このページのまとめ
- 事業買収とは他社の手がける事業を買い取ること
- 事業買収の目的は「新規事業への参入」「経営資源の獲得」などがある
- 事業買収のメリットは「買収先の強みを生かせる」「企業イメージを向上させられる」など
- 事業を売却するメリットは「経営の安定を図れる」「資金を得られる」など
- 事業買収には専門的な知識が求められるので、専門家のサポートを受けると安心
「事業買収とはどのような手法?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
事業買収とは、他社が運営する事業を買い取るM&Aの手法のことを指します。
この記事では、事業買収の概要と他のM&A手法との違いを解説。また、事業買収をする目的や、事業買収を選択するメリットとデメリットも紹介します。そのほか、事業買収の手続きや失敗の原因、成功例を紹介するので参考にしてください。
目次
事業買収とは
事業買収とは、M&A手法の一種で、他社が手がける事業を買い取る手法です。事業買収を行うために用いる手法には主に事業譲渡や株式譲渡があります。
事業買収は友好的事業買収と、敵対的事業買収の2種類に分けられます。友好的事業買収と敵対的事業買収の違いは、双方が合意してM&Aをしているか否かです。
友好的事業買収は、双方が合意してM&Aをしています。一方で敵対的事業買収は、買収される側の企業が合意していない状態で強制的に事業買収することです。
なお、近年の日本の事業買収の大半は友好的事業買収です。
事業買収とM&Aの違い
事業買収とは、前述の通り他社が手がける事業を買い取る行為のことです。
一方でM&Aとは、会社や会社が手がける事業の買収や合併の総称であり、事業買収もM&Aに含まれます。
事業買収と事業売却の違い
「事業買収」と「事業売却」は、どちらも事業の売買に関係する言葉です。
事業買収と事業売却の違いは、自社が事業を買い取る側であるか、売却する側であるかです。
具体的には、事業買収は事業を買い取る行為のこと、事業売却は事業を売り払う行為のことを指します。
事業買収と事業売却の使い分けは、事業買収は買い手目線、事業売却は売り手目線と覚えておきましょう。
事業買収の4つの目的
事業買収を行う目的は、主に以下の4つです。
- 新規事業への参入
- 経営資源の獲得
- 事業規模の拡大
- シナジー効果による業績向上
以下で詳しく解説します。
新規事業への参入
事業買収を行う目的の一つは、新規事業へ参入することです。すでに軌道に乗っている事業を取得して、新規事業へ参入します。
事業買収により、価値のあるノウハウや経験を持った人材を獲得することが可能です。新規事業を始めるための準備や人材の育成にかかる時間などをカットできます。
経営資源の獲得
事業を買収する目的の一つとして、経営資源の獲得が挙げられます。
事業を買収することで、設備や備品、人材、ノウハウ、ブランドなどの経営資源を手に入れられます。ゼロから新しい事業に参入する場合に比べると、スピーディかつ低リスクで経営資源を獲得できるでしょう。
事業規模の拡大
事業規模を拡大させることも事業買収の目的の一つです。
事業規模を拡大してスケールメリットを得ることができれば、「他社との競争が優位となる」「大ロットでの発注が可能となることで、生産に必要なコストをカットできる」といった恩恵を受けられます。
シナジー効果による業績向上
シナジー効果によって業績を向上させることも、事業買収をする目的です。
既存の事業と買収した事業の組み合わせにより、シナジー(相乗効果)の獲得を狙います。
たとえばこれまで外注していたサービスを、事業買収により自社で賄えるようになれば、大きなコスト削減に期待できるでしょう。
事業買収で得られるメリット
事業買収をすることで、買収側も売却側もメリットを得られます。
事業買収において買収側・売却側それぞれに生じるメリットは下記のとおりです。
【買収側の3つのメリット】
- 買収先のリソースを最大限に生かせる
- 売上・経費・税金の面で良い影響を与えられる
- 社内外における企業イメージを高められる
【売却側の3つのメリット】
- 会社において必要なリソースを残せる
- 安定した経営に改善できる
- まとまった資金を得られる
以下で買収側と売却側それぞれのメリットをご紹介します。
買収側1.買収先のリソースを最大限に生かせる
事業買収は事業のみではなく、販売網や従業員なども獲得できるため、買収先のリソースを最大限に活かせるというメリットがあります。
