このページのまとめ
- 有限会社であってもM&Aを利用して売却はできる
- 有限会社が売却される理由は「従業員不足の解消」や「後継者問題の解決」
- 有限会社を売却する際は「従業員の離職」や「取引先との関係悪化」に注意
- 有限会社が売却できるのは「社歴の獲得」や「会社の維持コストが少ない」から
- 有限会社は株式会社の売却と異なる点もあるためM&A仲介会社に相談が大切
「有限会社の売却方法が知りたい」「そもそも有限会社の売却はできるのだろうか」と考えている経営者も多いことでしょう。M&Aと言えば株式会社が一般的であり、有限会社が対象になるか不安になるのも当然です。
実は、有限会社も売却は可能であり、問題なく手続きを進められます。本コラムでは、有限会社を売却する際の手続きの流れやポイント、売却価格の算出方法などを解説します。
目次
有限会社でも売却はできる
M&Aで経営者が気になるポイントが、「有限会社でも売却はできるのか」です。会社売却を行う場合には株式会社を想定する人も多く、有限会社の扱いに悩んでいる人もいることでしょう。
実は、有限会社であっても、M&Aを利用した会社売却は可能です。ただし、株式会社の売却を行う場合とは違いがあるため、確認しておきましょう。
有限会社とは
有限会社とは、2006年に行われた会社法の改正前までは設立可能だった、会社の形態の1つです。現在では、有限会社の設立はできなくなっています。
有限会社には、次のような特徴があります。
- 資本金が300万円以上
- 社員数(出資者数)が50名以下
- 取締役の任期に制限がない
- 決算公告の義務がない
- 商号変更登記を行わなくて良い
- 会計監査の義務がない
1991年に行われた法施行の段階では、「株式会社は1,000万円以上の資本金がなければ設立できない」と定められていました。一方で、有限会社は300万円以上の資本金で設立ができたため、有限会社を設立する経営者が多い状況でした。
しかし、2006年に会社法が施行され、株式会社が1円からでも設立できるように変更されています。また、新規の有限会社は設立できなくなりました。そのため、現在では会社法施行までに設立された企業が、有限会社を名乗り続けています。
特例有限会社とは
特例有限会社とは、有限会社以外の株式会社に変更せず、有限会社のまま存続している会社のことです。現在「有限会社」と名乗っている企業は、特例有限会社に該当します。
2006年に施行された会社法にともない、有限会社に関して定めていた「有限会社法」は廃止されました。会社法以前に設立された有限会社は、手続きを実施すれば、商号に有限会社を使いながら株式会社として存続できる状態に変更されています。
しかし、手続きを行わずに、有限会社として残っている企業が多くあります。その有限会社として残っている企業が、特例有限会社です。
株式会社との違い
特例有限会社と株式会社は、次のような点で異なるため覚えておきましょう。
有限会社 | 株式会社 | |
資本金 | 300万円以上 | 1円以上 |
役員数 | 取締役が1名以上 | 取締役が1名以上 |
取締役会の設置 | 不可 | 任意 |
取締役の任期 | なし | 2年~10年 |
従業員数 | 50人以下 | 制限なし |
株式の譲渡制限 | 定款に関係なく制限あり | 制限するためには定款での定めが必要 |
決算の公告義務 | なし | あり |
有限会社が売却される3つの理由
有限会社の売却が行われる理由は、次の3つです。
- 従業員が不足している
- 後継者がいない
- 休眠状態で放置されている
それぞれの理由に関して、解説します。
1.従業員が不足している
有限会社が売却される理由の1つが、従業員が不足しているからです。会社の業績が良くても、人材不足で困っている企業が多くあります。
企業のなかには、特別な技術を保有しているケースも多く、新しく人を採用して解決するとは限りません。採用しても、育てるまで時間が掛かってしまうからです。従業員不足で自社を消滅させてしまうくらいなら、ほかの企業に売却して事業を存続させようとする経営者が多くいます。
