事業承継とM&Aの違いは?メリットやデメリット・成功のコツも紹介

2024年5月31日

事業承継とM&Aの違いは?メリットやデメリット・成功のコツも紹介

このページのまとめ

  • 事業承継は現在の経営者が後継者に事業を引き継ぐことを指す
  • M&Aは企業の合併や買収などを意味する
  • 事業承継の手段の1つとしてM&Aがある

日本企業の事業承継については、2025年までに70歳を超える経営者の約1/3(中小企業・小規模事業者では約半数)の後継者が未定で、放置すれば累計約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われるといわれています(※)。

こうした状況下で、事業承継の手段の1つとしてのM&Aの件数は増加傾向にあります。
そこで今回は、事業承継とM&Aの違いやメリット、デメリットを解説し、M&Aによる事業承継の成功率を上げるコツについて紹介します。

※参照元:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」

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事業承継とM&Aの違い

事業承継とは、現在の企業経営者が後継者に事業を引き継ぐことを指します。対して、M&Aは企業の合併や買収など経営手法を指します。
事業承継には大きく3つの手法があり、そのうちの1つがM&Aによる事業承継です。

それぞれの定義について、詳しく説明します。

事業承継とは

事業承継とは、企業の事業や経営権、資産、負債のすべてを後継者に譲ることを指します。とくに創業者の経営方針が強く表れる中小企業にとって「誰が社長になるか」は重要です。交代の際は、相続や贈与といった税金の問題だけでなく、後継者の育成などの課題を解決しなければなりません。

一方で、上場企業では、株主が社長などの経営陣を委任しており、経営者が交代しても税金の問題は起こりません。役割が明確に分離されているため、比較的円滑に経営者交代が行われます。

事業承継は、以下の3種類に分類されます。

種類概要
親族内承継事業を家族内のメンバーが引き継ぐ方法
親族外承継親族以外の役員や従業員が引き継ぐ方法
M&A社内以外の第三者がM&Aを通じて引き継ぐ方法

M&Aとは

M&Aとは、合併(Mergers)と買収(Acquisition)を合わせたもので、広義では業務や資本の提携も含まれます。
M&Aを実行することで、自社のみで企業の成長をめざすよりスピーディに、より大きく事業展開を図れます。

一方、事業承継の1手段としてのM&Aが昨今増えているのも冒頭で紹介したとおりです。

M&Aの手法としては、主に以下の3種類があります。

種類概要
株式譲渡発行済の売り手の株式を買い手が買い取り、経営権を獲得すr付
事業譲渡売り手企業が保有する事業の一部あるいは全てを買い手企業に譲渡する
合併2つ以上の企業が合同で新しい会社を設立する
会社分割ある企業が事業を分割して新たな会社を設立する
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M&Aによる事業承継の現状

M&Aによる事業承継は増加傾向にあり、中小企業庁の資料「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」によれば、2018年には3,850件のM&Aが行われ過去最高を記録しています。

M&Aが増加している理由は、後継者不在の事業者が増加しているためです。冒頭でお伝えしたように、2025年までに70歳を超える経営者の約半数が後継者未定となります。この状況を変える有力な手段としてM&Aが注目されているといえるでしょう。

また、M&Aにおいては売り手となる企業の掘り起こしが課題となっています。後継者不在の企業数に対してM&A件数が限られているため、売り手側の評価を適切に行いながら買い手となる企業とのマッチングを図る必要があるでしょう。

買い手企業は、M&Aの成功率を上げるために売り手側の企業情報を詳細に評価します。売り手側は、自社の強みや成長性を明確にして買い手側に魅力を感じてもらう手立てを打たねばなりません。

つまり、M&Aに対する前向きな動向や意見が聞かれる一方、M&Aを成功へ導くには、次のような課題の解決が必要です。

  • M&A市場の情報収集と分析
  • 売り手側の積極的な掘り起こし
  • 売り手側の企業価値向上

中小企業庁の資料では、M&Aによる事業承継における課題を解決するには「M&Aの当事者である中小企業・小規模事業者及びM&A支援を行うプレイヤー双方に向けた働きかけが必要」としています。後継者未定の状態を脱するには、M&A市場における全体としての意識改革が重要といえるでしょう。

