このページのまとめ
- 株式の取得関連費用とは株式取得時に株式自体の購入金額以外に発生するコストのこと
- 取得関連費用には、会計処理や税務処理上のポイントがある
- 判断に迷う場合は、早期に専門家へ相談することが大切
株式の取得にあたっては、さまざまな種類のコストが発生します。その多くは「取得関連費用」と呼ばれ、会計・税務処理上の扱いのポイントを整理しておくことが重要です。判断に迷うケースもあるため、事前に注意すべきポイントを理解しておきましょう。
この記事では、取得関連費用の概要や会計処理上・税務処理上の注意点などについて解説します。
目次
株式の取得関連費用とは
株式の取得関連費用とは、株式を取得するにあたって株式自体の購入金額以外に発生するコストのことです。例えば、法務・税務・財務調査費用、証券会社への手数料や消費税、そしてM&Aアドバイザリー報酬などが該当します。
なお、株式自体の取得にかかる費用は、株価に対して取得した株数をかけて算出されます。
また、取得関連費用は正確に把握する必要があります。取得関連費用が不明確だと、経営者や投資家が企業の財務状況を将来に渡って見通すことができず、想定以上に財務状況が悪化する事態に陥りかねません。そのため、投資家からの信頼も得にくいでしょう。
このような事態が続けば、ケースによっては企業の存続にかかわる大きな問題に発展する可能性もあるため、正確に内容や取扱い方法を把握することが重要です。
付随費用との違い
取得関連費用について考える際に混同しやすいのが、付随費用です。付随費用とは、購入手数料やその他の株式購入のためにかかったコストを指します。
実は、取得関連費用と付随費用との間には大きな違いがなく、同じことを示す言葉だと考えて差し支えありません。厳密には取得関連費用の方がより幅広い支出を含む概念ですが、実務上は同じ言葉だと思って処理して大丈夫です。
株式の取得に関する話で「付随費用」との文言が出てきたら、取得関連費用と置き換えて理解しておきましょう。
株式の取得関連費用に該当する費用
取得関連費用は株式の購入時だけでなく、取得に至るまでのデューデリジェンスや外部専門家への相談、株式取得後の謝礼金など幅広いタイミングで発生します。
株式の取得関連費用に該当する費用の具体例は、以下の通りです。
- 法務・税務・財務調査費
- M&Aアドバイザーへの報酬
- 証券会社に支払う購入手数料
- 紹介料
- 交通費や通信費用
- 名義書換費用 など
以下、それぞれについて解説します。
法務・税務・財務調査費
「デューデリジェンス費用(DD費用)」とも呼ばれる、株式取得への準備において非常に重要な費用です。具体的には、候補企業の価値や抱えている問題点などについて詳細に調査し、株式取得に向けた合理的な判断を行えるようにするための費用を指します。
対象企業の抱えるリスクを把握できないままM&Aを進めると、手続きが終わった後にトラブルに発展する可能性が否定できません。場合によってはM&Aが白紙になることもあるため、事前のデューデリジェンスは欠かせないのです。
デューデリジェンス費用の相場は、依頼する先や対象企業などの要素によって変化します。一般的な目安は、総額で50~数百万円程度です。
M&Aアドバイザーへの報酬
M&Aをしっかりと進めていくためには、アドバイザーへの相談やサポート依頼が欠かせません。アドバイザーに相談することで、M&Aを有利に進められる可能性が高まるでしょう。
報酬体系は各社で異なり、成功報酬のみを支払うケースのほか、最初に着手金を支払うケースもあります。場合によっては中間報酬を請求されることもあるでしょう。それぞれの目安金額は、以下の通りです。
- 着手金:100~400万円
- 中間報酬:50~200万円
- 成功報酬:取引金額の1~5%
証券会社に支払う購入手数料
株式取得は一般的には証券会社を通じて行うため、購入手数料も計上しなくてはいけません。一般的には、株式の取得対価に含まれ、証券会社によって手数料の設定は異なります。
紹介料
紹介料とは、非上場株式を購入した際に紹介してもらった人に対して支払う対価のことです。紹介手数料は取引金額に応じて変化するのが一般的であり、原則として取得関連費用として取得価額に含めます。
交通費や通信費
株式取得のためにかかった交通費や通信費、取得関連費用に該当します。取得関連費用に含めるのが基本ですが、取引価額に含めないことも可能です。
名義書換費用
株式を新たに取得した際に、名義書換をおこなってもらうための費用です。費用が少額であることから、交通費や通信費と同様に取引価額に含めないことも認められています。
