企業のM&Aとは?概要や手法、流れをわかりやすく解説
2024年8月19日
このページのまとめ
- 企業のM&Aは、増加傾向にある
- M&Aが増えている主な理由は、経営者の高齢化と後継者不在である
- 企業のM&Aには、さまざまな種類や手法がある
- M&Aを成功に導くためには、目的に合った相手先を見つけることが大切
- M&Aは、M&A専門家に依頼するほうがよい結果につながりやすい
経営者の中には、「後継者が決まらず、将来どうすればいいのだろう」と悩んでいる方も多いことでしょう。事業承継は、親族内承継だけでなく、M&Aによる承継も選択肢のひとつとして注目されています。
本記事では、企業のM&Aについて、昨今のM&Aの動向や種類、事務手続きの流れ、成功に導くポイントなどを詳しく解説します。また、いくつかの相談先もご紹介していますので、参考にしてください。
目次
企業のM&Aとは
M&Aとは、ある企業がほかの企業を買収したり、複数の企業をひとつの企業に統合したりすることです。昨今は、事業承継の問題解決や事業拡大のために、大企業だけでなく中小企業の間でもM&Aを実施する企業が増えています。
ここでは、M&Aの動向やM&Aが注目される理由を解説します。
M&Aの動向
M&Aの実施件数は、右肩上がりで増えています。次の表は、中小企業M&A仲介大手3社と事業承継・引継ぎセンターが実施したM&A件数です。
年度 | 中小企業M&A仲介大手3社 | 事業承継・引継ぎセンター |
2015年度 | 312件 | 209件 |
2016年度 | 414件 | 430件 |
2017年度 | 534件 | 687件 |
2018年度 | 612件 | 923件 |
2019年度 | 710件 | 1,176件 |
2020年度 | 760件 | 1,379件 |
参照元:中小企業庁「中小M&A推進計画の主な取組状況」
この表からも、M&Aの実施件数は増加傾向にあることがわかります。中小企業庁によると、年間3千〜4千件程度のM&Aが行われているだろうとのことです。
また中小企業のM&Aに関していえば、潜在的な譲渡側の需要は約60万社とも見積もられており、M&Aを行う環境が整えば、今後もさらに増えていくと予想されています。
M&Aが注目される理由
上述したように、M&Aは増加傾向にあり、今後もさらに増えていくことが見込まれています。昨今、M&Aが増えている理由は、次の3つです。
- 経営者の高齢化・後継者不在
- 企業のM&Aに対するイメージの変化
- 法改正による後押し
それぞれの理由をひとつずつ説明します。
経営者の高齢化・後継者不在
M&Aが増えている大きな理由は、経営者の高齢化や後継者不在が挙げられます。まずは、経営者の年代別構成比を見てみましょう。2023年6月に公表された帝国データバンクの「全国社長年齢分布調査(2022年)」によると、経営者の年代別構成比は次のとおりです。
年代 | 構成比 |
40歳未満 | 3.3% |
40代 | 16.5% |
50代 | 28.4% |
60代 | 26.6% |
70代 | 20.2% |
80代以上 | 5.0% |
参照元:株式会社帝国データバンク「全国社長年齢分布調査(2022年)」
2022年時点では、50歳以上の経営者は全体の8割を占めています。そのうち、70代以上の経営者は25.2%を占め、経営者の4人に1人は70代以上であることがわかります。このように、経営者の高齢化は深刻な課題です。
次に、後継者不在率を見てみましょう。こちらは、2023年11月に公表された帝国データバンクの「全国後継者不在率動向調査(2023年)」によるものです。
年度 | 後継者不在率 |
2018年度 | 66.4% |
2019年度 | 65.2% |
2020年度 | 65.1% |
2021年度 | 61.5% |
2022年度 | 57.2% |
2023年度 | 53.9% |
参照元:株式会社帝国データバンク:「全国後継者不在率動向調査(2023年)」
