合併とは?実施目的やメリット、手続き方法などを解説
このページのまとめ
- 合併とは2つ以上の企業を1つに統合するM&A手法
- 合併には「吸収合併」と「新設合併」の2種類がある
- 合併には「経営の一元化」「シナジー効果の発生」などのメリットがある
- 合併には「統合の負担」「実施コストが掛かる」などのデメリットがある
- 合併をスムーズに進めるためには、M&A仲介会社への相談が重要になる
「合併を行うためにメリットや具体的な流れが知りたい」と考えている経営者も多いことでしょう。企業規模の拡大やシナジー効果を期待して、合併が実施されています。
ただし、合併にも「統合の負担が大きい」のようにデメリットがあり、自社に合っているか入念な検討が必要です。
本コラムでは、合併のメリットデメリットや手続きの流れなどを解説します。注意点も紹介するため、適切なM&Aスキームを決める参考にしてください。
合併とは
合併とは、2つ以上の企業を1つに統合させるM&Aスキームです。それぞれの企業は自社が持つ資産や負債を統合し、1つの法人格になります。業務提携や資本提携などとは異なり、存続する企業以外の法人格は消滅する点が特徴です。
また、合併には、「吸収合併」と「新設合併」の2種類があります。それぞれメリットデメリットがあるため、違いを知っておきましょう。
吸収合併とは
吸収合併とは、存続する1つの会社が消滅する会社の権利義務すべてを承継し、合併を行うことです。
会社法第2条27号では、「会社が他の会社とする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併後存続する会社に承継させるものをいう」と定められています。
吸収合併のメリットには、「シナジー効果が期待できる」「権利義務や債務を包括的に継承できる」などがあります。契約や従業員との雇用もそのまま引き継げる点はポイントです。
ただし、「必要な手続きが多い」「経営統合が大変」などのデメリットもあるため、注意が必要です。
参照元:e-Gov法令検索「会社法第2条27号」
新設合併とは
新設合併とは、新しく会社を設立し、合併する企業の事業や権利義務すべてを設立した会社に承継させるM&Aスキームのことです。この際、新しく設立した会社のみが存続し、事業や権利義務を承継した会社は消滅します。
会社法第2条28号では、「二以上の会社がする合併であって、合併により消滅する会社の権利義務の全部を合併により設立する会社に承継させるものをいう」と定められています。
新設合併は、「事業規模が拡大する」「対等な立場で合併しやすい」などの点がメリットです。ただし、新しく会社を設立するため、手続きやコストの負担が大きくなる点には注意しましょう。統合作業に関しても、新しい会社の設立によって負担が増えやすい点には気を付けなければなりません。
参照元:e-Gov法令検索「会社法第2条28号」
吸収合併と新設合併の違い
吸収合併と新設合併の違いに関して確認しておきましょう。
ポイントとなりやすいものが、許認可や免許の承継です。吸収合併の場合は、基本的に許認可や免許の承継ができます。一方で、新設合併では許認可や免許は承認できません。
また、合併後の上場に関しても異なります。吸収合併の場合、存続する会社が上場企業であれば、上場の維持が可能です。しかし、新設合併の場合は、上場廃止になり、あらためて上場手続きを行わなければなりません。
さらに、吸収合併の場合、資本金の増加分に対して課税が行われます。一方で、新設合併は資本金全体に課税が行われます。
合併と買収の違い
買収とは、企業の経営権や事業を獲得するM&Aスキームです。買収には、株式買収や事業買収などの種類があります。
合併と買収の違いは、企業が存続するかどうかです。買収の場合、株式を100%買収されても、子会社状態で会社は存続します。また、事業買収の場合は事業だけが買収対象になり、こちらも企業が存続する点が特徴です。
一方で、合併を行うと、存続する企業以外の法人格は消滅してしまいます。合併は企業が1つしか残らず、買収は買収された企業も残ることが大きな違いです。
合併と提携の違い
提携とは、企業同士がリソースを共有し、事業効率を上げる方法です。提携では共同で商品開発を行ったり、営業を委託したりなどの方法がとられます。
合併と提携の違いは、支配権の有無です。提携の場合、支配権に影響はなく、双方が独立したまま事業を行います。提携の解消もでき、提携解消後も法人格がなくなることはありません。