買収先のリソースを最大限活用することで、一から新事業を立ち上げるよりも短時間、かつ低コストで新事業に参入できます。
買収側2.売上・経費・税金の面で良い影響を与えられる
買収側には、売上・経費・税金の面で良い影響を与えられるというメリットもあります。
売上に良い影響を与えられる理由は、事業買収によって顧客もそのまま獲得でき、ある程度の収益が見込めるからです。また、既存事業も新事業に刺激を受けて従業員のモチベーションがアップするなど、相乗効果も期待できます。
また、対象企業に繰越損金がある場合に限りますが、節税対策になることも大きなメリットです。税制適格を満たせば対象企業の繰越欠損金を損失として計上できるため、節税効果が得られます。
買収側3.社内外における企業イメージを高められる
社内外における企業イメージを高められる点も事業買収のメリットです。
特に、知名度や技術力が高い事業を買収すると大きな反響を呼び、社内外における企業イメージを高めやすいです。
また、ある程度のブランド力がある事業を買収することで、自社のブランド力アップも期待できます。企業イメージが向上すれば、売上アップや株価上昇なども期待できるでしょう。
売却側1.会社において必要なリソースを残せる
売却側のメリットとしては、会社において必要なリソースを残せる点が挙げられます。事業買収はあくまでも事業を売却するM&Aであるため、会社および必要なリソースを残すことが可能です。
事業のみを売却するため、売却前と変わらない体制で会社を経営し続けられる点は事業売却の特徴であり、大きなメリットです。
売却側2.安定した経営に改善できる
売却側には、安定した経営に改善できるというメリットもあります。
事業売却を使って収益がさほど見込めない事業だけを売却すれば、売却した事業に注いでいたリソースを収益が好調な事業に使うことが可能です。優先度や収益性の低い事業を売却すれば、事業全体に対する会社全体の収益が上がり、安定した経営の促進が図れます。
売却側3.まとまった資金を得られる
売却側にはまとまった資金を得られるというメリットがあります。
資金繰りが厳しい場合、不要な事業を売却すれば、売却金額を受け取れます。負債が多い場合は負債の返却にも回すことが可能です。まとまった資金が入れば、経営の立て直しが可能です。
事業買収に伴うデメリット
事業買収・事業売却をすることには、メリットだけではなくデメリットもあります。デメリットも把握しておくことで、事業買収・事業売却を成功に導けます。
各デメリットは下記のとおりです。
【買収側の3つのデメリット】
- 手続きに時間と手間がかかる
- 支払い時に消費税がかかることがある
- 許認可が必要な事業がある
【売却側の3つのデメリット】
- 売却で得た資金に税金がかかる
- 財務諸表の作成に時間がかかる
- 業務が制限される
ここからは、事業買収に伴うデメリットを買収側・売却側に分けてご紹介します。
買収側1.手続きに時間と手間がかかる
事業買収のデメリットとして、手続きに時間と手間がかかることが挙げられます。
事業買収は買収側が必要となる売却側の資産や債権・債務などを個別で選択して移動させなければなりません。
たとえば、土地や建物などの不動産を移動する場合は法務局で所有権移転登記を、売却側の従業員を雇用したい場合は雇用契約を、債権を移動させたい場合は債務者に対しての通知や手続き及び売却側の企業との債権譲渡契約の締結をしなければなりません。
これらは全て個別で手続きしなければならず、移動に応じて都度手続きが必要なため、時間と手間がかかります。
買収側2.支払い時に消費税がかかることがある
資産によっては、支払い時に消費税がかかる点も買収側のデメリットです。
支払い時に消費税がかかる資産とは、たとえば建物の移動などがあります。消費税がかかるとその分支払いの負担が増えます。
買収側3.許認可が必要な事業がある
事業買収の場合、売却側が持っている免許や許認可を買収する事業とともに移動することは基本的にはできません。なぜなら、事業買収の対象はあくまでも事業であり、売却側の企業は存続するからです。
そのため、許認可が必要な事業を買収する場合は、買収後に再度許認可を取得しなければならないことを覚えておきましょう。
売却側1.売却で得た資金に税金がかかる
売却側のデメリットとして、売却で得た資金に税金がかかる点が挙げられます。