こちらのデータによると、2023年の後継者不在率は過去最低の53.9%です。上述したように、経営者の高齢化は深刻であるものの、一方で、後継者不在率は改善傾向にあることがわかります。
不在率の低下は、各自治体や地域の金融機関、民間のM&A仲介会社などの事業承継の相談窓口が全国に普及し、支援体制が整備・告知されたことが影響しているようです。また支援体制が整うにつれて、現経営者だけでなく後継者候補においても、事業承継の重要性が認識され始め、不在率の低下につながったとみられています。
ほかにも、後述する法改正によって、M&Aによる事業承継を選びやすくなったことも一因でしょう。今後も、事業承継が円滑に行えるように切れ目ない支援や環境作りが欠かせません。
参照元:株式会社帝国データバンク「全国社長年齢分布調査(2022年)」
参照元:株式会社帝国データバンク「全国後継者不在率動向調査(2023年)」
企業のM&Aに対するイメージの変化
企業のM&Aに対するイメージの変化も、M&Aの活用を促しています。
中小企業庁が公表した、「M&A支援機関から見た、10年前と比較した中小企業のM&Aに対するイメージの変化」という調査結果によると、「買収すること」と「売却すること」のいずれについても90%近くがプラスのイメージになったとのことです。これは、M&A支援機関が実感した数値を表しています。
企業のM&Aを支えてきたM&A支援機関は、M&Aを実施する経営者の想いを直接見聞きする立場です。そのため、M&A支援機関が実感する「企業のM&Aに対するイメージ」の変化は、そのまま企業のM&Aに対するポジティブなイメージ変化と捉えられます。
M&Aに対するイメージがよくなるにつれて、事業承継や事業拡大の解決策としてM&Aを選ぶ企業が増えてきたのでしょう。
参照元:中小企業庁「事業承継を通じた企業の成長・発展とM&Aによる経営資源の有効活用」
法改正による後押し
法律の改正も、M&Aを後押ししています。昨今の法改正では、2019年12月に成立した株式交付制度が、M&Aの推進に多大な影響を与えました。
株式交付制度は、買収の対価を株式で支払うことを認める制度です。株式交付制度により多額の資金を用意する必要がなくなり、M&Aの垣根が一気に下がりました。
企業がM&Aを実施する目的
企業がM&Aを実施する目的は、売り手企業と買い手企業とでは異なります。以下に、大まかな違いを表にまとめました。
売り手企業(譲渡側)の目的 | 買い手企業(譲受側)の目的 |
・事業承継問題の解決 ・経営基盤の強化 ・事業の集中と選択 ・創業者利益の獲得 ・個人保証の解除 ・従業員の雇用の維持 ・技術やノウハウの承継 | ・既存事業の強化 ・新規事業への参入 ・スケールメリットの獲得 ・シナジー効果の創出 ・リスク分散 ・優秀な人材の確保 ・技術やノウハウの獲得 |
次に、それぞれの目的を詳しく解説しましょう。
売り手企業(譲渡側)の目的
売り手企業(譲渡側)がM&Aを行う大きな理由は、事業承継問題の解決です。上述したように経営者の高齢化は進んでいるものの、後継者が決まっていない企業は少なくありません。
昨今は、後継者がいないからと廃業するのではなく、M&Aによって会社を残したいと考える経営者は多くなっています。M&Aによって、第三者に経営を引き継いでもらえれば、従業員の雇用も維持できます。貴重な技術やノウハウを次の世代に残すことも可能です。
経営者自身も、創業者利益を得て、悠々自適な老後を送れるでしょう。大きなストレスであった個人保証も解除でき、経営者自身だけでなく、家族も安心して過ごせるようになります。
ほかにも、事業譲渡などにより事業整理を行ったり、経営基盤の強化に努めたりする企業もあります。事業を売却した資金で、新しい事業をスタートさせることも可能です。
買い手企業(譲受側)の目的
買い手企業(譲受側)がM&Aを行う理由は、新規事業への参入や既存事業の強化が挙げられます。
新規事業は、一から立ち上げると、多くの時間とコストがかかるのが一般的です。M&Aで、すでに軌道に乗っている事業を譲り受けられれば、技術やノウハウ、販路、顧客などを丸ごと手に入れられます。
