このページのまとめ
- 金庫株とは、発行会社が市場に流通する自社株式を株主から買い戻した株式のこと
- 金庫株を事業承継に活用すれば、経営権が分散することを防止できる
- 金庫株を事業承継に活用すれば、後継者の納税資金の確保ができる
- 要件を満たせば、金庫株に関連する所得税について特例を受けられる
- 金庫株を事業承継に利用するときは、財源規制や買取費用の増大などに注意する
「金庫株とはどのようなもの?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
金庫株とは発行会社が株主から買い戻した自己株式のことです。活用することで、事業承継の円滑化に役立てることができます。
本コラムでは、金庫株の意味や取得方法、事業承継で活用するメリット・デメリットをわかりやすく解説します。また、課税に関する特例制度や利用する際の注意点も紹介します。
事業承継の資金不足に不安がある方、ぜひご覧ください。
目次
金庫株とは
金庫株とは、市場に流通している自社の株式を企業が株主から買い戻し、自社で保有する株式のことです。
「金庫株」の正式名称は「自己株式」です。自己株式の俗称として「金庫株」という用語が使用されています。
また、流通している株式を金庫株にすることを「金庫株化」または「自社株買い」と呼びます。
旧商法において、自己株式の取得・保有は原則禁止とされていました。
しかし2001年の商法改正によって自己株式の取得・保有は原則自由となり、金庫株は解禁されました。
参照元:金融庁『商法改正の第一段階(金庫株の解禁等)』
金庫株を取得する5つの方法
金庫株を取得する方法には、以下の5つがあります。
- 市場取引を行う
- 株式公開買付(TOB)を行う
- 子会社から買い取る
- すべての株主から申し込みを受け付ける
- 特定の株主から申し込みを受け付ける
5つの取得方法について、詳しく解説します。
1.市場取引を行う
上場企業であれば、証券取引所での市場取引によって金庫株を取得することが可能です。
市場取引を活用する場合、複雑な手続きをすることなく取得できます。
一方で、自社株買いによる株価変動リスクに注意する必要があります。
2.株式公開買付(TOB)を行う
主に上場企業が選択できる金庫株の取得方法として、株式公開買付があります。
株式公開買付とは、「TOB(Take-Over Bid)」とも呼ばれる株式取得の方法です。
株式公開買付では、買付期間と取得する株式の価額・数を、不特定多数の株主に向けてあらかじめ公開し、証券取引所外において取得します。
設定した条件で買付を行うため、市場の株式価額の変動の影響を受けずに取引できる点が大きなメリットです。
既存株主からの応募を促すために、株式公開買付における株式の価額は市場の株価よりも高い金額にすることが一般的です。
3.子会社から買い取る
金庫株を取得する方法として、子会社からの買取が挙げられます。
子会社が保有している親会社の自己株式を取得することによって、金庫株化を行います。
子会社から自己株式を取得するケースでは、株主総会での決議は不要です。
取締役会での承認を得られれば、金庫株を取得できます。
4.すべての株主から申し込みを受け付ける
非上場企業の場合、全株主から自己株式を取得して金庫株化する方法を採択できます。
すべての株主に対して申し込みの機会を公平に用意し、自己株式の買取を行います。
すべての株主を対象に自己株式の取得を行う際は、取得する株式数や取得期間、対価の内容・総額などを決定することが必要です。
株主総会の普通決議や取締役会の決議を経て、金庫株の買取の条件を決定していきます。
なお非上場株式には市場価額が存在しないため、株価算定を行って適正価額を算出する必要があります。
5.特定の株主から申し込みを受け付ける
特定の株主からの申し込みを受け付けることにより、金庫株を取得することが可能です。
この方法は、上場企業も非上場企業も活用することができます。
特定の株主のみに通知を行い自己株式を買い取ろうとするケースにおいては、特定の株主以外の株主に対して「株主が売主追加請求権を行使できる」という旨を通知することが必要です。
また、金庫株の取得に関する詳細内容について、株主総会の特別決議で承認を得る必要があります。
金庫株は事業承継で活用できる
金庫株は、事業承継において有効な手段として利用されています。
金庫株をうまく活用すれば、後継者の資金不足の問題や経営権争いなどを解決することが可能です。
金庫株を承継する方法や金庫株が事業承継において果たす役割の詳しい内容については、後述の「金庫株を引き継ぐ3つの方法」や「金庫株を事業承継で活用する3つのメリット」で詳しく解説します。
金庫株を引き継ぐ3つの方法
金庫株を承継する方法は、主に以下の3つです。
- 生前贈与
- 相続
- 株式譲渡
それぞれの詳細について、以下で詳しく解説します。
1.生前贈与
生前贈与とは、経営者が存命の間に、後継者に無償で金庫株を譲り渡すことです。
無償で株式を譲り渡すこの手法は、主に親族内承継において活用されます。
生前贈与の際に後継者にかかる税金は、贈与税です。
生前贈与を行う際には、贈与契約書を作成することがおすすめです。
書面に残すことにより、贈与の内容に関する認識の食い違いを防いだり、贈与履行の確実性を高めたりする効果があります。
2.相続
相続においては、経営者を務めていた人物が亡くなったあと、後継者となる相続人が金庫株を引き継ぎます。
相続は、親族内承継の方法として利用されることが一般的です。
相続の際に後継者にかかる税金は、相続税です。
故人が遺言書を残していたケースでは、遺言書の内容に沿って相続を行います。
