出地域への事業展開を実現できる点などがメリットです。
生産提携
生産提携とは、生産プロセスの一部もしくは全てを提携先に委託することです。OEM(他社ブランドの製造)やODM(他社ブランドの設計・製造)も生産提携に含まれます。
委託元は生産性の向上、受託側は稼働率の向上などのメリットが期待できます。
技術提携
技術提携とは、技術の相互活用や技術を持ち寄って製品の共同開発を行うことです。ライセンス契約や共同研究開発契約などが技術提携の一例です。
自社のみでは実現できないような製品の開発や、開発速度の向上が期待できます。
業界別にみる資本業務提携の目的
資本業務提携の目的は、業界によって異なります。資本業務提携を実施する際には、自社および提携先が属する業界における提携の目的を理解し、それに基づいて提携実行の可否や提携後の戦略を検討することが重要です。
この章では、IT、製造、小売という3つの業界を取り上げ、各業界における資本業務提携の目的を解説します。また、業界別に資本業務提携の成功可能性を高めるコツも整理します。
IT業界の資本業務提携
IT業界では、主に2つの目的で資本業務提携が活用されます。
1.共同開発・人材交流による技術力向上
IT業界では、新しいプロダクトの開発やエンジニアの技術力アップに多大なリソースを投じる傾向があります。その目的実現のために、資本業務提携によって同業他社との技術共有や製品の共同開発、人材交流を図るケースが多く見受けられます。
2.市場拡大
IT業界では、市場シェアの拡大や成長性が見込める分野(ビッグデータなど)への進出、海外進出などが重要な経営課題として認識されています。自社のみでは実現が困難である場合に、資本業務提携によって解決を図る事例が存在します。
上記の目的を踏まえると、IT業界における資本業務提携を成功させるコツは以下のとおりです。
- 自社および提携先が有する強みの洗い出し提携先との間で見込めるシナジー効果の精査
強みの洗い出しに関しては、技術力や得意な言語などを把握します。シナジー効果の具体例としては、販路の共同活用や共同開発などによる売上増加が挙げられます。
製造業界の資本業務提携
製造業界では、主に2つの目的で資本業務提携が活用されます。
1.生産効率の向上
製造業の収益性を高める上で、生産プロセスの効率化は欠かせません。ただし、工場の拡大や受注案件の獲得、生産技術の向上などを図るには多大な時間やコストを要します。そこで、資本業務提携によってOEMの実現や相互送客、経営資源の共同活用などを行い、生産効率の向上を図る事例が見受けられます。
2.ビジネスの革新
長期的に競争優位性を確立するには、常に顧客ニーズを捉えた製品を市場に提供し続けることが求められます。そのための手段として、同業者との提携によって共同研究・開発に取り組み、製品開発期間の短縮やアイデア共有によるイノベーションの創出を図るケースがあります。
また、異なる業界(製造業とIT業界など)との提携により、自社のみでは実現できない製品アイデアの創出を図る事例も増えています。
上記の目的を踏まえると、製造業界における資本業務提携を成功させるコツは以下のとおりです。
- ITシステムや生産プロセスに関する統合計画の精査
- 提携で得られるメリットの明確化
- 提携によるメリットの一例として、取引先拡大や自社事業で活用できる技術確保などが挙げられます。
小売業界の資本業務提携
小売業界では、主に2つの目的で資本業務提携が活用されます。
1.販売チャネルの拡大
消費のオンライン化が進むに伴い、小売業界では実店舗だけでなく、オンライン(ECサイトなど)のチャネルも無視できなくなってきました。
また、オフラインとオンラインのチャネルを連携させるオムニチャネルの重要性も高まっています。そこで、自社が有していないチャネルを有する小売業者やIT企業との提携により、チャネル拡大を実現する動きが広まっています。
2.未進出地域・分野への進出や海外展開
人口減少などに伴う国内市場の縮小が危惧される中で、小売業界では未進出の地域への出店や、異なる商品領域に事業を拡大することで生き残りを図る動きが見られます。また、大手小売業を中心に、成長が見込まれる海外市場に進出するケースも増えています。
こうした流れの中で、別地域・分野の国内企業や海外の小売企業との資本業務提携が活発です。
上記の目的を踏まえると、小売業界における資本業務提携を成功させるコツは以下のとおりです。
- 売上アップや固定客確保につながるチャネルやブランドなどの相互活用
- 提携失敗要因の洗い出し
提携失敗の要因として、提携先事業との商習慣、消費者ニーズの違いなどが挙げられます。こうした要因を洗い出し、対策を事前に検討することが重要です。
資本業務提携を結ぶ4つのメリット
