このページのまとめ
- 株式売却で課税される税金は所得税や法人税など4種類
- 株式譲渡の税金で個人は申告分離課税が適用され、法人は総合課税が適用される
- 株式譲渡の税金には取得費加算の特例と事業承継税制がある
- 親族への株式譲渡は贈与とみなされないように注意が必要
「株式譲渡によるM&Aでは、税金の計算がよくわからない」という方もいるでしょう。株式を売却すると、譲渡益から取得費などの経費を差し引いた所得に所得税や法人税などの税金が課せられます。本コラムでは、株式売却の譲渡益に課せられる税金の種類や計算方法、特例などを解説します。税金を計算する際の注意点も解説するため、参考にしてください。
目次
株式譲渡で課税される税金の種類
株式を売却すると、譲渡所得に税金がかかります。課税される税金は、次の4つです。
- 所得税
- 法人税
- 住民税
- 復興特別所得税
それぞれどのような税金なのか、確認しておきましょう。
1.所得税
所得税とは、1月1日から12月31日までの一年間に得た所得に対して課せられる税金です。所得控除を差し引いた残りの課税所得に税率を適用し、税額を計算します。
所得税の税率は所得の合計額によって変動しますが、株式譲渡の利益は分離課税となり、所得の合計額に加算されません。譲渡益の所得税は金額とは関係なく、一律で15%が課税されます。
計算式は、以下のとおりです。
所得税=譲渡所得×15%
上場株式と一般株式とで税率に違いはありません。
2.法人税
法人税とは、法人の企業活動により得られた所得に対して課せられる税金です。法人が株式を売却して譲渡益を得た場合、それ以外の収益や損失も含めて法人全体の所得に対して課税されます。
法人税は累進課税方式で税率が決まり、株式の売却による所得に対する税率は29%〜42%程度です。税率は法人の規模や年間の所得によって変わります。
計算式は、以下のとおりです。
法人税=譲渡所得×(29%〜42%)
一般株式と上場株式とで、適用される税率は変わりません。
3.住民税
住民税は、その年の1月1日現在に居住している居住地の都道府県・市区町村に支払う地方税です。都道府県が課税する道府県民税(東京都は都民税)と、市区町村が課税する市町村民税(区市町村民税)に分かれます。
税率は区市町村民税が6%、道府県民税・都民税が4%であり、合計10%です。ただし、所得税と同じく株式譲渡による所得にかかる税金は分離課税となり、税率は一律で5%となります。
計算式は、以下のとおりです。
住民税=譲渡所得×5%
4.復興特別所得税
復興特別所得税とは、源泉所得税を徴収する際に合わせて源泉徴収される付加税です。2011年の東日本大震災からの復興財源として設けられた特例であり、2013年から2037年までの間に徴収されます。
復興特別所得税の税率は所得税に対して2.1%に定められ、株式譲渡の利益に課せられる所得税の税率で計算すると0.315%です。
計算式は、以下のとおりです。
復興特別所得税=譲渡所得×0.315%
株式売却による税金の計算方法
株式売却による税金の計算方法は、上場株式と非上場株式とで異なる場合があります。
上場株式とは、株式市場で取引できる株式のことです。
一方、非上場株式とは、証券取引所に上場していない株式を指します。中小企業の多くは非上場株式であり、経営者やその親族が保有していることが一般的です。
株式売却による計算は譲渡益に税率をかけますが、譲渡益の計算式は上場株式と非上場株式ともに次の計算式で求めます。
譲渡益=譲渡価額−必要経費
譲渡価格から差し引く必要経費には、以下のものがあげられます。
- 株式を取得した際にかかった費用
- 証券会社などに支払った委託手数料
ここでは、上場株式と非上場株式の譲渡所得税を計算する方法について、みていきましょう。
上場株式の譲渡所得税計算方法
上場株式の譲渡所得税は、上記の計算式で譲渡価格から必要経費を差し引いて譲渡益を求めたのち、個人と法人で計算が異なります。、個人の場合は20.315%を乗じて譲渡所得税を求めます。
たとえば、個人が株式を売却した場合、株式の譲渡価額が500万円、必要経費が100万円という事例でみると、計算は以下のとおりです。
譲渡益:500万円−100万円=400万円
譲渡所得税:400万円×0.20315=81万2,600円
所得税(復興特別所得税)・住民税として、81万2,600円を支払うことになります。
法人が売却した場合、法人税率は会社の規模などで変わりますが、30%と想定し、同じ事例で計算してみましょう。