また、シナジー効果の期待できる企業を買収できると、既存事業の強化にもつながります。会社の規模が大きくなると、その分、スケールメリットも見込めるでしょう。大量仕入れによるコストの削減や、知名度の向上などを期待できます。
優秀な人材を確保するために、M&Aを行うケースもあります。とくに建設業界や運送業界、病院など、有資格のスタッフが不可欠な業界では、事業を継続するために人材確保は大きな課題です。M&Aにより企業や事業を買い取ることで、多くの人材を一度に確保できます。
M&Aの種類や手法
M&Aにはさまざまな種類や手法があります。代表的な種類や手法は、以下のとおりです。
概要 | メリット | デメリット | ||
株式譲渡 | 売り手企業の全株式の譲渡 | ・手続きが簡単 | ・簿外債務のリスクがある ・多額の資金が必要 | |
事業譲渡 | 事業の一部あるいは全部を譲渡 | ・欲しい資産のみを手に入れられる ・簿外債務のリスクがない | ・手続きが煩雑で時間がかかる | |
合併 | 新設合併 | ・2社以上の企業の資産 ・負債を新たに設立した企業に譲渡 | ・買収資金が不要 ・シナジー効果が高い | ・経営統合に時間がかかる ・株主構成が変わる |
吸収合併 | ・存続企業にすべての資産 ・負債を譲渡し、譲渡した企業は消滅 | ・買収資金が不要 ・事業規模の拡大 | ・経営統合に時間がかかる ・株主構成が変わる | |
会社分割 | 新設分割 | 事業の一部あるいは全部を新たに設立した企業に譲渡 | ・買収資金が不要 ・引継ぎの手続きが簡単 | ・簿外債務のリスクある ・株主構成が変わる |
吸収分割 | 事業の一部あるいは全部を既存の企業に譲渡 | ・買収資金が不要 ・対立する株主の分割 | ・簿外債務のリスクある ・会社規模の縮小 |
それぞれのスキームについて解説していきます。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手企業の発行株式を買い手企業が買い取る手法です。買い手企業は対価として、売り手企業に現金を支払う必要があり、多額の資金を準備しなければなりません。
株式譲渡では、株式の移動と株主名簿の書き換えのみで経営権が移転します。企業内の資産や組織に変化が生じず、買収後も売り手企業の独立性を維持できます。
株式譲渡では会社を丸ごと買収するため、諸々の契約や従業員との雇用契約を個別に契約し直す必要はなく、事務手続きが簡単にすむ点がメリットです。しかしながら、簿外債務を負うリスクがあり、入念なデューデリジェンスが必須です。
事業譲渡
事業譲渡とは、特定の事業の一部または全部を売却する手法です。会社の全部を買収するのではなく、欲しい事業のみを買収するため、買収コストを抑えられる点が特徴です。買収の対象には、土地や建物などの有形資産だけでなく、ノウハウやソフトウェアのような無形資産も含まれます。
事業譲渡は株式譲渡とは異なり、売り手企業は事業を売却したあとも存続します。売り手企業は事業譲渡を実施することで、不採算の事業を切り離したり資金を獲得したりすることが可能です。
事業譲渡のデメリットは、譲り受ける事業に紐づく諸々の契約を新たに締結し直さなければならないことです。従業員や取引先との契約も移転手続きが必要で、手間と時間がかかります。
合併
合併とは、複数の会社を一つにするM&Aの手法です。合併には、新設合併と吸収合併の2種類があります。合併の対価は株式となるため、買収資金が不要な点が特徴です。
新設合併
新設合併とは、新たに会社を設立し、合併する企業のすべての権利義務を承継させる手法です。被合併企業は消滅しますが、新設合併に合併された企業は同等の立場で事業を行います。
新設合併の目的は、シナジー効果を得ることです。技術やノウハウを共有することで、より簡単に事業規模を拡大できます。
しかし新設合併は手続きが煩雑なため、実務上では、次に解説する吸収合併が採用されることが多いでしょう。
吸収合併
