M&Aで必要なPPAとは?実施手順や仕訳の具体例も合わせて解説

2023年2月24日

M&Aで必要なPPAとは?実施手順や仕訳の具体例も合わせて解説

このページのまとめ

  • PPAはM&Aで取得した原価を会社の資産や負債に分配する手続き
  • PPAはパーチェス・プライス・アロケーションとも呼ばれる
  • PPAはM&A実施後から1年以内に行わなければならない
  • PPAに必要な無形資産は評価者次第で評価が変わりやすいため注意する
  • PPAを行うためには、専門家のアドバイスが欠かせない

「M&AでPPAが必要と聞くけどよく分からない」「PPAを行う手順が知りたい」などと考えている経営者も多いことでしょう。M&Aを行うと、1年以内にPPAの実施が義務付けられています。

しかし、PPAは専門的な知識も必要であり、簡単には実施できません。M&Aに向けて、PPAの概要や流れなど、基本的な内容を知っておきましょう。本コラムでは、概要と合わせて、実施手順や仕訳の具体例などを解説します。

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M&Aで必要なPPAとは 

PPAとは、M&Aで会社を買収した際に取得した原価を、買収した会社の資産、または負債に分配する手続きのことです。パーチェス・プライス・アロケーションとも呼ばれます。

PPAを行うことで、売り手の持つどのような資産や負債を買収したかが、分かりやすく示されます。また、PPAを確認すれば、M&Aを行った目的を調べることも可能です。

PPAの実施は義務である

PPAの実施は、義務化されているため覚えておきましょう。2010年以降、「買収から1年以内に、取得した売り手企業の資産や負債を時価で評価し、財務諸表に取り込むこと」が定められています。

もし、買収した資産や負債に無形資産が含まれる場合は、認識可能な資産として、無形資産計上を行います。ただし、法律上の権利による裏付けのない、超過収益力などに関しては、無形資産の認識要件にあてはまらないことから、のれんでの計上が必要です。

PPAには専門知識や経験が必要

PPAを行うためには、専門知識や経験が必要になります。一般的な会計処理とは異なるため、経理担当では難しいことを覚えておきましょう。

買収から1年以内にPPAの実施が必要になる点や、会計監査が行われる可能性を考えると、専門家に依頼したほうが安心でしょう。

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無形資産にあてはまる資産の例 

PPAでは、有形資産だけではなく、無形資産も対象になります。どのような資産が無形資産に該当するか確かめておきましょう。

無形資産とは、形がなく、目には見えない資産のことです。「法律上の権利」「分離して譲渡可能な無形資産」の2種類に分けられます。法律上の権利とは、法律にもとづいて定められた権利のことです。たとえば、次のような内容が該当します。

  • 特許権
  • 商標権
  • 著作権
  • 意匠権
  • 実用新案権
  • 独占販売権
  • 商号

また、「分離して譲渡可能な無形資産」には、次のような内容が該当します。

  • 顧客リスト
  • ソフトウェア
  • 特許で保護されていない技術

基本的には、企業と独立して売買でき、価格を決められるものが「分離して譲渡可能な無形資産」に該当します。PPAでは、無形資産の考慮も求められるため、覚えておきましょう。

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M&Aの場面でPPAを実施する手順 

M&Aの場面で、PPAを実施する際の手順を確認しておきましょう。基本的には、次のような流れで行います。

  1. 情報収集
  2. 無形資産に関するヒアリング
  3. 無形資産の識別
  4. 無形資産の価値算定
  5. 会計監査人への確認
  6. 会計処理の確定

それぞれの流れに関して解説するため、参考にしてください。

1.情報収集

PPAを行うためには、情報収集から始めます。無形資産を判別し、計上が必要だからです。情報収集を行うために、次のような資料を確認しましょう。

  • 買収の目的が分かる資料
  • 対象会社の決算書
  • 対象会社のクロージングBS
  • デューデリジェンスの報告書(財務・税務・法務など)
  • 株式価値算定書
  • 株式譲渡契約書
  • 対象会社の事業計画書