合併の場合は、1つの法人格となり、存続する企業以外は消滅してしまいます。企業が一体化するため、提携のように解消できない点も違いになるでしょう。
合併を行う3つの目的
合併を行う目的は、次の3つです。
- シナジー効果を生むため
- スケールメリットを生じさせる
- 自社を強化し競争力を高めるため
それぞれの目的に関して、解説します。
1.シナジー効果を生むため
合併を行うことで、シナジー効果が期待できます。企業が合わさることで、それぞれの強みと弱みを補えるからです。
たとえば、企業Aは技術力があるものの、営業力が弱いとします。企業Bは技術力が弱く、営業力が強いとしましょう。この2社が合併すれば、たがいの持つ技術力と営業力が合わさり、業績向上が期待できるでしょう。
自社の弱みを改善したくても成功するとは限らず、成功しても時間とコストが掛かります。シナジー効果が期待できる場合は、合併を行うことで素早く確実に企業を成長させられるため、合併が用いられます。
2.スケールメリットを生じさせる
スケールメリットとは、同じようなものが集まることで、単体の場合よりも大きな効果を出せることです。合併の場合でも、企業が持っていたリソースを集めることで、スケールメリットが期待できます。
たとえば、材料の仕入れ量が増えることで、仕入れに必要な単価を下げる効果が期待できます。また、一度に多くの材料や商品を運ぶことで、運送費の削減も期待できるでしょう。
スケールメリットでコストダウンが生じれば、単価を引き下げる戦略も取れるようになり、売上増加も期待できます。
3.自社を強化し競争力を高めるため
合併で自社の規模や財務状況が強化されることで、競争力を高めることができます。売上や利益も増加し、業界内での順位を上げることができるでしょう。
合併を行えば、単体で利益を増やすよりも、一気に自社の売上や利益を強化できます。企業努力だけでは売上増加には限界があるため、合併で企業を強化するケースがよくあります。
合併を行う8つのメリット
合併を行うことで、次のようなメリットが期待できます。
- シナジー効果が発生しやすい
- 資金がなくても実施できる
- 対等な立場でM&Aを行ったとアピールできる
- 素早く統合ができる
- 経営を一元化できる
- 社会的な信用を受けやすい
- 資金繰りが簡単になる
- 税制の優遇措置を受けられる場合がある
それぞれのメリットに関して解説します。
1.シナジー効果が発生しやすい
合併では、シナジー効果が発生しやすいメリットがあります。具体的には、次のようなシナジー効果が期待できるでしょう。
- コストシナジー
- 売上シナジー
- 財務シナジー
合併の場合、株式譲渡などと違い1つの会社に統合される点もポイントです。別会社として存続せず、経営も一元化されることから、シナジー効果が発生しやすくなります。
2.資金がなくても実施できる
もし、資金がない場合でも株式や持分の交付で実行できるメリットがあります。
資金集めの手間が必要なく、スムーズにM&Aを実行できるでしょう。
3.対等な立場でM&Aを行ったとアピールできる
対等な立場でM&Aを行ったことをアピールできる点もメリットです。買い手や売り手ではなく、双方の企業が統合されて1つの企業になるからです。
また、対等な立場で合併を行ったことをアピールするために、合併比率を1対1にしたり、消滅する会社の企業名やブランド名を残すケースもあります。
M&Aを行うと、買い手が優位であり、売り手に対してネガティブなイメージを持つ人もいます。合併であれば対等さをアピールできるでしょう。
4.素早く統合ができる
権利義務を包括的に承継できるため、統合が素早く実施できます。労働規約や雇用契約なども引き継げる点はメリットになるでしょう。
そのほかのM&Aスキームの場合、買収後に雇用契約などを結びなおす場合もあります。手続きに時間と手間が掛かり、統合への負担が増えてしまうでしょう。
吸収合併を活用すれば、再契約の負担なく統合ができるため、スムーズなM&Aが実施できます。
5.経営を一元化できる
会社が合わさることで、経営の一元化が可能になります。「コスト削減」「顧客数増加」「ブランド力向上」なども期待できるでしょう。
たとえば、営業で必要な管理システムを統合すれば、コスト削減につながります。また、それぞれの企業が所持していた顧客情報や取引先を集約すれば、顧客数増加や単価アップなども期待できるでしょう。