吸収合併とは、2社以上の企業の権利義務を1つの会社に吸収させる手法です。権利義務を吸収した企業のみが存続し、吸収された企業は消滅します。
吸収合併のメリットは、単純に企業規模を大きくできることです。それぞれが行っていた事業を統合することで、早期にシナジー効果を得られます。
ただし、吸収される企業で働いていた従業員が合併に不満があると、辞めてしまうリスクがあるため注意が必要です。吸収合併は経営統合が難しく、時間がかかる点がデメリットです。
会社分割
会社分割とは、事業の一部あるいは全部を新設会社やほかの会社に譲渡する手法です。会社分割には、新設分割と吸収分割の2種類があります。事業を譲渡する対価は株式となるため、買い手企業は多額の買収資金を準備する必要がありません。
新設分割
新設分割とは、事業の一部または全部を新たに設立した会社に譲渡する手法です。グループの再編成のために活用される手法でもあります。
新設分割では、事業を包括的に承継するため、事業譲渡のような個々の契約手続きが必要ありません。売り手企業も、不採算事業を切り離すことができ、事業の選択と集中が可能となります。
しかしながら、簿外債務を引き継ぐ可能性があることがデメリットです。
吸収分割
吸収分割とは、事業の一部あるいは全部を既存の会社に譲渡する手法です。新設分割と同じように、包括承継になります。新設分割と異なるのは、承継先が既存の会社であることです。
吸収分割では、意見が異なり対立した株主を分割できます。対立する株主がいると、経営が安定しません。吸収分割であれば、対立する株主をそれぞれ独立させられるため、経営の安定化が期待できます。ただし、吸収分割により、企業の規模が小さくなるのは否めません。
M&Aにおける企業評価のスキームとは
M&Aを実施する際には、売り手企業について買収金額の目安を算出する必要があります。代表的な企業評価のスキームには、コストアプローチやマーケットアプローチ、インカムアプローチの3つのスキームがあります。
これらスキームの概要とメリット、デメリットを以下にまとめました。
企業評価のスキーム | 概要 | メリット | デメリット |
コストアプローチ | 純資産をもとに算出 | 客観性が高い | 将来の収益性を反映できない |
マーケットアプローチ | 市場の企業価値をもとに算出 | 客観性が高い | 算出するために類似企業が必要 |
インカムアプローチ | 将来の収益を予測し現在の価値に換算して算出 | 企業の将来性を反映できる | 主観が入り込みやすい |
それぞれのスキームについて、次に詳しく解説します。
コストアプローチ
コストアプローチは、企業の純資産をもとに企業価値を算出するスキームです。アセットアプローチとも呼ばれます。企業の純資産をもとに算出されるため、客観性が高いのが特徴です。
ただしコストアプローチでは、将来、企業が生み出すであろう収益は一切加味されません。通常、M&Aは、シナジー効果やスケール拡大を目的に実施されるため、将来の収益を測れないコストアプローチは不向きなスキームといわざるをえません。
また帳簿の数値が間違っている場合は、適切な評価が得られない点もデメリットでしょう。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、市場における企業価値をもとに算出するスキームです。上場企業であれば、株価をもとに算出します。非上場の場合は、類似した企業を選び、比較して算出します。
マーケットアプローチは客観性に優れていますが、そもそも類似企業が見つからない場合は利用できません。とくに最新の技術を活用した事業の場合、類似企業を見つけるのは困難です。
また類似企業があっても、市場株価が実態にそぐわない場合は、算出された数値も正しいとはいえません。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、今後得られるであろう収益を、現在の企業価値に換算するスキームです。先々、見込まれる収益やキャッシュフローから、可能性のあるリスクを割り引き算出します。
将来、対象企業が生み出す収益を企業価値に反映できるため、M&Aに適したスキームといえるでしょう。