事業売却は、税制適格要件を満たさないM&Aのため、売却で得た利益に税金がかかれば、当然税金分の売却益が減ってしまいます。資金繰りが厳しく経営の立て直しを目的に事業売却している場合は、特に大きなデメリットといえるでしょう。
なお、事業売却で得た資金にかかる税金は法人の場合は法人税、個人事業主の場合は譲渡所得税です。
売却側2.財務諸表の作成に時間がかかる
事業売却をすると事業ごとに財務諸表を作成しなければならないため、会計処理が複雑になるというデメリットもあります。
事業売却時に事業ごとの財務諸表が必要となる理由は、事業ごとの財務諸表が売却価格と売却益または売却損を算定する要素となるからです。事業ごとに財務諸表が必要となれば、経理にかかる従業員の手間や負担が増えるでしょう。
売却側3.業務が制限される
会社法第21条の「競業避止義務」によって、事業売却後の事業展開が制限される点がデメリットです。
具体的には、事業売却をすると20年間は同一市町村の区域内、及び隣接する市町村の区域内において、売却した事業と同様の事業は行えないことが会社法に定められています。
事業売却を検討している際は、業務が制限されても問題がないかを十分に確認する必要があります。
事業買収の価格を評価する方法一覧
事業買収を検討している際、特に気になることは事業買収の価格相場でしょう。
買収の価格相場は案件によって異なるため、明確な価格相場はありません。
事業買収の価格相場を知りたい場合は、各社の純資産やM&A後に見込まれる収益、市場価値などの要素から算出する必要があります。
買収したい事業が見つかった場合は、各社の要素から価格相場を算出して予算と合っているかを確認しましょう。
ここでは、事業の価値算定をする方法を紹介します。
算定方法は大きく分けると「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」の3つです。それぞれ詳しく解説します。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来的な利益を加味して事業価値・企業価値を算出する手法です。
インカムアプローチには、以下の3つの種類があります。
- DCF法
- 配当還元法
- 収益還元法
それぞれ詳しく解説します。
DCF法
DCF法(Discounted Cash Flow法)とは、事業計画書などをもとに「キャッシュフロー」、つまり企業が自由に使えるお金を計算し、それをベースに企業価値を算出する手法です。
各年のキャッシュフローは、以下の計算式を用いて計算することができます。
営業利益×(1-税率)+減価償却費-投資額-運転資金増加額
加えてDCF法では、「株主資本コスト」と「負債コスト」を加重平均した「加重平均コスト」を割引率として使用します。
DCF法の計算はかなり複雑ですので、公認会計士やM&A仲介業者などへの依頼も併せて検討するとよいでしょう。
配当還元法
配当還元法とは、将来的な株主への配当をベースに企業価値を算出する方法です。
ただし配当の金額は、企業の配当政策によって変動します。基本的には発行されている株式が少数、あるいは非公開の企業に用いられる手法と考えてよいでしょう。
収益還元法
収益還元法とは、将来生み出される収益の合計額から企業価値を算出する手法を指します。
収益の合計額を計算するためには、平均収益を「資本還元率(市場金利に経営に伴うリスクを加味)」で割って算出されます。
基本的には平均収益があまり上下しない、収益が安定した企業向けの手法といえるでしょう。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、株価や類似企業の指標をもとに企業価値を算出する手法です。
マーケットアプローチは、以下の3つに分けることができます。
- 類似取引比較法
- 市場株価法
- 株価倍率法
それぞれ詳しく解説します。
類似取引比較法
類似取引比較法とは、過去に行われた取引をもとに企業価値を算出する手法です。
その性質上、サンプルとする会社と評価の対象となる会社の業種や状況が近しいほど、正確な企業価値を算出しやすくなるといえるでしょう。
非上場の会社であっても、類似する上場企業の情報をもとに、株式の価格の目安を計算することが可能です。
市場株価法
市場株価法とは、直近〜6ヶ月前の株価を参考に企業価値を算出する手法です。その性質上、上場企業以外が市場株価法を使用することはできません。
