このページのまとめ
- EPSとは、会社の株式1株当たりの純利益のことを示す財務指標のこと
- EPSを見ることで、企業の収益力と成長性がわかる
- EPSが増加する要因は、売上アップや経費の削減、株式の消却など
- EPSが減少する要因は、売上ダウンや経費の増加、新株発行など
- 企業の価値を正確に判断するためには、EPS以外の指標も参考にする必要がある
「EPSとは何がわかる指標?」と疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
EPSとは、株式1株当たりの純利益を示す指標で、数値から企業の収益力と成長性を読み取ることができます。
本コラムでは、EPSの概要や指標が示す意味、計算方法などを紹介します。
また、EPSの数値が変動する要因やEPSを参考にする際の注意点についても解説します。
目次
EPS(1株当たり純利益)とは
EPSとは、会社の株式1株当たりの純利益のことを指します。
EPSの読み方は「イー・ピー・エス」で、英語の「Earnings Per Share」の略称です。
「EPS」が指す別の意味
「EPS」という言葉は、別の意味を指して使われることがあります。
「EPS」を略称とする言葉の例は、以下のとおりです。
企業分析における「EPS」 (Earnings Per Share) | 企業の株式1株当たり、どれくらいの純利益を生み出せているかを意味する。 |
建築業界における「EPS」 (Electric Pipe Space) | 電気・通信の配線を通すために用意されたスペースのことを意味する。 |
医療業界における「EPS」(ElectroPhysiologic Study) | 電極カテーテルを用いて心臓の異常について調べる「電気生理学的検査」を意味する。 |
自動車業界における「EPS」 (Electric Power Steering) | 車の運転者にかかるハンドル操作への負担を軽減・アシストする「電動パワーステアリング」を意味する。 |
印刷業界における「EPS」(Encapsulated PostScript) | Adobe社が開発した画像ファイル形式のことを意味する。データの拡張子は「.eps」で、高品質の印刷が可能になる。 |
細菌学における「EPS」(ExoPolySaccharide) | ヨーグルトに含まれる乳酸菌などの微生物が菌体の表面に創り出す、多糖体のことを意味する。 |
「EPS」という用語は、さまざまな分野で使用されています。
意味を混同しないように気を付けましょう。
本記事では、企業分析のEPSについて詳しく解説していきます。
EPSの数値からわかる2つのこと
EPS(1株当たり純利益)は、企業分析や投資判断において、企業の価値を測る指標となります。
EPSの数値からわかることは、主に「企業の収益力」と「企業の成長性」の2点です。
EPSの数値が大きければ大きいほど、企業が持つ収益力は高いと判断できます。
また、EPSの数値の推移を見ればEPS成長率がわかり、企業の成長性を確認することが可能です。
M&AにおけるEPSの活用方法
M&Aを検討する場面においても、EPSを活用することができます。
M&AにおけるEPSの活用例には、以下のような使い方が挙げられます。
- 株式交換での株式交換比率を算定する
- 買収する価値があるかどうかの判断基準にする
- 投資資金の回収期間を予測する
株式交換において、譲渡企業と譲受企業のEPSを比較することによって株式交換比率を算定できます。
また、EPSは対象企業に買収する価値があるのかどうかの判断材料の一つになります。
そのほか、イグジットを目指すケースにおいて、投資した資金がどれくらいの期間で回収できるかを予測するための情報にもなるでしょう。
EPSの計算方法
EPS(1株当たり純利益)を求めることによって「企業の収益力」がわかります。
EPSの計算方法は、下記のとおりです。
EPS(単位:円)=当期純利益 ÷ 発行済株式総数 |
企業の当期純利益を企業が発行しているすべての株式数で割ることにより、EPSを算定できます。
EPSの計算例
当期純利益が1,200万円で発行済株式総数が2万株の企業の場合、計算式は「1,200万円÷2万株」となり、EPSの数値は「600円」となります。
EPS成長率の計算方法
EPS成長率を計算することで「企業の成長性」を判断することが可能です。
EPS成長率の計算方法は、以下のとおりです。
EPS成長率(単位:%)=(当期EPSー前期EPS)÷ 前期EPS × 100 |
上記の計算によって、前年度と比較したときの企業の成長率を知ることができます。
EPS成長率がプラスの値であれば企業が成長しており、逆にマイナスであれば成長率が後退した状態だといえます。
EPS成長率の計算例
当期のEPSが600円で前期のEPSが500円だった場合、計算式は「(600円ー500円)÷ 500円 × 100」となり、EPS成長率は「20%」となります。
当期のEPSが600円で前期のEPSが800円だった場合、計算式は「(600円ー800円)÷ 800円 × 100」となり、EPS成長率は「ー25%」となります。
EPSが変動する要因
ここでは、EPS(1株当たり純利益)が変動する要因を増加するパターンと減少するパターンに分けて解説します。
EPSが増加する要因
EPSが増加するのは、「当期純利益が増加したとき」と「発行済株式総数が減少したとき」です。
したがって、EPSが増加する要因としては以下のことが挙げられます。