ただし、インカムアプローチは対象企業の事業計画をベースに算出するため、事業計画を作成する段階から主観が入り込みやすいのがデメリットです。企業価値を算出する際に、どこまで主観を取り除けるのかが課題です。
企業におけるM&Aの具体的な流れ
ここでは、M&Aの具体的な流れを解説します。売り手企業と買い手企業における大まかな流れは、次のとおりです。
準備フェーズ | 売り手企業(譲渡側) | 買い手企業(譲受側) |
ニーズの発生・M&Aの検討 | ||
M&Aの専門家に相談・委託契約を締結 | ||
交渉フェーズ | 決算書などの準備 | 買収企業の絞り込み |
候補先企業の選定 | ||
秘密保持契約の締結 | ||
トップ会談の実施 | ||
基本合意書の締結 | ||
最終契約フェーズ | デューデリジェンスの実施 | |
最終条件の交渉 | ||
最終契約の締結 | ||
クロージング | ||
経営統合(PMI)の実施 |
それぞれの事務手続きについて解説します。
1.M&Aを実施する目的を定める
まずは、M&Aを実施する目的をきちんと定めます。M&Aを行うのは事業承継を解決するためなのか、それとも事業拡大や新規事業への参入が目的なのか、その目的によって相手先候補や取るべき手法が異なります。
M&Aは、目的ではなく手段です。M&Aによって得られる最終目的を目指して、M&Aに臨みましょう。
2.M&Aの専門家に相談・委託契約を締結する
M&Aを行うには、財務や税務、法務などの専門的な知識が必須です。また、相手先企業と交渉したり契約書を作成したりしなければならず、自社のみでM&Aを実施するのは困難です。
M&Aを実施する際には、M&A仲介会社などの専門家の力を借りたほうが、期待したような結果を得られやすいでしょう。M&Aの相談先としては、金融機関や国の機関、弁護士や税理士といった士業専門家などさまざまな選択肢があります。
M&Aを検討し始めたら、いくつかの相談先にあたってみるのがおすすめです。依頼先を決め、委託契約を結び、候補先企業を選定できる体制を整えましょう。
3.候補先企業を選定する
候補先企業を探す前に、売り手企業は決算書などの書類を準備しておきます。さらにおおよその譲渡金額の目安や譲渡のタイミングといった条件、自社の強み、ブランド力などを洗い出しておきましょう。
買い手企業は、現状を分析し、買収後の組織や成長戦略といったビジョンをもとに候補先企業の条件を絞り込んでおきます。
候補先企業を探す段階では、企業名が特定できないように、ノンネームシートと呼ばれる概要書のみを提示します。ノンネームシートに記載されるのは、業種や本社所在地、事業規模、業績、売却希望価格などです。
売り手企業と買い手企業ともに、ノンネームシートを参考に候補先企業を絞り込んでいきます。候補先企業を絞り込めたら、秘密保持契約を締結し、より詳しい情報を開示して交渉を進めます。
秘密保持契約とは、得られた情報を外部に漏らさないと約束する契約書のことです。
4.両企業のトップ会談を実施する
ある程度の交渉が進んだ段階で、両企業のトップ会談を行います。M&Aでは、通常、トップダウンでの意思決定が求められるため、M&Aの早い段階でトップ会談が行われるのが一般的です。
トップ会談では、お互いの人となりを確認できます。とくに売り手企業にとって、買い手企業の経営者がどのような人柄なのかは重要なポイントでしょう。買い手企業の経営者を信頼できれば、交渉もスムーズに進みます。
5.基本合意書を締結する
売り手企業と買い手企業の双方の意向が固まったら、基本合意書を締結します。基本合意書には、暫定的な合意事項が記されます。
基本的に、基本合意書に法的拘束力はありません。ただし、デューデリジェンスに関する協力義務や優先交渉権、秘密保持義務などについては、法的拘束力を持たせます。
6.デューデリジェンスを実施する