市場株価法を使用する場合は一般的に、各期間における株価の平均値を用います。
株価倍率法
株価倍率法とは、業種やビジネスモデル等を基準に類似する上場企業を選定し、財務数値から株価倍率を算出、それを評価対象の企業に適用し企業価値を算出する手法です。「マルチプル法」とも呼ばれます。
たとえば一定の利益を得ている会社の場合、企業価値を算出する目安となる「株価収益率」は、「株式時価総額÷当期純利益」という式で計算することができます。
コストアプローチ
コストアプローチとは、貸借対照表に記載された資産をもとに企業価値を算出する方法で、「純資産法」と呼ばれることもあります。
コストアプローチには、以下の2種類が存在します。
- 時価純資産法
- 簿価純資産価額法
それぞれ詳しく解説します。
時価純資産法
時価純資産法は、時価換算した資産から時価負債を差し引く形で企業価値を算出します。
過去に取得した資産と負債を時価に直すだけで企業価値を計算できるため、その他の手法に比べても簡便で、中小企業であっても利用しやすいといえるでしょう。
ただしこの手法には、「貸借対照表に含まれない資産を加味できない」「将来発生しうる利益を加味できない」といったデメリットもあります。
簿価純資産価額法
簿価純資産価額法とは、会計上の資産額から負債額を差し引く形で企業価値を算出する手法です。時価純資産法と同じく、こちらの算定方法も中小企業に用いられることが多い手法の1つです。
決算書を使って計算を行うという仕様上、客観性に優れているのが「簿価純資産価額法」の利点といえるでしょう。一方で、将来の利益などを加味して計算することができない点はデメリットです。
事業買収に関する手続きの方法・手順
事業買収に関する手続きは、以下の手順で行います。
- 買収する事業を調査・選定する
- 売却会社と交渉する
- 事業買収実施を決定する
- 事業買収の手続きを行う
- 事業買収を実施する
それぞれの方法について詳しく解説します。
1.買収する事業を調査・選定する
事業買収を決めた際には、買収する事業を調査し、調査結果から事業買収する企業(事業)を選定します。
事業を選定するためには、事業買収する目的を明確にし、その目的に沿った事業を買収しなければなりません。もし事業買収の目的を決めずに買収する事業を決めた場合、思うような利益を得られなかったりなど事業買収の失敗につながります。
事業買収をする目的を明確にし、買収する事業を慎重に選びましょう。
2.売却会社と交渉する
買収したい事業が決まったら、売却会社と交渉をします。交渉する内容は、事業買収をする金額や条件などについてです。
交渉が進んだ段階で、事業に問題がないかなどデューデリジェンス(買収監査)を行います。デューデリジェンスも問題なく、交渉内容にお互いが合意したタイミングで事業買収契約を締結します。
事業買収契約の記載事項は法律で明確に定められていないため、今後のトラブルを防ぐためにも専門家に作成・確認してもらいながら締結することをおすすめします。
3.事業買収実施を決定する
事業買収を実施するためには、株主の了承を得なければなりません。そのため、事業買収契約を締結したら、株主総会を開催して事業買収実施を決定します。この際、株主に対して「事業買収に反対する場合は会社に株式買取請求権を行使できる」ことを事前に周知しておくことが必要です。
株主の理解を得るためにも、事業買収する目的や事業買収によって見込まれる利益などの説明をしましょう。
4.事業買収の手続きを行う
株主総会で事業買収の承認を得ることができたら、本格的に事業買収の手続きを行います。事業買収の手続きとは、最終譲渡契約書や許認可取得の手続きなどです。
最終譲渡契約書とは、事業買収を締結する書類です。先述した事業買収契約書はあくまでも会社間で締結する契約で、法的拘束力はありません。
しかし、最終譲渡契約書は法的拘束力があり、締結後の変更は認められません。
また、事業によっては許認可の取得が必要です。先述の通り、事業買収では許認可は引き継がれないため、許認可の取得手続きもしましょう。
5.事業買収を実施する
最終譲渡契約書の締結を終え、許認可取得の手続きなどを含む全ての手続きが完了すると事業買収が行われます。
契約の締結後、実際に引き渡されるまでには一定期間を空けるケースが多いですが、受け渡しの期間は当事者間で決めます。
たとえば、契約日までにクロージングを全て終えている場合、または適正な手続きを契約日後に完結することを前提としている場合は、契約日当日にクロージングをすることもあります。