経営や共通部門の一元化はコスト削減などのメリットをもたらし、自社の収益力向上にもつながります。
6.社会的な信用を受けやすい
合併に成功すれば、社会的な信用を受けやすくなります。合併できるほど経営状況に余裕があり、今後も成長が期待できると判断されるからです。
合併の場合、財務状況に余裕のある企業同士が1つになるケースがほとんどです。財務状況のさらなる良化が期待され、イメージ向上につながるでしょう。
7.資金繰りが簡単になる
1つの法人になることで、資金繰りが行いやすくなります。会社が異なる場合は、資金の移動が難しいからです。
提携や買収では法人がそのまま残り続けるため、提携などと比べると、法人格が1つになる合併は資金繰りが楽になるでしょう。
8.税制の優遇措置を受けられる場合がある
税法上の適格要件を満たす場合、優遇措置を受けられる場合があります。合併が、会社法で組織再編行為とみなされるからです。
条件次第では、消滅会社の所持していた繰越欠損金も使用できます。ただし、租税回避と判断される可能性もあるため、専門家に相談するなどして対応しましょう。
合併を行う6つのデメリット
合併では、次のようなデメリットが想定されます。
- 統合に掛かる負担が大きい
- 株価に悪影響を与える可能性がある
- 合併実施にコストが掛かる
- 意思疎通の難しさや責任の曖昧さが現れる
- 新しい環境に馴染めない従業員が出てくる
- 取引の規模が縮小される場合もある
M&Aで失敗しないためにも、どのようなデメリットがあるか知っておきましょう。
1.統合に掛かる負担が大きい
複数の企業が1つになるため、統合に掛かる負担が大きいことに注意しましょう。たとえば、次のような部分の統合を行わなければなりません。
- 経営戦略
- ビジョン
- 業務フロー
- 労務フロー
- 契約書
- 人事制度
統合作業に失敗してしまうと、内部が混乱したり、従業員が不安を抱えたりしてしまいます。状況が改善されなければ、取引先との関係悪化も発生するかもしれません。
統合の目安は、1年程度と言われています。合併の効果を発揮させるためにも、統合に力を入れましょう。
2.株価に悪影響を与える可能性がある
合併に必要な新株発行により、株価に悪影響が起きる場合もあります。既存株式の価値が下がることによる、株価下落に注意しましょう。
また、合併で業績が悪化してしまうと、投資家からの評価が下がり、株価が下落するケースもあります。合併は投資家の注目を集めるタイミングになるため、合併後の株価に対する悪影響に注意しましょう。
3.合併実施にコストが掛かる
合併実施には、多額のコストが掛かる点がデメリットです。具体的には、次のような費用が掛かります。
- 契約書作成など専門家への依頼料
- 官報への公告費用
- 登録免許税の支払い
- 譲渡益に対する法人税
- みなし配当や譲渡所得に対する所得税
合併を行うためには、契約書の作成が必要になります。作成はもちろん、リーガルチェックを行うためには、弁護士などの専門家に依頼が必要でしょう。当然、専門家への依頼料が掛かります。
また、債権者保護手続き実施のために、官報への公告が必要です。公告費用は約18万円であり、債権者に個別催告や電子公告を行えば、費用はさらに増加します。
さらに、合併で譲渡益が発生する場合、法人税が課税されます。合併の規模が大きくなるほど、負担は増加するでしょう。
4.意思疎通の難しさや責任の曖昧さが現れる
組織が大きくなることで、意思疎通が難しくなったり、責任が曖昧になってしまう点もデメリットです。
たとえば、経営層の考えが組織全体に伝わりにくくなります。部門間での意思疎通に齟齬が起きる場合もあるでしょう。
また、事業範囲が大きくなることで、責任が誰にあるのか曖昧になってしまいます。責任を押し付け合うなどして、トラブルに発展してしまうこともあるでしょう。
5.新しい環境に馴染めない従業員が出てくる
環境が変わることで、新しい環境に馴染めない従業員も出てきます。ストレスを抱えることで、パフォーマンス低下や離職などの問題も想定されるでしょう。
合併を行うと、これまでの業務だけではなく、合併に関連する業務もこなさなければなりません。新しい業務を行うストレスや、業務量増加のストレスを感じることでしょう。
また、異なる企業の従業員が集まることで、人間関係のストレスも発生します。片方の従業員が、もう片方の従業員を敵視するなどの問題も想定されます。