株式取得関連費用の会計処理方法
株式取得関連費用の会計処理においては、取得関連費用に計上できるケースとできないケースがあります。判断が難しい場合は、税理士をはじめとする専門家に相談するとよいでしょう。
ここでは、取得関連費用に仕分けしてよい費用と取得関連費用に仕分けできない費用について解説します。
株式の取得関連費用として仕分けしてよい費用
取得関連費用として仕分けしてよい費用は、個別財務諸表と連結財務諸表で異なります。
- 個別財務諸表:取得時にかかった費用は、全部取得価額に含めて資産として計上する
- 連結財務諸表:資産ではなく、支払い時に費用として計上する
また、デューデリジェンス費用については、株式取得の意思決定後に発生した分は取得関連費用として仕分けできますが、意思決定前の費用は仕分けできません。
株式の取得関連費用として仕分けできない費用
通信費や交通費など取得関連費用に含めなくてもよいとされている費用については、資産としてではなく費用として計上します。ただし、個別判断になる上、判断が難しいケースもあるため、迷った際には早期に専門家へ相談するのが賢明です。
株式の取得関連費用の会計処理を行うときの注意点
株式の取得関連費用の会計処理を行う際には、以下のポイントに注意してください。
- のれんは無形固定資産とみなされるため減価償却する
- 連結財務諸表ではM&Aアドバイザリー報酬は取得関連費用に含まない
のれんは無形固定資産とみなされるため減価償却する
会計処理上において、「のれん」は無形固定資産と見なされるため減価償却することが基本です。のれんとは、企業の純資産と実際の購入にかかった金額との差額を指します。買取対象の企業に現在の価値である純資産以上の価値・将来性があると判断されると、買取金額の方が高額になってのれん代が発生します。
ただし「負ののれん」といって、買取金額が純資産を下回るケースも存在します。対象企業がその時点において不確定なリスクを抱えていると判断された場合、負ののれんが発生することもあるので注意が必要です。不確定なリスクとして、例えば将来的な訴訟リスクや人材不足などが挙げられます。
連結財務諸表ではM&Aアドバイザリー報酬は取得関連費用に含まない
連結財務諸表上では、M&Aアドバイザリー報酬は取得関連費用に含まれません。財務諸表には、単体の企業に対する個別財務諸表と子会社を含むグループに対して作成する連結財務諸表が存在します。
以前は、M&Aアドバイザリー費用の扱いについて両者で差はなく、いずれも取得関連費用に含めてよいとされていました。しかし、2015年の改定によって、「個別では含めてよい」「連結は含めてはいけない」との違いが生まれたのです。
財務諸表ごとの取り扱いの違いを整理し、計上可否を間違えないよう注意しましょう。
株式の取得関連費用の税務処理の方法
ここでは、株式取得関連費用の税務処理方法について解説します。株式取得関連費用の中でも特に判断が難しいと言われているのが、財務調査に関係する費用です。
財務調査に関係する費用は高額であることから、取得関連費用に含めなくてはなりません。しかし、実際には、含めるかどうか判断が難しいケースもあります。
財務調査と株式取得のタイミングに注目して2パターンに分け、税務処理方法を解説します。
財務調査後に株式を取得したケース
財務調査後に株式を取得したケースにおいては、調査前からすでに株式を取得するとの意思が固まっていたか否かで判断します。
既に意思が固まっていた場合、原則として費用はすべて取得関連費用に含まれます。一方、意思がまだ固まっていない状態での調査の場合、取得関連費用には含みません。取得のために必要な費用だったと言い切れないケースがあるためです。
特に非上場企業のケースでは意思決定のタイミングが判断しづらく、困るケースも少なくありません。疑問点があれば早期に専門家へ相談することが大切です。
財務調査前に株式を取得したケース
財務調査前に株式を取得したケースでは調査が取得に必要だったと判断できないことから、取得関連費用には計上できません。
まとめ
取得関連費用とは、株式の取得にあたって株式自体の購入金額以外に発生するコストのことです。取得関連費用にはデューデリジェンス費用やM&Aアドバイザリー費用など多種多様な費用が含まれます。
ただし、会計・税務処理においては、いくつか注意点があるため、押さえておきましょう。少しでも判断に迷うことがあれば、税理士やM&Aアドバイザリーをはじめとする専門家へ相談することが大切です。
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