譲渡益:500万円−100万円=400万円
法人税:400万円×0.30%=120万円
法人税として、120万円を支払います。
非上場株式の譲渡所得税計算方法
非上場株式の譲渡所得税でも、譲渡益の計算は上場株式と同じく譲渡価額から必要経費を引いて求めます。
株式の取得費用や委託手数料を必要経費にできるほか、M&Aの株式譲渡により取得した場合、M&A仲介会社を利用して支払った仲介手数料も必要経費になります。
また、非上場株式の場合、相続や贈与で取得したときは経費となる取得費用がわからないこともあるでしょう。その場合は実務上、「概算取得費」として、譲渡価格の5%を取得費用とみなして計算します。
例えば、贈与で取得した株式の譲渡価額が1,000万円の場合、取得費用は概算取得費となり、次の計算式で求めます。
1,000万円×5%=50万円
譲渡益:1,000万円−50万円=950万円
譲渡所得税:950万円×20.315%=192万9,925円
譲渡所得税として、192万9,925円を支払います。
株式売却に課される税金の個人・法人での違い
株式の売却で課される税金は、個人と法人で異なります。個人には「申告分離課税」が課され、法人には「総合課税」が課されます。
それぞれの違いをみていきましょう。
個人は申告分離課税が適用される
個人が株式を売却した場合、申告分離課税が適用されます。申告分離課税とは、他の所得とは分離して税額を計算し、確定申告で納税する課税方式です。税負担を軽くする目的で設けられているもので、株式の譲渡所得のほか、山林所得や不動産売却による譲渡所得でも用いられています。
株式譲渡による所得については、総合課税の対象となる他の所得だけでなく、他の申告分離課税の対象となる所得とも分離して課税されます。
なお、分離課税には申告分離課税のほかに源泉分離課税もあります。源泉分離課税とは、所得を支払う者が納税者に代わって税金を徴収し、納税する課税方式です。
法人は総合課税が適用される
法人が株式を売却して得た譲渡所得には、総合課税が適用されます。総合課税とは、対象となるすべての所得を加算し、合計金額に対し課税する方式です。
税額は課税額が高いほど税率が上がる累進課税で計算されるため、合計所得が多くなればなるほど税率も高くなります。総合課税は申告分離課税と同じく、確定申告が必要です。
株式譲渡の税金に関する特例制度
株式譲渡にかかる税金は、譲渡する側だけでなく受け取る側に課税される場合があります。売却ではなく、贈与や相続により譲渡されるケースです。そのようなケースでは贈与税・相続税が課せられますが、一定の条件のもとに、以下のような特例制度が設けられています。
- 取得費加算の特例
- 事業承継税制
このうち、取得時加算の特例とは相続税の一部を譲渡所得税の計算に加算して所得税を軽減できる制度です。事業承継税制は、贈与税や相続税が軽減されます。
それぞれの内容をみていきましょう。
取得費加算の特例
取得費加算の特例とは、譲渡所得税の計算に相続税額の一部を加算し、短期間で相続税と譲渡所得税を納めることになった人の税負担を軽減する制度です。
取得費加算の特例を適用するには、以下の要件に該当しなければなりません。
- 相続・遺贈により財産を取得していること
- 財産を取得した人が相続税を納めていること
- 財産の相続開始日から3年10ヶ月以内に譲渡していること
取得費加算の特例は、あくまで短期間のうちに税金を負担することになった人を救済する制度です。相続した財産を所有する期間が長い場合、資産として利益を得られていると考えられるため、利用できる期間は制限されています。
事業承継税制
事業承継税制は、会社や個人事業の後継者が取得した資産について、贈与税や相続税の納税を猶予する制度です。事業承継税制を活用すれば、事業承継のために後継者が取得した株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予され、その後一定期間にわたって要件を満たした場合、猶予された税額が免除されます。
会社の株式等を譲渡した場合を対象とする「法人版事業承継税制」と、個人事業主の事業用資産を譲渡した場合を対象とする「個人版事業承継税制」があります。
事業承継によって財産を譲り受けた場合、多額の相続税や贈与税がかかると、経営が圧迫されて円滑な事業承継が難しくなります。そのため、スムーズな事業承継を推進することを目的に設けられた制度です。
なお、株式譲渡で特例を受けるのは、承継が株式譲渡で行われるケースにより適用を受ける法人版事業承継税制のみです。