事業買収にまつわるお金
事業買収では、買収費用のみならず税金やのれん代などさまざまなお金が関係します。
ここからは、事業買収にまつわるお金関連のうち、特に重要なのれん代と税金、会計処理・仕訳について詳しく解説します。
事業買収で発生するのれん代
事業買収ではのれん代が発生します。「のれん」とは、買収価額(企業を買収する際に支払われる取得原価)と、譲渡企業の時価純資産価額との差額のことで、貸借対照表の勘定科目の一つです。差額がプラスの場合は「正ののれん」、マイナスの場合は「負ののれん」と呼ばれます。
事業買収時にのれん代が発生する理由は、買収する企業の無形固定資産も買収価額に含まれているからです。
なお、無形固定資産とは企業のブランド力や技術力、社会的信用度、取引先関係など、数字では表せない資産のことです。
事業買収に関する税金
事業買収をすると、買収額に消費税が課せられます。
消費税が課せられるのは、土地以外の有形固定資産や無形固定資産、のれん、棚卸資産などです。
事業買収に関する消費税の算出方法は以下の通りです。
税金=(譲渡価額-非課税資産総額)×消費税率
そのほか、買収して譲り受ける対象に土地が含まれる場合は、登録免許税が課税されます。さらに、建物も取得する場合は不動産取得税がかかります。
事業買収をしても、土地や債権など一部の資産は消費税の課税対象には含まれません。
事業買収するものに消費税がかかるのかどうか不明な場合は、M&A取引の仲介を依頼する専門家に相談すると良いでしょう。
事業買収でよくある失敗の原因
事業買収では、買収側にはシナジー効果や企業イメージの向上、売却側には経営の立て直しなどのメリットがありますが、事業買収が成功してこそ得られるものです。
ここからは、事業買収でよくある失敗の原因をご紹介します。参考にして同じ失敗をしないように注意しましょう。
買収側でよくある9つの失敗の原因
買収側では、事業買収が失敗する原因は主に下記の9点が考えられます。
- ゴールが不明確、または事業買収そのものがゴールになっている
- 買収先企業の選択ミス
- 専門家や仲介会社に任せっきり
- デューデリジェンスが不十分
- 根拠のない価格設定(買収する企業の価値と見合っていない)
- 責任の所在が不透明
- 優秀な人材が離脱(シナジー効果が得られない)
- 簿外債務の見落とし
- 買収対象の業績悪化(業績状況を把握できていない)
特に、日本の事業買収ではデューデリジェンス不足や、「長い付き合いだから」などの情による根拠のない自信が失敗の原因になることが多いです。
デューデリジェンスを怠ると失敗の原因になるため、多少費用がかかっても専門家に依頼して十分に行いましょう。また、交渉中は情に流されることなく常に冷静に判断することも大切です。
売却側でよくある9つの失敗の原因
売却側が事業売却を失敗する主な原因は以下の9つです。
- 買収側の言いなりになる
- 情報漏洩による破談
- 株券や株主名簿の未整備
- 議事録の書類不足
- 簿外債務
- 合理性のない条件変更
- 不誠実に対応する
- 交渉中に業績が悪化する
- 株主と役員の意思が不一致
買収企業の中には高圧的な態度で話を進める企業もいるかもしれません。このような企業に売却してしまうと従業員の反発が起きやすいため注意が必要です。
また、信用を損なわないためにも、取引をスムーズに進めるためにも、書類はあらかじめ整理しておきましょう。
企業が事業買収を行った3つの事例
ここからは、実際に企業が事業買収を行った事例を3つ紹介します。
日本電産の事例
日本電産株式会社(現「ニデック株式会社」)は、2017年に米国のエマソン・エレクトリック社(Emerson Electric Co.)が所有するモータ・ドライブ事業と発電機事業を買収しました。
日本電産は、この買収にあたり以下の効果を期待しているとのことです。
- 産業用製品のフルラインナップ化
- 欧州・北米地域における事業基盤の地理的補完
- 対象事業のドライブと当社モータの組み合わせによる顧客提案力の強化
- 以上の効果による事業成長の加速
日本電産株式会社は、このほかにも多数の国内外の事業を買収しており、今ではブラシレスDCモータの世界シェアNo.1メーカーとなっています。
参照元:ニデック株式会社「米国エマソン・エレクトリック社(Emerson Electric Co.)のモータ・ドライブ事業及び発電機事業の買収完了と新子会社概要」