6.取引の規模が縮小される場合もある
取引先の重複が発生していた場合、取引規模が縮小される可能性もあります。取引先にとっては、複数あった取引先が統合され、1社になったからです。
取引規模が縮小されると、売上に影響が出ます。合併で取引回数や量に影響はないか、事前に調べておくことも大切です。
合併を行う際の手順
合併を行う際は、次のような手順で進めます。
- 合併契約書を締結する
- 事前開示書類を備置する
- 株主総会で合併の承認を受ける
- 債権者保護手続きを行う
- 反対株主の株式買取請求手続きを進める
- 合併効力が発生し、登記を行う
- 事後開示書類を備置する
スムーズに手続きを行うためにも、流れを把握しておきましょう。
1.合併契約書を締結する
合併を行うためには、契約書の締結が必要です。吸収合併を行う場合は、次のような内容を記載した契約書を作成し、締結しましょう。必要な記載内容は、会社法第749条に定められています。
- 存続会社と消滅会社の商号および住所
- 株式や社債など対価に関する事項
- 株主に対する割当て
- 新株予約権者に対する対価および割当て
- 効力発生日
新設合併の場合は、会社法第753条で定められた次のような項目を記載しましょう。
- 消滅会社の商号および住所
- 新設会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数
- 新設会社を設立したときの取締役の氏名
- 役員の氏名または名称
- 対価に関する事項
- 新設会社の新株予約権または金銭に関する事項
会社法で定められた内容以外に、次のような項目を記載する場合もあります。
- 株主総会の期日
- 定款の変更
- 役員の選任
- 役員が退任する場合の退職慰労金
- 効力発生日までの財産管理
- 効力発生日までの剰余金配当の禁止と制限
- 契約の解除や変更
- 従業員の処遇
契約書の記載内容をどのようにするかは、専門家と相談して決めましょう。
参照元:e-Gov法令検索「会社法749条」
参照元:e-Gov法令検索「会社法753条」
2.事前開示書類を備置する
法律により、事前開示書類の備置が義務付けられています。次のような書類を本店に置いておきましょう。
- 合併契約書
- 対価の算定方法説明書
- 存続会社と消滅会社の財務諸表(貸借対照表・損益計算書など)
備置に関しては、「株主総会開催日の2週間前」または「株主に通知や公告を行う日」のうち、どちらか早い日から実施します。
存続会社は効力発生から6ヶ月間、消滅会社は効力発生日まで備置するようにしましょう。株主や債権者から閲覧の申請があった場合、応じる必要があります。
3.株主総会で合併の承認を受ける
合併を行うためには、株主総会で承認を受けなければなりません。議決権を持つ過半数の株主が出席する、特別決議での承認が必要なため覚えておきましょう。
また、合併の効力が発生する前日までに承認が必要になるため、注意してください。
4.債権者保護手続きを行う
債権者保護手続きとは、組織再編を行う場合に必要な、債権者の利益を守るための手続きのことです。
会社法では、消滅企業、存続企業の債権者は、合併に異議を唱えることができると定められています。異議を述べる機会を設けるためにも、企業は債権者に対して次のような催告が求められます。
- 合併を行うこと
- 存続会社と消滅会社の商号および住所
- 存続会社と消滅会社の計算書類に関する事項
- 債権者は一定期間内に異議を述べられること
催告に関しては、債権者に対する個別催告と、官報への公告が必要です。ただし、定款に規定した日刊新聞、または電子公告に催告する場合は、個別催告の省略が可能になります。
5.反対株主の株式買取請求手続きを進める
合併に反対する株主には、自分が持つ株式を企業に買取らせる権利があります。企業は株式買取請求を行うために、株主に対して合併の通知が必要なことを覚えておきましょう。効力発生日の20日前までに、通知が必要です。
株式の買取請求を要求する株主は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに申し出が必要です。もし、請求があった場合には、企業側は公正な価格で買取を行いましょう。
6.合併効力が発生し、登記を行う