- 売上が増加した
- 売上原価が下がった
- 販管費が下がった
- 自社株買いをして消却した
- 株式併合を実施した
当期純利益は、利益から経費等を差し引いた金額のことです。
そのため、売上が上がって利益が増えたり、経費にあたる売上原価や販管費(販売費および一般管理費)が減ったりすると、EPSが増加します。
発行済株式総数は、自社株買いをしたうえでその株式を消却すると減少します。
また、株式併合によって複数の株式が1株に統合された場合にも発行済株式総数が減ります。
発行済株式総数が減少した結果、EPSが増加することになります。
EPSが減少する要因
EPSが減少するのは、「当期純利益が減少したとき」と「発行済株式総数が増加したとき」です。
したがって、EPSが減少する要因としては下記のことが挙げられます。
- 売上が減少した
- 売上原価が上がった
- 販管費がかさんだ
- 新株発行をした
- 株式分割を実施した
当期純利益は利益から経費などを差し引いた金額であるため、売上が減少したり経費がかさんだりすると当期純利益が下がり、EPSも減少します。
発行済株式総数は、第三者割当増資などによって新株発行をすると増加します。
また、発行済の1株を分割して増やす株式分割も、発行済株式総数を増加させる方法です。
これらの手法により発行済株式総数が増加すると、EPSは減少します。
EPSをチェックする際の3つの注意点
EPS(1株当たり純利益)をチェックする際に注意すべきポイントは、下記の3つです。
- EPSが増減した要因に着目する
- EPS成長率のデータも活用する
- EPS以外の指標も参考にする
それぞれの注意点について詳しく解説します。
1.EPSが増減した要因に着目する
EPSを見る際は、その数値だけでなく、増加・減少した原因についてもチェックしてください。
EPSの数値だけに囚われてしまうと、企業の真の価値を見誤ってしまうおそれがあります。
EPSが増加した場合、一般的には収益力がアップしたと考えられます。
しかし、もし発行済株式総数が大幅に減少していた場合、たとえ業績が下がっていてもEPSが増加する可能性があります。
また、EPSが減少していて一見すると収益力がダウンしているように見えても、発行済株式総数が増えたことが要因であれば、実は収益性が高い企業であるケースもあり得ます。
2.EPS成長率のデータも活用する
EPSのほか、EPS成長率のデータも活用するようにしましょう。
当期のEPSの数値だけでなく過去のEPSも参考にして、EPS成長率を算定してください。
EPS成長率を確認することにより、企業の将来性を含めた評価・予測が可能になります。
3.EPS以外の指標も参考にする
企業の価値を評価する際は、EPS以外の財務指標も参考にしてください。
EPS以外にチェックするべき財務指標の例は、下記のとおりです。
名称 | 計算式 | 概要 |
ROA | ROA(%)=事業利益÷総資産×100 | ROA(Return On Assets)とは「総資産利益率」のことであり、総合的な収益性を測る指標となる。ROAが高い場合、資産を効率よく活用して利益を創出していることを表す。 |
ROE | ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100 | ROE(Return On Equity)とは「自己資本利益率」のことを指し、株主の出資による資金を使って企業がどれほど利益を上げたのかを示す。ROEが高ければ、自己資本を効率的に利用して利益を出せているといえる。 |
ROS | ROS(%)=経常利益÷売上高×100 | ROS(Rate of Sales)とは「売上高経常利益率」のことであり、売上に対する経常利益の割合を示す。ROSが高い企業は、効率性の高い経営をしていると判断できる。 |
PER | PER(倍)=時価総額÷当期純利益 | PER(Price Earnings Ratio)とは「株価収益率」のことであり、株価がEPSの何倍の価値を持つのかを表す。同じ業種内のPERを比較することによって、当該企業の株式の割安性・割高性を測る。 |
PSR | PSR(倍)=時価総額÷売上高 | PSR(Price to Sales Ratio)とは「株価売上高倍率」のことを意味し、新興成長企業の株価の水準を測る指標となる。売上高が同等の会社同士を比較することによって、当該企業の株式の割安性・割高性を判断する。 |
SPS | SPS(円)=売上高÷発行済株式数 | SPS(Sales per Share)とは「1株当たり売上高」のことであり、発行済株式の1株当たりが計上した売上高を示す。当該企業の株式が割安であるか割高であるかの判断材料となる。 |
さまざまな財務指標を参考にして総合的な判断を行い、企業の価値を正しく評価しましょう。
まとめ
EPS(Earnings Per Share)とは、会社の株式1株当たりの純利益のことです。
EPSを活用することにより、企業の収益力や成長性を確認することができます。
ただし、企業評価を行う際はEPSの数値以外にも注目する必要があります。
企業の価値を判断する際は、EPSが増減した理由やEPS成長率を同時に確認したり、ROAやROEなどのEPS以外の財務指標もチェックしたりしましょう。
多角的な観点から判断することで、適切な価値評価が可能になります。
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