株式譲渡の税金に関する注意点
株式譲渡の所得に対する税金については、いくつか注意したい点があります。詳しくみていきましょう。
1.過少申告があると追徴課税が発生する
株式譲渡の所得は、基本的に申告分離課税、もしくは総合課税により確定申告が必要です。しかし、以下に該当する場合は例外的に確定申告が不要になります。
- 譲渡利益が年間20万円以下の場合
- 源泉徴収ありの特定口座を利用している場合
- 年間を通して損失が発生した場合
これ以外で、確定申告が必要であるにもかかわらず確定申告をしない場合、もしくは過少申告をした場合、追徴課税が課せられます。
追徴課税とは、本来納めるべき税額が正しく納付されなかった場合に、その差額を徴収することです。ただし、追徴課税の内容によってはペナルティとして、「過少申告加算税」や「無申告加算税」など、本来納めるべき税額に加算された金額を請求される場合もあります。
2.繰越欠損金の通算ができないことがある
繰越欠損金を目的に赤字会社を株式譲渡で買収する場合、通算ができない場合もあるため注意が必要です。
繰越欠損金とは、青色申告をしている法人で単年度に税務上の赤字(欠損金)が生じた際、一定期間は欠損金を翌年以降に繰り越し、黒字になった際に相殺できる制度です。
中小企業の場合、繰越欠損金の控除限度額は繰越欠損金控除前所得の100%になります。
例えば、100万円の繰越欠損金があり、200万円の所得があるケースの控除限度額は、次のとおりです。
200万×100%=200万円
そのため、繰越欠損金100万円の全額を控除できます。
繰越期間の間は税金を繰越欠損金で減額できるため、税金の負担が軽減されます。
これまでは、M&Aなど買収や合併を行ったとき、繰越欠損金を買い手企業へ引き継ぐことができる制度がありました。しかし、これを利用して赤字会社の業務を引き継がずに節税だけを目的にM&Aが行われるという弊害があったため、一定の条件を満たさない赤字会社のM&Aでは繰越欠損金を利用できなくなったという経緯があります。
条件はいくつか設けられていますが、M&Aの目的が明らかに繰越欠損金にある場合、通算は認められません。
3.贈与とみなされることがある
株式譲渡では譲渡所得に税金が発生し、基本的に株式を売却した売り手側に税金が課されます。しかし、親族へ株式を譲渡する場合、不当に安い金額で売買を行うと贈与とみなされる可能性がある点に注意してください。贈与とみなされた場合、株式の買い手側に10%〜55%の贈与税が課されます。
贈与税については、1月1日〜12月31日の期間に贈与を受けた価額を合計し、合計額から基礎控除110万円を差し引いた額に税率を適用して算出します。税率は基礎控除後の課税価格により変動し、課税価格が高いほど税率が上がる仕組みです。
親族間の売却では、株式価格を決める際に、親族であることから価格を低くしようと考えることもあるでしょう。そのためにかえって税の負担がかかる場合があります。売却価格の決定では、売り手側の譲渡所得税と買い手側の贈与税について考慮が必要です。
また、親族でも親族ではない場合でも個人が法人に株式を時価の2分の1未満の額で譲渡する場合、買い手側には時価との差額について贈与税が発生します。無償で譲渡する場合も同様です。買い手にも税金が発生するケースかどうか確認したいときは、専門家に相談するとよいでしょう。
4.上場株式と非上場株式間の損益通算はできない
2016年の法改正により、非上場株式の譲渡益は「一般株式等の譲渡所得等」となり、「上場株式等の譲渡所得等」との損益通算はできなくなりました。たとえば、非上場株式を売却して譲渡益を得た場合でも、上場株式の売却で発生した損失との損益通算はできません。
非上場株式同士の場合は単年のみ損益通算ができ、上場株式の場合は3年間の損失繰り越しが可能です。しかし、非上場株式の損失繰り越しはできません。
関連記事:株式譲渡とは?手続きの流れや注意点・メリット・デメリットなどを解説
まとめ
株式売却で得た譲渡益には所得税や法人税などの税金がかかり、それぞれの税率で求めた金額を納めなければなりません。
譲渡所得税の計算方法は、譲渡価額から必要経費を引いて求めます。課される税金は個人と法人で異なり、個人には申告分離課税が課され、法人には総合課税が課されます。
相続や事業承継の際には負担が軽くなる特例もあるため、活用するとよいでしょう。
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