資本業務提携を結ぶと、主に次に挙げるような4つのメリットがあります。
- 強い協力関係を築くことができる
- シナジー効果を得ることができる
- 双方の独立性・独自性を維持できる
- 経営リスクを抑えることができる
それぞれのメリットについて、詳しく解説します。
1.強い協力関係を築くことができる
単に業務提携を行う場合は提携の解消を容易に行いやすいのに対して、資本業務提携は株式の保有を伴っているため、長期的に強固な関係性を築けることがメリットです。
資本提携を伴うことで、困難な局面にぶつかっても打破していくマインドが醸成されるなど、双方の従業員の連携の意識も高まることも期待できます。
事業運営の面では、販路拡大や製品開発などの面で協力し合う、あるいは他社よりも有利な取引条件を設定するといった取り組みにより、競合他社よりも優位に事業を展開しやすくなる可能性があります。
また、単独ではすぐには得られない経営資源を取得することで、一から事業を育てていくよりも成長スピードを加速できることもメリットに挙げられる点です。
2.シナジー効果を得ることができる
【シナジー効果とは】 相乗効果によって、それぞれが単独で事業を行う場合以上の成果を生み出すこと。 |
資本業務提携によって、2つ以上の企業が業務提携による事業運営を行うことで、単独で事業を運営するよりも、シナジー効果として大きな成果を生み出せることもメリットです。
業務提携でもシナジー効果が期待できますが、資本業務提携は資本の結びつきによって、財務や経営の面からもシナジー効果が生まれやすくなるのです。
シナジー効果には売上エナジーやコストシナジー、研究開発シナジーといった種類があります。
売上シナジーでは販路拡大のほか、資本業務提携先の既存の顧客に商品やサービスを提案するクロスセリングによる売上アップも期待できます。
また、ブランド力のある企業との資本業務提携により、自社のブランド力の向上につながり、売上に反映されることもあるでしょう。
コストシナジーでは、営業拠点や生産拠点を統一することで統廃合を行う、物流体制を統合する、仕入れを一本化して価格競争力をつけるといった方法によって、コストダウンを実現できます。
研究開発シナジーでは、設備や技術、ノウハウを共有することにより、単独では難しい技術開発分野へ取り組むなど、研究開発体制の強化を図れます。
3.双方の独立性・独自性を維持できる
資本業務提携は株式の取得を伴いますが、通常、経営権に影響のない範囲での保有とするため、合併や買収とは異なり、双方の独立性や独自性を維持できることもメリットに挙げられます。
株式会社は発行済み株式数に対する持ち株比率によって行使できる権利が決められています。
持ち株比率1%で株主総会での議案提出権、3%以上で株主総会の招集、帳簿や経営資料の閲覧ができますが、経営権には影響を及ぼしません。
持ち株比率33%以上(3分の1以上)で株主総会の特別決議の単独での阻止、50.1%を超えると株主総会の普通決議の単独での成立を行うことができるなど、3分の1を取得すると経営権を持つことになります。
資本業務提携では持ち株比率を3分の1未満に抑えることで、経営の独立性を維持しながら、株式の保有による強固な関係性を築くことができます。
4.経営リスクを抑えることができる
第三者割当増資によって資本業務提携を行う場合には資本金が増加することから、財務基盤の強化につながり、経営リスクを抑えられることもメリットです。経営状態が悪化している企業は、第三者割当増資によって資本金が増えると会社としての信用が高まり、金融機関からの融資を受けやすくなります。
また、新規事業を立ち上げるときの投資を双方で協力して行うと、万が一事業が失敗したときのリスクを抑えられるため、チャレンジしやすい環境を持てることもメリットといえます。
資本業務提携を結ぶ3つのデメリット
資本業務提携には多くのメリットがある一方で、デメリットもある点を踏まえておく必要があります。
- 提携先が経営に干渉する可能性がある
- 株式購入のための資金が必要になる
- 提携の解消が難しい
主な3つのデメリットについて、以下で詳しく解説します。
1.提携先が経営に干渉する可能性がある
資本業務提携は譲渡する株式を通常、発行済み株式数の3分の1未満とするため、資本業務提携先の企業に経営権はありません。
しかし、経営への一定の参加権はあるため、経営に干渉される可能性があることがデメリットに挙げられます。
そもそも資本業務提携は利益の拡大を目的としているため、業績が低迷しているときには、経営方針に関する意見を出されることが考えられます。
資本業務提携によって、経営の自由度には多かれ少なかれ影響があることを踏まえておくことが大切です。
2.株式購入のための資金が必要になる