次に、買い手企業は、デューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスは、法務や財務、税務、ビジネス、環境、ITなどの各分野において、その道の専門家が行います。デューデリジェンスは、簿外債務などのリスクを洗い出すのに重要な手続きです。
7.最終条件を調整する
デューデリジェンスの結果をもとに、最終条件を調整します。買い手企業は、買収価格や条件、M&Aスキームを見直し、売り手企業にリスク低減のための施策や補償について交渉します。
8.最終契約の締結
最終的な交渉がまとまると、M&Aの最終契約の締結です。最終契約書に盛り込まれる主な項目は、次のとおりです。
- 売買条件に関する項目
- 手続きに関する項目
- 解除に関する項目
- 秘密保持に関する項目
- 競業避止義務に関する項目
- 個人保証・担保などに関する項目
- 役員や従業員の処遇に関する項目
- 報酬などに関する項目
- 公表日や費用負担に関する項目
- M&Aの一般条件に関する項目
最終契約書には法的拘束力があるため、締結後に契約を破棄した場合は損害賠償が発生します。
9.クロージング
M&Aの最終手続きがクロージングです。クロージング当日には、対価の支払いや株主名簿の名義書換、重要書類の引き渡しなどが行われます。
10.経営統合(PMI)を実施する
買い手企業は、さまざまな手続きを行った後、経営統合をスタートさせます。合併や買収後の経営統合こそが、M&Aの本番です。
定期的なモニタリングを行いながら、シナジー効果を最大限発揮できるように経営統合を行います。
M&Aで発生する可能性のあるリスクとは
ここでは、M&Aで発生する可能性のあるリスクを、売り手企業と買い手企業のそれぞれについて解説していきます。
買い手企業側のリスク
買い手企業側の主なリスクは、次のとおりです。
- 簿外債務が見つかる場合がある
- 経営統合に時間がかかる
- シナジー効果が得られない可能性がある
それぞれのリスクについて、詳しく解説します。
簿外債務が見つかる可能性がある
買い手企業が抱えるリスクとしては、簿外債務が発覚することです。簿外債務とは、貸借対照表に計上されていない債務のことです。発覚するまでは、金額も定かではないため、入念なデューデリジェンスが必要となります。
買い手企業が簿外債務を引き継いだ場合は、買い手企業が債務の弁済義務を負います。
経営統合に時間がかかる
買い手企業にとって、経営統合こそがM&A成功の分岐点です。買収した企業の社風や文化があまりにも違いすぎると、経営統合に多大な時間や労力がかかります。従業員のモチベーションも下がってしまい、経営統合が失敗に終わってしまうケースもあります。
シナジー効果が得られない可能性がある
M&Aの目的は会社の買収ではなく、買収した企業を経営統合しシナジー効果を得ることです。しかしながら、事前に想定したようなシナジー効果を得られないこともありえます。
買い手企業にとって、シナジー効果によって得た利益で買収資金を回収できて、はじめてM&Aが成功したといえるでしょう。
このようなリスクを回避するためにも、買収金額を決定する際は、売り手企業をあまりにも過大評価せず、現実的なシナジー効果を見込むことが大切です。
売り手企業側のリスク
売り手企業側の主なリスクは、次のとおりです。
- 顧客や取引先との関係性に変化が生じる
- 従業員の雇用条件や待遇が変わる
- 企業文化におけるミスマッチ
- 企業評価が低く見積もられる
それぞれのリスクについて、詳しく解説します。
顧客や取引先との関係性に変化が生じる
売り手側企業のリスクとしては、顧客や取引先との関係性に変化が生じる可能性があることです。M&Aで経営権がほかの企業に移転すれば、既存の顧客や取引先との取引条件が見直される場合があります。
従業員の雇用条件や待遇が変わる
M&Aにより、従業員の雇用条件や待遇が変わることはよくあります。とくに事業譲渡の場合は、従業員と雇用契約を結び直すため、雇用条件が変更される可能性が高くなります。
雇用条件や待遇に不満が生じると、人材が流出してしまう可能性が高くなるため、交渉の段階で雇用条件を維持できるように努めることが重要です。