また、買い手に関しても、人材を欲しているケースが多い状況です。売り手と買い手のニーズが一致するため、有限会社の売却が成立しています。
2.後継者がいない
後継者がいないことも、有限会社が売却される理由です。後継者が見つからず廃業してしまうと、従業員は失業してしまうため、雇用確保のためにもM&Aを行います。
有限会社は小規模で設立しやすいことから、家族経営が多い企業形態です。家族経営の場合、子どもが跡を継がなかった場合、後継者が見つからない問題が発生します。
会社売却であれば、第三者に跡を継いでもらうことで、後継者問題が解決します。従業員の雇用確保もできることも、有限会社の売却が行われる理由です。
3休眠状態で放置されている
休眠状態で放置している有限会社を売却し、利益を手に入れるためにも会社売却が行われます。休眠会社の状態でのこしてしまうと、税金が発生してしまうからです。また、決算申告も必要であり、手続きの手間がかかります。
会社売却を行えば、維持に必要なコストはなくなり、売却した利益の獲得も可能です。休眠状態で費用が掛かるくらいなら、売却してしまおうと考える経営者も多く、有限会社の売却が行われます。
有限会社の売却価格を決める3つの方法
有限会社の売却価格を決めるためには、次の3つの方法を使用します。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
それぞれの方法に関して、解説します。
1.コストアプローチ
コストアプローチとは、企業が所持している資産から、企業価値の算出を行う方法です。貸借対照表の簿価を基準に計算する「簿価純資産法」、純資産を時価評価にして計算する「時価純資産法」などがあります。
有限会社の企業価値を算出する場合、時価純資産と営業権(のれん)を合わせて計算する方法がよく使われます。営業権とは、企業が持つ「ブランド」「人材」「ノウハウ」などの無形資産のことです。企業が持つ資産に営業権の価値をプラスして、企業価値の評価が行われます。
2.インカムアプローチ
インカムアプローチとは、企業が将来生み出すと予想される収益やキャッシュフローを基準に、企業価値の算出を行う方法です。インカムアプローチには、次のような種類があります。
- DCF法
- 収益還元法
- 配当還元法
インカムアプローチのメリットは、将来性を考慮できるため、成長が見込まれる企業でも価値を反映しやすい点です。ただし、主観的な評価になりやすい点には注意しましょう。
3.マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、売却対象となる企業と似ている上場企業を探し、比較して企業価値を算出する方法です。マーケットアプローチには、次のような種類があります。
- 類似会社比較法
- 市場株価法
- PBR法
- PER法
- EBITDA法
ただし、有限会社の場合は適切な評価がしにくい場合も多く、あまり使われない手法になっています。
有限会社売却の流れ
有限会社を売却する場合、次のような流れで進めることが一般的です。
- 専門家に相談する
- 売却に必要な情報を整理する
- 買い手企業を探す
- 条件の交渉を行う
- デューデリジェンスを受ける
- 株式譲渡契約を締結する
- 株主総会で譲渡承認を受ける
- 譲渡を行う
- 買い手企業がPMIを実施する
それぞれの流れに関して解説するため、売却時の参考にしてください。
1.専門家に相談する
有限会社売却に向けて、まずは専門家に相談しましょう。会社売却では、M&A仲介会社やFA会社がアドバイスを行ってくれます。相談する段階で、有限会社でも対応してくれるかどうかは、確認するようにしましょう。
2.売却に必要な情報を整理する
売却に必要な情報を整理しておきましょう。M&A仲介会社などに情報を提出し、案件を進めてもらうためです。たとえば、次のような情報をまとめ、M&A仲介会社に提出しましょう。
- 登記簿謄
- 株主名簿
- 財務諸表
情報を受け取ったM&A仲介会社は、買い手がM&Aを検討できるように準備を進めます。
3.買い手企業を探す
情報提出が終われば、買い手を探しましょう。基本的には、M&A仲介会社などが主導で買い手を探します。