資本業務提携によって株式を取得するためには、企業買収ほどの資金を必要とはしませんが、相応の資金が必要になる点もデメリットです。
株式の譲渡や第三者割当増資によって株式を取得する場合には、株式の購入費用が必要です。
株式交換によって資本業務提携を行う場合には、基本的には購入費用はかかりません。
また、株式を取得した後で提携先の株価が下落すると、含み損を抱えることになる点にも注意が必要です。
3.提携の解消が難しい
資本業務提携は一度提携を行うと、簡単には解消できず、提携関係が柔軟性に乏しい点もデメリットです。
資本業務提携を行っても、想定していたような効果が表れないこともあります。
業務提携だけであれば、契約の解除によって提携を解消できますが、資本業務提携を解消するには、提携先が取得している自社株式の買い取りを行うことが必要です。
第三者割当増資によって出資を受け入れているケースでも、資金を既に設備投資などに活用していることが多く、株式の買取資金の準備はハードルが高いといえます。
また、資本業務提携から長い期間が経過している場合には、提携したときの株価と現在の株価の乖離が大きい可能性があるなど、買取価格に関して提携先との話し合いが必要です。
特に提携先が資本業務提携の解消に後ろ向きの場合には、高い買取価格を提示されることも考えられます。
事業の提携に関する話し合いも必要になるなど、資本業務提携の解消には多くの時間と労力が必要とされます。
資本業務提携の流れ
資本業務提携を検討して実行に移していくにあたり、提携先との契約を締結するまでには、以下のステップがあります。
【資本業務提携の流れ】
- 提携の目的を明確にする
- 提携先を選定する
- 提携内容や条件を提携候補先とすり合わせる
- 契約を締結する
1.提携の目的を明確にする
資本業務提携の提携先の選定を行う前に、提携を行う目的を明確にしておくことが大切です。
資本業務提携の目的が曖昧では、提携先の候補企業をやみくもに探すことになり、提携によるシナジー効果も薄くなります。
まず、市場における自社のポジションや強み、弱み、競合の状況などの分析を行います。
次に他社の経営資源による補完が必要な事業領域と課題を洗い出し、資本業務提携が必要な事業領域を絞りこみ、提携の目的を設定します。
そして、資本業務提携という手法でなければならないのか、資本業務提携を行うことでどんなことを実現していきたいのかといった点を深堀して、目的を明確化していきます。
2.提携先を選定する
資本業務提携を行う目的を明確化したら、提携先の選定に入ります。
目的の実現に向けて、提携によるシナジー効果が高い企業を選定することがポイントです。
しかし、提携先の候補企業の技術力やブランド力、営業力はもとより、財務状況について正確に把握することは困難です。
財務状況がよくなければ、自社の株式の取得を打診しても、引き受けてもらえる可能性は低いです。
また、一度、資本業務提携を行うと簡単に解消するのは難しいことから、長期にわたって良好な関係を構築できる企業を選定することもポイントになります。
そこで、提携先の選定にあたってはM&A仲介会社など、M&Aに詳しい外部の専門家に相談するのが望ましいです。
提携先の候補企業の提案が受けられるため、選択肢が広がるほか、資本業務提携に関する知見を得ることもできます。
3.提携内容や条件を提携候補先とすり合わせる
資本業務提携を行う候補企業を絞り込んだ後、相手側と提携内容や条件のすり合わせを行います。候補企業に対しては、自社の強みや資本業務提携によって期待されるシナジー効果などについても伝えます。
まず、重要なのは出資比率の取り決めです。
発行済み株式数の3分の1を超える資本の受け入れは経営権に関わる一方、出資比率が低い場合には強固な協力関係が築きにくいことが考えられます。
また、株式譲渡や第三者割当増資といった資本業務提携の方法も取り決めておく必要があります。
このほかには業務提携の部分で、提携する事業の範囲や供出する経営資源などの取り決めも必要です。
一般的に広範囲な提携を行うほど、ハイリスク・ハイリターンになります。
4.契約を締結する
資本業務提携を行う相手側と提携内容や条件の合意が得られたら、資本業務提携契約書を作成して、契約の締結に進みます。
資本業務提携に関して会社法で規定されたルールがないため、いずれかの企業が不利な内容で契約を結んでも、原則として契約内容が優先されるという点に注意が必要です。
そのため、M&A仲介会社などのプロに相談して資本業務提携を進めた方が安心ですし、契約前に契約書の内容を弁護士を入れて十分に確認することが大切です。
資本業務提携の成功事例
実際に資本業務提携を行い、一定の成果が出ている成功事例を紹介します。