効力発生日を迎えると、合併が実行されます。ただし、公的な効力を発生させるためには、登記が必要なため注意しましょう。存続会社は変更登記を行い、消滅会社は解散登記を行います。それぞれの登記は、効力発生日から2週間以内に実施しましょう。
効力発生日に関しては、吸収合併の場合、契約書に定められた日付です。新設合併の場合、新設会社の登記申請を行った日になります。
7.事後開示書類を備置する
合併成立後は、事後開示書類を備置しましょう。効力発生日から6ヶ月の間、備置が必要です。事後開示書類には、次のような内容を記載しましょう。
- 合併の手続きに関する経緯
- 反対する株主の有無
- 異議申し立てを行った債権者の有無
- 反対株主への対応内容
- 異議申し立てを行った債権者への対応内容
- 消滅会社から承継した資産や権利義務
また、消滅会社は会社が消滅しているため、事後開示書類が備置できません。代わりに存続会社が消滅会社の書類を作成し、備置しましょう。
合併の登記申請で必要になる書類と費用
合併を行う際には、登記申請が必要です。登記申請に必要な書類と費用を確認しておきましょう。
合併の登記申請に必要な書類
合併の登記申請では、存続会社と消滅会社で必要書類が異なります。
存続会社の場合、次のような書類が必要です。
- 登記申請書
- 合併契約書
- 合併契約を承認した際の議事録、または証明書
- 債権者保護手続きを証明する公告と催告証明書
- 資本金計上証明書
また、消滅会社の場合、次のような書類を用意しましょう。
- 登記申請書
- 合併契約書
- 消滅会社の登記事項証明書
- 合併契約を承認した際の議事録、または証明書
- 債権者保護手続きに関する書面
- 株券提供公告を証明する書類(株券発行会社の場合)
- 新株予約権提供公告を証明する書類(新株予約権発行会社の場合)
そのほかにも、次のような書類が必要になる場合もあります。
- 主務官庁の認可書
- 合併要件の証明書類(簡易合併または略式合併の場合)
- 登録免許税の根拠を明らかにする書類
- 役員変更関係書類
- 委任状(司法書士に代理を依頼する場合)
登記申請に必要な書類は、合併のスキームは企業の状況によって変わります。書類の不備を防ぐためにも、専門家に相談しておくと良いでしょう。
合併の登記申請で掛かる費用
登記申請に関しては、司法書士に依頼するケースが一般的です。そのため、司法書士に対する報酬が必要になります。司法書士への報酬は、「2万円前後」が一般的です。司法書士事務所によってことなるため、確認しておきましょう。
また、登記申請では、登録免許税が掛かります。存続会社と消滅会社、両方で必要になるため注意しましょう。
存続会社の場合、増額した資本金の額に対し、「1,000分の1.5」が発生します。ただし、増額後の資本金が消滅会社の資本金を超える場合、超えた金額に対して「1,000分の7」が発生するため注意しましょう。もし、発生した額が3万円未満になる場合は、一律で3万円の支払いが必要です。
消滅会社の場合、一律で3万円が必要です。ただし、合併で不動産の移転を伴う場合は、不動産登記が必要になるため注意しましょう。不動産登記に関しては、「固定資産税評価額×1,000分の4」の登録免許税が必要です。
参照元:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
合併で必要になる会計処理
合併を行う場合、会計処理が必要になります。ここでは、吸収合併時の会計処理を解説するため、参考にしてください。
のれんとは
合併の会計処理を行う場合、「のれん」を理解しておく必要があります。のれんとは、売り手企業が所持している、目には見えない潜在的な価値のことです。
一般的には、買収価格は有形資産を基準に決められます。しかし、企業は「ブランド」「ノウハウ」「人材」のように、無形ながらも価値のある資産を所持していることが一般的です。この無形資産がのれんであり、買い手は時価純資産額にのれんを上乗せし、最終的な買収価格を決定します。
無形資産の例には、次のような資産が該当します。
- ノウハウ
- ブランド
- 人材
- 許認可
- 特許権や商標権などの知的財産
- 顧客リスト
- 技術力や開発力
また、時価純資産額を買収金額が下回る場合、「負ののれん」が発生します。負ののれんは負債扱いで計上するため覚えておきましょう。
通常取得の場合の会計処理
通常取得とは、ほかの企業から経営権を得ることです。合併の場合、消滅会社の支配株主が存続会社の支配株主に入れ替わらなければ、通常取得で扱います。