この段階では、買い手は「ノンネーム」と呼ばれる企業名を隠した状態でM&A候補を探します。買い手から交渉したいと連絡があれば、秘密保持契約を締結し、より詳細な情報を明かしましょう。詳しい交渉に移るかの判断が行われます。
4.条件の交渉を行う
買い手が見つかれば、具体的な条件交渉を始めましょう。M&A仲介会社と相談しながら交渉を進めてください。
条件交渉では、有限会社を理由に売却価格を下げられないよう注意しましょう。有限会社であっても条件を下げる必要はありません。
5.デューデリジェンスを受ける
デューデリジェンスとは、売り手企業に法的や財務的なリスクがないか調べる企業調査のことです。買収企業にふさわしいか確かめるために、買い手が実行します。
有限会社のデューデリジェンスを行う場合も、株式会社のデューデリジェンスとは違いがありません。買い手から情報提供を要求された場合には、積極的に協力しましょう。
6.株式譲渡契約を締結する
デューデリジェンスで問題がなければ、株式譲渡契約を締結しましょう。
契約書も合わせて作成してください。
7.株主総会で譲渡承認を受ける
有限会社が株式譲渡を行う場合、譲渡承認を受ける必要があります。
この際、有限会社には取締役会がないため、株主総会を開催しましょう。
株主総会の普通決議で承認を得れば、有限会社も株式譲渡が可能になります。
8.譲渡を行う
株主総会で承認を得たら、譲渡が実行できます。株式譲渡契約書にもとづき、クロージングを行いましょう。
有限会社は、法律上株式会社と同じ扱いを受けます。そのため、譲渡契約書の内容も同じものになると覚えておきましょう。
9.買い手企業がPMIを実施する
クロージングが終われば、買い手がPMIを実行します。有限会社の場合は、「有限会社のまま運営を行うか」「株式会社に変更するか」の検討が行われるでしょう。
有限会社の場合、譲渡制限が残ってしまう点がネックになります。より会社を大きくさせたい場合には、株式会社に変更するのも考えたほうが良いでしょう。
関連記事:会社売却の相場や税金はどれくらい?準備からクロージングまでの流れも解説
有限会社を売却する際の3つのポイント
有限会社を売却する際は、次の3つのポイントを意識しましょう。
- 経営方針が変わる可能性がある
- 従業員の待遇変更や離職に注意する
- 取引先との関係変化に気を付ける
それぞれのポイントに関して、詳しく説明します。
1.経営方針が変わる可能性がある
有限会社を売却した結果、経営方針が変わってしまうケースに注意しましょう。経営者が変わることで、従来の方針とは違った考えを持つ経営者になるからです。
たとえば、事業を存続させるために売却したのに、事業方針が変わってしまうこともあります。
経営方針を変えたくない場合には、会社売却の交渉段階で話し合うようにしましょう。経営方針や事業方針を守ってくれる買い手と、取引を行うことも大切です。
2.従業員の待遇変更や離職に注意する
会社売却を原因にする、従業員の待遇変更や離職に注意しましょう。想定外の変更が起こり、従業員が混乱してしまうケースもあります。
会社売却では、買い手が従業員を雇用しなければならない法律はありません。そのため、最終契約書に、従業員の雇用形態の維持に関しては示しておきましょう。
また、会社売却を行うことによる、従業員の離職にも注意が必要です。会社が売られてしまうことで不安になり、離職を選んでしまうケースがあります。従業員への周知は、会社売却が成立してからにしましょう。契約内容や今後に関して十分に説明ができれば、従業員も安心できます。
3.取引先との関係変化に気を付ける
取引先との関係変化にも注意して会社売却を行いましょう。関係が悪化してしまうと、取引中止のリスクもあります。
もし、取引中止になってしまうと、自社の企業価値が下がります。取引中止になることで企業価値が下がり、売却価格が安くなったり、最悪の場合にはM&Aが破談したりする可能性もあるでしょう。
会社売却を行う際には、取引先にも十分な説明を行うことが欠かせません。会社売却後も、取引の内容に変化がないことを伝えておきましょう。