提携企業 | KDDI:auブランドなどによる通信事業 ロイヤリティ マーケティング(LM社):Pontaブランドによるポイント事業、マーケティング事業 |
資本提携の方法 | 三菱商事株式会社によるKDDIに対するLM株式の一部譲渡 |
提携の目的 | 両社のポイントをLM社が運営する共通ポイントサービス「Ponta」に統一することによる、両社におけるポイント会員基盤のさらなる強化、経済圏拡大 |
両社は、2019年12月に資本業務提携契約を締結しました。KDDIがLM株式の20%を取得し、資本関係を含む提携関係となりました。
2019年当時、1億人超の会員数を誇る楽天や7,000万人規模のTポイントなど、ポイント業界の競争は激化していました。一方でKDDI(auウォレットポイント)の会員数は約2,800万人、LM社(Ponta)の会員数は約9,000万人と、競合に明確な優位性を確立できていませんでした。
そこで両社は資本業務提携を図ることで、1億人を超える顧客基盤の確立や、データ分析やマーケティング面における連携を図り、競合に対抗する姿勢を見せました。具体的な施策として、2020年5月にはKDDIのポイントをPontaに統合し、ポイント還元や加盟店・ネット通販での利用、メールマガジンの運用などの施策で連携を図ってきました。
その結果、LM社側では主に以下の効果が出ています。
- 提携後1年でPontaの新規会員の獲得数が2倍近くまで増加
- au経済圏との融合に伴い、幅広いジャンルにPonta加盟店が拡大
一方でKDDI側でも、提携によってPonta会員によるauペイの利用率が16.3ポイント増加し、提携による効果を得ています。
双方にとって良い効果が生じているため、資本業務提携は現時点において成功していると言えます。
資本業務提携が成功した要因
資本業務提携が成功した要因として、両社の強みが相互に作用し、シナジー効果が生み出されたことが考えられます。
KDDIは強固なネットワークや知名度などの強みを持っていました。一方でLM社は、会員数の多さという強みを持っていました。この両社が提携したことで、KDDIはPontaの強みを活かして自社サービスの利用率向上を実現、一方でLM社はKDDIの強みを活かすことで新規会員数の増加や新しいジャンルへの進出を実現しました。
以上より、相互の強みが噛み合い、シナジー効果の最大化を図れる提携先を選ぶことが、資本業務提携の成功可能性を高める上では重要であると考えられます。
参照元:
KDDI「KDDIとロイヤリティ マーケティング、資本業務提携に関するお知らせ」
日本経済新聞「KDDIとローソン、資本業務提携を発表」
日本経済新聞「KDDI「ポンタ」にポイント統合」
ITmedia Mobile「KDDIとの提携で経済圏拡大のPonta」
資本業務提携の失敗事例
前章ではメリットを期待して資本業務提携を図った事例を紹介しましたが、すべての提携が成功するとは限りません。想定していたメリットが得られず、失敗に終わった提携の事例も少なからずあります。
この章では、代表的な失敗事例として有名な株式会社西友とウォルマートの資本業務提携を取り上げ、失敗の理由や兆候、警戒すべきポイントを解説します。
提携企業 | 西友:国内スーパー大手 ウォルマート:アメリカの小売大手 |
資本提携の方法 | 西友からウォルマートに対する株式の一部譲渡 |
提携の目的 | 西友:世界最大(当時)の小売企業が有する強みを生かした業務展開 ウォルマート:日本の小売市場における事業基盤の確立 |
両社は、2002年に資本業務提携契約を締結しました。当初ウォルマートは、西友の業績改善を図り、日本の小売市場での事業基盤を確立する狙いでした。
ウォルマートはアメリカでの経営戦略と同様に低価格戦略を実行しますが、絶対的な低価格化を実現するには至らず、業績は伸び悩みます。2008年には完全子会社化を行い、よりいっそう日本市場へのコミットメントを強化したものの、状況は一向に改善されませんでした。
最終的に、2020年にウォルマートは西友の株式85%を楽天と米投資ファンドに売却し、日本での小売事業を大幅に縮小する格好となりました。業績の改善が見られなかったことや、中国をはじめとした成長市場に軸足を移す目的などから、西友株式の売却に至ったと言われています。
ウォルマートと西友による資本業務提携および完全子会社化にかけた総投資額は約2,500億円に上ります。一方で売却時点での西友の企業価値は1,725億円と見積もられています。総投資額に比べて売却時点の企業価値が低いため、資本業務提携は失敗に終わったと言えます。
資本業務提携が失敗した原因
西友とウォルマートの資本業務提携が失敗した原因として、主に以下が考えられます。
- ウォルマート流の経営戦略(低価格戦略)が日本の小売市場で通用しなかった