通常取得の場合、存続会社は消滅会社の資産や負債を時価で取得します。また、買収価格と時価純資産に差額がある場合、のれんの扱いが必要です。
たとえば、次のような条件で合併を行うとしましょう。
- 買収価格:4,000万円
- 譲受資産:3,000万円
- 譲受負債:1,000万円
この場合、次のような仕訳を行います。
借方 | 貸方 | ||
譲受資産 |
3,000万円 |
譲受負債 |
1,000万円 |
のれん |
2,000万円 |
取得原価 |
4,000万円 |
取得原価(買収価格)の4,000万円と、時価純資産の2,000万円の差額にあたる2,000万円が、のれんで計上可能になります。
負ののれんが発生した場合の会計処理
買収価格が時価純資産を下回る場合、負ののれんが発生します。この場合、買収価格と時価純資産の差額を負ののれんで計上しましょう。
たとえば、時価純資産額が8,000万円の企業を5,000万円で買収したとします。この場合、負ののれんが3,000万円発生し、合併を行った期に特別利益で会計処理を行わなければなりません。
親会社が完全子会社を吸収合併した場合の会計処理
合併を行う場合、親会社が完全子会社を対象にする場合もあります。親会社が完全子会社を吸収合併した場合、「共通支配下の取引」で会計処理を行うことを覚えておきましょう。
親会社が完全子会社を吸収合併した場合、
- 消滅会社の資産と負債は時価ではなく簿価で引き継ぐ
- 消滅会社の純資産と存続会社の子会社株式の差額は抱合株式消滅差損益で計上する
の2点が通常取得と異なるため注意しましょう。
合併で発生する税金
合併を行うことで、税金が発生するケースと発生しないケースがあります。どのような条件で税金が発生するのか、しないのか知っておきましょう。
税金が発生するケースでは、消滅会社で税金が生じます。消滅会社が受け取った事業譲渡益に課税されるため覚えておきましょう。また、このとき発生した税金は、合併後に存続会社が申告と納付を行います。
適格合併の場合は税金が発生しない
適格合併の条件を満たした場合、税金が発生しません。条件にはさまざまな項目がありますが、次のような条件を満たす場合、適格合併を満たすことが一般的です。
- 同一企業グループ内で行う合併
- 対等(それぞれの会社が自主性を保っている状態)で行われる合併
適格合併が実施できれば、存続会社と消滅会社ともに、法人税や所得税が発生しません。
消滅会社の株主にも税金は発生する
適格合併に該当しない場合、消滅会社の株主にも税金が発生するため注意しましょう。消滅会社の株主に交付される存続会社の株式が、配当扱いになるからです。
もし、消滅会社の株主が個人の場合、配当所得が発生し、所得税が課せられます。法人の場合は、みなし配当で収益計上されるため注意しましょう。
合併を行う5つの注意点
合併を行う場合には、次のような点に注意しましょう。
- 自動的に引継ぎできない許認可事業もある
- 特例有限会社は存続会社になれない
- 簡易合併や略式合併でも株主総会の決議が必要な場合がある
- 不適当な合併に該当しないようにする
- 逆取得の場合は会計処理が変わる
それぞれの注意点に関して、解説します。
1.自動的に引継ぎできない許認可事業もある
許認可事業のなかには、自動的に引き継げないものもあるため注意しましょう。
合併後に許認可事業を行いたい場合は、すぐに事業を実施できるか確かめる必要があります。
2.特例有限会社は存続会社になれない
特例有限会社の場合、存続会社にはなれないため注意しましょう。会社法施行前に、有限会社として設立されているか確かめておく必要があります。
消滅会社に関しては、特例有限会社でも問題ありません。
3.簡易合併や略式合併でも株主総会の決議が必要な場合がある
簡易合併や略式合併の場合、基本的には株主総会の決議が不要です。スムーズに手続きを進めるために、簡易合併などを採用するケースもあります。
簡易合併とは、対価の金額が「純資産額の5分の1以下」の場合に行われる合併のことです。簡易合併の場合は、存続会社は株主総会の決議を省略できます。しかし、次の条件に該当する場合には、株主総会の決議が必要になるため注意しましょう。
- 存続会社が譲渡制限会社に該当し、割り当てる株式に譲渡制限がある
- 消滅会社が債務超過など、合併で存続会社側に差損が発生する