遺言書がないケースでは、法定相続あるいは分割協議によって相続の内容を決定します。
経営者が特定の後継者に金庫株を譲りたいと考えている場合は、遺言書において受遺者を指定しましょう。
3.株式譲渡
株式譲渡では、経営者が保有している金庫株を、後継者となる人が金銭等の対価を支払って買取を行います。
株式譲渡による事業承継は、従業員承継やM&Aなどで用いられる手法です。
株式譲渡においては、買い手となる後継者に対する課税は一般的に発生しません。
しかし、金庫株を買い取るための買収資金を用意する必要があります。
金庫株を事業承継で活用する3つのメリット
金庫株を事業承継の際に活用するメリットは、主に下記の3つです。
- 経営権の分散を防げる
- 納税資金が確保できる
- 特例制度を利用できる
それぞれのメリットについて、概要を詳しく解説します。
1.経営権の分散を防げる
後継者候補以外の人が保有している自己株式について、経営者が生前に金庫株化を進めておくことによって、経営権が分散することを防止できます。
安定した経営を行うためには、少なくとも過半数の株式を保有し、経営権を持つ必要があります。
金庫株化をして、集めた金庫株を後継者候補に引き継ぐことによって、事業承継を円滑にすることが可能です。
2.納税資金が確保できる
金庫株を活用することで、相続税の納税にかかる資金を確保できます。
経営者は遺言書を残すことにより、自己株式を後継者が相続できるようにしておきます。
経営者の死亡後、相続人が自己株式を相続したら、発行会社が相続人から買い取り、金庫株化を行います。
この金庫株化の際に対価として金銭等を受け取ることで、後継者は納税資金を手に入れることが可能です。
3.特例制度を利用できる
通常であれば、 非上場株式の配当所得は総合課税になります。
受け取った対価の価額の合計のうち、資本金等の金額を超える部分はみなし配当として扱われ、最大で45%の税率が適用されます。
しかし、非上場企業の株式を後継者が相続し、後継者がその株式を発行会社に譲渡するケースにおいては、課税に関する特例を受けられます。
特例を適用すれば、対価の全額が非上場株式の譲渡所得の収入金額となります。
その額から取得費と譲り渡す際にかかった費用を控除して計算した譲渡所得金額が課税対象となり、所得税に課せられる税率は15%です。
相続税の課税対象となっており、相続の開始日から3年10ヶ月以内に金庫株化をしている相続人が本特例を受けられます。
特例を受けるためには、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出書」を所轄税務署に提出することが必要です。
参照元:
国税庁『利子所得と配当所得の課税方法』
国税庁『No.1477 相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合の課税の特例』
国税庁『A2-31 相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例に関する届出』
金庫株を事業承継で活用する3つのデメリット
金庫株を事業承継で活用するときのデメリットは下記の3つです。
- 財源規制が設けられている
- 株価が急騰する可能性がある
- キャッシュフローが悪化するおそれがある
それぞれのデメリットについて、概要を詳しく解説します。
1.財源規制が設けられている
金庫株化には、財源規制が設けられています。
剰余金分配可能額を超過して自己株式取得を行うことはできません。
そのため、買取目標の株式数を満たせない可能性があります。
2.株価が急騰する可能性がある
上場企業で金庫株化をする場合、株価が急激に上昇するおそれがあることがデメリットです。
金庫株を取得することを公表すると株価が急騰し、買い取るために必要となる費用が増大します。
上昇額によっては資金が足りなくなってしまい、自社株買いができなくなってしまうでしょう。
3.キャッシュフローが悪化するおそれがある
金庫株化を行うと、自社株式の買取にかかった費用の分、現預金が減ります。
また、金庫株は取得しても直接的な利益を生み出しません。
金庫株の取得に際し、多額の費用がかかってしまった場合、キャッシュフローの悪化を招くことがあります。
金庫株を事業承継で活用する際の2つの注意点
金庫株を事業承継で活用する際には、次の2つの点に注意することが必要です。
- 純資産額が300万円を下回る場合は活用できない
- 取得資金の準備を早めに始める必要がある
それぞれの注意点について、詳しく解説します。
1.純資産額が300万円を下回る場合は活用できない
純資産額が300万円未満の場合は、財源規制の対象となります。
したがって、純資産額が300万円を下回るケースでは金庫株化ができません。注意しましょう。
2.取得資金の準備を早めに始める必要がある
自社株式を買い取って金庫株化するためには、買取資金が必要です。
資金が足りなければキャッシュフローの悪化を招いてしまうため、十分な取得資金を用意しなければなりません。
分散している株式数から取得にかかる費用を概算し、取得資金の準備を始めましょう。
まとめ
金庫株とは、株主から買い戻して自社で保有する自己株式のことです。
金庫株を有効活用すれば、事業承継において問題となる後継者の資金不足や経営権の分散などを解決できます。
また、金庫株化には特例制度が用意されており、税金面で優遇措置を受けられます。
事業承継をスムーズに進めるために、金庫株の活用を検討してみましょう。
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