資料を確認し、純資産と取得金額の差額を確認します。差額から、「無形資産の金額がどのくらいになるか」「どのような無形資産が計上されるか」などを分析しましょう。

また、PPAは無形資産だけではなく、有形資産も評価を行い配分します。有形資産を評価したあとに、無形資産の評価を行うようにしましょう。

2.無形資産に関するヒアリング

無形資産に該当する資産を明確にするため、買い手企業や対象企業に対し、ヒアリングを行いましょう。買い手企業には買収目的を確認し、識別が必要な無形資産がないか確認します。たとえば、技術力の獲得を目的にM&Aを行った場合、技術に関する無形資産が評価されるでしょう。

買い手企業にヒアリングをしたあとは、対象企業にもヒアリングを行います。資料も確認しながら、対象会社へのヒアリング内容を決めましょう。

たとえば、デューデリジェンス報告書には、特許のような知的財産権に関して記されている場合があります。この場合、特許に関する無形資産があると考え、ヒアリング内容を決めることができるでしょう。

ヒアリングをとおして、法律上の権利、あるいは分離可能性要件を満たす無形資産を確認してください。

3.無形資産の識別

ヒアリングをもとに、無形資産の識別を行いましょう。

無形資産に識別されたものは、具体的な計上額の計算が必要です。

識別後は、無形資産の価値算定を行いましょう。

4.無形資産の価値算定

無形資産の価値算定方法には、次の3つがあります。

  1. マーケットアプローチ
  2. インカムアプローチ
  3. コストアプローチ

無形資産の価値算定を行う場合は、インカムアプローチかコストアプローチが用いられるケースが多くあります。マーケットアプローチは類似したものを基準に計算する方法ですが、無形資産は個別性が強く、類似したものが想定しにくいからです。

案件次第で使いやすい方法が変わるため、M&Aの目的や対象企業の強みを考慮しながら、計算を行いましょう。

5.会計監査人への確認

PPAは、会計監査人に確認してもらう必要があります。評価結果が、そのまま財務諸表に計上されるからです。

PPAの評価に関しては、明確に定められた方法がありません。そのため、会計処理を確定する前に、次のような項目を会計監査人に確認してもらいましょう。

  • 計上項目
  • 計上額
  • 計上に使用した計算方法
  • 計算条件
  • 償却期間

PPAに関しては、専門家によっても考え方が変わります。会計監査人の確認に、時間が掛かる場合もあることを覚えておきましょう。

6.会計処理の確定

会計監査人の確認が終われば、会計処理が確定します。確認してもらった計上科目や計上額を用いて、会計処理を行いましょう。

無形資産の処理を行う場合にも、耐用年数が設定されています。計上された金額は耐用年数に応じて、償却計算を行いましょう。

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無形資産を評価する3つの方法 

無形資産を評価する際は、次の3つの方法を活用します。

  1. マーケットアプローチ
  2. インカムアプローチ
  3. コストアプローチ

対象となる資産や企業の状況によって計算方法は変わるため、それぞれの評価方法を知っておきましょう。

1.マーケットアプローチ

マーケットアプローチとは、似ている無形資産の過去の取引価格から、価値を算出する方法です。マーケットアプローチの種類には、「ロイヤルティ免除法」「利益差分比較法」などがあります。

ロイヤルティ免除法とは、特許などの無形資産を自己保有していることで、第三者から無形資産の使用許諾を得る場合に比べてロイヤリティコストが抑えられているとみなし、抑えられているロイヤリティ額にもとづいて無形資産を評価する方法です。

利益差分比較法は、無形資産を使用している事業としていない事業の利益を比較し、利益の差分をもとに無形資産を評価する方法になります。

2.インカムアプローチ

インカムアプローチとは、評価対象の無形資産が将来的に生み出す価値を算出し、計算する方法です。将来生み出すとされる価値を現在の価値に戻して、無形資産の価値として扱います。