- 反対株主が存続会社の総株式数のうち6分の1を超える
略式合併の場合でも、株主総会の決議が必要になるケースがあります。略式合併とは、消滅会社が存続会社の特別支配会社にあたる状態で行われる合併です。特別支配会社とは、子会社の議決権のうち90%以上を保持している親会社を指します。
略式合併の場合、子会社で行われる株主総会の決議を省略可能です。ただし、次の条件にあてはまる場合には、株主総会の決議が必要になるため注意しましょう。
- 子会社が消滅会社であり、存続会社の譲渡制限株式を割り当てる際に、子会社が種類発行株式会社かつ公開会社に該当する
- 子会社が存続会社であり、存続会社の譲渡制限株式を割り当てる際に、子会社が非公開会社に該当する
簡易合併や略式合併を行う場合でも、株主総会の決議が必要になる場合があります。M&A仲介会社などの専門家に相談し、確認するようにしましょう。
4.不適当な合併に該当しないようにする
不適当な合併に該当すると、上場廃止になる場合があるため注意しましょう。不適当な合併とは、「上場企業が非上場企業と合併する際に、上場企業が存続会社とは認められない状況での合併」です。
合併を行ってから、上場企業に存続性が認められない場合、「新規上場審査基準に準じた基準に適合しているかどうかの審査を受けるための猶予期間」が発生します。審査に合格しなければ、上場廃止になってしまうため注意しましょう。
参照元:日本取引所グループ「上場廃止基準の詳細」
参照元:日本取引所グループ「不適当合併等(上場会社が実質的存続性を喪失する合併等)に係る上場廃止審査の概要」
5.逆取得の場合は会計処理が変わる
逆取得で合併を行った場合、会計処理が変わるため注意しましょう。具体的には、通常取得では資産や負債を「時価」で評価しますが、逆取得では資産や負債を「簿価」で評価します。
逆取得を避けるためには、株式譲渡で子会社にしてから、吸収合併を行う方法があります。
合併でよくある質問
ここでは、合併でよくある質問を解説します。合併実施に向けて確認しておきましょう。
会社が合併するとどうなる?
会社が合併した場合、吸収される側の企業の法人格は消滅します。吸収合併、新設合併ともに、1つの企業しか残らないことを覚えておきましょう。
吸収合併の場合は、存続する企業に消滅する企業の権利義務が吸収されます。新設合併の場合は、新しく会社を設立し、消滅する企業の権利義務すべてを新設会社が承継します。
被合併法人はどっちの会社のこと?
被合併法人とは、吸収され消滅する側の会社のことです。存続する会社のことは、合併法人と呼びます。
合併と経営統合の違いは?
合併と混同されやすい手法が経営統合です。経営統合との違いは、法人格が残るかどうかになります。
経営統合の場合、完全子会社の法人格はそのまま残ります。独立性を保っているため、システムや人事制度の統合なども早急には必要ありません。
合併の場合は、消滅企業の法人格は残らず、企業が1つになります。独立性はなく、システムや人事制度の統合が必要になる点で異なっています。
まとめ
会社を1つにまとめた方が良いと判断された場合、合併のスキームが使用されます。株式譲渡や事業譲渡よりもシナジー効果が期待でき、事業拡大にもつながるでしょう。
ただし、複数の会社を1つにするため、統合が大変になる点には注意しましょう。統合が上手くいかないとシナジー効果が発揮されず、合併の失敗につながってしまいます。
合併を成功させるためには、M&Aに詳しい専門家のサポートが欠かせません。法務や税務面も複雑であることから、自社だけでの対応は難しいでしょう。また、そもそも合併が適切なのか、ほかのM&Aスキームだと効果は発揮されるかなども、確かめておく必要があります。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社は、各領域に特化したM&Aサービスを提供する仲介会社です。実績を積み重ねたコンサルタントが、相談から成約まで一貫してサポートを行っています。
合併でのM&Aを実施したい場合にも、お気軽にご相談ください。
料金に関しては、M&Aの成約時に料金が発生する、完全成功報酬型です。
M&A成約まで、無料でご利用いただけます(譲受側のみ中間金あり)。
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吸収合併や新設合併を検討している際には、お気軽にお問い合わせください。