企業文化におけるミスマッチ
経営統合の際には、人事や社内システムなどの統合とともに、企業文化の統一も図られます。しかし、長く築いてきた企業文化の統一には、時間がかかるのが一般的です。
福利厚生などの待遇から実務の仕方、交流のやり方など、さまざまな面でミスマッチが起きます。あまりにも統一を急ぐと、買い手企業と売り手企業のいずれからも不満が噴出します。
企業文化の統一を含む経営統合には、PMIコンサルティングなどの専門家の知恵を借りるのがおすすめです。
企業評価が低く見積もられる
売り手企業にとって、想定したよりも企業評価が低く見積もられることがあります。買い手企業は、買収によって得られるシナジー効果を見込んで買収金額を決めますが、高い収益が見込めないと判断されれば評価は低くなります。
企業評価を高めるためには、収益率を上げるなどの企業価値を高める施策が必要となるでしょう。
企業のM&Aを成功に導く秘訣とは
企業のM&Aは、必ずしも成功するとは限りません。M&Aを成功に導くためには、以下のポイントに気をつける必要があります。
- M&Aの目的にかなう企業を探す
- 条件交渉やデューデリジェンスを丁寧に行う
- 経営統合に時間をかける
それぞれの秘訣を説明します。
M&Aの目的にかなう企業を探す
M&Aを成功に導くためには、なぜM&Aを行うのか、その目的を忘れないことが大切です。
知名度のある大企業が、よいマッチング相手とは限りません。自社の強みや課題を整理し、M&Aによってどのような成果を達成したいのかを考え相手先候補を見つける必要があります。
M&Aにおけるよい組み合わせとは、次の条件を満たす企業のことです。
- 大きなシナジー効果を発揮できる
- お互いに足りない役割を果たせる
- 企業文化が似ている
これら3つの条件をすべて満たす企業は少ないかもしれませんが、時間をかけて、リソースを最大限活用しながら探してみてください。
条件交渉やデューデリジェンスを丁寧に行う
条件交渉やデューデリジェンスを丁寧に行うことも重要です。よい相手でも、条件によっては、見込んだ効果を得られない可能性もあります。
またデューデリジェンスによって、事前にリスクを徹底的に洗い出し、リスク回避に努めることも成功の秘訣です。そのためにも、デューデリジェンスを丁寧に行う必要があります。
経営統合に時間をかける
M&Aの成功は、経営統合次第ともいえます。経営統合に関しては、次の3点を意識して実施するとよいでしょう。
- 買い手企業から売り手企業に派遣される人材を厳選する
- M&Aの初期の段階から、経営統合についてプランニングしておく
- 売り手企業の従業員の感情や待遇に十分に配慮する
M&Aを初めて行う企業にとっては、経営統合も初めての経験です。自社の感覚頼りで行うのではなく、M&A専門家の知識を借りながら進めることが重要です。
企業のM&Aで発生する税金とは
買収の対価が現金で支払われる場合、税金が発生します。企業のM&Aでよく選択される株式譲渡と事業譲渡では税金が発生するため、事前に把握しておきましょう。
次に、それぞれのスキームで発生する税金を解説します。
株式譲渡の際に発生する税金
株式譲渡の場合、譲渡益に対して税金がかかります。売り手企業は、得た譲渡益に対して税金を支払わなければなりません。
譲渡益は,本業で稼いだ利益と合算した金額に対して法人税の29.74%(2024年4月時点)を乗じた税金がかかります。仮に、本業での赤字が譲渡益よりも大きい場合は、税金はかからないことになります。
たとえば、本業での赤字が1,000万円で、譲渡益が同じように1,000万円であれば、法人税はかからないということです。
事業譲渡の際に発生する税金
事業譲渡の場合は、譲渡益に法人税がかかる点は株式譲渡の場合と同じです。ただし譲渡対象に消費税課税対象の資産が含まれている場合は、別途消費税がかかります。
売り手企業は、税金を収める義務があるだけで、実際に消費税を負担するのは買い手企業です。買い手企業から消費税を徴収して、きちんと納税しましょう。