- 提携以前より日本国内における人口の伸びが鈍化していた(市場が縮小傾向であった)
特に大きな要因として1つ目が挙げられます。日本の消費者が日常的な特売に慣れていたこと、ドン・キホーテをはじめとしたディスカウントストアが勢力を伸ばしていたことから、ウォルマートが採用していた低価格戦略が優位性を発揮しませんでした。
失敗の兆候として、「海外市場で成功したビジネスモデルを日本に直輸入したこと」や「提携後、数年間業績が伸び悩んでいたにもかかわらず、子会社化に向けて追加投資したこと」などが挙げられます。
本件の事例より、資本業務提携の失敗を避けるためには、以下の2点に警戒することが重要と言えます。
- 提携先と自社が展開する市場における目的(顧客のニーズや人口、競合企業など)の違い
- 提携解消(撤退)の最適なタイミング
提携先企業が展開するビジネスやそれを取り巻く市場を深く理解し、提携後のビジネスモデルを決定することがリスク軽減につながります。また、大きな失敗を回避する観点からは、提携の効果を定期的に測定し、傷が深くなる前に撤退することが重要となります。
参照元:
ロイター「米ウォルマート、西友をTOBで完全子会社化へ」
J-CAST ニュース「米ウォルマートの誤算 西友から『手を引くに引けない』?」
WWDJAPAN「米ウォルマート、西友の株式85%を売却 買い手は楽天と米投資ファンド」
資本業務提携で注意すべき株価の変動
上場企業が資本業務提携を図る際には、株価の変動にも注意を払う必要があります。提携によって株価が大幅に下落すると、投資家から反発を受けるリスクがあるためです。
この章では、株価が変動する一般的な要因を解説した上で、提携によって株価が上昇するケースと下落するケースを解説します。
一般的に株価は投資家の評価に左右される
株価に影響を与える要因は多様であるものの、上場している株式の場合、投資家の評価によって左右される傾向があります。
たとえば、企業が発表した内容に対して投資家の評価が高い場合には株価が上昇します。具体的には、業績の向上であり、さらに景気回復、法規制の緩和などが考えられます。
一方で、投資家が不安に思うような内容であれば株価は下落します。たとえば業績や景気の悪化などの要因が考えられます。
ただし、上記は一例であり、実際に株価が上昇・下落のどちらに転じるかはケースバイケースである点には注意しましょう。
提携によって株価が上昇するケース
資本業務提携を公表した際、投資家がその内容をプラスに捉えた場合には株価が上昇します。具体的には、提携によって業績や技術力などの向上、シナジー効果の創出などが見込めると判断されるケースです。
また、事業範囲が狭い小規模な企業であれば、資本業務提携による良い影響をダイレクトに受けやすいため、株価は上昇しやすいと考えられます。加えて、提携発表時点で株価が割安であると投資家が判断した場合も、株価は上昇に転じやすいです。
提携によって株価が下落するケース
資本業務提携の発表で株価が下落する主なケースは、投資家からの評価が低い場合です。たとえば業績や収益性の低迷が見込まれるケースや、買収金額が高すぎる(提携にかけた金額に対して得られる効果が小さいと考えられる)ケースなどでは、株価が下落する可能性があります。
特に、のれん代(相手企業が有するブランド力をはじめとした無形資産の価値)を高く評価すると、出資金額が実態に見合わない高さとなるリスクがあります。その場合、たとえ業績や収益性が高まっても、それ以上にのれん償却費がかかってしまい、最終的な損益がマイナスとなったり最悪の場合、莫大な減損損失が生じたりするおそれがあります。
こうした事態が想定される場合には、大幅な株価の下落が生じ得ます。大幅な株価下落が生じると、投資家からの反発を受けるなどにより事業の続行に支障をきたすリスクがあります。したがって、株価変動に対する投資家目線も考慮した上で資本業務提携の相手企業を選定することが重要です。
まとめ
資本業務提携は単に業務提携を行うよりも提携先と強固な協力関係を築いて、シナジー効果を得られやすいことがメリットです。一方で資本業務提携を結ぶと、簡単に提携の解消を図ることが難しいため、長期的な関係を築ける相手か見極めることが大切です。
なお、自社と提携先のビジネスモデルの違いを理解することが、資本業務提携の失敗を回避する上で重要です。
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資本業務提携を検討している場合には、提携先の選定の難しさや契約内容の確認の重要性などから、M&A仲介会社などのプロに相談するのがおすすめです。
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