参考:中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題

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M&Aによる事業承継のメリット

ここでは、M&Aによる事業承継のメリットについて売却側と買収側に分けて解説します。

売却側のメリット

売却側のM&Aによる事業承継のメリットは、以下のとおりです。

  • 後継者問題を解消できる
  • 従業員を解雇せずに済む
  • 取引先との関係も継続できる

後継者問題は中小企業や小規模事業者にとって大きな課題ですが、M&Aを通じて新たな経営者や企業に事業を引き継げます。継承によって企業を存続させ、将来の発展にもつなげられます。

また、後継者と同様に従業員の雇用を継続できる点もメリットといえます。M&Aによる事業承継を実施する際は、買収側の企業が売却側の従業員を継続して雇用することが一般的です。従業員の雇用が守られれば、経済的な不安に陥らず働く意欲を持ちやすくなります。

取引先との関係継続も重要なメリットです。売却側は、M&Aによって新たな経営者に事業を引き継ぐと同時に取引先との関係性を引き継げます。取引先も安心でき、信頼関係を保ちながら事業を続けていけます。

売却側にとってのM&Aによる事業承継のメリットは、後継者問題を解消したり、従業員や取引先との関係性を維持したりできる点にあります。ただし、自社のメリットとなるような売却側を見つかられるかや、適切な情報共有などができるかといった点には注意しなければなりません。事前準備の段階で、M&A専門業者からのアドバイスを受けることが大切です。

買収側のメリット

買収側のM&Aによる事業承継のメリットは、以下のとおりです。

  • ブランド力を得られる
  • 人材を確保できる
  • 技術やノウハウを引き継げる

まずはブランド力の獲得です。買収側は、売却側の企業ブランドを継承することで、市場における認知度を高められます。認知度だけでなく信頼性も向上させられるでしょう。通常の場合、自社ブランドの認知度を高めるには時間やコストがかかりますが、M&Aで企業や事業を買収すれば、既にあるブランド力をそのまま得ることができます。

次に人材の確保についてです。人材は企業を成長させるうえで欠かせない要素です。自社だけで優秀な人材を集めるには、やはり時間やコストがかかります。しかし、M&Aによる事業承継で優れた人材を確保できれば、即戦力として活用できます。

また、M&Aによる事業承継で売却側の技術やノウハウを獲得できることも大きなメリットです。急速な技術革新が進む現代では迅速さが求められており、スムーズな技術の継承により自社の競争力を強化できるでしょう。

以上のようにM&Aによる事業承継の買収側のメリットは、自社のみで上記の要素を獲得することと比較して、スピーディに競争力を向上させる点にあります。

しかし、M&Aを実施する前に、売却側の企業を適切に評価したり戦略的な統合計画を立てたりするなど、慎重な準備と実行が必要になります。

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M&Aによる事業承継のデメリット

ここでは、M&Aによる事業承継のデメリットについて売却側と買収側に分けて解説します。

売却側のデメリット

売却側のM&Aによる事業承継のデメリットは、以下のとおりです。

  • 完璧な相手を見つけるのは難しい
  • 経営方針が変わる可能性がある

M&Aのデメリットとして、必ずしも自社にとって完璧な企業が見つかるとは限らない、。M&Aにおいて、売り手側・買い手側双方が自社に合う企業を選び、アプローチする必要があります。しかし、お互いののニーズをすべて満たす相手を探すのは困難といえるでしょう。より理想に近い相手を見つけるためには、調査や交渉など多くの時間や労力をかける必要があります。

次に、経営方針が変わる可能性がある点もデメリットといえます。売却側は自社の経営方針に基づいて事業を展開していきたいところですが、経営者が新しくなることで方針が変わるケースは免れないでしょう。

以上のようなデメリットは、M&Aによる事業承継を行う過程で注意すべき内容です。買収企業の選定や交渉段階で生まれる条件の合意などが重要なポイントとなります。

デメリットをできるだけ解消するには情報共有やコミュニケーションを徹底的に行い、経営方針の変化を最小限に抑える取り組みが必要です。売却側の予算や状況によっては、M&A専門業者のサポートも検討しましょう。

買収側のデメリット

買収側のM&Aによる事業承継のデメリットは、以下のとおりです。

  • 大きな資金が必要である
  • 人材が流出してしまう
  • 想定したリターンを得られない

まず、まとまった資金が必要になる点がデメリットです。M&Aによる事業承継では、売却側の事業や株式などを取得するため多額の資金が必要になります。財務面でのリスクが伴う可能性もあるでしょう。M&Aを検討する際に資金計画や戦略を策定するとともに、必要な資金を確保しなければなりません。