第一生命の事例
第一生命ホールディングスは2022年に、ニュージーランドの生命保険グループ Partners Group Holdings Limitedを買収しました。
第一生命はこの買収について、以下のような意図があると公表しています。
- 先進国市場の安定成長享受と地理的分散等を通じた海外事業ポートフォリオ強化
- 急成長を実現してきた特徴あるビジネスモデルによる持続的な利益成長と同社ノウハウの利活用
- グループ傘下での更なる成長の実現や将来的なシナジー効果の追求
第一生命によると、ニュージーランドの生命保険市場は「市場規模は小さいながらも収益性は高く、人口や経済成長等を背景に安定した市場成長が見込まれる」とのことです。
参照元:第一生命「ニュージーランドの生命保険グループ Partners Group Holdings Limited の完全子会社化について」
オイシックスドット大地の事例
食品宅配サービスを展開するオイシックスドット大地株式会社(現「オイシックス・ラ・大地株式会社」)は、会員制の食品宅配サービスを行う「らでぃっしゅぼーや」を2018年に買収しました。
この買収について、オイシックスドット大地は以下のような意図があったと述べています。
- デジタルマーケティング、生産者ネットワーク、物流面などのシナジーを創出
- 高付加価値な食品宅配のマーケットのけん引
この他にもオイシックス・ラ・大地株式会社は、アメリカのヴィーガンミールの宅配サービス「Purple Carrot」を子会社化するなどして、事業の拡大を行っています。
参照元:オイシックス・ラ・大地株式会社「オイシックスドット大地、らでぃっしゅぼーやとの経営統合へ向けた新社名『オイシックス・ラ・大地(株)』に決定」
事業買収をする際の3つの注意点
最後に、事業買収を行うときの注意点を紹介します。
気を付けるべき点は、主に下記の3つです。
- デューデリジェンスをしっかり行う
- 相手の経営者や従業員とのコミュニケーションを怠らない
- 支援機関を活用する
それぞれ解説します。
1.デューデリジェンスをしっかり行う
事業買収を行うときは、デューデリジェンスを必ず行いましょう。
デューデリジェンスを実施するべき分野は多岐にわたり、専門的な知識が必要なプロセスです。専門家に依頼しなければならないため億劫に感じることもあるかもしれませんが、もし事業買収後に大きな問題が発覚した場合、多大な損失を被る恐れがあります。
事業買収を成功に導くためにも、入念なデューデリジェンスを実施してください。
2.相手の経営者や従業員とのコミュニケーションを怠らない
事業買収を行う際は、相手の経営者や従業員に対して積極的にコミュニケーションを取りましょう。
事業を譲り渡すことは、相手の経営者にとっても一大決心です。もし不信感を持たれてしまった場合、事業買収の話は破談となるでしょう。
誠実な態度で交渉に臨んでください。
また、従業員とのコミュニケーションも大切です。事業買収後、売却側の従業員は買収側の経営者のもとで働きます。もし信頼を得られなかった場合、従業員が退職してしまう恐れがあります。
想定したシナジー効果を得るためにも、従業員としっかり話して、安心して働ける環境にしましょう。
3.支援機関を活用する
事業買収には専門的な知識が必要です。また、用意すべき書類は多く、手続きも煩雑です。通常の業務をこなしながら事業買収の過程を進めることは至難の業だといえるでしょう。
そのような場合におすすめなのが、支援機関を活用することです。
事業買収をサポートしてくれる支援機関には、M&A仲介会社や金融機関、弁護士、税理士、公認会計士などがあります。サポートの範囲や対象とする企業規模は支援機関によって異なるので、自社が実施しようとする事業買収に合わせて支援機関を選びましょう。
まとめ
事業買収とは、他社が持つ事業を買い取る手法を指します。
事業買収の主な目的は「新規事業への参入」「経営資源の獲得」「事業規模の拡大」「シナジー効果による業績向上」です。これらの目的を果たすために、事業買収を成功させましょう。
事業買収をはじめとするM&A取引を進めるためには、専門的な知識が必要不可欠です。本記事で事業買収の流れや注意点、失敗原因をあらかじめ知っておき、ぜひお役立てください。
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