ほかにも、譲渡対象に不動産が含まれている場合、買い手企業は登録免許税や不動産取得税を支払わなければなりません。
M&Aの相談先
M&Aを行う際は、M&Aに詳しい専門家に相談しながら進める必要があります。主な相談先は、次の4つです。
- 金融機関
- 公的機関
- 士業専門家(弁護士・会計士・税理士)
- M&A仲介会社
それぞれの専門家について解説します。
金融機関
取引のある金融機関は、経営内容を把握している場合が多くM&Aの相談先としておすすめです。とくに資金調達の必要がある場合は、金融機関への相談は必須です。
昨今は、金融機関のなかにもM&Aの専門部署を設けているところが少なくありません。必要があれば、ほかの専門機関や税理士などの専門家への橋渡しも行ってくれます。
また地元金融機関は、地元企業との充実したネットワークを構築しているため、相手先候補を同じエリア内で見つけやすいのがメリットです。
公的機関
商工会議所や事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関は、利害関係がなく、公平な立場でアドバイスをしてもらえます。とくに公的支援について充実した情報を有しているため、支援を活用したM&Aを検討している企業におすすめです。
商工会議所は中小企業に関する業務が豊富で、売り手と買い手が中小企業であれば、商工会議所はよい相談先です。ただし、会員になるためには費用がかかります。
公的機関のデメリットは、スピード感にやや欠けるところです。対応を急いでいる場合は、ほかの相談先にあたるほうがよいかもしれません。
士業専門家(弁護士・会計士・税理士)
弁護士や会計士、税理士などの専門家は、M&Aに欠かせない相談先です。M&Aを実施する際、デューデリジェンスは必要な手続きですが、士業専門家はそれぞれの立場でデューデリジェンスを行います。問題があれば、専門的な知見から助言をもらえるため安心です。
しかしながら、M&Aを支援業務にしていない士業専門家ではサポート範囲が限られます。また相談料が高い傾向にあり、経済的に負担が大きい点がデメリットです。
ただし顧問税理士など顧問契約を結んでいる士業専門家がいれば、これまで築いてきた信頼関係のうえでM&Aを進められる点はメリットでしょう。取り引きのある士業専門家がいる場合は、M&Aの最初の相談先として適しています。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、M&A支援を専門に行う会社です。売り手企業と買い手企業の双方と契約を結び、中立の立場でM&Aの交渉を行います。双方の希望や主張をもとに交渉を進めることで妥協点を見出しやすく、スピーディーなM&Aを期待できます。
M&A仲介会社は、独自の充実したネットワークを有しており、多数の候補先から相手企業を選べるのが大きなメリットです。また、最初の相談からクロージングまで一貫して対応してくれるため、手続きもスムーズです。
ただし、M&A仲介会社では着手金や中間金が発生する会社もあり、経済的な負担は避けられません。初期の負担を減らしたい場合は、相談料や着手金が無料で、成功報酬のみの負担ですむ会社を選びましょう。
まとめ
昨今は、経営者の高齢化や後継者不在によるM&Aは増加傾向にあります。ひと昔前の、大企業間で生じていた強引なM&Aのイメージは薄れ、後継者不在や事業拡大のひとつの対策としてM&Aを取り入れる企業が増えています。
M&Aを行うには専門的な知識や経験が必要なため、M&A専門家への依頼は欠かせません。よい相手先企業を見つけるためにも、M&Aに精通した専門家への依頼がおすすめです。
レバレジーズM&Aアドバイザリー株式会社であれば、幅広い内容のM&Aに対応できます。経験豊富なコンサルタントが、相談からクロージングまで一貫して担当するため安心してご依頼いただけます。
料金体系は、M&Aのご成約時に料金が発生する完全成功報酬型です。ご成約までは無料(譲受企業のみ中間金あり)のため、資金に余裕のない企業でも利用しやすくなっています。無料相談も随時受け付けているため、お気軽にお問い合わせください。