M&Aによる事業承継では、人材が流出してしまうリスクがあります。M&Aによる企業の統合は、組織体制や従業員の心情に大きな影響を与えるでしょう。売却側の従業員が不安を抱き、場合によっては抵抗したり早期退職したりする可能性があります。

M&Aによる事業承継を行っても、想定していたリターンが得られない場合もあります。買収側は事業を継承することで成長や発展を目指しますが、市場動向が変化したり統合がうまく進まなかったりして、予想外の影響を受けるかもしれません。

これらのデメリットをできるだけ少なくするには、事前に十分な調査を行うことが重要です。M&Aによる事業承継を成功に導くための統合戦略を立て、確実に実施していかなければなりません。あらかじめリスク管理や人材に関する諸課題の対策を練り、事業を発展させるための努力が求められます。

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M&Aによる事業承継の流れ

M&Aによる事業承継は、事業を継続させ企業の成長をめざすために必要な手段です。M&Aによる事業承継の基本的な流れを解説します。

  1. 準備
  2. 検討・選定
  3. トップ会談・交渉
  4. デューデリジェンス
  5. 契約
  6. 統合・実施(PMI)
  7. 評価

事業承継を検討する企業は、まず自社内でM&Aによる事業承継の目標や戦略を明確にします。準備段階から専門業者のアドバイスやサポートを受けることも視野に入れましょう。この場合、アドバイザリー契約が必要です。

事業承継の対象となる企業を選定する際は、企業情報の分析をしっかり行います。相手企業の財務や税務、人事面での情報を精査し、リスクの有無や将来の見通しなどを把握しましょう。

M&Aによる事業承継に前向きな意思を持つ企業同士が、価格や条件などの交渉を進めます。トップ会談で経営者同士が互いの情報や認識を交換することが大切です。トップ会談において両社の企業文化や風土も把握できます。実際の交渉では財務や法務面など専門知識が必要であるため、専門業者の助言を受けるのが一般的です。

デューデリジェンスとは、売り手企業の財務や税務、法務関係、人事面などを、あらゆる側面から詳細に調査することを指します。デューデリジェンスによって、リスクやM&Aによる事業承継の効果やリスクなどを正確に把握でき、最終的な意思決定を行う際の参考になるデータが集まりやすいでしょう。

トップ会談や交渉、デューデリジェンスの結果を踏まえて、株式または事業の譲渡契約書が作成されます。契約内容には、取引条件や買収価格、統合計画などが含まれます。法務面での大事な要素をもらさないためにも専門家のアドバイスやサポートを受けて契約を締結します。

統合・実施の段階で重要なプロセスが、PMIです。PMIはM&A実施後のプロセスを指しており、買い手側と売り手側の組織や業務の統合作業です。組織や資源、設備の最適化や、取引先との統合だけでなく、両社の企業文化や価値観、人材面での統合も含まれます。統合作業は、M&Aの成功率を上げるために大変重要な要素です。

M&A実施後は、作業の進捗や目標の達成度、シナジー効果などを定期的に評価する必要があります。統合後に生まれる課題を早く見つけ適切に対処するためです。M&Aによる効果を最大限にするために必要なプロセスといえます。

M&Aによる事業承継は、企業の成長や競争力の強化に向けた重要な手法です。成功させるには慎重に計画を立てるとともに、戦略にもとづいて確実に実行しなければなりません。

次章では、М&Aによる事業承継を成功させるポイントを確認しましょう。

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M&Aによる事業承継を成功させるポイント

ここでは、M&Aによる事業承継を成功させるポイントとして3点紹介します。

  • 株主の同意を得る
  • デューデリジェンスを実施する
  • 専門家に相談する

次より順に解説します。

株主の同意を得る

M&Aによる事業承継を行う場合、株主の同意を得ることは非常に大切です。株主の同意を得る理由は、次のとおりです。

  • 企業の経営方針に大きな影響を与える
  • 情報漏えいのリスクを抑える
  • 事業承継の成功率を上げる

株主は企業の所有者であり経営に対する権限を持っているため、株主の同意が得られない場合、M&Aによる事業承継は成功に導けないでしょう。

株主の同意を得る目的は、情報漏えいを最小限にするためでもあります。同意を得られない株主の不満を残したままになれば、本来あるべきではない情報漏えいが発覚するかもしれません。