買い手が有限会社を買収する3つのメリット
自社の売却を有利にするため、買い手が有限会社を買収するメリットも知っておきましょう。次の3つが、メリットに挙げられます。
- 会社を存続させるコストが低い
- 決算公告義務がない
- 社歴の長い企業を獲得できる
それぞれのメリットを解説するため、参考にしてください。
1.会社を存続させるコストが低い
有限会社は取締役の任期に制限がないことから、会社存続のコストを抑えられます。取締役の変更には登記が必要になり、登記費用が掛かるからです。
特例有限会社以外の株式会社の場合、取締役は原則2年の任期が定められています。任期が終わるたびに登記が必要になり、登記費用を支払わなければなりません。
有限会社の場合は、取締役の任期がありません。2年おきに登記費用を払う必要がなく、会社存続のコストが抑えられます。
2.決算公告義務がない
有限会社の場合、決算公告の義務がない点もメリットです。特例有限会社以外の株式会社の場合、決算を公告しなければなりません。買収後に会社の計算書類を公開せずに済む点はポイントでしょう。
3.社歴の長い企業を獲得できる
社歴の長い企業を獲得できる点も、有限会社買収のメリットです。有限会社は2006年以降は設立できていないことから、現存する有限会社は2006年よりも前に設立された企業です。
社歴の長い会社を獲得できれば、社会的信用をアピールできます。有限会社は一定以上の社歴が確立されているため、買収メリットがあります。
有限会社の売却でよくある質問
有限会社の売却でよくある質問を確認しておきましょう。ここでは、次のような質問に回答します。
- 特例有限会社が買収されるのはなぜか
- 特例有限会社の場合、買収側にリスクはあるのか
- 特例有限会社は売却しかできないのか
有限会社の売却を検討している方は、参考にしてください。
特例有限会社が買収されるのはなぜか
特例有限会社が買収されるのは、「財務諸表の公開が不要」「役員変更が不要」などのメリットに注目する経営者がいるからです。
たとえば、個人事業に近い形で事業を行っており、役員変更の予定がない企業もあります。その場合、株式会社を設立し、2年ごとに登記変更を行うのが面倒に思う経営者もいるでしょう。特例有限会社であれば、取締役の任期に制限がないため登記変更は不要です。
また、財務諸表の公開をしたくない経営者にとっても、特例有限会社の買収はメリットになります。特例有限会社ならではのメリットを得たい経営者が、買収を行っている状況です。
特例有限会社の場合、買収側にリスクはあるのか
特例有限会社であっても、買収側にそれほどリスクはありません。懸念されるリスクとすれば、特例有限会社は上場ができない点です。しかし、特例有限会社から株式会社に移行すれば上場できるようになるため、重大な問題にはならないでしょう。
また、有限会社は株式会社よりも資本金が少ないことから、社会的信用を危惧する声もありました。しかし、現代では株式会社が資本金1円から設立できるようになっています。そのため、資本金300万円の有限会社であっても社会的信用が低いわけではなく、買収リスクもそれほどあるとは言えないでしょう。
特例有限会社は売却しかできないのか
特例有限会社は、売却しかできないことを覚えておきましょう。M&Aの制限が掛けられており、買収による事業拡大はできません。
ただし、特例有限会社も株式会社に移行すれば、M&Aの制限がなくなります。
まとめ
有限会社であっても、会社売却は可能です。ただし、株式会社の売却と異なる点もあるため、違いは知っておきましょう。自社が売却できるかどうかは、M&A仲介会社のような専門家に相談すると安心です。
有限会社に買い手がつくのは、有限会社ならではのメリットがあるからです。「社歴が長い」「会社存続のコストが低い」などは、十分なメリットになるでしょう。
売り手に関しても、人材不足の解消や、後継者問題の解決などメリットがあります。有限会社の売却を考えているのであれば、まずはM&A仲介会社に相談してみましょう。
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