インカムアプローチの代表的な方法には、「超過収益法」と「利益分割法」があります。

超過収益法とは、企業全体、または事業全体の利益から無形資産に寄与する利益を取り出し、価値を算出する方法です。

利益分割法は、無形資産が使用されている事業全体の利益のうち、無形資産が寄与している割合を計算して、価値を算出する方法になります。

3.コストアプローチ

コストアプローチとは、評価対象になる無形資産を再度取得する場合、または再度生産する場合のコストを算出し、資産価値として反映する方法です。コストアプローチの代表的な方法には、再調達原価法があります。

再調達原価法とは、評価対象になる無形資産と同じ効果を得られる無形資産を生産する場合のコストを基準に、価値を計算する方法です。

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PPAを使用する場合の仕訳の具体例  

PPAを使用する場合の、仕訳の具体例を確認しておきましょう。PPAでは、

  1. 全額をのれんで計上する場合
  2. PPAで無形資産の計上を行う場合

の2パターンがあります。

それぞれの仕訳に関して解説するため、参考にしてください。

今回のケースでは、日本基準を採用したA社が、B社を2,000万円で買収して子会社化したケースで解説します。この際、B社の純資産は1,500万円とします。

全額をのれんで計上する場合

全額をのれんで計上する場合、買収金額と純資産の差額がのれんになります。

仕訳方法に関しては、次のとおりです。

借方

貸方

純資産

1,500万円

子会社株式

2,000万円

のれん

500万円

   

今回は、買収金額が2,000万円、B社の純資産が1,500万円であることから、差額の500万円がのれんになります。

PPAで無形資産の計上を行う場合

PPAで無形資産の計上を行う場合、無形資産が識別、評価を受けます。たとえば、無形資産に商標権があり、300万円で計上されたとしましょう。また、法定実効税率に関しては、30%で計算します。

PPAで無形資産を計上する場合、連結時の差異として、繰延税金負債を計上します。次のように仕訳を行いましょう。

借方

貸方

純資産

1,500万円

子会社株式

2,000万円

商標権

300万円

繰延税金負債

90万円

のれん

290万円

   
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PPAを実施する場合の2つの注意点 

PPAを実施する場合、次の2つに注意しましょう。

  1. のれんの評価は評価者次第で変わりやすい
  2. 価値の評価ミスを起こさないよう気を付ける

それぞれの注意点を解説します。

1.のれんの評価は評価者次第で変わりやすい

のれんの評価額は、評価者次第で変わりやすいため注意しましょう。無形資産は目に見えないため、絶対的な評価が難しくなっています。

無形資産を評価する際は、客観的な評価が重要です。ただし、個人差が生まれてしまうことは、考慮しておくと良いでしょう。

2.価値の評価ミスを起こさないよう気を付ける

のれんを評価する際、評価ミスを起こさないように注意しましょう。ミスをしてしまうことで、事業に悪影響を及ぼす場合があるからです。

のれんの評価を間違えてしまうと、のれんの減損が起きる場合があります。のれんを見直すことで、株主や株価に影響を与えることもあるでしょう。

株主の場合、評価を間違えることで配当金を受け取れなくなる可能性もあります。また、株価が下がってしまえば、資金調達が難しくなる問題も発生するでしょう。

評価ミスは株主などにも影響を与えるため、正しく評価するようにしましょう。

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まとめ

M&Aを行った場合、1年以内にPPAの実施が必要です。必ず行わなければならないため、対応しましょう。

しかし、PPAは簡単に行えるものではなく、専門家のサポートが欠かせません。無形資産の評価も難しく、計算方法も明確に正しいものが決められていないからです。会計監査への対応も必要になるため、問題を起こさないためにも信頼できる専門家を探すようにしましょう。

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