事業承継の成功率を上げるには、企業の所有者である株主の理解は必須条件です。株主へ事業承継型M&Aの目的を丁寧に説明し、メリットやリスクも合わせて伝えます。

株主がM&Aのもたらすリスクや利益について関心を持っているのは明らかです。株主が納得できる内容や方法で説明を行うとともに、株主の意見や要望に耳を傾ける姿勢も重要です。

デューデリジェンスを実施する

M&Aにおけるデューデリジェンスとは、売り手企業が持っているリスクやリターンを適正に把握するための重要な調査を指します。

買い手企業は、売り手側の財務状況や税務、法務面、従業員情報など、さまざまな項目について精査しなければなりません。M&Aの成果を最大化させるには、デューデリジェンスの内容が大きく影響するととらえましょう。

デューデリジェンスを行う場合は、以下のポイントに留意します。

  • M&Aの目的や評価項目・方法を明確にする
  • 適切な資料を準備する
  • リスクとリターンを評価する

まずは何のためにM&Aによる事業承継を目指すのか目的を再確認する必要があります。目的に合わせた項目を選定するとともに、評価方法や優先順位も明確にしましょう。これによって効率的に正確な情報を把握できます。

売り手企業は、デューデリジェンスを受けるためにさまざまな情報を用意しておかなければなりません。資料の整理が不十分であれば、実質的な検討や交渉に入る前に資料を整理しておきましょう。適切な資料を準備することで、スムーズな調査が可能になります。

デューデリジェンスでは、売り手企業のリスク要因をしっかり把握することが重要です。買い手側は「リスクがどのような影響を及ぼすのか」「リスク対策は可能なのか」などを評価し、将来のリターンを正確に把握することに努めます。
このように、デューデリジェンスを適切に実施することで、M&Aによる事業承継をスムーズに進められます。

また、上述したような情報提供や質問回答などを経て信頼関係を構築するという意味でも、デューデリジェンスは重要です。デューデリジェンスによって両社の共通理解と関係性を高め、M&Aによる事業承継の成功率を高められるのです。

専門家に相談する

M&Aによる事業承継を成功に導くには、専門家に相談するのも重要なポイントです。とくにM&Aアドバイザーは、M&Aに関するアドバイスを行うとともに、交渉から成約が成立するまでのサポートをしてくれます。

M&Aアドバイザーを活用するメリットは下記のとおりです。

  • 専門知識と経験が豊富である
  • 幅広いネットワークを持つ
  • 効率的な交渉や手続きを管理してくれる

M&Aアドバイザーは、急速に変化する市場動向や業界情報を把握し、取引に関する幅広い知識と経験を備えています。企業側が把握しきれない情報を提供するとともに、適切な買収価格や条件の交渉などを効率的に進めてくれます。

M&Aアドバイザーは、業界内の広範なネットワークを持っているため、買い手となる企業や売り手企業の候補を選定したり、企業同士が接触する場を設定したりしてくれます。自社が気づけないメリットを得られる企業紹介もあるため、よりよいM&Aによる事業承継を実現できるでしょう。

また、豊富な専門知識と経験をもとに、交渉や手続きを円滑に進めてくれるのもメリットです。価格交渉や条件の調整においても適切なアドバイスを得られます。契約書の作成の際は重要なポイントを見逃さずにチェックしてくれるため、M&Aにおけるリスクやトラブルを最小限に抑えられるでしょう。

M&Aアドバイザーに依頼することで、M&Aが初めてである多くの企業が、M&Aの専門知識と経験、幅広いネットワークを活用できます。とくに交渉や手続きに慣れていない場合、専門家のサポートは心強く、自社の希望に沿った事業承継が可能になります。

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まとめ

M&Aによる事業承継は、昨今急速に伸びています。後継者問題を解決したい企業にとって、企業の存続や発展に欠かせない手段といえます。

ただ、実際にM&Aの事業承継を行うには、株主や従業員の理解や適切なデューデリジェンス、交渉や文書作成などさまざまな手続きを踏まなければならず、M&Aの経験のない企業にとっては難しいプロセスといえます。

M&Aによる事業承継を成功に導くには、経験豊富なアドバイザーのサポートを受ける方法があります。

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